( ^ω^)ブーンが魔女を狩るようです

321: ◆7at37OTfY6 :2006/11/30(木) 22:40:14.53 ID:UZpa6Eo00
  

正直に言えば、ブーンは初めドクオに職業を聞き、ニートと言われた時は自分の愚かさを呪った。
仮にもブーンには『エリート』というプライドがあった。
そもそもプライドがあるからこそここまで苦しんでいるのだ。

だと言うのに何が悲しくてニートに話を聞いてもらわなくてはならないのだ、馬鹿馬鹿しい。


そういう皮肉も込めて、まずはブーンが言った。


『どうしてDOKUは自殺願望者の意見が聞きたいんだお?』


これを引き金として語りだした彼はあまりに想像を絶していた。
独特であり、かつ確執し的確な考え。
迷走しているブーンには美しくすら感じる彼の持論。


ドクオは否定するだろうが、少なからず彼自身どこかで論議する機会を欲していたのだろう。
ブーンがそれに選ばれたんだ。



325: ◆7at37OTfY6 :2006/11/30(木) 22:42:21.37 ID:UZpa6Eo00
  
ブーンは胸の内を包み隠さずに話した。
経歴、葛藤、挫折……。
そして内心期待を寄せていた、そんな自分へのDOKUの返答に。

しかしその返答は望みとは遠くかけ離れたものだった。

「なんだ……」

殴ってやろうかと言うほど沸憤し、ギラッと目つきを変えると興味なさそうにDOKUは言ったんだ。

「FLYは学校で一番賢くなって、それで何がしたいんだ?」

FLYとはブーンのハンドルネームだ。


そしてドクオのその一言は、苛められながらも無感情に相手を哀れむ彼だからこその言葉だった。


学年で成績優秀になって見下すのも、苛めによって相手を見下すのも……結局目的無くしてやっている以上は同じ行為だと言いたかったんだ。



327: ◆7at37OTfY6 :2006/11/30(木) 22:44:25.70 ID:UZpa6Eo00
  
そして次に彼は将来有名になって、金持ちになって、それでどうなんだと言った。
死んだら一緒じゃないかと。

名前を残せたら自分の存在が永遠に残って……子や孫に財産を残せれば……こんな答えを当然ブーンもした。
ここでのやり取りは省こう、クーという女性と交わした答弁と何ら変わりなくブーンは言い包められたのだから。


そしてプライドをもズタズタに引き裂かれ、言い返すこともできずに項垂れるブーンに彼は言ったんだ。


「下らん勉強をし、下らん人間と拙い会話を重ねる位なら、一人で死について考えるほうがよっぽど有意義だ」


そして彼は帰って行った。


ブーンは彼にとって『下らん人間』だったのだ。


プライドなんて残されていなかった、悔しさでいっぱいになった。



331: ◆7at37OTfY6 :2006/11/30(木) 22:46:29.96 ID:UZpa6Eo00
  
結局勉強も望んでした行動ではなく、そしてそれを嫌がるのもすべて『本能的』な行動だったわけだ。
優位に立ちたい、立って相手を見下したいと思っているからこそ、落ちこぼれると見下されていると感じてしまう訳だ。
つまりこのストレスもすべて自身の深い考えなしに植え付けられていたリビドーだったのだ。


その日は泣いた。
どれだけ優秀を気取って、落ちこぼれてでも周りの人間を見下しながら過ごしてきた自分は完膚なきまでにぶちのめされた。
社会的な価値の無い者に蔑まれたのだから。

ニートに言い負けるんだ、どれだけ今までの勉学が無駄だったか。
その無駄なことでどれだけ自身が思い悩み迷走していたのか。
蓋を開けてみれば、ブーンのそれまでの人生がすべて否定されていた。


今まで以上の挫折に自身への失望感、そして……DOKUという一人の尊敬できる人間を見つけてしまったのだ。
彼に認められたいと思ってしまったのだ。



333: ◆7at37OTfY6 :2006/11/30(木) 22:48:43.73 ID:UZpa6Eo00
  
ドクオにとって、真面目な一面を見せるのは極一部の人間だけだったりする。

答えは簡単だ、『下らない人間』と言い争うのが嫌だから。
考えも浅はかなくせにやたら突っかかってくる人間との会話は、無益でこの上ない時間の浪費だ。
一人で色々と考えに耽るほうがよっぽど有益だったのだ。


『DOKU、もう一度会いたい。話がしたい』

『俺はもうお前に興味はない、結構だ』

『僕が興味あるんだ、DOKUに。DOKUの考えに』


そんな彼が、ブーンを僅かながらに認めた瞬間だった。

ブーンがドクオの考えを認めた、そこにドクオは喜びを感じたのかもしれない。
そう、普通なら異端としてしか扱われない彼の考えに興味持つブーンだからこそ、ドクオは認めたのだ。



337: ◆7at37OTfY6 :2006/11/30(木) 22:50:48.40 ID:UZpa6Eo00
  
ブーンはドクオの意見を聞きながらも、すべてを鵜呑みにしなかった。

納得するところは納得するが、納得のいかないことは徹底的に意見した。

彼自身、ドクオを目標としていたのだから当然だろう。
プライドは元より高い、隙あらばドクオを言い負かそうとしていた。



それがドクオには嬉しかったのだろう。
ブーンに考えを可能な限り話したし、その上で突っ込まれてより深く考える時も多かった。


その上で二人でよくする話は『人間と動物(と植物)の死』、『輪廻』、『血縁者と他人の死』、
『仏教における死』、『人を殺してはいけない理由』など哲学的なものが大半を占めていた。
あとは時事的な事件についてをそのつど話したくらいか。
その時々で話題は違ったが、最終的にはこれらの話になることが多かった。



341: ◆7at37OTfY6 :2006/11/30(木) 22:52:56.50 ID:UZpa6Eo00
  
そして二人は、互いの考え方を認めるようになる。

以心伝心とでも言おうか、「俺はこう考えるが、相手ならこう考えるだろう」と分かるのだ。
毎日論議を醸していれば当然とも言えるだろうが。


例えば兄者に戦うかどうかと聞かれた時、ドクオは断ったがブーンは戦うと言った。
ブーンだけ生かしてやるとも言ったが、それでも死にたくないから戦うと言った。

これはドクオの『大切な人が死んで悲しいのなら死ね』という言葉と密接に絡んでいる。

ブーンにとって、ドクオも……ツンも、その場にいた他人が大切な人なのだ。
だから大切な人が殺されて自分だけ生き残っても、『悲し』ければ自分は『死ぬ』んだ。

ドクオが戦わない理由をブーンは分かっていたし、ドクオはブーンが戦う理由を分かっていたからこそ互いに何も言わなかったのだ。


その時にドクオが『死ぬなよ』とブーンに言ったのは、少し矛盾しているようにも感じられるが。
ブーンはその言葉の重さを分かったからこそ、敢えて突っ込むような野暮な真似はしなかった。



345: ◆7at37OTfY6 :2006/11/30(木) 22:54:02.10 ID:UZpa6Eo00
  
さて、ブーンだがドクオとの接触以降学校を無断欠席し、両親の反対を押し切って数日後に中退。
エリート街道まっしぐらだったにも関わらず、彼は堕落しニートとなった。


これで良かったのかどうかは分からない。


少なくとも彼の両親は悲しみ、彼自身はそんな人生に納得している事だけが確かだ……。



346: ◆7at37OTfY6 :2006/11/30(木) 22:56:11.43 ID:UZpa6Eo00
  


ここ数日ずっと続く雨、苔むしたコンクリートの壁に、埃臭。
討伐隊はその相手をようやく最後の一人まで殲滅した所で、ようやく一段落した。

(´・ω・`)「ジョルジュの通夜が今日あったみたいだよ」

川 ゚ -゚)「そうですか……」

ずずっとコーヒーを口に運び、二人は話していた。
外景も拝めない地下の閉所では、趣も何もあったものではない。
湿気ばかりを感じながら二人は向き合ってきた。

(´・ω・`)「……この湿気は嫌になるね、不快極まりないよ」

川 ゚ -゚)「そうですね、あと目に見える苔は衛生的にも気にかかります」

僅かにひび割れたコンクリートに、これ見よがしげに苔は生え茂る。
慣れたとはいえ、湿気が伴うと視覚的・感覚的にも中々に居心地が悪いものだった。

湯気の漂うコーヒーを口に注ぐと、ふぅと息を吐いた。
コーヒー臭いが、苔臭さよりは幾分もマシだ。

(´・ω・`)「気持ちは落ち着いたかい?」

川 ゚ -゚)「……それなりに踏ん切りはつけました。完璧とまではいきませんが」

(´・ω・`)「そうかい」



350: ◆7at37OTfY6 :2006/11/30(木) 22:58:15.61 ID:UZpa6Eo00
  
言葉数が少ないと、どうしてもカップに手がいく。
空になったそれに、メイカーから新しいコーヒーを注いだ。

一帯に香ばしい香りが漂う。


(´・ω・`)「それにしても、弟者が死んだニュースには度肝を抜かれたね。
   魔女がまさか同士打ちするなんてさ」

川 ゚ -゚)「そうですね、一体何があったのか……」

流石兄弟との戦いの次の日、新聞やニュースで次々に報道された「魔女の変死」。
討伐隊が倒した兄者に加え、逃げたにも拘らず死に至った弟者。
一度に二人もの魔女が消えたことで、話題は持ちきりだった。


もっとも、ジョルジュについてはどこの紙面も触れていなかったが。
『そんな事』よりも魔女が死んでいったことのほうがよっぽど重要だったのだろう。



353: ◆7at37OTfY6 :2006/11/30(木) 23:00:20.21 ID:UZpa6Eo00
  
川 ゚ -゚)「……ショボンさん」

(´・ω・`)「ん、何だい?」

川 ゚ -゚)「……ドクオのことですが」

(´・ω・`)「ああ」

言い難そうに口を震わせながら、クーは続ける。

川 ゚ -゚)「ショボンさんが、どうして彼に目を掛けたのか分かった気がします。
   ずっとどうしてニートの彼に固執するんだろうって疑問でしたが」

(´・ω・`)「そうかい、それは光栄だよ。
   彼は……彼の考えは異端であるにも拘らず筋が通っているからね」

川 ゚ -゚)「認めたくないですが」

そう言って彼女は口にカップを運ぶ。



358: ◆7at37OTfY6 :2006/11/30(木) 23:02:26.07 ID:UZpa6Eo00
  
川 ゚ -゚)「彼の中で完結している、独特の思想といいますか、哲学といいますか……」

(´・ω・`)「うん」

猫舌なのか、ショボンはカップに指を絡ませるも口には運ばなかった。
真白で質素なカップはコーヒーで少し茶ばんでいる。

川 ゚ -゚)「しかし……どうして彼がこの魔女討伐に必要だったのでしょうか?
   彼が来てからショボンさんも積極的に戦ってくれますし、信じられないスピードで事が運ばれています。
   それでも……彼を選んだ理由には結びつかないです」

(´・ω・`)「……」

ショボンは口元までカップを運び、しかしやはり熱そうだったのか、口に付ける事無く机上に戻した。

何を考えているのか決して表情に見せない、これは彼が魔女だからか、それとも常なのか。
表情からは逆に無関心といった印象しか受けない。

川 ゚ -゚)「これまでの成果を見てきても、ツンとの戦いの際アイデアを出して補助をしてくれましたが……。
   何と言うか、それだけではないですか?
   戦おうともしない、我々と協力しようともしない……ショボンさんの意図を汲みかねます」

(´・ω・`)「……つかぬ事だけど」

言い切ったクーの言葉に添えるように口を開く。



365: ◆7at37OTfY6 :2006/11/30(木) 23:04:30.29 ID:UZpa6Eo00
  
(´・ω・`)「キミは、魔女に復讐したいと思わないのかい?」

川 ゚ -゚)「……」

突然のショボンの質問に、クーは押し黙った。

(´・ω・`)「ジョルジュの敵討ちをしたいとは思わないのかい?」

しばらく返事を待ってみるも、クーはずっとその目線を落として口は閉まったままだった。

(´・ω・`)「もし……もし、僕が実は魔女側の人間だったらどうする?」

川 ゚ -゚)「!!」

相変わらずの表情でショボンは突拍子もない質問を投げかけた。
これにはクーも反応を示す。

川 ゚ -゚)「ショボンさんがって……どうしてそんな事を聞くんですか?」

(´・ω・`)「何となくさ、例え話だよ。
   僕がジョルジュの仇の立場にいたら、君は戦って殺せるかと思ってね。
   別段何の不思議も無いだろう、そもそも僕は魔女なんだからあちらサイドにいるのが自然だ」



369: ◆7at37OTfY6 :2006/11/30(木) 23:06:34.84 ID:UZpa6Eo00
  
川 ゚ -゚)「でもショボンさんは今まで魔女と戦ってきてくれたじゃないですか」

(´・ω・`)「それも演技だとしよう、キミ達を騙すために画策していたんだ」

川 ゚ -゚)「……」

随分とタチの悪い例え話を持ち出してくるものだ。
にわかには返答しかね、少し静かな時間が過ぎた。

川 ゚ -゚)「……私は、それでも戦います。
   仇などではなく、それが討伐隊である私の使命だから」

(´・ω・`)「討伐隊の使命か……」

ようやくショボンはカップを口に付け、温かいコーヒーを啜った。

(´・ω・`)「それをドクオ君が聞いたら、なんていうだろうか?」

川 ゚ -゚)「さっきからショボンさん、何が言いたいんですか?」

(´・ω・`)「……」

クーが少し口調を荒げると、今度はショボンが言葉を止めた。
再び、今度は少し長い沈黙。



372: ◆7at37OTfY6 :2006/11/30(木) 23:08:01.11 ID:UZpa6Eo00
  
(´・ω・`)「……すまない、どうやら少し感情的になってしまったようだ」

寸分とも変わらぬ表情のまま、そう言うと一気にコーヒーを飲み干した。
そして席から立つ。

(´・ω・`)「今日のことは忘れてくれ」

川 ゚ -゚)「ショボンさん」

(´・ω・`)「すまない」

ショボンはそのまま一方的に部屋を後にした。



381: ◆7at37OTfY6 :2006/11/30(木) 23:10:11.23 ID:UZpa6Eo00
  


雨時の港は風が吹き荒ぶ。
斜めに降って来る無数の雨粒を気にもせず、合羽を着た男が一人歩いていた。

幾練も立ち並ぶ倉庫。
相似している物ばかりだが、目的の物以外には見向きもせずに歩き続ける。

(,,゚Д゚)「……」

その目は鋭い。
既に魔女群は死に体と言っても過言では無いだろう、ギコは舌打ちした。
魔女として人間に対立してきた、最後一人の男。

(,,゚Д゚)「流石兄弟が……まさか煮え湯を飲まされるとは思わなかったな……。
   あいつ等に黙っていたのはやはり正しかったようだ」

そして目的の倉庫に着くと、扉を開けた。

暗くてよく目視できないが、ビニールの被せられた『巨大な何か』がそこにはあった。
思わずギコは口が緩む。

(,,゚Д゚)「ショボンと俺だけで十分さ……そしてコイツがあればな」

元より忠誠心の無いペットなど必要ない。
ギコの高笑いは雨音よりも大きく響き渡った。



386: ◆7at37OTfY6 :2006/11/30(木) 23:12:17.60 ID:UZpa6Eo00
  


(´・ω・`)「さてと……それじゃ皆、準備はいいかい?」

川 ゚ -゚)「はい」

ξ゚听)ξ「いつでも」

( ^ω^)「おkですお」

('A`)「ういー」

狭く湿気で不快な部屋にも拘らず、五人は円陣を組んだ。

いよいよ……この長かった勝負に終焉が訪れようとしているのだ。
絶対に負けれない戦い。

(´・ω・`)「それじゃ、今日勝負を決めて……アイーンダヨー!」

( ^ω^)('A`)川 ゚ -゚)ξ゚听)ξ「イインダヨー」

( ^ω^)('A`)川 ゚ -゚)ξ゚听)ξ「グリーンダヨーッ!!」(´・ω・`)

心を一つにし、5人は最後の闘いへ向かおうとしていた。
クーは口パクだった。



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