( ^ω^)ブーンが魔女を狩るようです

186: ◆7at37OTfY6 :2006/11/27(月) 21:57:14.74 ID:OHfQQMSp0
  
第十七話『涙千万』


死に顔は安らか?
そんなバカな、死んだ人間の顔に表情などあるわけ無いだろう。
人間のために殺された牛や豚が笑うわけ無いだろう。


ジョルジュは何の反応もしない。


彼は死んだのだから。


泣くのは残された者だ。
表情をくちゃくちゃにするのは、生きている者だけだ。

クーは慟哭した。

今まで強がってきたのに、どんな時でも泣かないようにって、女だからと言われないように、特別扱いされないようにって。
出来る限り悲しむことも喜ぶこともせず、冷腸冷淡を装ってきたというのに……女性でもジョルジュと並べるようにって。

もうクールに振舞う必要なんてどこにも無かった。

涙を流し、ひたすらに叫んだ。
何も考えたくなくて、ただ叫ぶことでそれらを誤魔化したかったのだ。



187: ◆7at37OTfY6 :2006/11/27(月) 21:59:11.11 ID:OHfQQMSp0
  
ξ;゚听)ξ「クーさん!」

ツンが大きな声で叫んでも、彼女は耳を塞いで叫び続けた。
現実の残酷さに目を背けたかったのだ。
現実からはどうやっても逃げる事が出来無いことくらい分かっている、だからといって『今』を認めろというのか。

( ´_ゝ`)「はは、討伐対のメンバーたるものが随分と弱い心をしているもんだな」

ξ#゚听)ξ「兄者!」

( ´_ゝ`)「おや、本当のことを言ったまでだがな」

兄者を睨む目線を再びクーに戻し、ツンは駆け寄る。

ξ;゚听)ξ「クーさん! 辛いのはわかるけど、そんなでどうするのよ!」

川 ; -;)「……」

肩を揺すると、焦点の合わない目をツンへ向けた。
哀咽し、青い顔をしたクー。



189: ◆7at37OTfY6 :2006/11/27(月) 22:01:07.22 ID:OHfQQMSp0
  
ツンは諦めずに声をかける。

ξ゚听)ξ「兄者をたおそ?
   そうじゃないと何も変わらない、ジョルジュさんだって何のために犠牲になったかわかんないじゃん!」

川 ; -;)「犠牲……なんだ、分かっている、分かっている。だが……分かっているのだが、納得できなくて……。
   今やるべきことは分かっているんだ、戦うべきなんだ。
   だけど……納得できなくて、辛くて……」

また涙が出た。
感情が高ぶる度に、また一粒と涙が流れ落ちる。
恥ずかしい話だ、今まで仲間が死ぬ瞬間に幾度と立ち会ってきたというのに、好きな人が死ぬとこうも脆いのだから。

川 ; -;)「……辛いんだ」

ξ;゚听)ξ「クーさん……」

小さな明かりが、彼女の少量の涙を綺麗に照らす。
静かに項垂れるクーに、誰一人と良い言葉をかけれずにいた。



192: ◆7at37OTfY6 :2006/11/27(月) 22:02:51.51 ID:OHfQQMSp0
  


(´・ω・`)(ジョルジュが……ツンがいるからどうにかなるかと思ったが、そうもいかないか……)

ショボンはチラともう一方の様子を窺うと、すぐに目線を弟者に戻す。
が、その一瞬の隙を弟者が逃す訳がない。

(;´・ω・`)(……いない!?)


直後の腹への鈍痛。

穴が空いたと見まごうばかりの強烈な一撃。
ショボンの腹に拳をつき立てた弟者はそれでも笑みを見せない。
確固たる精神力の強さも彼は兼ね揃えていた。

(´<_` )「……余所見とは、ずいぶん余裕があり過ぎないか?」

(;´・ω・`)「ぐっ……わるいね、自分以上の魔女に会うのは初めてで要領が掴めないんだ……」

(´<_` )「そうか」

すっとつき立てた拳を引くと、さらにもう一発顔面に突いた。
すぐにショボンも防ごうとしたが、それよりも速く弟者の拳はショボンの顔面にヒットした。

血を振り撒き、大きな弧を描いてショボンは吹っ飛ばされた。



193: ◆7at37OTfY6 :2006/11/27(月) 22:04:37.71 ID:OHfQQMSp0
  
(´<_` )「まだ……わからないか? 死ぬ寸前、人生の最期を迎えているということが」

弟者は感情を込めないように、ゆっくりと言った。
心を乱すことだけはいけない、魔女の戦いにおいては初歩だ。

それでも……心など自身でそう簡単にコントロールできるものではない。
弟者はマイペース過ぎるショボンに対し、もどかしさを感じていた。
命乞いでもすればよっぽど『すぐに』殺しただろうのに。

(;メ´・ω・`)(心が動いてしまう、すぐに殺さない……どうやら相当僕は嫌われているみたいだね)

魔女が人間をすぐに殺さないには理由がある。
理由といってもそんな大したものではない、ただ恐怖を味あわせて殺したいだけだ。
魔女の受けた積年の恨みを、痛みや恐怖無く殺してチャラにする気など毛頭ない。

ショボンはボロボロの体に力を入れて立ち上がろうとするが、思うように力が入らない。
鼻血がポタポタと流れ落ちた。

(;メ´・ω・`)(鼻血どころじゃないのになぁ……多分鼻折れてるよ)

悪態つくと、すぐにも弟者と距離をとる。

(;メ´・ω・`)(できればこの上で更に、すぐには殺されないようにしないと……兄者の方の強化さえなくなればどうにかなるはずだ。
   命乞いしても……いや、むしろ殺してくれというくらいの方が逆に弄ばれるか?
   でもそんな度胸はないからね……、とりあえずしばらくはこのままある程度攻撃されていくのが一番だろうね)

ショボンは様様なことを考えながら、体の各部位を軽く叩いてみる。



195: ◆7at37OTfY6 :2006/11/27(月) 22:06:17.65 ID:OHfQQMSp0
  
(;メ´・ω・`)「……っ」

(´<_` )「どうだ、そろそろ体は限界じゃないか?」

(;メ´・ω・`)「そうだね、随分痛みが増えてきたよ」

(メ´・ω・`)(やはり、打診している間は待ってくれるみたいだ。
   典型的な格闘好きに武士道だね、天晴れだよ。
   これをうまく利用して、少しずつでいいから時間を稼いでいかないと)

両手、首、胸から腰へ。
各部位を軽く叩くが、特に腰と肩が触れるだけで強烈な痛みを感じる。
ショボンはその顔を顰めた。

(´<_` )「そういえば……おまえに確認したいことがあった」

(メ´・ω・`)「なんだい? 答えれる事ならできる限り答えるよう努めるよ」

ゆっくりと返答しながら、ショボンはチャンスだと思った。
できる限りここで長く受け答えすれば時間が稼げる。

(´<_` )「お前は俺達魔女側の者を、何人倒した?」

(メ´・ω・`)「ああ、そのことか」



196: ◆7at37OTfY6 :2006/11/27(月) 22:08:04.59 ID:OHfQQMSp0
  
ここでショボンは考え込む振りをして一拍おいた。
あからさまに長引かせすぎると、逆に相手を刺激しかねない。
慎重にゆっくりと言葉をつなげる。

(メ´・ω・`)「えっと……まず、一人目の魔女……名前はなんていったかなぁ」

(´<_` )「モナーだ」

(メ´・ω・`)「そうそう、モナーだったっけ、少し背の低めでのほほんとしていた男」

(´<_` )「ああ、それなら間違いない」

(メ´・ω・`)「そのモナーだけど、残念ながら彼を倒したのは僕じゃないんだ」

(´<_` )「?? 討伐隊に殺されたと聞いたが……つまり今兄者と戦っている人間たちに殺されたのか?」

(メ´・ω・`)「そういうこと」

弟者が驚いて、ばっと兄者のほうを見た。
明らかな隙が生まれたがショボンはそこを突くような真似はしない、無駄なことを分かっているから。
間違って相手を刺激でもしてみろ、どんな惨事に発展するかは想像に難くない。

それよりもこれをクーと話をできる機会に発展させれれば、時間も稼げて一石二鳥だ。



198: ◆7at37OTfY6 :2006/11/27(月) 22:09:47.69 ID:OHfQQMSp0
  
(´<_`;)「兄者、その中に一人、モナーを倒したやつがいる!」

人間が魔女を倒すなど異常な事態だ、弟者はとっさに兄者へ叫んだ。

( ´_ゝ`)「弟者よ、心配無用だ。そいつなら今しがた殺した奴だ」

(´<_` )「流石だな兄者」

ふぅと落ち着く弟者、そんな今をチャンスと見てショボンは声を出した。


(メ´・ω・`)「……おや、クーはどうしたんだい?」

ξ;゚听)ξ「ショボン……クーさんが……ジョルジュさんが死んじゃって……」

(メ´・ω・`)「そうかい」

いざ言葉をかける場面になると、今度は何を言っていいかわからなくなった。
ショボン自身頭の回転にはそれなりに自信を持っていただけに、そんな自分にひどく幻滅した。

しかし何とかクーを動かさないといけない。

ショボンほどの使い手になると、数手合わせただけで相手の力量が分かる、精神的な強さも含めて。
このままでは弟者に勝てないと、彼は悟っていた。
だからこそ彼以外のメンバーには兄者を殺さずとも、せめて弟者の強化をする余裕が無い程度まで追い込んでもらわなければならない。

(メ´・ω・`)「クー」

ショボンが声をかけると、少し体が動いた。
どうやら声は聞こえているようだ、相槌は返してくれないが。



199: ◆7at37OTfY6 :2006/11/27(月) 22:11:48.28 ID:OHfQQMSp0
  
(メ´・ω・`)「クー、ジョルジュも……そしてキミも、いつ死んでもおかしくない状況に身を置いてきた」

軽く声をかけるが、依然反応が無い。
いくらショボンでも分かってる、いつ死んでもおかしく無い『状況』と、死んでしまった『現実』はまったく別物だという事くらい。
ただクーの立場を明確に諭してやる必要があった。

チラと弟者の方に目をやると、止めるでもなく傍観している。
やはりここで妨害するほど野暮な真似はしないようだ、これ見よがしげにチャンスとしなくてはいけない。
ショボンは言葉を続ける。

(メ´・ω・`)「キミ達はいつ死んでもおかしくない、魔女の討伐隊という所に入った。
   ジョルジュは死んだ、魔女に殺された、立派な殉職だ。
   辛いのは分かるが、この場にいる者がそれでどうする?」

川 ; -;)「……」

(メ´・ω・`)「キツイ言い方になってすまない、それでも君が今するべきことはジョルジュの死を弔う事か?
   違うだろう。ジョルジュが、キミがどうしてここにいる?
   どうしてジョルジュが死んだ? 分かるかい、今君がするべき事が」

クーは涙をふいたが、それでも吃逆をしながら無言だった。

弟者がため息をついたのを見るや、ショボンは再び焦る。
無理矢理にでも彼女を躍起させて、戦線に戻さねばいけない。



200: ◆7at37OTfY6 :2006/11/27(月) 22:13:33.87 ID:OHfQQMSp0
  
(メ´・ω・`)「クー、返事が聞こえない」

川  - )「……」

(メ´・ω・`)「泣く事はいつでも出来る、戦うことは今しか出来ない。
   死んでは両方出来ない、弔う事すらも。
   考えるんだ、魔女から人間を庇護するという大きな使命をキミは背負っているんだ、今だけでも強気で戦ってもらわないと」

弟者が痺れを切らしたそうに、またため息を吐いた。
首を左右にコキコキと鳴らしている。

(メ´・ω・`)「すまない、キツイ言葉ばかりで君のことを思い遣れないダメな上司で。
   その上で、クー」

川  - )「……」

(メ´・ω・`)「いますべき事……分かるね?」
   『勇気の増強』

ラストチャンスだ。
頼む、お願いだから答えてくれ。
戦うと公言してくれ。



202: ◆7at37OTfY6 :2006/11/27(月) 22:15:17.49 ID:OHfQQMSp0
  
川  - )「……魔女と、戦うことです……」

ショボンは安堵の息をついた。
状況はまったく好転していない、一方的に不利な状況は変わらない。
それでも……少なからず希望が見えたのだ。

(メ´・ω・`)「ツンちゃん」

ξ;゚听)ξ「あ、はい……」

(メ´・ω・`)「クーを、そちらを……任せるよ。これ以上の犠牲を出さないために」

こう言っておけば上司としての示しもつく。
何よりも少なからず消沈気味のあちらを鼓舞できた事だろう。
クーにつられて泣きそうだったツンも、頬を叩いて意気込んだ。

何とか想像通りに動かせ、ようやくショボンも弟者に向く。

(メ´・ω・`)「ごめんよ、待たせたね」



205: ◆7at37OTfY6 :2006/11/27(月) 22:17:29.03 ID:OHfQQMSp0
  
(´<_` )「いやいや、随分と弁論に長けてるじゃないか。
   さすが魔女を裏切って人間の世界に堂々と紛れ込んだだけのことはある」

(メ´・ω・`)「失礼だね、本心をそのまま言葉に表しただけさ。
   本当にこれ以上の犠牲はご遠慮願いたいものだよ」

(´<_` )「安心しろ」

弟者はここで改めてショボンに構えた。
目付きも鋭くなる。
勝負を仕掛ける気だ。

(´<_` )「次はオマエだ、もう他人が死ぬのを見なくて済むからな」

(メ´・ω・`)「いやだねえ、自分が一番可愛いものなのにさ」

弟者の突き刺すような目線。
ピリピリっとその場の空気が凍る。

(メ´・ω・`)(いつ……来る?)



213: ◆7at37OTfY6 :2006/11/27(月) 22:21:57.87 ID:OHfQQMSp0
  
集中している時というのは、逆に心の『隙』は大きくなるものである。
普段であれば臨機応変に、柔軟に思考をめぐらせる事が出来るが、集中すると一つにばかり意識がいってしまい他がおざなりとなる。
一つの物事に固執するあまり、その他の事象に集中し切れていないと気付かないのだ。

(;メ´・ω・`)(心の隙を、見つければもしかして……)

ショボンは唇を強く噛んだ。
威圧されて集中力が途切れそうな自分に、気圧されそうな自分に活を入れ続けた。





瞬間に踏み込む弟者――





ショボンの体は弾ける様に吹っ飛んだ。



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