(*゚ー゚)しぃが手紙を書くようです

3:書初め(今年こそ素人デビュー):2006/12/25(月) 22:55:37.24 ID:Aw9dbBc70
  
    『12月25日』



今日はクリスマスですね、例年に比べ太陽が覗け、比較的暖かい気候です。

ホワイトクリスマスには程遠いですが、雪が降っていなくて良かったのではないかとも思ってしまいます。

降っていたら今日にこうも動き回ることは出来なかったでしょうから。

そんな私の取って置きのクリスマスプレゼントは、互いに驚く結果となりましたね。

私自身驚かす方の身であり、まさか驚かされるとは思ってもいませんでした。

それでも今日という日を過ごした事で、心のわだかまりがすべて払拭されました。

実にすがすがしく気分がいいです、手紙を書きながら笑みが浮んでしまいます。



4:書初め(今年こそ素人デビュー):2006/12/25(月) 22:57:44.71 ID:Aw9dbBc70
  
手紙を待っている時はもとより、手紙を書いている時にすら常に
「ギコ君にとって私がどれくらい大きい存在なのか」
という疑問ばかりを自分へと吹っかけていました。

一方的な手紙ではそれを確かめる術はありません、文章だけでは私がどれだけ悲痛な思いをしているのか、
そしてあなたがどれだけ多忙な毎日を送っているのかは量りかねます。

ただ、今日一日であなたにとって私自身がすごく大きな存在だったと確認でき、とても満足しています。

夜も更けた今、部屋の一室で一人あなたへの手紙を書いているわけですが、
心はずいぶんと晴れやかになっています。

もう手紙は出さないと約束しましたが、最後の一通ですのでどうか許してください。

本日の出来事や私の気持ちを出来る限りあなたに伝えたいのです、
今後約束を破ってこれ以上手紙を出したりは決してしません。

直接あなたに手渡せないことだけが心残りですが、これ以上我が侭は言ってはいけませんよね。

これほど最高のクリスマスを送れたのですから。



5:書初め(今年こそ素人デビュー):2006/12/25(月) 22:59:50.10 ID:Aw9dbBc70
  
本日は本当に驚かれたと思います。

外も真暗い早朝に私はムクリと起き上がると慌しく準備をはじめ、
新聞配達の人も来ていないそんな時間から家を出ました。

大体最寄駅まで三十分程度歩いて、始発電車へと乗り込みました。

それから三度乗換えをしてようやく新幹線のある大きな駅へと到着します。

新幹線であなたのいる都会までは一時間、その間に都心部にいくつもある路線の乗り換え順を覚え、
最寄駅からあなたの住居までの道筋を幾度も暗唱しました。

知っての通り、方向音痴ですが記憶力の良さには自信があります、
「言葉」として覚えてしまえば想像以上に素直に脳裏に刻み付けることが出来ました。

実際その甲斐あって上手く乗り継ぎを行い、駅からも迷うことなく目的地まで辿り着きました。

下宿先を決める時に来て以来、二年後にして二度目となるあなたの住宅です。

気持ち寂れた印象を受けましたが、こんなところで毎日頑張っているあなたを思うと健気に思え、
「ありがとう」などと家に向かって感謝してしまったほどです。

場所は二階の階段から四番目の部屋、ちゃんと覚えています。

郵便受けに何も入っていないことを確認して、そのままあなたの部屋の前で立ち止まりました。



7:書初め(女優になるんだ):2006/12/25(月) 23:02:05.60 ID:Aw9dbBc70
  
まさか私自身がクリスマスプレゼントとして都会へ出てくるなどと、考えもしなかったでしょう?

まだ日が昇ってから間もなく、暖かい太陽が照り付けている中で、
まるで初めて恋人の家へお邪魔するようなウブな気持ちが芽生え、
ノックをする事すらドキドキとして躊躇ってしまい、しばらく立ち尽くしていました。

そして覚悟を決めてドアをコンコンと二度、ノックしました。

続けざまにもう二回。

しかしそのドアから音は返ってきません、まだ寝ているのかと思い、
かといってチャイムを押すのにはまだ勇気が足りずにコンコンとさらに叩きました。

やはり反応はありません。

なので人差し指に力を入れ、体全体を傾けるように渾身の力でチャイムを押し込みました。

ドア越しにピンポーンとよく耳にする音が漏れてきました。

これで起きない訳はありません、緊張しながらもどこか期待した面持ちで私は待っていたのです。



9:書初め(女優になるんだ):2006/12/25(月) 23:04:24.13 ID:Aw9dbBc70
  
しかし不思議なことにそれ以上音は返ってきません。

人気がないとようやく気付き、私はがっくりと肩を落としました。

そうなのです、やはり手紙は一方的だったのです。

だって、私がクリスマスの日は家にいてくれとあなたに連絡しましたが、
それをあなたが守れるかどうかの返事は私には届かないのですから。

ただの自己満足です、あなたは『クリスマスである以前に月曜日である25日』は忙しかったのです。

こんな日にまで頑張り忙しいあなたを不憫に思うと同時、とても切なくなりました。

電話を掛けてもやはり繋がりません。

時間は午前十時くらいで、時間帯が悪かったのかなと思いドアの前でしばらく待っていました。

二時間ほど待ってもあなたが現れる気配がなかったので、しぶしぶ先にお土産を買って食事をしておこうかと地図を広げ、
電車を数分乗り継いで少し離れたデパートへと向かいました。

都会らしさのない質素なレストランで一人わびしく食事を済ませると、
荷物にならない程度に軽く和菓子などを買い、再び戻ってくるころには午後二時を回っていました。

しかし相変わらず人の気配はなかったのです。

残念に思い、またしばらくは一人待ち呆けていました。



11:書初め(女優になるんだ):2006/12/25(月) 23:06:36.78 ID:Aw9dbBc70
  
きっとクリスマスのような他の人が気を抜くべき所でこそ頑張っているのだろうと信じて待っていましたが、
午後五時になってくると辺りは暗くなり始め、息も白さを増してきます。

実家のほうに比べ都会は寒く、私は我慢できなくなり何度目になるか分からない電話を最後に電車に乗り込みました。

そして地図を開くと、姉であるツンの場所へ向かいました。

もしこのままあなたが来なければ、そこに宿泊しようと思っていたのです。

何か羽織るものを欲しく思えたこともありますが、都会で頑張るあなたを
少なからず支援してきてくれたのですから一度面と向かってお礼を言っておくのも良いかと後付けで思いました。

あなたの住居から電車で二十分ほど行くと姉の住む最寄駅に着きます。

こうしている間にもあなたが帰っているのではないかと考えながら、
焦る気持ちを抑えて地図を確認し、姉の家へと気ぜわしく歩きました。

姉の家は薄暗い明かりが点いているだけで、人がいるのかいないのか傍目では分かりません。

家の中にいることを願い、ドアをノックしました。

しかし反応はありません、もう一度ノックしてもやはり反応はありません。



13:書初め(女優になるんだ):2006/12/25(月) 23:09:14.03 ID:Aw9dbBc70
  
白いため息をつきながらノブをつかむと、私はドアが開いていることに気付きました。

そして一瞬にして泥棒が入ったのではないかなど、最悪な考えがいくつも過ぎりました。

中に入るべきかどうか数秒の間で幾度と葛藤しましたが、覚悟を決めて中に入る決意をしました。

姉はどこか抜けている人なので、鍵をかけ忘れる事だって十分に考えられます。

電気も朝の太陽が差してくる時間帯になれば、茶色い小さな明かりに気付かずに消灯したと思い込む事だって十分考えられます。

ドアを開けると、やはり中は薄暗く静かでした。

そして玄関の明かりを恐る恐る点けました。



次の瞬間、私はその目に映ったものをにわかに信じられず、同時に思考能力もプツンと切れてしまいました。

姉の玄関、そこにある男物の靴。

忘れるはずもありません、だってその靴は私があなたの誕生日プレゼントのために選んだ物なのですから。



14:書初め(女優になるんだ):2006/12/25(月) 23:11:48.64 ID:Aw9dbBc70
  
私は咄嗟に玄関の明かりを消して、そして靴を脱ぐと静かに中へと入っていきました。

耳を済ませると物音が僅かにします。

そして外から見た時に薄く明かりの点いていた部屋の前に来ると、姉の妖美な声がドアから漏れてきました。



だからノックの音に気付かなかったのですね。

私はすべてを理解しました。

そしてすべてを悟ってしまいました。



そのまま静かに台所へと足を運ぶと、手短な物を探しました。

はい、当然それは包丁です。



16:書初め(女優になるんだ):2006/12/25(月) 23:13:57.04 ID:Aw9dbBc70
  
あなたは今ごろ病院で家族とともに過ごしていることでしょう、
私がその場に行きたいと言ってもきっと誰もが許可などしてくれないことでしょう。

今手紙を書いているのは、当然それが理由だからです。

あなたと私は面会出来ません、だからこそこうして文章におこしているのです。

果たしてこれもどこまで意味があるのか分かりません。

きっとあなたにはこの内容が伝わることはないのでしょう、それでもいいのです。

手紙は自己満足であり、一方的なのですから。

さて、話を戻します。

あなたをそこに至るに決定付けたものは、たった歯渡り二十センチもないどこの家庭にもある出刃包丁でした。

二本あったので、出来る限り綺麗で新しそうな方を選びました。

試しにまな板に思いっきり突き立てたのですが、あなた達は営みに夢中でそれにすら気付かなかったようですね。

それがまた私の怒りを顕著なものにしたことは言うまでもないでしょう。



19:書初め(女優になるんだ):2006/12/25(月) 23:16:01.60 ID:Aw9dbBc70
  
静かに扉の前に立つと、中から漏れる声がとても私を刺激しました。

怒りすら超え、その快楽に喘ぐ声を聞くことで逆に笑みが出てしまったほどです。

包丁に反射する自分の顔を確認したい所でしたが、暗闇のために見ることは出来ませんでした。

きっとすごく嬉しそうな顔だったことと思います。

私は扉を静かに開けました。

せわしく上下に動いているあなたたちはそんな私にまったく気付きません。

能天気もいいところです、ここまで来ると笑い種です。

包丁を振り上げて私はベッドの前に立ちましたが、やはりあなた達は気付きません。

馬鹿々々し過ぎで、きっと私は笑みを深くしていたことでしょう。

十秒程度あったのでしょうか、気配を感じた姉がこちらを向くと同時、一瞬で悲壮な顔つきになりました。

今まで以上に大きく跳ね上がり、そのままバランスを崩してベッドから落ちてしまうなどまったく滑稽です。

そのために、私の振り下ろした刃物は、あなたを突き刺すこととなりましたね。

私を認知すると同時に言い訳の言葉を考えたのでしょうか?

口ばかりを二度三度震わせ、結局ナイフが刺さりきるまでちゃんとした言葉は出てきませんでしたよね。



22:書初め(女優になるんだ):2006/12/25(月) 23:18:38.08 ID:Aw9dbBc70
  
茶色い小さな明かりの元では、血は真黒にしか見えませんでした。

あなたは全裸で泣き声ともつかぬ意味不明なことを叫んでいましたね、姉以上に滑稽で無様な姿でした。

その場を逃げようとする姉に気付き、すぐさま私は飛び掛って捕まえました。

爪を姉の喉や眼球に突き立て、耳元で大きく笑ってやりました。

私が笑っていると、逆に彼女は悲壮な表情を色濃くして泣き出すのです。

それが面白くて、つい何度も笑って見せてやりました。

しかし想像以上に姉は力強く、駄々をこねる子供のように滅茶苦茶に振舞われてはとても厄介です。

だから私は黙らせるため、あなたに刺さった刃物を使おうと、再びベッドへと向かいました。

すぐに姉はその部屋を去っていきましたが、私はどこかで追いつけるとでも思っていたのでしょうか?

それともその先のことをちゃんと考えてなかったのでしょうか?

とりあえずその時は、もう一度刃物を手に入れることで頭はいっぱいいっぱいでした。



23:書初め(女優になるんだ):2006/12/25(月) 23:21:31.81 ID:Aw9dbBc70
  
黒く染まった刃物を手に取ると、あなたが再び大きく脈動しました。

私の頭は刃物を手にすることでいっぱいだったのでしょう、気にせずにぐっと力を入れました。

意外にも強く刺さっていて抜けません、あなたの微動する姿を背景に、私はグリグリと刃物をこね回すようにして抜き取りました。

そして気付いたのです、姉を逃がしたことに。

大きくため息をして、次に裸で逃げていった姉を哀れに思い少し笑いが出ました。

そして静かになったあなたの隣にゆっくりと腰掛けたのです。



今から改めて考えても、私はこれらの事実にとても驚きました。

あなたにとっては私が都会へと足を運んだことに驚いたと思いますが、
私はそれ以上にあなたと姉が淫行に及んでいる事実に驚きました。

互いに痛み分けですね、そう思います。

私のほうが辛く損をしているようにも感じますが、それは被害意識からでしょうか?

姉を逃がしてしまったことはひどく心残りとなっています。



24:書初め(女優になるんだ):2006/12/25(月) 23:24:14.27 ID:Aw9dbBc70
  
目下、私は味気ない灰色に囲まれた一室で一人、小さな明かりの元で手紙を書いています。

警察へは姉が連絡をしたそうです、事の起こりから五分もしない内にパトカーが到着し、私は連行されました。

手に錠を嵌められ、夜まで拷問のような取調べをさせられました、今ようやく解放されたばかりです。

その取調べの中で、姉の意見を色々と聞かされました。

ギコ君は私のヒステリックな所をずっと嫌っていたのですね。

一度目の手紙にあった『私はギコ君がいないと死んでしまう』という描写などに、
私が本当に死ぬのではないのかと恐怖して姉に相談していたのですね。

ずっと別れたいと思いながらも、私に死なれたり刺される事が怖くてそのまま関係をずるずると続けていたのですね。

馬鹿ではないですか?

あんな例え表現を真に受けるなど、成人の考えとは到底思えません。

自分がいなければ私が死んでしまう?

随分と自意識過剰ではありませんか?

よくもまあそんな台詞をしゃあしゃあぬけぬけと他人である姉に相談できたものです。

まったくその度量には感服されるばかりです。

手紙の冒頭で『あなたにとって私が大きい存在だった』と言いましたね。

言葉の通り、私はあなたにとって強大なお荷物だったというわけですね、まったくおいたが過ぎではありませんか?



26:書初め(女優になるんだ):2006/12/25(月) 23:26:40.26 ID:Aw9dbBc70
  
私はそういった振る舞いをあなたが望んでいると思っていたので、演技していたいただけです。

こちらこそあなたの陰口を言うような陰湿な性格にずっと嫌気が差していました。

それでもきっと私の「ずっと待っている」という言葉に元気付けられて都会で頑張っているのだろうと思い、
仕方なくあなたのためにずっと待っている女を演じていたに過ぎないのです。

しぶしぶ付き合っていたのは私の方です、私が待つのを止めた途端に
あなたが都会で途方に暮れるのではと心配してしまい、ついつい私はこうして今まで付き合ってきてしまったのです。

そんな私の気遣いも露知らず「困っている」などと姉に近寄り、
密接な関係になった挙句に隠れてこそこそと付き合いだすなど本当に勝手が過ぎますね。

私はあなたのピエロとなったような遺憾な思いをしています。

良心を利用し、踏みにじった挙句に別の女性と付き合うなど人間の考えとは到底思えません。

今から考えると色々とおかしい点が浮かび上がってきます。



29:書初め(女優になるんだ):2006/12/25(月) 23:29:12.62 ID:Aw9dbBc70
  
どうしてあなたが電話やメールに出なかったのか。

それはあなたの生活が虚構で作られていたからですね。

電話をしたのでは、姉との関係や同居している事実がばれるかもしれない。

メールのやり取りにしてもそうです、質問されることをあなたは恐れていたのです。

だから手紙は返してくれたのに電話やメールに出てくれなかったのですね。

手紙は一方的です、秘めたい事は書かなければそれで済んでしまうのですから。

郵便は姉の家へ転送されるようになっていたと知らされました、どうりであなたの部屋から人の気配がしなかったわけです。

あなたからの手紙の消印がどうして住んでいる場所と別地区なのかも、ようやく合点がいきました。

そしてあなたの母親もその事実を知っていたのですね。

私のところに顔を出しては「もう垢抜けて田舎を忘れてしまったんだ」と幾度と言われましたが、
今から考えるとそれらは私を諦めさせるためにあなたが相談していたのですね。

手紙をすべて姉や親に見せていたとも聞きました。

このわだかまりを私はどこにぶつければいいのでしょうか?

本当にこうも馬鹿にされたのは生まれて初めてです、生涯においてこれほど侮辱されたことはありません。

覚えておいてください、私はあなたの事などどうとも思っていなかったのです。

それを露ほども知らずに随分と馬鹿な真似をしてくれたものですよね。



32:書初め(女優になるんだ):2006/12/25(月) 23:31:48.95 ID:Aw9dbBc70
  
最後となりますが、前述通りこの手紙は私からではなく担当の人間に頼んで渡してもらうこととなります。

せめて最後に自分の手からあなたへと渡し、皮肉の一つや二つ添えたいのですが、叶わぬ事のようでとても残念です。

これからあなたは葬儀に火葬と続くことでしょう。

本来ならこの手紙はあなたの棺桶の中に入れて、共に燃え散ってもらいたいのですが、
遺族が認めないでしょうのであなたのお墓が出来てからそちらに添えて頂くように頼むつもりです。

それでは、あなたとの五年間は色々とありましたが今日ようやくその縁が切れて清々としています。

最高のクリスマスを過ごせました、心からありがとう。

そしてさようなら。

もう二度と会うことはないでしょう、ギコ君へ。



           しぃ



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