( ・∀・)の暇乞い   (ようです)

5: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2010/11/13(土) 23:56:06.87 ID:QXs9EX5m0





赤い魚が空を泳いだ気がした。
青と赤。対比するコントラスト。醜いようで、美しい。





7: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2010/11/13(土) 23:56:47.77 ID:QXs9EX5m0



                ぶく

ぶくぶ            くぶく


     ぶくぶく                         ぶく。



8: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2010/11/13(土) 23:57:38.38 ID:QXs9EX5m0


( ・∀・)の暇乞い   (ようです)


10: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2010/11/13(土) 23:59:23.82 ID:QXs9EX5m0




ζ(゚ー゚*ζ「あ、これね」

( ・∀・)「ん」

ζ(゚ー゚*ζ「すごい」

( ・∀・)「ん」

ζ(゚ー゚*ζ「完成してたの」

( ・∀・)「ん」

ζ(゚ー゚*ζ「綺麗ね」

( ・∀・)「ん」

ζ(゚ー゚*ζ「お魚」

( ・∀・)「ん」

ζ(゚ー゚*ζ「空を飛ぶ、赤いお魚。とてもきれい」

( ・∀・)「それは君だよ」



11: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2010/11/14(日) 00:00:49.31 ID:TKNZeNPy0

赤い魚が、空を飛ぶ。
手の届かないところで飛んでいる。

僕はそんな魚が、大好きだった。

たぶん、愛。恐らく、恋。

言葉で「I LOVE YOU」と言えるほど軽くはない、愛。
言葉で「月が綺麗ですね」とも言えるほど軽くはない、恋

僕は魚を愛撫するように愛でた。
鋭い爪で、鋭い犬歯で、白く濁った眼で、親を殺すように愛撫した。



12: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2010/11/14(日) 00:02:08.57 ID:QXs9EX5m0


これって最低な行為。

これって凌辱している気分。

きれいな魚を愛撫するのは気持ちがいい。


いつもは手の届かないところにいる魚をこのときだけは独り占めしているのだから。

そんな僕。
なんて最低な奴。



14: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2010/11/14(日) 00:03:44.67 ID:TKNZeNPy0
.



  あさがきて
  ぼくはおきないままで
  おれた あめゐろしたゑふでは
  そのざんしょうが
  じゅーすのよふに とんでつて
  ひかりをゑのぐに
  やさしゐさかなを
  かゐたのです



.

15: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2010/11/14(日) 00:05:09.03 ID:TKNZeNPy0

だから僕は、魚を魚にした。

絶対に手の届かない、赤い、きれいな、さかな。

誰の手にも汚されない魚。

白に生える彼岸花のように映える赤い魚。



16: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2010/11/14(日) 00:07:10.27 ID:TKNZeNPy0
ζ(゚ー゚*ζ「ふふふ」

( ・∀・)「君の赤い髪飾り。それは魚なんだ。君は僕の魚」

ζ(゚ー゚*ζ「この魚、あなたにもらったこれとよく似ているわ」

( ・∀・)「その通り。それをモチーフにしたんだから」

ζ(゚ー゚*ζ「この魚、とても楽しそう」

( ・∀・)「楽しそうかな」

ζ(゚ー゚*ζ「まるであなたみたい」

( ・∀・)「そう」

ζ(゚ー゚*ζ「絵を描いてるときのあなたにすごく似ているわ」

( ・∀・)「そう」



18: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2010/11/14(日) 00:08:44.07 ID:TKNZeNPy0

ζ(゚ー゚*ζ「私にはあなたに見える」

( ・∀・)「僕は君を描いたつもりなんだがね」


僕は魚を思って魚を描いた。

だけど魚は魚を僕だと言った。



僕は僕を描いていたのか。これは魚を思って描いたというのに。



19: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2010/11/14(日) 00:10:19.23 ID:TKNZeNPy0




  そのむかし
  ははがかった おけしやうばこに
  あかゐ あかゐ べにがあったのです
  くるりとゑがくと
  さかなが
  やさしく やさしく
  ほほゑんだのです
  それは ゆふやけのことでした





20: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2010/11/14(日) 00:12:01.47 ID:TKNZeNPy0


変な気分。胸の奥底でもやもやが広がる原理。
吐しゃ物と一緒に吐き出したい気分。
泣きたい気分。
僕をこんな気持ちにさせる魚、なんて最低な奴。



魚を魚自身で否定するなんて、とても悲しい。



21: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2010/11/14(日) 00:13:53.10 ID:TKNZeNPy0


ζ(゚ー゚*ζ「何事にもとらわれなかった、あなたに見えるわ」

( ・∀・)「……」

ζ(゚ー゚*ζ「魚が空を泳ぐって、常識じゃない」

( ・∀・)「……こいのぼりがあるじゃないか」


魚は無視をする。



22: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2010/11/14(日) 00:15:22.84 ID:TKNZeNPy0

ζ(゚ー゚*ζ「常識にとらわれなかったあなたが、魚に見える」

( ・∀・)「……」

ζ(゚ー゚*ζ「魚は空を飛ばない。海を泳ぐ、川を泳ぐ」

( ・∀・)「……」

ζ(゚ー゚*ζ「まるで空へ入水自殺しているようだわ」

( ・∀・)「矛盾だな」

ζ(゚ー゚*ζ「そうよ、これは入水自殺の絵だわ」

( ・∀・)「はははは」

ζ(゚ー゚*ζ「魚が自殺する絵」



23: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2010/11/14(日) 00:17:11.06 ID:TKNZeNPy0
( ・∀・)「……魚は、」

ζ(゚ー゚*ζ「魚は自殺なんてしない、なんて思ってるでしょう」

( ・∀・)「まあね」

ζ(゚ー゚*ζ「私が魚だったら、あなたの手の上で自殺するわ」

( ・∀・)「光栄だね」

ζ(゚ー゚*ζ「知ってる?魚って、人間の体温でやけどしてしまうのよ」

( ・∀・)「だからなんだっていうんだい」

ζ(゚ー゚*ζ「私は、あなたの体温でやけどして、死にたかった」

( ・∀・)「……」



24: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2010/11/14(日) 00:19:16.71 ID:TKNZeNPy0

ζ(゚ー゚*ζ「今では無理だけど。私、こんなんだし」

( ・∀・)「……」


白い海で、赤い魚は泳ぐ。
さみしかろうと、僕のそばで泳ぐ。
魚の涙は、水に滲みながら僕を濡らす。



赤い魚の体は、いつの日か白かった。



25: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2010/11/14(日) 00:21:06.03 ID:TKNZeNPy0
.


  夜がきて
  ぼくはまだおきないままで
  おれたふでを もとうと
  手をのばすのですが
  ぼくの手はもうひれになっていて
  あの日 ははがかってきた
  あかい あかい べにが
  ぼくの手をとっていたのです


.

26: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2010/11/14(日) 00:22:52.46 ID:TKNZeNPy0


魚は、もうそろそろ、行くのだ。
僕はそれをわかっている。だから送りに来たのだ。

僕の手のひらではなく、青い海へ。
魚が本来生きる場所へ。



27: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2010/11/14(日) 00:24:18.49 ID:TKNZeNPy0

ζ(゚ー゚*ζ「好きな人の体温で全身やけどで死亡、最高じゃない?」

( ・∀・)「そうかな」

ζ(゚ー゚*ζ「最高よ。きっと最高。最高で、幸せな死に方」

( ・∀・)「……」

ζ(゚ー゚*ζ「ねえ、聞いているんでしょう」

( ・∀・)「ああ、聞いているよ」



29: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2010/11/14(日) 00:26:03.82 ID:TKNZeNPy0

ζ(゚ー゚*ζ「聞いているのなら、声を聞かせて」

( ・∀・)「……」

( ・∀・)「無理だよ」



30: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2010/11/14(日) 00:28:00.86 ID:TKNZeNPy0
.


  朝がきて
  ぼくは起こされて
  でもぼくは起きなくて
  おれた絵筆のゆくえは
  もうわからなくて
  イルカのジャンプが
  すべてうばっていった


.

31: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2010/11/14(日) 00:29:30.01 ID:TKNZeNPy0


ぶく


                ぶく

ぶくぶ            くぶく         ぶ               く


     ぶくぶく                         ぶく

            ぶ  くぶ                               く。



32: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2010/11/14(日) 00:31:08.98 ID:TKNZeNPy0







33: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2010/11/14(日) 00:33:05.96 ID:TKNZeNPy0

『 次のニュースです。
  昨夜、ラウンジ海にて、男性とみられる水死体を発見しました。
  死体は死後何週間も経っており、遺体の損傷が激しいため身元がわかっておりせん。
  遺体は身長175pほどのやせ形で、絵の具がついた白いTシャツ、黒のジャージを着ていて、手には何かを握っていたということです。
  握っていたものは、海の中へ沈んだものとみられております。
  細い何か……おそらく筆を握っていたのかもしれないという情報です。
  警察当局は事件と自殺、両面から捜査を続けています 』



35: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2010/11/14(日) 00:35:10.59 ID:TKNZeNPy0


( ・∀・)「……」

( ・∀・)「ねえ知ってる?」

( ・∀・)「この絵の題の意味」

( ・∀・)「別れを告げるって意味。人はなんて美しい言葉を創ったんだろう」

ζ(゚−゚*ζ「題名も、なんて悲しい題名。人はなんて悲しい言葉を創ったのかしら」



36: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2010/11/14(日) 00:36:25.87 ID:TKNZeNPy0


そのとき。


ぼおんと一つ、鐘が鳴った。
終わりの音。始まりの音。白い音。



37: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2010/11/14(日) 00:38:03.81 ID:TKNZeNPy0

感光したフィルム。

写っているのは白いさかなと黒い僕。

それから滑り台ときしんだブランコ。

桜の花。

ヒマワリの種。

もみじの落ち葉。

落ちた椿。



38: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2010/11/14(日) 00:39:48.25 ID:TKNZeNPy0





藻の胎児が僕を蝕む。





40: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2010/11/14(日) 00:41:12.58 ID:TKNZeNPy0


ζ(゚ー゚*ζ「時間」

( ・∀・)「……」

ζ(゚ー゚*ζ「私ね、これから幸せになるんだって。大企業の社長の息子と結婚するの。今から。
      お金の不自由もない。料理はしなくていい。掃除もしなくていい。ただ、そこにいるだけなの
      幸せなの」



41: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2010/11/14(日) 00:42:29.16 ID:TKNZeNPy0

 ・∀・)「……」

ζ(゚−゚*ζ「でもあなたがいないの。幸せじゃないの。でも、幸せになるんだって。お父さんが言ってた」

‐∀‐)「……」

ζ(゚−゚*ζ「……モララー」



42: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2010/11/14(日) 00:44:01.95 ID:TKNZeNPy0

∀・)「なんだい」

ζ(゚−゚*ζ「……なんでもないの」

・)「ああ   そうかい」

ζ(゚−゚*ζ「遺書という名のラブレター、うれしかった。…………ただ、それだけ」

)「……」



43: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2010/11/14(日) 00:45:00.45 ID:TKNZeNPy0




「ああ、よかった」




44: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2010/11/14(日) 00:46:03.86 ID:TKNZeNPy0





そのとき

ぼおんと最後の鐘が鳴った。





46: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2010/11/14(日) 00:47:16.32 ID:TKNZeNPy0


.



...


......



拝啓 デレ様へ



47: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2010/11/14(日) 00:48:45.64 ID:TKNZeNPy0

さつきのにおひが
あたりをたちこめて
どろりとした どろどろの そのにおひに
わたしは
けんけん こんこん
けんけん こんこん
せきをして
あなたのてを にぎりながら
さつきのはなを とつたのです
あかゐ あかゐ さかなのような かみかざり
わたしのてで しゅるりととき 
さつきを おしつけたのです



48: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2010/11/14(日) 00:49:55.64 ID:TKNZeNPy0

ああ あのさつきはいまどこへいったのでせうか
耳をすませば
けんけん こんこん
という わたしのせきのこえはきこへるのに
おれんぢにそまつた
あなたのかおは思ゐだせなくて
だけれども
だけれども
あかゐ あかゐ かみかざりは おぼえているのです
あかゐ あかゐ かみかざりは おぼえているのです
まるでさかなのよふでした



49: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2010/11/14(日) 00:51:22.48 ID:TKNZeNPy0

紅をぬつたひ
わたしはいるかのように 飛びあがりました
おれんぢにそまった
あなたが 魚のようだったからです
母の おけしょうばこからは
母の ろーずのこうすいが もれていました
だけれども
わたしは それにきがつかないほどに
いるかのだんすをおどつたのです



50: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2010/11/14(日) 00:52:25.23 ID:TKNZeNPy0

地球が落ちる
重たくのしかかる おえつ
私のように筆を折る人がいて
ああなんとひどいと むせび泣く
そのあとはぐんじょう色のカサ まわしながら
なみだでぬれた歩道まで行って
空は あなたで
私は 海
あとはイルカのようにさようなら



敬具 モララー



52: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2010/11/14(日) 00:53:42.68 ID:TKNZeNPy0







―――追伸



53: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2010/11/14(日) 00:55:30.53 ID:TKNZeNPy0

皐月は消えます
さよならも言わずに消えます
どうか責めないでください
それがよかったのです
それがよかったのです
残滓は残しません
しかし
少しだけでもいいので 皐月の残香は覚えていてください
それが私の暇乞いだと思ってください



54: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2010/11/14(日) 00:56:52.29 ID:TKNZeNPy0




おわり




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