( ^ω^)奇人達は二十一グラムの旅をしますようです
- 138: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/06/19(金) 02:47:20.87 ID:dRjj6WK10
- ―4―
四人は軽い食事を終え、人心地ついた。ご飯と味噌汁は美味しかった。
ヒートが日本人であるから、きっと適確に表現が出来ているからだろう。
しぃが洗い物をして、ギコの元に来る。ギコは「よし」と呟いて、腰を上げた。
(,,゚Д゚)「そんじゃあ、案内の続きをするぜ。俺達の出番はまだあるんだ」
(*゚ー゚)「今から、私達の始まりの場所にお連れいたします」
ζ(゚ー゚*ζ「始まりの場所?」
(,,゚Д゚)「この物語が始まった場所だよ。俺としぃが出会った場所でもある」
( ^ω^)(・・・・・・)
一体、ヒートは何を考えて、ギコとしぃに案内をさせるのか。ブーンは考える。
何か意味があるのには違いないのだ。そうでなければ、おかしい話なのである。
扉を開けて、外へ出て行くギコとしぃの背中を追って、一向は続いていく。
- 139: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/06/19(金) 02:47:54.91 ID:dRjj6WK10
- (*゚ー゚)「ヒートちゃんはね、生前はいじめられていたの」
ζ(゚、゚*ζ「いじめ、ですの?」
目的地へ向かう途中、しぃが言った。それは、ヒートの情報に関わるものであった。
(*゚ー゚)「そう。変わった女の子だからね。やっぱり目立ってしまうの」
川 ゚ -゚)「成る程。有り得る話だ。苛めを苦にした自殺と云った所だろう」
しぃは頷く。ヒートは声が大きく、気性も荒々しかった。人間社会では、
目立つ人間は周りの人間から疎ましく思われるものだ。特に、日本という国では。
ブーン達は石畳の長い階段を昇る。やはりここも人の数が多い。寂しさとは無縁だ。
(*゚ー゚)「このほのぼのとしたお話を書いて、ヒートちゃんは心の安寧を保っていた」
('A`)「・・・俺も私小説を書くのは好きだったよ。俺はバトル物だったが」
- 140: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/06/19(金) 02:48:19.65 ID:dRjj6WK10
- しぃは吃驚した。ドクオの存在に、今更気付いたからだ。普段は影が薄い。
先ほど、彼の分のご飯を出していなかった。青ざめた顔で、しぃは謝った。
('A`)「良いよ。俺の事は居ない物だとしておいてくれ」
にこりと笑って、ドクオは髪の毛を指ですいた。あまり格好はよろしくない。
ひたすら謝ったあと、しぃは話を戻す。貴重なことなので、全員耳を澄ます。
(*゚ー゚)「今から、十数年も前のことでした。ヒートちゃんは耐え切れなくなって、
電車に飛び込んだのです。突然の出来事で、この世界が珍しく揺れました」
(;^ω^)「電車!?」
唐突に、ブーンが大きな声で叫んだ。足を止めたしぃ達は彼へと振り返る。
ブーンは全身を粟立たせて、遠くを見つめながら立ち尽くしている。
電車がどうしたのだろう。デレが心配そうな眼差しで、彼の顔を覗き込んだ。。
ζ(゚、゚*ζ「大丈夫ですの? どうしたんですの?」
- 141: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/06/19(金) 02:48:55.56 ID:dRjj6WK10
- 「いや」、とブーンは首を振って歩き始めた。訝しげつつも、他のもの達も足を動かせる。
(*゚ー゚)「私達は、物語が終わるものだと思っていました。ですけれど、それは違った」
川 ゚ -゚)「ヒートは影となったのだね。そして、再び筆を進めた」
(*゚ー゚)「はい。不思議なこともあるんだなあ、って思いました。
あれから、ヒートちゃんは旅をしながら物語を作って行きました」
どこまでも、ヒートののんびりとしたストーリーが綾なされていく。
留まるところを知らない。辛さを乗り越えるための、優しくも孤独なうた!
独創性はない。特別な技巧もない。ただただ、書きたいものを書くという執念。
(,,゚Д゚)「着いたぜ。ここが全ての始まりの場所だ」
ギコに連れてこられた場所は、街の高台にある広場だった。地面は舗装されていない。
単なる書き損じだ。素人の小説にはよくある。ベンチが幾つかある円形の広場である。
- 143: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/06/19(金) 02:49:39.39 ID:dRjj6WK10
- (,,゚Д゚)「おう! あそこだ。あのベンチで、俺としぃは出会ったんだ!」
目当てのベンチに駆け寄って、ギコは座った。体格の良い所為で、滑稽な姿である。
しかし、いい男の姿でもある。彼は両腕をベンチの背もたれに乗せる。やらないか。
(;^ω^)「や、やらないお!」
(,,゚Д゚)「あん? まあ、良いや。俺はここでギターを弾いていたんだ」
川 ゚ -゚)「君がギターを? 意外な設定過ぎて驚嘆を覚えるよ」
(,,゚Д゚)「うるさいなゴルア! ま、見ておけ。一曲唄ってやる」
ギコはギターを構えるふりをして、歌を唄い出した。見かけによらず美しい声だ。
(,,-Д-)「ラララララー、ラララララー、ラララ、ラーラー♪」
(*^ー^)「そう。そう・・・この歌でした。よく覚えているわ。
曲名はヒートちゃんにしか分からないけど、綺麗な曲なの」
- 145: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/06/19(金) 02:51:20.76 ID:dRjj6WK10
- しぃが嬉しそうにする。ここで歌うギコの前で足を止めたのが、出会いなのだった。
今でも忘れられない記憶の、物語の一ページめ。それは鮮烈に脳に残っている。
歌を唄い終え、ギコは腕を背もたれに戻した。彼もしぃと同じく微笑んでいる。
穏やかなときである。天からそそがれる陽射しが広場を包む。――と、その瞬間。
ギコとブーン達の目の前に、小さな丸い光の玉が浮かび上がった。白色に輝いている。
( ^ω^)「なんだお? これは」
ζ(゚、゚;ζ「こ、これは記憶の欠片ですの! ヒートさんの追憶です!」
川 ゚ -゚)「こんなのが在るから、影は完全ではないのだよ。内藤、それに触れてみたまえ」
クーにさとされ、ブーンは恐る恐るゴルフボールほどの大きさの光の球に触れた。
手に温もりが伝わる。いつか握った母親の手の温もりに似ていた。光の弾が、手に包まれた。
(;^ω^)「っ!?」
すると、ブーンの脳内に連続的にイメージが映った。それは、いつのことだっただろうか。
ヒートが物語を書き始めたころの話である。さあ、心をうつほにしたまえ。
君には心の旅をしなくてはならない。ブーンは深いまどろみの中へと沈んで行った。
- 147: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/06/19(金) 02:52:08.55 ID:dRjj6WK10
- “ヒートという少女は快活な少女である。小学生のころは人気者だった。
当然だ。小さな子供というものは、楽しい人間が好きなのだから。
しかし、それは小学生までのはなしで、中学生になると状況ががらりと一変する。
半端に大人の歳になった子供は、アイデンティティが芽生え、自己を持ち始める。
自分以外の人間に目が行くようにもなる。従って、気に入らない人物も現れる。
高校受験が目の前に控えているのもあって、無尽蔵にストレスが生じるのだ。
そのストレスの発散の方法は人それぞれであるが、中には愚かなことをする人間も居る。
いじめだ。他者を傷付けて、自己の優位性を保つのだ。いじめを受けるのは弱いものである。
ヒートがその内の一人。彼女は一際目立つ性格が災いして、柄の悪い輩にいじめを受けていた。
彼女は言い返せる術を持っていなかった。無論、いじめを受ける側にもストレスは溜まる。
彼女の場合、私小説を書くことで発散が出来ていた。昔から本を読むのは好きであった。
それなら書くのも楽しいのではないか、という疑問を抱き、実践して趣味になったのである。
ノパ听)(・・・)
今、彼女は自室で机の前に座り、ボールペンを走らせている。話を書くのが苦痛ではない。
それは素晴らしい。ギコという若者と、しぃという綺麗な女性が出会い、生活する話だ。
物語のタイトルはまだ決めていない。いつかは決める日が来るだろうと、保留にしている。
- 149: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/06/19(金) 02:53:25.65 ID:dRjj6WK10
- ヒートは一ページを書き終えるとノートを閉じ、胸に抱いてベッドに寝転んだ。
ノートの中に宿った自分の話に思いを馳せて、目を閉じる。そこは物語の中のせかい。
次の展開はどうしようか。あまり不穏になる話は書きたくない。彼女は瞼を開けた。
寝返りを打ち、ノートを開く。近くにあったボールペンを手に持って文章を書く。
面白いことを考え付いたのだ。『自分を話の中に登場させる』のはどうだろうか。
本屋で売られている書籍にも、時折そういう手法を取っているものがある。
おかしな話ではない。ヒートは自分自身を脇役に加えることにした。グッドアイディア。
アタシはそこでは作家で、物語の誰からも愛されている。誰一人として、馬鹿にしない。
住む場所はどうしよう。・・・・・・広場の少し行ったところにある図書館にしよう。
本に囲まれた生活を、一度してみたかったのだ。現実では不可能だが、空想の中なら可能だ。
ラララララー、ラララララー、ラララ、ラーラー。ヒートは歌を口ずさみ、筆を走らせる。
・・・・・・。
場面は変わる。駅のホームだ。空はどんよりとして曇っている。泣き出しそうな空模様だ。
ヒートは白線の内側に立っている。向かいのホームに快速電車が走り去っていった。
今日もいじめられた。もし、もしもだよ。あの電車に飛び込めば、解放されるのではないか。
彼女は正常な思考回路が働かないほど、追い詰められていた。そう、死にたくなるほどにね!
何なら、誰か自分の頬をつねってくれ。ここが実は夢の世界で、現実の自分は華々しいのだから。
ヒートは白線の外側へと歩み出た。アナウンスがホームに響く。ぽつりぽつりと雨が降り出した。
次は通過列車である。さあ、目覚めのときだ。アタシは――起きなければならない。
こうして、二十一グラムが零れ落ちたのです。”
- 150: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/06/19(金) 02:54:01.94 ID:dRjj6WK10
- (; ω )「――――うっ!」
ブーンは目を限界まで見開いた。動悸がして、吐き気もする。嫌な頭痛もする。
胸を押さえて苦しむ彼を、デレが介抱した。彼の様子は尋常なものではない。
二人を横目で見てから、クーは両手の指を胸の前で編んで小さな声を出した。
川 ゚ -゚)「死んでしまった物は仕方が無い。悲しい事だが、現実とは非情なのだ。
ヒートの事情はよく分かった。乗りかかった船だ。彼女を鎮めてやろう」
('A`)「俺もいじめられていたから、ヒートさんの気持ちが分かる。
ますますどうにかしてやりたくなった。図書館に、彼女の分身が居るそうだ。
そこに行けば、何か呪縛を解く鍵があるかもしれない。全てはチャンスだ」
ドクオが前に出る。彼は外見こそひ弱だが、熱い心根を持っているのだった。
ヒートの過去を視て、俯いていたギコが顔を上げる。そして、彼は強い口調で言った。
(,,゚Д゚)「俺はこの街と、ここと図書館を案内するように言われているんだ。
連れて行ってやる・・・と言いたいところだが、ここに居させてくれ。
もう案内は済んだことにする。しぃと二人で出会いを語り合いたいんだ」
- 152: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/06/19(金) 02:54:47.20 ID:dRjj6WK10
- これからの目標が決まった。この先の図書館に赴き、ヒートの分身に会うのだ。
ふとブーンは吐き気を堪えながら、声を搾り出した。ギコとしぃ宛てにである。
( ^ω^)「・・・一つ、聞きたいことがある。君達はこの世界が楽しいかお?」
(,,゚Д゚)「・・・・・・ちょーっとだけ退屈だな。何も起こらんってのも考えもんだぜ。
これは、行動を制限されている登場人物から作者への反抗だ。ギコハハハハハ!」
ギコは白い歯をむき出しにして豪快に笑う。しぃもにこやかな表情で答える。
(*゚ー゚)「私の料理が無料なんておかしいです。本当はお金を取れるくらいだと思うんですけど」
川 ゚ -゚)「強かな女だな。しかし、その心意気や良し。和食は初めてだったが美味だった」
( ^ω^)「オーケイ。僕はヒートの追想を見たとき、面白い策を閃いたのだお。
勘が当たればだけどね。この世界が変わる覚悟をしておくといいお」
(,,゚Д゚)(*゚ー゚)「??」
- 153: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/06/19(金) 02:55:28.91 ID:dRjj6WK10
- すっかり体調の良くなって溌剌としたブーンは、三人を先導して図書館を目指す。
図書館は木々に囲まれた場所にあって、ギコが言うにはヒートはその中の奥に居るそうだ。
流石に彼女が住む付近は、鳥が歌い、葉々がささやいて美しいものだ。丁寧な描写である。
十分ほど歩いて、ブーン達は図書館の前にたどり着いた。敷地面積は内藤邸よりも大きい。
( ^ω^)「ふん。確かに広大だが、僕の邸の方が格調が高いお」
川 ゚ -゚)「ふん。見てくれは良いが、果たして中身はどうかな」
似たような感想を金持ち二人が同時に述べる。ブーンとクーは、眉を顰めて睨みあう。
どちらも尊大なのだ。まあた始まったといわんばかりに、ドクオとデレは先に進む。
ドクオが豪奢な両開きの扉を開ける。内部は特有の埃っぽい匂いが漂っていた。
床から天井までは大分距離がある。上部に取り付けられた窓から、光線が差している。
陽だまりの出来た図書館内を、ドクオはくたびれた革靴を鳴らして進んでいく。
まだ睨みあっているブーンとクーも、遅れて入ってきた。待っていたデレと合流する。
川 ゚ -゚)「あれ? おい、ドクオはどこに行った?」
ζ(゚ー゚;ζ「ドクオさんなら、先に進まれましたよー」
- 154: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/06/19(金) 02:55:51.30 ID:dRjj6WK10
- (#^ω^)「なに!? さてはあいつめ、僕を差し置いて目立つつもりだお!
こうしてはいられんね! ドクオより先にヒートに会うお!」
ブーンは疾風怒濤に走り去って行った。残された女性二人は、大きな息を吐く。
川 ゚ -゚)「君は、大変な男と付き合っているね」
ζ(゚ー゚*ζ「でも、ブーンさんは優しいですの。いい人ですの」
川 ゚ -゚)「そうか」
クーも内部へと進んで行った。デレはゆっくりと彼女の背中を追う。
あちこちデレは周囲を見回す。木造の大きな書架は、等間隔で美しく並んでいる。
膨大な数だ。この図書館に所蔵されている本は、数十万冊はあるかもしれない。
本に囲まれた生活か。ヒートと同じく本が好きなデレは、その生活に憧れた。
流石に、本を書こうとまでは思わない。デレは文才のないのを承知しているのだった。
(#^ω^)「くおら! ドクオ! 僕より前を歩くのはやめたまえお!」
- 156: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/06/19(金) 02:56:53.08 ID:dRjj6WK10
- ('A`)「・・・・・・なんで?」
図書館の一番奥では、ブーンはドクオを羽交い絞めにしていた。
壁際のここは、本棚を避けるようにデスクがあり、確かな生活感があった。
(#^ω^)「僕が目立たなくなるのだお! 分かったなら、『はい』と返事をしろ!」
('A`)ゝ「サー、イエッサー」
(;^ω^)「な、何だか、君の一挙手一投足が異色を放つが、まあ、勘弁してやる」
('∀`) ニコッ
ブーンがドクオを解放した。ドクオはデスクを調べ始めた彼の背中に笑いかける。
しかし、クーとデレがこの場にやって来ると、ドクオは凛々しい顔をした。
最初の方で、彼に存在感がないと説明したが、あれは間違いだったのかもしれない。
大人しそうに見えて、クレイジーなのか。だからたまに悪ふざけしちゃうんです。
- 159: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/06/19(金) 02:57:44.86 ID:dRjj6WK10
- ('A`)「・・・ここがヒートさんが住む場所に違いない。でも、彼女は居ないようだ」
ζ(゚ー゚*ζ「わあ! デスクの上に、山盛り本が詰まれています。ブーンさんの部屋みたい」
川 ゚ -゚)「内藤の部屋の状況が窺い知れる言葉だね。掃除くらいしたまえよ」
( ^ω^)「僕の部屋は綺麗だお。・・・・・・おおっと! やっぱりあった」
ブーンはデスクの本を崩して、その中から一冊の分厚い書物を手に取った。
辞書のように分厚く、茶色い本だ。ここに居る全員に見覚えがあった。
川 ゚ -゚)「それは、ヒートが持っていた本と同じ物か?」
( ^ω^)「その通りだお! ヒートがこの図書館で作家をしていると知った。
空想世界の彼女も同じ本を書いているのでは、と僕は思ったのだお。
予想が当たったね。とても素晴らしいことだお。これで僕達は帰られる」
- 161: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/06/19(金) 02:58:47.92 ID:dRjj6WK10
- クー、デレ、ドクオの三人は首を傾げる。同じ書物がある。それがどうしたのだ。
ブーンは椅子に座って、理解の行かない三人に向け、茶色の書物を翳して説明する。
( ^ω^)「この本を開けば、“ギコが広場に行った”との内容で終わっている。
これはどういうことか。・・・つまり、現実世界のヒートの本とこの本は、
繋がっているのだお。リンクしているのだ。だとすれば、あとは分かるね?」
川 ゚ -゚)「・・・・・・」
ζ(゚、゚*ζ「?」
('∀`)「・・・・・・」
三人はまだ分からない。ブーンは情けなくなって落胆し、わざとらしく肩を竦めた。
( ^ω^)「時として、ペンは銃に勝る。僕はそれを痛感している。
ヒートの分身が居ないのは、都合が良い。僕が本に悪戯をやろう」
川 ゚ -゚)「! お前、もしや」
- 163: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/06/19(金) 02:59:58.62 ID:dRjj6WK10
- ( ゚ω゚)9m「そう! 物語はある種の破壊を伴って、締めくくらねばならない!!」
あらん限りの力でデスクを叩きつけて、ブーンは立ち上がった。指差す彼の眼は狂喜に満ちている。
彼は、あちこちと忙しなく行ったり来たりする。やがて、クーの前に立って早口で言う。
( ^ω^)「クーは案外と知性がある。君ならいち早く気が付くと思ったお!」
川 ゚ -゚)「案外は余計だ。・・・現実世界とリンクしているのなら、書き足せば良いのだ。
『四人は元の世界へと戻った』などとね。理由付けは必要かもしれんが」
( ^ω^)「いいね! 僕は今から、文章を書き記してやろうと思う。
この世界を一変させてね。ギコもしぃも構わないと言っていた」
ブーンはバッと両腕を広げた。そして、神に祈るように天井に顔を向ける。
( ^ω^)「ははははは! 完全な世界なんて、どこにもありやしないのだお!
不完全だからこそ、美しいと思えるのだ!」
- 164: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/06/19(金) 03:00:31.68 ID:dRjj6WK10
- ノパ听)「・・・ふう」
ヒートは噴水の石段に座っている。ブーン達が消えてから数分しか経っていない。
彼女は広場から景色を一望する。真っ直ぐに遠く伸びた道には、動かぬ人間ばかり居る。
彼女の横にはドクオが手放した釣竿が転がっている。クーは釣りが好きだと言っていた。
色々な気の紛らわし方があるものだ。ヒートは空を見上げた。雲は流れていない。
いざ時間を止めてみると、寂しい空間だ。嫌いな人間が居なくなると、随分違うものだ。
ノパ听)「ん?」
ふとヒートが視線を落とすと、ひざの上に置いている本のページが開かれていた。
彼女が開いたのではない。勝手に開いたのだ。ページが風に煽られたのでもない。
微風などで捲られる重量ではない。第一、風は止んでいる。よって自動的に開かれたのだ。
ノハ;゚听)「!?」
そうしていると、一ページ、また一ページずつ捲られ始めた。それは徐々に速度を増していく。
最後のページで止まった。すると、紙からまばゆい光が放たれて、四筋の文章が飛び出した。
四つの文章は形を成していき、最終的には人間の姿となった。ヒートの呪縛は失敗である。
- 165: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/06/19(金) 03:01:06.89 ID:dRjj6WK10
- ( ^ω^)「おっおっお! 大成功だお! やはり僕は頭脳明晰だお!」
川 ゚ -゚)「ふん。たまたま予想が当たっただけではないか。まぐれだよ」
ζ(゚ー゚*ζ「やっぱり、現実の空気は美味しいですのー!」
('A`)「・・・早く帰って寝たい」
数時間ぶりに現実世界へと帰還出来た四人は、解放感に酔いしれる。
本の中は狭苦しいものだった。一頻り歓喜したあと、ブーンはヒートに顔を向ける。
( ^ω^)「やあやあ。残念ながら、君の目論見は失敗に終わったね」
ノハ#゚听)「何を。もう一度、本にお前達の名前を書き込めばいいんだ・・・・・・!?」
ヒートがポケットを探るがしかし、ボールペンはそこにはなかった。
焦った表情でブーン達に目を向けると、一番影の薄い男がボールペンを握っていた。
- 167: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/06/19(金) 03:01:46.93 ID:dRjj6WK10
- ('A`)「・・・・・・ヒートさん。もうやめよう。君には度し難い過去がある。
俺も君と似たような物で、ずっと虐げられて一生を終えたんだ。
もし良かったら、俺達が相談に乗るよ。君は一人じゃない」
ノハ;゚听)「寄るな! やめてくれ! そんな甘言は、アタシは聞きたくない!」
ドクオが歩み寄ると、ヒートは慌てて立ち上がり、両腕を伸ばして制止させた。
どさりと、分厚い本が地面に落とされる。彼女は総毛立っている。恐慌している。
他人など信じるものではない。ヒートは他人の憐れみが、一等苦手なのだ。
('A`)「しかし」
( ^ω^)「ドクオ。よしたまえお。僕に任せておけお」
ブーンが言い寄るドクオの腕を引っ張った。自分より目立つな、という念もあったりする。
ヒートに身体を向けて、ブーンは両腕を広げた。完全にイった先ほどよりかは軽やかだ。
( ^ω^)「ヒート。君の心の欠片を覗かせて貰ったお。大変だったね」
- 170: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/06/19(金) 03:02:37.74 ID:dRjj6WK10
- ノハ;゚听)「・・・・・・」
( ^ω^)「僕には無縁なことだったが、下々にはそういう世界もあるのだろう」
ブーンが一歩を踏み出す。ヒートは、にじり寄る彼を拒否するように身体を後ろに引く。
だがしかし、ブーンは足を止めない。彼の目には強固な意志が宿っている。
( ^ω^)「ただ電車は駄目だ。電車の事故で、僕の母親が亡くなっているのだお」
ζ(゚、゚*ζ「そうだったんですの」
だから階段のところで、電車への飛び込み自殺の話を聞いたとき、ブーンは反応したのだ。
彼は、手を伸ばせばヒートに届く距離で足を止めた。そして、彼女に向けて力強く指を差した。
( ^ω^)9m「今なら君の気持ちが分かる。君の心へと、言葉を届けられる。
天も僕も、君のことを知っている――鎮まりたまえお。ヒート」
- 172: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/06/19(金) 03:03:35.43 ID:dRjj6WK10
- ノハ;゚听)「やめろ! 好きなようにさせてくれ! 憐憫の情を向けないで・・・。
アタシがアタシでなくなってしまいそうになるんだ! こんなにも怖い!」
( ^ω^)「いやだね。君を放ってはおけないお。この街の時間が戻らない。
それに君は、僕達に君自身を知って欲しがっていたではないかお」
ノハ; )「っ!」
ヒートは立っていられなくなり、石段にぺたりと腰を下ろした。
ブーンの言葉で脱力下ヒートの様子を見て合点が行き、クーがうんうんと何度も頷いた。
川 ゚ -゚)「そうだとも。最初から全ておかしかったのだ。君が一番よく存じているだろう
ギコ達に、君に縁のある場所を案内をさせて、終始構って欲しそうだったぞ。
白状して楽になれ。ヒートは、自分のした事に今更後悔しているのだ。
君には大それた事をする器が無い。脆く、壊れ易い。しかし、鮮やかである」
クーは長々と喋りきった。批判と擁護の入り混じった、彼女らしい言葉だった。
がっくりとうな垂れて、ヒートは小さな声を出した。そこに、今までの気迫はなかった。
- 174: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/06/19(金) 03:04:41.34 ID:dRjj6WK10
- ノハ )「言われた通りだよ。アタシにはやっぱり悪事は無理だった。
お前達が居なくなったあと、街を眺めたんだ。何もかもが止まっている。
いざ、嫌いな人間達が誰も居なくなると、寂しくなったんだ。何て矛盾だろう。
アタシはおかしいんだ。きっと、精神が病んでいるんだ。気持ちの悪い人間だ。
それは昔と一緒で、アタシの居場所は、世界中のどこを探したって在りえない。
どこを旅したって、社会からのつまはじき者だ。いいや。もっと悪いかもしれない。
だからこそ、世界中の時間を止めてやろうと思ったのに。結局はこうだ。
これからアタシはどうなってしまうのだろう。消えてしまうのだろうか。
話を聞いて貰って、病的な多幸感を覚えているけど、ああ、怖くて仕方がない!」
( ^ω^)「ヒート」
ブーンが優しい声で呼びかける。彼はドクオの手からボールペンを奪い取った。
そして、ヒートに近寄る。彼女を正しい道に導くのは、まさに今がその時である。
彼はヒートの足元に落ちている本を拾い上げる。ずしりと重い。彼女の軌跡だ。
最後の文章が書かれているページを開いて、ブーンはヒートの膝の上に本を乗せる。
ヒートの赤毛を撫でて、ブーンはボールペンを渡す。それから、真剣な表情で告げる。
- 176: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/06/19(金) 03:05:41.86 ID:dRjj6WK10
- ( ^ω^)「君はまだ消えない。聞いた話では、ものにも魂が宿るそうだお。
これで終われば、今度は彼らが納得しない。ギコもしぃも君の仲間だお。
僕が今までの話を第一部完として、面白い続きを考えておいたお。
さあ、ペンを握り、話を書くがいいお。他の誰でもない、君の物語を」
ノパ听)「アタシだけの話・・・」
ヒートはボールペンを弱弱しく握り、本に視線を落とした。
ららら、素直な気持ちで話を書きましょう。拙くても、自分の力で書きましょう。
“ほのぼのとした世界は終わった。各地に封印されていた、旧支配者共が蘇ったのだ。
奴らは世界中を我が物顔で荒らし、蹂躙していく。平和に呆けていた人間達に抗う術はなかった。
ギコという青年は旧支配者の復活を予見していた。だから、普段から肉体を鍛えていたのだ。
だが、鍛え抜かれたギコの拳は旧支配者には、まるで通用しなかったのだった。
誰もがこの星の終末を予感した。――しかし、ある時、別世界の勇者達が現れた。
ブーン、デレ、クー、それとドクオの四人である。彼らはギコという青年と、
その妻であるしぃという女性に特別な力を与えたのだ。勇者達は二人に力を託すと、
元の世界に帰っていった。さあ、震えるが良い。壮絶な戦いの日々の幕開けである。”
ノハ;凵G)「こんなの書けるかあああああああああああああああああああ!!」
久方ぶりに、ヒートは泣いた。しかし、それは心の底から清々しいものだった。
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