( ^ω^)奇人達は二十一グラムの旅をしますようです

141: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/05/25(月) 23:13:39.32 ID:XEQSdgst0
―5―

ζ(゚ー゚*ζ「感じますの。クーデルカさんが放つ、いてつく波動が」

( ^ω^)「もしもの時は僕が守ってあげるから、安心してくれお

ζ(>ε<*ζ「きゃー、こんな素敵な人と出会うなんて、人生は波乱万丈ですの!」

すっかり人が住んでいたころのように変わってしまった邸内を、三人は進む。
ブーンとデレは、恋人のように腕を組んで歩いている。ショボンは彼らの後ろ。
緊張感のない二人に、頭痛に堪えながらショボンは赤い大階段を踏みしめていく。
高級な絨毯ゆえの弾力性、カットの毛並みは気持ちの良いものだった。
手すりを握ってみる。昔は、ここを歩くクーデルカの姿があったのだ。
彼女は何を思い、ここで生き、そして死んだのだろうか。ショボンは物思いに浸る。

ζ(゚ー゚*ζ「ややや! あれがクーデルカさんの心の欠片ですの!」

階段を登りきると、デレが黄色い声を上げた。ショボンが現実に戻される。
彼女の肩の後ろから見ると、廊下に長い黒髪の少女が佇んでいた。



142: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/05/25(月) 23:14:14.99 ID:XEQSdgst0
まだ小学生くらいになのに、大人びた聡明そうな顔立ちをしている。
顔のそれぞれのパーツが整っており、大人に育てばさぞや美人に違いない。
少女は腰の後ろで両手をくんで、壁に掛けられた絵画を緑色の瞳を向けている。

ζ(゚、゚*ζ「この子がクーデルカです。追憶という名の記憶の欠片です。
       ですので、あちらからは、あたし達の姿を見られないですの」

( ^ω^)「彼女はなにをしているんだお?」

ζ(゚、゚*ζ「絵を見てください。女性の絵。これは、彼女の母親の肖像画です」

三人は少女の背後に立ち並び、母親の肖像画を確かめた。
少女と同様に美しく、幼いころは少女と瓜二つだったのかもしれない。

(´・ω・`)「どんな方向から考えてみても、僕と同じ人種の人だね」



144: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/05/25(月) 23:15:04.63 ID:XEQSdgst0
川 ゚ -゚)(・・・)

暫くすると、少女は淡い光を放ち、細かい粒子となって消え去った。
クーデルカの追想は終わり。夢心地になったブーンが口を開く。

( ^ω^)「このことにより、彼女が母親を好いていたのが分かるんだお。
       あとは、記憶の断片を辿って、何が効くか推理していけば良い」

ζ(゚ー゚*ζ「そうです。そうやって、あたしは強力無比な武器を手に入れたんですの」

クーデルカは母親が好きだった。その母親から彼女はおもちゃを貰ったのだ。
今も想いに変わりはなく、きっと、ぬいぐるみを手渡せば鎮まってくれる。

ζ(゚、゚*ζ「この奥の部屋ですの。あたしが合図をして入ります。おっけい?」

ブーンとショボンは言われ、心を引き締めて力強く頷いた。
デレが二階奥の部屋の扉にぴたりと張り付いて、耳を当てる。
中から音はしない。気配までは分からない。デレは一気呵成に扉を開いた――。



146: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/05/25(月) 23:15:52.37 ID:XEQSdgst0
(;^ω^)「こ、これは! 確かに素敵な空間だお!」

(´・ω・`)「今度こそ内藤家の負けだね。広さから印象まで段違いだ」

二階の物置部屋だった場所は、中世の城の謁見の間のようになっていた。
巨大な広間の天井には燦然ときらめく、シャンデリアが幾つも吊られている。
最上部の明かり取りの窓からは光線が入り、部屋に何本もの筋を造る。
この部屋の主の性格は容易に想像がつく。気位高く、高貴な人物である。

「やあやあ。ようこそ。遅かったね、待ちくたびれてしまったよ」

( ^ω^)「お!」

川 ゚ -゚)「貧民が。みすぼらしい服装で、私の部屋にずけずけと」

不純物のない純粋な水晶のように、透き通った声が響き渡った。
玉座に女性が座っている。肘掛に肘を置き、頬杖をついている。居丈高である。



147: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/05/25(月) 23:16:47.25 ID:XEQSdgst0
女性は非常に華奢だった。少し衝撃を与えれば骨が折れてしまいそうだ。
白い肌の上には、一切の穢れのない純白のワンピースを纏っている。
腰まである長い黒髪、エメラルドグリーンの瞳。、端整な顔。神秘的な美しさがある。
一見して変なところはないが、彼女は頭頂部から左にずれた場所にクラウンを被っている。
斜めに傾いているのに落ちることはない。これもデレやツンが云う力のお陰なのか。
背中からに目を向けると、デレと同じ大きさの黒い翼があるのを確認できた。

川 ゚ -゚)「貴様達がデレにブーンにショボンだね。あとはツンと犬。
      ふふふ。何故知っているといった顔だな。この邸は私の身体の中と同義である。
      身体の中。ということは細菌にやられ易い。貴様達は細菌であれるか」

女性はくっと顎を上げた。口端を歪め、白い歯を見せる。
どうやら、彼女も奇妙な人間のようだ。ショボンはブーンと似ているなと感じた。

ζ(゚ー゚*ζ「クーデルカさんですね!? とうとう追い詰めましたよ!」

川 ゚ -゚)「追い詰めた、って私は貴様達を待っていただけなんだがな」



148: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/05/25(月) 23:17:12.76 ID:XEQSdgst0
m9ζ(>ε<*ζ「年貢の納め時です! あたしがキミを楽にしてあげます!」

ババーン! キャー! デレははしゃぎつつ、鞄からにいぐるみを取り出す。
それを両手で持ち、クーデルカに見せ付けるようにかかげる。

ζ(゚ー゚*ζ「どうですの!? クーデルカさんが大切にしていたクマさん人形ですよ!」

川 ゚ -゚)「ああ、それは・・・・・・失くしていたものだ。見付けてくれたのか」

クーデルカは頬杖を解き、デレが持つぬいぐるみへと、その細い腕を伸ばした。
すると、ぬいぐるみはデレの手から離され、放物線を描いて彼女の手に収まった。

(´・ω・`)「凄いな。まるで超能力者じゃないか。銃では勝てないわけだ」

川 ゚ -゚)「おお。母の匂いが残っている。・・・暖かい思い出が私を包む」



149: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/05/25(月) 23:17:52.68 ID:XEQSdgst0
よしよし、とクーデルカはとても懐かしそうにぬいぐるみを撫でる。
柔らかな手触りがする。優しに満ちた顔をし、彼女は胸の中にぬいぐるみを抱いた。
途端――ぬいぐるみが破裂した。白い綿が彼女の周りを舞い、地面に落ちる。

(;^ω^)(´・ω・`)「「!」」

川 ゚ -゚)「下らぬ。このような馬鹿げた物は、私には不必要である」

ζ(゚、゚;ζ「なんでー!? キミはぬいぐるみが好きだったんじゃないの!?」

デレは悲鳴めいた声を上げた。それから、鞄の中から一冊のノートを取り出した。
ペラペラとページを捲り、開いた頁をクーデルカに向ける。

ζ(>ε<;ζ「見てくださいですの。ここにキミが人形が好きなことが書かれてます」

川 ゚ -゚)「ははははは。君、日記帳をよく目を凝らして見たまえよ。
     新品じゃあないか! 私はからかうのが大好きな性分でねえ。
     デレ。君を担いだんだよ。己の浅はかさを恨むが良いさ」



150: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/05/25(月) 23:18:31.01 ID:XEQSdgst0
ζ(゚、゚;ζ「・・・・・・」

(´・ω・`)(・・・まずいな。この娘は別な策など用意していないだろう)

楽しそうに高笑いをするクーデルカの下で、デレは俯き加減に悄然としている。
先程以上の有利な武器を持ち合わせていないし、現況を打破できるような言霊もない。
一頻り、勝利の余韻に浸っていたクーデルカは、再び頬杖をついた。

川 ゚ -゚)「私はねえ。ここ数年は眠っていたんだ。平穏にしてやってたのさ。
     それが、私を起こしに来た奴が居てね。力を貸して下さい、と」

( ^ω^)「食堂の屑籠に捨ててあった紙かお?」

川 ゚ -゚)「そうだ。私は群れることが嫌いだ。一人で充分である。
      私がその気ならば、世界中を恐慌に至らしめてやっているさ。
      原発でも爆発させれば良い。だが、私はしない。それは何故か。
      そのような野蛮な行為は、私のような気位高い人間はしないのだ」

(´・ω・`)(ブーンと似たようなことを)



151: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/05/25(月) 23:19:27.27 ID:XEQSdgst0
川 ゚ -゚)「私は今年で二十七歳になる。首を吊ってから十二年が経つ。
     十五歳から私という素粒子の波紋は止んでいる。悔しいことだ。
     そう悔しい。恨めしく口惜しい。この家に生まれてなかったら、きっと。
     きっと、別な自分があったに違いない。されるがままでは有り得なかった。
     なのに、他の平凡に育った者共は、満足出来ないと口を揃えて云う。
     幸せであるのに。ずるいよ。本当に――――殺したくなるくらいに!」

語気を荒げて、クーデルカは立ち上がった。三人は身構えた。
身体を大きく後ろに仰け反らせて、ギリギリと歯を軋らせた。
部屋を揺らす程の衝撃を伴い、黒い両翼が膨らみ、その大きさを増す。
翼を広げ終えると、身体をだらりとさせた。黒い髪が乱れきっている。

ζ(゚、゚;ζ「これはまずいですね。彼女は怒り心頭に発しています」

(´・ω・`)「それは見れば分かる。何か別な手段はないものか」

必死に考えるがしかし、デレは何も思い浮かばなかった。
クーデルカは真っ直ぐに、壇上から三人を見下ろす。ヴァンピレスのように犬歯を覗かせている。



152: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/05/25(月) 23:19:57.26 ID:XEQSdgst0

川 ゚ -゚)「ああ。この心の底から漲る慟哭を止めるには、どうすれば良いのか。
     貴様等を裂いてやれば良い。真紅の血を見れば満たされるかもしれぬ。
     しかし、私は力ずくを良しとしない。そこで、貴様等に呪いを施してやる」


( ^ω^)「呪い?」

川 ゚ -゚)「あと二十分ほどで街の鐘が鳴る。正午、貴様等はその時間に死ぬ。
     例外は無い。ここは私の身体の中である。残された時間を満喫するが良い」

残酷に笑い、クーデルカは玉座に腰を下ろした。余裕というものである。
余裕。それは、いつ如何なる時でも、決して見せてはいけないものである。
平静の調子を崩すのだ。だから、彼女はブーンの問いに答えてしまう。
普段の彼女なら、クールに物事を考え、狡猾に処理をしていたことだろう。

( ^ω^)「万事休すかお。では、最後に質問をしても良いかお」



153: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/05/25(月) 23:20:19.95 ID:XEQSdgst0
川 ゚ -゚)「・・・何だ? 心地が良いから、一つだけ答えてやろう」

( ^ω^)「クーデルカは恋をしたことがあるかお?」

川 ゚ -゚)「恋。ははは。恋か。面白い質問だ。勿論した事があるとも。
     人間ならば恋をするものだ。恋をしなければ人間ではあらぬ」

クーデルカは頬杖をついて、一度力強く翼をはためかせた。
目を細くし、脳に残る懐かしい記憶を手繰り寄せて、述懐を始める。

川 ゚ -゚)「あれは私が十歳の時の事だったか。私は家出を決意したのだ。
     父や使用人に見つからないように抜け出すのは、スリリングだったよ。
     この邸の近くに花々が咲き乱れる公園がある。私はそこに辿り着いた。
     もうあの家には帰るまい。希望と不安を胸に、花咲く道を歩いた。
     その時だ。あの男の子に出会ったのは。同い年くらいの男の子だった。
      内藤ホライゾンと名乗った。非常に良い身なりをした子供だったよ」

(´・ω・`)「えっ」



154: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/05/25(月) 23:20:49.95 ID:XEQSdgst0
ショボンは物申しそうになった。しかし、ブーンは手で制止させた。
一瞬、クーデルカは疑問の表情をしたが、思い出の続きをとうとうと述べていく。

川 ゚ -゚)「内藤君は母親と、それと妹と一緒に来ていてね。妹は気が強かったな。
     内藤君は、ベンチに呆然と座る私に声を掛けてくれた。
     どうやら、相当思い詰めた顔をしていてらしい。心配して励ましてくれた。
     子供らしい遊びをし、その日は一日、私にずっと付き合ってくれた。
     しかし、現実は非情である。時間があっという間に過ぎてしまった。
     夕方、内藤は『また、遊ぼう』と云ってくれた。私はその時、決意したのだ。
     家に戻ろう、と。そして、いつか内藤君が邸から連れ去ってくれる事を待った。
     良いかい? これはあめ色の記憶だよ。私はこの記憶を辛い時に思い出し、
     その甘い初恋の味を楽しんだのだ。これからも消えぬ。消されはせぬ。
     私は今、この瞬間でさえも、あめ玉を口の中で転がしているのだから」

長口上を終えて、クーデルカは顔を伏せた。右手で双眸を覆う。

川  - )「結局、あれ以来、彼と会う事は無かった。
     来てくれていたら、今の私は無かったかもしれないのに」

ζ(゚、゚*ζ「・・・なるほど。この邸には、キミに有効な記憶はなかったのですね。
      公園にあるのでしょう。その男の子を見付けていれば、勝ち目はあった」



155: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/05/25(月) 23:21:22.84 ID:XEQSdgst0
川  - )「しかし、もう全て遅い。呪いは発動し、死の時を待つのみである。
     残り十分だ。内藤を見付け、此処に連れてくる時間は無い」

( ^ω^)「内藤ホライゾンは来てくれるお」

川  - )「戯言を。恐怖で頭がおかしくなってしまったかお」

( ^ω^)9m「いいや――――来るね!」

大声。クーデルカは顔を上げた。すると、彼女は眼球を剥いて驚いた。
ブーンが自分に向けて、指差していたのだ。生き生きと、力強く、破邪顕正の如く。

川 ゚ -゚)「き、貴様。誰にその指を向けているのか。須名・クーデルカ様ぞ」

( ^ω^)9m「鎮まりたまえ! 天網恢恢疎にして漏らさず。
         僕は事の有様を見抜き、君の影を薙ぎ払ってやるお!
         須名・クーデルカ。いいや、“クー”。君を満たしてやる!」



156: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/05/25(月) 23:22:00.95 ID:XEQSdgst0
川 ゚ -゚)「クー・・・・・・だと・・・・・・? そのあだ名を知っているのはただ一人の筈だ」

クーデルカ、いや、クーの全身が粟立った。初めて、表情に焦りの色が見える。
まるで力の入らない足へ無理矢理に力を込め、転びそうになりながらも腰を上げる。

川 ゚ -゚)「貴様、もしかして」

( ^ω^)「僕の名前はブーンではない。内藤ホライゾンだお!」

ζ(゚、゚;ζ「そうでしたの!?」

川 ゚ -゚)「ああ」

( ^ω^)「すまないね。クー。あれから我が内藤家で事件があってね。
       会いに行けなかったのだお。でも、君のことは忘れていないお。
       まさか、このような事になっているとは夢にも思わなかったお」



157: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/05/25(月) 23:22:40.40 ID:XEQSdgst0
川 ゚ -゚)「・・・・・・お久しぶりです。内藤君。遅かったですね。私は待ち草臥れました。
     私は夢の中で、何度も何度も迦陵頻伽の声に似せて、呼んでいたのですよ。
     それにしても随分お変わりになられました。全く分かりませんでした」

クーは一歩踏み出した。覚束ない足取りでゆっくりと階段を下りていく。

川 ゚ -゚)「御機嫌よう御機嫌よう。漸く、内藤君へ私の声が届いたのですね。
     何とお呼びしていたのか分かりますか? きっと、喜んで頂けると思います。
     私は貴方への愛を、言葉に乗せていたのですよ。幾度と溢れんばかりに。
     紡いだ想いは素粒子となり、とうとう二十七回目の波紋を広げました。
     満たされて行きます。満たされて行きます。この胸の暖かさは何でしょうか。
     張り裂けそうになるくらいの、この暖かさは! 私には正体が掴めません。
     あ、あ、あ、あ、あ、あ、恋は迷路。何処に行き着くか分かりません。
     けど、影に成り果ててでも生きていて良かった。だって、貴方に会えたのだから。
     あとで外に出たら空を見上げて下さい。夏の青空が戻っています。
     ずっと曇り空だったと思います。あれは私が癇癪を起こしてした事です。
     洗濯物が乾かなくて、貴方を困らせていたと思います。ごめんなさい。
     ああ、そうそう。私が愚かにもかけた呪いも解いておきましょう。
     自由な心地で、あの時計塔が奏でる優しい鐘の音を聴いて下さい」

そして、クーはブーンの胸の中に顔を埋めた。



158: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/05/25(月) 23:22:58.40 ID:XEQSdgst0
川 - -)「内藤君。私、クーデルカは、ずっとお慕い申し上げておりました」

遠くで鐘の音が鳴った。
これにて、クーはあめ色の夢に包まれる、深い眠りへと就いた。



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