( ^ω^)奇人達は二十一グラムの旅をしますようです
- 6: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/06/19(金) 01:34:35.89 ID:dRjj6WK10
- 2:二十一グラムは物語の行方を知る
- 8: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/06/19(金) 01:35:23.63 ID:dRjj6WK10
長い人生に於ける、平和な一瞬を、切り抜きました。
何一つ、いやな事件は起こりません。
欠伸が出たり、無性に眠たくなる、そのようなお話です。
- 9: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/06/19(金) 01:36:13.10 ID:dRjj6WK10
- ( ^ω^)「うるさいお! その内、ゴミに出してしまうお!」
ブーンは目覚めると、鼓膜を響かせる音鳴らす目覚まし時計のボタンを叩いた。
この目覚まし時計には、『確実に起きられる』との宣伝文句があるが、その通りなのだ。
設定した時間にきっちり起きられるので、無職のブーンとは違って働き者である。
おっと、厳密に言えば現在は無職ではない。内藤私立探偵事務所の所長である。
ただ、特別に広告はしていないし、訪れる客が絶無なので、無職と同然といった感じだ。
ζ(-、-*ζ「ううん。もう朝ですのー?」
欠伸混じりの、のんびりとした声。ブーンの隣で眠っていたデレが発した声である。
彼女は下着だけで、他には何も身に纏っていない。ちなみに、ブーンも下着のみだ。
何故か? それは言えない。詳細に書いてしまうと、閲覧注意になってしまうからだ。
地の文は多けれど、誰にでも読めるものを書きたい。そういう風に常々思うのである。
まあ、適当に述べるならば、「昨晩はお楽しみでしたね」だ。んふふふふふふふふふ。
( ^ω^)「やあやあ。デレは今日も美しいお! 明日も美しいのだけどね。ふふっ」
- 11: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/06/19(金) 01:36:53.33 ID:dRjj6WK10
- そう言って、ブーンはデレの髪の毛を撫でた。彼女は腕に絡み付いて猫なで声を出す。
ゆるやかなウェーブがかったブロンドの髪の毛は、とても触り心地が良かった。
髪の甘い匂い。ブーンはいとおしくて堪らなくなり、デレの身体を強く抱きしめた。
ζ(゚ー゚*ζ「あららら。朝からはだめですの。あたし、寝起きはしんどいのです。
それに早く起きないと、ツンさんに叱られてしまいますの」
デレの背中にある“影”の証左である小さな黒い翼が、ぴょこんと可愛らしく動いた。
無言で眼差しを彼女に真っ直ぐに遣っていたブーンが、そっと身体から離れる。
妹は可愛く、そして恐ろしい。デレと暮らすようになってから、いつも不機嫌である。
( ^ω^)「・・・仕方ないね。服を着替えて朝ごはんを摂ろう」
ζ(>ー<*ζ「はいですのー! ブーンさんと食べるご飯は美味しいです!」
ブーンは上等のスーツに、デレは飾り気のない淡い色使いの洋服に着替えた。
自室の扉を開け、二人は手を繋いで食堂に向かう。今日は何の香りもしない。
妹のツンという人物は変わっていて、朝からとんでもない料理を作ることがある。
例えば、カレーだったり、天ぷらだったり、チャーハンだったり、シチューだったりする。
胃に重いものを作る傾向がある。食べたくはないが、ブーンは妹思いなのであった。
何が出てこようが食べてやろうではないか。ブーンはデレを連れて、食堂へと入った。
- 13: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/06/19(金) 01:39:05.26 ID:dRjj6WK10
- ζ(゚ー゚*ζ「おはようございますの」
( ^ω^)ノ「おはよう! 唯一無二の僕の可愛い妹よ! ご機嫌いかが・・・」
ξ#゚听)ξ「・・・・・・」
「ひい!」、とブーンは叫び声を上げそうになった。ツンの形相が凄まじかったからだ。
一歩退いて、彼はツンの顔を見つめる。頭に角が二本ほど生えていたら鬼と見間違いそうだ。
それは言いすぎだとしても、彼女が怒りのオーラを発しているのは明らかである。
テーブルの上には丼鉢がある。丼鉢の中には狐色のスープの中に麺。・・・今日は、ラーメンだ!
(;^ω^)「ツ、ツン。そんな凶悪な顔は、君に似合わないからやめてくれお」
これ以上妹の気分を損なわないよう、ブーンはやんわりとたしなめつつ椅子に座った。
デレは剣呑なこの場の空気などどこふく風か、にこやかな面持ちでブーンの隣に座った。
- 15: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/06/19(金) 01:39:38.77 ID:dRjj6WK10
- ( ^ω^)「分かった。きっと、僕の髪型が気に入らないのだお」
いつも通りのやり取り。これに対して、ツンは必ず突っ込みを入れるのである。
しかし、今日のツンは何も言わなかった。無言の重圧に、ブーンは気圧される。
これは相当怒っている。視線が泳ぐ。デレに助けを乞うが、嫣然としているだけだった。
(;^ω^)(ツンは一体何に怒ってるのだお? 何の配慮が足りなかったのだお)
あれこれ考えるが、ブーンに心覚えはなかった。ああ、全く意味が分からん!
「んんんん・・・」、とブーンが低い唸り声を出していると、ようやくツンが口を開いた。
ξ--)ξ「はぁー、おはようございます。お兄様は昨日とお変わりないようで」
ツンは大きなため息を吐いてから、どこか投げやりな口調で言った。
だけれど、ブーンは心の底から安堵した。この瞬間に、緊張の帳が開かれたのだ。
( ^ω^)「おはよう。気分がすぐれないようだけど、大丈夫なのかお?」
- 17: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/06/19(金) 01:40:17.15 ID:dRjj6WK10
- 少々気性が激しいところがあるが、ツンは他には絶対に居ない、大切な妹である。
ブーンは労わることを忘れない。小さく頷いて、ツンはデレに顔を向けた。
正確に云うと、彼女の首筋にである。そこには一夜の情事のあとが残っていた。
ξ゚听)ξ「・・・・・・私のことなら大丈夫です。少し気分が憂鬱なだけですわ」
実のところ、ツンは兄のことが好きだ。彼女は正直ではないので秘密にしている。
それなのにブーンは、一ヶ月前の事件で知り合ったデレにかまけるようになってしまった。
無論、ブーンはデレにだけではなく、ツンにもきちんと愛情を向けているのだが、
彼女はそれを快く思っていない。一人占めしたいのである。デレに嫉妬をしているのだ。
・・・これではいけないとも思っている。今、ツンは二つの気持ちの、葛藤の真っ只中にある。
( ^ω^)「憂鬱。それはいけない。僕で良ければ相談に乗るお」
ξ゚听)ξ「だから大丈夫ですって。・・・けど、一つだけ大きな悩みごとがあります」
( ^ω^)「ほほう! それは何だお? 気兼ねせずに言ってみると良いお!」
- 20: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/06/19(金) 01:41:07.56 ID:dRjj6WK10
- 軽快に、ブーンは指を打ち鳴らした。妹の為ならば何だってする気概だ。
ツンは身を乗り出して、声を潜める。同様にして、ブーンも耳を傾ける。
ξ゚听)ξ「この邸。街の住民の間では、“吸血鬼館”と呼ばれているそうですよ。
先日、ショボンさんから聞きました。何故、そう呼ばれてるか、ご存知ですか?」
( ^ω^)「へえ。知らなかったお。どうして、そう呼ばれてるのだお?」
ξ゚听)ξ「邸の外観が薄汚いからです」
( ^ω^)「うぇっ?」
ツンは姿勢を正した。内藤邸の外観が薄汚れている所為で、“吸血鬼館”と呼ばれている。
名称はなかなか格好がつくものだったが、如何せん理由が気に入らない。
不遜な青年はテーブルを拳で思い切り叩きつけて、荒々しく声を張り上げる。
(#^ω^)「下々の奴らは、我々内藤一族を愚弄しているのかお!
全く持ってけしからん! 今から街に繰り出して説教してくれるお!」
- 21: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/06/19(金) 01:41:45.71 ID:dRjj6WK10
- 怒髪天を衝く、怒髪冠を衝くとはこのことを云うのだろう。ブーンは顔全体を赤くしている。
恋愛の存在を知っても、鼻にかける性分は直っていない。人間はそう簡単には変わらない。
ツンは慣れたもので、いきり立つブーンに怯むことなく、茶色の瞳を彼に遣る。
ξ゚听)ξ「どうすれば、汚名を返上できるのか、お分かりになられますか?」
(#^ω^)「ふん! 民衆どもに、内藤家の格の高さを見せ付ければいいのだお!」
ξ゚听)ξ「そのようなことをしなくても、もっと簡単な方法があります」
(#^ω^)「? 奴らに愚かさを思い知らせられるなら、僕がなんだってやってやろう」
ξ゚听)ξ「仰いましたね? この邸を綺麗に掃除すれば良いのです」
( ^ω^)「えっ」
邸、を、掃、除、す、る。言葉とは一度放ったものは元に戻らないものである。
しかし、この時ばかりはブーンは、見事に喉の奥へと戻してみせようと試みた。
- 23: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/06/19(金) 01:42:31.11 ID:dRjj6WK10
- (;^ω^)「それはダメだお。邸を綺麗にすれば人類が滅亡してしまう。
・・・・・・そう! 掃除はまずい。じゃあ、僕は外に用事があるので」
ξ゚听)ξ「外は雨ですよ」
ツンは、席を立とうとするブーンを止めた。雨。ブーンには効果絶大であった。
内藤ホライゾンという青年が嫌うものの一つに、“汚れること”がある。
雨の中を出歩けばスーツが汚れてしまう。掃除をすれば体が汚れてしまう。
どちらも汚れてしまう。絶対にイヤだ! 彼は、どもりながら次のように答える。
(;^ω^)「いいいいいいいや、雨の日に掃除はするものではない。
明日。うん、明日に掃除をしよう。僕は約束を守る男だお」
ξ--)ξ「雨、ですか。鬱陶しいですわね。千載一遇のチャンスでしたのに。
なら、せめてご自分の部屋だけでも掃除してみてはいかがでしょうか」
( ^ω^)「ふむ。それだけなら、考えてみようかお。今は二人の部屋だしお」
- 24: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/06/19(金) 01:43:26.72 ID:dRjj6WK10
- ブーンは、隣で黙ったままの妻(仮)に目配せをした。デレは首を傾げて微笑みを返す。
くりくりとしたブルーの瞳が可愛らしい。眉毛の辺りで切り揃えられた前髪も可憐だ。
今すぐにでも抱きたいお。だが、ツンが居る。抱けばどうなるものやら、想像がつきません。
ξ#゚听)ξ「ともかく! 今月、九月は内藤邸美化月間とします! ご協力ください。
巷では、庭に草が生え放題のここを心霊スポットと勘違いして、
肝だめしをする計画もあるそうですよ! お嫌でしょう? 私もそうです!」
ガタン、と音を立ててツンが腰を上げた。何か気に障ったようだった。
そして、ラーメンの入った丼鉢を持って、奥の台所へテクテクと入って行った。
( ^ω^)「何故怒ったし。僕はツンのことが、時として分からなくなるお」
ζ(゚ー゚*ζ「あたしには分かりますですの。ブーンさんもまだまだですねえ。
ヒントはですね、あたしが声を出さなかったことですの。えへへ」
椅子に座ってから一言も発していなかったデレが、口元に人差し指を添えて言った。
彼女は悪戯をした子供のように笑う。ブーンには乙女心が分からぬ。ゆえに理由を察せない。
とにもかくにも、これ以上ツンを刺激するわけにはいかない。情動的ストレスで倒れるかも。
- 26: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/06/19(金) 01:44:18.07 ID:dRjj6WK10
- ( ^ω^)「はあ。掃除かお。物置にジャージでもあったかしら。
ジャージなんて着たくないお。僕という美しいイメージが壊れてしまう」
ζ(゚ー゚*ζ「あたしもお手伝いしますの。お世話になっている身分ですし」
( ^ω^)「さすがは僕が見込んだ女性だお。そこいらの人間とはまるで違う」
ブーンは、彼なりの言い方でデレを讃える。それから二人は見つめ合う。食堂は静かだ。
今の彼らを邪魔するものは何もない。微かに聞こえる雨の音でさえ、二人を祝福している。
長い人生の中で、時間が止まったかのように錯覚する一瞬が数度ある。今が正しくその時だ。
二人は額を付け、笑顔で唇を尖らせながら互いに焦らし合う。次第に昂りが極限に向かう。
好き合っているのに、口に触れるまで、こんなに時間のかかるキスは他にないのではないか。
先に耐えられなくなったのはデレの方だった。瞳を潤ませて、ブーンの唇に自分の唇を付ける。
三十秒くらいそうしていると、二人は顔を離した。食堂でのキスは、ある種の緊張感を伴った。
ツンが再び姿を現せるかも、と思ったのだった。デレはどきどきと脈打つ胸を押さえる。
息を苦しくさせている彼女の一方で、ブーンは物足りなかった。口付けの先をしてみたいのだ。
( ^ω^)「デレ。もう少しだけ」
ζ(/////ζ「だ、ダメです! ツンさんが戻ってきちゃうかもしれませんの・・・」
- 29: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/06/19(金) 01:45:12.29 ID:dRjj6WK10
- ( ^ω^)「ツンなら、これからは読書の時間だお。だから」
ζ(>ε<;ζ「お願いしますのー。見つかったら、コトですのー・・・」
ブーンがデレの腕を取って引き寄せようとするが、彼女はいやいやと首を振って拒む。
童貞を卒業して一ヶ月目は大体こんなものだ。特にブーンのような自分勝手な輩には顕著に現れる。
何度も体のまぐわいを迫ったが、頑なに譲らないので、ブーンは諦めて彼女の身を自由にした。
彼はそっぽを向いて沈黙する。いかにも不貞腐れたかのような様子だ。扱い難い男である。
( ^ω^)「・・・・・・」
ζ(゚、゚;ζ「あ、あの、怒ってますの? それなら、本当にごめんなさいです」
( ^ω^)「・・・いいや。僕はそのくらいで怒る器が小さい人間ではないお」
ζ(゚、゚;ζ「ですけど・・・・・」
- 30: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/06/19(金) 01:46:22.90 ID:dRjj6WK10
- 幾ばくもなく、ブーンは強張った表情を緩めていったが、顔は違う方向を向いたままだ。
気まずい空気が流れる。二人は何を話題にすればいいか思考する。考えが纏まらない。
場を和ませなければならないのは分かっているのに、両者は口を出せないでいる。
ポツリポツリ。雨が邸を打つ音が聞こえる。数分前よりも、やや激しさを増したようだ。
雨音が二人の気持ちを収れんさせる。どちらからかは知れず、手を取り合った。温かい。
( ^ω^)「すまないお。少々子供っぽかった。気分を害さないで欲しいお。
僕はいつ如何なるときでも、君へ、愛と尊敬の念を送っているお」
ζ(^ー^*ζ「ええ、ええ! あたしも、いつもブーンさんのことを好いていますの」
手を握るという行為は、愛情を確認する基本的な手段の一つである。嫌いならばしない。
ようやく穏やかな雰囲気に包まれた。ブーンは朝食を摂ることにした。・・・・・・朝食?
(;^ω^)「なんでラーメンなのだお? おかしいだらー? そうじゃんね?」
ζ(゚、゚*ζ「どうして三河弁なんですの。作って貰っているのに文句はいけませんよ」
- 31: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/06/19(金) 01:47:01.61 ID:dRjj6WK10
- ( ^ω^)「いや。だってね」
もしかして、いやいや、奇跡的な確率での話だが、ツンは自分のことを嫌っているのだろうか。
だから、朝食に重いものを――嫌がらせ? ・・・こんなこと考えてはいかん。ブーンは首を振った。
一瞬でも妹を疑ったことを悔いる。彼は椅子からゆっくりと腰を上げて、背筋をぐぐっと伸ばす。
( ^ω^)「朝ラーメンも結構良いかもしれない。ツンの料理は絶品なのだお!」
ζ(゚ー゚*ζ「ですのー。あたしは、料理ができないから羨ましいかぎりですの」
( ^ω^)「そういうデレの料理も一度は食べてみたいね。謙遜しているのだろう」
ζ(>、<;ζ「およしください! あたしが料理を作ると新種が完成してしまいますの。
ナポリタンを作ったつもりなのに、PSPが出来上がってしまう勢いですわ!」
( ^ω^)「GK乙。一体どうゆう製造工程があれば、そうなるのだお」
さて、箸はどのようして扱うのだろう。フォークで良いか。ブーンは朝ラーメンに挑んだ。
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