( ^ω^)奇人達は二十一グラムの旅をしますようです
- 198: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/07/01(水) 17:39:04.62 ID:kLLE5Q4M0
- ―6―
果たして、天国は存在しているのだろうか。単なる絵空事なのでは無いのだろうか。
実際あったとしても、このような暗闇では無い筈だ。呆然と、トソンは真っ暗な道を歩く。
(゚、゚トソン「・・・・・・」
今、自分は何処を歩いているのか。行くあても無く、トソンは疲弊した足を引き摺るように歩く。
あの青年の言葉は間違いだったのだ。真実は、誰も待ってはいやしない、前後左右が不明な道だ。
今更後悔していても仕方が無い。現世で散々と悪態をついた自分には、此処がお似合いである。
トソンは、その場に両膝をついて屈みこんだ。彼女は、数時間と道なき道を歩んでいたのだった。
そろそろ力の限界である。彼女は、全身をどさりと地面に預けて、ただ朽ちていこうとする。
(-、-トソン「冷たい」
トソンは手に持っている手紙を握り締めて、意識を閉ざした。何時間そうしていただろうか。
ふと、彼女は何者かの唸り声を聞いた気がした。そっと瞼を上げて、彼女は耳を澄ませる。
すると、やはり言葉では言い表せない唸り声が聞こえた。彼女は慌てて、身体を起こした。
あれに喰われれば、自分が虚無になってしまう! どこに、そのような力が眠っていたのか。
一心不乱にトソンは駆ける。何度も足がもつれ転びそうになっても、彼女は走り続けた。
- 200: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/07/01(水) 17:41:07.51 ID:kLLE5Q4M0
- しかし、いつまでも体力が持つわけではない。トソンはとうとう精根尽き果ててしまった。
背後ではあれが、牙を光らせている。一歩、また一歩、近付いてくる。トソンは気が狂った。
( 、 トソン「はははははは! もう、どうにでもなってしまえ!」
すぐ後ろにまで、あれが来た。巨大な口を広げ、トソンを丸呑みにしようとした――。
しかし、そんな場所に現れたものが一人あった。小心者のあれは驚き、闇へと戻っていった。
从 ゚∀从「ハーッハッハッハイーンリッヒ! やあやあ! ハイン様の登場だ!」
奇声を発して、崩折れるトソンの前にハインが現れた。彼女はトソンを抱き起こす。
( 、 トソン「・・・・・・貴女。どうして此処に居るの? 貴女は何も悪い事をしていないでしょう」
息も絶え絶えにトソンが訊ねると、ハインは「ちっちっち」ときざに指を振って答えた。
从 ゚∀从「何を仰られるやら、ご主人様。俺達、死後の給金を頂いてませんぜ。
これはこれは、何とも放っておけません。地獄の沙汰も金次第らしいですし」
(゚、゚トソン「そう。でも、私はお金など持っていませんよ。・・・他にも誰か居るのですか?」
- 201: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/07/01(水) 17:42:46.83 ID:kLLE5Q4M0
- ハインは「俺達」と言ったのだった。彼女はトソンを立ち上がらせると、右腕を振って合図した。
闇の中から、背が低く小太りの男性と、長身で細身の男性が現れた。あの癖のある兄弟である。
(*´ω`*)「早くこんなところ出たいよう。真っ暗で、おまけに変なのもいるし。
天国で、おまんじゅうみたいにまるくてかわいい男の子を探すの」
( ゚ω゚ )「お断りします」
从 ゚∀从「おう! ノッポ。ご主人様を背負うんだ。暗闇を本気で駆け抜けるぜ、イエーイ」
オッコトワーリは今度ばかりは断らずに、トソンを背負った。それから、一同は走り始めた。
どこまで駆けても闇だ。身体が上下に揺らされるトソンは、不思議な気持ちで口を開いた。
(゚、゚トソン「何故、私を助けるの。私は生前、アナタ達を馬鹿にして来たでしょう?」
从 ゚∀从「ずっと長い事、一緒に居たでしょう。俺はそれだけで充分ッス!」
(*´ω`*)「ご主人さまがやとった、若い男の子をたくさん食べることができましたあ」
( ゚ω゚ )「お断りします」
- 202: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/07/01(水) 17:43:56.56 ID:kLLE5Q4M0
- 皆、おどけた口調で返答した。丸川だけは本気かもしれないが、とても人情味が溢れている。
素晴らしい人材に恵まれていたのだ! この三人はこんなにも、頼りになる人間だったのだ。
トソンの頬に一筋の涙が伝う。ふと顔を後ろに向けるとハインは、苦虫を噛み潰した表情をした。
从;゚∀从「やっべえ! また来やがったぞお!」
あれが再び闇から姿を現した。正体不明の唸り声を上げて、走るハイン達を追いかける。
从#゚∀从「よし! お前ら、必殺技を使うぜ!」
(*´ω`*)「ひっさつわざ? なにそれ。あれをたおすの?」
丸川が訊く。すると、ハインは腕を力強く振り上げて、腹の底から大声を出した。
从#゚∀从「もっと本気で走るんだあああああああーーーーーーー!!」
(;*´ω`*)「いや。なにそれ」
(-、-;トソン(・・・・・・)
- 203: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/07/01(水) 17:44:41.07 ID:kLLE5Q4M0
- もっと本気を出して疾走する三人。まだまだ闇、かと思いきや、トソンはとあるものを見付けた。
まるでジグソーパズルが欠けたかのように、上方の暗闇に小さな白く輝く部分があるのだ。
それは、進むにつれて数を増していき、散在するようになる。光だ。トソンが小さな声を出した。
ここは深い森の中なのだ。その証拠に、白い部分の隣では黒が揺らめいている。風がそよいでいる。
(゚、゚トソン「綺麗」
真っ暗だった四方が、淡白く変わって行く。まるでトソン達を導き、祝福しているようだった。
四人を追いかけていた者も、いつの間にか居なくなっている。それでも三人はひた走る。
遅れてしまった時間を取り戻すのだ。森に太陽光が射し込み始めた。出口まであと少しである。
邸ごと動かせて、世界中を旅をしても終ぞ見付からなかったものが、もうすぐ手に入る。
从;゚∀从「見えたぞ! もう少しだぜ!」
ハインが叫んだ。遥か前方に、丸く縁取った白光が見える。ハイン達の速力が上がった。
ようやく、四人は煉獄という名称を持つ深い森を抜け、天国へと到達するのであった――。
从 ゚∀从「ッ! 俺様、いっちばーん!」
闇が晴れる。柔らかな草花が、勢い良く飛び込んだハインの身体を優しく受け止めた。
続いて、丸川とオッコトワーリとトソンの三人も森を抜ける。トソンは景色を見渡した。
抜けるような青空。その下では風が穏やかに流れ、ありとあらゆる草花が咲き誇っている。
- 205: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/07/01(水) 17:45:36.85 ID:kLLE5Q4M0
- 从;-∀从「もう、向こう一年間は走りたくねえッス」
(;*´ω`*)「僕もだよお・・・」
ハインと丸川が、大の字になって地面に寝転ぶ。トソンは二人のさまを叱りはしなかった。
身体の出来が違うオッコトワーリに背負われながら、彼女はじっと大草原を眺めている。
ここが天国なのか。邸で内藤という青年が言ったことは、本当に正解だったのである。
では、此処に主人がいるのか。トソンが不安そうにしていると、オッコトワーリが指差した。
( ゚ω゚ )9m「あれを」
初めて、オッコトワーリが普通の言葉を喋った。一瞬驚き、トソンは指の指し示す方向を見遣る。
遥かに遠い。そして、視力も悪い。だけれども、トソンには最愛の人間の姿だとすぐに分かった。
モララーが、過去の使用人達を後ろに控えさせて立っている。あの丘の上で、待ってくれている。
(;、;トソン「あ、あ、あ――」
- 206: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/07/01(水) 17:46:20.45 ID:kLLE5Q4M0
- トソンの全身から力が抜け、握られていた手紙がするすると抜け、風に運ばれて行った。
ハインがむくりと身体を起こして、中指を突き立てる。彼女はお怒りのご様子だ。
从#゚∀从「ペニサス。待っていやがれ。今から、ぶん殴りに行ってやる」
よろよろと立ち上がり、ハインは寝転んだままの丸川の手を掴んだ。不承不承彼も立つ。
(*´ω`*)「ああ。足ががくがくだよ。もうちょっと、寝かせておいてくれよ」
从 ゚∀从「天国にも、良い男の子が居るかもしれんぜ?」
(*´ω`*)「さあ、行こう」
四人はゆっくりと進む。約束通り待ってくれていた、先に逝ってしまった者達の元へ。
その後どうなったかは、彼女ら以外に知る者は居ない。ただ、幸せになったのは確かだろう。
風に連れ去られた手紙が、木の枝に引っかかり翩翻している。それには、短くこう書かれている。
“ずっと、君を愛している。”
- 209: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/07/01(水) 17:49:34.37 ID:kLLE5Q4M0
- ――。
あの後。ブーン達はからくり時計の窓へと吸い込まれ、無事に現実世界へと戻る事が出来た。
トソンの思い出が詰まったあのからくり時計こそが、夢から現実への出入り口だったのだ。
( ^ω^)「はあ」
ζ(゚ー゚*ζ「ブーンさん。どうしたんですのー?」
ブーンは車の後部座席に座り、さきほどからずっと、ため息を何度も繰り返している。
トソンとモララーの愛を知った彼は、自分のデレへの想いが負けている気がしてならないのだ。
何かラブロマンス映画を観せられた気分である。心が空虚になって仕方がないのだった。
「はあ」。百度目くらいのため息を聞いて、ショボンがバックミラーに映るブーンに声をかけた。
(´・ω・`)「ヘイ。桃色吐息ボーイ。ちょっと、気が散ってしまうんだけど」
ξ゚听)ξ「まあまあ。今は、お兄様の好きなようにさせてやってくださいな」
- 211: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/07/01(水) 17:50:35.61 ID:kLLE5Q4M0
- (´・ω・`)「おお?」
ツンちゃんが、僕を制止させる事もあるんだなあ。ショボンはいささか目を丸くした。
(´・ω・`)「ふむ。茂良邸で何かあったようだね。あとで話を聞かせて貰おうかな。
聞かせて貰うのは本当に良い。だって、僕が危機に直面せずに楽しめるからね」
ショボンは運転に集中する。結局、キジョに着くまでの数時間、ため息が止むことはなかった。
長岡夫妻が住むマンションの地下。ショボンは、友人が使用しているスペースに車を停めた。
ジョルジュは気を利かせて、別な場所に車を停めてくれているのだ。きっと、会社に違いない。
何号室だったかねえ。車から降りたショボンが、ジョルジュから送られた葉書で確認していると、
エレベーターが到着を知らせる音がした。エレベーターから、久方振りに合う友人が姿を現せる。
ジョルジュはショボンの奇抜なファッションに目が行ったが、慣れたことなので無視を決め込む。
- 213: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/07/01(水) 17:52:03.10 ID:kLLE5Q4M0
- _
( ゚∀゚)「よう! 俺のおっぱいレーダーが、そろそろ着くんじゃないかと、告げていたぜ!」
いきなり、溌剌とした声で卑猥な言葉を口走った。ジョルジュとはそういう人間なのだ。
ツンは若干引き気味に挨拶をした。ジョルジュは、彼女の胸を凝視しながら頭を下げる。
(´・ω・`)「おっぱいレーダーというか、さっき電話を入れた時間から計算しただけじゃないの」
_
( ゚∀゚)「いやいや。俺のおっぱいレーダーは、最新鋭の潜水艦のソナーを超えている」
ξ;--)ξ「・・・・・・」
ツンはあんぐりと口を開いた。性根は良いのだけど、本当に変わった人ね。それも悪い意味で。
呆れた様子ツンを見て、ジョルジュは“そう言えばあの馬鹿兄はどうしたんだ”と、思った。
_
( ゚∀゚)「あれ? ブーンは来てねえの? あいつが来るって言い出したんだろ」
(´・ω・`)「それがねえ。愚図って、車からなかなか降りてこないの。もう困っちゃう」
- 214: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/07/01(水) 17:52:43.82 ID:kLLE5Q4M0
- _
( ゚∀゚)「なにそれ。突然、幼児退行しちまったのか? しょうがねえなあ・・・」
ジョルジュは車の扉を開け、ブーンを引っ張り出そうとした。しかし、彼の動きが止まった。
ブーンの隣に、見知らぬ女性が座っていたからだ。鼻梁の形が整った、青い瞳の女性が。
_
( ゚∀゚)「・・・・・・あんた、誰?」
ζ(゚、゚*ζ「キミこそ誰ですの?」
_
( ゚∀゚)「まあ、良いか。俺はジョルジュ長岡だ。ショボン達の友人だ」
ζ(゚ー゚*ζ「ああ! 聞いていますの! ほらほら、ブーンさん。長岡さんですよお〜」
デレはブーンの腕を引っ張るがしかし、彼は唸り声を上げて車の外へ出ようとしなかった。
( ^ω^)「放っておいてくれお。僕はもう少しの間、ここでこうしているのだお」
- 215: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/07/01(水) 17:53:19.46 ID:kLLE5Q4M0
- デレが急かしても、ブーンは言う事を聞かない。重症である。だが、次の一言が彼を怒らせる。
肩を竦めたジョルジュが、何気なくデレの胸を見たのだ。そして、本当に小さな声で彼は言った。
_
( ゚∀゚)「ちっせえ、おっぱいだな」ボソリ
ζ(゚、゚;ζ「えっ?」
(#^ω^)「くおらあああああああああ! ジョルジュ、絶対に許さんお!!」
絶叫して、ブーンがジョルジュに襲いかかった。わけの分からないジョルジュは両腕を上げる。
_
(;゚∀゚)「ちょ、おま!? Quieting! Quieting! なに怒ってるんだよ!?」
(#^ω^)「貴様は僕の妻を愚弄したのだお! これからが本当の地獄だお!」
_
( ゚∀゚)「・・・・・・は? なんつった? 誰の妻だって?」
(#^ω^)「デレは僕の妻だお!」
_
(;゚∀゚)「なん・・・・・・だと・・・・・・」
- 217: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/07/01(水) 17:54:30.07 ID:kLLE5Q4M0
- 相手の隠された力が解放されて、絶句した漫画の主人公のような面持ちに、ジョルジュはなった。
さて、一つずつ処理をして行きましょう。ブルーの瞳の可愛らしい女性はブーンの妻だそうです。
ブーンは友人です。その友人はとても変わった性格をしていて、手の付けられない奇人です。
その奇人が妻を娶ったそうです。ジョルジュの脳内処理が終わります。とても速い処理でした。
_
(;゚∀゚)「なん・・・・・・だと・・・・・・」
ジョルジュの言葉は変化しない。事情を知らなければ誰だって、驚いてしまうだろう。
ブーンは彼の胸から手を離した。何だかんだ言っても、彼は人を殴ることを嫌うのである。
( ^ω^)「ふん。デレの目の前だお。今回限りは特別に許してやるお」
_
( ゚∀゚)「やっべえ。びっくりしたわ。いやあ、とうとうお前も身を固めたんだな。
結婚式に呼ばないなんて水くせえ。・・・つーことは仕事もしてんのか」
( ^ω^)「私立探偵事務所を開設したのだお。不倫調査でも申し込むかお?」
_
( ゚∀゚)「やめれ。探偵事務所ねえ。何か事件の一つや二つ解決したのかよ?」
- 220: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/07/01(水) 17:56:18.63 ID:kLLE5Q4M0
( ^ω^)「勿論! 今さっきだって、大きな事件を解決したのだお!」
ξ゚听)ξ「お兄様」
ツンはブーンのスーツを軽く掴んだ。ジョルジュは影の存在を知らない。
知ってしまえば、彼は平和な日常を過ごせなくなる。ブーンは「いかんいかん」と首を振った。
_
( ゚∀゚)「? ・・・ここで立ち話もなんだし、俺の部屋に来いよ。嫁さんも待ちわびている」
(´・ω・`)「おお。そういやあ、もうすぐ子供が生まれるらしいね。男の子?」
ジョルジュの妻は、子供を妊娠している。彼は、少しつまらなさそうな顔で答えた。
_
( ゚∀゚)「いいや。女の子だよ。これじゃあ、成長してもおっぱい談義は出来ねえなあ」
(´・ω・`)「君なら、娘のおっぱいに興味を示しそうだね。やっべ。危険な発言しちゃいました」
_
(;゚∀゚)「あほか! ブーンもそうだけど、お前も相変わらずだなあ・・・」
- 221: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/07/01(水) 17:57:47.53 ID:kLLE5Q4M0
- ほとほと呆れ果てて、ジョルジュはエレベーターへと向かう。ツンとショボンは彼を追った。
ブーンは、遠くなっていくジョルジュの背中を見詰める。彼にはもうすぐ娘が出来るそうだ。
大学校時代と比べて、彼は立派に父親の背中になっていて、ブーンには少し羨ましく感じた。
デレが自分の手を取り、引っ張る。彼女は確実に長生きだ。彼女に永遠の愛を注げるだろうか。
未来にまで愛を伝えられるだろうか。分からない。しかし、一つだけ言えることがある。
“ずっと、君を愛している。”ブーンは一歩、足を動かせた。それから、笑んで舌を出した。
( ^ω^)「なんてね」
ζ(゚ー゚*ζ「?」
いつからセンチメンタルな男になったのだ、内藤ホライゾン。ブーンは気持ちを切り替えた。
これから先がどうなるか不明だが、帰ってからデレへの愛を綴った日記でも、書き始めるとするか。
今は、この一瞬を大切にして行こう。ブーンは天国へと旅立った夫婦に向けて、手を振った。
3:二十一グラムは永遠の愛を求める ver.パライソ 了
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