( ^ω^)七大不思議と「せいとかい」のようです

3: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2010/10/27(水) 19:56:39.70 ID:o3KlAgq5O



 ――これなら見付からないのじゃ。

 ――早く逃げるのじゃ。

 ――んー、それにしても、見にくいのじゃ。犬とは目が悪いんじゃのう。

 ――……むう?

 ――懐かしい感じがするのう。

 ――これは……――



第五話:迷い人、迷い犬



4: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2010/10/27(水) 19:59:38.93 ID:o3KlAgq5O

 夏である。
 7月も、もう3分の2を過ぎた。

 この時期、全国の学生達の殆どは、あることに想いを馳せ、そわそわと日々を過ごす。

 ――それは、目前に迫る夏休みへの期待。

 ここ、私立VIP高校の生徒達とて例外ではない。
 明日は終業式。
 それが終われば、晴れて学生の希望、長い長い自由な休み時間が始まるのだ。

 どの生徒の顔も、今ばかりは輝いている。



 が。



 聖徒会のメンバーだけは、そんな余裕もなく校内を駆けずり回っていた。



ξ*゚听)ξ「ミルナ。
      撫で回させなさい」

( ゚д゚ )「『撫でる』じゃなくて『撫で回す』な時点で嫌だ」



6: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2010/10/27(水) 20:02:59.28 ID:o3KlAgq5O

 体育館。
 じりじりと距離を詰める聖徒会副会長兼会計、出連ツン。
 じりじりと距離を取るVIP高校七大不思議の1人、ミルナ。
 それを呆れた顔で眺める聖徒会副会長兼書記の鬱田ドクオと、おまけの霊魂エクスト。

( ゚д゚ )「夏休みになればお前に会うこともなくなると思ってわくわくしてたのに、
     その気分も台なしだ。早く夏休みになれ」

ξ*゚听)ξ「大丈夫、夏休みになっても来るから」

( ゚д゚ )「ざけんな。
     ……わざわざセクハラするためにここに来たのか」

ξ*゚听)ξ「いいえ、探し物よ」

( ゚д゚ )「探し物?」

ξ*゚听)ξ「一般生徒から落とし物の相談が来たのよ。
      で、私とドクオで探してるの」

( ゚д゚ )「……それは、体育館で落としたのか?」

ξ*゚听)ξ「教室で」

( ゚д゚ )「何故ここに来たし」



8: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2010/10/27(水) 20:05:25.67 ID:o3KlAgq5O

ξ*゚听)ξ「動き回るのよ、その落とし物」

( ゚д゚ )「どんな落とし物だ。
     ……ところで、物を探すのにセクハラは必要なのかと」

ξ*゚听)ξ「歩きすぎて疲れたの。
      私を癒しなさい」

(*゚д゚ )「嫌d、うわっ、や、やめろ馬鹿!!
     くすぐったいくすぐったい!」

ξ*゚听)ξ「かぁわいい!」

<_プー゚)フ「変態だー!」

(;'A`)「誰か男の人……ブーン呼んでー!」







( ^ω^)「流石?」

 女子トイレ。
 聖徒会長の内藤ホライゾンは、七大不思議、怪人赤マント仮面モララーと対面していた。



9: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2010/10/27(水) 20:08:33.17 ID:o3KlAgq5O

(-@∀@)「ああ。
      そう名乗る男に教えてもらったと言っていたよ」

 2人が話しているのは、蛇の事件の際、ジョルジュ長岡が呪い方を教わったという、
 「本物」と呼ばれていた人間について。

 モララーがジョルジュから情報を聞き出したとの報告を受け、
 内藤はモララーの元へやって来たのだ。

(-@∀@)「しぃ君をどうやって手に入れるかを考えていたある日の帰り道、
      突然話し掛けられたそうだ。
      『そこの悩めるお兄さん――』」



 ――『そこの悩めるお兄さん。
    素敵なおまじないを教えてあげようか。
    その代わり、俺に教えてほしいことがある。
    怪しい者じゃない。俺は流石という』――



 ――『そうそう、そうすりゃ後は簡単さ。
    蛇が勝手にやってくれるから』――



10: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2010/10/27(水) 20:11:15.51 ID:o3KlAgq5O

 ――『教えてほしいことってなあ、俺の探し人についてだ。
    すごく可愛い女の子を見ただろう。
    髪は短くて、白い着物着て、可愛い顔してるのさ。
    だろう? 知ってるだろう。だから声かけたのさ』――



(-@∀@)「その流石という男の探し人の特徴に、ジョル君は思い当たる節があった。
      ……流石は、ジョル君が恋に悩んでいること、自分の探し人を見たことを
      知っていたんだ。初対面なのにね。
      だから『本物』の霊能力者か何かかと思った」

( ^ω^)「鈴木先生と大体同じですお……」

(-@∀@)「そのようだね。――そして貞子君が呪いを試してみたら
      まさに流石が言った通りになったものだから、ますます信用できたらしい。
      それ以来、流石とは会っていないとか。
      私が聞いたのはこれくらいかな」

( ^ω^)「ありがとうございますお。
       ……モララーさん」

(-@∀@)「ん?」

( ^ω^)「ジョルジュのこと、『ジョル君』って呼んでるんですね……」

(-@∀@)「……そう呼んでほしいって懇願されたから……」



13: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2010/10/27(水) 20:14:47.71 ID:o3KlAgq5O

 痛々しい事実が明るみに出た瞬間であった。
 流れる微妙な空気を変えるため、内藤が必死で話題を探す。

( ^ω^)「……あ、そうだ」

(-@∀@)「ん?」

( ^ω^)「ミセリちゃん、大丈夫ですかお?」

 数日前のショボンの事件で、七大不思議、鏡の中の少女ミセリは
 自らを危険にさらしてまで解決に貢献した。
 そのときに彼女の入っていた鏡は罅割れ、彼女自身もダメージを負った。

 新しい鏡に移動し、休ませれば回復するということだったが、
 果たして治ったのだろうか。

 七大不思議のバッジ。その中のオレンジ色のバッジは、ミセリが持ったままだ。
 七色の内一色だけ欠けているのを見る度、内藤は不安に駆られてしまう。

(-@∀@)「まだ療養中だ。思ったより深刻でね。
      新しい鏡の奥で、未だに眠っているよ」

( ^ω^)「そうなんですかお……」

(-@∀@)「大丈夫、夏休みの間に治るさ」



15: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2010/10/27(水) 20:18:06.43 ID:o3KlAgq5O

 心配から表情を曇らせる内藤の肩を、モララーが叩く。
 そのとき、トイレの出入り口から甲高い声が響き渡った。


 「くっさぁい! のじゃ!」


( ^ω^)「お?」

 内藤とモララーが声のした方を見る。
 そこにいたのは、生後数ヶ月程度らしき、小さな子犬。

▼>ェ<▼「鼻が曲がるのじゃー!!」

 ぎゅっとしかめた顔を、ぷるぷると横に振る。
 子犬の可愛らしさに内藤の頬が緩んだ。
 おいで、と呼ぶと、くさいからいやだ、と返事。

(-@∀@)「心外だな。
      ここは一応トイレだが、本来の使われ方をしていないから臭うはずがない。
      私の部屋だからね」



19: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2010/10/27(水) 20:21:32.27 ID:o3KlAgq5O

▼>ェ・▼「でも臭いのじゃ。お花の匂いをすっごくすっごく強くしたみたいなのじゃ」

( ^ω^)「ああ、それじゃあモララーさんの香りですお?
       僕達人間からしたら良い匂いですけど、
       わんこの嗅覚だと匂いがきつく感じられ……」


(;゚ω゚)「ってわんこ喋ってるぅうううううううううううううう!!!!!」


(-@∀@)「この学校の聖徒会長様ともあろう者が、犬が喋るくらいで驚くかね、今更」

 絶叫する内藤。呆れ返るモララー。うるさい、と怒る子犬。

 自分を常識人と言い張る内藤としては、
「犬が流暢に、しかも癖のある口調で話す」という、
 世の常識を蹴り飛ばしフルボッコにするような事態は見逃せるようなものではない。
 たとえ自身が先程まで、というより現在進行形で怪人赤マント仮面と
 親しげに会話を交わしていようとも。

(;゚ω゚)「いやいやいやいやいやいやいや、だって普通のわんこは喋るもんじゃ――
      ――あああああっ!!?」

(-@∀@)「今度はどうしたんだい」

(;^ω^)「まっ、まさか、迷い犬!?」



20: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2010/10/27(水) 20:24:21.25 ID:o3KlAgq5O

(-@∀@)「迷い犬?」

(;^ω^)「聖徒会に落とし物を探してほしいっていう依頼が来たんですお!
       その落とし物がわんこで……っ。ええっと今から回想ですお!」


 ――というわけで回想――


(*^ω^)「プールでも行くかおー」

ξ*゚听)ξ「べっ、別に、あんたがどうしてもって言うなら……」

<_プー゚)フ「俺も行きたい行きたい」

('A`)「水辺は霊がいっぱいいるから近付きたくない……」

(*^ω^)「じゃあ学校のプール貸してもらうかお? それならドクオでも安心だお」

<_フ*゚ー゚)フ「それがいい! 俺も入る!」

( ^ω^)「あ、でもツンは学校じゃ嫌かお……?」

ξ*゚听)ξ「どっ、どこでもいいわよ、そんなの!」

('A`)「ブーンと一緒に遊べるならどこでもいいんですね、わかりま」

ξ#゚听)ξ≡⊃))A`)「セイイエス!!!!!」



24: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2010/10/27(水) 20:27:34.03 ID:o3KlAgq5O

 放課後になったばかりの時刻。
 夏休みの話で盛り上がる聖徒会室に、1人の男子生徒が訪れた。

     「……青春してるところ悪いんだけど」

( ^ω^)「お?」

爪'ー`)y‐「ちょっといーい?」

 勝手に室内に入ってきた彼は、そう言って、目を細めた。





爪'ー`)y‐「――犬がさあ。逃げちゃったんだよね」

 ふわり。口から煙を吐き出した男子生徒の依頼は、迷い犬の捜索。

ξ゚听)ξ「煙草やめなさい。
      ……んで、犬はどこで逃げたの?
      学校の外で逃げたっつうんなら、私たちの仕事じゃないわよ」

 煙草をもぎ取り、ツンはドクオの額に押し付けた。
 悲鳴をあげて転げ回るドクオを眺めながら、男子生徒は笑う。
 彼の名は狐歩フォックス。内藤達と同じ2年生。



27: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2010/10/27(水) 20:30:39.32 ID:o3KlAgq5O

爪'ー`)「んはははは。鬱田おもれえ。もう一回やって、もう一回」

(;゚A゚)「やるかボケェ!!」

ξ゚听)ξ「質問に答えなさい」

爪'ー`)「おー恐い恐い。……校内でいなくなっちゃったんだよね。授業中」

ξ゚听)ξ「学校にペットを連れてくる方が悪い。
      というわけで聖徒会は協力しないわよ」

爪'ー`)「どっちにしろ探してくんないのかよう。
     なあ、普通の奴には頼めないんだよ。お前らにしかお願いできないんだって。
     なーいーとー」

( ^ω^)「……そこまで言うような理由があるんだおね?」

爪'ー`)「そう。さっすが内藤。出連は駄目でもお前なら聞いてくれると思ったよ。
     ……多分ね、他の奴らに見付かったら、犬が攫われちゃう。
     攫って、テレビか何かに売られちゃうかもしんない。
     だから、そうなる前に先に見付けてほしい」



28: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2010/10/27(水) 20:33:50.29 ID:o3KlAgq5O

ξ゚听)ξ「珍しい犬種、とか?」

爪'ー`)「珍しいっちゃあ珍しい。説明すんのが面倒臭いや。
     まあ、会えばすぐに分かると思う。
     明らかに変なところがあるから。見た目は普通だけどね」


 ――回想終わり――



(;^ω^)「……ということがあったんですお。
       僕はモララーさんとの話が終わってから探す予定で……」

(-@∀@)「ふうん。たしかに、あれが一般人に見付かったらまずいかもね。
      ……ところで」

(;^ω^)「は、はい?」

(-@∀@)「いなくなってしまったよ。喋る犬」

(;^ω^)「えっ」

 振り返る。
 子犬がいた場所には、その痕跡すら残っていなかった。



30: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2010/10/27(水) 20:36:49.18 ID:o3KlAgq5O



('A`)「あーあ。
    結局俺が1人で探すことになるわけね」

 ミルナから離れる様子がないツンを見限ったドクオは、溜め息をつきながら体育館を出た。
 後ろからミルナが助けを求めるような声が聞こえたが、無視しておく。

('A`)「……つってもなあ」

 しかし、どうしたものか。
 相手は生き物。同じ場所に留まるとは思えない。
 さらに言うなら、一度探した場所に後からやって来ることもあるだろう。
 最悪の場合、既に学校の敷地を出ている可能性だって有り得る。
 運に任せるしかないのだろうか。

('A`)「……罠でも仕掛けるか。どんなのにすりゃいいか分かんねえけど」

 校庭に出て、そこら中を歩いたり走ったり跳ねたりする二宮尊徳像達を眺める。
 ドクオの悩みなど関係なしに今日も自由に動き回っている彼らを見ていると、
 少し羨ましくもなる。



32: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2010/10/27(水) 20:39:34.49 ID:o3KlAgq5O

( <●><●>) スタスタ

( ><) コノホン、ムズカシインデス

(*‘ω‘ *) オバカダッポ

≡(*∵) ≡≡▼*・ェ・▼

(*∵)⊃▼*>ェ<▼「ぬおっ! 追いつかれちゃったのじゃ!」

▼*・ェ・▼「ようし、次はこっちが鬼なのじゃっ!」

ヽ(∵*)ノ ≡≡≡  ▼・ェ・*▼≡≡「待て待てーなーのじゃー」


(゚A゚)「いやあああああ喋る犬と鬼ごっこしてるぅうううううううううう!!!!!」


 走る二宮尊徳像、ビコーズ。
 七大不思議の彼は、さらなる不思議と遊んでいた。



35: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2010/10/27(水) 20:42:46.04 ID:o3KlAgq5O

▼#・ェ・▼「むう、うるさいのじゃ」

( ∵) ?

('A`)「ああごめん……びっくりしたもんで。
    だって犬が喋るなんて……」

(;'A`)「犬ぅ!!?」

▼・ェ・▼「何なのじゃ、こいつは」

┐( ∵)┌

(;'A`)「た、たしかに見た目は普通……、
    明らかに変なところがあるし、売れそうだ……。
    こっ、こいつか!? フォックスが言ってたのは――」
 _,
▼・ェ・▼「ふぉっくす!?」

 ぶつぶつと呟くドクオの言葉に、喋る子犬は過剰な反応を見せた。
 まだ立派とは言えぬ牙を剥き出しにし、後ずさる。
 _,
▼・ェ・▼「おぬし、フォックスの仲間か」

(;'A`)「な、仲間? 仲間ってもんじゃないと思うが……」



38: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2010/10/27(水) 20:45:25.16 ID:o3KlAgq5O

 _,
▼・ェ・▼「嘘つきなのじゃ!
     ああ、くさいくさい! 彼奴の臭いがするわ!」

(;'A`)「に、臭い?」
 _,
▼・ェ・▼「フォックスと一緒になって妹者を探しているのじゃろう!?
     嫌じゃ嫌じゃ、折角逃げたのに――」

 後ずさる子犬と、立ち尽くすドクオ。距離はどんどん開いていく。
 ドクオは、困惑しきっていた。
 精一杯威嚇している子犬の足が、震えているから。

 何だというのだ。
 フォックスに頼まれたから探していただけなのに。
 いざ犬を見付けてみれば、こんなに怯えている。

 喋るとはいえ、体は小さな小さな犬。
 見知らぬ人間である自分に恐怖を抱いてもおかしくない。
 しかし、この怯え方は、それとは違う。
 明らかにフォックスを嫌がっている。



39: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2010/10/27(水) 20:48:22.40 ID:o3KlAgq5O

(;'A`)「な、何なんだよ……」

 「ドクオ!」

 鋭い声。
 顔をそちらへ向ければ、体育館前の廊下、校庭側の窓を
 乗り越えようとしているツンの姿。

ξ゚听)ξ「その犬ね!? 今そっち行くから捕まえときなさい!」
 _,
▼・ェ・▼「――あの女もか!」

 子犬が、ツンとは逆の方へ駆け出した。
 走り慣れていないのだろうか、子犬にしたって、あまり速くないスピード。

 2人の距離は100メートル近く。
 ドクオが捕まえておかなくとも、ツンならば大丈夫だろう。
 これで、追い掛ける対象が犬ではなくビコーズだったならば、誰も追いつけない。

 ビコーズだったならば。

(;'A`)「……ビコーズ! 俺を乗せてあの犬を追い掛けろ!」

( ∵)

( ∵)) コクン



41: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2010/10/27(水) 20:51:33.44 ID:o3KlAgq5O

 ビコーズがドクオに背を向けた。
 背中の薪が椅子の形になり、そこへドクオが飛び乗る。
 ビコーズは一瞬力んで、すぐさま地を蹴った。

(;'A`)「あびゃぁっ!」

 ――その速度に、ドクオは悲鳴をあげる。
 振り落とされぬよう、ビコーズの肩にしがみつきながら必死に子犬に照準を合わせた。
 もう、犬は目の前だ。
 僅かにビコーズはスピードを落とした。

(;'A`)「おらぁ!!」

▼;・ェ・▼「!?」

 通り抜けざまに子犬に手を伸ばす。
 あっさり捕まった子犬は、ドクオを見て目を真ん丸にした。

▼#・ェ・▼「はっ、放すのじゃ! やめ――」

(;'A`)「あっ、暴れんな! 落ちる落ちる!」

 両腕を使って子犬を抱えてるために、ドクオはビコーズに掴まることが出来ない。
 ひどく不安定な状態で暴れられ、今にも落っこちそうだ。

(;'A`)「うーっ、でぇいっ!!」

 両足でビコーズを挟み込む。
 それを確認すると、ビコーズは再び速度を上げた。



42: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2010/10/27(水) 20:54:24.60 ID:o3KlAgq5O

ξ#゚听)ξ「ドクオ! どういうつもり!?」

 ビコーズのだいぶ後ろを走りながらツンが怒鳴る。
 ドクオは、びくりと肩を跳ねさせたが、ツンには答えずに前を向いた。
 そして、叫ぶ。

(;'A`)「ビコォォォズ! とにかく逃げろぉおおおおお!!」

 ビコーズへの命令。
 それは同時に、ドクオの意思をツンへ明確に知らせるもの。

 ドクオは、子犬と共にツンから――フォックスから逃げるつもりなのだ。

ξ#゚听)ξ「なっ――!」


(`∵)) コクンッ


 ビコーズが力強く頷く。
 そして、誰ひとり追いつけぬ速さで、校門を出た。



45: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2010/10/27(水) 20:57:20.21 ID:o3KlAgq5O


(;^ω^)「ドクオがわんこ連れてビコーズに乗って逃げたぁ!?」

 校舎、2階の廊下。
 内藤は携帯電話に、もとい携帯電話の向こうにいるツンに、素っ頓狂な声で言った。

ξ;--)ξ『理由は分からないわ。
      手柄を独り占めするつもりだとは思えないけど……。
      キュートのときみたいにならなきゃいいわね』

 ツンの口調は、苛立ちよりも当惑の色の方が強かった。
 何故ドクオがあんなことをしたのか、その理由に思い当たるものがないのだろう。

(;^ω^)「……可愛いから、欲しくなっちゃった、とか」

ξ゚听)ξ『あいつ、そんなに動物好きだったかしら?』

(;^ω^)「喋る犬が欲しかった、とか?」

ξ゚听)ξ『……喋る犬ぅ? 何よ、あの犬喋るの?』

( ^ω^)「知らなかったのかお?
       僕が見付けたときはめちゃくちゃ喋ってたお」

ξ゚听)ξ『あたしは遠目に見ただけだもの。
      喋る犬、ね。そりゃあ確かにフォックスの言う通り、
      見付かったらテレビにでも売る輩が――』



47: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2010/10/27(水) 21:00:35.21 ID:o3KlAgq5O

 ツンが言葉を切る。
 内藤は、ツン、と訝しげに名前を呼んだ。

ξ゚听)ξ『……まさか』

( ^ω^)「お?」

ξ゚听)ξ『あいつ、犬を売って金儲けする気じゃないでしょうね』

(;^ω^)「……それは……いや、ドクオはそんなこと……」

ξ゚听)ξ『だってドクオよ? あいつの欲望フルオープンぶりは半端じゃないわよ!』

(;^ω^)「……」

 ――そう言われると思い出す、ドクオの煩悩に溢れた行動の数々。

 二日に一度は男子トイレのクールの元へと足を運んで彼女の体を眺めつくし、
 女子生徒が階段を上っていればすかさず腰を思いきり屈めながらその下を歩く。
 ご自慢のビデオカメラには女性を盗撮したデータが大量に詰め込まれ、
 持ち物検査の際にわざとどぎついエロ本をさらけ出しては女教師の動揺する姿を堪能する。

 そんなとき、ドクオの顔は決まって表現できぬ気持ち悪さに満ち溢れているのだ。


( ^ω^)「って色欲しか見当たらないお」



49: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2010/10/27(水) 21:03:29.05 ID:o3KlAgq5O

ξ゚听)ξ『金持ち=モテる、とでも思ってるかもしれないわよ』

( ^ω^)「……」

 有り得る、という言葉は飲み込んだ。
 納得してしまいそうな自分と、納得したくない自分が戦争を開始する。
 聖徒会の仲間、そして昔から仲のいい大事な友達。
 そんなドクオの人間性を否定することはしたくない。
 したくないのだが。

( ^ω^)(有り得るわぁ……)

 戦争開始3秒で、納得したくない自分が白旗を振り上げた。
 それはそれは素晴らしい振りっぷりだった。

ξ゚听)ξ『何にせよ、まずはあいつを捕まえなきゃいけないわね。
      ブーンも探してくれる?』

( ^ω^)「勿論だお」

 それじゃあね、と言って、ツンが通話を切る。
 内藤は携帯電話をポケットにしまいながら難しい顔をして考え込んでいたが、
 すぐに表情を明るくさせた。

(*^ω^)「バッジで呼び出せばいいんだお!」

 ドクオはビコーズに乗って逃げたそうだ。
 ならば、ビコーズを呼び出せばきっとドクオもついてくる。



51: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2010/10/27(水) 21:06:41.33 ID:o3KlAgq5O

 そうと決まれば、と、黄色のバッジを取り出して頭上に翳した。

( ^ω^)「聖徒会執行部に告ぐ!
       西棟2階廊下にて事件発生!
       至急現場に来られたし!
       走る二宮尊徳像ビコーズ、
       召喚(ウェルカム)!!」


 ――返ってきたのは、沈黙。
 ビコーズが現れる気配はなく、ただただ間抜けな聖徒会長がそこにいた。

(;^ω^)「あっ、あれ、何で……? ……別に事件発生してないから……?」

( ФωФ)「もう忘れたであるかホライゾン君!」

(;゚ω゚)「ひゃわぁあっ!!」

 その瞬間、初老の男性が床から飛び出した。
 幽霊にして理事長。七大不思議が一つ、杉浦ロマネスクだ。
 尻餅をついてしまった内藤に、にんまりと笑顔を見せる。
 正直、「オジキ」的な呼び方が似合う顔をしている彼が笑っても恐いだけである。

( ФωФ)「これしきで驚くとは情けないのであるよ」

(;^ω^)「普通驚きますお!」



53: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2010/10/27(水) 21:09:29.36 ID:o3KlAgq5O

( ФωФ)「ま、それはさておき。
       バッジを使っても呼び出せぬ理由は、前に教えたであろう」

(;^ω^)(この人いつから見てたんだお……)

( ФωФ)「必要なのはバッジと『同意』である」

( ^ω^)「――あ、そうでしたお」

 たしかに以前、モララーを呼び出そうとしても呼び出せぬことがあった。
 そのときに、「相手にも都合があるから毎回来れるわけではない」と
 理事長から説明を受けたのだ。

(;^ω^)「……ってことは……」

 今、ビコーズは内藤に召喚されたくない理由がある。
 それは恐らく、ドクオのため。
 言ってしまえば、ドクオが内藤に会うのを拒否しているのと同じこと。

 その事実に、内藤は少なからずショックを受けた。
 ドクオが自分から逃げている。
 フォックスに頼まれた探し物――子犬を連れて。

 何故子犬と共に逃げているのかは知らないが、フォックスに渡すつもりはなさそうだ。
 つまり、依頼主を裏切っている。
 ひいては内藤とツンまでをも。



55: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2010/10/27(水) 21:12:24.31 ID:o3KlAgq5O

(;^ω^)「……どうして……」

 内藤の呟きは理事長にも聞こえぬほどの小ささで、すぐに空気へと溶けていった。








<_プー゚)フ「どうするんだ?」

ξ゚听)ξ「探すしかないでしょ。
      もう随分遠くにいるはずだわ。……ああ、もう!」

 ツンは頭を抱えた。
 あのビコーズのスピードで逃げたのだ。
 普通に追い掛けて捕まえられる筈がない。

ξ;゚听)ξ「――ああーっ、ここでぐだぐだしても仕方ないわ!
      エクスト! あんたは空飛んで、上から探すのよっ!」

<_プー゚)フ「把握!」



58: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2010/10/27(水) 21:15:27.42 ID:o3KlAgq5O

 エクストが上昇し、ツンが走り出す。
 いざ校門を出ん、というところで。

爪'ー`)y‐「出連、人魂。どうした?」

 依頼主が、ゆったりと歩み寄りながら声をかけてきた。

 ツンは立ち止まり、振り返る。
 相変わらず煙草を燻らせている彼を見て、眉間に皺を寄せた。

ξ゚听)ξ「あんたの言う犬を探しに行くのよ」

爪'ー`)y‐「おう、何だ、外に行っちまったのか? 妹者は」

ξ゚听)ξ「いもじゃ? 名前?」

爪'ー`)y‐「ああ。つっても、俺がつけたんじゃあないぜ」

ξ゚听)ξ「本人……本犬? が、言ったのね」

爪'ー`)y‐「もう喋るの分かったんだ?」

 小首を傾げ、煙を吐き出すフォックス。
 その煙がツンの口元を掠める。
 何だか癪に障って、ツンはフォックスを睨みつけた。

 こわいよう、とフォックスがおどけてみせる。



60: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2010/10/27(水) 21:18:28.76 ID:o3KlAgq5O

爪'ー`)y‐「……んはは。そう。あいつが自分のことを妹者って呼んだんだ。
      さっさと捕まえてくれよ? 俺の大事な犬っころなんだから。
      出来れば今日中、遅くて明日中でお願い。
      明後日から夏休みだしさ」

ξ゚听)ξ「……ふん」

 踵を返し、校門を出る。
 それを見送って、フォックスは、くつくつと笑った。

爪'ー`)y‐「かぁわいい」

<_プ−゚)フ「……」

爪'ー`)y‐「んぁ? どうした人魂、お前は行かないのか?」

 ふと上を見れば、エクストが浮かんだまま動かずにそこにいた。
 フォックスを見つめる顔に、いつもの能天気さはない。

<_プ−゚)フ「……いもじゃ?」

爪'ー`)y‐「妹者だよ。知ってんのかい」

<_プ−゚)フ「いもじゃ……」



63: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2010/10/27(水) 21:21:17.26 ID:o3KlAgq5O

 ――いもじゃなのじゃ。
 ――さすがいもじゃっていうのじゃ。


爪'ー`)y‐「……人魂くーん?」


 ――エクストさまなのじゃ!


<_プ−゚)フ



l从・∀・ノ!リ人

ζ(゚ー゚*ζ



<_プ−゚)フ「妹者。
       ――デレ」



 思い出した。



64: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2010/10/27(水) 21:24:23.10 ID:o3KlAgq5O



(;'A`)「ありがとうビコーズ……」

( ∵)⊃[どういたしまして]

 場所は鬱紫寺。ドクオの家。
 ここまで来れば一安心、とドクオはビコーズへお礼を言った。
 ビコーズは手に持った本に文字を浮かび上がらせ、返事をする。

▼・ェ・▼「……お寺なのじゃ?」

 ドクオに抱えられた子犬が、寺とドクオを交互に見遣った。

('A`)「ああ。俺の家だ」

▼・ェ・▼「……ここにフォックスが待っておるのじゃな?」

(;'A`)「だから、別にフォックスの仲間じゃねえよ。
    ただお前を探すように頼まれてただけだ」

▼・ェ・▼「頼まれたということは、後でフォックスに引き渡すのでは――」

(;'A`)「あああああ、面倒くせえ。
    お前がフォックスの所に戻りたくねえって言うから連れてきたんだろうが!」

▼・ェ・▼「……?」



66: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2010/10/27(水) 21:27:15.42 ID:o3KlAgq5O

(;'A`)「えーっと、あれだ、まずは事情を聞かせろ!
    それによってフォックスに渡すかどうか考える!」

▼・ェ・▼「――……」

 沈黙。
 見つめ合う。
 数秒程経過した後、吹き出す音で沈黙が破られた。

(;'A`)(犬も吹き出すんだ……)

▼*・ェ・▼「ふふふ、懐かしいことを思い出したのじゃ」

('A`)「懐かしいこと?」

▼・ェ・▼「秘密なのじゃ。
     ――お主は、あの人と似たようなことを言う。
     信用してやるのじゃ」

(;'A`)「……はあ。どうも」

 あの人、というのが一体誰のことなのやら、さっぱり見当はつかないが。
 信用してくれるに越したことはない。

( ∵)[たまには僕のことも思い出して下さい]



69: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2010/10/27(水) 21:30:51.27 ID:o3KlAgq5O



J( 'ー`)し「おかえり。
      おや、どうしたの、そのわんちゃん。二宮金二郎さんも」

 家に上がると、ちょうど廊下を歩いていた母親がドクオ達を見て目を丸くさせた。

('A`)「ただいま。犬は拾った。二宮はうちの学校の走る奴」

J(*'ー`)し「ああ、懐かしい。何年ぶりに会ったかしら。
      七大不思議の方だね? そんな凄い方がどうしてうちに……。
      もしかして友達がいなさすぎて、ついに石像さんと仲良くなったのかい?」

('A`)「カーチャン……この間またんき達紹介したじゃん……。
    まだ俺がパシリにされてると疑ってんの……?」

( ∵)[お久しぶりです。お邪魔します]

▼・ェ・▼「おっ邪魔しまぁす、のじゃっ」

(;'A`)「ばっ! 喋んなっつっただろ!」

 子犬はご丁寧に挨拶をして家の中へ入り込んだ。
 「犬が喋ったら家族がびっくりする」とドクオが事前に釘を刺しておいたにも関わらず。
 これにはドクオも思わず苦笑い。

('A`)「もう二度と、この犬に期待なんかしないよ!」



74: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2010/10/27(水) 21:33:32.46 ID:o3KlAgq5O

 しかし、母親の反応は彼が想像していたものと大いに食い違っていた。

J(*'ー`)し「まあまあまあまあまあ!
      おしゃべりできるわんちゃんなんて、むかぁし夜道で会ったとき以来だわ!
      あれは人面犬だったけど」

 順応した。

('A`)「……えぇ〜……」

( ∵)[えぇ〜]

J(*'ー`)し「可愛いわあ」

▼*・ェ・▼「よく言われるのじゃ」

 しゃがみ込み、子犬の頭を撫で回す。
 とても嬉しそうな顔で。

 ドクオの想像では、悲鳴をあげて驚愕する筈だったのだが――
 そんな様子など、欠片も見せず。

J(*'ー`)し「お名前は?」

▼*・ェ・▼「妹者なのじゃ」

J(*'ー`)し「妹者ちゃんだね。よぉしよし」

 じゃれ合う母と子犬を、ドクオは複雑そうな表情を浮かべながら見つめていた。



75: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2010/10/27(水) 21:36:37.61 ID:o3KlAgq5O

('A`)(こいつ、妹者っていうのか)

J(*'ー`)し「ドクオ、この子どうするんだい? 飼うのかい?」

('A`)「ん? ……あー……、飼う気は、ないけど。ていうか飼えないだろ。
    えーっと、あれだ。悪い奴に捕まりかけてたのを保護しただけ」

 まあ間違った説明ではないだろう、と判断し、そう言っておいた。
 フォックスが「悪い奴」なのかは、実際のところ分からないが。

J( 'ー`)し「あらまあ、良かったねえ妹者ちゃん」

▼・ェ・▼「うむ、助かったのじゃ」

('A`)「そうだ、もしかしたら、こいつを連れ戻しに来る奴がいるかもしれないから、
    そういう奴がうちまで来たら追い返すなり何なりしてほしいんだけど……。
    出来れば俺も犬も帰ってきてないことにしてくれ」

J( 'ー`)し「任せな。可愛いわんちゃんと息子ぐらい、カーチャンが守ってやるよ」

('A`)「……ありがとう」

( ∵)[格好良い]

 強気に頷く母は、息子よりも頼もしかった、と後にビコーズが語ったとか何とか。



78: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2010/10/27(水) 21:39:13.09 ID:o3KlAgq5O





('A`)「……カーチャン、俺達は帰ってないことにしてくれって言っただろ……」

J( 'ー`)し「あれまあ、それは、妹者ちゃんを連れ戻そうとする人が来たら、でしょ?
      ツンちゃんはドクオに会いに来たって言ってたわよ」

ξ#゚听)ξ「所詮は浅知恵ね、ドクオ」


 母は頼もしかったが、いかんせん息子の説明が足りなかった。
 ドクオの部屋の入口で、ツンは仁王立ちしながらドクオを睨みつける。

 ――ドクオに用があると訪ねてきたツンを母親があっさり家に上げたのは、
 ドクオが帰ってから1時間もしない頃であった。

( ∵)[早かったなあ……]



80: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2010/10/27(水) 21:42:47.36 ID:o3KlAgq5O

 _,
▼・ェ・▼「……フォックスの匂いがするのじゃ」

ξ#゚听)ξ「あの野郎、煙草の煙吹きかけてきやがったからね。
      ……本当に喋るのね、その犬ころ」

(;'A`)「ひっ、ひぃっ……! おいビコーズ、逃げっ……」

ξ#゚听)ξ「待ったぁっ!」

(;'A`)「あびゃあぁっ」

 ビコーズに飛び乗ろうとしたドクオに、ツンが玉串を投げ付けた。
 見事脳天に当たりドクオが床に転がる。

J( 'ー`)し「ドクオ、しっかりツンちゃんと話し合ったら?
      あんたは、たまに無理して1人で頑張ろうとするときがあるんだもの。
      ブンちゃんとツンちゃんに頼りっぱなしで気が引けるんだか何だか知らないけど」

ξ#゚听)ξ「おば様、もっと言ってやって下さいな」

J( 'ー`)し「もっと? うーん……ドクオの糞虫!」

(;A;)「実の母からの辛辣な罵倒に涙が出る」



82: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2010/10/27(水) 21:45:44.46 ID:o3KlAgq5O

ξ゚听)ξ「……ドクオ。その犬、どうしたいの?」

(ぅA;)「どうって……まだ決めてないけど。
    何か、やたらフォックスのところに戻りたがらないから、思わず」

▼;・ェ・▼「あ、彼奴の元に帰るのは嫌なのじゃ!」

 ドクオの陰に隠れ、妹者はきゅんきゅんと鳴いた。
 ツンは、じっとドクオと妹者を睨みつけ、

ξ゚听)ξ「――最初からそう言いなさいよ。
      私だって、事情を聞くぐらいするわ」

 と言って、溜め息をついた。

('A`)「キュートさんのときは問答無用で祓おうとしたくせに」

ξ#゚听)ξ「あ、れ、は! あの子が何も話そうとしなかったから!
      話しもしないことをどうやって聞けってのよ!」

(;'A`)「痛いっ!」

 先程ドクオに投げたおかげで玉串が手元になかったため、
 ツンはどすどすと部屋に乗り込みドクオの頭をひっぱたいた。



85: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2010/10/27(水) 21:48:18.67 ID:o3KlAgq5O

 にこにこと笑いながら2人のやり取りを見ていたドクオの母へ、ツンが向き直る。

ξ゚听)ξ「おば様、ブーンも呼んでいいかしら?」

J(*'ー`)し「あらあら、全然構わないよ。
      なんならみんな、うちでお夕飯食べていく?
      3人がうちに揃うなんていつぶりかしら」

ξ*゚听)ξ「……ん、なら御馳走になろうかな。おば様の料理美味しいし」

J(*'ー`)し「嬉しいこと言ってくれるじゃないの。
      今日のメインはね、鯖の味噌煮なの。ツンちゃん好きでしょ?」

ξ*゚听)ξ+「鯖味噌!」

J(*'ー`)し「デザートはブンちゃんの好きな林檎ゼリーにしましょう」

('A`)「俺の好物は?」

J( 'ー`)し「あんたって何が好きだったっけ?」

('A`)「ねえ、カーチャンは俺よりもブーンとツンの方が好きなの?」

J( 'ー`)し「そういえば、ドクオもうちでお夕飯食べていくの?」

('A`)「何? 実は俺はカーチャンの子供じゃないの? 拾われた子なの?」



87: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2010/10/27(水) 21:51:23.63 ID:o3KlAgq5O



 約30分後。
 ツンに呼ばれた内藤も鬱紫寺にやって来た。
 室内で、内藤、ツン、ドクオに妹者、そしてビコーズが円になるように座っている。

ξ゚听)ξ「あんたさ、乙女がいるってのにエロ本やAVを片付けもしないってどういうこと?」

('A`)「乙女? どこにいんの?
    ああ、顔赤くしてエロ本から目逸らしてるブーンのこと?」

(;*^ω^)「あうあう」

ξ#゚听)ξ「こっちよ! ここにいるでしょ、か弱くて可愛らしい乙女が!」

( ∵)[乙女は美少年にセクハラしません]

▼・ェ・▼「せーく、はら? って何じゃ?」

( ∵)[セクシャルハラスメント]

ξ゚听)ξ「そこのキモ面が詳しいわ」

('A`)「俺がしているのは『嫌がらせ』ではない。
    深い愛情でもって愛でているだけだ」



89: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2010/10/27(水) 21:54:17.79 ID:o3KlAgq5O

(;^ω^)「……いいから、この……妹者ちゃん、だっけ?
       妹者ちゃんの話、聞こうお」

 内藤が宥め、ツンとドクオの睨み合いが終わる。
 ほっと息をついた内藤は、口元を緩めて妹者を呼んだ。
 内藤の傍に歩み寄ってきた妹者を抱え、膝の上に乗せる。

(*^ω^)「可愛いお。ちっちゃいお」

▼*-ェ-▼「むー」

 妹者の頭や背中を撫で、内藤はご満悦の様子。
 隣で、ツンが羨ましげに妹者を見ているのには気付いていない。

( ^ω^)「それで……うーん、何から訊こうかお」

( ∵)[いきなりで悪いんだけど、僕、今の状況よく分かってない]

('A`)「あー、そういやビコーズに説明すんの忘れてた。えーっと」

( ∵)[三行で]

('A`)「・フォックスが妹者拾う
    ・妹者逃走したのでフォックスが俺らに捜索願い
    ・妹者がフォックス嫌ってる」

( ∵)[把握]



95: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2010/10/27(水) 21:58:08.56 ID:o3KlAgq5O

ξ゚听)ξ「じゃあ、まず一番気になることから。
      あんたって普通の犬なの? 何故か喋るけど」

▼・ェ・▼「妹者は犬じゃないのじゃ」

( ^ω^)「どう見ても可愛いわんこだお?」

▼・ェ・▼「体はそうだけどっ、妹者は人間じゃ!」

('A`)「犬じゃん」

▼#・ェ・▼「だからー、」

( ∵)[取り憑いてるってこと?]

▼・ェ・▼「? 何て読むのじゃ」

ξ゚听)ξ「『とりついてる』、よ」

▼・ェ・▼「よく分からんのじゃ……」

ξ゚听)ξ「……ブーン、貸して」

( ^ω^)「お?」

 ツンが左手で妹者を掴む。
 そして、右手に玉串。



97: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2010/10/27(水) 22:01:10.92 ID:o3KlAgq5O

(;'A`)「おまっ、子犬相手に玉串アタックかます気か!?」

(;^ω^)「駄目! 駄目だおおおお!」

(;∵)[動物虐待! 動物虐待!]

ξ;゚听)ξ「……んなわけないでしょうが」

 こつん。
 子犬の額に、玉串が軽くぶつかった。

 ――瞬間。

l从>д<ノ!リ人「のわっ!」

 白い着物を着た、小学校低学年ほどの少女が子犬の体から抜け出した。
 床に転がり、額を摩る。

l从・∀・;ノ!リ人「な、何じゃ今の……」

('A`)「ふうん、幼女の霊が取り憑いて喋ってたわけだな」

l从・∀・ノ!リ人「……ぬっ!? 妹者の体なのじゃ! 犬は!?」

 少女――妹者は、自分の手や足を見下ろし、頭上にクエスチョンマークを浮かばせたが、
 ツンの左手で眠る子犬を見て理解したようだ。



98: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2010/10/27(水) 22:04:19.24 ID:o3KlAgq5O

l从・∀・ノ!リ人「おお……その棒っきれでつっつかれたせいなのじゃ?」

ξ゚听)ξ「その通り。あなた、幽霊なのね?」

l从・∀・ノ!リ人「ばれてしまっては仕方ないのじゃ」

ξ゚听)ξ(この格好……死に装束かしら?)

 ツンが子犬を内藤に返す。
 すやすや眠る子犬を膝に乗せ、内藤は妹者を見た。

( ^ω^)「妹者ちゃん、どうしてこのわんこに入ってたんだお?」

 妹者はドクオとビコーズの間に座り、真剣な表情をして口を開く。

l从-∀-ノ!リ人「……気が付いたらのう、妹者は知らない場所にいたのじゃ」

('A`)「知らない場所?」

l从・∀・ノ!リ人「おーっきな、鉄で出来た、ひろーい橋の所」

( ^ω^)「大きな……ヴィップ橋かお? 隣の町に続いてるやつ」

l从・∀・ノ!リ人「びっぷばし? 名前は知らぬが……橋の下が深そうな川で……」

ξ゚听)ξ「ならヴィップ橋よ。
      ……気付いたらそこにいたってことは、橋に何か因縁があるのかもね」



102: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2010/10/27(水) 22:07:34.66 ID:o3KlAgq5O

( ^ω^)「でも知らない場所だって……」

( ∵)[ヴィップ橋は、40年ぐらい前に今みたいな大きな橋になったんだよ]

 首を傾げる内藤に、ビコーズが答える。

('A`)「あ、そうか……じゃあ妹者は、それより前に死んだんだな」

l从・∀・ノ!リ人「んー?」

ξ゚听)ξ「橋に思い当たること、何かある? 思い出、とか、そこで死んだ、とか」

l从・∀・ノ!リ人「橋……」

 妹者は黙り込み、着物の袖を噛み始めた。
 眉を寄せ、「うー」と唸る。

( ^ω^)「言いたくないならいいお」

l从・∀・ノ!リ人「……ん、ごめんなさいなのじゃ」

('A`)「とりあえず、何かしら橋に関する記憶はあるんだな?」 

l从・∀・ノ!リ人「うむ。妹者の知ってる橋は、だいたい木で出来てたのじゃ。
       橋の下は深い、崖っぷちになっておった」

( ∵)[だいぶ昔だね。80年ぐらい前までの橋だよ、それ]

(;^ω^)「80年!」



103: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2010/10/27(水) 22:10:25.26 ID:o3KlAgq5O

( ∵)[当時、この町と隣町は深い谷で隔てられてたんだ。
    隣町っていうか、隣町に続く山。
    その山と、この町を橋で繋いでた]

('A`)「山なんてあったのか」

( ∵)[あまり大きな山ではなかったけどね。
    今のヴィップ橋になるときに開拓したんだ。
    それと谷の端の方を埋め立てて、電車の通る線路も作った。
    そうなるまでは、今ほど隣町との交流はなかったなあ。
    橋と電車のおかげで人の行き来が増えたんだ]

ξ゚听)ξ「つまり、この子の知ってる橋とヴィップ橋は同じってことね」

( ∵)[多分。
    時が経つにつれ土砂や雨水とかが溜まりに溜まって
    今じゃ橋の下は少し深い川みたいになってるけど、
    昔は本当に断崖絶壁って感じだったよ。
    底の底に急流があって、とても危険な場所だった]

l从・∀・ノ!リ人「……じゃあ……この町、妹者が昔住んでたところ……」

( ^ω^)「そうなのかお?」



104: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2010/10/27(水) 22:13:20.46 ID:o3KlAgq5O

l从・∀・;ノ!リ人「のっ、のう! この町に、教会はあるのじゃ!? 神社は!?」

( ^ω^)「あるお」

ξ゚听)ξ「こいつが教会の息子で、私が神社の娘」

l从・д・;ノ!リ人「……はちじゅーねんという時間は、とっても長いんじゃなあ……」

 ぽかんと口を開け、妹者が固まる。
 それからまじまじとツンを見て、頷いた。

l从・∀・ノ!リ人「……たしかに、デレに似てるのじゃ」

ξ゚听)ξ「デレ?」

l从・∀・ノ!リ人「おぬしの先祖に、デレという者がいるじゃろう?」

ξ゚听)ξ「……どうだろ、分かんないわ」

l从・∀・ノ!リ人「いるはずなのじゃ。
       妹者は、デレと仲が良かったのじゃ」

 しみじみと呟き――妹者は、はっとして内藤を見た。

l从・∀・;ノ!リ人「ちょっと待つのじゃ。80年ってことは……でも、だって、……そんな」

( ^ω^)「どうしたお?」



107: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2010/10/27(水) 22:16:41.43 ID:o3KlAgq5O

l从・∀・;ノ!リ人「き、教会に、100歳を超える男はおらぬか?」

('A`)「いないいない」

ξ゚听)ξ「さすがにそこまでの御長寿さんはねえ」

(;^ω^)「今の教会にいるのは、僕と、僕の両親だけだお」

l从・∀・;ノ!リ人「む、むうぅっ……じゃ、じゃあ、おぬしの先祖に、神父は……」

ξ゚听)ξ「こいつのご先祖様は至って普通の一般人よ」

('A`)「神父ってのは結婚出来ないんだ」

( ^ω^)「教会は僕の父の知り合いの持ち物で、父が住み込みで管理してるんだお」

l从・∀・;ノ!リ人「う、うー、そ、その知り合いとやらが100歳を超えて……」

( ^ω^)「ないお」

l从>д<;ノ!リ人「もー! わっかんないのじゃあー!」

ξ;゚听)ξ「分かんないのはこっちよ、ちょっと落ち着きなさい」

 頭を抱え、仰向けに倒れる妹者。
 ばたばたと足を暴れさせ、苦悩するように叫ぶ。
 それをツンが宥めて抱き起こした。



108: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2010/10/27(水) 22:19:59.24 ID:o3KlAgq5O

ξ゚听)ξ「一旦整理してみましょう。今まで何してたの?」

l从・∀・;ノ!リ人「い、妹者、妹者は、橋で目を覚ましてから、ずっと逃げておったのじゃ」

( ∵)[にげるって、なにから?]

l从・∀・;ノ!リ人「よく分からんのじゃ。なんだかとっても恐い感じがしたから、
        それから離れたかったのじゃ。
        ……でも、妹者が逃げても逃げても、それは近付いてきよる。
        とーっても、こわかったのじゃ」

ξ゚听)ξ「……それから?」

l从・∀・;ノ!リ人「妹者、何かに隠れれば、きっと恐いやつに見付からないと思ったのじゃ。
        そしたら、ちょうど、その犬が道に捨てられてて……」

 右手でこめかみを押さえ、左手で内藤の膝で眠る子犬を指差した。
 混乱する頭で、必死に言葉を探す。

l从・∀・;ノ!リ人「だから犬の中に隠れてみたのじゃ。それで、もう大丈夫って安心したら、
        今度は、妹者の、大好きな人の気配がしたのじゃ!」

( ^ω^)「それは、君が生きてた頃に仲が良かった人かお?」

l从・∀・*ノ!リ人「そうなのじゃ! 二日ぐらいしか話したことはないけど、
        やさしくって、おもしろくって、妹者と遊んでくれた人……」



109: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2010/10/27(水) 22:22:23.77 ID:o3KlAgq5O

('A`)「その人の気配がした、と」

l从・∀・ノ!リ人「なのじゃ。だから妹者、その人に会いたくって、
       あちこち走り回ったのじゃ」

ξ゚听)ξ「……その人、80年前の人なんでしょ?
      生きてるのかしら?」

('A`)「当時10歳以下だったなら、可能性は……」

l从・∀・ノ!リ人「あの人は大人だったのじゃ。20はとうに超えておった」

ξ゚听)ξ「じゃあ高確率で死んでるわ」('A`)

l从・∀・;ノ!リ人「だってだって、気配がしたもんはしたんじゃー!」

 ばっさり切り捨てるツンとドクオに、妹者が反論する。
 内藤は、そっと溜め息をついた。

 妹者が混乱しているのは、このせいだろう。
 大好きな人の気配がしたから探していたのに、その人は生きていなかった。

 それへのショックやら何やらで、パニックになってしまったのかもしれない。



111: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2010/10/27(水) 22:25:35.90 ID:o3KlAgq5O

 こつこつ、ビコーズが本を叩く。
 その音につられてビコーズへ視線を向けると、

( ∵)[ゆうれいになってるんじゃない?]

 という字が、ビコーズの本に浮かび上がった。

l从・∀・ノ!リ人「ゆーれー……」

ξ゚听)ξ「ま、そんなところでしょうね」

('A`)「その辺で浮遊霊やってるかもな」

l从・∀・ノ!リ人「……うー」

( ^ω^)「それで……続き、話してくれるかお?」

l从・∀・ノ!リ人「……うむ。
       走り回って、見付からなくて、『どーしよー』って、妹者呟いたのじゃ。
       それを、フォックスに見られて……」

ξ゚听)ξ「捕まったのね」



112: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2010/10/27(水) 22:28:33.38 ID:o3KlAgq5O

l从・д・#ノ!リ人「彼奴……嫌な匂いがするし、いじめるし、
        ずーっと妹者を観察してくるのじゃ!
        しかも、がっこーに妹者を連れてって、
        友達に見せびらかすつもりだったのじゃ!
        何のために隠れたか分からんではないか!」

 ぷんすか怒りながら妹者が喚く。
 その言葉を脳内で反芻し、ドクオは表情を奇妙なものにした。

('A`)「……じゃあ、犬から離れて新しい隠れ場所探せば良かったんじゃないか?」

l从・д・#ノ!リ人

l从・д・ノ!リ人

l从・∀・ノ!リ人

l从・∀・ノ!リ人「ほんとだ……」

(;^ω^)(気付かなかったのかお……)

(;'A`)「……俺は、そんな単純なことに必死になってたのか……」

 ――ひとまず、フォックスとの問題には一応の解決策を見出だした。
 事情を説明して諦めてもらうことにする。
 諦めなければ力付くで諦めさせる、とツンが自信満々に宣言した。



121: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2010/10/27(水) 22:47:08.05 ID:o3KlAgq5O

( ^ω^)「わんこはどうするかおー」

▼-ェ-▼ zzz

 次の問題は、妹者が体を借りていた子犬。
 内藤は、子犬を見下ろして溜め息をついた。妹者の話通りならば捨て犬なのだ。
 元いた場所に、というわけにもいくまい。

( ∵)[誰か飼える人はいる?]

('A`)「うちは、親父が動物苦手」

( ^ω^)「庭で葱育ててるから、わんこが間違って食べちゃいそうで危ないお……」

ξ゚听)ξ「……一旦、うちで預かるわ」

( ^ω^)「おっ?」

ξ゚听)ξ「飼うかどうか分かんないけど。
      明日学校で引き取り手探して、見付からなかったら、うちで飼うわよ」

(*^ω^)「それがいいお!」

l从・∀・ノ!リ人「やっぱりデレの子孫じゃのう、優しいのじゃ」

ξ;゚听)ξ「そのデレって人は知らないけど」



124: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2010/10/27(水) 22:50:38.21 ID:o3KlAgq5O

l从・∀・ノ!リ人「んー、しかし……あの人は、どこにいるんじゃろうなあ……。
       気配はするというのに」

('A`)「妹者の『大好きな人』か?」

l从・∀・ノ!リ人「なのじゃ。また会いたいのじゃ。
       ――エクスト様……」


( ^ω^)

ξ゚听)ξ

('A`)

( ∵)

( ^ω^)「えく、」

ξ゚听)ξ「すと……」

('A`)「……さ」

( ∵)[ま?]


 思いも寄らない名前に、全員の思考が止まった。



128: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2010/10/27(水) 22:53:28.60 ID:o3KlAgq5O

l从・∀・*ノ!リ人「教会に住んでた、とってもとっても優しい人だったのじゃ」

ξ;゚听)ξ「えっ……エクストぉおお!?」

l从・∀・;ノ!リ人「のじゃっ!?」

▼;・ェ・▼ そ ギャインッ!?

 ツンの絶叫に子犬が跳び起き、部屋の隅に逃げていく。
 内藤は震える子犬を追い掛け、優しく抱き上げた。

(;^ω^)「よ、よしよし……」

▼;・ェ・▼ !? !?

ξ;゚听)ξ「エクストって……あのエクスト!?」

(;'A`)「何で様付け!?」

l从・∀・;ノ!リ人「何でって、町を守ってくれる、とっても偉い人だったから……。
        おぬしら、エクスト様を知っておるのか?」

(;'A`)「知ってるよ! すげえ知ってるよ!」

(;∵)[エクスト、昔の教会の主だったのか……]

(;^ω^)「予想外すぎるお……」



131: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2010/10/27(水) 22:56:25.26 ID:o3KlAgq5O

l从・∀・*ノ!リ人「エクスト様の知り合いなんじゃな? 会わせてほしいのじゃ!」

ξ;゚听)ξ「……明日、学校に行けば会えるんじゃないかしら」

l从・∀・*ノ!リ人「行く、がっこー行くのじゃー!」

 ぴょんぴょん跳ねる妹者。
 よほど「エクスト様」が好きなのだろうが、
 一同は信じられない思いで妹者を眺めていたのであった。





 その後、夕飯を御馳走になった内藤とツンは、帰途についた。
 子犬はツンの腕の中。

 ビコーズは学校へ戻り、
 妹者は、ドクオの元に残った。
 エクストに会えるのを、今か今かと心待ちにしている。



135: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2010/10/27(水) 22:59:16.38 ID:o3KlAgq5O


 そのエクストは。

 全てを思い出し、ヴィップ橋に佇んでいた。




<_フ − )フ



 その姿は、いつもの丸っこい形ではない。

 人間の体。

 30歳になるかならないかの若い男。

 暗闇と同化しそうなほどに真っ黒なキャソックを、その身に纏っていた。



136: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2010/10/27(水) 23:03:28.41 ID:o3KlAgq5O



 ――深夜、VIP高校。

 保健室の窓の外に、ある男が立っている。
 しばし考え込んでいる様子で身じろぎもせずにいた男は、不意に窓ガラスに手を触れた。

 そのままガラスを撫で――

 するりと、手を通り抜けさせた。









 翌朝。
 ドクオについてきた妹者は、学校に着くなり嫌そうな顔をした。

 フォックスと鉢合わせたのだ。

l从・д・#ノ!リ人「ぬわー! フォックスじゃ、フォックスなのじゃあ!」

爪'ー`)y‐「おはよう鬱田。そのガキ誰? うるさいんだけど」



140: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2010/10/27(水) 23:06:24.90 ID:o3KlAgq5O

(;'A`)「妹者だよ」

爪'ー`)y‐「妹者ぁ? 犬じゃないじゃん」

('A`)「あの犬に、妹者……この子が入ってたんだよ。
    だから喋ってたの」

爪'ー`)y‐「えー、そうなの? 妖怪じゃないのかよー。
      で、犬は?」

('A`)「ツンが――」

ξ゚听)ξ「あら、おはよう」

 そこへ、子犬を抱えたツンが現れる。
 フォックスは子犬を見るなり頬を緩め、駆け寄った。

爪*'ー`)y‐「妹者!」

l从・∀・#ノ!リ人「妹者はこっちじゃ!」

▼・ェ・▼ ?



141: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2010/10/27(水) 23:09:17.15 ID:o3KlAgq5O

ξ゚听)ξ「あっ」

 ツンの腕から子犬を取り上げ、高く掲げてフォックスが笑う。

爪*'ー`)「可愛いなあ可愛いなあ」

▼*・ェ・▼ キュンキュン

ξ゚听)ξ「……」

('A`)「……」

l从・д・#ノ!リ人「それ! それ高くて恐いのじゃ! やめてあげ……
        ……って何故喜んでおるのじゃ犬っころ!」

爪*'3`)「ちゅっちゅ」

▼*>ェ<▼ クゥーン

l从・д・#ノ!リ人「それも気味が悪いからやめ……だから何故喜ぶのじゃ犬!?」

 全力で子犬を可愛がるフォックス。
 唖然としていたツンが我に返り、恐る恐る声をかける。

ξ;゚听)ξ「……フォックス、ちょっといい?」

爪*'ー`)「何? あ、見付けてくれてありがとうな」



143: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2010/10/27(水) 23:12:44.43 ID:o3KlAgq5O

ξ;゚听)ξ「その犬、もう、ただの普通の犬よ? 喋らないのよ?
      分かってる?」

爪*'ー`)「分かってるよ、幽霊が憑いてたんだってな。
     喋らないのは残念だけど、まあ可愛いのは確かだし」

(;'A`)「……お前さ、犬に意地悪とかしてた?」

爪*'ー`)「するわけないじゃん」


 ――昨日、妹者は、

l从・д・#ノ!リ人『彼奴……嫌な匂いがするし、いじめるし、
        ずーっと妹者を観察してくるのじゃ!
        しかも、がっこーに妹者を連れてって、
        友達に見せびらかすつもりだったのじゃ!
        何のために隠れたか分からんではないか!』

 こう言っていた。



145: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2010/10/27(水) 23:15:26.54 ID:o3KlAgq5O

 だが、現状を見るに――


 いじめる
  →全身全霊で可愛がってた

 ずっと妹者を観察してくる
  →世話をして、目が離せなかった

 妹者を友達に見せびらかすつもりだった
  →ペット自慢


ξ;゚听)ξ(;'A`)(こいつ犬が大好きなだけだ―――――――!)


 多分、そういうことなのだろう。

爪*'ー`)「可愛いなー。妹者ー」

l从・∀・#ノ!リ人「妹者は、こっち!」

爪*'ー`)「ああそうだった。じゃー、お前は……ビーグルだ! ビーグルー」

▼*・ェ・▼ キャイーン

 フォックスの可愛がり方が妹者にとっては嫌がらせでしかなかった、それだけ。
 単なるすれ違い。



148: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2010/10/27(水) 23:18:19.39 ID:o3KlAgq5O

 子犬は、もうすっかりフォックスに懐いたようだった。

ξ゚听)ξ「あんた、そいつ飼う?」

爪*'ー`)「飼うよ。必要なものも、昨日やっと揃えたし」

(;'A`)「……よかったですね」

爪*'ー`)「おう!」



≡≡(*∵) ≡≡▼*・ェ・▼

 犬が再び迷子にならないよう、下校時間までビコーズに任せることにして。



( ^ω^)「フォックスが引き取ってくれるのかおー」

ξ;--)ξ「気ぃ抜けたわ……妹者の話を聞いて、てっきり悪者だと思ってた」

 教室に入ったツンは、既に着席していた内藤に先程のことを説明した。
 内藤は、嬉しそうに笑う。

(*^ω^)「いい人で良かったお。
       ――そういえば、妹者ちゃんは?」



151: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2010/10/27(水) 23:21:17.23 ID:o3KlAgq5O

ξ゚听)ξ「1人で動き回って迷われても困るから、ドクオの教室に行かせたわ。
      放課後になったらエクストと会わせなきゃね」

( ^ω^)「エクストが生きてる頃の記憶を取り戻せるかもしれないお」

ξ゚听)ξ「そうね……」

( ^ω^)「……」

 内藤には、気になることがあった。

 エクストと初めて会い、七大不思議のバッジを集めに行った、あの日。
 エクストの歌を聞いたモナーは、内藤に、

 下手をすれば、悪霊になるかもしれない。

 と耳打ちした。

 きっと、生前のエクストに何かあったのだろう。
 その、ひどく寂しい「何か」がエクストの中に甦れば。

( ^ω^)(……悪霊に、なる……?)

 果たして妹者と会わせていいものか、内藤は悩んだ。

 今日の日程は終業式のみ。
 それが済んだら、もう放課後になってしまう。
 悩める時間は、せいぜい1時間程度。



153: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2010/10/27(水) 23:24:58.22 ID:o3KlAgq5O

 終業式の後は、誰もが心待ちにする夏休みの始まりだ。
 だが、内藤だけは、終業式が長引けばいいのにと考えていた。








( ФωФ)「さあ、明日からは楽しい夏休みである!
       1年生は高校初めての夏休み、2年生は気楽な夏休み、
       3年生は受験でそれどころではない夏休み!
       各々、勉強や部活や遊びに励むであるよ」

 体育館。
 幽霊が壇上に立つ終業式なんて、この学校でしか見られない。

( ФωФ)「――で、最後に注意を一つ。みんな、よく聞くであるよー」

 理事長は咳ばらいをし、話を続けた。
 その内容はダイオードやジョルジュの前に現れた男について。

( ФωФ)「最近、変な男が町に出没しておるらしい。
       『流石』と名乗る男である。
       もし、そんな男に話し掛けられても決して――」



155: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2010/10/27(水) 23:27:51.41 ID:o3KlAgq5O

l从・∀・ノ!リ人「……流石?」

('A`)「どうした?」

 ずらりと並ぶ生徒の列。
 ドクオの隣に立ち、退屈そうにしていた妹者は、
 理事長の口から出た名前を聞いて顔を上げた。

l从・∀・ノ!リ人「流石と言ったか?」

('A`)「ああ。知ってんのか?」

l从・∀・ノ!リ人「知ってるも何も……」

 だが、「流石」の名に反応したのは妹者だけではなかった。

 突然、体育館の中がざわざわと騒がしくなる。
 その原因は次々と口を開く大勢の生徒や教師達だった。

 いわく、「自分も、流石という人に声を掛けられた」と。

(;ФωФ)「えっ、ちょ、え、mjd?
       そんっ、え……ちょっ、流石って男と話をした人、手ー挙げてっ!」

 うろたえる理事長の掛け声に対し、一斉に何本もの手が挙がる。
 「流石」と会話をしたという者は、全体のほぼ3分の1であった。

 その多さに、さらに館内は騒がしくなる。



157: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2010/10/27(水) 23:30:39.33 ID:o3KlAgq5O

(;ФωФ)「ちょっと、静かに、静かにするである!
       はい、君! とりあえずそこの君!」

(゚、゚トソン「はい?」

 最前列で手を挙げていた合唱部部長の傍に移動し、理事長はマイクを向ける。

(;ФωФ)「君も流石に声を掛けられたのであるな?
       いつ? どんな内容であった!?」

(゚、゚トソン「2週間ほど前に……。
     迷ってしまったから、道を教えてほしいと。
     別に変な人という感じはしませんでしたが」

(;ФωФ)「何と……」

 あちこちから、自分も同じだと声が上がる。

 だが、ダイオードとジョルジュに対しては、そんな和やかな話題ではなかった。
 何故2人だけ奇妙な話を振られたのか――いや、
 そもそも、道案内を頼まれた者が多すぎる。
 全て本当ならば、流石はどれだけの方向音痴なのだ。

 流石が知りたかったのは、きっと道ではない。

(;ФωФ)「それ以外には何か話したであるか!?」

(゚、゚トソン「雑談程度ですが」



158: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2010/10/27(水) 23:33:40.57 ID:o3KlAgq5O

(;ФωФ)「どんな?」

(゚、゚トソン「ええと――VIP高校の生徒なのか、と訊かれました。
     そうですと答えれば、勉強頑張ってね、と普通に返されました。
     それで終わりです」

 マイクからスピーカーを介し、彼女の声が館内に響く。

(;ФωФ)「……同じようなことを訊かれた者は?」

 理事長の問いに、流石と話をした殆ど全員が、再び手を挙げた。
 きっと、覚えていない者や、面倒臭がって手を挙げていない者もいる筈。
 実際はもっと多いだろう。

(;ФωФ)(目的はそれであるか……!)

 ダイオードの話では、流石は質問だけして答えも聞かずに「分かった」と言ったらしい。

 恐らく、人の心や記憶を読めるのだ。
 流石のする質問は、記憶を刺激し呼び起こさせるための「きっかけ」に過ぎない。

 ならば、流石が道案内のついでにした「VIP高校の生徒か」という質問は、
 生徒達の中の学校についての記憶を知りたいがためのもの。

 流石は、学校の情報を集めている。
 ――何のために?

(;ФωФ)(嫌な予感がするのである……!)



162: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2010/10/27(水) 23:36:15.79 ID:o3KlAgq5O

(;^ω^)「何なんだお……」

ξ゚听)ξ「なんか、面倒臭いことになりそうね」


(;ФωФ)「……ともかく、済んでしまったことは仕方がない。
       みんな、これから道端で見知らぬ男に話し掛けられたら警戒するように!
       良いであるな!
       ――終業式はこれで終わりである。
       放課後、聖徒会の3人は聖徒会室に集まってくれ!」






 終業式が終わり、各自教室に戻る。
 夏休みを迎える楽しみよりも、強い不安が皆の心に浮き上がっていた。

(;^ω^)「……流石……」

ξ゚听)ξ「目的は何なのかしら」

 夏休みに関する説明をする担任の声も、内藤とツンの耳には入ってこない。
 理事長が感じていた嫌な予感が、2人にも襲い掛かる。



164: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2010/10/27(水) 23:39:46.00 ID:o3KlAgq5O

 流石が善人な筈がない。
 ジョルジュに呪いを教え、ダイオードにツンを犠牲にしろと入れ知恵した。
 確実に悪意がある。

 そしてその悪意は、学校を巻き込もうとしている――

 不安と恐れに、内藤は身震いした。


   「それでは、以上。良い夏休みを送るように」

 担任はそう締め括り、教室を出ていった。
 先程まで若干の怯えを見せていたものの、いざ夏休みを迎えると
 テンションが上がったようで、途端に歓声を上げる生徒達。
 我先にと教室を飛び出していく。

 内藤とツンは顔を見合わせ、同時に溜め息をついて席を立った。





('A`)「おう、来たか」

l从・∀・ノ!リ人「待ちくたびれたのじゃー」

 聖徒会室に行くと、既にドクオと妹者がいた。
 適当に挨拶をし、ツンは机に目を向け――首を傾げた。
 各自の机に、何かが乗っている。



166: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2010/10/27(水) 23:42:46.46 ID:o3KlAgq5O

ξ゚听)ξ「何これ?」

 見れば、丁寧に畳まれた衣服。
 その上に貼り付けられた『着てみてほしいのである』と書かれたメモ。

('A`)「俺のは袈裟だった」

l从・∀・ノ!リ人「おもそーなのじゃ……」

 そう言って、ドクオは自分の机に上がっていた服を広げた。
 黒と青を基調とした袈裟だ。

( ^ω^)「僕のは……キャソックかお」

 内藤が持つのは、真っ白なキャソック。

ξ゚听)ξ「ってことは私のは……」

 白に真紅の色が映える、巫女装束。
 各人の家に合わせた衣装のようだ。
 恐らく、というより間違いなく理事長が用意したのだろう。

(;^ω^)「着ればいいのかお……」

('A`)「ちょっと着てみたい気はする」

 そうと分かれば、とツンが内藤とドクオを廊下へ閉め出す。
 聖徒会室の中でツン、廊下で男2人が着替えを始める。



168: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2010/10/27(水) 23:45:52.86 ID:o3KlAgq5O

 ちょっと時間を進めて。

ξ;゚听)ξ「動きづらいわ……」

(;'A`)「重い。暑い」

(;^ω^)「たしかに暑いお……」

l从・∀・*ノ!リ人「かっこいーのじゃー!」

 着替えが完了した3人は、だらだらと汗を流していた。
 この季節に着るには、たしかに暑い。
 だが、様にはなっている。

(;^ω^)「何でこんなものを……」

l从・∀・ノ!リ人「ブーンの服は、エクスト様のに似てるのじゃ。
       エクスト様は黒かったけど――ってエクスト様はどこなのじゃ?」

( ^ω^)「あ、そういえば、エクスト来てないお」

('A`)「まだ校内散策してんのかもな」

ξ゚听)ξ「……」

 ツンが、はっとした顔をする。
 それに気付いたドクオが「どうした」と問うと、ツンは申し訳なさそうに口を開いた。



171: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2010/10/27(水) 23:48:32.30 ID:o3KlAgq5O

ξ;゚听)ξ「そういや、昨日……妹者を探すために校門で別れたのよ」

(;^ω^)「エクストが外に出たのかお?」

ξ;゚听)ξ「もしかしたら、まだ外にいるかも……」

l从・∀・;ノ!リ人「ナンジャッテー」

 いかにもがっかりした様子で妹者が肩を落とす。
 その小さな背を叩き、内藤が慰める。

(;^ω^)「まあ、一緒に探しに行くお」

l从・∀・;ノ!リ人「……妹者、あんまり外を歩き回りたくないのじゃ。
        恐いやつに会いそうで……」

 「恐いやつ」。
 妹者が、逃げるために子犬に憑依したほど恐ろしい何か。

(;^ω^)「……その恐い奴にエクストが会ったら……」

ξ;゚听)ξ「うっ……」

 内藤達には、その恐い奴の気配とやらが分からない。
 もしかしたら、幽霊にだけ感じ取れるのではないかと内藤は推理する。
 そうならば、幽霊であるエクストも気配を感じているかもしれない。
 怯えて、動けなくなっている可能性がある。



172: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2010/10/27(水) 23:51:24.81 ID:o3KlAgq5O

('A`)「……妹者を理事長にでも任せて、俺らで探しに行くか?」

(;^ω^)「そうした方がいいお」

l从・∀・;ノ!リ人「よろしくたのむのじゃ……」

ξ;゚听)ξ「つっても、どこに行ってんだか――」

 ツンがドアノブに手をかけた、と同時。

(;ФωФ)「大変であるうぅぅ!!」

 理事長がドアを摺り抜け、飛び込んできた。

ξ;゚д゚)ξ「いやああああああああああああああああ!!!!!」

(;^ω^)「理事長!?」

(;ФωФ)「みんな揃っておったか!
       ……誰であるか、この幼女は」

('A`)「その辺の浮遊霊」

(;ФωФ)「そうであるか……いや、それより!
       大変なのであるよホライゾン君――ううおおおおおおおおお!」

ξ;゚听)ξ「何よ」



175: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2010/10/27(水) 23:54:40.69 ID:o3KlAgq5O

(*ФωФ)「みんな着てくれたであるか! それ、我輩が用意したのである!
       衣装というのは重要でな、着るだけでパワーを増幅させるのであるよ。
       それは、そっち方面で名のある人々のお下がりで、特別な品である!
       昨日ようやく手に入ったので、プレゼントであるー!
       3人共似合っておるぞ! カメラカメラ――」

(;'A`)「今はそれどころじゃないんじゃねえのか」

(;ФωФ)「ぐわあああああそうであった!」

(;^ω^)「何なんですかお……」

(;ФωФ)「学校に閉じ込められてしまったのであるぅうううう!!」

(;^ω^)ξ;゚听)ξ(;'A`)「は?」






 昇降口に行くと、大勢の生徒が集まっていた。
 教師が玄関のガラス戸を傘立てで殴ったり蹴ったりしているが、びくともしない。

(;^ω^)「これは……」

(;ФωФ)「玄関も校内の窓も、全部開かないのである!」



177: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2010/10/27(水) 23:57:15.84 ID:o3KlAgq5O

ξ;゚听)ξ「全校生徒が閉じ込められたってわけ?」

(;'A`)「マジかよ」

l从・∀・ノ!リ人「? 何事なのじゃ?」

(-@∀@)「理事長!」

 内藤達が呆然と固まっていると、生徒の群れからモララーが抜け出してきた。
 モララーは聖徒会3人の格好を見て驚いたようだが、
 理事長程やかましいリアクションはとらなかった。

( ФωФ)「どうであるか、モララー君」

(-@∀@)「全く開きません。外からというより、内側から押さえ付けられているようですね」

(;ФωФ)「内側……」


 そのときである。


 ――ぴんぽんぱんぽおん……――

 軽快な音が響き、昇降口の喧騒が止む。
 その音は、校舎中のスピーカーから流れたようだ。



181: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2010/10/28(木) 00:00:38.51 ID:lauP3dLMO

l从・∀・;ノ!リ人「……!」

(;-@∀@)「なっ……」

(;ФωФ)「こっ、これは一体!?」

 突然、妹者、モララー、理事長が怯える素振りを見せた。
 警戒するように辺りを見渡す。

(;^ω^)「どうしましたお?」

l从・∀・;ノ!リ人「やつの気配がするのじゃ……」

ξ;゚听)ξ「やつ、って……」

(;'A`)「例の『恐い奴』か!?」

(;ФωФ)「非常に凶悪な気である――まさか、この騒ぎはこいつの仕業か?」


 ノイズがスピーカーから流れる。
 一際大きな雑音がすると、スピーカーは静まった。

 一拍起き――男の声が、し始めた。


     『――やあやあ、VIP高校の皆々様。閉じ込めてしまって申し訳ない』



183: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2010/10/28(木) 00:03:14.92 ID:lauP3dLMO

 若い声だ。至って普通の、青年の声。



     『俺の名前は、』



l从・∀・;ノ!リ人「……この声……」



     『――流石兄者という』



 一気に生徒達がどよめいた。
 流石。終業式で話題になった男。


(;^ω^)「例の男かお!」

(;ФωФ)「やられた……! 既に先手を打たれていたであるか!」



187: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2010/10/28(木) 00:05:38.96 ID:lauP3dLMO

     『まあ待て。落ち着け。騒いだって何の解決にもならんぞ。
      落ち着いて俺の話を聞き、覚悟を決めてほしい』



ξ;゚听)ξ「覚悟……?」

(-@∀@)「穏便に、ってことには、ならなそうだね」




     『これより』




(;'A`)「……妹者、どうした?」

l从・∀・;ノ!リ人「……流石兄者、は、」



189: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2010/10/28(木) 00:07:53.30 ID:lauP3dLMO




     『俺の妹の回収、そして、復讐を開始する』





l从・∀・;ノ!リ人「妹者の兄、なのじゃ」






 その瞬間。

 昇降口を横に抜けた方角――体育館から、ミルナの悲鳴が聞こえた。





第五話:終わり



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