( ´_ゝ`)ロミオと川 ゚ -゚)ジュリエットのようです

160: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/09/25(金) 00:31:02.10 ID:NudvxiCg0
4.

( ´_ゝ`)「だってお前、そのせいで死んじまったじゃないか。
      俺のせいでお前は死んだんだぞ? 俺の嘘とお前の嘘は訳が違うだろ?」

そうだ。

違う。

(  _ゝ )「俺がもっと早くお前の所から消えていれば……お前に惚れたりなんかしなければ!
      お前は死なないで済んだかもしれないんだぞ?
      それを、俺が、俺のせいでお前はっ!」

椅子の肘掛けを叩き立ち上がる。日光の中に白い埃が舞う。

長い長い回想は終端へと向かって進み、今や現在に巻き取られた。
そして彼女は、いまはもうとっくに口を閉ざしたままだ。



彼女は死に、俺は彼女の仇を取った。
戻ってきて、この部屋の椅子で仮眠を取っていた。



彼女はいない。もうこの世のどこにもいない。そちらの方が夢であって欲しかったが、現実は逆だ。



162: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/09/25(金) 00:33:30.72 ID:NudvxiCg0
彼女のいた部屋。
ベッドの周囲にも黄色いバリケードテープが張り巡らされている。

乾いた血の匂いと汚物の腐臭と埃の臭いだけが残る部屋。
ベッドの染みもそのまま、荒らされた部屋の有様も全くそのままだ。

ベッドには俺と彼女の二人の寝ていた後が凝固した血の中に人型になって残っている。
血液が糊のようにシーツを固めてしまったのだろう。

(  _ゝ )「なぜ言ってくれなかった? なぜ責めてくれなかった?
      気付いていたなら、なぜ言ってくれなかったんだよ! 俺がバカみたいだろうが!」

中央の大の字は彼女のもの。それに寄り添うように横臥するのは俺のもの。

ベッドの足では壊れた四つの手錠が、からん、からんと風に鳴っている。

(  _ゝ )「……俺、モララーを殺してきたよ。お前と同じ目に遭わせてやった。
      お前と同じ痛みを、あいつにも味あわせてやった。けど……」

風がそよぎ、カーテンが揺れる。

シーツの人型は、動かない。

(  _ゝ )「けど……お前は帰ってこない。
      弟の時もそうだった。弟も、帰って来やしない。
      でも、俺は……俺は、どうしても、お前を傷付けた奴が許せなくて、それで……!」

もう彼女は語らない。慰めてくれることもないし俺の代わりに泣いてもくれない。



166: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/09/25(金) 00:36:00.47 ID:NudvxiCg0
ベッドの染みは変わらない。
俺がしたことも変えられない。

死人は答えない。



何も答えない。



(  _ゝ )「……なあ。あの時、俺の嘘がバレたとき、お前は、なぜ笑ってたんだ?
      お前は、俺に何を言いたかったんだ?」

それは分からない。

きっと、生きているうちに分かることは決してないだろう。

(  _ゝ )「今言っても、手遅れなのは分かってる。でも……いいよな、聞いてくれるよな。
      俺の本名。
      ……サスガ、って言うんだ」

立ち上がる。
部屋のドアに向かう途中で、落ちていた本を拾い上げる。

「ロミオとジュリエット」。

それをモララーの家から盗んだコートのポケットにそっと落とす。



169: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/09/25(金) 00:39:02.40 ID:NudvxiCg0
(  _ゝ )「お前の名前も……知りたかった。
      でも、もういい。お前はジュリエット。俺にとっては、そういう名前だ」

情けない、終わりだ。



(  _ゝ )「サスガとジュリエット……そういう物語だった、ってことだよな。
      ベトナム帰りのキチガイと、傷だらけの娼婦の……そんな、話だよな」



ベッドの脇に立つ。バリケードテープを残らず破って窓から投げ捨てる。

ベッドに残る大の字の血痕。その頭の部分をそっと撫でる。
彼女の何かが、まだそこに残っている気がした。

(  _ゝ )「……お休み。さよなら」

部屋を出てドアを閉じる。

風が強い。

アパートメントの長い廊下が、リノリウムの床に壁の模様を映して窓まで続く。
その長い道のりは俺がこれから生きていく道と同じように冷たく堅く、そして冷酷だった。

俺の人生はずっと前から、戦争に行く前からそうだったし、これからも変わることはない。

だが今は冷酷に過ぎた。



173: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/09/25(金) 00:42:39.18 ID:NudvxiCg0
( ´_ゝ`)「お休み、ジュリエット」



もう一度、呟く。
身体は隅々まで知っているのに名は知らない娼婦に、最後の別れの挨拶を。



( ´_ゝ`)「痛かっただろう。苦しかっただろう。
      恥ずかしかっただろう。辛かっただろう。
      でも、もう大丈夫だ。もう、誰もお前を苦しめない。誰もお前の名誉を汚さない」



( ´_ゝ`)「お休み、お前が、安らかに眠りにつけるように。
      毒薬のもたらす偽物の眠りなんかじゃない、苦痛のない、心から安らげる眠りが……、
      お前の上に、ずっと……永遠に……あるように……」



( ;_ゝ;)「……愛してる。
      愛想や義理じゃない。その場凌ぎの嘘なんかじゃなくて、本当に……愛してる。
      一度も本気で言えなかったよな? ごめんな、本当に……ごめんな」



廊下を風が吹き抜ける。
それがあの女が笑う時に漏れる吐息のように聞こえて、俺はドアにもたれて泣いた。



179: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/09/25(金) 00:46:31.21 ID:NudvxiCg0
                  ヴィップ州の街角で出会ったその娼婦には片方の乳首がなかった。

           全身が傷だらけで醜くヤク中のその女を俺はいつの間にか本気で愛していた。

                   けれど女は俺のせいで死んだ。だから俺は女のために復讐した。



        俺は女に嘘を吐き続けてきた。その償いをする機会はもう永遠に失われてしまった。

                毒薬を呷って死んでしまいたいがそれで彼女に会える保証は全く無い。



                                          俺は毎晩天使の夢を見る。

                                      その天使には片方の乳首がない。

夢の中で天使はいつも変わらず優しくて寂しがりやで泣きながら俺が彼女を愛する理由を尋ねる。

       俺はその名前を呼ぼうとしてそれを知らないことに気付き苦い後悔の味で目を覚ます。



                                          俺は彼女の名前を知らない。

                       いつか来る世界の終わりと同じようにそれを知る術はない。

     ただひとつ違うのは、俺は世界の終わりを知り得ないことに絶望はしないということだけだ。



181: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/09/25(金) 00:49:36.91 ID:NudvxiCg0










               ( ´_ゝ`)ロミオと川 ゚ -゚)ジュリエットのようです・終










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