('A`)が入山したら案の定衆道だらけだったようです

1: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2011/02/05(土) 21:35:08.46 ID:Y/PyUVPA0



                     『衆道』


   若衆道の略語。男性における同性愛・少年性愛の形式あるいはそのものを指す。
   主に女犯を忌避し禁欲生活を強いられる僧たちの間で流行した独自の男色文化。



 



3: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2011/02/05(土) 21:40:51.27 ID:Y/PyUVPA0
〜柔即山毘譜寺〜


(´・ω・`)「それではドクオさん」

('A`)「はい」

(´・ω・`)「今日よりあなたには我々雲水とともに修行をしてもらいます」

('A`)「はい」

(´・ω・`)「……三年、でしたか」

('A`)「そうです」

(´・ω・`)「禅僧に混じっての生活、あくまで出家ではないゆえ、何も開眼せよとは申しません」

(´・ω・`)「しかし己を見つめ直し大悟してもらえれば、それに如くことはありませぬ」

('A`)「努力はします」



4: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2011/02/05(土) 21:44:46.52 ID:Y/PyUVPA0
(´・ω・`)「では改めて意気込みをお聞かせ願いたい」

('A`)「分かりました」

('A`)「えー、自分はこれまでのだらけきった生活に終止符を打ち」

('A`)「こちらのお寺にて精神の鍛練を積ませていただくべく……」

('A`)「修行を希望しました」

(´・ω・`)「成程。結構結構」

('A`)「しかし、あのー、諸梵和尚」

(´・ω・`)「なんですかな?」

('A`)「大変申し上げにくいことなんですけれども……」

(´・ω・`)「なんでも遠慮なさらずお話なされ」

('A`)「オナニーも禁止なんですかね?」

(´・ω・`)「は?」



5: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2011/02/05(土) 21:49:57.60 ID:Y/PyUVPA0
('A`)「ですから自分でシコシコぴゅっぴゅすることです」

(´・ω・`)「残念ながら自慰行為は忌むべきものとされております」

('A`)「やはりですか……」

('A`)「ですがこれを禁じられると私の人生の存在意義が……」

(´・ω・`)「そうした煩悩を振り払うための修行である」

('A`)「ですよね」

(´・ω・`)「しかしながら禁忌事項でがんじがらめと言う訳でもない」

(´・ω・`)「最近は妻帯も肉食も許されております」

('A`)(妻とか俺にゃまるで関係ない話だな……)

(´・ω・`)「とはいえこちらの寺では旧来の修行様式を守り続けておるのです」

(´・ω・`)「規律には従っていただきたい。よろしいかな」



6: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2011/02/05(土) 21:54:17.22 ID:Y/PyUVPA0
('A`)「承知しました」

(´・ω・`)「うむ」

(´・ω・`)「それではドクオさん」

(´・ω・`)「あなたはこれより毒念と名乗りなさい」

('A`)「えっ?」

(´・ω・`)「私は只今より本名ではなく毒念と呼びますので」

('A`)「まだ正式に仏道に入ると決めたわけじゃないですよ」

(´・ω・`)「ですがこの場所での扱いは我々と同じ」

(´・ω・`)「名を一時預け、寺院に馴染んでもらったほうが何かと都合がよろしい」

('A`)「はあ」

('A`)(ネトゲみたいに自分で決められないのか……)



7: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2011/02/05(土) 21:58:59.57 ID:Y/PyUVPA0
(´・ω・`)「では……おい」パンパン

(*゚ー゚)テッテッテッ

(*゚ー゚)「はい!」

(´・ω・`)「今から毒念さんに寺の内部を案内してあげなさい」

(*゚ー゚)「心得ました」

('A`)「……あの」

(´・ω・`)「なんでしょう?」

('A`)「この方は、というかこの子は……尼僧かなにかですか?」

(´・ω・`)「いえいえ立派な小僧でこざいます」

('A`)(男かよ!)

('A`)(この顔でちんちん付いてるのは神様の悪ふざけだろ……)



9: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2011/02/05(土) 22:05:28.76 ID:Y/PyUVPA0
('A`)「えーと、名前は」

(*゚ー゚)「椎伊でございます。先日十三を迎えました」

('A`)「十三歳って、義務教育は」

(´・ω・`)「椎伊はみなしごなのです」

(´・ω・`)「赤子の頃に寺の前に預けられておりました」

(´・ω・`)「戸籍もありませぬゆえ」

('A`)「はあつまり、純粋な寺育ちと」

(´・ω・`)「その通りです。幼少から紳士に修行に励む、いやはや立派な僧ですよ」

(*゚ー゚)「私の素性は分かってもらえたと思います」

(*゚ー゚)「それでは参りましょう。後ろからついてきてください」

('A`)「お、おう」

('A`)(ケツちっちゃいな……)



10 :紳士→真摯:2011/02/05(土) 22:11:05.90 ID:Y/PyUVPA0
(*゚ー゚)テクテク

('A`)「……あのさあ」

(*゚ー゚)「はい?」

('A`)「ちょっとさっき聞けなかったんだけど……諸梵和尚って何者なんだ?」

('A`)「なんか何考えてるか全然読めないんだけど……」

(*゚ー゚)「諸梵様はこの寺の管主……貫首・住持・住職ともいいますが」

(*゚ー゚)「要するにこの寺の頂点に座する方なのです」

(*゚ー゚)「本来なら下山して禅を広める立場にいるべきお方なのですが……」

('A`)「ですが?」

(*゚ー゚)「悟りに至らぬ私たちのために残ってくださっているのです」

('A`)「ふうん」



13: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2011/02/05(土) 22:18:22.16 ID:Y/PyUVPA0
(*゚ー゚)「まずは六知事の紹介からさせていただきます」

(*゚ー゚)「寺の造りは前日見学で既に把握していらっしゃるでしょうから」

('A`)「六知事ってなんだ?」

(*゚ー゚)「噛み砕いて答えますと……禅寺には寺院経営を担当する重要な役職が六つありまして」

(*゚ー゚)「その位に就いておられる六名を総称して六知事と呼ぶのです」

(*゚ー゚)「いずれも徳の高い僧侶がなります」

('A`)「なるなる、諸梵和尚が社長とするとそれに次ぐ幹部が六人ってことか」

(*゚ー゚)「どういう意味でしょうか? なにぶん不勉強でして……」

('A`)「ああ気にしないでくれ」

('A`)(そうかあ、ずっと寺にいたから社会のこととか分かんねえんだな)

('A`)(しかしケツちっちぇえな……)



17: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2011/02/05(土) 22:25:11.35 ID:Y/PyUVPA0
(´<_` )「おう椎伊じゃないか。どうした」

(*゚ー゚)「あっ、弟蛇和尚! ちょうどいいところに」

(´<_` )「おお、そのお方が今日から我々と一緒に修行するという」

(*゚ー゚)「はい。毒念さんです」

('A`)「よ、よろしくお願いします」

(´<_` )「そう肩肘張りなさるな、毒念殿」ポンッ

('A`)「あ、はい。ちょっと力抜いときます」

(´<_` )「うむ」

('A`)(顔つきからすると四十くらいかな……)

('A`)(しかし袈裟の上からでも分かる歳相応でない筋肉……こいつは明らかに鍛えている)

('A`)(肩叩かれた時痛かったし……)



19: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2011/02/05(土) 22:31:59.46 ID:Y/PyUVPA0
(*゚ー゚)「弟蛇和尚は六知事の一人、典座であられます」

('A`)「『てんぞ』ってなんだ?」

(*゚ー゚)「ええとですね、私たち雲水の食事全般と御仏への供え物の準備を司る……」

(´<_` )「簡単にいうとコックさんだよ」

('A`)「そいつは分かりやすい」

(´<_` )「飯炊き坊主だ。大した僧じゃない。諸梵様のように偉くなんてないぞ」

(´<_` )「だから毒念殿も余計な気づかいは要らぬぞ」

('A`)「はっはい」

('A`)(いい人だなー)

('A`)(人に優しくされたのって……いつが最後だっけ……)

('A`)(……横断歩道のみどりのおばちゃんかな……)



20: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2011/02/05(土) 22:38:48.45 ID:Y/PyUVPA0
(´<_` )「じゃあ自分は薬石のこしらえがあるから」

(*゚ー゚)「はい。お勤め頑張ってくださいな」

('A`)「薬石というのは」

(*゚ー゚)「夕食のことです」

(*゚ー゚)「毒念様は入山前に腥の類を喰いだめしたと聞いていますから不要でしょうが」

('A`)「焼き鳥はやっぱ塩だよ塩」

(*゚ー゚)「……弟蛇和尚はあんなことを言っていましたけど」

(*゚ー゚)「事実上の寺内五番目ですからね」

(*゚ー゚)「管主の諸梵様は既に修行ではなく教えを導く立場にいますから」

('A`)「それで実質五位か」

('A`)(生活の根幹である食事に携わってるんだから……実際の権力はもっと上に違いない)

('A`)(……媚びるか)



23: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2011/02/05(土) 22:46:43.51 ID:Y/PyUVPA0
(*゚ー゚)「では次の知事のところへ行きましょう」

('A`)「……ってなんで建物の外に出るの?」

(*゚ー゚)「おそらく今頃は外におられるでしょうから」

(*゚ー゚)「あっ、いましたよ。茂羅和尚ー!」

( ・∀・)「やあ椎伊くん。どうしたのかね新顔を連れて」

(*゚ー゚)「挨拶回りです。こちらが毒念さん」

( ・∀・)「ほう。君が修行を積みたいと願書を出してきた者か」

(*゚ー゚)「毒念様もなにかお言葉を」ボソッ

('A`)「ど、ども」

(*゚ー゚)「もっとはっきりと喋らないと駄目ですよ」ボソッ

('A`)「この俺に目を見て話せと言うのか……」



26: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2011/02/05(土) 22:53:44.38 ID:Y/PyUVPA0
(*゚ー゚)「こちらは監寺の茂羅和尚」

(*゚ー゚)「六知事のうちの上位三つは、昔は監寺のひとつでまとめていまして」

(*゚ー゚)「そこから三つに役職を分割したそうです」

('A`)「ほう」

('A`)(眠い)

(*゚ー゚)「近年はまた統合して監院、そして補佐する副監院と分けるのが主流です。しかし」

(*゚ー゚)「諸梵様もおっしゃられましたが毘譜寺では古くからの様式を保持し続けていますので」

(*゚ー゚)「役職の数も従来のままになっているのです」

('A`)「なるほど」

('A`)(眠気が加速する)



28: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2011/02/05(土) 22:59:12.81 ID:Y/PyUVPA0
(*゚ー゚)「監寺の仕事は寺院自体の監督官です」

( ・∀・)「読んで字のごとくだね。つまりはお寺の管理人」

(*゚ー゚)「六知事で監寺より上の重職は都寺だけです」

('A`)(ということはこの男が組織のナンバー2……)

('A`)(ならばこっちに媚びたほうが得策か……)

('A`)「……でも随分お若く見えますけど」

( ・∀・)「今年でようやく三十歳になるよ」

( ・∀・)「まあ僕の場合は入山が早かったからね。十五でここに来た」

('A`)「それにしてもその歳で監寺……凄いですね」

(*゚ー゚)「序列に年齢は関係ありません」

(*゚ー゚)「もっとも出家してからの日数もそれほど関係はありませんけれど」



30: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2011/02/05(土) 23:05:06.41 ID:Y/PyUVPA0
('A`)「しかし中卒でお坊さんとは……なんか妙な世界だな」

(*゚ー゚)「十五で寺に入る方はそれなりにはいます」

(*゚ー゚)「元々仏寺は稚児などを養う場でもありましたし、それだけの器量はあります」

('A`)(ああ、そういえば椎伊は……)

( ・∀・)「ただ若い子の中には、修行が辛くて脱走する人も多いけどね」

('A`)「そんなことして許されるんですか」

( ・∀・)「無論。来る者は拒まず、去る者は追わず」

( ・∀・)「これが禅宗の基本だからさ」

( ・∀・)「煩悩を捨てれずに我を失って逃げ出す雲水もいるけど」

( ・∀・)「そうした人たちを咎めたりはしないんだ」

('A`)「へえ……」



34: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2011/02/05(土) 23:11:47.73 ID:Y/PyUVPA0
(*゚ー゚)「それでは次へ。副寺の譲留和尚の元へ参りましょう」

('A`)「ん? その人はなんか聞いたことがあるな」

(*゚ー゚)「でしょうね。譲留和尚はよく山を下りて町中での作務も行っていますから」

('A`)「あー思い出した。あれだ、『イケメン坊主』とかいう」

('A`)「雑誌とかテレビで見たぞ」

(*゚ー゚)「それです。単語の意味はよく分かりませんが……」

(*゚ー゚)「ともかく、寺の名前と禅を広める活動をされておられるのです」

('A`)「広報マンってわけか」

(*゚ー゚)「副寺とは金銭や収穫の高の計上を担当する役職なのですが」

(*゚ー゚)「この頃はそれだけでなく外に目を向けることを譲留和尚は心がけているようです」

('A`)「ほうほう、会計が本業なのね」



36: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2011/02/05(土) 23:17:15.07 ID:Y/PyUVPA0
(*゚ー゚)「……それと、あまり大きなことでは言えないのですが」

(*゚ー゚)「譲留和尚は他山からこちらに移ってきた僧なのです」

('A`)「ってことは、改宗したのか?」

(*゚ー゚)「なんでも諸梵和尚が直々に勧誘したそうで」

('A`)「そんなのありなのかよ……」

(*゚ー゚)「他山の僧を招くことはよくある話でございます」

(*゚ー゚)「それだけ譲留和尚が優れた仏僧だということなのでしょう」

('A`)「なるほどねぇ」

(*゚ー゚)「管主様の中には見知らぬ血を導入するという狙いもあったのではないでしょうか?」

(*゚ー゚)「禅は永遠に古くそして常に新しくあるべきなのです」

('A`)「十三歳に禅問答されてるのか俺は」



40: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2011/02/05(土) 23:23:55.58 ID:Y/PyUVPA0
( ゚∀゚)サッサッサ

(*゚ー゚)「あっ、あちらで埃を掃いておられますね」

(*゚ー゚)「譲留和尚ー!」

( ゚∀゚)「んっ? ああなんだ椎伊か。それと知らない男」

('A`)「あっ、どうも。毒念です。今日からしばらくお世話になります」

( ゚∀゚)「ほーう。俺は副寺の譲留だ。よろしく」ガシッ

('A`)(なんて自然な握手。これは間違いなくコミュ力最高峰)

('A`)(歳は雑誌情報だと三十半ばだが……生で見るとマジイケメンだな……)

('A`)(イケメンっていうか美しいな……)

('A`)(肌もつやつやしてるし顔立ちなんか西欧人っぽくすらあるし)

('A`)(美しすぎるお坊さん……)

('A`)(金の臭いがしてきたな……)



43: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2011/02/05(土) 23:28:55.00 ID:Y/PyUVPA0
( ゚∀゚)「……しかし……」

(*゚ー゚)「どうかなされましたか?」

( ゚∀゚)「俺ら雲水に混じって修行するには、少々貧弱すぎるな」

('A`)「じ、自分のことですか?」

( ゚∀゚)「そうだ。もっと鍛えねば頓悟の機は訪れぬぞ」

( ゚∀゚)「健全な精神は健全な肉体に宿るからな」

('A`)「はあ……」

( ゚∀゚)「それじゃ、俺はこのへんで。膳を並べる手伝いでもしてこよう」

(*゚ー゚)「あの、今日は単には……」

( ゚∀゚)「上がらないよ。今日もな」

(*゚ー゚)「そうですか……」



44: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2011/02/05(土) 23:33:58.82 ID:Y/PyUVPA0
(*゚ー゚)「はあ……」

('A`)「どうかしたか」

(*゚ー゚)「いえ、あの」

(*゚ー゚)「こう言うのは若干適切ではない気もしますけれど……」

('A`)「そうやって含みを持たされたら気になるじゃないか」

(*゚ー゚)「その……譲留和尚は……いささか僧の中でも異端でして」

('A`)「まあなーメディアとかに露出してるくらいだし」

(*゚ー゚)「それだけではございません。ほとんど座禅を組まないのです」

('A`)「なんだそりゃ?」

(*゚ー゚)「あの方にとって悟りの境地に至る手段は『頓悟』なのです」



47: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2011/02/05(土) 23:38:56.12 ID:Y/PyUVPA0
('A`)「なんだその『とんご』ってのは」

('A`)「アフリカの共和国にありそうな響きだけど」

(*゚ー゚)「頓悟とは段階を踏まず一挙に悟りを開くことです」

(*゚ー゚)「閃きに近いとでも申しましょうか……」

(*゚ー゚)「日々の修行の中で咄嗟に悟る、という概念の中で生活していらっしゃるのです」

('A`)「へー、そんな考え方もあるのか」

(*゚ー゚)「そうなのです」

('A`)「……で、それになんか問題でもあるのか?」

(*゚ー゚)「それは……次の知事の方に会ってから話しましょう」

(*゚ー゚)「次は維那の擬古和尚です」



51: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2011/02/05(土) 23:47:19.76 ID:Y/PyUVPA0
('A`)「いの、とは?」

(*゚ー゚)「維那は雲水の修行を監視し、作法を伝授する役職のことです」

(*゚ー゚)「皆の模範となる僧侶ですね」

(*゚ー゚)「その他にも挙経を務めたり……いろいろと気苦労が多いそうでして」

(*゚ー゚)「あ、挙経とは読経の際に唱え始めを任されることです」

(*゚ー゚)「六知事では四番目にあたりますよ」

('A`)(風紀委員だな)

('A`)(それにしても風紀委員という言葉が醸し出すエロさは異常だ)

('A`)(生徒会と並んで何やってるか謎なのに異常にラノベ登場率の高い委員会)

('A`)(それが風紀委員)

(*゚ー゚)「今は擬古和尚は単に向かってらっしゃるかと思いますが……」



52: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2011/02/05(土) 23:51:51.38 ID:Y/PyUVPA0
('A`)「つーことで禅堂にまでやってきたが……」

(*゚ー゚)「あ、いましたね」

(,,-Д-)「……」

(*゚ー゚)「申し訳ありませんが、少し声を落としてください」ボソッ

('A`)「なんでまた」

(*゚ー゚)「擬古和尚が瞑想に入られていますので邪魔をしてはいけません」

(,,-Д-)「……」

('A`)「すげー、まったく動かない」

(*゚ー゚)「……本当は座禅を行う時間帯ではないのですが……」

('A`)「じゃあなんで未だに続けてるんだ?」

(*゚ー゚)「擬古和尚は日の大半を座禅に費やすのです」



53: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2011/02/05(土) 23:59:42.03 ID:Y/PyUVPA0
(*゚ー゚)「只管打坐、という言葉を知っていますか?」

('A`)「舐めないでいただきたい。そのぐらいは学校で教わってるぞ」

(*゚ー゚)「あれは元来初心者向けの方便だったのですが……」

(*゚ー゚)「擬古和尚はまさしくそれなのです」

('A`)「ちょっと待てよ、初心者向けなんだろ」

('A`)「この寺のトップクラスがそんなことに執着する必要あるのか」

(*゚ー゚)「違うのです。擬古和尚はあくまで外面だけを捉えた時にそう映るだけなのですよ」

(*゚ー゚)「実際はもっと深い考えがあって座禅をしているのでしょう」

(*゚ー゚)「擬古和尚にとっての悟りとは『漸悟』……徐々に大悟に近づくことなのです」

(*゚ー゚)「積み重ねの中で答えを自ずから見出していく……」

(*゚ー゚)「譲留和尚とは、真逆、ですね」



54: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2011/02/06(日) 00:05:33.31 ID:I5ZkQb6J0
('A`)「なんかつかめてきたぞ」

('A`)「あれだ、二人は仲がよろしくないんだろ」

(*゚ー゚)「まさしくその通りでして……」

(*゚ー゚)「お互いの悟りに対する認識の相違が大きな障害となっているのです」

(*゚ー゚)「噂では、雲水内で派閥にも別れているとか」

('A`)「マジかよ……ドロドロしてんな」

ゴーンゴーン

('A`)「お、鐘が鳴った」

(*゚ー゚)「そろそろ食事の時間というわけです」

(,,゚Д゚)パチッ

(*゚ー゚)「擬古和尚が目を開けました。くれぐれも粗相のないよう」

('A`)「いっ、いきなりそんなことを言われてもだな、君ィ」



57: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2011/02/06(日) 00:11:02.12 ID:I5ZkQb6J0
(,,゚Д゚)スタスタ

('A`)(や、や、やべぇ、近づいてきた。威圧感半端ない)

('A`)(しかしこの人もイケメンだな……譲留和尚とはタイプは違うが……)

('A`)(なんていうかワイルドだな……)

(,,゚Д゚)「おい」

('A`)「ひゃ、ひゃはあいっ!」ビクンッ

(,,゚Д゚)「そなたではない。椎伊よ」

(*゚ー゚)「なんでございましょうか?」

(,,゚Д゚)「伴っているのは誰だ」

(*゚ー゚)「今日から修行道に入られる毒念さんです」

('A`)「え、まあ、そういうことです……」

('A`)(そのぐらい俺に直接尋ねたらいいだろ……)



58: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2011/02/06(日) 00:16:19.77 ID:I5ZkQb6J0
(,,゚Д゚)「そうか」

(*゚ー゚)「これからどちらへ?」

(,,゚Д゚)「決まっておる。薬石だ。昏鐘が聴こえたのでな」

(*゚ー゚)「左様ですか。では私も後で本堂に向かいます」

(,,゚Д゚)「うむ」スタスタ

(*゚ー゚)「……行きましたよ」

('A`)「あああああ緊張したああああああ」

('A`)「あの人絶対俺とかいうどうしようもないゴミクズを受け入れてないよ……」

(*゚ー゚)「そんなことはないと思いますが」

('A`)「いいやあの目は確実に畜生を見つめるような目だった」

(*゚ー゚)「そこまで卑下しなくても……」



61: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2011/02/06(日) 00:22:37.11 ID:I5ZkQb6J0
(*゚ー゚)「あとは直歳と都寺ですね」

('A`)「その前に椎伊は飯食いに行かないでいいのか?」

(*゚ー゚)「少し時間をずらします。諸梵和尚の言い付けなので」

('A`)(ええ子や……)

('A`)(ケツがますます引き締まって見える……)

(*゚ー゚)「廊下で薬石を頂きにいく僧とすれ違うと思いますが、会釈程度はお願いします」

('A`)「会釈ね。そんぐらいなら……ん?」

( ^ω^)「あ」

('A`)「……」

('A`)「……どうも」

( ^ω^)「……どうも」



62: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2011/02/06(日) 00:26:47.19 ID:I5ZkQb6J0
( ^ω^)スタコラ

('A`)サッサ

(*゚ー゚)「あの、蓬莱和尚となにか?」

('A`)「……いや、別に」

(*゚ー゚)「そうですか。あっ、それより」

(*゚ー゚)「正面から直歳の兄蛇和尚が来ましたよ! 行きましょう!」タッタッ

( ´_ゝ`)「んー? なんだ椎伊じゃないか」

(*゚ー゚)「お勤めご苦労様です、兄蛇和尚」

( ´_ゝ`)「いや大して仕事なんてなかったんだが……それよりそいつ誰よ?」

('A`)「ど、どうも、本日から厄介になります毒念です」



64: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2011/02/06(日) 00:35:03.13 ID:I5ZkQb6J0
(*゚ー゚)「兄蛇和尚は弟蛇和尚の実の兄です」

('A`)「どうりで顔が似てると思ったら」

('A`)(しかし弟蛇さんと比べたら筋肉質じゃないな)

(*゚ー゚)「毘譜寺の直歳ですね」

(*゚ー゚)「直歳とは叢林、つまり僧たちが暮らすこの寺院の修理や整備を担当なさっています」

('A`)「しっすいって名前の雰囲気はダントツかっこいいな」

(*゚ー゚)「六知事の一人ですね」

( ´_ゝ`)「六知事といっても一番下だからな。そう他の雲水と変わらん」

(*゚ー゚)「それは自虐が過ぎます。兄蛇和尚のおかげで私たちは安心して暮らせてるんですから」

(*゚ー゚)「皆が皆感謝していますよ」

( ´_ゝ`)「んなこたないよ」



67: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2011/02/06(日) 00:41:14.06 ID:I5ZkQb6J0
( ´_ゝ`)「それより飯だ。二人とも早いとこ本堂に行くぞ」

( ´_ゝ`)「せっかく弟がうまい料理を作ってやってるんだからな」

(*゚ー゚)「毒念さんは入山前に昼食と同時にお召し上がりになっているそうなので」

( ´_ゝ`)「じゃあ椎伊だけでいいや。行こ行こ」

(*゚ー゚)「いえ、まだ都寺の荒巻和尚に会っていませんから」

( ´_ゝ`)「荒巻のおっさんはもう寝ちゃったよ。起きてたのは三時の茶礼までだった」

(*゚ー゚)「うう……なんとなく、予測はできていた事態ですが……」

( ´_ゝ`)「んじゃ大人しく食事しとけ」

(*゚ー゚)「はあ……そうですね。そうさせていただきます」

(*゚ー゚)「それでは毒念様」

('A`)「えっ? このタイミングで俺?」



70: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2011/02/06(日) 00:47:47.83 ID:I5ZkQb6J0
(*゚ー゚)「私たちは本堂で薬石を頂いてきますので」

(*゚ー゚)「あとは解定……ええと消灯までの間ご自由になさってください」

('A`)「急に言われても何すりゃいいのか」

(*゚ー゚)「せっかくですので単に上がってみてはいかがでしょう?」

('A`)「一切の知識なしでやっていいのかよ……」

(*゚ー゚)「あくまでもひとつの案ですよ。本気になさらずにしてくださいな」

(*゚ー゚)「では、また明日の朝に」

( ´_ゝ`)「あー今日は味噌汁の具がわかめだったらいいなー髪欲しいよなー」スタスタスタ

('A`)「……」

('A`)「一人になった……」

('A`)「さて……どうしようか」



72: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2011/02/06(日) 00:52:16.71 ID:I5ZkQb6J0
('A`)「手荷物とかもねぇし……運ぶものとか何もないな」

('A`)「完全にゼロからのスタートなわけだ」

('A`)「……んん?」

( ^ω^)「!」ビクッ

('A`)「……」スタスタ

( ^ω^)「……」

('A`)「蓬莱和尚」

( ^ω^)「な、なんですかな? 毒念殿」

('A`)「……ブーンでいいよな」

( ^ω^)「そうしてくれお。そっちのほうが気が楽だお」



74: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2011/02/06(日) 00:56:50.35 ID:I5ZkQb6J0
('A`)「中学以来か」

( ^ω^)「てかなんでドクオがこんなところにいるんだお」

('A`)「こっちのセリフだろそりゃあ」

('A`)「お前こそなんで寺なんかにいるんだ。頭丸めてよー」

( ^ω^)「……出家したんだお。中学校卒業後」

('A`)「そういやお前高校行かなかったんだよな」

( ^ω^)「元々母子家庭だったし……それに母ちゃんも中二の時に死んだから」

( ^ω^)「ハナから進学は諦めてたんだお」

('A`)「だとしても仏教徒になるかねぇ。普通に働いたんでいいだろ」

( ^ω^)「生活できるならどこでもよかったんだお」

( ^ω^)「変にブラックな企業に勤めるぐらいなら寺のほうが安寧できるお」



77: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2011/02/06(日) 01:00:54.03 ID:I5ZkQb6J0
( ^ω^)「そっちこそどうなんだお」

( ^ω^)「剃髪してないってことは僧になったというわけじゃなさそうだし」

('A`)「いや、俺は……単に修行目的で」

( ^ω^)「修行?」

('A`)「俺高校出てから就職もせずブラブラしててさぁ」

('A`)「四、五年ぐらいそうしてたらさすがに親もぶちきれて」

('A`)「この腐った心身を叩き直すために寺に入れられたわけよ」

( ^ω^)「戸塚ヨットスクール感覚かお」

('A`)「みたいなもんだ」

( ^ω^)「あれのせいで横浜市戸塚区がいわれのない中傷を受けたお」

('A`)「まったくの無関係なのにな」



79: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2011/02/06(日) 01:07:10.28 ID:I5ZkQb6J0
( ^ω^)「何年寺にいるつもりなんだお」

('A`)「一応、三年」

('A`)「でもま、多分三年後には俺も出家の道を選んでると思うわ」

( ^ω^)「なんでだお?」

('A`)「だって現実世界に戻ったところで……」

('A`)「学歴なし職歴なし資格なしの男にマトモな就職口なんてあるわけないだろ……」

( ^ω^)「気が滅入る話はやめろ」

( ^ω^)「まあ二十代半ばでの出家なら早いほうだお」

( ^ω^)「決断としちゃあ悪くないと思うお」

('A`)「本当か!」

( ^ω^)「動機はともかくとして」



82: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2011/02/06(日) 01:15:44.42 ID:I5ZkQb6J0
( ^ω^)「十代で入山した人たちは僕始め数人いる」

( ^ω^)「というか現在進行形でまだ十代の雲水もいるお」

( ^ω^)「だけど大半は人生の途中でつまずいて最終手段として寺に来る人ばかりだお」

( ^ω^)「いろんな人たちがやってくる。駆け込み寺とはよく言ったもんだお」

('A`)「中卒のくせにずいぶんと客観的な視野を持ってんな」

( ^ω^)「うるせえ」

( ^ω^)「けど六知事の方々はさすがにエリート揃いだお」

( ^ω^)「擬古和尚なんかはもっとも大悟に近い僧だと寺内じゃ評判だお」

('A`)「諸梵和尚じゃないのか?」

( ^ω^)「うちの管主は一番悟りから遠くにいる人だお」

( ^ω^)「あの人はもう通り過ぎちゃったんだお」



84: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2011/02/06(日) 01:21:17.12 ID:I5ZkQb6J0
( ^ω^)「……とまあ、世間話はここまでにして」

( ^ω^)「夕ごはん食べてくるお」

('A`)「もう言っちゃうのか?」

('A`)(久々に会えてちょっと嬉しかったんだけどな……)

( ^ω^)「腹は減るんだおこっちだって」

( ^ω^)「大体お前口からニンニクの臭いがするんだお。挑発してんのかお」

('A`)「シメに食べたガーリックステーキは最高でした」

( ^ω^)「その想像だけで飯が食えそうだお」

('A`)「でもよ、お前、中学時代より大分ガタイよくなってんじゃん」

('A`)「肉や魚食ってないのになんでそんな筋肉付くんだよ」

( ^ω^)「畑の肉を甘く見るなお」



86: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2011/02/06(日) 01:25:44.65 ID:I5ZkQb6J0
( ^ω^)「じゃっ、そういうことで」ピューッ

('A`)「行っちまった」

('A`)「さーてと……」

('A`)「ぶっちゃけ……寝るまでやることねぇよな……」

('A`)「消灯は九時だったか……小学校三年生みたいなライフスタイルだ」

('A`)「……」

('A`)「……少し体でも動かすか」

('A`)「せっかくの山なんだし斜面を上り下りしよう」

('A`)「……」ザッザッ

('A`)「二往復でばてた……俺どんだけ足腰弱いんだよ……」

('A`)「やめやめ。寝るまで時間を無駄遣いしてやる」



87: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2011/02/06(日) 01:33:02.42 ID:I5ZkQb6J0
〜消灯後〜


('A`)「なんとなく流れで椎伊とブーンの間に布団を敷いてしまった」

( ^ω^)「ぐごおおおおおおおおおがぎおおおおおあああああ」

('A`)「こいつはもう寝てるし……」

('A`)「しかし九時か……下の世界じゃまだまだガンガン目が覚めてる時間だぜ」

(*゚ー゚)「私たちは三時に起きてますから、もう眠くて仕方ありません……」

('A`)「でもまだ袈裟を着たままの人がいるんだが」

(*゚ー゚)「あれは……ふわあ、夜座ですね。明かりを消した後も座禅を行うのです……」

('A`)「殊勝な連中だな……」

(*゚ー゚)「私などはまだ不徳ですから……ふみゅ……そこまではできません……」

(*゚ー゚)「おやすみなさい……」Zzz...

('A`)「寝つき早っ! まあそんだけ疲れてるってことなんだろうけど」



91: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2011/02/06(日) 01:44:50.72 ID:I5ZkQb6J0
('A`)「俺もさっさと眠っちまおう」

('A`)「三時起床なんてめざましテレビの大塚さんクラスの大業だ」

('A`)「羊がいっぴーき羊がにひーき……ん?」

('A`)「なんか……禅堂のほうから声がしてる?」


「伊陽よ、なぜ手を解かない。なぜ今更になって拒む必要がある」

「なりませぬ、和尚様。今宵は――いけませぬ」

「五濁悪世いかにして過ぐべき。暗い世に陽の光が不可欠なのだ。さあ」

「あっ……」


('A`)(おっ、おい)

('A`)(これってあれじゃん)

('A`)(あれじゃん!)



94: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2011/02/06(日) 01:51:47.74 ID:I5ZkQb6J0
「和尚様――」

「綺麗だ。もう何度触れたか知れぬ。しかし未だ飽くことを覚えず」

「いけません、いけません」

「だがこの身体の震えは拒絶ゆえではない……歓喜にむせび泣いておる。
 声を――聴かせてほしい。拙僧の耳に届かせてくれ」

「ああっ」


('A`)(やられてるのは……若い、いやむしろ、少年みたいな声だ)

('A`)(なんで甘美な嬌声……じゃなくて)

('A`)(え、なに、普通にホモがいるの、ここ?)


「これもっと肛門を気張らぬか!」

「ぬふうぬふう」


('A`)(もう一組だと!?)



100: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2011/02/06(日) 02:00:32.52 ID:I5ZkQb6J0
('A`)(声だけならまだ我慢できる……)

('A`)(しかし……ぐちゅぐちゅとかぬぷぬぷとかいう……)

('A`)(水気を含んだ効果音はやめろっ……!)

('A`)「くっ……」キョロキョロ

('A`)(……周りにいる奴は……気付いてるのか……狸寝入りか……)

('A`)(いずれにせよ……)


「ああ! 和尚様っ、そこは、なりません!」

「拙僧は、否拙僧とそなたは、今まさに流連の狭間に活命の息吹を実感しておるぞ――」


「おおこれはよい! 格段と圧が増した!」

「うほおおおおお!!」


('A`)(この状況で……寝るのは無理……つーか怖い……)



102: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2011/02/06(日) 02:07:23.64 ID:I5ZkQb6J0
〜翌日、午前三時〜


ゴーンゴーン

('A`)「うふふ……鐘が鳴ってますわ……」

(*゚ー゚)「ふわ〜……むにゃん……あっ、毒念様、お早いですね」

(*゚ー゚)「つい先ほど暁鐘が鳴ったばかりですのに」

('A`)「起きたというか寝てないというか……」

('A`)「君のような純粋な少年には実に伝えにくい理由がありましてね」

(*゚ー゚)「はあ……ともかく、朝の粥まで少し時間があります」

(*゚ー゚)「私は朝課で少し用事がありますので」

(*゚ー゚)「粥座の後で荒巻和尚の元に参りましょう。あのお方は朝はお元気ですよ」

('A`)「あ、ああ、了解」



103: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2011/02/06(日) 02:12:58.27 ID:I5ZkQb6J0
('A`)「……」

('A`)「さて……約一名を除き全員起床して朝の務めに向かったようだが」

('A`)「おい」

( ^ω^)「ぐーすかー」

('A`)「とっくに分かってんだぞ。ブーン起きてんだろ、おい」

( ^ω^)「……なんだお」

('A`)「ちょいとばかり質問がある」

('A`)「昨夜……禅堂の方向から怪しげな声がしていてだな……」

( ^ω^)「正直僕もあの気持ち悪い声で軽く目が覚めたお」

('A`)「あれは完全に男同士……ホモセックスを行っていたんだが……」

( ^ω^)「……まさかこんなに早くこの寺の暗部を知られるとは……」



108: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2011/02/06(日) 02:18:34.01 ID:I5ZkQb6J0
('A`)「待て、聞き捨てならんぞ。暗部とはどういうことだ」

( ^ω^)「ドクオ」

('A`)「なんだよ話遮りやがって」

( ^ω^)「衆道って聞いたことあるかお」

('A`)「んー、完全無知」

( ^ω^)「>>1に目を通してみ」

('A`)「ほほーうなるほどな……ん?」

('A`)「ってことはつまり……」

( ^ω^)「そう、ドクオが今考えている通りだお」

( ^ω^)「この寺は昔の様式が保存されたままでいる……」

( ^ω^)「衆道文化も残ってるんだお」



109: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2011/02/06(日) 02:22:29.35 ID:I5ZkQb6J0
('A`)「……ここの仏僧たちは全員知ってるのか?」

( ^ω^)「おそらくは、ほとんどが」

( ^ω^)「そして知っててみんなスルーしてるんだお」

( ^ω^)「関わりたくないから」

('A`)「まあ自分に矛先が向いた時の恐怖は計り知れないからな」

( ^ω^)「そもそも衆道自体が禅宗とは切っても切れぬ関係……」

( ^ω^)「禁欲生活において一番困難を極めるのが性欲の抑制だお」

('A`)「確かにな」

('A`)「私もそれが最大にして最強の壁であると認識しております」

( ^ω^)「寺院で稚児を飼っていたのは少年を女の代替品にするためだったとも言われてるお」

('A`)「うへあ」



110: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2011/02/06(日) 02:27:04.42 ID:I5ZkQb6J0
( ^ω^)「精進料理で腥が禁じられてる理由を知ってるかお?」

('A`)「そりゃあれだろ、殺生はダメとかそういう」

( ^ω^)「表向きはそうだお」

('A`)「違うのか?」

( ^ω^)「仮にそんな所以ならニラやニンニクまで禁止にしないお」

( ^ω^)「そもそも植物にも生命は宿ってるお」

('A`)「やけにもったいぶるな」

('A`)「じゃあなんなんだよ。納得のいく答えじゃないと二度寝しちゃうぞ」

( ^ω^)「一番の目的は性欲を抑えつけるためだという説があるお」

('A`)「ああ……香りの強い食い物もアウトなのはそういうことか」

( ^ω^)「あの手の野菜は精力が無駄についてしまうお」



111: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2011/02/06(日) 02:31:49.78 ID:I5ZkQb6J0
( ^ω^)「おかげで僕はここ数年射精どころか勃起すらしたことないお」

('A`)「それはそれで勃起不全を疑えよ」

( ^ω^)「これが悟りの境地なら開眼なんかしなくていいお」

('A`)「だとしたら変だな。性欲が削がれてるはずなのにあいつら盛ってたぞ」

( ^ω^)「元々の性欲が凄まじいか、隠れて肉食ってるかのどっちかだお」

('A`)「肉とかどこで……あ」

( ^ω^)「山を下りればいくらでも」

('A`)「だよな」

('A`)「頻繁に山を下りて町に出てる人といえば……」

( ^ω^)「副寺の譲留和尚だお」

( ^ω^)「ただあの人は女好きで有名だお」



113: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2011/02/06(日) 02:40:25.17 ID:I5ZkQb6J0
('A`)「坊主なのに女好きって……それはそれで嫌だな」

( ^ω^)「俗世間に女を囲ってるという噂が流れてるお」

( ^ω^)「これも余談になるけど」

( ^ω^)「わざわざ下山して衆道にはまる雲水もいたそうだお」

('A`)「なんじゃそりゃ」

('A`)「町に出たら女を抱けよ……」

( ^ω^)「女犯を常時気にかけてたのかただの少年性愛かは分からんお」

( ^ω^)「江戸時代には陰間茶屋という売春施設があったらしくて」

( ^ω^)「分かりやすく説明するとショタ専門の風俗」

('A`)「凄まじくニッチな商売だな」

( ^ω^)「とりわけ芳町という色街で流行ったらしいお」



114: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2011/02/06(日) 02:46:35.03 ID:I5ZkQb6J0
('A`)「しかしやたらと知識があるな……まさかお前も」

( ^ω^)「なわけねーお」

('A`)「しかしその鍛え上げられた肉体。俺の目からだとホモ受けしそうに思える」

( ^ω^)「勘弁してくれお……」

(´<_` )「おお、まだこんなところにおられたか」ガララッ

('A`)「弟蛇和尚」

(´<_` )「さっさと布団を上げとくれ。朝粥の準備が出来たんだ」

(´<_` )「二人とも両手が空いてるようなら運搬を手伝ってくれるか?」

( ^ω^)「承りましたお……」

('A`)「ブーン、さっきまでの話は」

( ^ω^)「僕から話せることは他にないお」



135: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2011/02/06(日) 09:08:50.37 ID:I5ZkQb6J0
('A`)ガチャガチャ

('A`)「膳を運ぶのも大変ですね……」

(´<_` )「この寺には百名近くの雲水がおるからな」

(´<_` )「一人逃げ、二人逃げ、三人墨染に袖を通す」

(´<_` )「それの繰り返しだ」

( ^ω^)「全員分並べましたお」

('A`)「おお続々とやってきた。なんか壮観だな」

(*゚ー゚)「粥座は僧全員が一堂に会する貴重な機会です」

('A`)「椎伊」

(*゚ー゚)「ご覧下さい。諸梵和尚が最奥の上座にお座りなさっています」

(*゚ー゚)「その左隣が監寺の茂羅様。そして右隣が…都寺の荒巻様です」



137: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2011/02/06(日) 09:16:04.09 ID:I5ZkQb6J0
/ ,' 3「あー食べたい早く食べたい」チャンチャン

/ ,' 3「昨日は薬石食べずに寝ちゃったもんなー」チンチリリン

('A`)「あの匙をひっきりなしにチンチン鳴らしてるじいさんがそうなの?」

(*゚ー゚)「はい」

('A`)「偉そうに見えない……」

ザワザワ

/ ,' 3「管主殿、もう全員集結しておりますぞ。早く号令を」

(´・ω・`)「そうですな。では」

(´・ω・`)「皆の者!」

シン……



138: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2011/02/06(日) 09:22:21.96 ID:I5ZkQb6J0
(´・ω・`)「これより朝粥を頂かせてもらいますが」

(´・ω・`)「食事も修行の一環であること、そして食に対する敬意を忘れるでないぞ」

(´・ω・`)「それではいつものように私の後についてきてください」

(´・ω・`)「ひとつ、功の多少を計り彼の来処を量る!」

「功の多少を計り彼の来処を量る」

(´・ω・`)「ふたつ、己が徳行の全欠を忖って供に応ず!」

「ふたつ、己が徳行の全欠を忖って供に応ず」

(´・ω・`)「みっつ、心を防ぎ過を離るることは貪等を宗とす!」

「心を防ぎ過を離るることは貪等を宗とす」

('A`)(……なあ、これ何?)

(*゚ー゚)(五観の偈と申します。食前に唱える偈文ですね)



140: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2011/02/06(日) 09:27:55.82 ID:I5ZkQb6J0
(´・ω・`)「よっつ、正に良薬を事とするは形枯を療ぜんが為なり!」

「正に良薬を事とするは形枯を療ぜんが為なり」

(´・ω・`)「いつつ、成道の為の故に今此の食を受く!」

「成道の為の故に今此の食を受く」

(´・ω・`)「それでは――いただきます」

「わーいいただきまーす」

('A`)「最後だけ小学生の給食みたいだったな」

(*゚ー゚)「朝は全ての礎です。しっかり食べて今日一日に備えましょう」

('A`)「でもこの粥……味が薄い……」

( ^ω^)「ほぐした梅干しが小皿にあるからそれ入れとけお」

('A`)「梅干し苦手なんだよな」

( ^ω^)「この期に及んで好き嫌いとか舐めてんのかお」



143: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2011/02/06(日) 09:34:02.55 ID:I5ZkQb6J0
/ ,' 3「ふいー食った食った」

(*゚ー゚)「荒巻和尚」

/ ,' 3「おん?」

(*゚ー゚)「少し挨拶が遅れましたが、こちら、修行に参られた毒念さんです」

/ ,' 3「おお、あんたが噂の」

('A`)「ど……ども、よろしく頼みます」

/ ,' 3「ま、慌てず気張らずごゆるりとな」

('A`)「は、はいっ!」

('A`)(近くで見ると凄い威光だ……かなりの高徳を積んでいるに違いない)

/ ,' 3「わし茶礼の時間まで掃除してくるから、時間きたら呼んでね」

(*゚ー゚)「承知いたしました」



144: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2011/02/06(日) 09:41:29.65 ID:I5ZkQb6J0
(*゚ー゚)「荒巻和尚もほとんど単には上がりません」

('A`)「譲留和尚と同じような感じか?」

(*゚ー゚)「いえ、そうではなく、既に座禅を極めてしまったためではないかと」

(*゚ー゚)「私たちはまだまだ未熟ですから禅堂に向かいましょう」

(*゚ー゚)「今日は僧堂での一日の解説、というより紹介をしたいと思います」

(*゚ー゚)「先程の粥座が四時、それを終えた者から座禅に取り組みます」

('A`)「何十分ぐらいやるの?」

(*゚ー゚)「六時までですね」

(*゚ー゚)「人によっては作務と茶礼を飛ばして昼まで続ける雲水もおります」

('A`)「うわ、だったらもうちょいゆっくり飯食えばよかった。なげぇ……」

(*゚ー゚)「何を言うんですか。己を見つめることこそが修行なのですよ」



145: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2011/02/06(日) 09:48:52.38 ID:I5ZkQb6J0
(*゚ー゚)テケテケ

(*゚ー゚)「到着しました」

('A`)「既に先客が幾人もいるな」

('A`)「ずらっと整列して一心不乱に瞑想してる……凄い絵面だ」

(,,-Д-)「……」

(*゚ー゚)「擬古和尚もおられます。せっかくですので直々に作法を教えていただきましょう」

('A`)「ちょっ、ま、あんな集中してるとこ邪魔していいのかよ」

('A`)「めちゃくちゃ怖いんだけど」

(*゚ー゚)「維那なのですからそのくらいは許してくださりますよ」

(*゚ー゚)「擬古和尚! 些事ですがよろしいでしょうか!」

(,,-Д゚)「……何用だ」



147: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2011/02/06(日) 09:57:24.52 ID:I5ZkQb6J0
(*゚ー゚)「毒念さんに座禅の作法を授けていただきたいのですが」

(,,゚Д゚)「承知。では毒念殿」

('A`)「ひゃ、ひゃい」

(,,゚Д゚)「まずは叉手を覚えてもらいたい」

(,,゚Д゚)「叉手とはこのように、左手で作った拳を胸のあたりに当て」

(,,゚Д゚)「そこに右掌を覆うように添える」

(,,゚Д゚)「左手の拳は親指を握り込むようにして作る。よろしいか」

('A`)「こ……こんな感じですかね」

(,,゚Д゚)「うむ。この姿勢が禅堂に足を入れて歩く際の作法である」

(,,゚Д゚)「基礎中の基礎であるがゆえ、まずはこれを覚えてもらわぬことには始まらない」



148: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2011/02/06(日) 10:05:40.88 ID:I5ZkQb6J0
(,,゚Д゚)「次は単に上がるに際した時の礼法である」

(,,゚Д゚)「隣位問訊と対座問訊を識っていただく」

('A`)「なんですかそれ?」

(,,゚Д゚)「隣位問訊とは自分が座る場所に合掌し平頭することである」

(,,゚Д゚)「対座問訊とは背が合う雲水に行う同様の礼である」

(,,゚Д゚)「端的に言ってしまえば軽い挨拶だ」

(,,゚Д゚)「これを受けた僧……両隣と向かいの者だな」

(,,゚Д゚)「この者も合掌をする。ゆめゆめ忘れぬよう」

('A`)「はっ、はい」

(,,゚Д゚)「毒念殿の座蒲……座禅用の座布団だな、堂内右奥に空きがあるので」

(,,゚Д゚)「それをお使いなさい」



150: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2011/02/06(日) 10:14:40.36 ID:I5ZkQb6J0
('A`)(それにしても男前だなこの人)

(,,゚Д゚)「続いて座り方の作法だな」

(,,゚Д゚)「結跏趺座と半跏趺座があるが、前者は負担が大きく長時間の座禅には向かぬ」

(,,゚Д゚)「ゆえに半跏趺座を推奨する」

('A`)「どのようにして座るのですか?」

(,,゚Д゚)「片方の足をもう片方の腿に乗せて座るのだ」

(,,゚Д゚)「重要なのは両膝を床に着けること。そして顎を引き背筋を伸ばす」

(*゚ー゚)「まさしく擬古和尚が今しがたやっておられた姿勢です」

(,,゚Д゚)「現実にやってみればすぐに理解できるであろう」

(,,゚Д゚)「更に足を組んでから法界定印を結んで瞑想に入る」

(,,゚Д゚)「乗せた足の裏に、両手を掌を上にして重ねるように置き、親指同士を合わせる」

(,,゚Д゚)「これが法界定印である」



154: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2011/02/06(日) 10:20:40.49 ID:I5ZkQb6J0
(,,゚Д゚)「瞼は開けていても閉じていてもよい」

('A`)「目開けててもいいんですか?」

(,,゚Д゚)「むしろ最初期はそちらのほうがよい。暗闇の中では睡魔に襲われるのでな」

(,,゚Д゚)「壁向かいに座るので正面の壁でも見つめておけばよい」

('A`)「いや……一応つむっときます」

('A`)(なんか気まずいし……)

(,,゚Д゚)「ただ口は開いてはならぬ。唇を一文字に結んでおくよう」

('A`)「わかりました」

(*゚ー゚)「それから……擬古和尚」

(,,゚Д゚)「分かっておる」

(,,゚Д゚)「毒念殿、最後に一つ注意点がありましてな」



157: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2011/02/06(日) 10:26:17.07 ID:I5ZkQb6J0
('A`)「な、なんでしょうか」

('A`)「あなたにそんなふうに言われるととてつもなく恐ろしいんですが……」

(,,゚Д゚)「座禅を行う間直堂が堂内を巡回しながら監守する」

(,,゚Д゚)「少しでも心の乱れを察すればその雲水の肩を警策で打つ」

('A`)「警策って、もしかしてバシーンバシーンってやるあれですか?」

(,,゚Д゚)「いかにも」

(,,゚Д゚)「直堂当番は寺の者が位の順に交代で勤める」

('A`)「今日は誰が……」

(,,゚Д゚)「あの僧だ」

( ^ω^)ニコッ

('A`)(野郎……)



160: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2011/02/06(日) 10:31:08.27 ID:I5ZkQb6J0
(,,゚Д゚)「以上だ。これより拙僧は瞑想に復帰させていただく」

(*゚ー゚)「ご教授誠にありがとうございました」

(*゚ー゚)「毒念様も」ボソッ

('A`)「あ、どうも、わざわざご丁寧にありがとうございました」

(,,-Д-)「……」

('A`)(すげえ、もう自己世界に閉じこもってる)

(*゚ー゚)「私たちも単に向かいましょう。私の座蒲はあちらですので……」

('A`)「行ってしまった……俺もいっちょやってみるか」

( ^ω^)「ふっふっふ」

('A`)「てめぇ……やる気だな。俺は決して負けんぞ……」

( ^ω^)「洗礼を浴びせてやるお」



164: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2011/02/06(日) 10:36:51.74 ID:I5ZkQb6J0
ゴーン

(*゚ー゚)「鐘が鳴りました。ということは六時ですね」

(*゚ー゚)「毒念様、終わりましたよ。朝の作務に向かいましょう」

('A`)「お、おお……おうお……」

(*゚ー゚)「……どうなされましたか? 今にも息絶えそうですが……」

('A`)「通算百四十七発打たれた……」

(*゚ー゚)「一分間に一発以上の頻度じゃないですか」

('A`)「確かにちょっとぐらぐらしてたかも知れんが……完全に私怨だろあれは……」

( ^ω^)「ストレス解消に最適だったお」ニコヤカ

('A`)「クソが……! 必ず復讐してやるからな……!」

(*゚ー゚)「揉め事は回避願います……」



168: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2011/02/06(日) 10:43:37.80 ID:I5ZkQb6J0
( ^ω^)「じゃあ僕は残って座禅する人たちの監督があるんで」

( ^ω^)「さっさと作務に行ってこいお」

('A`)「俺が正式に坊主になった暁にはお前の肩を完膚なきまでに崩壊させてやるからな」

('A`)「ところで椎伊よ」

(*゚ー゚)「なんでしょうか?」

('A`)「作務ってなにすんだ?」

(*゚ー゚)「基本的には掃除や畑仕事、補修作業……いわば労働ですね」

(*゚ー゚)「日々の仕事こそが最大の修行とも呼ばれています」

('A`)「なるほどな……寺の中とはいえ働かなきゃならんのだな……」

(*゚ー゚)「頑張りましょう。すべては己の身になることですから」

('A`)「俺の人生でやってきた仕事なんて文化祭で新聞紙の輪っか作ったことぐらいだよ……」



169: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2011/02/06(日) 10:49:50.75 ID:I5ZkQb6J0
( ´_ゝ`)「手が空いてるなら床板の修繕を手伝ってくれよ」

(*゚ー゚)「兄蛇和尚」

( ´_ゝ`)「雑巾がけとか土いじりよりはちったあやりがいがあるぞ」

(*゚ー゚)「そうですね、では私と毒念さんで協力いたします」

('A`)「直歳の仕事じゃないですか……僕が働かないことで誰かが職に就けるんですよ……」

('A`)「席の数は決まってるんです」

( ´_ゝ`)「どこまで無職体質なんだおまいは」

( ´_ゝ`)「大体一人で全部やるわけないだろ。俺は現場監督みたいなもんだ」

('A`)「まあ当然ですよね」

( ´_ゝ`)「その日その日で暇な雲水を雇ってんだよ」

('A`)「はあ。んじゃ手伝います。何していいかも分かりませんでしたし……」

( ´_ゝ`)「おう。頼りにしてるぞーお前ら」



171: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2011/02/06(日) 10:56:13.38 ID:I5ZkQb6J0
(*゚ー゚)「して、壊れた床板というのは?」

( ´_ゝ`)「ここだここ」

('A`)「廊下じゃないですか」

( ´_ゝ`)「本堂と給仕場を結ぶな」

( ´_ゝ`)「この廊下は人の行き来が激しいからすぐにささくれ立つんだよ」

(*゚ー゚)「それはいけませんね。刺さったら大変です」

( ´_ゝ`)「痛いぞー足の指の爪の間に挟まった時なんか」

('A`)「やめてください柔肉がうずきます」

( ´_ゝ`)「それじゃ板材渡しとくから、先行隊と合流して貼り変え作業頼むわ」

( ´_ゝ`)「俺は適宜支持出すんで」

(*゚ー゚)「承りました!」



172: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2011/02/06(日) 11:01:44.53 ID:I5ZkQb6J0
('A`)「貼り変えて……ニス塗って……床磨きも終わった」

('A`)「腰がいてぇ……」

( ´_ゝ`)「お疲れさん。ちょうど作務の時間も終わったぞ」

('A`)(下の世界なら時給八百六十円ってところだな……)

(´<_` )「作務を終えたら茶礼だぞ」

( ´_ゝ`)「なんだ弟蛇じゃないか。出し抜けにどうした。てかいつからいたのよ」

(´<_` )「給仕場が俺の仕事場なんだからここにいるのは至極当たり前の話ではないか」

( ´_ゝ`)「息継ぎして喋れよ聞きづらい。お前も僧になってすっかり念仏口調になったな」

(´<_` )「そんなことより茶礼の準備だ」

('A`)「茶礼とは?」

(´<_` )「坊主のおやつだよ」



174: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2011/02/06(日) 11:06:58.35 ID:I5ZkQb6J0
('A`)「おやつ? そんなものがあるんですか?」

(*゚ー゚)「お茶とお茶菓子を頂くのです」

(*゚ー゚)「一時の休息ですね」

(´<_` )「妙か?」

('A`)「いえいえ素晴らしい習慣だと思います」

(*゚ー゚)「ですよね。私もこれを一番の楽しみにしてるんですよ!」

('A`)「実に少年らしい無邪気な意見だな」

( ´_ゝ`)「私もなんですよ!」

(´<_` )「兄蛇和尚よ、もうじき五十だろ」

( ´_ゝ`)「かわいくなかった?」

('A`)「残念ながら……」



178: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2011/02/06(日) 11:13:21.61 ID:I5ZkQb6J0
(*゚ー゚)「やかんが次々運ばれてきました。今日のお茶受けは?」

(´<_` )「栗まんじゅうだ。一人二個まで」

('A`)(ブーンの奴まだ来てないな……ひとつ奪っとくか……)

(*゚ー゚)「あっ、毒念様それは駄目ですよ!」

(*゚ー゚)「寺内の遺失物の管理も直堂が勤めていますから……」

(*゚ー゚)「蓬莱和尚に知られたら大事ですよ」

('A`)「……具体的にどう大事なのですかね」

(*゚ー゚)「今日は常に警策を携えていますから……おそらく……」

('A`)「それは職権乱用だ! 越権行為だ!」

(*゚ー゚)「絶対なのです。なにとぞ辛抱のほどを」

('A`)「クソが……俺は黙って涙を飲むことしか出来ないのか…・…!」



180: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2011/02/06(日) 11:19:22.39 ID:I5ZkQb6J0
('A`)「集まってきたけど……朝より減ってるな」

(*゚ー゚)「まだ座禅を続けている僧、下山して作務に臨んでいる僧もいますから」

(*゚ー゚)「あっ、直日の方がやかんを持ちました。碗を掲げておいてください」

('A`)「直日ってなんだべ」

(*゚ー゚)「日直制の幹事です。作務の一日監督も兼任してますね」

('A`)「ほう」

('A`)「……なあ、今茶が注がれたんだけど……薄くないこれ? ケチってない?」

(*゚ー゚)「なにせ大所帯ですから」

(*゚ー゚)「それにしても栗まんじゅうはおいしいですね」

('A`)「その点に関しては同意見」

(*゚ー゚)「至福の瞬間です……」



181: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2011/02/06(日) 11:24:55.80 ID:I5ZkQb6J0
( ^ω^)「やったー茶礼だお」テッテッ

(*゚ー゚)「あっ、蓬莱和尚。禅僧の見張りはもうよいのですか?」

( ^ω^)「茶礼の時間だからサボってきたお」

('A`)「ひどい坊主だな」

(*゚ー゚)「蓬莱様のような我執の境地こそ悟りだとする人々もいますが……」

( ^ω^)「無我なんてのは糞くらえだお」

( ^ω^)「まんじゅううめえ」

('A`)(なあブーン、ちょっとひそひそ声で頼む)

( ^ω^)(なんだお)

('A`)(お前一日瞑想する僧の監視をするってことは……夜も禅堂に行くのか)

( ^ω^)(……それを聞くかお)



183: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2011/02/06(日) 11:29:42.52 ID:I5ZkQb6J0
('A`)(お前……あの現場に居続ける度胸はあるのか……?)

( ^ω^)(あーもう夜座は自主トレだからノータッチなんだお)

( ^ω^)(第一見張りがいたら奴らはあんな行為に及ばないお)

('A`)(そ、そうか)

( ^ω^)(毎晩盛ってるというわけでもないし)

(*゚ー゚)「どうなされましたか? お二人も顔を突き合わせて」

('A`)「やー、いやいや、大した話じゃないんだ」

( ^ω^)「そうそうなんでもないんだおーなんでもー」

('A`)(……椎伊は気づいてるのか? 衆道の存在に……)

( ^ω^)(さあ……)



184: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2011/02/06(日) 11:36:38.43 ID:I5ZkQb6J0
('A`)「しかしみんなのんびりしてんな……」

(*゚ー゚)「茶礼は一時間丸々使いますからね」

('A`)「なんていうか、穏やかだな」

( ^ω^)「この後はすぐに斎座に入るんだお」

('A`)「さうざー? 退かぬ媚びぬ省みぬ?」

( ^ω^)「さいざだお」

(*゚ー゚)「平たく言うと昼食のことですよ。十一時になったら食事です」

('A`)「十一時とか今までの俺なら起床時間だったな……」

(*゚ー゚)「斎座の間は管主様の提唱――禅に関する講義を拝聴できるのですよ」

('A`)「ほう」

( ^ω^)「あれは大分眠いお」



186: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2011/02/06(日) 11:41:04.34 ID:I5ZkQb6J0
ゴーン

( ^ω^)「鐘が鳴ったお」

(*゚ー゚)「一斉に膳が運ばれて参りました。私も少し手伝ってきます」タッ

('A`)「働き者だねぇ。ん?」

(=゚ω゚)「あっ……」

(=゚ω゚)ペコリ

(=゚ω゚)タッタッタッ...

('A`)「目が合っちまった。あの子も少年僧か」

('A`)「少年……少年か……」

('A`)「まさかとは思うが……」



190: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2011/02/06(日) 11:46:23.09 ID:I5ZkQb6J0
(*゚ー゚)「お二人の分を持ってきましたよー」

('A`)「なあ、ちょっといいか」

(*゚ー゚)「はい?」

('A`)「この寺には、君の他に十代の僧侶はどのぐらいいるんだ?」

(*゚ー゚)「成人前の雲水ですか?」

('A`)「ああ」

(*゚ー゚)「そうですね、私以外だと……」

(*゚ー゚)「先日の落伍者を抜いても……確か……十数人はいたと思いますが」

('A`)「一番若いのは?」

(*゚ー゚)「私ですが」

('A`)「いやいや椎伊を抜いてだな」



191: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2011/02/06(日) 11:52:08.41 ID:I5ZkQb6J0
( ^ω^)「伊陽だお」

('A`)「なにっ?」

('A`)(その名前は……)

( ^ω^)「椎伊の次に年少なのは伊陽だお」

(*゚ー゚)「あっ、そうです。伊陽和尚になりますね。確か十六歳だったかと」

('A`)「そ、それはどいつだ?」

( ^ω^)「さっきドクオと視線が合ったあの子だお」

('A`)「あ……あいつか!」

('A`)(昨日……確かに伊陽という名を呼んでいた……)

('A`)(やけに耽美な雰囲気を発していたが、あいつが相手だったのか)

('A`)(ぬふぬふ喘いでたガチホモカップルは置いとくとして……)



195: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2011/02/06(日) 11:59:50.91 ID:I5ZkQb6J0
('A`)「ブーン、ちょっと夜に相談がある」

( ^ω^)「把握したお。うっすらと内容が読めるけど」

('A`)「すまないな」

(*゚ー゚)「それよりも早く頂きましょう。午後からはまた作務があります」

('A`)「……あ、ああ、そうだな」

('A`)「でもこの味噌汁……具が納豆と豆腐と油揚げなんだが」

(*゚ー゚)「なにか差し障りが?」

('A`)「大豆の四重奏じゃねーか。どんな具材のチョイスだ」

( ^ω^)「貴重なタンパク源なんだから文句言うなお」

('A`)「しかもおかずは凍り豆腐だし……」



196: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2011/02/06(日) 12:06:05.45 ID:I5ZkQb6J0
('A`)「てか納豆は納豆で食わせろよ」

( ^ω^)「小鉢を洗う手間を考慮しろお」

(*゚ー゚)「ネバネバを取るのも一苦労ですからね……」

('A`)「……ところで諸梵和尚がいないんだが」

(*゚ー゚)「托鉢に出かけておられます。食料を恵んでもらってそれを昼食にするのです」

( ^ω^)「まあ物乞いのことだお。他にも何人か行ってるお」

(*゚ー゚)「たぶんですが、擬古和尚や茂羅和尚もそうなさっているかと思われます」

('A`)「あの人らもか」

(*゚ー゚)「擬古和尚は座禅を行う以外の修行は従者を伴っての托鉢しかしませんからね」

(*゚ー゚)「茂羅和尚は……ちょっと何を考えていらっしゃるか分かりかねるのですが」

( ^ω^)「あの人の心中は誰にも推し測れないお」



197: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2011/02/06(日) 12:10:48.54 ID:I5ZkQb6J0
('A`)「おい待て。管主の高説はどうした」

('A`)「出かけているなら聞けないじゃないか」

(*゚ー゚)「そういう日もあります」

('A`)「なんだその風任せみたいな言い分は」

(*゚ー゚)「禅とは一定にはあらざるのです」

( ^ω^)「不定の中に安定という光明と見つけ出すんだお」

(*゚ー゚)「打座して煩悩を絶つこともそれに通じます」

('A`)「やばい何喋ってるか分からん……」

(*゚ー゚)「それよりはやく斎座を済ませましょう。まだまだ作務がありますので」

('A`)「お、おう」



202: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2011/02/06(日) 12:15:47.56 ID:I5ZkQb6J0
〜午後三時〜


('A`)「とりあえず掃除をしてきたが……」

(*゚ー゚)「お疲れさまです。本堂に皆様集まっています」

('A`)「なんでまた茶礼なの?」

(*゚ー゚)「この寺院では三度の茶礼があるのです。まあ、休憩ですよ」

( ^ω^)「わーい歌舞伎揚げだお」

('A`)「まあいいか……楽だし」

(*゚ー゚)「三時の茶礼は雲水の数の確認も兼ねています」

('A`)「出欠確認かよ。これは重要だな……これでも中学じゃ皆勤だったからな……」

(*゚ー゚)「帰ってこれない用事がある僧は仕方ありませんが」



203: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2011/02/06(日) 12:21:25.58 ID:I5ZkQb6J0
( ・∀・)「管主様、九十六名、本堂に揃っております」

(´・ω・`)「ということは、全員ですか。珍しいですね」

/ ,' 3「ですな。いやはや満足な席になりそうですわい」

(´・ω・`)「だといいですね。では皆の者!」

シィン……

(´・ω・`)「半日の修行御苦労であった」

(´・ω・`)「気負わず茶を楽しもうではないか」

「いただきまーす♪」

('A`)「だからなんでちょっとかわいらしく言ってんだよ……」

(*゚ー゚)「解放感からでしょうね」



206: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2011/02/06(日) 12:26:43.21 ID:I5ZkQb6J0
(*゚ー゚)「さて茶礼が終わりました」

(*゚ー゚)「あとは晩課……夕方の勤行になります」

(*゚ー゚)「それでは薬石の時間に会いましょう」

('A`)「そして一人残される俺」

( ゚∀゚)「おおいたいた、毒念殿」

('A`)「譲留和尚」

( ゚∀゚)「少しお時間よろしいかな?」

('A`)「手持無沙汰ですから構いませんけど……なんでまた自分なんかに?」

( ゚∀゚)「率直に言うとだな、俺はあんたと問答がしたいんだ」

('A`)「問答……ですか」

( ゚∀゚)「そうだ」



210: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2011/02/06(日) 12:31:19.09 ID:I5ZkQb6J0
( ゚∀゚)「ちょっとついてきてくれ」

('A`)「ついてこいって、どこに」

( ゚∀゚)「俺の室だ。六知事にもなると個室が与えられるんだよ」

( ゚∀゚)「ここだ」ガララ

('A`)(すげー量の本……見かけやイメージと違って勉強家なんだな)

( ゚∀゚)「ま、腰かけてほしい」

('A`)「失礼します」

( ゚∀゚)「さてさて早速ひとつ尋ねたいんだが」

('A`)「はい」

( ゚∀゚)「毒念殿は、開くことと閉じること――どちらに答えがあると思っている?」



214: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2011/02/06(日) 12:37:16.48 ID:I5ZkQb6J0
('A`)「開くことと閉じること、ですか」

( ゚∀゚)「左様」

('A`)「……あのー、少々意味が分からないのですが」

( ゚∀゚)「わっはっは、だろうな。いや急な返答は期待していなかったから構わんよ」

( ゚∀゚)「詳しく語ろう」

('A`)「頼みます」

( ゚∀゚)「禅とは正真正銘の、あるがままの自己を見つめることである」

( ゚∀゚)「自己とは体しかり、心しかり。その境目、あるいは外部に触れている空間すらも自己である」

( ゚∀゚)「飽くなき自己の追及こそ悟りに至る真髄。そのためには閉じた中で己を俯瞰せねばならない」

( ゚∀゚)「……だが俺は違うと思うんだよな」

('A`)(そういえば他山の出身なんだったな……)



217: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2011/02/06(日) 12:43:42.75 ID:I5ZkQb6J0
( ゚∀゚)「自己ってのは後から形成されていくもの――」

( ゚∀゚)「現在進行形で完成していくものなのだ」

('A`)「はあ」

( ゚∀゚)「しかしながら禅はわざわざ櫓だの洞だの檻だの籠だのに己を封じてしまう」

( ゚∀゚)「経験なくして自己はなし!」

('A`)「自分を狭めていては進展しない、ということですかね?」

( ゚∀゚)「そうだ。旧来のまま閉じていては真なる自己を見つけ出すことはできん」

( ゚∀゚)「沈黙は可能性の否定に過ぎない」

( ゚∀゚)「だから俺は『開く』ことに大悟の鍵が隠されていると思っている」

( ゚∀゚)「そこによって得られる悟りは頓悟……他宗で呼ぶところの天啓だ」

('A`)「そう、ですか……」



221: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2011/02/06(日) 12:48:06.27 ID:I5ZkQb6J0
('A`)(なるほど、およそ禅僧とは思えない破天荒な振る舞いには)

('A`)(そういう思想背景があったというわけか……)

( ゚∀゚)「まとめると……」

( ゚∀゚)「自身そのものを重視するか、境界線を重視するか」

( ゚∀゚)「そういうことだ」

( ゚∀゚)「……毒念殿はどう思うよ?」

('A`)「じ、自分ですか? 自分は……」

('A`)「……まだ分かりません。修行に励む中で、その回答を探せていけたらな、と」

( ゚∀゚)「ふうむ……まあ、今のところはそれでいいか」

('A`)「申し訳ないです」

( ゚∀゚)「いや話が出来ただけでも十分だ。帰っていいぞ。あまり拘束するのも悪いしな」

('A`)「失礼……します」



223: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2011/02/06(日) 12:52:49.08 ID:I5ZkQb6J0
('A`)ガララ……タン

('A`)テクテク……

('A`)「はあああああああ疲れたあああああああ」

('A`)「あれが禅の教義か……頭がくらくらする」

('A`)「ただ譲留さんがこういう具合に考えているということは……」

('A`)「仲の悪い擬古さんは全く逆……『閉じる』ことを良しとしているんだろうな……」

('A`)「そりゃ相容れないわな……」

(*゚ー゚)「あっ、毒念様、こんなとこにいらしたんですか」

('A`)「椎伊」

(*゚ー゚)「畑の雑草を刈ろうと思うのですが、少し手を貸してくれませんかね?」

('A`)「あ、うん、そうだな。分かった。すぐ行くよ」



244: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2011/02/06(日) 13:40:57.40 ID:I5ZkQb6J0
〜日没〜


ゴーンゴーン

(*゚ー゚)「昏鐘です。これで今日のお勤めは終わりですね」

(*゚ー゚)「あとは薬石と座禅、就寝前の茶礼になります」

('A`)「虫さされが酷いんだが」

(*゚ー゚)「急に呼び止めたものですから、虫よけを毒念様の分も用意できませんでした……」

(*゚ー゚)「あとでお薬を塗りましょう」

('A`)「頼むわ」

(*゚ー゚)「すみませんです」



249: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2011/02/06(日) 13:46:50.99 ID:I5ZkQb6J0
(*゚ー゚)「薬、持ってきました」

('A`)「ありがてえありがてえ」

( ^ω^)「もう膳が並んでるお。そんなの後にして早く座るお」

( ^ω^)「食前の偈文ももう済んでるんだお」

(*゚ー゚)「そうですね、とりあえず座ります……」

('A`)「俺の真横かい。確かに空いてたけど」

( ^ω^)「顔がキモイから僕以外全員に避けられてるんだお」

('A`)「やめろ事実はやめろ」

('A`)「それより『とりあえず』ってどういうことだ」

(*゚ー゚)「頂く前にお塗りしようと思いまして」

('A`)「なんかドキドキしてきたんだが……」

( ^ω^)「アホ」



250: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2011/02/06(日) 13:50:43.92 ID:I5ZkQb6J0
(*゚ー゚)「首筋のあたりがひどいですね……」

(*゚ー゚)「首の後ろは塗りにくいでしょうから私が」

('A`)「顔を寄せないで! 息が! 息が当たるの」

(*゚ー゚)「どうなされたんです、突然」

('A`)「お前の顔でそんなことをしてもらうのは俗世なら金銭が発生するんだよ」

('A`)「とある業界では御褒美なんだよ」

( ^ω^)「そいつ顔だけ見たら女だから分からんでもないお」

('A`)「だよな……」

('A`)(しかしこのルックスなら真っ先に毒牙にかかってそうだが……)

( ^ω^)「なんかよからぬことを考えてないかお」



252: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2011/02/06(日) 13:56:59.38 ID:I5ZkQb6J0
( ^ω^)「ふー、食った食った。ごちそうさんだお」

('A`)「お前この程度の量で満足なのかよ」

('A`)「正直主菜がホウレンソウでは俺の腹は膨れんぞ」

( ^ω^)「気の持ちようでなんとでもなるお」

('A`)「そういうもんかね」

(*゚ー゚)「禅堂へ行きましょう。一日の締めとなる夜の座禅が始まります」

('A`)「了解っと」

(*゚ー゚)「一部の雲水は諸梵和尚や荒巻和尚の元に参禅しているようですね」

(*゚ー゚)「参禅とは直接師家の室で自身の見解を述べつつ指導を授かることです」

( ^ω^)「よーし打ちまくるおー」ブンブン

('A`)「やめろ! 素振りするな!」



253: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2011/02/06(日) 14:01:47.92 ID:I5ZkQb6J0
(*゚ー゚)「先に単に上がらせていただきます」

('A`)「んじゃ俺も、っと」

('A`)「二回問訊をして、瞑想開始」

('A`)「……」

(,,-Д-)「……」

( -∀-)「……」

(*゚ー゚)「……」

( ^ω^)「……」カツ...カツ...

('A`)「……」

('A`)(静かだ……)

('A`)(なんていうか……悪くないな……)

('A`)(おのずと精神が安らぐってもんだ。これが静謐という状況か)



255: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2011/02/06(日) 14:06:52.13 ID:I5ZkQb6J0
( ^ω^)「……」カツ...カツ...

( ^ω^)「ちくしょう……肩を叩きたいのになんの揺らぎもないお……」

( ^ω^)「わずか一日でコツをつかむとは……」

('A`)(ククク……焦っておる焦っておる)

('A`)(ブーンの心理が手に取るように分かるぞ。心身が研ぎ澄まされている)

('A`)(やだ、俺って才能あるのかも……)

(,,-Д-)「堂内右の奥から三番目、裡に邪念が漂っておる。精進なされよ」

('A`)「す、すんません……」

( ^ω^)バシーン

('A`)「ふぐああああああああああああああああ!!」



257: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2011/02/06(日) 14:11:43.24 ID:I5ZkQb6J0
(´<_` )「おうい」ガラガラ

(´<_` )「茶礼の用意ができたぞ。禅を切り上げる者は参られよ」

ガヤガヤ

('A`)「やっと終わりか……擬古さんはやっぱりまだ続けるみたいだが……」

(*゚ー゚)「お疲れさまです。いやはや災難でしたね」

('A`)「なんであの人に俺の心の動きが分かったんだろう……」

(*゚ー゚)「推察ですが……」

(*゚ー゚)「自己にひたすら埋没している分、外側の動揺に非常に敏感になっておられるのかと」

('A`)「『閉じる』の極致だな……」

(*゚ー゚)「どうしましたか?」

('A`)「いや、なんでも」



259: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2011/02/06(日) 14:17:04.69 ID:I5ZkQb6J0
(*゚ー゚)「茶礼も通過しましたし、一日も終わりです」

(*゚ー゚)「あとは解定して眠るだけですね」

(*゚ー゚)「雲水の生活が分かりましたか?」

('A`)「そりゃもう親切なナビのおかげでバッチリでして」

(*゚ー゚)「では、布団を天井裏の棚から下ろして寝床を確保しましょう」

('A`)「いやその前に……ちょっとトイレに」

(*゚ー゚)「御不浄の位置は」

('A`)「知ってるよ、今日のうちに調べといた」

('A`)「あー、そうそう、ブーン。連れションしようぜ」

( ^ω^)「仕方なしだお」



261: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2011/02/06(日) 14:23:06.97 ID:I5ZkQb6J0
('A`)「……さてブーン。昼の話の続きになるが」

( ^ω^)「しっ。前から弟蛇和尚が歩いてきてるお」

(´<_` )「おう蓬莱殿に毒念殿か。こんな時間にどうした」

( ^ω^)「ちょっと厠のほうに」

(´<_` )「ほほう茶を飲みすぎたか」

( ^ω^)「まあそんなところでして」

('A`)「それより弟蛇和尚はどちらに?」

(´<_` )「いや……自分は茶礼に使った食器を洗わなくてはならんからな」

(´<_` )「しばらくは給仕場にこもらせてもらうよ」

('A`)「はー大変ですね」

(´<_` )「これが責任というものでな、致し方あるまい」



263: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2011/02/06(日) 14:28:38.82 ID:I5ZkQb6J0
(´<_` )スタスタ

('A`)「……行ったか」

( ^ω^)「みたいだお」

('A`)「ふう。それじゃ始めさせてもらうが……」

('A`)「伊陽はこの寺の雲水と性的関係を持っているのか?」

( ^ω^)「どうやらそうみたいだお。入山して一年の間に手篭めにされたらしく……」

( ^ω^)「たぶん本人の意志じゃあなく無理やりさせられてるんだお」

('A`)「そうか……」

( ^ω^)「それがどうかしたのかお。かわいそうだけど僕らには無関係な話だお」

( ^ω^)「彼の事情に踏み入れる必要なんてないお。僕たちにまで危害が及ぶかも知れないのに」

('A`)「それじゃダメなんだよ。ブーンよ、俺はな」

('A`)「伊陽に誰に抱かれたかを訊こうと思う」



266: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2011/02/06(日) 14:33:08.29 ID:I5ZkQb6J0
( ^ω^)「……なんでそんなことを?」

('A`)「誰がホモなのかを把握していなきゃ心配で夜も眠れねぇよ」

( ^ω^)「無視が一番だお!」

('A`)「ダメなんだ、それじゃ安心できない」

('A`)「ブーン、俺は座禅していて分かったんだ、安心することこそが幸福なんだ」

('A`)「安息の地なしには生きていけない」

('A`)「それが内にあるのか外にあるのかまでは……ちょっと察しが及ばないけど……」

( ^ω^)「……」

( ^ω^)「……僕だって毎晩毎晩いつ掘られるか怯えながら過ごす暮らしは嫌だお」

('A`)(そういやこいつも十五歳で出家……様々な危機が訪れていたに違いあるまい……)

( ^ω^)「僕だって現状をなんとかしたいお」



268: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2011/02/06(日) 14:37:41.35 ID:I5ZkQb6J0
('A`)「協力してくれるか?」

( ^ω^)「秘密裏にだお。あくまでも」

( ^ω^)「最悪の事態を想定してみるお。僕らまで衆道に引きずり込まれるお」

('A`)「その結末は否定できないな……」

( ^ω^)「そんなリスクは背負いたくないお……」

('A`)「分かった、表で活動するのは俺だけだ」

('A`)「お前はあくまで内通してるってだけ。それでいいな?」

( ^ω^)「……御意」

('A`)「よし」

('A`)(この寺の暗部……俺が暴いてやる)

('A`)(そして最高の安心を手に入れてやろうじゃねえか……!)



272: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2011/02/06(日) 14:42:39.26 ID:I5ZkQb6J0
〜一週間後〜


(*゚ー゚)「お勤めご苦労様です、毒念様!」

('A`)「おう。頑張って朝から掃除してるぞ」

(*゚ー゚)「寺での生活にはすっかり慣れましたでしょうか?」

('A`)「まあ、さすがにな」

(*゚ー゚)「それはよかったです。では、私はこれで」

('A`)「へいへい」

('A`)「……」

('A`)「……この二週間詰問する機会をうかがってみたが……」

('A`)「まったく伊陽の姿を捉えられない……禅堂でも見かけない」

('A`)「どこにいるんだ……?」



278: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2011/02/06(日) 14:48:09.75 ID:I5ZkQb6J0
( ^ω^)「ドクオ、ちょっといいかお」

('A`)「うわおお! なんだブーンか。脅かすなよ」

( ^ω^)「どんだけ背後を取られることに敏感になってんだお」

('A`)「仕方ないだろこういう舞台だぞ。慎重になるに決まってる」

( ^ω^)「言えてるお……それより伊陽には会えたのかお?」

('A`)「皆目」

( ^ω^)「そりゃあ残念だお」

( ^ω^)「まあ僕も、この数年間ほとんど日の出てる時間には伊陽を見かけてないんだけど……」

( ^ω^)「……それより別の情報を調べてきたお。たぶん有益なはず」

('A`)「お前結構乗ってるな」

( ^ω^)「ちょっと燃えてくるものがありまして……」

('A`)「生粋の探偵気質め」



285: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2011/02/06(日) 14:56:24.75 ID:I5ZkQb6J0
( ^ω^)「これを見てほしいお」パラ

('A`)「なんだこの紙は?」

( ^ω^)「毘譜寺に在籍する少年僧の一覧だお」

('A`)「こんなもんまで作ったのかお前……大した熱意だ」

('A`)「それはともかく十七人か。椎伊や伊陽の名前もあるな」

( ^ω^)「このうち衆道に付き合わされているのは……僕の見立てだと少なくとも八人」

('A`)「なぜそんなことが分かるんだよ。当てずっぽうか?」

( ^ω^)「違う違う。この十日の間、夜座の名目で寝床を開けた僧を数えてたんだお」

( ^ω^)「もちろん普通に座禅をしに行っている人がほとんだお」

( ^ω^)「ところが少年僧に限って見ると妙に割合が偏っている」

( ^ω^)「十七人中十三人が夜座に出かけてるんだお」



288: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2011/02/06(日) 15:03:24.02 ID:I5ZkQb6J0
('A`)「な、なんじゃその比率は!?」

( ^ω^)「当たり前だけど偶然ということもあるお」

('A`)「じゃあ、どこから八人なんていう数字が……」

( ^ω^)「このうち……複数に渡って夜座に出向いたのが八人」

( ^ω^)「不自然だお」

( ^ω^)「少年僧は発育のために早めに寝るように諸梵和尚から言い置きされているというのに」

( ^ω^)「何度も夜更かしするだなんて破戒に当たるお」

( ^ω^)「うちの雲水がそんな愚か者揃いとは思えないお」

('A`)「……ということは、それプラス、相手の分だけの数が禅堂に集まっているのか?」

( ^ω^)「いや、なにも禅堂にだけとは限らないし」

( ^ω^)「そもそも禅堂になんて元からいないのかも知れないお」



294: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2011/02/06(日) 15:08:29.83 ID:I5ZkQb6J0
('A`)「なんでだ、禅堂の方角から嬌声は聴こえてきてるぞ」

('A`)「てか昨夜も一昨夜も聴いた」

( ^ω^)「地獄だったお」

('A`)「……あっ、そうか、擬古さんだな」

('A`)「あの人のことだから真面目に夜座するに決まってる」

('A`)「そんなところで性行為になんて及ぶわけないか」

( ^ω^)「外れ。擬古和尚は自室で瞑想しているお」

( ^ω^)「それに一般雲水も夜座は廊下で行うことが多いし、わざわざ単に上がることは稀だお」

('A`)「じゃあ禅堂でやりたい放題じゃないか」

( ^ω^)「そうじゃないお」

('A`)「じゃあなんなんだよ!」



295: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2011/02/06(日) 15:13:31.87 ID:I5ZkQb6J0
( ^ω^)「恥じらいだお」

('A`)「恥じらいだあ?」

( ^ω^)「衆道カップルにだって……そのぐらいはあるはずだお」

('A`)「ふざけるなよ、なんだその乙女チックな理由は」

('A`)「俺が見てきたゲイやオカマは馬鹿みたいに面の皮が厚い奴ばっかだぞ」

('A`)「そんな連中に恥じらいなんてあるかよ」

( ^ω^)「男しかいない世界では下界とは違う風潮が出来上がるんだお」

('A`)「だからって根底から揺らぐとは」

( ^ω^)「お前は知らんのだお! 僕は十八の時に僧同士の接吻を見たお!」

( ^ω^)「あいつらは肉体だけでなく精神的にも繋がろうとしてるんだお」

('A`)「……こええ……」

( ^ω^)「理解したかお」



298: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2011/02/06(日) 15:18:38.23 ID:I5ZkQb6J0
('A`)「……そもそも、恥じらうってどういうことだ」

( ^ω^)「罪の意識と……それから、背徳感からくるものだと分析してるお」

('A`)「それが興奮に直結するんだろうな」

( ^ω^)「不気味なことを言うなお」

( ^ω^)「ともあれ、だから奴らは人目を避けたがってるに違いないお」

('A`)「確かにどこでしているかなんて謎に包まれたままだな……」

('A`)「禅堂なんていう分かりやすい場所には行かないか」

( ^ω^)「あえて選択肢から外して、禅堂ががらんどうになっているということもあるはずだお」

('A`)「でも禅堂の方角から……」

( ^ω^)「聴いただけだお。見たわけじゃない。聴覚なんて信用ならないお」

('A`)「ぐぬ」



302: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2011/02/06(日) 15:26:30.11 ID:I5ZkQb6J0
( ^ω^)「とはいえ一組ぐらいは禅堂にいることもあるかも知れない」

( ^ω^)「なんなら一度覗いてみれば解決するかも」

('A`)「勘弁してくれよ」

( ^ω^)「僕だってそんな危ない橋は渡りたくないお……」

('A`)「……とにかく、分かった。役に立つ情報だったぜ」

('A`)「八人の小僧が飼われているということは……相手役も八人か」

( ^ω^)「とは限らんお。一人で何人も子飼いにしてる線は捨て切れないお」

( ^ω^)「逆に一人が複数に囲われている可能性も……」

( ^ω^)「あ、それと少年を相手にしない単なるガチホモ連中もいるお」

('A`)「ああそれは車琴和尚と浪漫和尚だろ。二人揃って堂々とわふわふ叫ぶからな」

( ^ω^)「やっぱ分かってたかお」

('A`)「あいつらは隠す気ないだろ」



305: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2011/02/06(日) 15:33:52.38 ID:I5ZkQb6J0
〜午後八時の茶礼〜


('A`)「結局今日も伊陽を見つけることはできなかった……」

(=゚ω゚)カチャカチャ

('A`)「一応いることはいるんだが……衆目の前で訊くわけにはいかない」

('A`)「やはり一対一の現場でなければ」

('A`)「長期戦だな……」

(*゚ー゚)「毒念様、もう碗を片付ける頃合いですよ」

('A`)「ああ、すまん……」

('A`)(一対一か……)

('A`)(そもそも奴は……どこにいるんだ?)

('A`)(どこに……いや。違う。知るべきはどこかじゃない、どちらかだ)



306: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2011/02/06(日) 15:38:25.72 ID:I5ZkQb6J0
( ^ω^)「伊陽の派閥?」

('A`)「ああ、擬古さんと譲留さんん、どっちを支持しているか教えてくれ」

( ^ω^)「ううん、聞いたことないお」

('A`)「そうか……」

( ^ω^)「そんなことが一体どう関係してくるんだお?」

('A`)「いや……伊陽の影を掴めないのなら、仮にどっちかの派閥に属しているとして」

('A`)「目に見えるところにいる擬古さんか譲留さんを追えばいいのではないか、と思ってな」

('A`)「派閥があるなら会見することもあるだろ」

( ^ω^)「なるほどだお」

( ^ω^)「ちなみに僕は譲留和尚派だお」

('A`)「なぜまた」

( ^ω^)「擬古和尚の堅い感じがどうにも苦手で……」



309: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2011/02/06(日) 15:42:44.17 ID:I5ZkQb6J0
( ^ω^)「あと譲留和尚は下山した帰りにお土産をくれるから」

('A`)「そんなことだろうと思ったよ」

( ^ω^)「擬古和尚も一応托鉢で山を下りることもあるんだけど」

( ^ω^)「選ばれた数人ほどの従者としか行かないから近寄りがたいお」

('A`)「どの道托鉢で恵まれる物なんかもらっても仕方ないだろ」

( ^ω^)「一理あるお」

('A`)「ま……この辺で切り上げるとして、さっさと寝るか」

( ^ω^)「そうするお。眠りに入ってしまえば喘ぎ声を耳にしなくて済むお」

('A`)(伊陽は……なるほどな、確かにいない)

('A`)(夜座にかこつけて逢引に行ったってことか)



318: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2011/02/06(日) 15:49:30.76 ID:I5ZkQb6J0
ゴーンゴーン


('A`)「朝か……」

(*゚ー゚)「むにゃ? 毒念様お早いですね……」

('A`)「全力で鐘が鳴る前に目覚めるようにしたからな……」

('A`)「ふふふ……なぜ今の今まで思い浮かばなかったんだろうな……」

(*゚ー゚)「毒念様?」

('A`)「そうだよ、最初っからこうすりゃ早かったんだ……ふっふっふ……」

(*゚ー゚)「なにやらただならぬ気配を醸していますが……」

('A`)「じゃ、俺朝課に行くから」シュタッ

(*゚ー゚)「は、はあ……」



323: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2011/02/06(日) 15:53:57.21 ID:I5ZkQb6J0
(=゚ω゚)「ふああ……まだ眠いです……」トコトコトコ

('A`)「やあ伊陽くん」ヌッ

(=゚ω゚)「ひっ!?」

(=゚ω゚)「ど、毒念様……ですか?」

('A`)「これから顔を洗いにいくところかな?」

(=゚ω゚)「そっ、そうでございますが……」オドオド

('A`)(この怯えた仕草……誠に奥ゆかしい……)

('A`)(じゃなくて)

('A`)(ふふふ……朝一番なら確実に探り当てることができるじゃないか……)

('A`)(なにせ寺の人間は全員僧堂で寝泊まりしているんだからな……)



326: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2011/02/06(日) 15:57:34.39 ID:I5ZkQb6J0
('A`)「いや、実は、ちょっと君に話があって」

(=゚ω゚)「話ですか」

('A`)「そうだ。ちょっと大っぴらにはできない話でね、少し離れまでついてきてほしい」

(=゚ω゚)「え? あ……はい」

('A`)テクテク

(=゚ω゚)テク...テク...

('A`)(こいつ……震えてるが俺に犯されるとか考えてるんじゃないだろうな……)

('A`)「伊陽くん、安心してくれ。俺はそういうつもりじゃあないから」

(=゚ω゚)「そういうつもり――とは?」

('A`)「君、この寺の僧侶に抱かれてるだろ」

('A`)「誰にやられたんだ? 場合によっては君を助けられるかもしれない」



331: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2011/02/06(日) 16:03:02.67 ID:I5ZkQb6J0
(=゚ω゚)「……どういう、ことでしょうか……?」

('A`)「もう皆に知られてるよ。隠したってしょうがない」

('A`)「俺ら全員不安なんだよ。怖いんだ。君を手にかけてる輩の存在が」

('A`)「相手は誰だ? もし強要されてるんだったら諸梵和尚に追放してもらおうぜ」

(=゚ω゚)「……」

(=゚ω゚)「それは……言えませぬ」

('A`)「言えない? あ、そうか、恥ずかしいからかな」

(=゚ω゚)「違います。外聞を気にしてではありません。どうしても答えられないのでございます」

('A`)「どうして――」

(=゚ω゚)「申し訳ありません! 失礼させていただきます!」タッ!

('A`)「あっ……クソッ、行っちまった」



336: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2011/02/06(日) 16:07:02.62 ID:I5ZkQb6J0
〜本堂前庭園〜


( ^ω^)「お前の聞き方が悪いお」

('A`)「そうかなー」

( ^ω^)「怖がらせちゃダメじゃないかお。心に傷があるかも知れない子を……」

('A`)「でもよ、どの道あの感じじゃ聞き出せかったと思うぜ?」

('A`)「なんていうか……悲壮だった」

( ^ω^)「ふうむ……」

( ^ω^)「どっちにしろ、もう伊陽に接触するのは無理だと思った方がいいお」

('A`)「だな。露骨に避けてくるに違いねぇ」

( ^ω^)「この道筋からの推理は途絶えたお」



346: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2011/02/06(日) 16:15:38.84 ID:I5ZkQb6J0
〜午後九時〜


(*゚ー゚)「消灯の時間です。布団も並べましたし後は就寝するだけですね」

('A`)「今日も疲れたな……腰が痛い」

( ^ω^)「また床板の修繕をやらされてたのかお」

('A`)「そうそう。これで三日連続だ」

('A`)「つーか今日なんかささくれ立ってるところ一カ所だけだぜ。やりすぎだっての」

(*゚ー゚)「あのー、それよりも毒念様……ちょっと付き合ってもらいたいのですが」

('A`)「なんだ改まって。別にいいけどさ、何用なのよ」

(*゚ー゚)「……小水のほうに」

('A`)「マジすか」



350: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2011/02/06(日) 16:20:25.35 ID:I5ZkQb6J0
('A`)「……おーい、終わったか?」

(*゚ー゚)「も、もう少し……」チョロロ

('A`)「早くしてくれよ」

('A`)(この水がぶつかり合う音が聴こえるほどに薄い戸板一枚を挟んで……)

('A`)(椎伊が下半身丸出しで放尿している……)

('A`)(……いかん何を考えてるんだ俺は……)

('A`)(どうもこの空間内にいると道徳心や常識がマヒしてしまう……)

(*゚ー゚)「すみません待たせました」

('A`)「それにしても十三にもなって一人便所が怖いとか……」

(*゚ー゚)「そっ、それは自分でも恥じ入るべき点だと思っております」



356: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2011/02/06(日) 16:26:00.41 ID:I5ZkQb6J0
('A`)「もう帰るぞ。夜は冷える」

(*゚ー゚)「そうですね……」

('A`)「……ん?」

(*゚ー゚)「どうなされました?」

('A`)「いや、なんか声がしてさ、椎伊も聴こえないか?」

(*゚ー゚)「声?」


「――そう、そうだ。今度は向きを変えなさい、そう――」


('A`)「こ、こ、これは……」

(*゚ー゚)「毒念様……」

('A`)「声の元は……給仕場の方向からだ……」



364: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2011/02/06(日) 16:29:57.77 ID:I5ZkQb6J0
(*゚ー゚)「毒念様、なりません! ただちに戻りましょう!」

('A`)「戻れるかよ!」

(*゚ー゚)「……毒念様?」

('A`)「ついに糸口を発見したんだ、現場を抑えてやる」

(*゚ー゚)「毒念様、どこに!?」

('A`)「決まってる! 火元だ!」ダッ

('A`)(近づくほどに声が大きくなる……間違いない……!)

('A`)「給仕場だ……明かりがついている。障子戸の隙間から声が漏れていたのか」

(*゚ー゚)「ど、毒念様、ここは」ハァハァ

('A`)「……なんだ、結局ついてきたのか」

(*゚ー゚)「見捨てては……おけません」



374: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2011/02/06(日) 16:36:29.52 ID:I5ZkQb6J0
('A`)(隙間から覗けるな……)

(*゚ー゚)(毒念様、それより先はなりません! そこは深淵です!)

('A`)(しっ!)


(´<_` )「そうだ……よい眺めであるぞ。尻を高くすれば尚よい」


('A`)(あれは……典座の弟蛇さんじゃねぇか!)

('A`)(あの人も衆道狂いだったのか……)

(*゚ー゚)(毒念様……)

('A`)(椎伊、お前は目を伏せるんだ!)

(*゚ー゚)(しょ、承知……)



381: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2011/02/06(日) 16:41:07.84 ID:I5ZkQb6J0
('A`)(相手は……見たことのある少年僧だが、伊陽じゃないな)

('A`)(しかしあれは何をやらされているんだ?)

('A`)(四つん這いになって、碗の中に口を突っ込んで……かすかに震えている)

('A`)(舌だけを動かしているのか……?)


(´<_` )「碗の中身を見せなさい」

「は、はい」

(´<_` )「ふうむ、まだまだ底に茶が溜まっておる。まだまだ修練をが必要だな」

(´<_` )「茶を追加してもう一度だ」

「分かりました――」


('A`)(どういうプレイなんだこれ……)

('A`)(少年が全裸だからプレイなのは確定してるんだが……)



389: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2011/02/06(日) 16:44:54.60 ID:I5ZkQb6J0
('A`)(ん?)

(*゚ー゚)「……」ガタガタガタ

('A`)(どうした椎伊。そんなに震えて……)

(*゚ー゚)(毒念様――もう、よろしいでしょうか――?)

('A`)(うん、大丈夫だ。この目に証拠を焼き付けたからな)

(*゚ー゚)(でしたら……早く……去りましょう。ここにはいられません……)

('A`)(あ、ああ)

(*゚ー゚)「……」プルプル

('A`)(様子が尋常じゃない……)

('A`)(何かあったのか?)



393: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2011/02/06(日) 16:47:54.99 ID:I5ZkQb6J0
('A`)「……ふう。この辺にまでくれば安全だな」

('A`)「給仕場からも本堂からも遠い」

(*゚ー゚)「そう、ですね……」プルプル

('A`)「一体どうしたんだよ。そんなに震えて」

(*゚ー゚)「……」

(*゚ー゚)「……毒念様」

('A`)「なんだ?」

('A`)「姿勢まで改めて……」

(*゚ー゚)「毒念様になら、明かしても支障ないと、信じております」

(*゚ー゚)「どうして私が、一人で御不浄に向かうことを恐れているか――」

(*゚ー゚)「――分かりますか?」



405: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2011/02/06(日) 16:55:36.28 ID:I5ZkQb6J0
('A`)「いや……見当は……なんとなくつくけど」

('A`)「詳しくは分からない……」

(*゚ー゚)「御不浄に向かうまでの道には、給仕場と、典座の室があります」

(*゚ー゚)「その前を通らないと用を足しに行けない……」

(*゚ー゚)「……昔、一人で御不浄に向かった際、この廊下で私は衆道文化に勧誘されました」

('A`)「弟蛇さんにか!?」

(*゚ー゚)「いえ……私が誘われたのは……まだ九つの頃」

(*゚ー゚)「弟蛇和尚の先代の典座にです」

('A`)「そいつは、まだこの寺にいるのか?」

(*゚ー゚)「いえ、その方は既に山を下りました」



409: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2011/02/06(日) 16:59:01.86 ID:I5ZkQb6J0
('A`)「そうか……」

('A`)「だが……弟蛇さんも同じだった」

('A`)「一番親しみやすい坊さんだなと感じてたんだが……」

(*゚ー゚)「はい……私も夢にも思いませんでした」

(*゚ー゚)「素直に尊敬しておりました」

(*゚ー゚)「だから……余計に衝撃で……」

(*゚ー゚)「昔のことが……不意に呼び覚まされて……ううっ」

('A`)「おっ、おい、泣くなって」

(*゚ー゚)「……お見苦しいところをお見せしてすみません……」ゴシゴシ

('A`)「いや……気にすんな……辛かったんだな」



413: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2011/02/06(日) 17:06:24.74 ID:I5ZkQb6J0
('A`)「でもさ、拒否したんだろ?」

(*゚ー゚)「拒みました……しかし、おぞましい記憶は残っています」

('A`)「まあそうか……」

('A`)(ガキの頃に大人の汚い部分をモロに目にしちゃったんだもんな……)

(*゚ー゚)「毒念様……あの、このことはなにとぞ内密に……」

('A`)「言われずとも分かってるよ……」

(*゚ー゚)「心遣い感謝します」

(*゚ー゚)「……戻りましょう。消灯時刻から随分と経ってしまいました」

('A`)「そうだな、うん、そうしよう」

(*゚ー゚)「では、参りましょうか……」



415: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2011/02/06(日) 17:10:06.62 ID:I5ZkQb6J0
('A`)(椎伊の奴……そんなトラウマがあったのか……)

('A`)(普段明るいから気づけなかった……)

('A`)「……椎伊」ポン

(*゚ー゚)「はっ、はい!?」

('A`)「忘れろ、忘れちまえ」

('A`)「今日のことも……過去のこともだ」

(*゚ー゚)「忘れる――ですか」

('A`)「まだお前は子どもなんだ。嫌な思い出なんかいくらでも上書きできる」

('A`)「だから忘れろ」ポンポンッ

(*゚ー゚)「あっ……はい……」

(*゚ー゚)「頭を撫でられたのは……七つの時以来です」

('A`)「そうか……」



418: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2011/02/06(日) 17:13:46.08 ID:I5ZkQb6J0
〜翌日、寺院内農耕地〜


( ^ω^)「そりゃ舌先のエッチなトレーニングだお」

('A`)「なんだそれは」

( ^ω^)「お椀の底にわずかに溜まった水を舌だけで舐め取るってのは」

( ^ω^)「女性を悦ばせる練習法の一種だお」

('A`)「ああ僕には無縁なアレのことね」

( ^ω^)「僕にだって無縁だお」

('A`)「でもそれがなにかしら関係あるのか?」

('A`)「相手も自分も男なんだぜ?」

('A`)「女のイカせ方なんか練習させたところで意味がないだろ」



424: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2011/02/06(日) 17:19:28.37 ID:I5ZkQb6J0
( ^ω^)「女がいないからそういうことをさせてるんじゃないかお」

('A`)「ますます意味不明になったんだが」

( ^ω^)「察するに弟蛇和尚は……少年が女性に奉仕する姿に興奮を覚えるんじゃないかと」

('A`)「あの碗が女性器の代用ってことか」

( ^ω^)「おそらく」

('A`)「……なあ、それって同性愛と呼べるのか?」

( ^ω^)「さあ……そこまで予測するのは僕の頭じゃ無理だお」

( ^ω^)「ただ脱がせてたってことは、少年の姿に性的興奮を覚えてるのは明白だお」

('A`)「なんじゃそりゃ……どこまで倒錯してるんだ」

( ^ω^)「ねじれにねじれて訳分かんなくなっちゃってるんだお、きっと」

('A`)「深い世界観だわ」



429: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2011/02/06(日) 17:27:45.45 ID:I5ZkQb6J0
('A`)「とにかくこれで警戒すべきリストに一人名前が載った」

('A`)「だがそれが、よもや弟蛇さんだとは」

( ^ω^)「僕もびっくりだお」

('A`)「なんせ六知事の一人だからな……権力には逆らえなかったんだろうか」

( ^ω^)「弟蛇さんは……僕たちの食事の管理をしている……」

('A`)「やめろ」

/ ,' 3「おーい、畑仕事サボらんでくれよー」

('A`)「あっ、すみません、すぐに戻ります」

('A`)「……会話聞かれてねぇかな、荒巻さんに。あの人実質的なトップなんだろ?」

( ^ω^)「荒巻和尚は七十目前だお。その手の話には疎いから聞かれてたとしても大丈夫だお」

('A`)「密告されたら俺たちも弟蛇さんにゆすられるのかな……」



434: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2011/02/06(日) 17:35:23.93 ID:I5ZkQb6J0
('A`)「さあ茶礼の時間だ」

( ^ω^)「今日はゼリーだお」

('A`)「なんかあまり坊主っぽくない菓子だな」

( ^ω^)「梨のゼリーは当寺では一番の人気メニューだお」

(*゚ー゚)「諸梵和尚は遊山に出かけておられます」

(*゚ー゚)「ですので音頭はなしですね。ゆっくりと羽を伸ばせます」

('A`)「あの人仮にも住職なのに自由だな……」

('A`)「それより椎伊。もう気分は切り替わったのか」

(*゚ー゚)「はて? なんのことでしょうか」

(*゚ー゚)「それよりゼリーを頂きましょう。冷えているうちに食べたほうがおいしいですよ」

('A`)「お、おう」

('A`)(ああ……そうか、すっかり忘れようとしてるんだな……)



439: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2011/02/06(日) 17:42:59.07 ID:I5ZkQb6J0
( ・∀・)「毒念さん」

('A`)「これはこれは、茂羅和尚」

( ・∀・)「少し頼みたいことがあるんだけど」

( ・∀・)「いやなに、碗を空にした後でいいから、庭先で待っておくよ」

('A`)「はあ、授受しました」

( ・∀・)「それじゃあ」スタタ

( ^ω^)「……ドクオ、急いだほうがいいお。さっさと飲み干せお」

('A`)「えーもうちょっと緑茶飲んでたい……」

( ^ω^)「茂羅和尚は監寺……待たせるのは無礼千万だお」

(*゚ー゚)「蓬莱和尚の言うとおりです。なるべく早く参上したほうが吉でしょう」

('A`)「わ、わかったよ……」



440: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2011/02/06(日) 17:47:16.37 ID:I5ZkQb6J0
('A`)「茂羅和尚、ただいま参上しました」

( ・∀・)「早かったね。期待値以上だよ」

('A`)「あの、自分に用事というのは……」

( ・∀・)「ああ、それなんだけどね」

( ・∀・)「大したことじゃあないんだよ」

('A`)「と言いますと?」

( ・∀・)「少し、一緒に歩かないかって、誘ってみただけさ」

('A`)「へっ?」

( ・∀・)「ついてきなよ。山の中を散歩しよう」

('A`)「ちょっ、ちょっと待ってください!」

('A`)(本格的な仏僧は歩くのが早すぎる……)



447: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2011/02/06(日) 17:55:39.59 ID:I5ZkQb6J0
( ・∀・)「山中を散策するのは初めてかい?」

('A`)「初日に少しだけ」

('A`)「でも起伏にふくらはぎをやられてすぐやめちゃいました」

( ・∀・)「そうか。でもこうして心を落ち着けて眺めてみると、いい林だろう?」

('A`)「ですね。夏にもなればもっとよさそうです」

( ・∀・)「そうそう。青葉に囲まれてさ」

( ・∀・)「……叢林、といってね、樹木が群生する林のことをそう称するんだけど」

( ・∀・)「そこから転じて雲水が集団で暮らす禅寺のことも叢林と呼ぶようになったんだ」

('A`)「へー」

( ・∀・)「禅林という言葉はそこから更に転じて生まれたのさ」

('A`)(意外にもためになる話だな)



450: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2011/02/06(日) 17:59:29.43 ID:I5ZkQb6J0
( ・∀・)「僕はね、この林の中をうろうろ当てもなく歩くのが好きなんだ」

('A`)「迷ったりとかしないんですか?」

('A`)「自分なんかもうこの時点で帰り道を見失いそうなんですけど……」

( ・∀・)「ははは、もう道順を足が覚えてしまったよ」

( ・∀・)「……毒念さん」

('A`)「な、なんでしょ」

( ・∀・)「正式に仏門をくぐったわけじゃない君にだから告白できることだけど」

( ・∀・)「僕はあの寺の中にいるのが厭なんだ」

('A`)「え……?」

( ・∀・)「あそこは空気が澱んでいる。できることなら長居したくない」



454: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2011/02/06(日) 18:05:27.23 ID:I5ZkQb6J0
( ・∀・)「僕がやる作務といえば農作業や庭弄りに執心して」

( ・∀・)「暇さえあれば林に赴く」

( ・∀・)「寺から少しでも離れていたいから」

('A`)「けど……茂羅和尚は監寺という重要なポジションに就いているじゃないですか」

( ・∀・)「縛られているだけだよ」

( ・∀・)「位っていうのはね、権威の笠なんかじゃなく重責の枷なんだ」

('A`)「……」

( ・∀・)「それでも僕は、この寺からいずれ出ていこうと思ってるよ」

('A`)「どうして……自分なんかに……」

( ・∀・)「君は僧侶じゃあないからね」



459: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2011/02/06(日) 18:14:38.55 ID:I5ZkQb6J0
( ・∀・)「あ、そうだ、毒念さん」

('A`)「なん……でしょうか」

( ・∀・)「ついさっきまでの続きだ。禅寺を林に例える話はしたね?」

('A`)「拝聴しました」

( ・∀・)「その中でも学問を奨励している寺を栴檀林と呼んでね」

( ・∀・)「特に菩薩心に篤い方がいると大々的に栴檀林を名乗れるんだ」

('A`)「学問ですか……」

( ・∀・)「うちの寺にも学問を修めて出家した人物はちらほらといる」

( ・∀・)「管主殿や副寺殿をはじめね」

('A`)「じゃあ条件的には当てはまってませんか?」

( ・∀・)「はいそうです、とはいかない」



463: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2011/02/06(日) 18:18:02.05 ID:I5ZkQb6J0
( ・∀・)「毘譜寺に勉学はある。だけど毘譜寺は栴檀林じゃない」

('A`)「それは、どういう……」

( ・∀・)「栴檀林に雑樹なし……」

( ・∀・)「難しく考える必要なんかないんだよ。禅問答とかでもない」

( ・∀・)「だけど考えれば考えるほどに解答は遠くそして徐々に自ずから寄ってくる」

('A`)「ややこしいです」

( ・∀・)「はは、だろうね、いや少し偏屈な物言いになってしまった」

('A`)「さいですか……」

( ・∀・)「――稲麻竹葦」

('A`)「はい?」

( ・∀・)「君にはそう言っておく。あまり気にする必要もないけどさ」

( ・∀・)「……さっ、帰ろうか。寺院に到着するころには昏鐘が鳴るだろう」



475: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2011/02/06(日) 18:24:29.64 ID:I5ZkQb6J0
〜薬石の場〜


(´・ω・`)「皆の者、束の間耳を貸してほしい」

シン……

(´・ω・`)「私は明日よりしばらく寺を空けることになる」

( ^ω^)(なんか他宗の代表で集まって会合があるらしいお)

('A`)(初耳だな)

(´・ω・`)「全権を都寺である荒巻和尚に委ねるがゆえ」

(´・ω・`)「なにか困り事があったら老師を頼りなさい」

(´・ω・`)「……よろしいですかな? 荒巻和尚」

/ ,' 3「心得ております」



477: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2011/02/06(日) 18:29:36.58 ID:I5ZkQb6J0
(´・ω・`)「うむ」

(´・ω・`)「雲水全員で協力して、迷いながらで構わぬから大悟に至る道を歩むのだぞ」

(´・ω・`)「それでは今宵の薬石をいただくとしよう。ひとつ――」

( ^ω^)「管主の諸梵和尚が出張かお……はあ」

('A`)「どうした、ため息なんか吐いて」

(*゚ー゚)「そういえば毒念様が寺に入門してからは初めてでしたね」

('A`)「待て待て。気になるじゃないか。どういう事態になるんだよ?」

( ^ω^)「絶対的権力者の諸梵和尚の千里眼が及ばなくなる、それはすなわち」

(*゚ー゚)「譲留和尚と擬古和尚の確執が表面化する……ということです」

( ^ω^)「ああ、明日から修羅場の連続だお……」

('A`)「そんなピンチなのかよ……」



483: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2011/02/06(日) 18:38:11.43 ID:I5ZkQb6J0
〜翌朝の粥座〜


('A`)「粥を運び終わったぞ。今日は水っぽくなくてうまそうだな」

( ^ω^)「でも作ったのは弟蛇和尚……」

('A`)「やめろ」

(*゚ー゚)「儀礼が開始しますよ」

(*゚ー゚)「平時であれば管主様の役割なのですが……」

(,,゚Д゚)「……今日より数日間、諸梵住職が合同会議に出席なさっておられるゆえ」

(,,゚Д゚)「代理として維那の拙僧が偈文を務めさせていただく」

( ゚∀゚)「……」ニヤニヤ

(,,゚Д゚)「拙僧の後に従ってもらいたい……では、ひとつ」



488: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2011/02/06(日) 18:43:10.10 ID:I5ZkQb6J0
(,,゚Д゚)「功の多少を計り彼の来処を量る」

「功の多…を計…彼の……を量…」

(,,゚Д゚)「……ふたつ、己が徳行の全欠を忖って供に応ず!」

「己…徳行……欠を忖……供に…ず」

('A`)「あ、あれ? なんかいつもより音量小さくない?」

( ^ω^)「……派閥のせいだお」

('A`)「ブーン」

( ^ω^)「譲留和尚派の僧は擬古和尚の言葉には決して従わず、読み上げを拒否してるんだお」

('A`)「ってことは今閉口しているのは譲留派か……じゃあお前が黙っているのも」

( ^ω^)「そうだお。そういうスタンスを崩すとまた均衡がおかしくなるんだお」

('A`)「……ピリピリしすぎだろこの空気……」



491: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2011/02/06(日) 18:49:42.46 ID:I5ZkQb6J0
(,,゚Д゚)「みっつ、心を防ぎ過を離るることは貪等を宗とす……」

「…を防…過……る…ことは貪等…宗…す」

('A`)「堪えられない……重たい空気が沈殿してて堪えられない……」

('A`)(椎伊は口上してるな……擬古派なのか……)

('A`)「しかし……擬古さんは粛々と進めるんだな」

( ^ω^)「公衆の場で騒ぎを起こすと、いくら維那の立場とはいえ罰則の対象になるお」

('A`)「ううん……そうだ、茂羅さんや荒巻さんは何か言わないのか?」

('A`)「あの人らは寺の総監督みたいなもんなんだろ?」

( ^ω^)「茂羅和尚は建物自体の監督、それにあの性格だから」

( ^ω^)「人間関係には我関せずといった立ち位置だお」

( ^ω^)「雲水を監督する荒巻和尚は……あの歳だから聴こえてないんじゃないかお」

('A`)「肝心要の人間に限って……」



496: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2011/02/06(日) 18:56:54.56 ID:I5ZkQb6J0
('A`)「異常に緊迫した朝食が終わった……」

( ^ω^)「これが諸梵和尚が帰ってくるまで続くんだお。きついお」

('A`)「あの二人、和解とかしないのか?」

( ^ω^)「相反する思想が片方だけ裏返る、なんてことはありえないお」

('A`)「だよな……そんな浅い問題じゃないか」

(*゚ー゚)「毒念様! 蓬莱和尚! 大変です!」ダダダ

( ^ω^)「どうしたんだお、そんな慌ただしく駆けてきて」

(*゚ー゚)「譲留和尚と擬古和尚が……廊下ですれ違って……」

('A`)「なんだそんだけか――」

( ^ω^)「本気かお! 避難ルートを確保しつつ見守る体勢に入るお!」

(*゚ー゚)「一刻を争います! 急ぎましょう!」

('A`)「えっ、おい、ちょっと、放置やめて放置は!」



504: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2011/02/06(日) 19:04:43.39 ID:I5ZkQb6J0
( ゚∀゚)「……」

(,,゚Д゚)「……」


('A`)「おお本当だ、譲留さんと擬古さんがが向かい合ってる……」

('A`)(そういえばあの二人が対峙しているところを見るのって初めてだな)

( ^ω^)(もうちょっと身を隠すお)

('A`)(ああ、そうさせてもらうよ……)


(,,゚Д゚)「譲留和尚……本日もこれから物見遊山に参られるか」

( ゚∀゚)「人聞きの悪い言い方ですな擬古殿。遊説と呼んでもらいたい」

(,,゚Д゚)「遊興に耽り俗世に身を窶すことが大層にも修行か、それは結構なことで」

( ゚∀゚)「擬古殿は頭が古い。悟りの在り処を固定概念で決めつけてしまっているのだ」



513: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2011/02/06(日) 19:12:01.15 ID:I5ZkQb6J0
( ゚∀゚)「なんなら擬古殿を伴っても構わぬのだが?」

(,,゚Д゚)「戯言を申すな!」

(,,゚Д゚)「自己を裡側から心眼にて見つめ、自己を漸悟の刻への待機時間に消費する」

(,,゚Д゚)「拙僧にとっての禅とは是れが如くござる」

( ゚∀゚)「それが古いというのだ擬古殿」

( ゚∀゚)「自己とは後から形作られるもの。多様な経験をもってやがて頓悟は訪れる」

(,,゚Д゚)「愚論だ。聞くに堪えない」

( ゚∀゚)「そうして前進を放棄し続けて、後悔を生んでも知らんぞ!」

(,,゚Д゚)「疾うに承知の上! しかし決して後悔などせぬ!」

(,,゚Д゚)「拙僧が悔む瞬息は、貴様の誤った解釈を易々と甘受した時だけだ!」

( ゚∀゚)「それを思考停止というんだよ!」


('A`)(こ、こええ……ちびりそう……)



570: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2011/02/06(日) 20:31:27.28 ID:I5ZkQb6J0
(,,゚Д゚)「……」

( ゚∀゚)「……」


('A`)(……睨み合ったまま動かない。波は過ぎたみたいだが)

('A`)(ひどく……静かだ……)

('A`)(静寂は安らぎだけでなく、恐ろしいものでもあるのか……)


( ´_ゝ`)「おーおー、お二人さん、ちょいとどいてくれ」

( ゚∀゚)「兄蛇殿」

(,,゚Д゚)「……何か」

( ´_ゝ`)「何かも何も、廊下の修理をしなくちゃならんのだよ。だからどいてくんない?」

( ´_ゝ`)「それを終えたら今度は柱の補修だ。おい! そこに集まってる連中!」



574: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2011/02/06(日) 20:37:33.44 ID:I5ZkQb6J0
('A`)「げ、俺らのことか」

( ´_ゝ`)「げ、じゃないよまったく。ほらほらぼーっとしてないで働け働け!」

('A`)「分かりました……」

( ´_ゝ`)「あー、君らはちょっとこっちの手伝いお願い」

(*゚ー゚)「はいな」

( ゚∀゚)「……ふん」

(,,゚Д゚)「くだらぬ時間を過ごした。座禅に入る。賛同する者は拙僧に続くがよい」

( ゚∀゚)「時は金なり、ひどい浪費だ。帳面にでもつけておくかね」

(,,゚Д゚)「口は減らぬから無為にはならぬな」

( ゚∀゚)「お上手ですこと。さあて、俺も下山しますか。従者はついてきな」

(,,゚Д゚)「――『閉じた』世界に漸悟あれ」

( ゚∀゚)「――『開けた』世間に頓悟あれ」



577: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2011/02/06(日) 20:41:24.33 ID:I5ZkQb6J0
(*゚ー゚)「あの、兄蛇和尚、ありがとうございます」

( ´_ゝ`)「へ? なんのこと」

('A`)「あの二人の諍いを鎮めてくれたじゃないですか」

( ´_ゝ`)「よく分からん」

('A`)(天然かい)

( ´_ゝ`)「それよりも修繕だ修繕。給仕場への廊下がまた傷んでいる」

('A`)「今日もですか……十分じゃないですかこれ」

(*゚ー゚)「綺麗なままのように私の目には映ります」

( ´_ゝ`)「いーや全然ダメ。直さなくちゃいけないんだ」

( ´_ゝ`)「直さなくちゃ、まっさらにしとかなきゃ……」

('A`)「まあ言われたことはやりますけどね」



587: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2011/02/06(日) 20:46:30.93 ID:I5ZkQb6J0
〜午後八時、茶礼〜


('A`)「ひどい一日だった」

(*゚ー゚)「無党派の毒念様の元には両陣営からの勧誘が殺到しますからね」

('A`)「口喧嘩まで始めるし……結局荒巻さんの手伝いをすることで難を逃れたが」

( ^ω^)「あの人は畑仕事が好きなんだお」

( ^ω^)「育ててる野菜を自分の子どもかのように慈しんでるお」

('A`)「荒巻さんが人畜無害なおかげでなんとか今日は凌げたけど……」

('A`)「明日も仕事に誘われるとは限らない……」

( ^ω^)「もうどっちの肩を持つか決めちゃえばいいんじゃないかお?」

('A`)「ダメだ、俺はまだ俺なりの回答を見つけていない」

( ^ω^)「変なところで強情な奴だお」



593: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2011/02/06(日) 20:50:32.67 ID:I5ZkQb6J0
(,,゚Д゚)「……」ズズ...

( ゚∀゚)「……」ズー

('A`)「あの二人まったく視線を合わせないな」

( ^ω^)「お互いがお互いを憎み合ってるんだお」

( ^ω^)「人格も思想も、深いところまで」

(*゚ー゚)「そのせいで私たちにも緊張感が走っているんですけれど……」

('A`)「注視してみると茶の飲み方もまるで違う」

('A`)「擬古さんはすするようにして上品に飲んでいる」

('A`)「譲留さんは浴びるようにして豪快に飲んでいる」

('A`)「容姿からすると逆っぽいのにな……」



599: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2011/02/06(日) 20:58:40.80 ID:I5ZkQb6J0
(,,゚Д゚)「……管主様もおらぬゆえ」

(,,゚Д゚)「本腰を入れて夜座を行いたい者には、特別に禅堂の利用を許可する」

(,,゚Д゚)「拙僧も堂内の己の単にて瞑想に入らせてもらう……以上だ」スッ

(,,゚Д゚)スタスタ

( ゚∀゚)「俺は早めに眠らせてもらうぜ」

( ゚∀゚)「教義を授かりたい者は荒巻和尚の室を訪ねなさい」スクッ

( ゚∀゚)スタスタ

シィン.......

('A`)「行ったか……」

( ^ω^)「僕らはどうするお? 消灯までもうちょいだから先に布団かぶっとくかお?」

('A`)「いや……ブーン、聞いてくれ」

('A`)「俺は今晩夜座に出向こうかと思う」



606: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2011/02/06(日) 21:04:38.31 ID:I5ZkQb6J0
( ^ω^)「この状況でかお?」

('A`)「そうだ。あと声落とせ。極秘に話すぞ」

( ^ω^)「やめといたほうがいいお。今夜からは諸梵和尚の御威光がない……」

( ^ω^)「噂じゃ無法地帯になるとも随分前から言われているお」

('A`)「どうなっちゃうわけよ」

( ^ω^)「いちいち最後まで説明させんなお。もう察してるだろうお」

('A`)「だが、あえてそういった夜を選べば闇を暴く確率は上がる」

( ^ω^)「……」

('A`)「チャンスなんだこれは。俺は虎穴に虎児を探しに行くぞ。止めるなよ」

( ^ω^)「……僕も行くお。集団で行動したほうがいいお」

('A`)「恩に着るぜ」



612: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2011/02/06(日) 21:08:27.66 ID:I5ZkQb6J0
(*゚ー゚)「あっ、どちらに参られるのですか?」

('A`)「いやちょっとな、修行が足りんと思って夜座に行こうかと」

(*゚ー゚)「そうなのですか。私もお供いたします」

('A`)「え」

(*゚ー゚)「私も日頃の鍛錬が不足しているように痛感していたところなのです」

(*゚ー゚)「ですがやはり、一人というのは心細くて……ご一緒願えますか?」

('A`)(ど、どうするよ、ブーン)

( ^ω^)(断ったら逆に不自然だお。流れに任すお)

( ^ω^)(隙を見てスパイ活動に移ればいいお)

('A`)(そんなうまくいくだろうか……)

( ^ω^)(やるっきゃないお)



615: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2011/02/06(日) 21:12:19.44 ID:I5ZkQb6J0
('A`)「よし……んじゃ、椎伊」

(*゚ー゚)「はい」

('A`)「一緒に行こうぜ」

(*゚ー゚)「はい!」

('A`)「と、その前に……」キョロキョロ

('A`)「お、いたいた」

(=゚ω゚)「……」

('A`)(伊陽はとっくに就寝の準備を済ませてるか……)

('A`)(つーことは……あいつの相手は今日は分からないってことだな)

( ^ω^)「出発するお」

('A`)「さあて、暗闇の中に何が潜んでいるかね」



618: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2011/02/06(日) 21:17:51.83 ID:I5ZkQb6J0
('A`)「禅堂は開放してあるって言ってたよな」

( ^ω^)「擬古和尚が使ってるはずだお」

(*゚ー゚)「ですが、今朝のこともありますし」

(*゚ー゚)「今の擬古和尚の傍らに居続けられる雲水が果たしていますかどうか……」

( ^ω^)「だおだお。僕なら神経性の胃炎にかかって死ぬお」

('A`)「んじゃ廊下だな。月が見える位置でやろう」

(*゚ー゚)「そうしましょう」

('A`)(おい、ブーン、策をくれ。俺は馬鹿だから思いつかん)

( ^ω^)(夜座はそのまま眠りに落ちてしまうことがしばしばだお)

( ^ω^)(椎伊が居眠りしてしまうまで待つお)

('A`)(気の遠くなる作戦だな……)



624: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2011/02/06(日) 21:25:49.17 ID:I5ZkQb6J0
(*゚ー゚)「一応、というわけではないですが、禅堂のほうも覗いてみましょう」

( ^ω^)「擬古和尚の妨げにならないようすり足で歩くお」

('A`)「消える足音、増える不穏」

(*゚ー゚)「禅堂です。この時間帯にもなりますと一層静かですね」

(*゚ー゚)「陰から覗きこむようにして……」


(,,-Д-)「……」


('A`)「凄まじい集中力だな……微動だにしない」

(*゚ー゚)「これこそ座禅の最大公約数、究極の形なのでしょうね」

( ^ω^)「二人とも静かに! 向こうから誰か来るお!」



629: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2011/02/06(日) 21:29:02.98 ID:I5ZkQb6J0
('A`)「えっ、マジで?」

( ^ω^)「あれは……間違いないお! 譲留和尚だお!」

('A`)「譲留さんだと!?」

('A`)「なんか修羅場の予感がぷんぷんするんですけど」

(*゚ー゚)「かっ、隠れましょう!」

('A`)「どこにだよ?」

( ^ω^)「とりあえず廊下を曲がった先に身を隠すお!」

('A`)「もしこっちに来たら?」

( ^ω^)「そん時は観念するお」

('A`)「いやあああああ」



634: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2011/02/06(日) 21:33:34.01 ID:I5ZkQb6J0
( ゚∀゚)ガララ

( ゚∀゚)「擬古殿――おられるようだな」

(,,゚Д゚)パチッ

(,,゚Д゚)「……如何用か、譲留和尚」

(,,゚Д゚)「生憎拙僧は座禅で忙しいのだが」

( ゚∀゚)「いや、少し話があるんだよ。そのぐらいは許可してくれるだろう、維那さん?」

(,,゚Д゚)「……手短にな」


(*゚ー゚)「なんとか……隠れることには成功したみたいです……」

('A`)「声だけが聴こえる……間違いなく禅堂に入ったのは譲留さんだ……」

( ^ω^)「何が始まるんだお……」



649: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2011/02/06(日) 21:40:12.76 ID:I5ZkQb6J0
( ゚∀゚)「久々だな……禅堂に足を踏み入れるのは」

(,,゚Д゚)「何年ぶりだ」

( ゚∀゚)「いつが最後だったかも思い出せない。それ以上に新しい体験が勝っていてね」

(,,゚Д゚)「……左様か」

(,,゚Д゚)「とにかく座せ。立ち話は見苦しい」

( ゚∀゚)「そうさせてもらうぜ。今日も歩きに歩いたからな」

( ゚∀゚)「足が痛くてたまらん」

(,,゚Д゚)「名誉の証ではない。ただの無益な痛覚に過ぎぬ」

( ゚∀゚)「相変わらず手厳しいな、むしろ安心するぐらいだ」

(,,゚Д゚)「それよりも話とはなんだ」

( ゚∀゚)「そう急かすな。俺は逃げ出したりやしない」

( ゚∀゚)「少し雑談をしようじゃないか」



654: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2011/02/06(日) 21:46:15.65 ID:I5ZkQb6J0
( ゚∀゚)「擬古殿」

(,,゚Д゚)「なんだ」

( ゚∀゚)「今一度、汝の禅に対する考え方を聞かせてくれないか」

(,,゚Д゚)「それが本題か」

( ゚∀゚)「いやあ違う。雑談の棚を一段開けただけだ」

(,,゚Д゚)「そうか――しかし」

(,,゚Д゚)「今更語ることもあるまい。何度譲留和尚に主張したか定かではないというのに」

(,,゚Д゚)「そもそも聞く耳を持たぬではないか」

( ゚∀゚)「一対一の状況なら、また違う側面から見ることができるかも知れんだろう?」

(,,゚Д゚)「成程……」

(,,゚Д゚)「……やけに譲歩するな、どうした」



660: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2011/02/06(日) 21:52:09.95 ID:I5ZkQb6J0
( ゚∀゚)「そういう気分なのさ」

(,,゚Д゚)「ふん、まあよい」

(,,゚Д゚)「拙僧の禅というものに対する思想……平易に言えば『閉じる』ということだ」

( ゚∀゚)「俺の思想とは正反対、のな」

(,,゚Д゚)「まさしく」

(,,゚Д゚)「自己の中に自己を封じ、自己の中で自己を見つめ直す」

(,,゚Д゚)「己の魂は己にしか宿らぬ。閉鎖空間で脈打つ魂の鼓動に耳を傾け――」

(,,゚Д゚)「そして大悟する」

( ゚∀゚)「自己を既製品として捉えているわけだな」

(,,゚Д゚)「いかにも!」

(,,゚Д゚)「禅とは己が裡に真理を求める宗派である」



671: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2011/02/06(日) 21:57:18.29 ID:I5ZkQb6J0
(*゚ー゚)「……なんか、割と穏やかな雰囲気じゃないですか?」

( ^ω^)「会話を盗み聞きしてる限りでは険悪さは感じられないお」

('A`)「もしや両者の和解という歴史的瞬間では」


(,,゚Д゚)「……譲留和尚、この期に及んで拙僧の考えなど聞き出してどうする?」

( ゚∀゚)「いや……なに……」

(,,゚Д゚)「どうした、何を顔を伏せているのだ」

( ゚∀゚)「自分の意志とは無関係にこうしちまうんだよ……」

( ゚∀゚)「笑いを堪えるのに精一杯でな」

(,,゚Д゚)「なんだと!」

( ゚∀゚)「ふふふ……ははーはっは! 本当に戯けた男だ、お前は!」

(,,゚Д゚)「貴様っ……!」



681: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2011/02/06(日) 22:05:05.89 ID:I5ZkQb6J0
( ゚∀゚)「そうさ、俺はお前の思想を聞いて、改めて馬鹿にするつもりだったのさ!」

(,,゚Д゚)「外道めがっ! 貴様はまた拙僧を愚弄するか! 貴様如きが!」

( ゚∀゚)「自己は出来上がったものだと? 傑作だ! 滑稽滑稽!」

( ゚∀゚)「自己は『作られる』ものではなく『作っていく』ものだ!」

( ゚∀゚)「そこに必要なのは『開く』こと!」

(,,゚Д゚)「違う! 誇大解釈が過ぎるぞ譲留和尚!」

(,,゚Д゚)「それによって作られるのは『自己』ではなく『自身』に過ぎない!」

(,,゚Д゚)「人間と、人間の真理は似て異なることだ!」

( ゚∀゚)「自己は日々変化していく」

( ゚∀゚)「五感はなんのためにある? 外に溢れる光を吸収するためだ!」

( ゚∀゚)「感覚は窓だ! それを閉ざしていては先がない! 光明が自己を組み上げる!」

(,,゚Д゚)「愚かなり! 己の中で熟成を重ねることで悟りの一端が見えてくるのだ!」



690: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2011/02/06(日) 22:11:17.88 ID:I5ZkQb6J0
('A`)「な、なにやらとんでもないことに……」

( ^ω^)「背筋の震えが止まらんお……」

('A`)「これがガチの戦争か……」


(,,゚Д゚)「第一にして密語を知らぬのか!」

( ゚∀゚)「当然存じているに決まっている」

( ゚∀゚)「釈迦牟尼世尊が弟子に告げたとされる言葉だろう」

(,,゚Д゚)「そうだ」

( ゚∀゚)「他に理解できる者は存在しなかったとされる」

(,,゚Д゚)「当人同士でしか通じぬ言語を用いて釈尊の教えは伝えられた……」

(,,゚Д゚)「これぞまさに『閉じた』世界ではないか!」



693: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2011/02/06(日) 22:18:16.14 ID:I5ZkQb6J0
(,,゚Д゚)「禅の開祖道元禅師も密の道理を仰られておる!」

(,,゚Д゚)「大凡世尊に密語あり、密行あり、密證あり」

(,,゚Д゚)「然あるを、愚人思わく、密は他人の知らず自らは知り、知れる人あり、知らざる人あり」

( ゚∀゚)「ほう」

(,,゚Д゚)「自己は千差万別、人によりて様々である」

(,,゚Д゚)「しかし己のことは己しか知らぬ」

(,,゚Д゚)「――無間断也、蓋仏祖也、蓋汝也、蓋自也、蓋行也、蓋代也、蓋功也」

(,,゚Д゚)「蓋密也!」

( ゚∀゚)「……ふふ、ふはは! それが決め台詞のつもりか、擬古殿!」

(,,゚Д゚)「まだ拙僧を嘲笑する気か!」



700: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2011/02/06(日) 22:24:29.20 ID:I5ZkQb6J0
( ゚∀゚)「お前は大いなる勘違いをしている!」

(,,゚Д゚)「勘違い……だと?」

(,,゚Д゚)「拙僧に錯誤などありえぬ!」

( ゚∀゚)「いやあるんだ、お前の口述で理解できた」

( ゚∀゚)「お前は――道元禅師の解釈を取り違えている」

(,,゚Д゚)「……どういう……ことだ……?」

( ゚∀゚)「禅僧が正法眼蔵も碌に理解できぬとは大笑いだ!」

( ゚∀゚)「廣聞のともがらは密あるべからざるか」

( ゚∀゚)「況や天眼天耳、法眼法耳、佛眼佛耳等を具せん時は、凡て密語密意あるべからずと言うべし」

(,,゚Д゚)「それがどうした、すべて拙僧の思想に続くではないか!」



715: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2011/02/06(日) 22:31:16.67 ID:I5ZkQb6J0
( ゚∀゚)「――佛法の密語、密意、密行等は、この道理にあらず」

( ゚∀゚)「人に会う時節、まさに密語を聞き、密語を説く。己を知る時、密行を知る也」

(,,゚Д゚)「なんら記憶と相違ない。貴様が述べた言葉は拙僧が読み干した通りだ」

(,,゚Д゚)「ゆえに持論は覆らぬ」

( ゚∀゚)「違う。お前はこの『密』の意義を理解していないんだ」

(,,゚Д゚)「なにっ?」

( ゚∀゚)「自分の都合のように解釈してしまってるんだよ」

( ゚∀゚)「閉じてしまってるから」

( ゚∀゚)「だからその先の道元禅師の言葉が頭に入ってこなかったんだ」

(,,゚Д゚)「その先……とは」

( ゚∀゚)「――いわゆる密は親密の道理也」



721: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2011/02/06(日) 22:34:17.56 ID:I5ZkQb6J0
(,,゚Д゚)「なんだと……!」

( ゚∀゚)「覚えていたか? いないだろう!」

(,,゚Д゚)「拙僧の記憶には……残っておらぬ……」

(,,゚Д゚)「……それでは……」

( ゚∀゚)「すなわち禅における密とは『秘密』ではない――密とは『親密』のことだ!」

( ゚∀゚)「心を開かねばその境地には至れぬ!」

(,,゚Д゚)「ぐっ……!」


(*゚ー゚)「一体何を話されているのでしょうか……」

( ^ω^)「ちんぷんかんぷんだお」

('A`)「そもそも日本語なのかも分からねぇ……」



733: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2011/02/06(日) 22:42:08.26 ID:I5ZkQb6J0
(,,゚Д゚)「……それでも……」

(,,゚Д゚)「それでも今更……自己は曲げられぬ……」

( ゚∀゚)「そうかい。それもまた禅の真実だな」

(,,゚Д゚)「厳密、緻密。『閉じて』こその精緻なり」

( ゚∀゚)「解決、解放。『開いて』こその自由なり」

(,,゚Д゚)「……解放? 貴様、今解放と申したか?」

( ゚∀゚)「そうだ。どうかしたか」

(,,゚Д゚)「成程、道理よ……」

(,,゚Д゚)「旧式の我々とは違う考えを持ちこんできた所以が分かったわ」

( ゚∀゚)「気づいたか。随分と歳月を要したな……」

(,,゚Д゚)「貴様は禅宗からの改宗者ではないな?」

( ゚∀゚)「ご名答」



743: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2011/02/06(日) 22:48:07.91 ID:I5ZkQb6J0
( ゚∀゚)「どこで分かった?」

(,,゚Д゚)「『解放』という単語からぴんときた」

(,,゚Д゚)「貴様の『開く』という思想は、輪の解放から着想を得たのだろう?」

( ゚∀゚)「すばらしいな、全問正解だ」


('A`)「輪ってなんだ」

(*゚ー゚)「チャクラのことです。身体にある中枢と言われています」

(*゚ー゚)「しかし……チャクラということは……」


(,,゚Д゚)「貴様……密教出身だな」

( ゚∀゚)「百点だ擬古殿」



748: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2011/02/06(日) 22:52:04.09 ID:I5ZkQb6J0
( ゚∀゚)「俺が以前にいた寺は台密だ」

( ゚∀゚)「しかし禅とまったくの無関係というわけではない」

( ゚∀゚)「なにせ禅の三大宗派のひとつ、臨済宗は天台密教の系譜にあるからな」

(,,゚Д゚)「当山には一切関係のないことだ」

( ゚∀゚)「違いねぇや」

(,,゚Д゚)「……禅の知識はどこで」

( ゚∀゚)「俺は勉強家でね。昼夜を惜しまぬ勉学で身に付けたのさ」

( ゚∀゚)「従来からいるお前を超えるほどにな」

(,,゚Д゚)「……くっ……」

( ゚∀゚)「ふふ……」



762: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2011/02/06(日) 22:57:47.18 ID:I5ZkQb6J0
(,,゚Д゚)「しかし……密教は」

(,,゚Д゚)「貴様の思想とはまさに逆。むしろ拙僧の思惟に近い」

( ゚∀゚)「そう。密教は字の如く秘密の教え。誰にでも開放された宗教ではない」

(,,゚Д゚)「悟りの境地は言語化できぬ……ゆえに難解かつ明解」

( ゚∀゚)「俺はな、そういうけちくさい内緒の教義ってのが間違いだって思うようになったんだ」

(,,゚Д゚)「寺で過ごすうちに、か?」

( ゚∀゚)「そう。開くことが大切だという結論に至った。その考えがここの管主様に気に入られてね」

( ゚∀゚)「だから俺は諸梵和尚の誘いに乗って、毘譜寺に来たのさ」

( ゚∀゚)「そういう意味ではお前が語っていた通りかもしれない」

( ゚∀゚)「内側にいたから――厭な部分が見えた」

(,,゚Д゚)「……」



772: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2011/02/06(日) 23:03:47.52 ID:I5ZkQb6J0
(*゚ー゚)「なんだか大変なことになってきました……」

('A`)「譲留さんが来た経緯にはそんな事情があったのか……」


(,,゚Д゚)「……そうか……」

( ゚∀゚)「異教徒だと蔑視するか?」

(,,゚Д゚)「今更認識を変えても、無駄骨にしかならぬ」

( ゚∀゚)「そいつは感謝するぜ」

( ゚∀゚)「しかし禅というものも、観念的とよく言われるがさほどややこしいものではなかったな」

( ゚∀゚)「座禅ってのは要するに禅密気功みたいなもんだ」

( ゚∀゚)「第一チャクラから徐々に開いていく……それの応用だ」

(,,゚Д゚)「貴様は……座禅でも閉じるのではなく、開いていたのだな……」

( ゚∀゚)「そうだ。まっ、変わり映えしないからすぐに飽きたけどな」



777: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2011/02/06(日) 23:08:17.19 ID:I5ZkQb6J0
( ^ω^)「譲留さんの勝ちみたいだお……」

(*゚ー゚)「完勝ですね……」

('A`)「擬古さんがこんなに弱々しい声を漏らすとは……」

( ^ω^)「しかも自分の出自の秘密まで開いてしまったお」

('A`)「その上での論破か……」

(*゚ー゚)「さすがは雲水第三位といったところでしょうか」

('A`)「ううむ……」


(,,゚Д゚)「話とは……以上か」

( ゚∀゚)「いや、違うね」

( ゚∀゚)「ここからが本題なんだ、擬古殿」



787: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2011/02/06(日) 23:14:22.50 ID:I5ZkQb6J0
( ゚∀゚)「お前、昼は大抵托鉢行に出てるだろ?」

( ゚∀゚)「数人の従者を伴ってさ」

(,,゚Д゚)「……それがどうかしたか」

( ゚∀゚)「あれ、嘘だろ」

( ゚∀゚)「嘘というか、外出する名目を騙ってるんだな」

(,,゚Д゚)「……なに、を……」

( ゚∀゚)「擬古殿の従者の中に、四人ほど若い僧がいるよな?」

(,,゚Д゚)「肯定するが……」

( ゚∀゚)「その中の一人を問い質してね、いや優しくしたら素直に答えてくれたよ」

( ゚∀゚)「彼らをお前は山野に立てた小屋にこっそり誘いこんでるらしいじゃないか」


(,,゚Д゚)「っ!」



( ゚∀゚)「お前は衆道狂いだ」



808: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2011/02/06(日) 23:19:36.83 ID:I5ZkQb6J0
( ゚∀゚)「目くらましかどうかは知らないけど、年長の雲水も連れていってるが」

( ゚∀゚)「あれはどうも目くらましらしいな」

( ゚∀゚)「聞けば、彼らだけを下山させた後で連れ込んでるそうじゃないか」

( ゚∀゚)「『この者たちは道をよく知らぬ。拙僧が案内するゆえ先に行け』とか言ってな」

(,,゚Д゚)「……畜生道に堕ちたか、貴様……!」

( ゚∀゚)「それはこっちのセリフではないかね、擬古殿?」

( ゚∀゚)「俺はただ事実を伝えただけだぜ」

(,,゚Д゚)「俺は……貴様がそこまで性根が腐っているとは思ってはいなかった……!」

( ゚∀゚)「お前は閉じているから、秘密の暴露には相当な憤激を覚えるだろう」

( ゚∀゚)「俺はな、お前にとことん屈辱を与えたかったんだよ」

( ゚∀゚)「いい加減どちらが優位かを知らしめたくてね」



821: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2011/02/06(日) 23:24:40.66 ID:I5ZkQb6J0
(,,゚Д゚)「貴様こそ……破戒僧ではないか!」

(,,゚Д゚)「拙僧に偉そうにできる立場か!」

(,,゚Д゚)「野に下りては肉を喰らい、鉄火場にて享楽にかまけているそうじゃないか!」

( ゚∀゚)「鉄火場? ああ、ギャンブルか」

(,,゚Д゚)「しかもだ、俗世で女を囲っているとも伝え聞く! 女犯であるぞ!」

( ゚∀゚)「そうだな。それがどうかしたか?」

(,,゚Д゚)「……なぜ未だ泰然としていられる!」

( ゚∀゚)「俺は開いているからそんなところを責められても痛くも痒くもない」

( ゚∀゚)「おそらくは管主様の耳にも届いているだろう」

( ゚∀゚)「しかしなんの咎もない……これはすなわち、認可されているということだ」

(,,゚Д゚)「くうっ……!」



837: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2011/02/06(日) 23:32:24.54 ID:I5ZkQb6J0
( ゚∀゚)「凍り豆腐ってのがあるだろう?」

(,,゚Д゚)「……昨夜も薬石で頂いた」

( ゚∀゚)「別名高野豆腐……高野山で生まれた食品だな」

( ゚∀゚)「高野山もまた密教の栄えた地……いやいや、これは話が逸れた」

( ゚∀゚)「凍り豆腐は自らの水分を放出し、代わりに汁物を吸いやすくなっている」

(,,゚Д゚)「それがどうしたというのだ」

( ゚∀゚)「一方、普通の豆腐は、豆腐の形を保ってはいる。いるが」

( ゚∀゚)「それはただの『素材』に過ぎない。料理ではない」

( ゚∀゚)「大悟は仏への接近。素材のまま献上するのは失礼ではないか」

(,,゚Д゚)「そこで……自己の話へと接続するか」

( ゚∀゚)「その差なんだよ、俺とお前の違いは」



846: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2011/02/06(日) 23:36:48.03 ID:I5ZkQb6J0
( ゚∀゚)「俺は凍り豆腐で、お前はただの豆腐だ!」

( ゚∀゚)「凍り豆腐は吸わせる出汁次第で自在に姿を変える」

( ゚∀゚)「誰にでも馴染み、そして新しい自己の主張をも始める」

( ゚∀゚)「大して豆腐はどうだ」

( ゚∀゚)「白く艶やかで高潔な形状を維持しようとしているが、吸収しがたく、そして脆い!」

( ゚∀゚)「少し崩れただけで形を保てなくなるのだ!」

( ゚∀゚)「まさしく今の擬古殿ではないか!」

(,,゚Д゚)「ぐぬぬ……」

( ゚∀゚)「わずかに崩れた時点でもう本来の豆腐としての機能は成立しない」

( ゚∀゚)「こんなにも壊れやすい自己を、お前は後生大事に抱えていたのだよ」



862: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2011/02/06(日) 23:41:25.79 ID:I5ZkQb6J0
('A`)「めちゃくちゃ凄い話になってきたんですが……」

( ^ω^)「道徳的には擬古和尚が」

(*゚ー゚)「だけど仏道的には、譲留和尚に引け目があるはずなのに……」

( ^ω^)「両者の罪は、たぶん等しいお」

(*゚ー゚)「むしろ寺という空間では、譲留和尚のほうが罪は重いように思えます」

('A`)「けど……この情勢は」


(,,゚Д゚)「知られたくない……秘密と…・・」

( ゚∀゚)「知られても構わない、事実」

( ゚∀゚)「その根は同じだ。だが当人の心の情動は大きく変わる」

( ゚∀゚)「思想ひとつでな」



872: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2011/02/06(日) 23:47:17.90 ID:I5ZkQb6J0
(,,゚Д゚)「ふふ……ふはは……くはーはっはっは!!」

( ゚∀゚)「どっ、どうした!?」

(,,゚Д゚)「譲留、貴様、天才だ、秀逸だ、神仏の化身だ」

( ゚∀゚)「落ち着け、錯乱するな」

(,,゚Д゚)「そうだ、ふふ、そうだよ、うわはは、貴様の言うとおりだ……」

(,,゚Д゚)「貴様のおかげで……ようやく探し当てられた……ふあは、あは」

( ゚∀゚)「擬古殿?」

(,,゚Д゚)「俺は今……大悟したぞ。ついにだ!」

( ゚∀゚)「おい待て! どこへ行く!」

(,,゚Д゚)「自己の存在意義を今こそ見出した! これぞ悟りだっ!」

(,,゚Д゚)「ふふ、はははっは、あっはああ!!!!」ダダダダダッ



892: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2011/02/06(日) 23:52:07.40 ID:I5ZkQb6J0
('A`)「猛烈な勢いで禅堂から擬古さんが駆け出して行ったんだが……」

(*゚ー゚)「どこに行かれたのでしょうか……?」

('A`)「分からん……てか呆気に取られてて思考が追いつかない……」

( ^ω^)「それより譲留和尚も出てきたお! ちゃんと頭隠して!」


( ゚∀゚)「……」

( ゚∀゚)「ふふふ……うふふふふ」

( ゚∀゚)「ふふ」スタスタスタ


(*゚ー゚)「い・・…行きましたよ。どうやらこちらに気づいた様子はなさそうです」

( ^ω^)「譲留和尚、笑ってたお……」

('A`)「やっぱりあの人も――どこか歪んでるんだ」



900: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2011/02/06(日) 23:55:54.50 ID:I5ZkQb6J0
(*゚ー゚)「私たちは……どうしましょうか……」

( ^ω^)「んなもん夜座中止に決まってるお。今日はもう遅いから戻って寝るお……」

('A`)「そう……しよう……」

(*゚ー゚)「毒念様、だいぶ疲れていらっしゃるみたいです……」

('A`)テクテク...

('A`)「ブーン……」

( ^ω^)「なんだお」

('A`)「俺は深淵を覗きすぎたのかも知れない」

('A`)「俺が望んでいたのは、こんな状況じゃなかった……闘争なんて知りたくなかった」

('A`)「安心が欲しかったはずなんだ……」

( ^ω^)「……もう寝るお。寝てから考えればいいお」

('A`)「ああ……」



919: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2011/02/07(月) 00:03:33.39 ID:UtFQgmMl0
〜四日後、夜〜


('A`)(擬古さんが姿を消してから四日)

('A`)(堂内は大騒ぎだ)

('A`)(皆の手本となる維那が蒸発したんだからな……)

('A`)「そして今日……夕食後の座禅と茶礼をキャンセルして」

('A`)「僧全員で会議をすることになった」

('A`)「さすがの荒巻さんも事態を重く見たらしい」

('A`)(そして当事者と噂される譲留さんと)

('A`)(擬古さんの従者である少年僧たちが槍玉に挙げられた)

('A`)(その中の一人に……伊陽がいた)



926: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2011/02/07(月) 00:09:16.53 ID:UtFQgmMl0
( ^ω^)「つまり……夜ごと伊陽の相手をしていたのは擬古和尚だったのかお……」

('A`)「そういや一人称も拙僧だったな……」

('A`)「今思うと形式ばった口調も擬古さんぽかったよな」

('A`)「……擬古さんの個室は禅堂の近くだったか」

( ^ω^)「生々しくなってきたお……」

(*゚ー゚)「なんだか信じられません……」

('A`)「気分が優れないようなら無理するなよ」

(*゚ー゚)「はい……大丈夫です……」

('A`)(椎伊はあの晩以来ひどく不安定だ)

('A`)(当然だろうな……自分が一番支持していた人間が)

('A`)(自分が一番忌み嫌っていた少年愛に手を染めていたんだもんな……)



937: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2011/02/07(月) 00:13:09.47 ID:UtFQgmMl0
( ゚∀゚)ニヤニヤ

('A`)(譲留さんは裁判にかけられているというのに余裕綽々)

('A`)(というかここんとこ終始上機嫌だ)

('A`)(そこまで擬古さんを憎んでいたんだな……)

( ・∀・)「……」

('A`)(茂羅さんは苦い顔をしている)

('A`)(兄蛇さんと弟蛇さんは……特に変わった様子はない)

/ ,' 3「えー、みんな集まったかのう」

ザワ...

/ ,' 3「どうやらおるようじゃな」

/ ,' 3「これより先日寺内で起きた諍い事の糾弾にかかる」



947: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2011/02/07(月) 00:19:33.36 ID:UtFQgmMl0
/ ,' 3「譲留和尚」

( ゚∀゚)「はっ」スクッ

/ ,' 3「そなたが禅堂にて擬古和尚と言い争っていたという報告があるが」

( ゚∀゚)「大声で話してましたからね。雑魚寝してた雲水に聞かれるのも当然です」

/ ,' 3「何について対話しておったのかな」

( ゚∀゚)「互いの禅宗観ですよ」

/ ,' 3「それだけではなかろう」

/ ,' 3「たったそれのみであるならば、こうして少年僧を並べたりなどはせぬのだが」

( ゚∀゚)「でしょうね。いやもちろん続きを述べるつもりでしたよ」

( ゚∀゚)「擬古殿が衆道にはまっているということを直接告げてやりました」



950: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2011/02/07(月) 00:24:09.97 ID:UtFQgmMl0
/ ,' 3「……その告発によって、擬古和尚は混迷に陥ったと?」

( ゚∀゚)「違います。私が話し終えた直後は非常に穏やかでしたよ」

( ゚∀゚)「ただ突然、大悟した、と叫び出しまして」

/ ,' 3「大悟、ですか」

( ゚∀゚)「そうです。それから……おかしくなりました」

/ ,' 3「ふむ……」

('A`)(……まあ、かいつまんで語るとそうなるけど……)

(*゚ー゚)(若干主観的に思えます)

('A`)(でも全部事実なんだよな……捏造している部分がない)

('A`)(問われる前に全部自分から開いてしまおうということか……)



954: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2011/02/07(月) 00:30:00.56 ID:UtFQgmMl0
( ・∀・)「……」

('A`)(しかし……なんで茂羅さんはあんな憎々しい表情をしてるんだ?)

/ ,' 3「あい分かった。譲留和尚の証言は聴取できた」

/ ,' 3「次は……君たちに訊こうか」

( ^ω^)(ついにそっちにいくかお……)

/ ,' 3「答えにくいこととは思うが、寺のためだ、正直に頼むぞえ」

「わかりました……」

('A`)(少年僧たちの告白はなんとも言えない耽美さを含んでいた)

('A`)(狭い小屋の中で一人ずつ擬古さんの相手を務めさせられたそうだ)

('A`)(具体的に何をした、されたかまでは荒巻さんの心遣いで不問になった)

('A`)(それだけなのにやたらエロチックに聞こえるのは……やはり若さのせいか)


('A`)(そして伊陽の番が来た)



958: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2011/02/07(月) 00:35:35.53 ID:UtFQgmMl0
/ ,' 3「伊陽くん」

(=゚ω゚)「はっ、はい」

/ ,' 3「君は実は、他の少年僧とは事情が違うみたいだね」

/ ,' 3「君だけは山小屋ではなく僧堂内で、その、年長の雲水に飼われていたとか……」

(=゚ω゚)「……そうです」

/ ,' 3「実はまだ、君だけは擬古和尚と関係があったという確証が取れていないのだ」

/ ,' 3「ただ、君が衆道に引きずり込まれている、という話を聞いて」

/ ,' 3「ついでというわけじゃないが、この場に上がってもらったのだよ」

('A`)(えっ?)

('A`)(どういうことよ)

( ^ω^)(伊陽だけは別件ってことかお)

(*゚ー゚)(みたいですね……)



963: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2011/02/07(月) 00:40:03.93 ID:UtFQgmMl0
( ・∀・)「……ダメだ、もう聞いていられないよ、こんなの」

( ・∀・)「終わりにしよう。話は十分に聞いた。彼らがかわいそうだ」

/ ,' 3「しかし伊陽くんに訊かぬことには答えは導き出せぬ」

/ ,' 3「ここで擬古和尚の暗部を徹底的に暴いておかねばならない」

/ ,' 3「仮に伊陽くんも抱いていたのだとしたら……そういう男だったということだ」

/ ,' 3「――語ってくれるかの?」

(=゚ω゚)「は……はい」

(=゚ω゚)「私が衆道の相手をしていたのは……」

(=゚ω゚)「擬古和尚……」


(=゚ω゚)「そして……譲留和尚です」



974: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2011/02/07(月) 00:43:18.99 ID:UtFQgmMl0
('A`)「えっ」

( ^ω^)「えっ」

(*゚ー゚)「えっ」

/ ,' 3「えっ」

(=゚ω゚)「お二人に……飼われておりました」

( ゚∀゚)「――おい、伊陽っ!!」

(=゚ω゚)「申し訳ありません和尚様!」

(=゚ω゚)「しかし……しかし私は、どうしても嘘を貫けなかったのです!」

( ゚∀゚)「どうしてだ、なぜ喋ってしまったんだ……」

(=゚ω゚)「私は……あなたを怨んでおります!」

(=゚ω゚)「擬古和尚を追放したあなたを!」



994: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2011/02/07(月) 00:48:52.76 ID:UtFQgmMl0
( ^ω^)「相思相愛のカップルだったのかお……」

('A`)「いやその前にだ!」

('A`)「譲留さんもそうだったのか……」

( ゚∀゚)「なぜだ、俺の、俺の計画が……」

(=゚ω゚)「あなたには分からないのです」

(=゚ω゚)「人は……内なる想いを秘めているということが」

/ ,' 3 「……譲留和尚は、君から擬古和尚が若い衆を囲っていると聞いたのかね?」

(=゚ω゚)「そうでございます。あの弁舌で口説かれて……その後は譲留和尚の話術の独壇場でした」

(=゚ω゚)「擬古和尚の従者たちは洗いざらい喋ってしまったようです」

( ・∀・)「もうやめろ、やめてくれ、たくさんだ!」

( ・∀・)「僕はもう……この場にはいたくない!」



30: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2011/02/07(月) 00:56:02.45 ID:UtFQgmMl0
( ゚∀゚)「どうしてだ……うまくいくはずだった……」

('A`)(譲留さんが放心している……)

('A`)(あの人も完全に開き切ってはいなかったんだな……)

('A`)(擬古さんが閉じ切れず、文言すべてを拒絶できなかったように……)

(´<_` )「それでは……両名とも衆道に足を浸からせていたと」

('A`)(あんたもだろ)

( ´_ゝ`)「めんどくさい話になってきたな」

ガララッ

(*゚ー゚)「戸が開いた!?」


(,,゚Д゚)「ふふふ、ふっはっはー! 久々だな皆の者!」



45: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2011/02/07(月) 01:03:18.38 ID:UtFQgmMl0
( ゚∀゚)「擬古殿!?」

(,,゚Д゚)「譲留和尚か。最早懐かしいな」

(,,゚Д゚)「ふくく、拙僧は鍵を解錠することの快感をしってしまったのだよ」

(,,゚Д゚)「譲留! 貴様に逆襲するためにな!」

( ゚∀゚)「俺に……だと?」

(,,゚Д゚)「貴様は町に女を囲っていると聞かされた……」

(,,゚Д゚)「しかし手篭めにしていたのは女だけではなかった!」

(,,゚Д゚)「こやつは……少年に金銭を手渡して肉体関係を結んでおったのだよ!」

( ゚∀゚)「なっ、くそっ、なんでそれを!」

(,,゚Д゚)「インターネットとやらの掲示板で変態坊主の目撃証言が流れておったわ!」

(,,゚Д゚)「美僧などと名乗っているがただのホモだ、とな!」



65: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2011/02/07(月) 01:08:23.16 ID:UtFQgmMl0
( ^ω^)「ひどいサイトがあったもんだお……」

('A`)「お前が出家する前から2ちゃんはあっただろ」

/ ,' 3「擬古和尚、いったん落ち着きなさい」

(,,゚Д゚)「落ち着いてなどいられませぬ!」

(,,゚Д゚)「どうせ拙僧や関係者の処遇についてでも話し合っておられたのでしょう!」

(,,゚Д゚)「そんなものは最早どうでもよいのです!」

(,,゚Д゚)「譲留和尚もまた、拙僧と同じく衆道狂いだった! これだけを伝えたい!」

(,,゚Д゚)「うふ、外の世界を知ることで……内にある真実を知ることが叶った」

(,,゚Д゚)「それもこれも譲留和尚のご大層な高説のおかげだ」

(,,゚Д゚)「拙僧の思想と彼の思想が融合して、ついに悟りに達したのである!」

( ・∀・)「やめろ……やめろ……!」



79: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2011/02/07(月) 01:12:28.54 ID:UtFQgmMl0
('A`)「凄まじいカオス空間だ……」

('A`)「擬古さんはご覧のとおり完全にキマってるし」

('A`)「譲留さんは心ここにあらずといった状態だ……」

('A`)「荒巻さんは現状を呑み込みきれずに呆然としている」

('A`)「弟蛇さんは……少し焦っているようにも見えるな」

('A`)「兄蛇さんはじっと指先を見つめている」

('A`)「そして茂羅さんは……ずっと頭を抱えて震えている。この点が謎だ」

( ^ω^)「どう収拾をつけるんだお、これ……」

('A`)「さあ……」

(*゚ー゚)「うう……気分が……」



90: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2011/02/07(月) 01:16:41.76 ID:UtFQgmMl0
(,,゚Д゚)「どうせ他の者も衆道に狂っておるのだろう!」

(,,゚Д゚)「言わないだけ! 言わないだけ!」

(´<_` )「落ち着け、落ち着くんだ、擬古和尚!」

( ´_ゝ`)「弟蛇の言うとおりだ。ちょいと頭冷やせ」

(,,゚Д゚)「冷静に熱狂しておるのだ!」

( ゚∀゚)「これは……現実なのか……?」

/ ,' 3「おお……わしは何をどうすればよいのじゃ……」


「鎮まりなさい!」


('A`)「いっ、今の声は……!」

(´・ω・`)「一同余すことなく心が乱れておる! 鎮まりなさい!」



107: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2011/02/07(月) 01:22:00.49 ID:UtFQgmMl0
シィン...

('A`)「しょ、諸梵和尚」

('A`)(すげえ……一気に堂内が水を打ったみたいになった)

(´・ω・`)「今戻りました……しかし、なんですかこの喧騒は!」

/ ,' 3「お、おお……管主殿」

(´・ω・`)「どうなさったのですか荒巻和尚。これに至るまでの成り行きを」

/ ,' 3「実は……かくかくしかじかでして……」

(´・ω・`)「ふうむ……成程」

(´・ω・`)「そのような痴情のもつれが……」

/ ,' 3「誠につまらないことが端緒の騒動なのです。どうかお許しを……」



114: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2011/02/07(月) 01:26:00.69 ID:UtFQgmMl0
( ^ω^)(さすがの統率力だお)

(*゚ー゚)(一瞬で騒ぎが治まりました)

('A`)(凄い坊さんだな、あの人……)

('A`)(でもなんか……茂羅さんの様子だけまだおかしい……)

/ ,' 3「悪いのは責任を賜った私です。雲水たちには恩赦を……」

(´・ω・`)「いえいえ結構。怒気を撒いたりなどはいたしません」

(´・ω・`)「むしろ、そのような理由なのでしたら、望んでいた結果です」

/ ,' 3「……は?」

(´・ω・`)「機は熟したということですね」

(´・ω・`)「皆の者! こちらに向き直りなさい!」


(´・ω・`)「これより教義を――この寺の解説を始めます」



236: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2011/02/07(月) 17:05:37.10 ID:MwD7mMVK0
(´・ω・`)「これより教義を――この寺の解説を始めます」


('A`)(ど、どういうことだよ!?)

( ^ω^)(さっぱりだお。そっちこそ……)

('A`)(新参者の俺が分かるかよ)

('A`)(俺たちどころか……六知事全員が驚いている……)

(*゚ー゚)(何が始まるのでしょう……)


(´・ω・`)「皆心を安らかに、精神を清らかに、そして静聴してくだされ」

(´・ω・`)「さて何から語りましょうか……そうですね、まずは」

(´・ω・`)「昔話でも始めましょう」



241: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2011/02/07(月) 17:16:03.08 ID:MwD7mMVK0
(´・ω・`)「私が毘譜寺の管主の座に就いて、二十年少々ですか」

(´・ω・`)「当時より在籍する僧は私を除いて荒巻和尚のみとなりました」

/ ,' 3「そこからの……話か……」

(´・ω・`)「先代が隠居に瀕した際、新たな統領探しに苦心しておりました」

(´・ω・`)「ただ私は荒巻和尚こそが当山の住職を任されると思っていました」

(´・ω・`)「当時から既に、荒巻和尚は座禅の道を極めておりましたので」

(´・ω・`)「しかし先代は私を管主に指名した」

(´・ω・`)「その頃の私は三十にも満たぬ若輩者であったというのに」

/ ,' 3「……諸梵和尚は俊英と呼ばれておった」

/ ,' 3「悟りの境地に若くして達したと……寺内では評判じゃった」



244: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2011/02/07(月) 17:21:23.33 ID:MwD7mMVK0
(´・ω・`)「身に余る言葉でございます、荒巻和尚」

(´・ω・`)「未熟にして拙劣。私はその時代も、そして今もまだ修行中の身であります」

/ ,' 3「だが我ら雲水の中でずば抜けた存在であったのは事実」

/ ,' 3「「ゆえに先代管主は諸梵和尚を後任に据えたのじゃ」

(´・ω・`)「ともあれ、そのような経緯で私はこの寺の管主となりました」

(´・ω・`)「――という設定でしたね」

('A`)「設定?」

/ ,' 3「なんと! 如何なことか!」

(´・ω・`)「騒ぐほどのことではございません」

(´・ω・`)「ただ私が特別に先代から寵愛を受けていただけのことです」



257: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2011/02/07(月) 17:34:45.93 ID:MwD7mMVK0
/ ,' 3「なっ……」

(´・ω・`)「先代が心を痛めていたのは、後任探しの気疲れではありません」

(´・ω・`)「周囲の目との戦いでございます」

(´・ω・`)「私の思想と肉体は甚く先代に気に入られていまして」

(´・ω・`)「早い段階で後任に私を選ぶ予定だったそうです」

(´・ω・`)「ですが、年齢で序列は決まらぬとはいえ、私は若すぎた」

(´・ω・`)「大衆の目がある……悩んでおられました」

(´・ω・`)「そこで私が御言葉添えをした。迷いなされ、と」

(´・ω・`)「迷いに迷った末の決断であると、皆の眼前で訴えなされ、と」

(´・ω・`)「私も演技には苦労しましたよ」

(´・ω・`)「茶礼でその話題が上がるたびに断りと他者の推薦を繰り返しましたからね」

/ ,' 3「馬鹿な……」



263: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2011/02/07(月) 17:40:57.44 ID:MwD7mMVK0
/ ,' 3「だが……諸梵和尚が優れた僧であったのは紛れもなき真実!」

/ ,' 3「我ら僧たちの総意であった!」

(´・ω・`)「寺の頂点である管主が私の考えを認めれば、下々の僧もそれに倣うでしょう」

(´・ω・`)「優れているから広まったのではなく、優れていると広めたに過ぎません」

/ ,' 3「おお……なんたることじゃ……」

/ ,' 3「しかしそれでも……わしは、あなたの力量が、真であると信じておる…・…」

/ ,' 3「すべてが虚実とは思えぬ……」

(´・ω・`)「ありがたき褒章にございます」

/ ,' 3「……」

(´・ω・`)「とにかく……こうして寺は私の所有物となった」

(´・ω・`)「後はこちらの一人舞台」

(´・ω・`)「拙僧による寺院殿堂計画の開始です」



267: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2011/02/07(月) 17:44:56.47 ID:MwD7mMVK0
('A`)「な、なんだそれは!?」

('A`)「そのいかにも怪しげなネーミングセンスは!」

(´・ω・`)「毒念さん……あなたもまた鍵となっていたのですぞ」

('A`)「俺もだって?」

(´・ω・`)「ええ」

(´・ω・`)「偶然の産物なのか、はたまた必然の理なのか……」

(´・ω・`)「いずれにせよ結果としてそうなったのです」

(´・ω・`)「ゆえに毒念さんも静聴しなさい」

('A`)「……」

('A`)(言い返せない……明らかに非は向こうにあるのに……)



274: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2011/02/07(月) 17:51:08.34 ID:MwD7mMVK0
(´・ω・`)「まず必要だったのは……」

(´・ω・`)「追放……僧の入れ替えでした」

/ ,' 3「……どういうことじゃ」

(´・ω・`)「還暦を迎えた者から金品を握らせ下山させたのです」

(´・ω・`)「年老いた仏僧ばかり密集するのは美しくない」

/ ,' 3「なんたる暴挙……!」

(´・ω・`)「この乱れた世……寺院に駆け込む者は数多おります」

(´・ω・`)「その後留まり続けるか、窮して脱するかは知りませんが、ともあれ」

(´・ω・`)「入ってくる者どもには困りませんでした」

/ ,' 3「ならば、なにゆえわしは残された!」

(´・ω・`)「あなたには理由があった」

(´・ω・`)「……それもまた後々解き明かしましょう」



282: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2011/02/07(月) 17:57:47.95 ID:MwD7mMVK0
(´・ω・`)「若返りには時間を要した」

(´・ω・`)「私の心身が朽ち果てるまでに遂行せねばならぬというのに……」

(´・ω・`)「大儀でしたよ」

( ・∀・)「……」

(´・ω・`)「そして、三年前――でしたか」

(´・ω・`)「最後の六十歳過ぎの僧を追い出したのは」

(´<_` )「自分の前の典座か」

(´・ω・`)「そう。しかしこれは少々心苦しかった」

(´・ω・`)「かつて私と関係を持ったこともありましたからね」

('A`)(椎伊を誘ったとかいう奴か!)

(*゚ー゚)(……)



287: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2011/02/07(月) 18:04:28.55 ID:MwD7mMVK0
(´・ω・`)「とにかく計画の序段階は完了した」

(,,゚Д゚)「ここまでで序の口か!」

(´・ω・`)「そう、あくまでも足掛かりでしかありません」

(´・ω・`)「計画は――今の六知事を置くことで本格的に始まりました」

( ゚∀゚)「俺たちを……」

( ´_ゝ`)「置くことで……だと?」

(´・ω・`)「左様」

(´・ω・`)「荒巻和尚、茂羅和尚、譲留和尚、擬古和尚、弟蛇和尚、兄蛇和尚」

(´・ω・`)「この者たちに権力が与えられた瞬間……」

(´・ω・`)「寺に六方陣が張られたのです」



294: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2011/02/07(月) 18:10:54.67 ID:MwD7mMVK0
('A`)「……」

(´・ω・`)「……まずは、弟蛇和尚から説いていきましょうか」

(´<_` )「じ、自分からだと?」

(´・ω・`)「この男は性的倒錯者である」

(´<_` )「なっ、なにを!」

(´・ω・`)「いたいけな少年の姿に甚大な興奮を覚え」

(´・ω・`)「にもかかわらず自分自身への奉仕は望まないという」

(´・ω・`)「少々風変わりな性癖の持ち主なのです」

(´<_` )「いわれのない虚言はやめてもらいたい!」

(´・ω・`)「虚言などでは断じてありませぬ」

(´・ω・`)「あなたが子飼いにしておられるという少年僧……」

(´・ω・`)「あの子の蜜の味は私も知っていましてね」



303: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2011/02/07(月) 18:23:10.58 ID:MwD7mMVK0
(´・ω・`)「いろいろと楽しい談話を聞くことができました」

(´・ω・`)「自分が三人目だ、などと申しておりましたよ」

(´<_` )「ほ……本当か、おい、そこ!」

(´・ω・`)「やめなされ。震えておる」

(´・ω・`)「そもそも、私も前々から弟蛇和尚が衆道に耽っているという噂は聞いていましてね」

(´・ω・`)「ただ実証することが不可能でした」

(´・ω・`)「そこで、ちょうど空位になった典座の職を与えたのです」

(´・ω・`)「個室と給仕場という二つの閉鎖環境を自由にできる立場を」

(´<_` )「……」

(´・ω・`)「その二カ所に絞ればさすがに察せます」



307: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2011/02/07(月) 18:26:22.54 ID:MwD7mMVK0
(´・ω・`)「結果として誠に面白いことになりました」

(´・ω・`)「何分その特殊な性癖の詳細まで明らかになったのですよ」

(´・ω・`)「六知事のひとりに奇妙な趣味の僧が就いておられる!」

(´・ω・`)「まさしく望んだ結末です」

(´<_` )「……なんたることだ……」

(´・ω・`)「さて、弟蛇和尚はこの『閉じた』空間で『開こう』とした」

(´・ω・`)「女性と男性の在り方に新しい価値観を、自己の中で大成させたのです」

(´・ω・`)「――こうした性質の者が、一人」

(´・ω・`)「おお、それともうひとつ」

(´・ω・`)「和尚を典座に指名したのにはこれまた趣深い理由があるのですが」

(´・ω・`)「それは追々語るとしましょう」



312: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2011/02/07(月) 18:33:38.59 ID:MwD7mMVK0
(´・ω・`)「次は……そうですね、擬古和尚」

(,,゚Д゚)「拙僧か。生憎だが拙僧は大悟に至っておる!」

(,,゚Д゚)「何を告げられようと動じぬぞ!」

(,,゚Д゚)「拙僧に無明はあらぬ!」

(´・ω・`)「……和尚は少年僧を数名囲い」

(´・ω・`)「山の小さな廃屋にて同性愛に興じておられるようですが」

(,,゚Д゚)「それがどうした。既に周知の事実となっておる。今更のこと」

(´・ω・`)「そして伊陽さんにだけは格別の愛を注いでいる」

(,,゚Д゚)「いかにも!」

(,,゚Д゚)「あの雲水は拙僧の宝である」



319: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2011/02/07(月) 18:40:46.02 ID:MwD7mMVK0
(´・ω・`)「まだ数ヶ月ほどの関係と見受けられますが」

(´・ω・`)「なにせ伊陽さんは入山して一年程度の身」

(´・ω・`)「愛を育む期間としてはいささか短くありませんかな」

(,,゚Д゚)「時は長さではなく深さが肝要である」

(,,゚Д゚)「座禅と同じこと!」

(,,゚Д゚)「等しい時間であっても己の集中如何で成果は大いに変化する!」

('A`)(時間より密度か……)

( ^ω^)(無駄にかっこいいお……)

(´・ω・`)「成程……」

(´・ω・`)「分かりました。擬古和尚はやはり今も『閉じて』おられます」

(´・ω・`)「永久に『閉じた』者。こうした性質の者が、一人」



325: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2011/02/07(月) 18:46:27.96 ID:MwD7mMVK0
(,,゚Д゚)「どういう含意であるか! 只今の拙僧は開閉両方備えておる!」

(´・ω・`)「いいえ閉じておられますよ。あなたは盲目です」

(´・ω・`)「外を見ているつもりで、見えてはいないのですから」

(,,゚Д゚)「なにを……」

(´・ω・`)「すぐに分かります。譲留和尚の究明に移りましょう」

(´・ω・`)「譲留和尚、こちらに視線を集束させられますかな?」

( ゚∀゚)「なんとか……」

(´・ω・`)「うむ」

(´・ω・`)「――皆も知っての通り、譲留和尚は他の寺から招かれた僧である」

(´・ω・`)「この方は実に深遠かつ、大胆な思想の保持者です」



331: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2011/02/07(月) 18:56:02.46 ID:MwD7mMVK0
(´・ω・`)「つまり、『開く』という概念を提唱する僧です」

(´・ω・`)「これが非常に面白かった」

(´・ω・`)「私はすぐさま改宗の手続きを踏ませました」

( ゚∀゚)「十年以上前の話だ……」

(´・ω・`)「そうです。いや本当にあれは行幸であった」

(´・ω・`)「私の計画をよりよい形態にするのに最適でしたから」

/ ,' 3「そんなことが……どう繋がるのじゃ?」

(´・ω・`)「『人』は変え易くとも、『風』は変え難し」

(´・ω・`)「旧来の禅僧の風習が残るこの寺の」

(´・ω・`)「ひどく淡白な空気を払うには一筋縄ではいきません」

(´・ω・`)「そこで、正反対の思想家を入れることで、捩じれを生じさせたのです」

(´・ω・`)「もっとも、美僧を手元に置いておきたいという欲望もあったのですが」



336: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2011/02/07(月) 19:02:24.24 ID:MwD7mMVK0
( ^ω^)「譲留和尚とも寝たのかお!?」

(´・ω・`)「いえいえ、違います。眺めているだけで十分でした」

(´・ω・`)「私が触れるとせっかくの高雅が壊れてしまう」

( ゚∀゚)「……」

(´・ω・`)「さておき、続けましょうか」

(´・ω・`)「そうして案の定と言うべきか、譲留和尚は」

(´・ω・`)「古くからの禅思想の顕著な例ともいえる擬古和尚と反目し合った」

(´・ω・`)「これによりますます亀裂は広がった」

(´・ω・`)「寺に『歪み』が発生した」

( ゚∀゚)「……それも……計算の上か……?」

(´・ω・`)「全ては天運時運地運人運のなすがままにございます」



345: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2011/02/07(月) 19:10:42.70 ID:MwD7mMVK0
(´・ω・`)「この徐々に肥大化する『歪み』を、更に大きくするため」

(´・ω・`)「私は二人を六知事に置きました」

(´・ω・`)「擬古和尚に維那を、譲留和尚に副寺を」

(´・ω・`)「力があれば、従属する者も出てくる――派閥が組成される」

(´・ω・`)「違う箇所からも『歪み』が生じるようになります」

(,,゚Д゚)「拙僧は……利用されていたのか!」

(´・ω・`)「ところで、理由はお気づきか?」

(´・ω・`)「譲留和尚の位を一段上にしているのは、なぜか」

( ゚∀゚)「知る由もない……少なくとも俺は考えたことがない……」

(´・ω・`)「単純なことです。擬古和尚の嫉妬心を煽るためですよ」



353: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2011/02/07(月) 19:17:01.57 ID:MwD7mMVK0
(,,゚Д゚)「……」

( ゚∀゚)「そっ、そうなのか、擬古殿!」

(,,゚Д゚)「……左様にござる」

('A`)(ダメだ、また)

('A`)(ギコさんはまた、自分を自分に閉じこめてしまった……)

(´・ω・`)「新参者に敗北した……擬古和尚にはそのような想いが渦巻いていたはずです」

(´・ω・`)「悔しかったでしょう」

(´・ω・`)「憎らしかったでしょう」

(´・ω・`)「しかしながら、既に寺院は歪んだ結界が張り巡らされておりました」

(´・ω・`)「その気を狂わせんばかりの瘴気にあてられて」

(´・ω・`)「単なる憎悪が、愛憎入り混じった感情になることは、容易に察せます」



360: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2011/02/07(月) 19:25:43.45 ID:MwD7mMVK0
(´・ω・`)「擬古和尚が衆道趣味を有していることは、随分昔から既知でした」

(´・ω・`)「維那に任命した内訳のひとつでもあるのですが」

(,,゚Д゚)「待て、どういう意味だ」

(´・ω・`)「順序を追ううちに判明しますよ」

(´・ω・`)「……とまあ、そういう具合でして」

(´・ω・`)「二人を結びつけようとも同時に考えたのですね、私は」

/ ,' 3「なんのためにじゃ! なんおためにそうする必要がある!」

(´・ω・`)「そうなれば愉快だからです」

(´・ω・`)「六知事同士の恋愛模様。面白いではありませんか」

(´・ω・`)「それだけのことです」

('A`)(な、なんなんだこの男は……)



371: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2011/02/07(月) 19:31:07.34 ID:MwD7mMVK0
(´・ω・`)「ただ、どうもこの案はうまくいきませんでしてね」

(´・ω・`)「中々進展しませんでした」

(´・ω・`)「それでやむなく、違う道筋で殿堂計画を進めることにしました」

(´・ω・`)「ちょうどその頃の話です」

(´・ω・`)「譲留和尚もまた、下山した先で衆道を楽しんでいると知りましてね」

(´・ω・`)「俗世には情報が溢れています」

( ゚∀゚)「……」

(´・ω・`)「これは使える。即座に私はそう察知し――」

(´・ω・`)「両者の間に刺客を送りました」

(´・ω・`)「それが伊陽です」



381: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2011/02/07(月) 19:37:31.44 ID:MwD7mMVK0
('A`)(……)

('A`)(……圧倒されて……動けん……)

('A`)(他の奴らもそうだ……異論を差し挟めない……)

('A`)(六知事の人たちは、かろうじて立ち向かえているが……)

('A`)(茂羅さんだけは……唇を噛んでいる)

(´・ω・`)「伊陽は元々私の夜の世話役である」

(´・ω・`)「若く、みずみずしいその肌と肢体は狂おしいほどに甘露でした」

(,,゚Д゚)「真か、伊陽!」

(=゚ω゚)「……管主様の……おっしゃる通りです……」

(´・ω・`)「私はまず、擬古和尚に彼を差し向けた」



384: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2011/02/07(月) 19:45:24.64 ID:MwD7mMVK0
(´・ω・`)「擬古和尚の少年趣味は知っていましたからね」

(´・ω・`)「少し微笑みかけるだけで寝室に呼ばれたと、伊陽は報告してきました」

(´・ω・`)「そしてしばらく擬古和尚と素肌を重ねさせた後で」

(´・ω・`)「譲留和尚にも向かわせました」

(´・ω・`)「どちらも伊陽の風味に惚れこんだようです」

('A`)(じゃあ譲留さんが擬古さんを寺から弾き出そうとしていたのは……)

('A`)(独占……したかったからか……)

(´・ω・`)「求め合うのではなく、奪い合わさせたかったのですよ、私は」

(´・ω・`)「これはこれで、別の『歪み』を起こし……」

(´・ω・`)「計画の礎となったでしょうから」



390: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2011/02/07(月) 19:52:44.05 ID:MwD7mMVK0
(´・ω・`)「ですが、ひとつばかり失敗が起こりました」

(´・ω・`)「伊陽がどうも、本気で擬古和尚に心寄せてしまったのです」

(=゚ω゚)「……」

(´・ω・`)「皆の者も、幼少期に友人たちと虫取りをなさったでしょう?」

(´・ω・`)「どちらが多く採集できるか。実に稚気に満ちた趣ある遊びです」

(´・ω・`)「しかしながら獲物である昆虫が」

(´・ω・`)「片方の籠にだけ自分から入っていったのでは、競争は成り立ちませぬ」

(´・ω・`)「大変に困りました」

(´・ω・`)「……ところが、違う側面から悦の種が訪れてきました」

(´・ω・`)「私は本当に運が良かった」

(´・ω・`)「まさしく仏の導き!」



395: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2011/02/07(月) 19:57:54.14 ID:MwD7mMVK0
(´・ω・`)「譲留和尚」

( ゚∀゚)「は、はあ……」

(´・ω・`)「予感はしていることでしょう」

( ゚∀゚)「まさか……」

(´・ω・`)「伊陽から、あなたの性行為における、とある妙な特徴を聞きました」

( ゚∀゚)「やめろっ……それは……!」

(´・ω・`)「覚悟はしておられなかったみたいですね」

(´・ω・`)「譲留和尚、あなたは」

( ゚∀゚)「やめてくれ……!」

(´・ω・`)「自分に『擬古和尚の姿を投影して』伊陽を抱いていた――そうですね?」



424: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2011/02/07(月) 20:06:04.28 ID:MwD7mMVK0
(´<_` )「ど……どういうことだ!?」

/ ,' 3「おお御仏よ……救いを……」

(´・ω・`)「……この話を聞いたのは、数週間ほど前のことです」

(´・ω・`)「おそらくですが、譲留和尚が」

(´・ω・`)「伊陽から他の雲水との関係の有無を聞き出したのがこの期間」

(´・ω・`)「そうですね?」

( ゚∀゚)「……そう……だ……」

(´・ω・`)「譲留和尚は自分を開くこと、そして他人を開くことに長けております」

(´・ω・`)「言葉巧みに返答を誘導し、そして」

(´・ω・`)「擬古和尚と伊陽の肉体関係を知った」



447: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2011/02/07(月) 20:15:31.57 ID:MwD7mMVK0
(´・ω・`)「その際、伊陽は」

(´・ω・`)「『どちらに気があるか』と詰問されたそうです」

(,,゚Д゚)「貴様……そのような行いを……」

(´・ω・`)「伊陽は正直に、擬古和尚だと答えました」

(´・ω・`)「その宣告が譲留和尚を煩悶させたようですな」

(´・ω・`)「けれど『開く』を主義とする譲留和尚……閉じこもるはずがありません」

(´・ω・`)「なんとかして伊陽の気を引こうとした」

(´・ω・`)「いや、『伊陽を満足させようと』した」

(´・ω・`)「そのために、伊陽が愛する者の影をお借りなさったのです」

(´・ω・`)「擬古和尚の影を」

(´・ω・`)「……違いますか、譲留和尚?」



458: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2011/02/07(月) 20:19:54.44 ID:MwD7mMVK0
( ゚∀゚)「……」

('A`)(譲留さんは俯いたままだ)

('A`)(ってことは……図星なんだろうな……)

(´・ω・`)「伊陽に振り向いて欲しいがために、自分ではなく、擬古和尚になった」

(´・ω・`)「譲留和尚もまた、倒錯していたのですよ」

(´・ω・`)「日頃の擬古和尚の態度と言葉遣いを模倣して」

(´・ω・`)「伊陽の身体に触れていた」

(´・ω・`)「実に健気で、また、痛いほどに哀切です」

(´・ω・`)「自分を開き、極限まで開き――やがて放棄した」

(´・ω・`)「伊陽の本心を聞いてしまったがために、そこまでしなさった」

(´・ω・`)「『開く』を信条とした者の……末路です」



467: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2011/02/07(月) 20:24:43.13 ID:MwD7mMVK0
( ゚∀゚)「……禅堂で……」

( ゚∀゚)「……禅堂で、していたんだ。俺は……」

( ゚∀゚)「擬古殿の残り香が漂った禅堂なら……伊陽は許してくれると思って……」

( ゚∀゚)「ほとんど入ったことのない……禅堂に……」

('A`)(それじゃあ俺が夜中聞いていたあの声は……)

('A`)(伊陽と……譲留さんだったのか……)

('A`)(そういや、伊陽は拒むような口ぶりだったな……)

('A`)(それでもダメだったから……)

('A`)(諸梵和尚がいない隙に、擬古さんを追い出そうとしたのか……)

( ^ω^)「譲留和尚……」

( ゚∀゚)「俺はもう……抜け殻だ……」



485: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2011/02/07(月) 20:34:24.57 ID:MwD7mMVK0
(´・ω・`)「譲留和尚はただひたすらに『開こう』としていた」

(´・ω・`)「――こうした性質の者が、一人」

(´・ω・`)「ここまで『閉じる』が一人、『開く』が二人ですか」

/ ,' 3「待て、先程から感情している、その目的はなんだ? 意義は?」

(´・ω・`)「いずれ分かります」

(,,゚Д゚)「譲留和尚は……開きすぎて自己を見失ってしまったか……」

(´・ω・`)「ですが閉じすぎれば自己を埋葬させてしまう」

(´・ω・`)「そう――まさしく、兄蛇和尚のことでございます」

(´<_` )「な、なんだと!?」

(´・ω・`)「皆の者、よく聞け!」

(´・ω・`)「この男こそが、寺内でもっとも『閉じた』雲水である!」



496: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2011/02/07(月) 20:39:04.62 ID:MwD7mMVK0
( ´_ゝ`)「……」

(´・ω・`)「狼狽いたしませんね?」

( ´_ゝ`)「……俺にも御鉢が回ってくると分かってからな」

(´・ω・`)「さすがでございまする」

(´<_` )「どういうことだ、説明してくれっ!」

(´・ω・`)「お静かに、弟蛇和尚」

(´・ω・`)「あなたにも深い関係がある話なのですよ」

(´<_` )「自分にもだと?」

(´・ω・`)「左様」

(´・ω・`)「兄蛇和尚は……あなたを密かに愛していたのです」



521: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2011/02/07(月) 20:47:08.70 ID:MwD7mMVK0
(´<_` )「自分を……ですと! 世迷言を!」

(´・ω・`)「天のみぞ知る真相が、私の口を借りて下界に降りているのですよ」

(´・ω・`)「虚などありませぬ」

(´<_` )「……」

(´・ω・`)「……兄蛇和尚が」

(´・ω・`)「給仕場に繋がる廊下の補修ばかり専念している訳をご存知ですか?」

(´<_` )「そんなこと……知ったことではない」

(´・ω・`)「そうですか。それは……至極無念。仕方のないことではありますが」

(´<_` )「どういうことだ! 早く話せ!」

(´・ω・`)「弟蛇和尚は兄蛇和尚の想念を知らない……」

(´・ω・`)「兄蛇和尚は、あなたの胸の裡を知ってしまっているというのに」



533: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2011/02/07(月) 20:55:28.92 ID:MwD7mMVK0
(´・ω・`)「兄蛇和尚は、弟蛇和尚の性癖を把握しておいでになられます」

(´・ω・`)「おそらくは寺で暮らす中で気づいたか……」

(´・ω・`)「あるいは、出家前の生活の時点で疾うに分かっていた」

(´・ω・`)「相違ありませんか?」

( ´_ゝ`)「あんたの言うとおりだ」

( ´_ゝ`)「俺は弟蛇和尚の……弟の歪な趣向を知っている」

(´・ω・`)「でしょうな。そうでなければ、あそこまで廊下に執着しない」

(´<_` )「なんということだ……」

(´・ω・`)「いつ頃になりますか?」

( ´_ゝ`)「一年前だ。一年前」

( ´_ゝ`)「あいつも典座の仕事が板に着いてきた頃の話だ」



539: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2011/02/07(月) 21:02:03.61 ID:MwD7mMVK0
( ´_ゝ`)「俺は夜、たぶん十一時頃か、厠に向かう途中で」

( ´_ゝ`)「弟が少年僧を手なずけているところを聴いてしまった」

(´・ω・`)「聴いた? 見たというわけではないのですか」

(´・ω・`)「ですが聴覚は油断ならぬ感覚……信用しすぎてはなりません」

( ´_ゝ`)「確信したぞ俺は。弟の声なんだから分かる」

( ´_ゝ`)「他人とは違うんだ。聴き分けられるに決まってる」

(´・ω・`)「左様ですか」

(´・ω・`)「そのようなことも、きっとあるのでしょうな」

(´・ω・`)「して……給仕場への廊下の修繕を始めたと」

( ´_ゝ`)「ああ」



549: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2011/02/07(月) 21:09:35.41 ID:MwD7mMVK0
(´・ω・`)「弟蛇和尚に話したりは……」

( ´_ゝ`)「するわけないだろ」

(´・ω・`)「成程。自分の中にすべて秘匿したと?」

( ´_ゝ`)「そうさ」

(´・ω・`)「……見事、見事な純愛であることよ!」

/ ,' 3「説明せい! 話がまるで見えんぞ!」

/ ,' 3「なぜ廊下が関係する!」

(´・ω・`)「荒巻和尚。あなたは老いすぎた。あなたには決して察することは叶いません」

/ ,' 3「なんじゃと……」

(´・ω・`)「廊下を直すことこそが、兄蛇和尚の恋慕を伝える恋文だったのです」

(´・ω・`)「弟蛇和尚の足に、ささくれが刺さってはならないという……」

(´・ω・`)「なんともいじらしい心遣いにございます」



565: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2011/02/07(月) 21:17:00.26 ID:MwD7mMVK0
(,,゚Д゚)「意味が……少々分からぬが……」

(´・ω・`)「擬古和尚こそ身に沁みて理解しているでしょう」

(´・ω・`)「衆道は隠れて行うもの」

(´・ω・`)「足音を立てぬよう、廊下は必ずすり足で歩かねばなりません」

(´・ω・`)「そのようにして歩行すれば」

(´・ω・`)「仮に床板に傷があったならば、ささくれは皮膚を裂き肉にまで深く突き刺さります」

( ´_ゝ`)「……」

(´・ω・`)「兄蛇和尚は、弟蛇和尚に自分の恋心を伝えらずにいた」

(´・ω・`)「その代わり、少年僧を伴い給仕場に向かう弟蛇和尚の足を気遣って」

(´・ω・`)「廊下の修理をひたむきに行っていたのです」

(´・ω・`)「乙女のような純なる愛情でございます」



589: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2011/02/07(月) 21:26:07.71 ID:MwD7mMVK0
(,,゚Д゚)「しかし……病的だ」

(´・ω・`)「周囲の者にはそう映るでしょう」

(´・ω・`)「倒錯した愛の形です」

(´・ω・`)「しかし兄蛇和尚は誰の理解も求めなかった」

(´・ω・`)「弟蛇和尚にも見返りを期待しなかった。そうですね」

( ´_ゝ`)「……それでいいんだよ」

( ´_ゝ`)「俺の中じゃあ、それで……」

/ ,' 3「兄蛇……和尚…・…おお……」

(´・ω・`)「人の内なる想いなど……完璧に明かすことなどできません」

(´・ω・`)「今日まで秘密を守り続けた兄蛇和尚は、自己の中で何もかも完結していたのです」

(´・ω・`)「兄蛇和尚は――『閉じて』いる」



607: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2011/02/07(月) 21:37:43.98 ID:MwD7mMVK0
(´・ω・`)「『閉じた』世界に、更に己を『閉じこめた』」

(´・ω・`)「こうした性質の者が、一人」

(´<_` )「……おい、ふざけるなよ」

(´・ω・`)「いかがなさったか」

(´<_` )「なにが歪な愛だ。全部お前が元凶ではないか!」

(´<_` )「衆道者であることも、俺を典座に指名した理由のひとつと言っただろう!」

(´・ω・`)「いかにも」

(´<_` )「お前は……お前はこうなる未来を予想していたに違いない!」

(´<_` )「俺はこうなる、兄貴はこうなると……すべて計算づくだったんだろ! お前は!」

(´<_` )「お前がそう仕向けたのだ!」



617: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2011/02/07(月) 21:46:33.45 ID:MwD7mMVK0
(,,゚Д゚)「思い返せば……拙僧も同様であった」

(,,゚Д゚)「衆道がひとつの昇格理由であると」

(,,゚Д゚)「拙僧と譲留和尚がここに至ることも……予見済みか!」

(´<_` )「そして、いくら管主だからといえ、個々人の秘密を好き放題暴露するとは」

(´<_` )「いったいどういう了見だ!」

(´・ω・`)「すべては殿堂計画のため」

(´<_` )「計画とはなんだ!」

(´・ω・`)「邪魔をするでない! 退けい!」

(´<_` )「……っ!」

(´・ω・`)「……もうじき分かります。既に半数を超えました」

(´・ω・`)「あと崩壊させねばならない柱は……二本」



625: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2011/02/07(月) 21:55:54.11 ID:MwD7mMVK0
/ ,' 3「もしや……わしもか!?」

(´・ω・`)「そう、荒巻和尚もです」

/ ,' 3「わ、わしは衆道に足を踏み入れてはおらぬぞ」

(´・ω・`)「存じております。あなたは何の穢れもない老人」

(´・ω・`)「花を愛し蝶と戯れる温厚篤実な僧です」

/ ,' 3「……わしに秘密などない」

(´・ω・`)「荒巻和尚の場合は『あなた自身が知らない』秘密なのです」

/ ,' 3「な、なにを……」

(´・ω・`)「あなたを雲水で最高権限者である都寺に任じたこと」

(´・ω・`)「私があなた以外の老人を寺から追放していったこと」

(´・ω・`)「その道理が、分かりますかな?」



634: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2011/02/07(月) 22:04:52.58 ID:MwD7mMVK0
/ ,' 3「……知る由もなかろう」

(´・ω・`)「都寺は老人でなくてはならなかった」

(´・ω・`)「唯一の老人が都寺に就いている、という舞台が必要だったのです」

/ ,' 3「なんのためにじゃ?」

(´・ω・`)「老人出なければ、この寺の雲水衆をまとめることは不可能なのです」

/ ,' 3「わしが老いておることの、何が肝心なんじゃ!」

(´・ω・`)「それは……必要以上に僧たちの性事情に介入できぬがゆえでございます」

/ ,' 3「なんじゃて!? 今なんと申した!」

(´・ω・`)「稲麻竹葦」

( ・∀・)「!」

(´・ω・`)「六知事の者どもですら、ご覧の様相なのですよ」

(´・ω・`)「この寺に衆道者は――幾多ございます」



639: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2011/02/07(月) 22:12:38.02 ID:MwD7mMVK0
/ ,' 3「ばっ、馬鹿を言え!」

(´・ω・`)「全否定できますでしょうか? 証明の手段もございませぬぞ」

(´・ω・`)「その上に私は」

(´・ω・`)「同性愛者が誕生しやすい環境を作り上げているのですよ」

('A`)「なっ、なんじゃそりゃ!?」

( ^ω^)「久々のセリフが驚いただけかお……」

('A`)「俺主人公だよな?」

/ ,' 3「そんな戯けた念力ができるものか!」

(´・ω・`)「できるのですよ。いや、できたのです」

(´・ω・`)「私が展開した、六方陣の効果、とでも解説しましょうか」

/ ,' 3「ふざけておる! それは仏道ではなく魔道だ!」



651: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2011/02/07(月) 22:21:40.80 ID:MwD7mMVK0
(´・ω・`)「ひとまず心を安寧にして聞いていただきたい」

/ ,' 3「痴れ者が……! さっさと話してみい!」

(´・ω・`)「この寺は古くから『閉じた』空間である」

(´・ω・`)「そこに譲留和尚という『開く』ための要因を導入した――」

(´・ω・`)「しかしながらそれだけでは不十分でした」

(´・ω・`)「積み上げられてきた歴史の重みは、そう簡単には覆りはしません」

(´・ω・`)「そこで私は……自らも新しい要素を持ち込んだのです」

(´・ω・`)「それが、六方陣」

/ ,' 3「だからそれはなんなのじゃ! いかにして作った!」

(´・ω・`)「自然界の万物は、陰と陽の二極から生ずる……」

(´・ω・`)「陰陽道の応用にて開発いたしました」



656: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2011/02/07(月) 22:27:59.62 ID:MwD7mMVK0
(´・ω・`)「『閉じた』者と、『開いた』者」

(´・ω・`)「それら六名を権力者の立場に配し、概念上の陣を形成したのです」

/ ,' 3「そんなものが効果あるはずないわい」

(´・ω・`)「承知しております、荒巻和尚」

(´・ω・`)「実際に効力を発揮するかはどうでもよいのです」

(´・ω・`)「これはあくまで、先刻語った『歪み』を作るための一手段なのございますよ」

/ ,' 3「な、なんじゃと」

(´・ω・`)「『歪み』が『歪み』を生み、『歪み』が『歪み』を増大させる」

(´・ω・`)「『歪み』は精神の不安定を煽る。秩序が欠落する。自我を忘却する」

(´・ω・`)「それを補填するのが愛と肉欲でございます」

(´・ω・`)「そこに至るべき環境を、私はここに完成させたのです」



663: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2011/02/07(月) 22:34:36.15 ID:MwD7mMVK0
(´・ω・`)「私が張った六方陣も、様々な『歪み』を生じさせました」

(´・ω・`)「擬古和尚と譲留和尚の確執」

(´・ω・`)「それに伴う派閥闘争」

(´・ω・`)「少年僧の争奪戦、少年僧への求愛」

(´・ω・`)「倒錯した性愛、倒錯した純愛」

(´・ω・`)「私が彼らを六知事に任命したことで、湧き起こりました」

/ ,' 3「わ、わしが残されたのは……」」

(´・ω・`)「私は愛欲に満ちた空間を望んだ」

(´・ω・`)「ですが、都寺まで堕落しては寺院自体が機能しなくなります。それはいけません」

(´・ω・`)「だから性欲が枯れ果てたあなたを都寺に置いたのですよ」

(´・ω・`)「その役目は一人で十分。だから候補者内で最も優秀だった、あなただけを残した」

/ ,' 3「おお……」



675: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2011/02/07(月) 22:45:46.21 ID:MwD7mMVK0
(´・ω・`)「……あなたは『開こう』とした」

(´・ω・`)「そして、座禅をやめたのですね?」

/ ,' 3「まさしく……」

(´・ω・`)「あなたは座禅を極めたのではなく、座禅の限界を悟ったのでしょう」

/ ,' 3「その通りじゃ。単に向かい続けることは自己の拡大を狭めるだけであった」

(´・ω・`)「譲留和尚とは違い、過程を踏んでの結果です。それは既に大悟と申してもよい」

(´・ω・`)「老師の域にまで肉薄する禅僧は、しかし現れなかった」

(´・ω・`)「あろうことか、閉じ続けた擬古和尚が、大悟に最も近い僧などと称賛された」

(´・ω・`)「複雑な気分だったでしょう」

/ ,' 3「そう。だから……」

/ ,' 3「開けた世界の自然だけが……愛おしかった」



683: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2011/02/07(月) 22:59:12.70 ID:MwD7mMVK0
(´・ω・`)「『閉じ』に『閉じ』て、そして『開いた』」

(´・ω・`)「けれど開いた先には誰もいなかった。孤独の世界に閉じこめられた」

(´・ω・`)「それでもまだ……自己を外に開いていた」

(´・ω・`)「――こうした性質の者が、一人」

('A`)(残る柱は、あと一本……)

('A`)(茂羅さんか……ここまでの話から推理すると、あの人は閉じている)

('A`)(一体何を……)

(´・ω・`)「茂羅和尚」

( ・∀・)「……」

(´・ω・`)「あなたを最後にしたのには多大な理由があるのです」

(´・ω・`)「いや、あなたが最後でなくてはならなかった」



689: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2011/02/07(月) 23:02:11.86 ID:MwD7mMVK0
(´・ω・`)「なぜならば、あなたの性質だけが、転換することができるからです」

('A`)(へ……?)

( ・∀・)「……やめてくれ……」

(´・ω・`)「あなたの秘密は、私と共有している」

( ・∀・)「黙れ、悪魔め……!」

(´・ω・`)「閉じた茂羅和尚の開放が可能なのは、当人と私しかおりませぬ」

(´・ω・`)「裏を返せば、私ならば茂羅和尚を開くことができる」

( ・∀・)「黙れと言っているんだ」

(´・ω・`)「往々に古老先徳、あるいは西天に往還し、あるいは人天を化導する」

(´・ω・`)「漢より宋朝に至るまで、稲麻竹葦の如くなる!」

( ・∀・)「やめろっ!!」



696: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2011/02/07(月) 23:07:09.84 ID:MwD7mMVK0
シィン……

( ・∀・)「はあ……はあ……」

(´・ω・`)「……」

(´・ω・`)「どうなされますか」

( ・∀・)「……あんたの口からは言わなくていい」

( ・∀・)「僕が自分で開く! 口出しは無用!」

( ・∀・)「あんたに無理やりに暴かれるぐらいなら、そっちのほうがマシだ!」

('A`)「も、茂羅さん」

( ・∀・)「みんな聞け! 僕はな――」

( ・∀・)「諸梵和尚の寵児だったんだ!」



713: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2011/02/07(月) 23:15:05.76 ID:MwD7mMVK0
( ^ω^)「茂羅さんまで……かお!?」

('A`)「もうだめだ……俺に安心は永遠に来ないわこれ……」

( ・∀・)「僕は十五歳でこの寺に来た。そして」

( ・∀・)「入山して一ヶ月も経たぬうちに諸梵和尚の部屋に呼ばれたんだよ」

(´・ω・`)「私がこれまでに目にしてきた僧の中で……」

(´・ω・`)「茂羅和尚は群を抜いて美しかった」

(´・ω・`)「濡れた瞳、艶のある唇、ほのかに紅がさした頬」

(´・ω・`)「そして肌は滑らかでいて、それでいて張りがある……」

(´・ω・`)「造形美を極めておりました」

( ・∀・)「黙れ、気色が悪い!」

( ・∀・)「僕は昔からずっと、お前のことが大嫌いだった! お前は悪魔だ!」



721: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2011/02/07(月) 23:23:07.74 ID:MwD7mMVK0
(´・ω・`)「分かっておりましたよ」

(´・ω・`)「しかしそれもまた、私を燃え上がらせるひとつまみの山椒でした」

('A`)(ど、どこまでもホモだ……)

(´・ω・`)「私は茂羅和尚を心より愛しました」

(´・ω・`)「けれども、成人を迎えると同時に関係を断ちました。そうですね、茂羅和尚」

( ・∀・)「ふん! どうせ飽きたんだろう!」

( ・∀・)「二十歳になった男には興味なしか、この真性め!」

(´・ω・`)「私は五歳から五十歳まで男性機能を働かせることができる……」

(´・ω・`)「そのような情熱が甚だ欠けた因果ではございませぬ」

( ・∀・)「じゃあ何だっていうんだ!」

(´・ω・`)「――あなたという存在を閉じこめるためにですよ」



735: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2011/02/07(月) 23:31:50.60 ID:MwD7mMVK0
( ・∀・)「閉じこめる、だって?」

(´・ω・`)「封印、という呼称が最も適切でしょうか」

(´・ω・`)「私は新しい快楽の形を追求するのが趣味なのです」

('A`)(下衆すぎて笑えてきた)

(´・ω・`)「私が茂羅和尚と最後の契りを交わした夜……」

(´・ω・`)「なんと申したか、覚えておられますかな?」

( ・∀・)「忘れるわけがない……稲麻竹葦だ」

(´・ω・`)「その通り!」

(´・ω・`)「私はその言葉をもって、あなたに鍵をかけた」

(´・ω・`)「心の傷が消えぬよう……完璧にあなたの胸に閉じこめたのだ」



743: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2011/02/07(月) 23:38:36.96 ID:MwD7mMVK0
(*゚ー゚)「ちょ、ちょっと待ってください!」

(*゚ー゚)「先程から申されている、稲麻竹葦とは……どういう意味なのでしょうか?」

(´・ω・`)「茂羅和尚、真意はつかめていますかね」

( ・∀・)「当たり前だ」

( ・∀・)「稲麻竹葦とはな、稲と麻と竹と葦がたくさんあるってことだ」

('A`)「そのまんまじゃないですか」

( ・∀・)「そこから転じて、欲しい物がたくさんあって嬉しいという意味が生まれた」

('A`)「えっ、じゃあいい意味の言葉なんじゃ……」

( ・∀・)「それだけじゃない! 裏の意味もある!」

( ・∀・)「要らない物が大量に溢れていて、息苦しい――これがもうひとつの解釈だ」



752: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2011/02/07(月) 23:45:18.16 ID:MwD7mMVK0
(´・ω・`)「いかにも」

('A`)「そ、そういうことなのか……」

( ・∀・)「ある側面からは喜ばしい物事であっても」

( ・∀・)「別の側面からは忌むべき対象になるってことだよ」

(´・ω・`)「そう。善悪・巧拙・優劣は表裏一体」

(´・ω・`)「捉え方によって容貌は異なる」

(´・ω・`)「そこで変わるのは見ている物ではない。見る私たちの目線だ」

('A`)「それじゃ、この場面では」

(´・ω・`)「衆道に狂った僧が充満したこの寺院は」

(´・ω・`)「私のような道に則った者には天国であっても……」

( ・∀・)「僕にとっては地獄、ということさ」



758: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2011/02/07(月) 23:54:09.06 ID:MwD7mMVK0
(´・ω・`)「この言葉を用いて茂羅に施錠をしたのです」

(´・ω・`)「私の他にも衆道に深入りしておる人間がいるぞ――と」

(´・ω・`)「そのことを忘れてはならないように」

(´・ω・`)「そして心の傷を誰にも知られぬよう、閉じこめることに成功しました」

(´・ω・`)「この状況下で口外などできるはずがありませんからね」

(´・ω・`)「それでも自己の中では、過去の記憶が反芻する。大層苦しかったでしょう」

( ・∀・)「こいつは救いようのないクズだ……」

( ・∀・)「お前のせいで、僕がどれだけ恐怖に怯える日々を送ってきたと思っている!」

(´・ω・`)「それがたまらなかった」

( ・∀・)「何を言うんだ!」

(´・ω・`)「震えるあなたを遠目に眺めていることが……強烈な興奮を呼び覚ました」



769: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2011/02/08(火) 00:00:36.97 ID:6G4GE/Vb0
('A`)(狂ってる……)

( ^ω^)(薄ら寒くて仕方がないお……)

( ・∀・)「……糞虫め!」

( ・∀・)「閉じるしかなかった僕を、弄んでいたのか! 変態狸!」

(´・ω・`)「罵声を浴びせなさっても、私には被虐的な悦びにしかなりませぬぞ」

(´・ω・`)「ただ逃げるという手段を残しておりましたので」

(´・ω・`)「監寺の位を与え寺に縛りつけました」

( ・∀・)「やっぱりか。ふん、想像通りだ」

('A`)(ああ、そんなことも言っていたな……)

('A`)(だけどその時、俺の前で稲麻竹葦の言葉を漏らしていたし……)

('A`)(茂羅さんなりに……開こうともしてたのかな……)



772: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2011/02/08(火) 00:05:08.13 ID:6G4GE/Vb0
(´・ω・`)「『閉じる』運命を背負わされた」

(´・ω・`)「こうした性質の者が、一人」

(´・ω・`)「……もっとも、今しがた開いてしまいましたが」

( ・∀・)「……」

(´・ω・`)「最後に……毒念さん」

('A`)「なっ、なんだよ」

(´・ω・`)「見方によっては、あなたが最大の功労者である」

('A`)「は? 俺が?」

(´・ω・`)「うむ。あなたが持ち運んできた『歪み』……」

(´・ω・`)「いや、あなたがここで誕生させた大いなる『歪み』」

(´・ω・`)「これが最大の決め手となったのです」



780: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2011/02/08(火) 00:10:17.80 ID:6G4GE/Vb0
('A`)「俺が『歪み』の種だって?」

('A`)「ふざけんなよ。俺なんて何もしてねーよ」

(´・ω・`)「毒念さんは偶然の事象でした」

(´・ω・`)「本来、計画に関与するような人材ではございませぬ」

(´・ω・`)「いいや、そもそも全部が……運によって成り立ったのかも知れませんが……」

('A`)「早く言えよ、気になるだろ!」

(´・ω・`)「そう焦る必要もありません。誠に明快な話なのですから」

(´・ω・`)「あなたの隣に、椎伊が座っておるでしょう」

('A`)「それがどうしたんだよ。いっつもいるぞ」

(´・ω・`)「まさにそれである。それこそが『歪み』」

(´・ω・`)「毒念さまによってもたらされた事件なのです」



798: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2011/02/08(火) 00:19:02.51 ID:6G4GE/Vb0
(´・ω・`)「椎伊が一人の男性にすり寄ることなど」

(´・ω・`)「これまでに一度たりともなかったことでございます」

(*゚ー゚)「……」

(´・ω・`)「それもそのはずで、椎伊には過去の傷があるのですよ」

(´・ω・`)「ゆえに心根から気を許さない」

('A`)「なっ、お前……椎伊のことをなぜ知っている!」

(´・ω・`)「弟蛇和尚の前の典座と、私はかつて性的関係を結んでおりました」

(´・ω・`)「話しましたよね」

(´・ω・`)「互いに歳を重ねたある晩、その雲水が私の元に参上しなさった」

(´・ω・`)「久々にどうだ、と」

(´・ω・`)「無論還暦寸前の仏僧など興味がないので断りましたが」

(´・ω・`)「なぜ唐突にと聞くと、椎伊に拒まれたからだ、と答えたのですよ」



813: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2011/02/08(火) 00:29:15.23 ID:6G4GE/Vb0
('A`)「そんなふうに……繋がるのか……」

( ^ω^)「えっ、でも最近は僕ともよく一緒にいるお?」

(´・ω・`)「それは単に蓬莱和尚が毒念さまのそばにいるというだけでしょう」

( ^ω^)ショボーン

('A`)「でも椎伊は擬古さん派だぞ? 擬古さんには」

(´・ω・`)「あれは子どもじみた憧憬に過ぎません。接点は見受けられない」

(´・ω・`)「その椎伊が毒念さまにだけ心を開いた」

(´・ω・`)「これは一大事でございます」

('A`)「どういうこった……」

(´・ω・`)「ご覧の通り椎伊は甚だしく可憐。しかしまだ誰にも穢されていない」

(´・ω・`)「初夜を狙う雲水が非常に多いのです」



821: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2011/02/08(火) 00:32:31.63 ID:6G4GE/Vb0
(´・ω・`)「寺院はあなたたちの見知らぬところで緊張状態を呈していました」

(´・ω・`)「ある意味では、派閥間の争いや痴情の交錯よりも激しく」

(´・ω・`)「凄まじき『歪み』が生じておったのですよ」

('A`)「お、俺が……歪みの原因になってた……?」

('A`)「し、椎伊」

('A`)「お前は気づいてたのか?」

(*゚ー゚)「わ、私にもよく分かりません!」

(*゚ー゚)「ただ……毒念様の近くだけは、いても嫌なことが連想させられなかったんです」

(*゚ー゚)「だから研修を終えた後もお供していた……」

(*゚ー゚)「それだけなのでございます」

(´・ω・`)「どこから見るか次第なのです」

(´・ω・`)「当事者の間では正常であっても、傍からは異常に映るのですぞ」



837: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2011/02/08(火) 00:38:39.83 ID:6G4GE/Vb0
(´・ω・`)「何よりも……私が留守の合間に」

(´・ω・`)「擬古和尚と譲留和尚の伊陽を巡る争いが、衆前に発覚していたことが」

(´・ω・`)「本当に幸運でした」

(´・ω・`)「ここが計画の最終章に移行する最大の好機だと、悟りました」

(´・ω・`)「裂け目は既に走っていた」

(´・ω・`)「後は少し力を入れるだけでした」

('A`)「……」

/ ,' 3「……」

(´・ω・`)「以上にて……寺院殿堂計画の全段階が完了しました」

(´・ω・`)「ようやく、ようやくです!」

(´・ω・`)「私の計画が、具現化するのです!」



854: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2011/02/08(火) 00:46:56.48 ID:6G4GE/Vb0
/ ,' 3「……一貫して皆が気にかけておるが……」

/ ,' 3「その計画とはなんなのじゃ? 全貌がまったく見えてこんぞ!」

(´・ω・`)「その前によろしいですか」

(´・ω・`)「まずは私にとって、禅とは如何なる思想かを述べましょう」

(´・ω・`)「私は中道――『開く』ことも『閉じる』ことも重要視しております」

(,,゚Д゚)「……」

( ゚∀゚)「……」

(´・ω・`)「開かねば閉じれず、閉じていなければ開けれず」

(´・ω・`)「そもそも自己とは外部との境界を含めて定まってはいないのです」

(´・ω・`)「見方次第で万華鏡のように姿形を変える」

(´・ω・`)「ですがそれは、我々が視点を移動させただけで、自己そのものは不変でございます」

( ・∀・)「……」



861: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2011/02/08(火) 00:51:04.24 ID:6G4GE/Vb0
(´・ω・`)「自己は変容する、しかしながら根底は、そう易々と揺るがない」

(´・ω・`)「その自己を探索する長くそして短い旅」

(´・ω・`)「それが悟りへの道なのです」

(´・ω・`)「……さて、『開く』、『閉じる』と申し上げましたが」

(´・ω・`)「私はこれに、あるひとつの解釈を加えましてな」

(´・ω・`)「開くということは広げるということ」

(´・ω・`)「閉じるということは埋めるということ」

(´・ω・`)「二つの行動が交わるというのは、どのような瞬間か。これを考えました」

('A`)「まさかとは思うが……」

(´・ω・`)「そう」

(´・ω・`)「挿入行為ですね」



879: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2011/02/08(火) 00:56:08.25 ID:6G4GE/Vb0
(´・ω・`)「禅の神髄とは性交にあり!」

(´・ω・`)「だが寺院は女人禁制」

(´・ω・`)「これすなわち衆道こそが大悟への常道」

('A`)「頭おかしいだろお前」

(´・ω・`)「私はここに終着したのです」

/ ,' 3「本当にお前は大うつけじゃ…・…」

(´・ω・`)「そこで私は、すべての僧侶を悟りを得られるよう」

(´・ω・`)「全員が揃って衆道に耽れる空間を用意することにしたのです」

(´・ω・`)「まさしく肉欲の殿堂……」

(´・ω・`)「寺院殿堂計画」



905: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2011/02/08(火) 01:02:58.50 ID:6G4GE/Vb0
('A`)「……くだらないけど……」

( ^ω^)「めちゃくちゃ……恐ろしいお……」

('A`)「この坊主は……本気も本気だからな……」

( ´_ゝ`)「では、俺たち六知事の秘密を暴露した理由はなんだ?」

(,,゚Д゚)「そうだ、説明がつかぬぞ」

(´・ω・`)「語ったであろう。『柱を崩壊させる』と」

(´・ω・`)「六知事という柱によって保たれていた、六方陣の魔力を解いたのです」

( ・∀・)「僕を一番後ろに回したのは……」

(´・ω・`)「茂羅和尚の秘密は、私の秘密でもある」

(´・ω・`)「つまり、茂羅和尚の柱を壊すということは、私の柱も壊すことと同義」

(´・ω・`)「結界の中心に陣取る私という主柱も、最終的に破壊したのです」



913: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2011/02/08(火) 01:10:05.95 ID:6G4GE/Vb0
( ゚∀゚)「それを解いて……どうする……?」

(´・ω・`)「空間を――また閉ざすのです」

(´・ω・`)「『歪み』を消し去り、計画を始める元の状態に戻すのですよ」

('A`)「じゃあなんだ、この計画は!」

(´・ω・`)「ふふふ……そう!」

(´・ω・`)「破壊と、そして再生によって完成するのです!」

('A`)「なんでだ、なんのためにわざわざ」

('A`)「第一衆道に戦根するための施設じゃなかったのか!」

(´・ω・`)「少々違います。愛欲の殿堂には衆道に携わらない者は不要なのです」

(´・ω・`)「そのためには贋物を取り除き、本物を見分ける必要がございます」

(´・ω・`)「同性愛推奨環境は失われた」

(´・ω・`)「それでもまだ衆道を捨てれぬ者を、私はこの寺に残したいのです」



922: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2011/02/08(火) 01:15:09.70 ID:6G4GE/Vb0
(´・ω・`)「今宵より毘譜寺は再誕いたしました」

(´・ω・`)「賛同できぬ者は去りなさい」

(´・ω・`)「私は止めません。当面の生活資金も口座に振り込んでおきます」

('A`)「おいなんかさらっと流したけど、なんで口座番号を知っている」

( ^ω^)「千里眼……」

(´・ω・`)「ですが、残留すれば僧を抱き続けることが出来ます」

(´・ω・`)「寺の外ではそうそう経験できることではありませぬ」

(´・ω・`)「ちょうど今宵は満月……よい夜になりますよ」

('A`)「馬鹿か、ほとんどが出ていくよ」

(´・ω・`)「果たしてそうであろうか?」



935: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2011/02/08(火) 01:21:45.71 ID:6G4GE/Vb0
(´・ω・`)「擬古和尚、譲留和尚」

(´・ω・`)「あなたたちはまだ、伊陽を愛しておられますか?」

(,,゚Д゚)「……」

( ゚∀゚)「……」

('A`)「この流れだと、それ無言の肯定じゃないですか!」

(´・ω・`)「そして弟蛇和尚」

(´・ω・`)「あなたは辱められた兄蛇和尚のために憤ることが出来た」

(´・ω・`)「そんなあなたならば、兄蛇和尚の気持ちに応えられるのではありませんか?」

( ´_ゝ`)「……」

(´<_` )「……」

('A`)「見つめ合わないでください!」



949: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2011/02/08(火) 01:27:06.96 ID:6G4GE/Vb0
(´・ω・`)「他の者もそうです」

(´・ω・`)「好きにしなされ。強制はいたしませぬ」

(´・ω・`)「自己を見つめ直すいい機会です」

(´・ω・`)「そして答えを出しなさい」

ザワ……ザワ……

('A`)「空気が不穏なんですが……」

( ^ω^)「ド、ドクオ、今のうちに逃走経路を探しておいたほうがいいお」

(*゚ー゚)「始まりそうです!」

(´・ω・`)「決断の時です。それでは――いざ」


(´・ω・`)「開眼!」



954: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2011/02/08(火) 01:30:27.45 ID:6G4GE/Vb0
(`・ω・´)「うおおおおおおおおおおおおお!!!!」

( ФωФ)「ぬおおおおっほっほおおおおおおお!!!!」

('A`)「早すぎだろあいつら!」

( ^ω^)「僕らも早いとこ逃げるお!」

( ^ω^)「相手が見つからなかった奴に強引に引きずりこまれかねないお!」

('A`)「それは恐ろしすぎる……」

( ・∀・)「こっちだ、二人とも!」

/ ,' 3「急いで来い!」

('A`)「茂羅和尚! 荒巻和尚!」

( ・∀・)「もう和尚じゃない! 僕らも寺を出るんだ!」



974: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2011/02/08(火) 01:35:00.70 ID:6G4GE/Vb0
( ・∀・)「こんなこともあろうかと」

( ・∀・)「僧堂の管理を任されている監寺という立場を利用して」

( ・∀・)「こっそり専門業者を呼んで隠し通路を作っておいたのさ!」

('A`)「さすがは茂羅さん! できる男!」

/ ,' 3「しかし破門するのは……わしらだけみたいじゃ」

( ^ω^)「こんなに多くの僧が残るのかお……」

/ ,' 3「わしは……このような乱れた寺に身を置いておったのか……」

( ・∀・)「行こう、こんな場所に長居なんてしてられない」

('A`)「いや、ちょっと待ってください! まだ一人!」

('A`)「椎伊! お前も早くこっちにこい!」



15: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2011/02/08(火) 01:42:40.64 ID:6G4GE/Vb0
(*゚ー゚)「毒念様!?」

('A`)「急げ! 聞いただろ! お前は競争率高いんだよ!」

('A`)「危ないからさっさと走ってこい!」

(*゚ー゚)「ですが……私には、寺を出たところで行く当てがございません……」

(*゚ー゚)「戸籍もないのですよ……?」

/ ,' 3「わしのところに来い」

( ^ω^)「荒巻おしょ……さん」

/ ,' 3「養子として迎え入れちゃる」

/ ,' 3「長い修行生活で妻もせがれも持てんかったんだ」

/ ,' 3「孫の一人ぐらいくれてもいいじゃろう?」

('A`)「そういうことだ! さあ、こっちへ!」



32: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2011/02/08(火) 01:47:10.24 ID:6G4GE/Vb0
(*゚ー゚)「はっ……はい!」

('A`)「おら! お前ら通路の前空けろ! 俺たちは出ていくんだ!」

( ^ω^)「まずいお! 三十人ぐらいが椎伊の後を追ってきてるお!」

/ ,' 3「年寄りには壮絶すぎる光景じゃ……」

( ・∀・)「急ぐんだ!」

(*゚ー゚)「足が……もつれそうです……!」

(*゚ー゚)「あっ!」

( ^ω^)「前のめりになっちゃったお!」

('A`)「その勢いのまま飛べ! てかもうやるっきゃねぇ!」

(*゚ー゚)「はっ、はい!」タンッ!

('A`)パシッ!

('A`)「よし……行くぞ!」



48: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2011/02/08(火) 01:51:18.66 ID:6G4GE/Vb0
( ・∀・)「決して後ろを振り返っちゃダメだよ!」

( ^ω^)「言われなくてもそんなアホなことしないお!」

('A`)「もしついてきてたらと思うと怖すぎる……」

(*゚ー゚)「あ、あの皆さん」

('A`)「どうした?」

(*゚ー゚)「ありがとうございます……その」

( ^ω^)「感謝されるようなことなんて何もしてないお!」

( ・∀・)「君はあんな空間にいちゃいけないんだ」

/ ,' 3「あそこはもう禅寺なんかじゃない……我欲の吹き溜まりだわい」

('A`)「つまんねーこと言ってる暇があったら、走るぞ! 割と真面目に!」

(*゚ー゚)「はい!」



70: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2011/02/08(火) 01:56:44.64 ID:6G4GE/Vb0
〜山林〜


('A`)「ど、どっちに向かって走ったらいいんだ……」

(*゚ー゚)「夜道だから分かりづらいです……」

( ・∀・)「ここは僕の庭だ、どこに行けば出口かぐらい全部頭の中に入ってる」

( ^ω^)「さすが茂羅さん!」

( ・∀・)「もう茂羅じゃない。僧名は捨てた。僕はモララーだ」

('A`)「さすがモララーさん!」

/ ,' 3「わ、わし、老体に鞭打ってごまかしてきたが、さすがに疲れたんじゃが……」

( ^ω^)「おぶるお。僕は鍛えてあるんだお。よいしょっと」

/ ,' 3「すまんのう」

( ^ω^)「大豆パワーとくとご覧あれ」



80: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2011/02/08(火) 02:02:06.68 ID:6G4GE/Vb0
( ・∀・)「麓が見えてきたぞ!」

( ^ω^)「つ、ついに……僕たちは……」

(*゚ー゚)「逃げ切った……んですね……」

/ ,' 3「みたいじゃな」

('A`)「俺たちは……俺たちは自由だ! ひゃほほーい!」

(*゚ー゚)「寺院の外の世界を……初めて見ました……」

/ ,' 3「開けた世界はいかがかな?」

(*゚ー゚)「私は今まで……閉じていただけでしたから……」

(*゚ー゚)「とても鮮烈に感じます」

/ ,' 3「そうじゃ。自己というのは、自分自身しか感じられるもの」

/ ,' 3「他人の受け売りで自己を俯瞰することはできんのだ」



93: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2011/02/08(火) 02:07:00.61 ID:6G4GE/Vb0
/ ,' 3「これからは自分の好きなように生きなさい」

(*゚ー゚)「うん! おじいちゃん!」

/ ,' 3「お、おじいちゃん……」

( ・∀・)「ははは。荒巻さん、念願の家族ができたんですよ」

/ ,' 3「照れ臭いのう」

('A`)「……」

( ^ω^)「どうしたんだお、ボケっとして」

('A`)「一ヶ月にも満たない期間だったというのに……」

('A`)「俺のこれまでの人生全部より長く感じた……濃密すぎた……」

( ^ω^)「寺の外と中じゃ、時間の流れが全然違うお」

('A`)「ああ……やっぱり普通の世間が一番安心するよ」



104: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2011/02/08(火) 02:11:52.25 ID:6G4GE/Vb0
('A`)「……これから皆さん、どうするんですか」

( ・∀・)「そうだな、僕は……」

( ・∀・)「これまでは『閉じて』いたからね、『開いて』いこうと思う」

( ・∀・)「しばらく全国を行脚していろんな人や自然、文化と触れ合ってみるよ」

( ・∀・)「まだ僕は若いんだ」

/ ,' 3「わしは……ううん」

/ ,' 3「寺では随分と長く、一人で『開いて』きたんじゃが……」

/ ,' 3「外でもまあ、大して変わらぬだろう」

/ ,' 3「……しかし、この先の残り少ない人生は……平穏に『閉じて』暮らしていこうかの」

/ ,' 3「かわいい孫もできたことだし」



113: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2011/02/08(火) 02:17:19.23 ID:6G4GE/Vb0
(*゚ー゚)「私は……この世界を何も知りません」

(*゚ー゚)「『閉じて』いたから必然的に『開かないと』いけませんね……」

(*゚ー゚)「だけど、ちょっと楽しみです」

(*゚ー゚)「何をやっても初めて尽くしですからね」

(*゚ー゚)「……学校とかも、行ってみたいかな、なんて」

('A`)「そりゃいいな。で、ブーンは?」

( ^ω^)「僕は就職先を探すことからスタートだお」

('A`)「おい……それ俺もやらなきゃダメなことじゃねぇか……」

('A`)「せっかく明るい希望に満ち溢れてたのに現実つきつけるなよ……」

( ^ω^)「だったら、一番に何をする予定だったんだお」

('A`)「俺か……俺は……」







119: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2011/02/08(火) 02:19:45.67 ID:6G4GE/Vb0
('A`)「普通にオナニーがしたいです」

( ^ω^)「死ぬべき」









    〜('A`)が入山したら案の定衆道だらけだったようです〜



                  〜完〜






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