( ^ω^)奇人達は二十一グラムの旅をしますようです

57: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/07/12(日) 23:03:01.93 ID:Oc1SQ/8c0
―2―

( ^Д^)「はいよ。街に下りたくなったら、我が荒巻タクシー社にご連絡を」

( ^ω^)「ふむ。贔屓にするかどうか、考えておいてやるお」

タクシーが邸前から走り去っていく。運転手の言葉は汚かったが、丁寧な運転がブーンは気に入った。
機会があれば呼び出してやろう。そう考えつつ、ブーンは厳重に構えている鉄の門を開いた。
門から玄関までは結構距離がある。ブーンは、内藤邸の広い庭の景色を見回しながら足を動かせる。
そうしていると、彼は奇妙なものを発見した。木陰に、一輪の背の高い花が生えていたのだ。

( ^ω^)「ひまわり?」

花の知識に疎い人間でも分かるほど印象的な花。太い茎を地面に根付かせたそれは、ひまわりである。
ブーンが住んでいる国でも向日葵は咲くが、もっともっと先の季節のことである。まだ二月なのだ。
ブーンが近くに寄って観察すると、向日葵は頭を垂れており、今にも枯れそうな雰囲気であった。

( ^ω^)(咲く季節を間違えたのなら、当然だお)

それにしても、こんなところに向日葵が咲いていただろうか? ブーンには記憶がなかった。
というか、寒気の中でよくここまで成長をしたものだ。普通ならば中途で枯れてしまうだろうに。
・・・いつまでも雨中で花を見ていても仕方がない。ブーンは踵を返して玄関へと向かって行った。
向日葵の花びらが地面に落ちる。一片の花びらは雨水に流されて、やがて泥にまみれた。



62: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/07/12(日) 23:05:44.37 ID:Oc1SQ/8c0
ζ(゚ー゚*ζ「おかえりなさいですの」

( ^ω^)「ただいま」

ブーンが玄関ホールに入ると、デレが顔を出した。二人は各々の頬に口付け、挨拶を交わす。
邸に戻るまでに随分と時間を要したな。ブーンは、薬が入ったビニール袋をデレへと渡した。

ζ(゚ー゚*ζ「お疲れ様でした。あたしは、すっかりと気分が良くなりましたの」

デレはブロンドの髪の毛に指を通して、くるくると巻いた。指が離れると、ぽわんと髪が跳ねた。
なんという愛らしい仕草! 思わず彼女を抱き締めそうになるが、ブーンには大切な用事がある。
ツンに風邪薬を飲ませなければならない。ブーンはキッチンで水をコップに汲んで、二階へと行く。

( ^ω^)「ツン! お兄ちゃんが薬を買ってきたお!」

ババーン! と二十七歳児は扉を開けた。実際のところ、彼が気分を落ち着かせる薬を飲むべきだ。
ブーンがベッドで寝ているツンに近寄ると、彼女はすうすうと可愛い寝息を立てていたのだった。
これでは起こせない。ブーンが眠る彼女の頬にキスをしようとすると、彼は手で軽くはたかれた。
・・・顕在意識下にではなく、寝ぼけてのことだと信じたい。ブーンは彼女の自室から出て行った。



63: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/07/12(日) 23:06:31.37 ID:Oc1SQ/8c0
ζ(゚、゚*ζ「あらら。ツンさんに、薬を飲ませるのではなかったのですの?」

扉の前ではビニール袋を提げたデレが、不思議そうな表情をして立っていた。ブーンは説明する。

( ^ω^)「ツンは寝ているお。睡眠は病気快復には最高の薬だお。そっとしておこう」

ζ(゚ー゚*ζ「そうでしたの。ツンさんがお起きになってから、お昼ご飯にしましょう」

食事も薬である。ブーンが腕時計を見ると、針は十一時半を指していた。朝から働き通しで疲れた。
雨の所為で身体が汚れてしまっている。彼は休憩をする前に、浴室でシャワーを浴びることにした。

ζ(゚ー゚*ζ「お着替えを置いておきますのー」

ブーンがシャワーを浴びていると、扉の外からデレの声がした。将来、彼女は良妻賢母になる。

( ^ω^)「サンクスだお。デレは気が利く、素晴らしい妻だお」

ζ(>、<*ζ「そんなことはないですの! ブーンさんはお世辞を言いすぎです!」



64: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/07/12(日) 23:07:11.79 ID:Oc1SQ/8c0
コンディショナーを洗い流して、ブーンは浴室を出た。着替えの衣類が手すりにかけられている。
バスタオルで身体の水分を拭き、ブーンはスーツを着た。私服よりもこちらの方が身体に馴染む。
写真・・・それとガムを私服からスーツのポケットに移しておく。ガムは要らないかもしれないが。

着替え終わったブーンは、リビングへと足を運んだ。デレがソファに座ってテレビを観ている。
彼はデレの隣に腰を下ろして、一緒にテレビを観る。テレビ画面にはニュースが映っている。
隣町で火事が起こったらしい。雨天にも関わらず火の回りが早く、大きな被害となったそうだ。

( ^ω^)「つまらん。テレビはつまらないものしか映さないお。捨ててしまおうかお」

ζ(>、<;ζ「だめだめですの! テレビは、あたしの情報発信基地なのです!」

デレがブーンの胸板をぽかぽか叩いて猛反発する。ブーンはため息を吐いて、デレに肩を寄せた。
はて? 彼女に何か言わないといけない気がする。それを思い出して、ブーンは指を打ち鳴らした。

( ^ω^)「そうだお。街に下りたとき、君の知り合いに出会ったのだお」

ζ(゚、゚*ζ「知り合い。もしかして、シューちゃんですの?」



65: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/07/12(日) 23:07:45.76 ID:Oc1SQ/8c0
ブーンが頷くと、デレはひどく驚いた。自分の友達は、ブーンが苦手とする性格をしているのだ。
悪い印象を抱いていなければ良いのだけれど。デレは両手を胸の前で合わせて、恐る恐る訊ねた。

ζ(゚、゚*ζ「シューちゃんは、本当に良いコですの。・・・どんな話をなさったのですか?」

( ^ω^)「おっお。デレが心配しなくても、僕は彼女に悪印象を抱いていないお。
      むしろ、好印象だお。シューは素晴らしい情報をもたらしてくれたのだから」

ζ(゚、゚*ζ「情報?」

ブーンはシューがくれた情報を、デレにじっくりと聞かせた。佐藤と渡辺の正体は親子の影だと。
話を理解して行くにつれ、デレの顔付きが鹿爪らしくなっていき、最後には感嘆の声を漏らした。

ζ(゚、゚*ζ「何ということですの。あたし達の目は誤魔化されていたんですの・・・」

( ^ω^)「これからは、慎重に調査をしよう。僕達は二人の影を追うのだお」

ブーンは私服から移しておいた写真を、ポケットから取り出した。佐藤と渡辺が映っている。
ブーンとデレは、この二人の動向を追って、恐ろしい企みを食い止めなければならない。



66: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/07/12(日) 23:08:43.46 ID:Oc1SQ/8c0
ζ(゚、゚*ζ「でも、彼女達はこの街に居るのでしょうか」

( ^ω^)(・・・・・・)

一番の問題だ。茂良邸にも姿を見せたところから鑑みて、二人の行動範囲は広いと思われる。
果たして、無事に彼女らを捕まえられるのだろうか。この街に留まっていてくれれば良いのだが。
ブーンは落ち着かない様子で足を組んだ。テレビではニュースが終わり、天気予報が始まった。

(;^ω^)「明日も雨かお。最近、雨ばかりではないかお。・・・気分が滅入ってしまうお」

ζ(゚ー゚*ζ「あたしは、雨が好きですけどね。街の静かな様子がお気に入りですの」

雨の街は、晴天の日とはどこかが違う。街中がひっそりとしていて、閉ざされた世界のよう。
曇天を映して黒く沈む海。木々は風に揺らされ、ざわざわとささやく。水溜りを雨が打つ――。
デレが歌を口ずさむ。陽気な彼女は、想像力を働かせるとテンションがみなぎって来るのだ。

ζ(゚ー゚*ζ「ららら。久しぶりに、シューちゃんと遊びに行こうかなー」



67: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/07/12(日) 23:09:12.46 ID:Oc1SQ/8c0
デレとシューは仲が良いようだ。二人になると、どのようなやり取りが繰り広げられるのだろうか。
能天気なデレと、マイペースなシュー。憶測の域を出ないが、案外と相性が良いのかもしれない。

( ^ω^)「そう言えば、邸への帰り道に面白いものを見かけたお」

ζ(゚ー゚*ζ「面白いものですの?」

(*^ω^)「そう! フヒヒ! 教えて欲しいかお?」

ζ(>、<*ζ「教えて欲しいですの。もったいぶらないで下さい!」

口を手で押さえて笑うブーンに、デレが抱きつく。このカップルは離れることを知らない。

( ^ω^)「ショボンが花束を持って街を歩いていたのだお。色恋沙汰の匂いがするお!」

ζ(゚ー゚*ζ「まあ! 女性に花束を贈るなんて、ショボンさんは純真なお方ですの!」



70: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/07/12(日) 23:09:50.65 ID:Oc1SQ/8c0
「あの辛辣ボーイにやり返すことが出来る!」、とブーンは楽しそうに自分の膝を何度も叩く。
今度暇があれば密かにショボンのあとを尾行し、誰と懇意にしているか突き止めてやろう。
ブーンは邪悪な笑みを浮かべた。彼は一度やると決めたら、絶対に決意を曲げない男である。

( ^ω^)「ふふふ。公衆の面前で恥をかかせてやる」

ζ(゚、゚*ζ「そんな事をしたら、だあめ。あたし達が仲立ちをさせて頂くのです」

そちらでも楽しそうだ。どちらにしろ、普段の腹いせに、盛大にショボンを馬鹿にしてやるのだ。
ショボンの焦った様子を想像しただけで、ブーンは心地よくなり、デレの膝に頭を置いて寝転んだ。
デレの膝は感触が良く、服から甘い匂いがする。女性の服は、どうして良い匂いがするのだろう。

ζ(゚ー゚*ζ「ややや。ブーンさん、おネムですのー?」

( ^ω^)「今日は疲れたのだお。雨の中を歩くのは、精神力も使ってしまう」

ζ(゚ー゚*ζ「寝てくださいの。ツンさんが起きていらっしゃったら、お知らせします」



71: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/07/12(日) 23:10:46.11 ID:Oc1SQ/8c0
デレがブーンの頭を優しく撫でる。本当にブーンは大きな子供みたいで、デレは嫣然とする。
ふにふにと頬を摘むと、彼は唸り声を出して頬を掻いた。デレには今の幸せが嘘のように感じる。
彼女はこの街にやって来るまで、シューと共に世界中を旅をしていたのだ。影を鎮まらせる旅を。

正直に言って、デレはあまり賢くない。主に影と対峙し、退治していたのはシューの方である。
そして、シューの方が実力がある。彼女は、ブーンの母親と同じく電車事故で亡くなっている。
高校の卒業式前という、人生における華やかな時期に命を落とし、余りある悔恨を背負っている。

パチン。デレはリモコンを操作して、テレビの電源を落とした。リビングが雨の音だけになる。
前述の通り、彼女は雨の日が好きだ。街が静まり、そのまま時間が止まってしまいそうな浮遊感。
「雨がふります。雨がふる」。デレは眠るブーンに聴かせるように、小さな声量で歌を口ずさむ。

ξ*--)ξ「お兄様。いらっしゃるの?」

歌を唄い終えるのと同時に、ツンがリビングに入って来た。彼女は微熱を帯びていて、しんどそうだ。
気だるげにツンが部屋を見回すと、デレの膝を枕にして眠りに落ちているブーンの姿が視界に入った。
本当に自分が入れる隙の無い、仲の良い二人ね。ツンは息を漏らして、デレの側のソファに座った。



73: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/07/12(日) 23:11:34.14 ID:Oc1SQ/8c0
ξ*゚听)ξ「たった数時間ほど街に下りただけで、よく眠っているわね」

ζ(゚ー゚*ζ「ブーンさんは運動不足ですの。ちょっと身体を鍛える必要があります」

くすくすとデレが笑う。ブーンは一日中邸に篭っていることが多いので、完璧に体力不足である。
デレと出会ってから街に下りる回数が増えたので、少しは体力がついたがまだまだ鍛錬の余地がある。
健やかな身体は、日々の暮らしぶりからなるものだ。一日千回は腹筋と腕立て伏せをするべきである。

ξ*゚听)ξ「ああ。家で本ばっかり読んでいるから、視力が落ちる一方だわ」

ツンはテーブルの上に置かれている眼鏡ケースを取って、その中から一本の眼鏡を取り出した。
銀縁の眼鏡を耳にかける。ツンの落ち着いた性格に合っていて、丸みのあるレンズが鈍く光る。

ξ*゚听)ξ「・・・最近はどうなの? お兄様とは上手くやっているの?」

自身が分かりきっていることを、ツンが訊く。彼女は、隠してはいるが兄のことが好きである。
どう答えれば良いものやら。デレは考えあぐねて、声を上擦らせ、言葉に詰まりながら答える。



75: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/07/12(日) 23:12:34.86 ID:Oc1SQ/8c0
ζ(゚、゚*ζ「あ、はい。結構、それなりに上手くやっていますの」

ξ*--)ξ「別に、私の事は考えなくても良いのよ。素直な気持ちを打ち明けなさい」

ツンは気取った感じにブリッジを押し上げた。くいっとね。内藤家の長女としての威厳がある。
デレの方が三歳程度年が上なのだが、気が強いのも相まって、終始ツンのペースになりそうだ。

ζ(゚ー゚*ζ「上手くやっていますの。ブーンさんは優しくて包容力がありますの」

ξ*--)ξ「そう。私はあなたの嗜好を疑ってしまうわ」

その傲岸不遜且つ、まったくやる気の感じられない兄に、どうやってデレは魅力を見出せるのか。
ツンが呆れるがしかし、実際のところ彼女もブーンのことが好きである。隠蔽しているけれどね。
このような時、二つの心が諍いを起こし、ツンに発作らしきものが起こるのである。私は一体・・・。

ξ;゚听)ξ「どういうことなの・・・」

ζ(゚ー゚*ζ「・・・?」



79: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/07/12(日) 23:13:10.69 ID:Oc1SQ/8c0
ツンは両手で頭を抱えて、首を左右に振る。(このままだと)いかん、危ない危ない危ない危ない・・・。
両手で膝を叩きつけて、彼女は勢い良く腰を上げる。そして、虚空を睨みつけながら口を開いた。

ξ*゚听)ξ「お昼ご飯にしましょう。眠ったら体調が少し良くなったし、お昼は私が作るわ」

ζ(゚、゚*ζ「え、でも」

朝食に引き続き、自分達が作る予定だ。デレが引き止めようとするがしかし、ツンは取り合わない。
神経質に右腕を立とうとするデレへと伸ばして、ツンは小さく首を振る。その必要はありません。

ξ*゚听)ξ「私が料理をするわよ。二度も任せたら、腕が鈍っちゃいそうなの」

ζ(゚、゚*ζ「・・・分かりましたの」

ξ*--)ξ「料理が出来上がったら、呼びに来るわ。馬鹿兄を連れて来てちょうだい」

ζ(゚ー゚*ζ「はいですの!」

昼食は、ツンが作ることになった。現在の時刻は十二時半。外では断続的に雨が降り続いている。
デレは照明用のリモコンで、部屋の明かりを消した。灰色が支配した部屋で、デレは歌を唄った。



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