( ^ω^)ブーンが魔女を狩るようです

259: ◆7at37OTfY6 :2006/11/30(木) 21:56:36.29 ID:UZpa6Eo00
  
第二十一話『無慈悲』
第二十二話『自尊心』


流石兄弟との戦いの翌日、討伐対もようやくとなる休息となった。

クーは兄者に踏み潰された片手が複雑骨折しており、ギプスでがんじ搦め状態となっていた。
耳にも布を宛がっており、痛々しい姿ではあったが特に生涯尾を引くような傷はなかったそうだ。
それでも完治には数ヶ月を要するらしいが。

ショボンも体にかなりの傷や骨折があり、治癒力を強化しても到底回復は追いつかず、ずっと安静にしている。
ほかの3人は特に大きな怪我は無く、体の節々が痛む程度で済んだ。


ξ゚听)ξ『残る魔女は、ギコ一人……私も彼の強さをちゃんとは知らないけど、随一の使い手と聞いているわ』


終わりが来ないとさえ思えた魔女との戦いは、とうとう終局を迎えようとしていた。
しかし、それでもまだ魔女ともう一度戦わなくてはならない。
そう、最後の一人に全滅させられる可能性も大いに残っているのだ。

束の間の休息、それぞれ様々な思いを交錯させた。


また、ジョルジュは朝一で家族の元に運ばれていった。
さよならを最後に言い、クーは再び泣いた。



261: ◆7at37OTfY6 :2006/11/30(木) 21:58:40.74 ID:UZpa6Eo00
  


そして今は、ブーンとドクオの部屋にツンとクーが集まった。
しかしその空気は決して軽いものでなく、しんと静まり返っていた。

('A`)「……それで、話は何ですか?」

ふてぶてしい態度をとるドクオに、クーはまた感情的になりそうになる。
兄者と戦った時にドクオとクーが交わした、戦いが終わったら話しようという約束。

川 ゚ -゚)「お前は、死ぬことをどう考えているんだ?」

('A`)「率直な質問ですね」

相変わらず面倒そうにしか話しようとしない。
ドクオはここでクーと話することに価値を感じていなかった。
興味が湧かなかったのだ。

('A`)「死ぬことは、自分にはどういうことかわかりません」

面倒臭そうにこう言うものだから、いい加減にしろと言いたくもなってくる。

('A`)「次はこっちから質問いいですか?」

川 ゚ -゚)「……ああ」

('A`)「クーさんは、ジョルジュさんが死んだ時にどうして死ななかったんですか?」



262: ◆7at37OTfY6 :2006/11/30(木) 22:00:45.74 ID:UZpa6Eo00
  
川 ゚ -゚)「……」

どうして死ななかったか。

どうしてと聞かれても困る、死にたいと思わなかったからだ。
そもそも死のうとすら思わなかった。

川 ゚ -゚)「……お前がアバウトに答えるのなら私もそうさせてもらう。
   死のうと思わなかったからだ」

('A`)「どうして死のうと思わなかったんですか?」

川 ゚ -゚)「どうして……」

一体ドクオは何が聞きたいんだと、クーは困惑した。
どうしてと言われても思わなかったから思わなかったんだ。
結果論ではあるが、それ以外に何の理由があるというのだ。



265: ◆7at37OTfY6 :2006/11/30(木) 22:02:49.74 ID:UZpa6Eo00
  
川 ゚ -゚)「逆に、どうしてそこで死のうと思うんだ?」

('A`)「言いませんでしたっけ? 生きる意味がわからないからです」

川 ゚ -゚)「お前と同じように誰もが考えれると思うな、私は死のうとは思わなかった。
   それでもジョルジュが死んだことは……すごく悲しくて、まだ……」

('A`)「誰も自分が当然だなんて思っていません、だから理由を聞いてるんじゃないですか。
   自分には分からないんです、どうして悲しんでまで生きようとするのかが。
   どうして人が死んで悲しく思うのかが」

一転して真面目に意見をぶつけてくるドクオだったが、その言葉の真意はクーには伝わりきらなかった。
クーにはドクオの考えが、思考が彼女にはまったく理解できなかった。

川 ゚ -゚)「もう……その人に会えないから……だから悲しいんだ」

('A`)「いずれ人は死にます、それが早いか遅いかだけです。
   もしかして人間が生きていることが当然だと思っていませんか?
   人間が生きるという事は、もしかすると可笑しい事かもしれないんですよ?」

クーの頭の整理がつかないうちに、ドクオはどんどんと話を進める。



267: ◆7at37OTfY6 :2006/11/30(木) 22:05:00.91 ID:UZpa6Eo00
  
('A`)「人間は死んだ形こそが本来の形かもしれないんです。
   死んで解脱するという考えもあるでしょうし、そう思いませんか?
   そもそももう会えなくて悲しいなんて、ずいぶん身勝手な意見だと思いますが」

川 ゚ -゚)「身勝手だと?」

('A`)「自殺した人間の家族が泣いているのを見ても思うんです、どうして悲しむんだって。
   自殺はその人間が望んでした事です、なのにその考えも尊重せずに『何で自殺したんだ』なんて、
   自分の考えの押し付けで泣いているだけじゃないですか」

川 ゚ -゚)「しかしジョルジュは私たちの代わりに……」

('A`)「ジョルジュさんが選んだ方法が正しいと思うなら何を悲しむ必要があるんですか?
   十歩引いて『ありがとう』が正しいんじゃないですか?」

川;゚ -゚)「……」

クーはとうとう言い返せなくなった。
ドクオはそんなクーに向かってまだまだ無慈悲な言葉を繋げる。



270: ◆7at37OTfY6 :2006/11/30(木) 22:07:09.78 ID:UZpa6Eo00
  
('A`)「あなたたちのために犠牲になったジョルジュさんに向かって、何を尊んで泣くんですか?
   そして質問を返すようですが、『死ぬ』とは何なんですか?
   それも分からないのに何を勝手に悲しんでいるんですかあなたは?」

川  - )「……」

クーは再び涙腺が緩むのを感じた。
どうして、何で悲しんではいけないんだろう。
なぜ愛する人が死んだというのに悲しんではいけないのだろう。

('A`)「ジョルジュさんが死んだのと自殺は何が違うのですか、双方とも望んだ死だったのでは?
   自殺が自分のために望んで死んだのならば、あなた達のために望んで死んだこともほとんど同じではないですか?
   愛する人が死んで悲しみながら行き続ける人間よりも、それなら愛する人に死なれて後を追う様に死ぬ人間の気持ちの方が良く分かる」

川#゚ -゚)「それでも、ジョルジュが死んだのは私たちを守ってだ!
   その私たちが生きて何が悪い、生きなければジョルジュは何を残したことになるんだ!!」

('A`)「人が何かを残して死ぬ……? どうして?」

本気で分からないという顔をするドクオに、クーは再び言葉が詰まった。



274: ◆7at37OTfY6 :2006/11/30(木) 22:09:14.76 ID:UZpa6Eo00
  
('A`)「何を残す必要があるんだ?」

川 ゚ -゚)「例えばだ、子孫のために財産や土地を残して、子孫が幸せになるように……」

('A`)「子孫が幸せになったらどうなるんだ?」

川 ゚ -゚)「その……嬉しいんだ」

('A`)「嬉しい? 喜んで死ねるって事か?」

川 ゚ -゚)「喜んで死ねるわけじゃない、それでも子孫のために何かできたっていう喜びは少なからずあるだろう!」

('A`)「死んだ人間がか? 死んだら嬉しさも悲しさもないのに何を求めて何を残そうなんて思っているんだ?
   偉人が死んだあと自分の名前が歴史に残って嬉しいと思っているというのか?
   思わない、思えないだろ、それはもう死んでいるから」

再びドクオはクーの意見を聞くことなく、饒舌になる。



276: ◆7at37OTfY6 :2006/11/30(木) 22:11:18.52 ID:UZpa6Eo00
  
('A`)「名を残して死にたいという人間も同じだ、名を残しても自分が死んでいるのにどういう意味があるというんだ。
   名を残せたから嬉しい? 名を残せなかったから悔しい?
   そんなこと感じれるわけ無いだろう、死んだ人間が思うわけ無いだろう?」

川;゚ -゚)「……」

('A`)「そもそもオレのカーチャンについてでも、家族と他人を同一視しない事が分からない。
   血が繋がってるだけで、自分ではない他の人間だ。
   相手の考えが分かるわけでもない、所詮は他人なんだ」

つらつらと言葉を並べ、ふと気づくとクーは黙ってひたすら俯いていた。
気が削がれたと言わんばかりにドクオは頭を掻くと、最後にこう言った。

('A`)「仮にクーさんの言うとおり死んだ人が何かを残すとして、あなたに涙を残していったんなら相当価値のない死ですよね」

(;^ω^)「ドクオッ!!」

ξ#゚听)ξ「アンタ、言いすぎよ!!」

ツンとブーンの声を気に留めることなく、興醒めしたドクオは部屋を出て行く。
クーは終始俯いたままだった……。



279: ◆7at37OTfY6 :2006/11/30(木) 22:13:21.77 ID:UZpa6Eo00
  
ξ#゚听)ξ「何なのよ、アイツさ、クーさんの気も知らないで!」

( ^ω^)「……ドクオは本気でああ思っているんだお。
   本気で悲しむことや死なないことを不思議に思っているんだお」

ξ#゚听)ξ「ブーン、どうしてあんなのと友達でいるわけ」

ツンがそう藪から棒に言うと、ブーンは口調を強めて言い返した。

(#^ω^)「あんなのじゃないお、ドクオは僕の敬愛する人間なんだお!!」

ξ;゚听)ξ「……あ、ごめん……」

あまりの剣幕に思わずツンが謝ると、ブーンは慌てて取り繕った。

(;^ω^)「おっおっ、こっちこそゴメンだお、いきなり大きな声を出して……」

ξ゚听)ξ「ううん、私こそ気が立ってて、何も考えずに言い過ぎて……。
   それで、ブーンは……どうしてドクオと一緒にいるの? 尊敬するってどういうこと?」

( ^ω^)「……僕ととドクオが出会ったのは、高校2年の頃だお」

ブーンはドクオと出会った当時を懐古した。
彼と出会った事が良かったか悪かったかは今でも分からない。

ただ……二人が出会った今の状態において、彼はブーンが尊敬する唯一の人間となり得たのだ……。



286: ◆7at37OTfY6 :2006/11/30(木) 22:15:39.72 ID:UZpa6Eo00
  


ブーンとドクオは同じ地区に住んでいたが、学校は別だった。

さらに年少期、活発で愛嬌あるブーンに比べドクオは無愛想で挨拶すらもしないほどだった。

まったく接点のなかった二人、この二人が出会うのはしばらく後の話になる。


ブーンは小学校から進学校へと進み、周りの環境の甲斐もあってか典型的な秀才として育っていく。
テストでは100点は当然だったし、その上で祝日休日は友達とよく遊んだ。
健康で真面目な子供のステレオタイプだった。



288: ◆7at37OTfY6 :2006/11/30(木) 22:17:43.66 ID:UZpa6Eo00
  
一方ドクオはつとにその異常性を発揮していた。
小学生らしからぬ探究心と興味の旺盛さで周りから隔離されていく。

小学校1年、「1+1=2」を教えられると同時に、彼はこんな質問をした。

「どうしてブドウとリンゴを足したら2になるんですか? ブドウは1つなんですか?」
「ブドウの房は? どうしてリンゴは1なんですか」
「りんご1つを切ったら2つになりませんか?」
「1ってなんですか? どうしたら1って数えれるんですか?」

漢字を教えられたら、その都度由来を聞いた。

理科を教えられる度に詳しくそれらの反応や生態について聞いた。
小学校のころから彼は原子や分子といった話をされていたのだ。
もっとも理解できていたかどうかは別の話となるが。



291: ◆7at37OTfY6 :2006/11/30(木) 22:19:40.57 ID:UZpa6Eo00
  
そして学年が上がるにつれ、教師からも疎ましく扱われだす。
質問をしても何も答えてくれない、調べろと言われる。

この時から早くもドクオは他人に頼るという行為を拒否し、他人を嫌うようになる。
人に聞く事はせずに、納得するまで様々な事を調べ尽くすようになった。



ブーンとドクオ、二人とも成績は優秀だった。
違いがあるならばそれは『天才』か『秀才』か、それだけだろう。



293: ◆7at37OTfY6 :2006/11/30(木) 22:21:44.44 ID:UZpa6Eo00
  
中学、秀才であったブーンは推薦で県内きっての進学校に入学した。

相変わらず授業態度は真面目で、そのくせ家に帰ってからの宿題や予習を欠かさずにおこなった。
そして休みの日はやっぱり友達と活発に遊び、友好関係も上々だった。

周りもブーンに負けず劣らず優秀で、ブーンのグループは学校の中でも常に上位を占めた。
全国模試でも幾度と上位に割り込んだことがある。


決してブーンは勉強を楽しいとは思わなかったが、嫌だと思うこともなかった。

知識を身に付けるのは好きだったし、数学などはパズルのイメージだった。
彼自身の性格が勉学に向いていたのだろう。


滞りなく勉強を積み重ね、高校も県内トップの名門へと入学した。



295: ◆7at37OTfY6 :2006/11/30(木) 22:23:48.28 ID:UZpa6Eo00
  
一方天才は母子家庭が故、近場の町立中学校へ入学した。
社交性や授業態度は悪かったが成績は良かったのだ、よりレベルが高い私立にも行けたが彼自身にそんな気持ちもなかった。


そして彼はやはり一人となり、いじめの対象となる。


この時からだろう、彼の『興味』が転移していったのは。

『感情』や『生死』について興味が湧いたのは。


まず彼はどうして苛めるのかということを考え出した。
相手より優位に立って自己満足に耽りたいだけか、もしかすると苛めるという行為は生理的なものかもしれない。
動物だって苛めや格付けを行う、これは生き物の無様な本能じゃないのだろうか。

次にどうして苛められて悔しいかを考える。
痛いから、ストレスがたまるから、だったらどうして痛いとストレスが溜まるのか、ストレスが溜まるとどうして悔しいのか。
冷静になると、自分は一体何に悔しがっているのだろうか、苛めは悔しいと勝手に思い込んでいるだけではないか。

前述の『生き物の本能』と併せて考え出すと、苛める側が惨めに見え出した。

本能に従うただの野生動物……なのか。
そう考え出すと、苛められてもまったく悔しくなく、むしろ苛められることで分析調査が進む事に気付いた。



300: ◆7at37OTfY6 :2006/11/30(木) 22:25:53.15 ID:UZpa6Eo00
  
この時、ちょうど彼の母親方の祖父が亡くなる。
彼が感情を無くしたその時……あまりにタイミングが悪すぎた。

通夜、涙を流す血族に社交辞令をする知り合い、お経を唱えるお坊さん。


『死んだ人間』のために何をやっているのだろうと、一人傍観者でいた。


周りから見ればまだ幼くて感情が豊かでないとしか思えないのだろう。
子供ならではの、一事的な『死』への興味だとしか思えないのだろう。
彼はそれ以上に突飛な存在だった。

無意味な涙、無意味なお経。
祖父の亡骸に最期だからと話し掛ける人間など、本当に何がしたいのかわからない。
どうして『知人の死』でここまで感慨に浸るのに、ニュースでの『死』に無頓着なのかと疑問は増すばかりだった。


彼は周りの人間の勝手さと哀れさに嫌気が差し、高校に進学することはなかった。



301: ◆7at37OTfY6 :2006/11/30(木) 22:28:00.40 ID:UZpa6Eo00
  

高校、ブーンは周りとの荒波に飲み込まれていく。
レベルの高い周り、常に勉強し、常に競いたがる。

休日も思うように遊べない、なのに学内順位も思うように伸びない。
人生において初めての挫折、しかしそれに打ちひしがれる暇もない。


今まで以上に頑張っているのに落ちていくばかりの成績に辟易としだした。


40人のクラスで、ブーンの成績はいつしか38番となっていた。
そう、誰がどう見ても落ちこぼれだ。


家では叫びながら、泣きながら勉強した。
ご飯を食べながら、トイレで用を足しながら。

病院に運ばれたことは数回ではない。

比喩でなく死にたいとすら思った。



303: ◆7at37OTfY6 :2006/11/30(木) 22:30:11.86 ID:UZpa6Eo00
  
そんなある時分、彼はパソコンで調べ物をしていて、偶然とあるホームページに辿り着いてしまった。



『自殺願望者の集い』



彼は自殺する気は無かったが、どうしてかそのページを開いてしまった。
そしてのめり込むように書き込みを見出したのだ。


その中、あるハンドルネームの書き込みに興味を持った。



『投稿者:DOKU』



これがドクオとブーンの初めての接触だった。



309: ◆7at37OTfY6 :2006/11/30(木) 22:32:09.75 ID:UZpa6Eo00
  
ドクオは中学を卒業し、母親の頼みもあって渋々フリーターとなった。
近所のスーパーマーケットに勤めたが、ものの1週間で辞める事となる。

理由は簡単だ。
『お客様第一』と宣うくせに、利益しか考えていない店長に嫌気が差したのだ。

『どうして利益第一と言わないのですか?』

と質問したら、『お客様第一だから』という質問の意図を認知できていない答えが返ってきたので辞めてやったのだ。


それを話すと、母親も半ば諦め、自分はニートとなった。

そしてパソコンと本に囲まれた生活と化していく……。



312: ◆7at37OTfY6 :2006/11/30(木) 22:34:13.92 ID:UZpa6Eo00
  
そんな中、彼はパソコンで生死の心理についてより詳しい、生の情報を得たいと思った。


必然だったのだろう、自殺願望者のサイトへ彼が足を踏み入れたのは。


自殺する気は無い、それでも彼は話が聞きたい。


その考えを正直に掲示板に書き込んだ。



316: ◆7at37OTfY6 :2006/11/30(木) 22:36:04.99 ID:UZpa6Eo00
  

ブーンが目をつけた『DOKU』という人物は、話が聞きたいという用件を短く書き込んでいた。

当然場違いだと、沢山の書き込みによる非難の集中砲火を浴びていた。
削除対象となったのだろう、次の日に見ると彼の書き込みは無くなっていた。


どういう風の吹き回しだろうか。

いや、深層ではきっと誰かに話を聞いて欲しいと望んでいたのだろう。


ブーンはメモしておいた『DOKU』のアドレス宛にメールを打った。

これが二人のファーストコンタクトとなる。



318: ◆7at37OTfY6 :2006/11/30(木) 22:38:09.08 ID:UZpa6Eo00
  
そのサイトでは、地域ごとに分かれた掲示板が複数用意されている。
だから自分の該当地域の掲示板でやり取りすれば、必然的に身近な人間とのコミュニティが形成される。

それでもブーンとドクオがまさか同じ市に住んでいるなどとは流石に驚いた。

まるで運命であったかのように。


それから3日後、二人は公園でついに対峙した。


ここからブーンの歯車は大きく狂いだすこととなる。



321: ◆7at37OTfY6 :2006/11/30(木) 22:40:14.53 ID:UZpa6Eo00
  

正直に言えば、ブーンは初めドクオに職業を聞き、ニートと言われた時は自分の愚かさを呪った。
仮にもブーンには『エリート』というプライドがあった。
そもそもプライドがあるからこそここまで苦しんでいるのだ。

だと言うのに何が悲しくてニートに話を聞いてもらわなくてはならないのだ、馬鹿馬鹿しい。


そういう皮肉も込めて、まずはブーンが言った。


『どうしてDOKUは自殺願望者の意見が聞きたいんだお?』


これを引き金として語りだした彼はあまりに想像を絶していた。
独特であり、かつ確執し的確な考え。
迷走しているブーンには美しくすら感じる彼の持論。


ドクオは否定するだろうが、少なからず彼自身どこかで論議する機会を欲していたのだろう。
ブーンがそれに選ばれたんだ。



325: ◆7at37OTfY6 :2006/11/30(木) 22:42:21.37 ID:UZpa6Eo00
  
ブーンは胸の内を包み隠さずに話した。
経歴、葛藤、挫折……。
そして内心期待を寄せていた、そんな自分へのDOKUの返答に。

しかしその返答は望みとは遠くかけ離れたものだった。

「なんだ……」

殴ってやろうかと言うほど沸憤し、ギラッと目つきを変えると興味なさそうにDOKUは言ったんだ。

「FLYは学校で一番賢くなって、それで何がしたいんだ?」

FLYとはブーンのハンドルネームだ。


そしてドクオのその一言は、苛められながらも無感情に相手を哀れむ彼だからこその言葉だった。


学年で成績優秀になって見下すのも、苛めによって相手を見下すのも……結局目的無くしてやっている以上は同じ行為だと言いたかったんだ。



327: ◆7at37OTfY6 :2006/11/30(木) 22:44:25.70 ID:UZpa6Eo00
  
そして次に彼は将来有名になって、金持ちになって、それでどうなんだと言った。
死んだら一緒じゃないかと。

名前を残せたら自分の存在が永遠に残って……子や孫に財産を残せれば……こんな答えを当然ブーンもした。
ここでのやり取りは省こう、クーという女性と交わした答弁と何ら変わりなくブーンは言い包められたのだから。


そしてプライドをもズタズタに引き裂かれ、言い返すこともできずに項垂れるブーンに彼は言ったんだ。


「下らん勉強をし、下らん人間と拙い会話を重ねる位なら、一人で死について考えるほうがよっぽど有意義だ」


そして彼は帰って行った。


ブーンは彼にとって『下らん人間』だったのだ。


プライドなんて残されていなかった、悔しさでいっぱいになった。



331: ◆7at37OTfY6 :2006/11/30(木) 22:46:29.96 ID:UZpa6Eo00
  
結局勉強も望んでした行動ではなく、そしてそれを嫌がるのもすべて『本能的』な行動だったわけだ。
優位に立ちたい、立って相手を見下したいと思っているからこそ、落ちこぼれると見下されていると感じてしまう訳だ。
つまりこのストレスもすべて自身の深い考えなしに植え付けられていたリビドーだったのだ。


その日は泣いた。
どれだけ優秀を気取って、落ちこぼれてでも周りの人間を見下しながら過ごしてきた自分は完膚なきまでにぶちのめされた。
社会的な価値の無い者に蔑まれたのだから。

ニートに言い負けるんだ、どれだけ今までの勉学が無駄だったか。
その無駄なことでどれだけ自身が思い悩み迷走していたのか。
蓋を開けてみれば、ブーンのそれまでの人生がすべて否定されていた。


今まで以上の挫折に自身への失望感、そして……DOKUという一人の尊敬できる人間を見つけてしまったのだ。
彼に認められたいと思ってしまったのだ。



333: ◆7at37OTfY6 :2006/11/30(木) 22:48:43.73 ID:UZpa6Eo00
  
ドクオにとって、真面目な一面を見せるのは極一部の人間だけだったりする。

答えは簡単だ、『下らない人間』と言い争うのが嫌だから。
考えも浅はかなくせにやたら突っかかってくる人間との会話は、無益でこの上ない時間の浪費だ。
一人で色々と考えに耽るほうがよっぽど有益だったのだ。


『DOKU、もう一度会いたい。話がしたい』

『俺はもうお前に興味はない、結構だ』

『僕が興味あるんだ、DOKUに。DOKUの考えに』


そんな彼が、ブーンを僅かながらに認めた瞬間だった。

ブーンがドクオの考えを認めた、そこにドクオは喜びを感じたのかもしれない。
そう、普通なら異端としてしか扱われない彼の考えに興味持つブーンだからこそ、ドクオは認めたのだ。



337: ◆7at37OTfY6 :2006/11/30(木) 22:50:48.40 ID:UZpa6Eo00
  
ブーンはドクオの意見を聞きながらも、すべてを鵜呑みにしなかった。

納得するところは納得するが、納得のいかないことは徹底的に意見した。

彼自身、ドクオを目標としていたのだから当然だろう。
プライドは元より高い、隙あらばドクオを言い負かそうとしていた。



それがドクオには嬉しかったのだろう。
ブーンに考えを可能な限り話したし、その上で突っ込まれてより深く考える時も多かった。


その上で二人でよくする話は『人間と動物(と植物)の死』、『輪廻』、『血縁者と他人の死』、
『仏教における死』、『人を殺してはいけない理由』など哲学的なものが大半を占めていた。
あとは時事的な事件についてをそのつど話したくらいか。
その時々で話題は違ったが、最終的にはこれらの話になることが多かった。



341: ◆7at37OTfY6 :2006/11/30(木) 22:52:56.50 ID:UZpa6Eo00
  
そして二人は、互いの考え方を認めるようになる。

以心伝心とでも言おうか、「俺はこう考えるが、相手ならこう考えるだろう」と分かるのだ。
毎日論議を醸していれば当然とも言えるだろうが。


例えば兄者に戦うかどうかと聞かれた時、ドクオは断ったがブーンは戦うと言った。
ブーンだけ生かしてやるとも言ったが、それでも死にたくないから戦うと言った。

これはドクオの『大切な人が死んで悲しいのなら死ね』という言葉と密接に絡んでいる。

ブーンにとって、ドクオも……ツンも、その場にいた他人が大切な人なのだ。
だから大切な人が殺されて自分だけ生き残っても、『悲し』ければ自分は『死ぬ』んだ。

ドクオが戦わない理由をブーンは分かっていたし、ドクオはブーンが戦う理由を分かっていたからこそ互いに何も言わなかったのだ。


その時にドクオが『死ぬなよ』とブーンに言ったのは、少し矛盾しているようにも感じられるが。
ブーンはその言葉の重さを分かったからこそ、敢えて突っ込むような野暮な真似はしなかった。



345: ◆7at37OTfY6 :2006/11/30(木) 22:54:02.10 ID:UZpa6Eo00
  
さて、ブーンだがドクオとの接触以降学校を無断欠席し、両親の反対を押し切って数日後に中退。
エリート街道まっしぐらだったにも関わらず、彼は堕落しニートとなった。


これで良かったのかどうかは分からない。


少なくとも彼の両親は悲しみ、彼自身はそんな人生に納得している事だけが確かだ……。



346: ◆7at37OTfY6 :2006/11/30(木) 22:56:11.43 ID:UZpa6Eo00
  


ここ数日ずっと続く雨、苔むしたコンクリートの壁に、埃臭。
討伐隊はその相手をようやく最後の一人まで殲滅した所で、ようやく一段落した。

(´・ω・`)「ジョルジュの通夜が今日あったみたいだよ」

川 ゚ -゚)「そうですか……」

ずずっとコーヒーを口に運び、二人は話していた。
外景も拝めない地下の閉所では、趣も何もあったものではない。
湿気ばかりを感じながら二人は向き合ってきた。

(´・ω・`)「……この湿気は嫌になるね、不快極まりないよ」

川 ゚ -゚)「そうですね、あと目に見える苔は衛生的にも気にかかります」

僅かにひび割れたコンクリートに、これ見よがしげに苔は生え茂る。
慣れたとはいえ、湿気が伴うと視覚的・感覚的にも中々に居心地が悪いものだった。

湯気の漂うコーヒーを口に注ぐと、ふぅと息を吐いた。
コーヒー臭いが、苔臭さよりは幾分もマシだ。

(´・ω・`)「気持ちは落ち着いたかい?」

川 ゚ -゚)「……それなりに踏ん切りはつけました。完璧とまではいきませんが」

(´・ω・`)「そうかい」



350: ◆7at37OTfY6 :2006/11/30(木) 22:58:15.61 ID:UZpa6Eo00
  
言葉数が少ないと、どうしてもカップに手がいく。
空になったそれに、メイカーから新しいコーヒーを注いだ。

一帯に香ばしい香りが漂う。


(´・ω・`)「それにしても、弟者が死んだニュースには度肝を抜かれたね。
   魔女がまさか同士打ちするなんてさ」

川 ゚ -゚)「そうですね、一体何があったのか……」

流石兄弟との戦いの次の日、新聞やニュースで次々に報道された「魔女の変死」。
討伐隊が倒した兄者に加え、逃げたにも拘らず死に至った弟者。
一度に二人もの魔女が消えたことで、話題は持ちきりだった。


もっとも、ジョルジュについてはどこの紙面も触れていなかったが。
『そんな事』よりも魔女が死んでいったことのほうがよっぽど重要だったのだろう。



353: ◆7at37OTfY6 :2006/11/30(木) 23:00:20.21 ID:UZpa6Eo00
  
川 ゚ -゚)「……ショボンさん」

(´・ω・`)「ん、何だい?」

川 ゚ -゚)「……ドクオのことですが」

(´・ω・`)「ああ」

言い難そうに口を震わせながら、クーは続ける。

川 ゚ -゚)「ショボンさんが、どうして彼に目を掛けたのか分かった気がします。
   ずっとどうしてニートの彼に固執するんだろうって疑問でしたが」

(´・ω・`)「そうかい、それは光栄だよ。
   彼は……彼の考えは異端であるにも拘らず筋が通っているからね」

川 ゚ -゚)「認めたくないですが」

そう言って彼女は口にカップを運ぶ。



358: ◆7at37OTfY6 :2006/11/30(木) 23:02:26.07 ID:UZpa6Eo00
  
川 ゚ -゚)「彼の中で完結している、独特の思想といいますか、哲学といいますか……」

(´・ω・`)「うん」

猫舌なのか、ショボンはカップに指を絡ませるも口には運ばなかった。
真白で質素なカップはコーヒーで少し茶ばんでいる。

川 ゚ -゚)「しかし……どうして彼がこの魔女討伐に必要だったのでしょうか?
   彼が来てからショボンさんも積極的に戦ってくれますし、信じられないスピードで事が運ばれています。
   それでも……彼を選んだ理由には結びつかないです」

(´・ω・`)「……」

ショボンは口元までカップを運び、しかしやはり熱そうだったのか、口に付ける事無く机上に戻した。

何を考えているのか決して表情に見せない、これは彼が魔女だからか、それとも常なのか。
表情からは逆に無関心といった印象しか受けない。

川 ゚ -゚)「これまでの成果を見てきても、ツンとの戦いの際アイデアを出して補助をしてくれましたが……。
   何と言うか、それだけではないですか?
   戦おうともしない、我々と協力しようともしない……ショボンさんの意図を汲みかねます」

(´・ω・`)「……つかぬ事だけど」

言い切ったクーの言葉に添えるように口を開く。



365: ◆7at37OTfY6 :2006/11/30(木) 23:04:30.29 ID:UZpa6Eo00
  
(´・ω・`)「キミは、魔女に復讐したいと思わないのかい?」

川 ゚ -゚)「……」

突然のショボンの質問に、クーは押し黙った。

(´・ω・`)「ジョルジュの敵討ちをしたいとは思わないのかい?」

しばらく返事を待ってみるも、クーはずっとその目線を落として口は閉まったままだった。

(´・ω・`)「もし……もし、僕が実は魔女側の人間だったらどうする?」

川 ゚ -゚)「!!」

相変わらずの表情でショボンは突拍子もない質問を投げかけた。
これにはクーも反応を示す。

川 ゚ -゚)「ショボンさんがって……どうしてそんな事を聞くんですか?」

(´・ω・`)「何となくさ、例え話だよ。
   僕がジョルジュの仇の立場にいたら、君は戦って殺せるかと思ってね。
   別段何の不思議も無いだろう、そもそも僕は魔女なんだからあちらサイドにいるのが自然だ」



369: ◆7at37OTfY6 :2006/11/30(木) 23:06:34.84 ID:UZpa6Eo00
  
川 ゚ -゚)「でもショボンさんは今まで魔女と戦ってきてくれたじゃないですか」

(´・ω・`)「それも演技だとしよう、キミ達を騙すために画策していたんだ」

川 ゚ -゚)「……」

随分とタチの悪い例え話を持ち出してくるものだ。
にわかには返答しかね、少し静かな時間が過ぎた。

川 ゚ -゚)「……私は、それでも戦います。
   仇などではなく、それが討伐隊である私の使命だから」

(´・ω・`)「討伐隊の使命か……」

ようやくショボンはカップを口に付け、温かいコーヒーを啜った。

(´・ω・`)「それをドクオ君が聞いたら、なんていうだろうか?」

川 ゚ -゚)「さっきからショボンさん、何が言いたいんですか?」

(´・ω・`)「……」

クーが少し口調を荒げると、今度はショボンが言葉を止めた。
再び、今度は少し長い沈黙。



372: ◆7at37OTfY6 :2006/11/30(木) 23:08:01.11 ID:UZpa6Eo00
  
(´・ω・`)「……すまない、どうやら少し感情的になってしまったようだ」

寸分とも変わらぬ表情のまま、そう言うと一気にコーヒーを飲み干した。
そして席から立つ。

(´・ω・`)「今日のことは忘れてくれ」

川 ゚ -゚)「ショボンさん」

(´・ω・`)「すまない」

ショボンはそのまま一方的に部屋を後にした。



381: ◆7at37OTfY6 :2006/11/30(木) 23:10:11.23 ID:UZpa6Eo00
  


雨時の港は風が吹き荒ぶ。
斜めに降って来る無数の雨粒を気にもせず、合羽を着た男が一人歩いていた。

幾練も立ち並ぶ倉庫。
相似している物ばかりだが、目的の物以外には見向きもせずに歩き続ける。

(,,゚Д゚)「……」

その目は鋭い。
既に魔女群は死に体と言っても過言では無いだろう、ギコは舌打ちした。
魔女として人間に対立してきた、最後一人の男。

(,,゚Д゚)「流石兄弟が……まさか煮え湯を飲まされるとは思わなかったな……。
   あいつ等に黙っていたのはやはり正しかったようだ」

そして目的の倉庫に着くと、扉を開けた。

暗くてよく目視できないが、ビニールの被せられた『巨大な何か』がそこにはあった。
思わずギコは口が緩む。

(,,゚Д゚)「ショボンと俺だけで十分さ……そしてコイツがあればな」

元より忠誠心の無いペットなど必要ない。
ギコの高笑いは雨音よりも大きく響き渡った。



386: ◆7at37OTfY6 :2006/11/30(木) 23:12:17.60 ID:UZpa6Eo00
  


(´・ω・`)「さてと……それじゃ皆、準備はいいかい?」

川 ゚ -゚)「はい」

ξ゚听)ξ「いつでも」

( ^ω^)「おkですお」

('A`)「ういー」

狭く湿気で不快な部屋にも拘らず、五人は円陣を組んだ。

いよいよ……この長かった勝負に終焉が訪れようとしているのだ。
絶対に負けれない戦い。

(´・ω・`)「それじゃ、今日勝負を決めて……アイーンダヨー!」

( ^ω^)('A`)川 ゚ -゚)ξ゚听)ξ「イインダヨー」

( ^ω^)('A`)川 ゚ -゚)ξ゚听)ξ「グリーンダヨーッ!!」(´・ω・`)

心を一つにし、5人は最後の闘いへ向かおうとしていた。
クーは口パクだった。



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