( ^ω^)ブーンが魔女を狩るようです

62: ◆7at37OTfY6 :2006/12/04(月) 21:51:22.16 ID:i7MwlZhN0
  
エピローグ『日日草』


人間というものは実に醜いものだ。
他人のためには何も出来ない、自分のためにしか動けない。

『自分勝手』なんだ。

喜怒哀楽や愛する嫌うといった感情、これらもすべて自分勝手なんだ。


それにしても人間というものは不思議なものだ。
彼らは自分は死なないと思っているのだから。

今日死なない保証はどこにもない、明日がいつも通りやってくる確証はない。
それほど身近に『死』が存在していることに気付かず、人間は先の事を考える。
「明日の晩御飯はどうしようか」、「今週末は何しようか」……まったく愚かだ。

そして彼らは「80まで生きれればいい」などとふざけた事を言うのだ。

それまで生きれる保証はないのに生きるつもりでいて、それ以上は結構だと丁寧に断るんだ。
それでいて彼らは、『死』んだ『その後』は考えないんだ。
死ぬとは何か、死んでどうなるのか……彼らはそれに興味がないのだ。


実に愚かだ。



63: ◆7at37OTfY6 :2006/12/04(月) 21:53:28.35 ID:i7MwlZhN0
  
青く広がる空、いつもの青い空。
しかしそれが明日も続くとは限らない、明日も見れるとは限らない。

少し肌寒くなってきた風がまた、そんな哀愁にふけさせるのか。


黄色ばんだ安物のカップからコーヒーを口に運んだ。


窓を閉めようと思うが、体が動かない。

しかしそんな自分を察してくれたのだろう、見舞いにきてくれたその人が窓を閉めてくれる。

軽く御礼を言うと、「どういたしまして」と返ってきた。



65: ◆7at37OTfY6 :2006/12/04(月) 21:55:33.72 ID:i7MwlZhN0
  
その後、彼女はお見舞いのリンゴを取り出して果物ナイフで皮をむく。
見る見る間にリンゴは裸となり、小さく分断されて自分の前に出てきた。
器用な人だ。

川 ゚ -゚)「食べないんですか?」

(´・ω・`)「いや、頂くよ」

たどたどしい手付きでリンゴに刺さった楊枝を掴み、口に運んだ。
プルプルと震えながらも何とか落とさずに運びきる。
爪楊枝は持ちにくいから難しいが、それでもそれなりにこなせるようになってきた。

川 ゚ -゚)「食べさせてあげましょうか?」

(´・ω・`)「流石に遠慮しておくよ」

笑いを沿えて、もう一切れ口に運んだ。


食べる……か、人は生きるために食べるのだろうか、それとも食べるために生きているのだろうか。
欲求というのは生きるために産まれるものなのだろうか生きるから産まれるものなのだろうか。

食べる事だって生きる人間の我侭かもしれないのに。



72: ◆7at37OTfY6 :2006/12/04(月) 21:57:39.49 ID:i7MwlZhN0
  
(´・ω・`)「クー」

川 ゚ -゚)「何ですか」

(´・ω・`)「僕はどうして生きているんだろう、四肢が思うように動かないこの状況で。
   何を頑張ってリハビリなんてしているのだろう、死んでしまってもいいのに」

川 ゚ -゚)「私が許しません」

(´・ω・`)「君が許さないか……、手厳しいね。
   いい加減僕のことはもう良いよ、だ――」

突然喉が詰まり、激しい頭痛がくる。
咳き込む、涙が出るほど苦しく痛い。

辛い。


しかしいつものことだ、しばらくもすれば落ち着いて痛みもおさまる。



73: ◆7at37OTfY6 :2006/12/04(月) 21:59:33.93 ID:i7MwlZhN0
  
(´・ω・`)「もう僕は死にたいんだ、だからもう構わないでくれていいよ。
   ニ年もの間、本当に感謝している、でも……やっぱり僕はこのまま生き続けても考え直せると思わない。
   体が元に戻れば、ギコの遺志を継いで人間たちに復讐するかもしれない」

言ったが、クーは訝しげな顔をすることはなかった。

川 ゚ -゚)「本当に人間を恨んでいる人が、看護婦さんに付き添ってもらってまでジョルジュの墓参りには行きませんよ」

(´・ω・`)「……」

ここぞとばかりに彼女の頬が緩んだ。
まったく、恥をかかせられた。
気付いているのなら言っておいてくれれば良いものを……一体いつから気付いていたのか。

川 ゚ -゚)「二ヶ月くらい前から行きだして、大体週一ペースで行ってますよね」

(´・ω・`)「……」

川 ゚ -゚)「いえ、どこまで私が知っているのか聞きたそうな顔をしていたので」

そんなに僕に恥をかかせて何が面白いのやら。



75: ◆7at37OTfY6 :2006/12/04(月) 22:01:38.84 ID:i7MwlZhN0
  
川 ゚ -゚)「そういえばブーンとツンの結婚式、明日じゃないですか」

(´・ω・`)「そうだね、僕は検査でいけないから残念だよ」

川 ゚ -゚)「そうですか、『残念』なんですね」

(´・ω・`)「……」

いい加減しつこい、相も変わらず嫌な笑みだ。
それももう見慣れたものだが。

(´・ω・`)「そろそろ時間だろう、早く仕事に戻らなくても良いのかい?」

川 ゚ -゚)「本当ですね。でも今日は仕事道具を持って来たので問題ないです」

(´・ω・`)「……そうかい」

戦いから離れ、社会に出たことで女性らしく話すようになったが性格は歪んでしまったようだ。
元々の彼女は少し素っ気無いくらいで、それでも真っ直ぐな女性であったというのに。
悪態をつく自分など露知らず、彼女は隣で分厚いファイルをペラペラと捲りながらパソコンを起動させている。



そうか……件の日からもうニ年も経つのか。



77: ◆7at37OTfY6 :2006/12/04(月) 22:03:43.32 ID:i7MwlZhN0
  

実際人間はこめかみを真横に打ち抜いても即死しないらしい。
痛みにもがき、苦しみながら死んでいく無残な死に方となるから、こめかみを打つ時は少し銃口を下げろと注意された。
とんでもない医師がいたものだ。


ニ年前、病院に運ばれてから一ヶ月あまり眠っていた。
そして目覚めた自分を待っていたものは、四肢が不随で声が出せない状況だった。
思考が働くだけでも十分奇跡だと言い聞かされた。

リハビリを繰り返し、声が出始めたのが一年前、最近では時たま喉に痛みを感じて詰まるが、それ以外では流暢に話が出来るにまで回復した。
腕は生活を重ねる内に右手の指が徐々に動き始めた。
その他は全くだが、リハビリをニ年続けてようやく指はそれなりに動くようにはなった。
肩はまったく動かず、肘は何とか駆動するくらいだがそれでも端やコップが使えるようになっただけでも進歩だ。



(´・ω・`)(……進歩か)



78: ◆7at37OTfY6 :2006/12/04(月) 22:05:52.17 ID:i7MwlZhN0
  

社会はニ年前、魔女事態が公となり激しく混乱した。

クーが代表して社会に訴え、すべてを赤裸々に話した。
何も知らない国民たちは国を批判し、そしてそんな事をわざわざ主張するなとクーに対する批判も多かった。

それでも彼女は負けずに主張し続け、とうとう国は罪を認めた。


国が犯罪を隠蔽していたんだ。

その犯罪がまた陰湿で、あまりに残酷なもの。

国家は崩壊したといっても良かった。

未だにその論議は続き、政治界では混乱してばかりで思うように国家は安定していなかった。


それでもこうやって不自由なく日々が過ごせているのは、やはり『人間が勝った』からだろう。
自分の考え通り『人間』がいれば世の中は機能するのだ。

どことなく悲しくなった、今までにない感覚だ。



80: ◆7at37OTfY6 :2006/12/04(月) 22:07:59.55 ID:i7MwlZhN0
  

発展という視点で見れば、15年程前に魔女と人間が協力して飛躍的に上昇したが、
5年前の『魔女の反乱』(人間的目線ではこういう表現しかされないのが魔女としては悲しいが)により魔女の援助を失った人間社会は発展が横ばいに。
今でもそれは変わらず、生活に大きな変化は見られない。

もっとも前述した通り、国家を建て直す方が先決なのだろうが。

犯罪も随分と増えているらしい、国家が安定しない今当然だろう。
人間らしいといえばそれも人間らしい。



(´・ω・`)「クー」

川 ゚ -゚)「なんですか?」

(´・ω・`)「この前の試供品の栄養剤だけど、飲み難過ぎると思う。
   中高学生までターゲットにするならもう少し苦味を減らすのは必要じゃないかな?
   銘の打ち方も抽象的過ぎてそそられないね」

川 ゚ -゚)「苦味に標語……ですね、ありがとうございます」



81: ◆7at37OTfY6 :2006/12/04(月) 22:10:04.91 ID:i7MwlZhN0
  
カタカタと打ち込みを開始するクーを見て、思わず笑みが出た。
天下の魔女が、今では薬品会社のモルモットだ。

魔女の時は心を動かさないようにと表情が固まっていたはずなのに……
今では皮肉ばかりの日々を過ごしているものだから、これまた皮肉な笑みが漏れてしまう。

川 ゚ -゚)「何笑ってるんですか、気持ち悪いですよ、ショボンさん」

(´・ω・`)「……」


ほら、またぞろ皮肉で笑うしかないだろう。






83: ◆7at37OTfY6 :2006/12/04(月) 22:12:19.75 ID:i7MwlZhN0
  


ξ゚听)ξ「ブーン、待ってよぉー」

( ^ω^)「ツン、遅いお……」

ξ#゚听)ξ「ブーンが速いのよ! ほんっと女性の気遣い出来ないわね……」

ぐじぐじ言い出したツンを待って、仕方なく揃って歩く。
いや、仕方なくといっても当然元より置いていく気もない。
ただ辛そうに坂を登る姿を見るていると少し意地悪したくなってしまうが、『仕方なく』意地悪なしで一緒に歩いているのだ。

小学生みたいだなんて自分で思った。

ξ゚听)ξ「何でここのお墓ってこう高い所にあるのかしら……」

( ^ω^)「いっつも同じ事言って登ってるお」

ξ#゚听)ξ「うるさいわね、いつも気になるからいつも言ってるの!」

そう言い合いながらしばらく登りつづけると、ようやく目的地へ着いた。
沢山の墓が秩序を保って建ち並ぶ。

花をツンに預けると、水を用意した。



84: ◆7at37OTfY6 :2006/12/04(月) 22:14:24.92 ID:i7MwlZhN0
  
まずは一直線に、一際大きな墓へと向かう。
殉職扱いとなり、いまや英雄の一人でもあるジョルジュさん。
そう、死んで英雄などと言われても生きている者達の自己満足でしかなく、自分はむしろ馬鹿にしているようにすら聞こえてしまう。

そんなジョルジュさんのお墓には、見知らぬ人達から頂いたのだろう、沢山の花が飾られていた。

( ^ω^)「ジョルジュさん……」

花を添えて水を掛けると、二人で揃って手を合わせる。

……。




そのまま次は横の墓へ移動する。



88: ◆7at37OTfY6 :2006/12/04(月) 22:16:30.22 ID:i7MwlZhN0
  
その横の墓は六つ並んでいる。
そう、魔女たち六人の墓。


ツンと無言で順順に参っていく。

最後、ギコさんの所では少し長めに手を合わせた。


そして歩いていると、見知った顔に会った。

ξ;゚听)ξ「あ……」

ツンがあからさまに嫌そうな顔をする。
そんなに嫌わなくても……と思ったが、当の本人はどこ吹く風で全く気にする素振りは見せない。


('A`)「おう、お二人さん。相変わらずお熱いことで」


( ^ω^)「ドクオ」



90: ◆7at37OTfY6 :2006/12/04(月) 22:18:34.03 ID:i7MwlZhN0
  
ドクオとは久しぶりに顔を合わせた。
今でもネットで会話はするが、会社で働く自分は思うように時間が取れずその回数は週三回程度になっていた。
会うのは一ヶ月ぶりくらいか。

( ^ω^)「それにしても、ドクオが墓参りだなんてどんな風の吹き回しだお?」

('A`)「ああ、俺も死者を弔う意味がわかんねーし、これだけ沢山の中から望みの墓以外は見向きもしない……
   なんてのはどうも納得いかないんだがな。
   親戚に言われて渋々だよ」

ドクオは相変わらずニートを続けている。
今は親戚の家に預けられたといっていたが(それが要因で会う機会が減ったのは言うまでもないが)、親戚からも疎まれているらしい。

('A`)「ブーンも随分社会人続いてるじゃねーか」

( ^ω^)「社会人には社会人の発見があるお、上司もそれなりにいい人で、結構恵まれているお」

「ふーん」と興味なさそうな返事をしながら、ドクオは母親の墓に花を添えた。
それにしても花が多過ぎる気がするが……。

('A`)「……いかんな、花を買いすぎた」

( ^ω^)「それじゃ、ついでにジョルジュさんたちの所を参るお」

('A`)「……まぁいいか、どうせ余り物だ」

そしてドクオは順順に、ジョルジュさんと魔女たちの墓を参った。



91: ◆7at37OTfY6 :2006/12/04(月) 22:20:42.72 ID:i7MwlZhN0
  
('A`)「あー……」

それでも、まるで計算したかのように一本余った。
赤くのっぺりとした、綺麗な花。

('A`)「……お前にやるわ」

( ^ω^)「おっおっ、ありがとうだお」

正直に受け取った横で、ツンが「うげー」と気持ち悪そうにしていた。

ξ゚听)ξ「一本だけならギコの所についでに供えればいいのに……」

('A`)「秩序を大切にしてんだよ、バランスが崩れないようにな。
   それじゃ俺は帰るかな」

手を振ると、愛想もなくドクオは帰路に着く。

ξ゚听)ξ「ちょっと待ちなさいよアンタ、そういえば明日私たちの結婚式だけど来ないってどういうことよ!」

('A`)「めんどい」

そう言って片手を上げると、そのまま振り向きもせずに歩いて行ってしまう。
そして見えなくなってしまった。



94: ◆7at37OTfY6 :2006/12/04(月) 22:22:46.88 ID:i7MwlZhN0
  
ξ#゚听)ξ「あー、もうあいつ本当に勝手ね! 私だけならまだしも、ブーンも祝わないなんて!」

( ^ω^)「違うお、ツン」

ξ#゚听)ξ「何がよ」

そう聞き返すツンの前に、さっきドクオから受け取った花を差し出した。
一瞬キョトンとしたが、次に理解し、ため息をついた。

ξ゚听)ξ「なるほどね、結婚祝いがこれか……でもちょっとお墓参りの花って……」

( ^ω^)「そういう奴なんだお」

はじめドクオを見つけた時も、彼は座り込んでいた(罰当たりであるが)。
きっと自分たちが来るのを待っていてくれたのだろう。
そして、ジュルジュさんや魔女にも参るつもりだったのだろう。

自分たちの前でワザと言い訳したんだ、見かけによらず恥ずかしがり屋な奴だ。



96: ◆7at37OTfY6 :2006/12/04(月) 22:24:51.62 ID:i7MwlZhN0
  

ツンはその花を僕の手から奪うと、ブラウスの胸ポケットにストンと入れた。

そして伸びをした。


自分もそれに応えるように、彼女の唇に唇を重ねた。


ほんのりと、日日草の香りがした。







          ブーンが魔女を狩るようです・END



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