( ^ω^)奇人達は二十一グラムの旅をしますようです

4: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/07/01(水) 15:09:18.05 ID:kLLE5Q4M0
         その洋館は、山奥にある湖のほとりに建っていた。        

       茂良家が所有している洋館で、“九時館”と呼ばれていた。        

     主は、残忍だった。気に入らない使用人が居れば、即刻解雇である。   

       いつ如何なる時でも、使用人達の働きに目を光らせていた。      

       周りのもの達は畏怖を覚えながら、仕事に従事していた。    

     そのような人間ではあるが、主には一人だけ気を許す人物がいた。     

     連れ合いである。そちらは主とは対照的に、穏やかな性格だった。    

      心の底から愛していたのだ。誰だって、愛の前では平等だ。       

            「末永く、君と生きていたい」               

     祈った。居るのか分からない神にね。祈ったのだ。祈ったのだ。      

                         
                            ――確かに、祈ったのだよ。



5: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/07/01(水) 15:09:45.07 ID:kLLE5Q4M0

       3:二十一グラムは永遠の愛を求める ver.パライソ          



6: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/07/01(水) 15:10:27.31 ID:kLLE5Q4M0
―1―

(#^ω^)「うるさいお! このポンコツ時計め! ぶっ潰してやる!」

ブーンは、目覚まし時計のベルに起こされた。仕返しとばかりに何度もボタンを叩く。
執念深く幾度となく。しかし、この目覚まし時計は精巧かつ頑丈だ。壊れることがない。
根負けして肩を落とし、ブーンはベッドから滑り落ちた。ベッドに、彼の妻の姿はない。
もう正午過ぎだからだ。きっと、デレは邸のどこかに居るのだろう。ブーンが立ち上がって、
カレンダーに視線を遣る。今日は十二月十四日である。一年の終わりが、すぐそこに来ている。
だけれど、彼には関係のないことだ。大事なのは、その少し前にあるクリスマスである。

(*^ω^)「クリスマス。クリスマス。ふっふーん♪」

パジャマから上等のスーツに着替えて、ブーンは調子はずれな鼻歌を奏でる。
クリスマス。神が人間として生まれた日を祝う、キリスト教の記念日である。
彼はその前日、つまりクリスマスイブの日に、何かイベントを計画しているのだった。
デレと熱い夜を過ごす? またまたご冗談を。彼の考えるものは、もう少しだけ高尚である。

( ^ω^)(ツンとデレは仲が悪いようだお。僕がその仲を取り持つのだ)



7: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/07/01(水) 15:10:57.11 ID:kLLE5Q4M0
どうしてかは分からないが、妹のツンとデレは仲が悪い。目を合わそうとしないのだ。
見たところ、ツンが一方的にデレを嫌っているようだが、これではいけない。
心優しいブーンは、二人を仲良くさせるために、イブの日にイベントを予定している。
この企画は、驚かせたいので二人には内証にして、友人のショボンにだけ打ち明けるつもりだ。
彼は口が軽いきらいがあるが、物事の分別が出来る人間だ。秘密を守ってくれるだろう。

(*^ω^)(僕って、なんて他人の気持ちが分かる男なのだろう!)

ブーンは浮かれ出した。自分は配慮の出来る人間である! おお、さといさとい。
腰に両手を当てて、廊下をスキップで進む。そして、リビングに入るとツンが居た。
彼の登場の仕方に驚愕して、ツンは丁度飲んでいたジュースを噴き出しそうになった。

ξ;><)ξ「けほっ! けほっ! お兄様は本当に二十七歳なのですか!?」

カウチソファでくつろいでいた彼女は、コップをコースターに置いて自分の胸を撫でる。
飲み物が気管に入りかけた。ごほごほと、むせながらツンはブーンを鋭い目付きで睨む。
ブーンはそんな彼女の後ろに回り、両肩に手を置いて、優しく揉み解した。そう。優しくね。



8: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/07/01(水) 15:11:20.84 ID:kLLE5Q4M0
ξ;゚听)ξ「な、なんですか・・・? お兄様らしくありませんわ」

普段とはかけ離れた兄の労いの行為に、ツンはどぎまぎとして振り返る。
兄がにかやかな表情で自分の肩を揉んでくれている。この人は、一体誰なのだろう。
肌が粟立つ。頭を何かにぶつけてしまって、ブーンはおかしくなってしまったのか。

ξ;゚听)ξ「はっ!? もしや、私に知られると、怒られるようなことをしましたね?」

( ^ω^)「そんなことはしてないお。ただ、僕は労ってあげているだけだお。
       いつも料理を作ってくれたり、邸を掃除してくれている君をね」

ξ゚听)ξ「お兄様・・・」

ツンは感動して、涙を流しそうになった。不遜で高慢だった兄が親切にしてくれている。
二十七歳になって、ようやく成長したのだ! ツンが急に熱を帯び始めた目頭を押さえる。

ξ;凵G)ξ「やっと大人になってくださったのですね。私、ツンは嬉しゅうございます」



10: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/07/01(水) 15:12:38.33 ID:kLLE5Q4M0
( ^ω^)「大げさな。それに僕は、元から成熟しきった大人だお」

ξ;凵G)ξ「はい。もうそれでも良いので、どうかこれからもお願いします」

何度も念入りに揉んでから、ブーンはツンの肩から手を離した。彼女の肩は少しこっていた。
ツンは朝昼夕料理を作り、ブーンの自室以外の部屋を綺麗に掃除していて、無職とは若干違う。
内藤邸は使用人を雇っていた頃があり、彼らが寝泊りしていた場所もあって部屋数が多い。
今は使われていないが、それでもツンは掃除をしているのだ。彼女と結婚する男性は幸せだろう。
しかし、ツンには現在懇意にしている男性は居ないし、兄が猛反対するのは目に見えている。
物思いにため息を吐くツンの隣に、ブーンが腰を下ろす。そして彼は、ツンの肩に腕を回した。

( ^ω^)「嬉しそうにしたかと思えば物憂げにしたり、ツンの表情はよく変わるね」

ξ゚听)ξ「・・・私には色々と悩みがあるのです。ああ、心配なさらなくても大丈夫ですわ。
      自分で解決出来ることですので。お兄様はご自分の心配だけなさってくださいね」

( ^ω^)「うむ。ツンは強い女性だお。だけど、耐えられなくなったら僕に言いたまえお。
       僕が相談に乗ろう。ツンは可愛い妹なのだ。ひたすら尽力するお!」



11: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/07/01(水) 15:13:16.45 ID:kLLE5Q4M0
もしも、ブーンに相談などを持ちかけると、とんでもない行動に走るに違いない。
それを把握しきっているツンは話半分に聞き、「はい」とにこやかに受け答えた。
二人は顔を前に向ける。大型のテレビに、ニュースを読み上げるキャスターが映っている。
特に恐ろしい事件は報道されていない。至極良いことではあるが、つまらない内容でもある。
大きな欠伸をしたブーンは、ふと思い出した。そういえば、デレはどこに居るのだ。

( ^ω^)「・・・デレは? デレはどうしたのだお?」

一人きりにされた子犬のような目をして、ブーンが尋ねた。ツンは目を細めて答える。

ξ゚听)ξ「お昼ご飯を食べたあと、クドリャフカを連れて散歩に行きましたわ」

素っ気ない言い方だった。ツンは本当にデレを嫌っているようだ。まあ、当然の話だが。
やはり、ブーンには理由が分からないが、このまま放っておくわけにはいかない。
二ヶ月前の十月に、ブーンとデレは内藤邸にてささやかな結婚式を挙げたのだ。
正式にとはいえないが、デレは内藤家の一員になったのである。仲たがいは駄目だ。

( ^ω^)「ふむ。散歩に出たのかお。・・・ツン、デレと仲良くして欲しいのだけど」



13: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/07/01(水) 15:14:03.92 ID:kLLE5Q4M0
ξ゚听)ξ「・・・・・・」

ツンは黙して答えなかった。じっとニュースのテロップを目で追っている。
政界のニュースが終わり、クリスマスの話題に移った。都会でイベントが催される。
全長十キロメートルほどの大通りに、幾何学的な模様のイルミネーションが飾られるそうだ。
その都市はキジョという名称で、ブーンの大学時代の友人が住んでいる場所である。
友人はジョルジュ長岡といい、女性のふくよかな胸に異常な好奇心を示す好青年だ。

( ^ω^)「ジョルジュが住んでいるところだお」

ξ*゚听)ξ「そうでしたわね。電飾が色鮮やかですわー。一度行ってみたいです」

映像に写るきらびやかなイルミネーションを見て、ツンが茶色の瞳を輝かせる。
彼女は都会には赴いたことがない。大学も電車で数駅乗ったところのに通っていた。
ここで、ブーンはぴんと閃いた。クリスマスイブに都会に連れて行けばいいのではないか。
ショボンと事前に打ち合わせをして、ツンとデレが二人きりになる時間を作るのだ。
二人になれば、いやでも会話をしなくてはならない。頭脳明晰な青年は指を打ち鳴らした。



14: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/07/01(水) 15:15:12.59 ID:kLLE5Q4M0
( ^ω^)「いいね! 僕は類まれなる知性の持ち主だお!」

ξ;゚听)ξ「? よく分かりませんが、それは有りえないと思います」

( ^ω^)「善は急げだお!」

ブーンはすっくと立ち上がった。リビングの隅に設置されている電話の受話器を取る。
かける相手はショボンだ。流れるような指使いで、ショボン宅の電話番号を入力する。
十回ほどのコールのあと、電話が繋がった。友人の声は少し上擦っていた。

『もしもし。ショボン書店だよ』

客からかかってきたかもしれないのに、ショボンはくだけた言葉で応対した。
何でもありだな、この人間は。眉を顰めて、ブーンは馬鹿にした態度を取る。

( ^ω^)「君ねえ。また酒を呑んでいただろう。声が高くなってるのだお。
       それに仕事をする気があるのなら、丁寧な対応を心がけたまえお」



16: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/07/01(水) 15:16:24.50 ID:kLLE5Q4M0
『黙れよ。無職ボーイ。僕の家の電話番号を知っているのは、君ら兄妹とジョルジュだけだよ。
 だから、敬語を使う必要はないのさ。分かったかい? なら、用件を言ってくれよ』

ショボンの話は、クーほどではないが長い。そして、彼は辛辣な言葉を吐くときがある。
降って湧いた頭痛に、ブーンはこめかみを押さえる。口では彼に、一生敵いそうにない。

( ^ω^)「ふん。威張っていうことじゃないお。その内、店を潰してしまえ。
       ・・・用件はね。僕の邸に来て欲しいのだお。なるべく早くね!」

『ちょっと待ってくれ。急だね。ブーンはね、いつも自分勝手が過ぎるんだよ。
 一度肺を空気で満たして、大きく吐いた方が良い。それで、用件は何なんだい?』

( ^ω^)「だから、内藤邸に足を運びたまえと言ってるのだお! しつこいお!」

『・・・・・・どうやら、本気らしい。ううん。酒が抜けたら行かせて貰うよ』

(;^ω^)「やっぱり呑んでたのかお。ショボンはね、自由が過ぎるのだお。
       じゃあ、夕刻以降だお。それでも良いから、よろしく頼んだお」



19: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/07/01(水) 15:17:37.26 ID:kLLE5Q4M0
ブーンは受話器を置いた。ショボンとの会話は短かったが、精神をすり減らすまでに至った。
額に手を置いて、彼は天井を仰いだ。そんなブーンの側には、慌てた様子のツンが立っている。

ξ;゚听)ξ「ショボンさんが来られるのですか。どうしよう。お茶菓子を用意しなくっちゃ」

( ^ω^)「いらないいらない。ショボンになんて、何も出さなくていいのだお」

言って、ブーンが手を振るがしかし、心優しいツンはリビングを去って行ったのだった。
何か菓子でも作って、ショボンをもてなすつもりだろう。兄とは違って、立派な妹である。
手持ちぶさたになったブーンは、「これから何をしようかね」と唇の先で手を合わせた。
デレは散歩に行っているようだし、ツンは菓子を作りに台所に行ってしまった。
ツンの手伝いでもしようかと思ったが、自分は料理が出来ない。邪魔になるだけだ。
仕方がない。ブーンは居間でくつろぐことにした。彼はソファに深く腰を埋める。

( ^ω^)+(テレビは低俗だお。僕のような慧眼の持ち主は、読書が似合う)

テレビの電源を落として、ブーンはテーブルの上にある一冊の本に手を伸ばした。
“ハサミ男”。ミステリーというジャンルに於いて、人々によく知られた小説である。
デレもツンもミステリーが好きなので、どちらの所有物かは不明だ。彼はページを開く。



20: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/07/01(水) 15:18:34.13 ID:kLLE5Q4M0
( ^ω^)(・・・どんな話だったかお)

随分と前に読んだので、話の内容を忘れてしまった。・・・その方が楽しめるか。
べ、別に、記憶力がないわけではないのだお! 鼻を鳴らせて、ブーンは寝転んだ。
そうして読み進めていると、ツンが部屋に顔を出した。ツンはブーンに注意をする。

ξ゚听)ξ「何ですか! お兄様、だらしのない格好で。きちんと座ってください」

( ^ω^)「うーん。それは確かに言えてるお。仕方ないね」

ブーンは身体を起こして姿勢を正した。妹の言葉だけは、よく聞く男である。
栞代わりに親指を挟んで本を閉じ、ブーンは扉の側に立つツンを見遣る。

ξ゚听)ξ「材料が足りないので、急いで街に行ってきます。お兄様は留守番をお願いします」

( ^ω^)「なに? ツンが街に出なくても良いお。僕が買いに行ってやる。
       もしかしたら君を口説こうとする、不届きな輩が居るかもしれない」



21: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/07/01(水) 15:19:33.81 ID:kLLE5Q4M0
果てしなく過保護なブーンがお使いを買って出るが、ツンは即座に拒否をした。

ξ゚听)ξ「お兄様にお任せしたら、きっとおかしなことになりますわ。
       いつでしたか。紅茶の葉を頼んだのに、ゲーム機を買ってきましたよね。
       最新式の。どうすれば、そんな事態になるのですか? ゲームをしないのに」

(;^ω^)「う・・・」

ブーンは言いよどんだ。ツンが言った通り彼は、頼んだものとは別なもの買ってくる。
それはまだマシな方で、時には何も買ってこない場合もある。これでは信頼を得られない。
ツンは、ブーンの言葉を待たずに出て行ってしまった。一人になったブーンは肩を落とす。
悄然とした気持ちで、再び本を読み始めた。三十分ほど経つと、玄関の方が騒がしくなった。
デレが帰ってきたのだ。カチカチと、飼い犬の爪が廊下を鳴らす音が近付いてくる。
やがて、ブーンに似た顔をした犬と、ふわふわとした髪の毛が可愛い女性が部屋に入って来た。

ζ(゚ー゚*ζ「ただいまですのー! クドちゃんが途中で疲れて大変でしたの」

(U^ω^) わんわんお。 (小型犬に、何キロも歩かせないでよね)



23: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/07/01(水) 15:20:27.93 ID:kLLE5Q4M0
デレはブーンの元に寄ってきて、彼の膝の上に乗った。甘い香りが彼の鼻腔をくすぐる。
女性はどうして、良い匂いがするのだろうか。ブーンは本を置き、彼女を抱き寄せる。
服と服がこすれあう。ブーンがデレの首筋に口付けしようとするがしかし、抵抗された。

ζ(゚ー゚*ζ「だあめ! ツンさんがいらっしゃいますの」

( ^ω^)「ツンなら、街に買い物に行ったお」

ζ(゚ー゚*ζ「そうですの? でも」

昼間からは――。と言いかけたデレだったが、首に腕を回されて引き寄せられた。
ブーンはデレの雪のように白い首筋に、舌先を這わせる。温かな感触に、デレの肩が震える。
一分間。執拗にそうしたあと、ブーンは首から顔を離した。彼は確認のために、顎を上げた。
ブーンの首に腕を回し、きつく抱きしめているデレは頬を赤くして、瞳にうすら涙を浮かべている。
きちんと感じてくれているようだ。高鳴る胸の鼓動を抑え、ブーンは彼女をソファに寝転ばせた。
口に手を添えて緊張の面持ちのデレに馬乗りになり、ブーンはスーツを脱ぎ始めた。



25: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/07/01(水) 15:22:24.35 ID:kLLE5Q4M0
これから二人がすることは決まっている。未来にまで子孫を残そうとする、神聖な生殖行為である。
はたして、身体の形は同じだが厳密にいえば存在が違うので、子供が出来るのかは分からないが。
・・・そのようなことは構わないのだ。人間と影との違いなんて、二人には些細な問題である。
スーツを脱いだブーンは、デレに熱い口付けをした。彼女は瞼を閉じて、身体を強張らせる。
ああ。とうとう閲覧注意になってしまう。なるたけ避けたかったのだが、なってしまうのです。
ブーンは彼女のあまり発達をしていない胸に手で触れながら、耳元でささやきかける。

( ^ω^)「僕はデレを愛しているお。死ぬまで、ずっとね。
       でも、僕が死んでしまったら、僕の愛はどうなるのだろう。
       ・・・君の方がずっと長生きだ。死の概念なんてないのかもしれない。
       考えると無性に怖くなるのだお。だから、僕は愛の形を残しておきたい。
       つまり、僕とデレの子供を作るのだお。それなら、永遠に愛は残る」

ζ(゚ー゚*ζ「ブーンさん」

デレは、身体の抵抗を全て解いた。あとはブーンの行動に身を委ねた。
二人の性行為は、各々の一風変わった性格があらわれていて、非常にねちねちとしている。
まず、前戯には時間をかけ、最中にも時間をかけ、それから後戯にも時間をかける。
その中でも、特に入念にしているのは後戯である。これは男女の関係を保つ上で重要な
スキンシップの内の一つである。ブーンがデレをどれほど愛しているかが窺い知れる。
大体の男性は、性行為のあとは眠ってしまうものだ。仕方がないけど、だらしないものだ。
それにしても、この程度の描写ならば大丈夫だろう。・・・・・・んふ。セーフでしょう。



27: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/07/01(水) 15:24:09.77 ID:kLLE5Q4M0
一時間が経過し、二人はセックスを終えた。デレはシャワーを浴びに行っている。
ブーンは未だ興奮冷めやらない表情で、ソファに座って余韻に浸っている。

(U^ω^) わんわんお。 (そのはしょり方、イエスだね)

人知れず、クドリャフカは早い段階でメタ的なことを思った。彼女はブーンの足元に居る。
丸まって、壁を見つめている仕草が可愛らしい。ブーンに似ていなければの話だが。
ブーンは肥えた飼い犬を、両手で抱き上げて膝の上に乗せた。小型犬の重さじゃあ、ない。

( ^ω^)「む。クド、また痩せたかお? まさか病気ではあるまいね」

(U^ω^) わんわんお。 (実際は、二キロくらい太ったんだけどね)



28: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/07/01(水) 15:25:13.23 ID:kLLE5Q4M0
茶色い毛並みを、ブーンが撫でる。太ってはいても、犬の手触りは気持ちの良いものだ。
ゆるやかに時間が過ぎる。壁にある、からくり時計の鳩が二度鳴いた。二時になったのである。
ツンはまだ帰って来ない。まさか、本当に軟派な男に声をかけられてしまったのではないか!
黒々とした不安が湧き上がる。「こうしてはいられない!」、とブーンは腰を上げた。
自分も街に出て、ツンを追いかけるのだ。見付けられるかは知らないが、黙ってはいられない。
暴風のように廊下を駆け、玄関の扉を開ける。すると、丁度ツンが目の前に立っていたのだった。

ξ゚听)ξ「・・・どうしたのです?」

ブーンは、口を結んでいない風船の如く萎んで、ゆるゆると地面に崩折れた。
杞憂だったのだ。この時のブーンの安堵感といったら、途方もないものであった。
彼はスーツに付着してしまった土埃を、気持ち悪そうに何度もしつこく払って立ち上がる。

(;^ω^)「ツンの帰りが遅くて心配になって、探そうとしていたのだお!」

ξ゚听)ξ「それはすみません。久々に街に下りたので、日用品も買っていたのです」

「ほら」、と言って両腕を上げる。ツンは、満杯になって膨らんだビニール袋を持っている。
かなりの重量がありそうだ。妹は重い荷物を持って、街から自宅への坂を登ってきたのか!
ブーンはくっと涙を堪え、荷物を持ってやった。彼女はとても甲斐甲斐しいのである。



29: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/07/01(水) 15:26:10.03 ID:kLLE5Q4M0 ?PLT(15125) sssp://img.2ch.net/ico/nagato.gif
さてさて。それから更に時間は流れ、夕方の五時になった。ショボンはまだ来ない。
食堂にて傲岸不遜なブーンは、待たされて苛々としている。ショボンは凡百な人間である。
人間であるからには、肝臓の機能の限界に従うべきだ。アルコールが抜けるのには時間がかかる。
彼は、内藤邸に来るときは自動車を用いるのだ。飲酒運転をしてはいけないのは明らかだ。
それでも、長い時間待つのは気に入らない。さっさと、来たまえよ。呑んだくれボーイ。

(#^ω^)「ツン! 紅茶のおかわりを頼むお!」

ξ--)ξ「ご自分で淹れてくださいよね。・・・・・・ちょっと待っててください」

ため息とともにツンは腰を上げた。本当に自由奔放な人間だが唯一の兄なのだ。
彼女はブーンに紅茶のおかわりを入れて来てあげようと、キッチンへと足を運ぼうとする。

\ζ(゚ー゚*ζ「あ。あたしもお手伝いしますの」

デレが元気よく手を上げたがしかし、ツンは「結構です」と、つんとした態度で断った。
その様子を横目で見ていたブーンは、頬杖をつく。この二人の状態を解決せねばなるまい。
そのためにショボンを呼んだのだけれど。遅いなあ! 僕を待たせるなんて、大したやつだ!
怒りが頂点にまで達したブーンが、不気味に笑う。怒りが有り余った分は笑顔と化すのだ。グフフ。



31: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/07/01(水) 15:27:08.33 ID:kLLE5Q4M0
( ^ω^)「ふふ。こうやって待ちくたびれるのも、たまにはいいね!」

ζ(゚、゚;ζ「目が笑っていませんの。ショボンさんなら、その内に来られますの」

( ^ω^)「その内ねえ。あと三十分して来なかったら、絶対に許さないお!」

三十分以内に、ショボンは内藤邸に来た。正確にいえば、二十九分後に訪れたのだった。
これはどう扱えば良いのだ。釈然としない面持ちで、彼はショボンの車を誘導した。
駐車スペースに車を止めると、ショボンはドアを開けて姿を見せた。いつもの服装である。

(´・ω・`)「やあやあ。遅くなってごめんね。君のことだから、きっと怒っているだろう。
      『あと数分で来なかったら許さない』、とか数分前に言っていたに違いないね」

( ^ω^)「三十分を限度に、二十九分後だお。君はギリギリだったのだお。だが、僕は許さない」

(´・ω・`)「おお。そんなにも猶予をくれたのかい。君も心が広くなったもんだ」



34: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/07/01(水) 15:29:54.09 ID:kLLE5Q4M0
ショボンが内藤邸の中へと通される。相変わらず、広々として優美な空間だ。
内藤邸は二階建ての洋館である。複雑な構造はしていない。内部の説明はとても簡単だ。
玄関ホールから東西に、廊下が伸びているだけだ。それでも、部屋は一つ一つが広い。
廊下の両側に部屋があって、ブーン達――三人と一匹が住むには巨大過ぎる建物である。

ξ゚听)ξ「こんにちは。遠いところまで来ていただいて、申し訳ありません。
      また兄が馬鹿なことを考え付いて、ショボンさんを呼び出したのですわ」

玄関ホールで待っていたツンが、挨拶をする。彼女特有の棘はなく、流麗な物腰だった。

(´・ω・`)「ツンちゃん。お久しぶり。前に会ったのは確か、十月の中旬だったね。
      ブーンとデレさんの結婚式さ。いやあ。あれから仲良くやっているかい?」

ショボンが訊ねるが、どうにも話が長くなりそうだ、とブーンは頷くだけにした。
クーが長くて冷淡とした物言いならば、ショボンは長くて粘着質なのである。
玄関で長話などしていられない。ブーンは早々に、友人を自室に招き入れることにする。

ξ゚听)ξ「あら。応接間でお話をするのではないのですか?」



36: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/07/01(水) 15:31:21.46 ID:kLLE5Q4M0
自室へとショボンを連れて行こうとする兄を見て、ツンが呼び止めた。

( ^ω^)「この男に応接間を使うなんて勿体ない。僕の部屋で充分だお。
       ああ。そうそう。僕はこれからショボンと大事な相談をするから、
       部屋に入る際はノックを確実に頼むお。デレもツンと一緒に居てくれお」

ζ(゚ー゚*ζ「? はいですの」

ξ゚听)ξ「大事な相談、ですか?」

(´・ω・`)「二人きり・・・。はっ!? まさか僕の身体が目当てじゃないだろうね。
      勘弁してくれよ。僕は女性に興味はないけど、男にも興味がないんだよ」

(#^ω^)「気色の悪いことを言うなお! 僕も男色の気はないお!
       ・・・ともかく、大事な話だからくれぐれも入って来ないように!」

ξ゚听)ξ「はあ。あ、ショボンさん。今夜は、夕食をお出しいたしますので」

ブーンは「はいはい」と手を振って、ショボンを連れて玄関ホールをあとにした。



37: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/07/01(水) 15:32:02.41 ID:kLLE5Q4M0
( ^ω^)「さて。君はそこらへんの椅子に腰をかけてくれお」

ブーンの自室は、西側の廊下の一番奥にある。以前片付けたのに、また汚れてしまっている。
整理整頓の技術を会得するのは、彼には一生不可能だ。ショボンは近くにあった椅子に腰掛けた。

(´・ω・`)「それで、何の用なんだい? 大事な話があるらしいけど」

( ^ω^)「おっおっお。それはね――」

思わせぶりに言って、ブーンは窓の側に立った。夕日の光線が、彼の輪郭を明るく浮かばせる。
後ろ手を組んで、遠くを流れる巻積雲(いわし雲)を眺める。そして、彼は静かに口を開いた。

( ^ω^)「・・・僕が見るに、ツンはデレを嫌っている。デレが影だからだろうか。
       しかし、デレは良い人だお。影ながらも、そこいらの人間より良い人格だお。
       ツンにはデレと仲良くして欲しいのだお。だからね。僕は君を呼んだのだお。
       何か案を考えて、二人の仲立ちをするのだ。分かったかお? ショボン」

(´;ω;`) ブワッ



38: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/07/01(水) 15:32:49.96 ID:kLLE5Q4M0
ブーンの慈愛に満ち満ちた言葉を耳にして、ショボンは大げさに涙を流した。
振り返ったブーンは、彼が泣いている姿を見て吃驚した。何が友人の琴線に触れたのだ。

(;^ω^)「ど、どうしたのだお!? 目に、馬鹿みたいにでかいゴミでも入ったのかお?」

(´;ω;`)「いいや。僕の目に入ったのは、一回り成長したブーンの姿だよ。
      あんなにも屑みたいな人間が、他人を心配するなんて・・・。泣ける話じゃないか。
      良いとも、良いとも! 地球は愛で廻っている。僕も君の手伝いをしてやろう」

ショボンは了解してくれたが、言葉の間にとんでもない卑語がありやしなかったか?
ブーンが思い出そうとするが、ショボンの泣き顔で全ての記憶を吹き飛ばされていた。
・・・まあ、良いや。悠然と両腕を広げ、ブーンは考えていた計画を披露する。

( ^ω^)「ジョルジュが住む街。“キジョ”で、クリスマスに催し物があるそうだお」

(つω・`)「ひっくひっく。そうだね。目抜き通りにイルミネーションを飾るらしいね」



39: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/07/01(水) 15:33:53.50 ID:kLLE5Q4M0
ショボンもニュースを観て知っていた。それならば、話は早い。ブーンは要点だけを口にする。

( ^ω^)「イブの日に、ツンとデレをそこに連れて行こうと思うのだお。
       キジョに行くには、電車か車しかない。・・・僕は電車が大嫌いだお。
       ゆえにショボン。君の車に乗せて欲しいのだお。把握してくれたまえお」

ブーンは、母親を電車の脱線事故で亡くしている。十数年も昔に、平和なビップで起こった
数少ない凄惨な事件だった。乗車していた人間が多くはなかったのが不幸中の幸いではあるが、
そんなことは関係ない。母親を電車事故で亡くした。だから、彼は電車を忌み嫌っている。

(´・ω・`)「ふうむ。僕は一人身だし、確かにその日は暇だよ。しかし、
      ツンちゃんとデレさんを都会に連れて行って、どうするんだい?」

( ^ω^)「打ち合わせをしておいて、二人っきりにさせる時間を作るのだお。
       二人だけになれば、話をする他はあるまいお。ううん。僕って賢いお」

言い終え、ブーンは椅子に座った。居丈高に足を組んで、身体をふんぞり返らせる。
一方、ショボンはというと、「そんなに上手く行くのかなあ」と首を傾げている。
ブーンの言っていることは、理想だけがやたらと高く、緻密な計算がなされていない。



40: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/07/01(水) 15:34:59.74 ID:kLLE5Q4M0
( ^ω^)「勿論、君は了承してくれるよね!? 友人の頼みなのだお」

こういうときだけ調子の良いことを言い、ブーンはにやにやと笑う。
ショボンは腕を組んで一頻り考えてから、彼に視線を真っ直ぐに遣った。

(´・ω・`)「まあ、構わないよ。君が珍しく他人を思っているのだから。
      それに、うん。“友人”の願いは断ってはいけないしね。ふふふ」

たまには友人の頼みを素直に聞いてあげるか。ショボンはブーンの話しに乗ることにした。

(*^ω^)「実に素晴らしい。これでツンとデレを仲良くさせられる。ううん。
       さすがはショボン。僕の引き立て役を、担っているだけはある」

おもむろに、ブーンは立ち上がった。窓から射し込む光は、先ほどと比べて弱くなっている。
夕空が終わり、夜空がやってくるのだ。空は黒色と橙色が入り混じって、紫色に染まっている。
夕日は最後の力を振り絞って、暗がりの部屋で座るショボンの顔をおぼろげに映し出した。
その光が消えれば、これから数時間は部屋は漆黒に包まれる。ブーンは電気を点けようとする。
パチン。スイッチが押されたからには、部屋の様子が鮮明になる。再度、彼は椅子に座った。



41: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/07/01(水) 15:35:41.56 ID:kLLE5Q4M0
( ^ω^)「ショボン。前々から聞こうと思っていたのだけれどね。
      君はどうして拳銃を持っていたのだお? 須名邸での話だお」

(´・ω・`)「・・・・・・単なる護身のためだよ。それに――――」

ショボンは、作務衣の大きなポケットに手を入れた。姿を現せたのは、一丁の拳銃である。
回転式の拳銃だ。リボルバーと呼んでもいい。彼はそれを握り、自らのこめかみに銃口を当てた。
撃鉄が引き起こされ、射撃準備が整う。ショボンの細い人差し指が、トリガーに触れる。

(;^ω^)「な、何を」

何をしているのだ。慌てて、ブーンが手を伸ばす。すると、カチリと金属の音がした。

(´・ω・`)「エアソフトガンなんだよ。弾も装填されていない」

銃が下ろされ、ポケットの中に仕舞われた。ただの遊戯銃だったのか。
ブーンは安堵して、椅子にもたれた。とんでもないジョークを飛ばす男である。



43: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/07/01(水) 15:36:21.63 ID:kLLE5Q4M0
(;^ω^)「君ねえ。笑えない冗談はよしたまえお。心臓に悪い・・・」

(´・ω・`)「ブーンがそんなに驚くとは、すまない。最近は、物騒な世の中だからね。
      玩具の拳銃でも、役に立つかなって思ってさ。ほら、僕って痩せぎすだろう。
      喧嘩は苦手だし、何らかの武器でも持たないと、襲われたらひとたまりもない」

( ^ω^)「ふん。君なら、どんな奴でも負かしてしまいそうだがね」

(´・ω・`)「そんな事はないよ。昔は荒くれだったけど、今は無害な人間なんだ。
      ほら。見てよ。僕の腕を。筋肉が削がれきっているじゃあないか」

ショボンは、藍色の服の袖をめくって腕を見せ付ける。腕の皮膚には骨が浮かんでいる。
確かに、これだけ貧弱ならば喧嘩では勝てないだろう。口喧嘩では圧勝出来そうではあるが。
それからしばらくして、ツンやデレの話題をブーンがしていると、ノックの音が聞こえた。
もう部屋に入れても良いだろう。ブーンが返事をすると、ツンが紅茶とお菓子を持ってきた。



44: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/07/01(水) 15:37:24.21 ID:kLLE5Q4M0
ξ゚听)ξ「失礼します。つまらないものですが、どうぞ」

ツンはデスクの上に、紅茶の入ったコップと、クッキーが散りばめられた皿を置いた。
紅茶もクッキーも温かい。作り立てなのだろう。二人は腰を上げてコップを手に取った。

( ^ω^)「これはね。ツンが、街に買い出しにまで行って作られたものなのだお。
       感謝したまえ。ツンの手料理を食べるのを、君だけは特別に許してやる」

そう言って、ブーンは感謝の“か”の字もなく、ボリボリとクッキーを貪り食う。
ツンは笑顔で、無作法な彼の臀部をつねった。クッキーの欠片が口から噴き出される。

(;^ω^)「ぶひいっ!? ツン! 何をするのだお!」

ξ゚ー゚)ξ「はしたない召し上がり方は、よしてくださいな」

微笑んでいるのに、何故か怖い。ブーンはぞくっと背筋を凍らせた。

ξ゚听)ξ「お話は済んだのですか?」



46: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/07/01(水) 15:38:04.48 ID:kLLE5Q4M0
( ^ω^)「うむ。有意義な時間だったお。ねえ? ショボン」

(´・ω・`)「まあね。ブーンにしては、まともな話だった」

( ^ω^)「君の言葉は、いちいち僕の癇に障るお。一言多いのだお」

ξ゚听)ξ「そうですか」

ツンは話の内容を訊ねなかった。男同士でしか話せない話題も、世の中にはあるのだろう。
ショボンさんも嫌そうな顔をしていないので、きっと、本当にまともな相談だったんだわ。
思い、ツンは納得した。そして彼女は、二十四日に密談の内容の一端を知るのだった。



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