( ^ω^)奇人達は二十一グラムの旅をしますようです

30: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/05/25(月) 22:03:26.09 ID:XEQSdgst0
―2―

ξ;゚听)ξ「街に来るたびに思うのですが、一苦労ですわね」

街までやって来ると、ツンは息を切らして言った。クドもへたばっている。
内藤邸のある丘から街までは、結構距離のある下り坂を歩かねばならない。
この街はビップと言い、石造りの家々が建ち並ぶ、風光明媚な海沿いの小さな街だ。
南側にオーシャンブルーの海、東、西、北側には山々が街を囲むように聳えている。
遠く都会とを繋ぐ大きな駅舎や港があるので、決して田舎といった印象ではない。
ビップの観光名所は、街の中央の広場に聳える、赤煉瓦の巨大な時計塔だ。
毎日正午になると、学校のチャイムのような鐘のメロディーが鳴り響かせる。

( ^ω^)「ハハハ! ツンは身体がなまってしまっているんだお」

ξ゚听)ξ「自動車でもあれば便利なんですけどね。
       お兄様は車校に通うおつもりはないのですか?」

(#^ω^)「どうしてこの僕が、教官の命令など聞かねばならんのだお!」

ξ゚ー゚)ξ「ですわねー」



31: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/05/25(月) 22:04:48.07 ID:XEQSdgst0
乾いた笑いを溢して、ツンは空を見上げた。今日も曇り空だ。
ここ一ヶ月、曇天の日々が続いている。陽は、たまにしか雲の隙間から射し込まない。
現在は八月。ブーン達の住む国は夏でも涼しいのだが、今年は例年より肌寒い。
ツンは手に握っているリードを少し引っ張った。クドが面倒臭そうに立ち上がる。

(U^ω^) わんわ・・・んお。(やれやれだよ)

( ^ω^)「さあ、行こう。僕という存在を引き立たせる青年の店へ」

ξ゚听)ξ「最低ですね。けど、まだ八時だわ。開いてるのかしら」

( ^ω^)「訊けばショボンは、毎日朝の四時に起きてるらしいお。
       だから、きっと開いてるはず」

ξ゚听)ξ「お早いですわー。健康的な生活をしてらっしゃるのね」

( ^ω^)「ふん。でも、彼は喫煙者だから台無しだお」



32: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/05/25(月) 22:05:32.45 ID:XEQSdgst0
二人と一匹は、まるで迷路のように分岐する細い道を歩いていく。
街の一番低い場所に建ち並ぶ家々は、どれも小さく、薄汚れている。
高級なスーツや洋服を着ている二人には、あまり似つかわしくない場所だ。
ツンが物珍しげにきょろきょろと周囲を見回していると、やがて袋小路についた。
二人は右手の建物へと視線を遣る。そこには他と違って木造の建物があった。
引き戸となっている玄関の上部には、達筆な字で"ショボン書店"と書かれた看板がある。

( ^ω^)「やれやれ、ジャパンかぶれはこれだから困るお。
       周りとの調和を合わせる気が、まったく感じられやしない」

ξ゚听)ξ「素敵な佇まいだと思うんですけど」

玄関の前に立つブーンは、景気良くガラガラと音を立てて扉を開けた。

( ^ω^)「ヘイ! ショボン、僕がわざわざ来てやったお!」

(´・ω・`)「おいおい、静かに入って来いよ。キチガイボーイ」



34: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/05/25(月) 22:06:04.67 ID:XEQSdgst0
ブーンが店に入るなり、あんまりな言葉が飛んで来たが、それほど的外れではない。
店主であるショボンは奥の座敷で煙草を吸っていたようだ。仄かに煙の匂いが漂う。
彼は一風変わった紺色の服を着ている。作務衣という服だそうだ。
胡坐をかいているショボンの前には、古ぼけたお粗末なレジスターがある。
商売をするつもりがあるのか、と古書ばかりが収納された本棚を眺めてブーンは思う。
それから、ブーンはツカツカとショボンに歩み寄り、彼の両肩を力強く掴んだ。

( ^ω^)「この野郎、僕の嗜好を知ってるくせに、妙な本を――」

(´・ω・`)「それよりも僕には驚いたことが二つある。
      一つは君が朝早くに来たこと。珍しいにも程がある。
      もう一つは、君の妹のツンちゃんが街に下りて来たことだ。
      もしかしたら、今日は篠突く雨でも降るのかもしれないね」

( ^ω^)「お」



35: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/05/25(月) 22:06:39.35 ID:XEQSdgst0
店の外へと視線を向けたショボンにつられて、ブーンが振り返った。
そこには、店内の様子を興味深く窺って佇んでいるツンの姿があった。

(´・ω・`)「犬を中に入れても構わないよ。どうせ、元から汚れてるしね」

大きな声を出すのが苦手なショボンはそう言った。
仕方なく、ブーンがツンに手招きをする。彼女はしずしずと店に入ってきた。

ξ゚听)ξ「お邪魔します。お久しぶりですわね。ショボンさん」

(´・ω・`)「やあ。本当に久しぶりだね。四月の君の誕生日会以来かな」

ξ゚ー゚)ξ「お越し頂いてありがとうございました。素敵なプレゼントも頂いて」

( ^ω^)「素敵? 安物のブックラックじゃないかお。どうかしている・・・」



37: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/05/25(月) 22:09:45.07 ID:XEQSdgst0
ξ#゚听)ξ「お兄様!」

(;^ω^)「あひいん!?」

ブーンはツンに肉付きの良いたるんだ臀部を、思いのほか強くつねられた。
まったく予期せぬ痛みに驚いた彼は飛び上がり、奇妙な悲鳴を上げた。

(´・ω・`)「ははは。君達は相変わらず仲が良いね」

ショボンは嫣然とする。とんでもない! 間、髪を入れずツンは否定する。

ξ;゚听)ξ「嫌ですわ。こんな人、私は知りませんし、知りたくなんか――」

( ^ω^)「そんなこと言って。心の底ではお兄ちゃんラブなんだお!」

ブーンは言葉を遮り、ツンの小さな肩に腕を回す。彼女を襲う頭痛の種は尽きない。
「もう、それで良いです・・・」、とツンはため息をついた。ツンデレキャンセルだ。



38: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/05/25(月) 22:11:18.49 ID:XEQSdgst0
( ^ω^)「兄妹とは良いものだお。ショボンには居ないのかお」

(´・ω・`)「ん? ああ、居ないよ。正確には妹が居たってのが正しいけど、ね」

ショボンはポケットから煙草の箱を取り出した。パーラメントだ。
やや長さのある煙草を銜え、銀色の模様のないジッポライターで火を点ける。
一息。煙草をくゆらせ、白い息を吐き出す。煙が空間をゆらゆらと漂った。

(´・ω・`)y-~~「僕が中学生の頃に、病であっけなく亡くなってしまったけどね」

( ^ω^)「それは初耳だお。ショボンの妹ってどんな子だったんだお?」

ξ゚听)ξ「お兄様」

ツンが、二人の会話に割って入る。そのようなことは無神経に訊くべきではない。
彼女にキッと睨まれ、場都合の悪くなったブーンは口を尖らせる。



39: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/05/25(月) 22:12:13.45 ID:XEQSdgst0
(´・ω・`)y-~~「さて、どうだったかな。年を取るにつれて記憶が薄くなった。
         今ではあまり思い出せないな。ただ、とても可愛かったのは覚えているよ」

( ^ω^)「ふうん」

ξ゚听)ξ「・・・・・・」

ショボンは最後に大きく煙を吐き出し、畳の上にある灰皿に煙草を押し潰した。
そして、ゆったりと余裕のある所作で、二人へとまっすぐに身体を向けた。

(´・ω・`)「で、何の用だっけ? 何か物々しい雰囲気だったけど」

( ^ω^)「お? ・・・・・・ああ、ああ、ああ! 僕に貸した本のことだお!」

ブーンはスーツの上着のポケットから本を取り出し、ショボンに突きつけた。
本を受け取ったショボンが見上げると、ブーンが怒りで顔を赤くしていた。



41: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/05/25(月) 22:13:35.97 ID:XEQSdgst0
(#^ω^)「君ねえ。僕が恋愛に興味がないことくらい知っているだろう?
       しかも、人が死ぬし。・・・人が死ぬし! 最悪じゃないかお!」

(´・ω・`)「うん、知ってた」

(#^ω^)「おい!?」

(´・ω・`)「確かに、登場人物が死ぬのを貸してしまったのは悪かったよ。
      けどね、君は恋を知るべきだよ。きっと成長するはず。
      そう思って、僕は君にこの本を貸したのさ。分かったかい?」

(#^ω^)「余計なお世話だお! 僕はもう成長しきって、熟れ熟れだお!」

ξ゚听)ξ(熟れ熟れって)

(#^ω^)「幼年期どころか、青年期まで終わっとるわい!
       それはもう、アーサー・C・クラーク先生も驚くくらいに!」

そこまで言って、ブーンはぜえぜえと呼吸を荒くした。ほぼイキかけたようだ。
両膝を押さえる彼の肩に、ショボンはそっと手を置いた。二人は顔を見合わせる。



43: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/05/25(月) 22:14:25.05 ID:XEQSdgst0
(´・ω・`)「アーサー・C・クラークのくだりは個人的に面白かった。
      ブーン、ハイタッチをしよう。息を整えて、そう背筋を伸ばして」

(;^ω^)人(・ω・` )「イエーイ」

ξ;--)ξ(ショボンさんも、よく分からない人ね)

ショボンは普通の人とズレており、笑いのツボも相当斜め上の場所にある。
それとショボンは楽しくなると、顔より高い場所で手を合わせたがる。
奇人と奇人。社会には、似たような性格同士が集まる法則めいたものがある。
兄には型破りな友達しか出来ないのだろう。生涯そうに違いないわ。

そういえば、他にも兄には、女性の豊かな胸のみに異常な興味を示す友人が居たっけ。
本当に変わった友人しか居ない。兄の周囲の人間はネジを外し過ぎだと思う。
・・・けど、それならよく兄と居る私も、同じカテゴリに属しているということだろうか?
実は、自分も周りからは冷たい目で見られているの? ツンは嫌悪感で無意識に叫んだ。

ξ;゚听)ξ「絶対にいやよ! 勘弁してちょうだい!」



44: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/05/25(月) 22:15:00.11 ID:XEQSdgst0
ハイタッチをし続けていた二人は、目を丸くしてツンに顔を向けた。

(´・ω・`)「?」

( ^ω^)「いきなり叫んで、変な妹だお」

ξ;凵G)ξ「違う! 私は普通のちゃんとした神経をしているのよ!」

(´・ω・`)「君の妹はどうしたっていうんだい」

( ^ω^)「たまに発作を起こすんだお。僕は病院を勧めてるんだけどね」

ξ;凵G)ξ「病院のお世話にならなくてはいけないのは、お兄様ですっ!」

ツンは複雑でよく分からない人間だ。やれやれ、とブーンは肩を竦める。
そのの様子を心配そうに眺めていたショボンが、ふと手を打った。



46: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/05/25(月) 22:15:35.05 ID:XEQSdgst0
(´・ω・`)「君達、暇だろう? まあ、ブーンは言うまでもないけどね。
      もしそうなら、僕も暇になってしまおう。山へ散策に行かないかい?」

ξっ听)ξ「山?」

(´・ω・`)「そうだよ。この街の北部にある山へゆるりと散策に行こう。
      東西の山とは違い、開発されてて見所があるし、それに――」

ショボンは地面に目を落とした。丸々と太った犬がだるそうに寝そべっている。

(U^ω^) ・・・・・・。

(´・ω・`)「君達の犬の運動にもなるだろう。どうにも肥えすぎだよ。その犬は」

( ^ω^)「いや、待て。クドは僕に似てて、丁度良い具合だお」

(´・ω・`)「ねーよ。ファットボーイ。メタボリックシンドロームでじわじわ苦しめ」



47: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/05/25(月) 22:16:30.21 ID:XEQSdgst0
ξ゚听)ξ「お兄様、行きましょう。私もたまには外を歩かないと」

ツンがブーンの腕を引っ張って希望する。彼は妹の押しには滅法弱い。
なので、頷くのは当然であるし、彼も心の内では自身の体型を気にしていた。

ξ*゚ー゚)ξ「やったー。お兄様、大好き――」

ξ゚听)ξ「いや、そんなにでも無かった。はい、私は嘘つきなので」

再びツンデレキャンセルを行う。若い女性の心理は複雑怪奇のようだ。
ブーンが頬を弛緩させてにやにやと笑うと、ツンはそっぽを向いた。

(´・ω・`)「本当に仲が良いね。さて、店を閉めて行こうか」

( ^ω^)「待てお。ショボンはその格好で行くのかお?」

(´・ω・`)「勿論さ。これが僕の永久の普段着なんだよ。動きやすくてたまらん」

( ^ω^)「狂っていやがる」



48: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/05/25(月) 22:17:12.12 ID:XEQSdgst0
ショボンが運転する車の乗り心地は良好とは程遠いものだった。
まず狭い。たった三人と一匹なのに、嫌な閉塞感に悩まされたのだ。
そして、ガタガタと縦横に揺れた。ブーンが構造の欠陥を疑ったくらいである。
凡そ一時間我慢し、ようやく高原の駐車場に着くと、彼は即座に外へ飛び出した。
牧歌的な風景を背に、ブーンは青い顔をして座り込み、懸命に吐き気を抑えている。

(;^ω^)「おええ。金輪際ショボンの車には乗らないお」

ξ゚听)ξ「帰りはどうするつもりですか」

(;^ω^)「帰り!? そうか、帰りもあの車に。うわあ、もう最悪・・・。
      僕は歩いて帰るお。あの車、命が幾つあっても足らないお」



49: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/05/25(月) 22:17:39.81 ID:XEQSdgst0
ぶつぶつと愚痴るブーンを他所に、ツンはぐるりと景色を見回した。
緑。その平和の色を見せ付けるように、見渡す限り草花が芽吹いている。
風がざわめき、花の甘い匂いが届けられる。
軽やかに舞う蝶々のように、ツンの心は自然へと惹かれていく。

ξ゚听)ξ「この街にもこんな場所があったのですね。知らなかったわ」

( ^ω^)「僕とツンは、一度だけここに遊びに来たことがあるお。
       君が五歳くらいのころ、お母さんに連れられてね」

ξ;゚听)ξ「わひゃっ!?」

思わず、ツンは飛び退いた。突然、耳元にブーンの顔が現れたからだ。
ツンは胸を押さえて、ブーンを睨む。彼の顔色は平常のものに直っていた。



50: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/05/25(月) 22:18:21.80 ID:XEQSdgst0
ξ#゚听)ξ「お兄様! 驚くからやめて下さい。・・・・・・お母様と?」

( ^ω^)「うん。ここから少し歩いたところに、大きな農業公園があるお。
      そこにお母さんと来たのだお。勿論、行楽にね」

ξ゚听)ξ「お父様は?」

尋ねられ、ブーンは露骨に嫌そうな表情を浮かべた。彼は父親が嫌いである。

( ^ω^)「・・・あの家庭を省みない人間が、一緒に来るわけがないお」

ξ゚听)ξ「そう、ですわね」

ブーンに対し、ツンは精神的に大人で、父親のことは仕様のないことだと思っている。
父親が溌剌に仕事に打ち込んでいるからこそ、自分達はこうしていられるのだ。
ツンが返答を持て余していると、後ろからショボンがやってきて声をかけた。



52: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/05/25(月) 22:18:58.03 ID:XEQSdgst0
(´・ω・`)「いやあ、すまないすまない。待たせてしまったね」

( ^ω^)「遅いお。君は、僕の貴重な時間を無駄にするつもりかお」

(´・ω・`)「だからごめんってば。車に積んでたのがなかなか見つからなくて。
      カメラだよ。ブーンだって、君の好きなツンちゃんを写したいだろう」

( ^ω^)「む。それは確かに言えてるお。ショボンは気が利くお。どれどれ」

ブーンは、ショボンが持っている古ぼけたカメラを、無遠慮に手に取った。
ところどころ傷が入っている。一見、何の変哲もない普通のカメラだ。
しかし、ブーンはこのカメラに秘められた価値を見抜いた(ような気がした)。

( ^ω^)「ふむふむ。これは骨董品で高価だお。僕には分かる」

(´・ω・`)「昔、都会に行ったときに買った安物のカメラだよ」

( ^ω^)「そう」



53: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/05/25(月) 22:19:32.65 ID:XEQSdgst0
ξ゚听)ξ「これから、どこに行くんですの? 雨が降らなきゃ良いのですけど」

ツンが二人の会話に割って入った。一同は揃って空を見上げた。
光が射し込む隙間が微塵もない。今にも雨が降ってきそうな気配だ。

(´・ω・`)「最近は曇りばっかりで変な天気だけど、雨は降ってないからね。
      多分、大丈夫なんじゃないかな。今から近くの公園に
      行こうと思ってるんだけど、そこに傘が売ってるかもしれない」

ξ゚ー゚)ξ「そこなら、きっと兄が案内してくれると思いますわ。
      一度訪れたことがあるそうです。私は覚えていませんが」

(´・ω・`)「へえ、そいつは頼もしい。じゃあ、先頭をお願いしようかな。」

( ^ω^)「・・・・・・」



54: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/05/25(月) 22:20:49.81 ID:XEQSdgst0
ブーンは返事をしなかった。遥か遠くを眺めたまま、微動だにしない。
彼にしては珍しく、表情から笑みが消えている。どこか重々しさがある。
こんなに静かになるなんて珍しいな、とショボンが彼の肩を揺らした。

(´・ω・`)「おい。マゴットボーイ。不意にサイレスでも喰らってしまったのか」

ξ;゚听)ξ「ショボンさんって、時々辛辣なことを言いますのね」

「これがブーンと上手に付き合う秘訣だよ」、とショボンはツンに言う。
確かにそうかもしれない。呆れたツンは、細目でブーンを見る。
何がブーンの琴線に触れたのか、彼はとても難しい顔をしている。
やがて、ブーンはゆっくりと振り向き、二人の顔を交互に見遣った。

( ^ω^)「いや、何でもないお。ちょっと考え事をしていただけ」

ξ゚听)ξ(お兄様が考え事だなんてありえないわ)

(´・ω・`)「そうかい。では立ち話もなんだし、そろそろ行こうか」



55: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/05/25(月) 22:21:28.68 ID:XEQSdgst0
三人が訪れた公園は、ニューソクの丘といい、山を無理やり削って平地にした場所にある。
数々のレクリエーション施設があるのだが、閑散としていて金の無駄のように見える。
それでも一応は見所があり、一面の花畑はツンを喜ばせるものだった。
今は花畑の間にあるまっすぐな小道を三人は進んでいる。人は彼ら以外に居ない。

ξ*゚ー゚)ξ「お兄様。ショボンさん。遅いですよー」

ツンが振り返る。最初はブーンが先頭だったのだが、いつの間にか彼女が前を歩いている。
これが二十五歳の境界を超えた者の体力か。ツンより五歳上の二十七歳のブーンとショボンは、
己の体力の無さを痛感した。体力も知力も、二十五歳を契機に下がっていく(気がする)。
日ごろから運動不足の彼らは、片手を上げて、ツンに返事をするのが精一杯だ。

(´・ω・`)「ちょっと歩いただけでこれだよ? 若者が妬ましくなるね」

(;^ω^)「ふ、ふん。僕は革靴を履いてるから歩きにくいだけだお。
      まだまだ僕は若い。そう! 若いのだお・・・・・・」



56: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/05/25(月) 22:22:06.85 ID:XEQSdgst0
(´・ω・`)「ところで」

( ^ω^)「ん?」

ショボンが声を潜めた。視線はツンの背中に向いている。

(´・ω・`)「ツンちゃんは、最近大丈夫なのかい?」

( ^ω^)「何がだお」

(´・ω・`)「ほら、黒い翼を持つ人間が、この世に居るって話だよ」

ブーンは妹の体質について、ショボンに相談を持ちかけたことがあったのだ。
無論、妹のプライバシーなので内証にである。知ると烈火のごとく怒るに違いない。
ショボンは知識がなかなかに豊富なので、もしかしたらと思ったのだった。
しかし、彼も分からなく、ブーンと同じでオカルトの現象だと言うに留まった。



57: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/05/25(月) 22:22:39.15 ID:XEQSdgst0
( ^ω^)「ああ。最近は出会ってはいないようだお。ずっと家に居るし。
       黒い翼を持つ者って一体なんなのだお。ツンを脅かすやつらは。
       妹は、構ってもらいたさに嘘を吐くタイプだとは絶対に思えない」

(´・ω・`)「彼女は君の百万倍くらい出来た人間だ。僕も嘘だとは思わないよ。
      ブーン、ひょっとすると僕達の認識が間違っているのかもしれない。
      本当はその異人達は、僕達のすぐ側で生きているのかもしれない。
      昨日、街でふと擦れ違った人間が実は異人なのかも、しれない」

( ^ω^)「ショボンの話はくどすぎる! 簡単に言うとどういうことなんだお」

(´・ω・`)「君や僕が黒い翼を持っているのかも、って話だよ」

( ^ω^)「ハハッワロス。それならツンが黙っちゃいないお」

(´・ω・`)「だよねえ。少なくとも僕達は普通の人間なようだ」

ξ゚听)ξ「・・・・・・何の話をしていらっしゃるの?」



58: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/05/25(月) 22:23:17.18 ID:XEQSdgst0
(;^ω^)「!」

ブーンは、吃驚した。話し込んでいる内に、いつの間にかツンに追いついたのだ。
二人の目の前で、彼女は首を傾げて不思議そうにしている。
どうやら、聞かれてはいなかったようだ。ブーンは心の底から安堵した。
それでも心臓の脈動が止まるほど彼は驚いたので、言葉の呂律が回らない。

(;^ω^)「いや、あのね、そのね・・・」

こいつは駄目だ。言わせていると、その内勝手に自爆してしまうに違いない。
そう判断したショボンが、ブーンの背後に回り、口を両手で押さえ付けた。

(#^ω^)「んが!? ひょぼん、ごごごお!!」

(´・ω・`)「なあに。去年、結婚して都会に行ったジョルジュが居るだろう?
      あいつ、近頃抜け毛に悩まされててね。どんどん抜けていくらしい。
      それで、彼の明るい頭皮の未来について、僕達は語り合っていたんだよ」

――愚かな! そんな話が通用するものか! さっさとこの手をどけろ!
ブーンが必死にもがく。そうしていると、ショボンを背負うような奇妙な格好に収まった。



59: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/05/25(月) 22:24:03.91 ID:XEQSdgst0
ξ゚听)ξ「まあ。そうでしたの。まだお若いのに大変ですわね」

(;^ω^)「までふんびる!? (何故信じる)」

(´・ω・`)「そうそう。うわ、ブーンの背中の乗り心地、柔らかくて気持ち良いなー」

(#^ω^)「んんんん! うっさいお! さっさと離れろお!」

ようやくブーンはショボンから解放された。彼は憤り狂うが、手を上げはしない。
殴ってしまえば、その時点で自分の負けだ。常に紳士たれ。彼にはそんな美学がある。
ブーンはショボンを見据える。しかし、彼は悪びれもせずに言うのだった。

(´・ω・`)「それにしてもちょっと疲れたね。あそこに売店が見える。
      飲み物でも買って、そこいらのベンチで少し休憩しようか」

( ^ω^)「僕、たまにショボンの風のような性格が、無性に怖くなるんだお」



60: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/05/25(月) 22:25:05.13 ID:XEQSdgst0
( ^ω^)「しかしまあ、ジョルジュの変態さには、流石の僕もひいた。
       あいつはね、講義中にも関わらず淫猥な言葉を叫ぶ男なのだお」

(´・ω・`)「あれが結婚だからね。婚約の話を聞いた時は世界の終わりかと思ったよ」

ξ;--)ξ「はあ、何となく分かる気がします。お変わりですものね」

彼らは売店の側に備えられていたベンチに座り、ジュースを飲んで一息ついている。
詳細に言えば、ブーンはオレンジ、ツンはアップル、ショボンはぶどう酒である。
今は昨年まで同じ街に住んでいた、大問題な友人について会話をしている。

( ^ω^)「それで、ジョルジュが細君に告白した時の言葉が何だと思う?
       『おっぱいよりも君が好き』――だってお!!」

(´・ω・`)「根っからの巨乳好きがね。彼の嫁さんはどう見ても貧乳じゃないか。
きっと、宇宙のどこかの星が一つ、青い光を放って命を終えたよ」

ξ;--)ξ「・・・・・・」



62: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/05/25(月) 22:27:40.21 ID:XEQSdgst0
(´・ω・`)「たまには外出も良いもんだ。本当に、良いねえ。ははは」

笑い声を上げて、ショボンは半分ほど残っていたぶどう酒を一気に飲み干した。
ブーンとツンは目を丸くした。彼が酒を呑んでいたことを知らなかったからだ。
ショボンは非常に酒が好きで、仕事中でも呑んでいるくらいである。

( ^ω^)「ショボン。君、帰りの運転はどうするつもりかね?」

(´・ω・`)「んー、その通りだね。そうだ、僕はここで酔いを醒ましているから、
      君達二人は散歩してくると良い。カメラで風景を撮ってきなよ」

( ^ω^)「そうするお。ただ、撮影するのは風景ではないお。ツンだお。
       妹は世界中の何よりも美しい。ありとあらゆる物に勝る」

ξ゚听)ξ「はい、そうですね。でも私はここに休憩しております。
       久しぶりに街のことをお聞きしたいので。お兄様お一人でどうぞ」



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