( ^ω^)奇人達は二十一グラムの旅をしますようです

162: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/07/12(日) 23:58:03.12 ID:Oc1SQ/8c0
―5―

('A`)「サイクリング、サイクリング、ヤッホー、ヤッホー♪」

ζ(゚ー゚*ζ「ヤッホー、ヤッホー♪」

( ^ω^)「自転車じゃないだろう・・・」

午後五時半。若干雲が晴れて、夕陽が差し込む中を、ブーン達を乗せた車が山道を走行している。
ドクオの運転はスムーズで、六時ごろにはビップの街へと着くだろう。今日は心底疲れた一日だった。
朝食を作り、薬を買いに街へと下りて、邸へと戻った。それから、事件を解決するために病院へと。

病院に着いてからは、院内探索をして、ショボンとミセリに出会った。あとは友人にこけにされ、
それを鎮めて、最期に兄妹の別れに立ち会った。うわあ・・・。後部座席に座るブーンは肩を竦めた。
なにこの一日。ちょっと最悪が過ぎるのではないか。ブーンは、隣に居るショボンに話しかけた。

( ^ω^)「ヘイ! いつまでも、くよくよするなお!」

(´・ω・`)「ああ」

ショボンは短くそう答えた。ミセリと別れてから、彼はすっかりと意気阻喪してしまっている。
それは当然のことだ。世界でたった一人しかいない妹が、本当に居なくなってしまったのだから。
ブーンはフロントガラスへと目線を向けた。今はもう、向日葵の花びらは舞い上がっていない。



163: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/07/12(日) 23:58:27.63 ID:Oc1SQ/8c0
\('A`)/「すまないが、これ以上は進めない様だ」オワタ

車がショボンの書店付近に到着した。彼の書店までは狭い道が入り組んでいるため、車が通れない。
ショボンは、何者だか分からない変な影に礼を述べて、車を降りた。しかし、彼はドアを閉めない。
何をしているのだ、とブーンが眉を集めていると、ショボンが手招きをした。お前、ちょっと来い。

( ^ω^)「何だお。僕に用事があるようだ。少し、待っておきたまえお」

ζ(゚ー゚*ζ「はあい」

('A`) エエー?

ドクオは至極面倒臭そうにしていたが、彼のことなどどうでも良い。ブーンは渋々と車を降りた。

(´・ω・`)「ちょっと、一緒に家まで来てくれないか?」

( ^ω^)「なんだと」



165: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/07/12(日) 23:58:58.88 ID:Oc1SQ/8c0
ショボンは、自分に家まで着いて来て欲しいのだという。そこまで胸中に寂寞が駆け巡っているのか。
ブーンが断ろうとするが、彼は真剣な眼差しをしている。ブーンはため息を漏らして、ついに折れた。
十五分ほどここで待っているように車内のドクオに告げて、二人は狭い路地裏へと消えていった。

ζ(゚ー゚*ζ「どうしたんでしょう」

('A`)「さてね。男同士で喋りたい事でもあるんだろう」

ブーンとショボンは夕刻の街を歩く。店舗は店じまいをしていて、どこかから夕食の匂いが漂う。
人通りはなく、路地裏には寂寥感がある。ショボンは歩きながら、肩を並べる友人に話しかけた。

(´・ω・`)「・・・すまなかったよ。ブーンには随分と失礼な事を言ってしまった。
      もう君を馬鹿に出来ないね。所詮僕は、手の付けられない不良のままなのさ」

( ^ω^)「ふん。少々のことでは、僕を愚弄した罪は拭えるものではないお」



166: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/07/12(日) 23:59:28.63 ID:Oc1SQ/8c0
自分勝手な憎しみの矛先を向けられたのだ。唇とつんと尖らせて、ブーンは表情を険しくさせた。
ショボンは押し黙る。二人は黙して石畳の道に足音を鳴らして行き、ショボンの書店の前まで来た。
いつ見ても古臭い書店である。元は普通の民家だったが、ショボンが一階を改築したのだった。

( ^ω^)「じゃあ、僕は帰るお。・・・・・・もう、妙な気は起こすなお」

さすがにもう自殺は考えていないだろうが、廃院での一件を思い返して、一応ブーンが忠告をする。
後追い自殺なんてされたら目覚めが悪い。ショボンは「ああ」と頷き、両開きの扉の鍵を開けた。
ブーンはひらひらと片手を振って、踵を返す。すると、ショボンが彼の服を引っ張って呼び止めた。

(;^ω^)「スーツに手垢が付いてしまうだろう! 一体何なのだお!」

ブーンが服の袖を払って、身体をショボンに向けると、ショボンは眉を垂れ下げて言った。

(´・ω・`)「ブーンは病室で、取り乱した僕に“莫逆の交わり”だと言ってくれたね。
      莫逆の交わりとは、非常に親しい付き合いの事を言う。君はそう思ってくれている。
      あの時、とても嬉しくなってね。例え、ツンちゃんの事を受け入れないと答えても、
      許してしまうつもりだったんだよ。あの時点で、僕はブーンに敗北を喫していた訳だ。
      ・・・・・・大穴に落とされてから、君には負けっぱなしだ。やれやれ。参った物だね」



167: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/07/13(月) 00:00:08.91 ID:Ksn+J8FZ0
ブーンはショボンの長話に辟易としているがしかし、今回ばかりは聞いてやる気になった。
ふっと気障に髪をかき上げて、ブーンは顎を上げる。広量なところを見せ付ける場面である。

( ^ω^)「ふふん。君は大河の如く心が広いって言っていたが、僕のほうが広いね!
      君が大河なら、僕は地球規模だお。いやいや。宇宙ほどにあるかもしれない!」

(´・ω・`)「そうかもね。あれだけの暴言を吐いてしまったのに、ブーンは許してくれている。
      どちらが狭量なのかは、自明の理だ。その点に於いても、僕は君に劣っている」

謝り続けるショボンに、ブーンの身体がむず痒くなって来る。気持ち悪くて堪らないのだ。
いつも通りに辛辣な言葉を投げ付けるべきであるが、別にブーンはマゾヒストではない。多分。

(;^ω^)「思ってもいないことを。ショボンはねえ。常日頃のように振る舞えば良い。
      あまり君に持ち上げられると、全身をなめくじ共に這われているみたいだお!」

ショボンは幾ばくか表情を和らげた。そして、ブーンの右手を取って握り拳を作らせる。



168: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/07/13(月) 00:00:38.45 ID:Ksn+J8FZ0
( ^ω^)「今度は何なのだお」

(´・ω・`)「平素通りの付き合いに戻る前に、僕の頬をぶん殴って欲しい。でないと、遣る瀬無い」

(;^ω^)「ショボン!」

叫んで、ブーンはショボンから離れた。彼は不遜な性格をしているが、暴力は非常に嫌っている。
殴ると、当然に相手は苦痛な表情を浮かべる。それが、自分を庇ってくれた母親の顔と重なるのだ。
もう同様なものは見たくない。従って彼は、どれだけ辱められても、暴力は振るわない気概である。

( ^ω^)(・・・・・・)

目の前に佇んでいるショボンは痩せていて、本気で殴ってしまえば気絶してしまうかもしれない。
しかしショボンは、真っ直ぐに眼を彼へと向けていて、殴られるまで帰さない意気込みである。
・・・・・・絶対に殴らない。ブーンは拳を握り締めて、乾ききって水分のない喉に空気を流し込んだ。

( ^ω^)「・・・分かった。よおっく、目を瞑っていたまえお」

(´-ω-`)「ああ」



170: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/07/13(月) 00:01:07.84 ID:Ksn+J8FZ0
ショボンは目を瞑った。視界が真っ暗になる。静寂の中に、ブーンが足を動かせる音が聞こえた。
これからブーンに殴られるのだ。自分なりの贖罪である。ブーンもきっと溜飲が下がるだろう。
ショボンが無意識に衝撃を待ち構える。だがしかし、ふわりとした感触が彼の身体を包んだのだった。

(´-ω-`)「・・・・・・?」

( ´ω`)「親友だからこそ、殴るべきなのかもしれないが、やはり僕には無理なのだお。
      もう馬鹿なことを考えないでくれ。僕は君にまで死なれたら、気が狂いそうだお。
      もしもショボンが居なくなれば、僕が街に下りる大半の意味を失くしてしまう」

ショボンはゆっくりと瞼を開いた。すぐ目の前に、黒黒とした髪が生えたブーンの頭があった。
ブーンは殴り付けずに、ショボンを抱いたのだった。さすがにブーンは男性を触りたくはないので、
身体を引き気味にだが。それでも、親友を抱いたのである。疲労困憊といった表情でブーンは言う。

( ´ω`)「ああ。たとえショボンが何と罵ったって、僕は君をずっと親友だと思っているお。
      一度しか言わないから、よく聞きたまえお。・・・・・・僕は、ショボンのことが好きだ」

(´・ω・`)「ブーン」

ショボンは震える腕を、ブーンの身体に回した。僅かに開いた雲間には、一番星が輝いていた。



171: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/07/13(月) 00:01:36.98 ID:Ksn+J8FZ0
――。

( ^ω^)「うほっ!」

ブーンは奇妙な雄叫びを上げた。公園でいい男を発見でもしたかのような、雄雄しい声である。
食堂で椅子に座るブーンの前に、ビーフシチューが盛られた皿が置かれている。彼の好物なのだ。
時刻は十九時過ぎ。内藤家では夕食の時間だ。すっかりと快復した様子のツンが口を開く。

ξ゚听)ξ「今日は、お兄様がお疲れのご様子ですので、お好きな料理を作りました。
       家事もなさってくれましたしね。明日はデレの好きなパスタを作りましょう」

ζ(゚ー゚*ζ「わあい、ですのー!」

( ^ω^)「主よ、わたしたちを祝福し、云々かんぬん」

十字など切らずに、まったく神に感謝をしていない様子のブーンは、がつがつと食事を始めた。
ツンが呆れる。邸に帰ってきたときの兄はやつれた感じだったが、本当に疲れているのだろうか。
スプーンでシチューを一口だけ喉に流し込むと、彼女は手を休めてブーンに一瞥を遣った。

ξ゚听)ξ「お兄様がご無事に帰っていらしたという事は、影の退治は円満に済んだのですね」



172: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/07/13(月) 00:02:03.30 ID:Ksn+J8FZ0
( ^ω^)「まあね」

ブーンは紙ナプキンで口を拭いて誇らしげに答えた。退治だなんて物騒な代物ではなかったが、
今までのどの事件よりも、神経をすり減らすものだった。ブーンは水を飲んで人心地につく。

( ^ω^)「それよりも、ツン。君の体調は挽回したのかね?」

ξ゚听)ξ「お陰様で。薬を飲んでじっくりと眠ったら、治りましたわ。ご心配をお掛けしました」

( ^ω^)「うむ! 素晴らしいね! ツンは、元気でなければいかん」

ξ--)ξ「それは当然ですとも」

( ^ω^)(もしも)

ツンが死んで影として蘇り、「成仏させてくれ」と頼んで来たら、自分は受け入れられるだろうか。
ショボンをなだめるのに必死で、“受け入れられる”と答えたが、今になって恐ろしくなって来た。

最後まで、ショボンは涙を見せなかった。なんて強い男なのだろう! 彼は脆い所があるが、強い。
スプーンを置いて、ブーンは食事をしているツンの顔を眺める。この世で無二の可愛い妹である。



173: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/07/13(月) 00:02:39.10 ID:Ksn+J8FZ0
ξ;゚听)ξ「な、何ですか? そんなに見られたら、食事が出来ませんわ!」

あまりに熱い視線を自分にくれるので、ツンは身震いをする。だが、ブーンは無言のままである。
無言のままだった。どれくらい喋らなかったかというと、二十一時になるまでそうしていたくらいだ。

( ^ω^)「・・・・・・」

食事は疾(と)うに終わり、食堂は暗くなっている。テーブルには、ブーンの分だけ食器が残っている。
ブーンは両足を伸ばし、椅子の肘掛に手を置いて頬杖をついている。ツンが発狂しそうな姿勢である。
不意に食堂が明るくなる。浴室で身体を洗い終えたデレが、電気を点けたのだ。彼女はパジャマ姿だ。

ζ(゚、゚*ζ「ブーンさん。今日は一緒に寝ないのですの?」

眠たそうに目を擦るデレが、寂しげに訊ねる。「その内に行くお」、とブーンはかすれた声で答えた。
彼女は頷いて、食堂から出て行った。一人になったブーンは、リモコンを操作して食堂を暗くさせた。

しかし、すぐに電気が点いた。忙しい照明である。リビングで寛いでいたツンが、やって来たのだ。
彼女はブーンの前に座り、ブーンのだらしない姿勢に目を細める。ため息を付いて、ツンが口を開く。



174: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/07/13(月) 00:03:15.62 ID:Ksn+J8FZ0
ξ--)ξ「はあ。お兄様はご自由で良いですわね。・・・何か気に入らない事がおありなのですか?」

ツンはブーンを心配して様子を見に来たのだ。けなげな妹。ブーンは座り直して、話しかける。

( ^ω^)「ツンは、僕より先に死んではならないお」

ξ--)ξ「何を突然。私が先に死ねば、お兄様はそれはもう、ご自分の好き放題になさるでしょう。
        死ねませんよ。私はずっと生きて、お兄様を監視せねばなりません。地球の為です」

きっと、風邪をひいてしまった自身を見て、心配をしてくれているのだ。妙なところで繊細な兄だ。
ツンは目を開いて微笑んだ。まだまだ彼女は、死の谷へとは向かえない。兄の保護者をするのである。

ξ゚听)ξ「お兄様の食器をお下げしますわ。もうお食べにならないでしょう」

( ^ω^)「いいや。ツンが作ってくれた料理を、捨てるわけにはいかん。僕は全部食べるお」



175: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/07/13(月) 00:04:45.13 ID:Ksn+J8FZ0
ξ゚听)ξ「そうですか。では、私はそろそろ寝させて頂きます」

( ^ω^)「ちょっと待ってくれお」

ξ゚听)ξ「?」

椅子から腰を上げたツンに、ブーンは腕を伸ばした。それから、腕を移動させて、窓を指差した。
窓が風に叩かれて、がたがたと音を立てている。ブーンが腕を下ろし、静かな声を食堂に響かせた。

( ^ω^)「風が入りたがっている。しばしの間、窓を開けて欲しいお」

兄の詩的な言葉に、ツンは鳥肌が立ったが、言われた通りに窓を開けた。風がツンの前髪を撫でる。
ミセリが屋上の扉を開けたときに、吹き込んで来た風と似ている。ブーンは深く頭を下げて唸った。
そうだ。ショボンはあのとき、そう思ったから、泣かなかったのかもしれない。彼は顔を上げた。

( ^ω^)「“風立ちぬ、いざ生きめやも”」

風が吹いたのだから、生きなくてはならない。例え、妹を亡くして、悲しみに包まれたとしても。
ブーンはふと口を衝いて出て来た詩句を、風をその身に受けながら、口の裡で繰り返したのだった。

                 4:二十一グラムは永遠の愛を求める ver.死のかげの谷 了



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