( ^ω^)七大不思議と「せいとかい」のようです

3: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2010/10/30(土) 19:24:52.96 ID:x8o5QBlcO



 ――今から何十年も前のことである。
 今と違って学校が木造の二階建てで、七大不思議もおらず、
 今と同じように妖怪や幽霊が普通に存在していた時代。

 鬱紫寺を守るはドクオの祖父の祖父、出連神社を守るはツンの祖母の祖父。
 そして教会には、「エクソシスト様」と呼ばれる神父がいた。



第六話:エクスト様 前編



5: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2010/10/30(土) 19:28:30.61 ID:x8o5QBlcO



<_プー゚)フ「あー……暇だ」

 昼時。
 若い神父は教会の外に出て、欠伸と呟きを一つ漏らした。

 この地区に教会を置いているとはいえ、あまり大きくない町だ。
 キリスト教徒は少ないし、来客のほとんどは見物か、
 時間潰しに神父と雑談しに来る者ばかり。
 退屈である。

 だが、かといって神父はこの退屈さを嫌ってはいない。
 のんびりとした時間は、ひどく心地が良いから。

 ――この神父、町の人間から「エクソシスト」と呼ばれてはいるが、彼に退魔の力はない。
 単に「神父=エクソシスト」と思い込んでいた少女が彼のことをエクソシストと呼び始め、
 その耳慣れぬ響きを面白がった町の住人の間で広まっただけだ。
 殆どの者は、その名の意味さえ知らない。

 「エクソシスト様!」



6: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2010/10/30(土) 19:31:40.02 ID:x8o5QBlcO

<_プー゚)フ「お、デレ」

ζ(゚ー゚*ζ「こんにちは!」

 ぱたぱた、駆けてくるのは、栗色のふんわりとした髪を2つに結った少女。
 最近導入されたばかりの夏用のセーラー服を着込み、
 教科書等を包んだ風呂敷を抱えている。
 VIP高校(この頃は『VIP学園』)の生徒、そして出連神社の娘、
 ――出連デレ。

 この少女こそが、神父を「エクソシスト様」と呼び始めた娘である。
 なんでも、神父がこの町に来て挨拶をして回った当時、
 たまたまデレが好んで読んでいた本の主人公がエクソシストだったのだそうだ。

<_プー゚)フ「こんちゃー。学校は?」

ζ(゚ー゚*ζ「今日はお昼までだったんです!」

<_プー゚)フ「そうかそうか。じゃあご飯はまだか。
       俺は今から昼飯でも食べに行こうかと思ってたんだけど、一緒にどう?」

ζ(゚ー゚*ζ「あ、それじゃあ、ご一緒しちゃおうかな……」



7: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2010/10/30(土) 19:35:12.56 ID:x8o5QBlcO

 デレは、お腹をさすってにっこり笑った。
 可愛らしい顔立ちをしている。
 さぞ町の男達から人気があるだろうに、
 自分なんかと食事をして楽しいだろうかと神父は首をひねった。

<_プー゚)フ(まあ……どこぞの男とデートされても、あんまりいい気はしないけど)

ζ(゚ー゚*ζ「エクソシスト様、どこに食べに行きます?」

<_プー゚)フ「どうしようか。
       何か食べたいものは?」

ζ(゚ー゚*ζ「んー、お蕎麦が食べたいです」

<_プー゚)フ「んじゃあ、蕎麦で」

ζ(^ー^*ζ「やったあ!」

 軽やかに、スキップでもせんばかりの足取りでデレが神父の前を歩く。
 そして、神父の耳に届く鼻歌。
 分かりやすいほど機嫌の良いデレに、神父は声を出さずに笑った。
 愛らしい少女だ。



8: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2010/10/30(土) 19:39:07.49 ID:x8o5QBlcO

ζ(゚、゚*ζ「……エクソシスト様、今日も暑そうな格好ですねえ」

<_プー゚)フ「そりゃまあ制服みたいなもんだし」

 ふと振り返り、神父が身にまとう漆黒のキャソックを見て、デレは難しい顔をした。
 9月に入ったといえど、まだまだ気温は高い。
 神父の首から足元まで覆う布は、見ているこっちが暑くなってくる。

<_プー゚)フ「もう慣れてるから」

ζ(゚ー゚*ζ「そういうものですか」

<_プー゚)フ「お前の父ちゃんだって、いつも暑そうな格好してるだろ」

ζ(゚、゚*ζ「む。確かに。お寺の住職様も」

 ――どうして教会の神父が、神社の娘と仲が良いのか。
 別に、大した事情はない。

 2年前、この教会を管理していた老いた司祭が体を悪くしてしまい母国へ帰ったため、
 隣町に住んでいた神父が代わりに連れて来られたのだ。
 神父が出連神社へ挨拶に行ってデレと出会い、互いに明るい性格故に弾む会話を楽しんだ。
 それ以来、ちょくちょくデレは教会を訪れるようになったのである。

 歳は離れているものの、2人に年齢による壁は感じられない。
 非常に仲の良い友人同士だ。



10: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2010/10/30(土) 19:42:37.50 ID:x8o5QBlcO



ζ(゚ー゚*ζ「――私は、ざるそばに決めました」

<_プー゚)フ「俺は天ぷらそばにしようかね。
       すいませーん」

( ´_ゝ`)「あいよー」

ζ(゚ー゚*ζ「……店長さん、若くなりました?
      やっぱり昔は兄者君そっくりだったんですねえ」

( ´_ゝ`)「そうそう、うちの蕎麦にゃあ若返り効果があってねー。
       ほうら、髪もふっさふさ――」

 彡⌒ミ
(;´_ゝ`)「何を言ってるんだよ、この馬鹿息子。
       そっくりも何も、兄者本人さ」

ζ(゚ー゚*ζ「あら店長さん。じゃあ本物の兄者君なんだあ」

( ´_ゝ`)「そもそも何故真っ先に『若返った父者』という選択肢が出るのかと。
       んで、ご注文は?」

 蕎麦屋、「流石そば」。
 流石父者という男が店長の、一家で経営している店。
 神父とデレは、そこの蕎麦がお気に入りだった。



12: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2010/10/30(土) 19:46:16.63 ID:x8o5QBlcO

 手打ちの麺に、風味の強い汁。
 そこに薬味をちょいと置けば、町一番の蕎麦の出来上がり。
 つゆが絡んだ麺を啜れば、思わず笑みがこぼれる程の。

ζ(^ー^*ζ「美味しーい!」

 彡⌒ミ
( ´_ゝ`)「いやあ良かった。
       でもやっぱり、母者の作る麺じゃなきゃ物足りないんだよなあ」

 父者の妻である流石母者。
 彼女のたくましい腕で作る麺は絶品だったが、母者は去年いなくなってしまった。
 肺に病を患い、そのまま亡くなったのだ。
 父者が作る麺も美味しいが、彼は、やはり母者の麺が一番美味しいのだと残念そうに言う。

( ´_ゝ`)「落ち込むな父者、少しでも母者の作る麺に近付けるよう努力しようぜ。
       しっかしまあ、デレさん、まぁたエクソシスト様と一緒かい。
       町中で噂になってるみたいだよ、『2人は恋仲なんじゃあないか』って」

<_フ;゚ー゚)フ 「ゴブフッ」

(;´_ゝ`)「きったねぇ!」

 向かい合って蕎麦を食べる神父とデレ。
 流石家の長男でありデレと同い年の流石兄者は神父の隣に座り、2人を冷やかした。
 そんな兄者の言葉に神父は蕎麦を吹き出す。



14: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2010/10/30(土) 19:51:22.16 ID:x8o5QBlcO

ζ(゚ー゚*ζ「噂は噂でしょ?」

( ´_ゝ`)「噂は恐いよ。
       『婚約してる』なんてぐらいにまで進行しちまってるしね」

<_フ;゚ー゚)フ「そうなのか……その噂は流石に有り得ないけど」

( ´_ゝ`)「神父は結婚しちゃいけないんだっけ?
       だから、いくら何でも婚約はしないだろ、って意見と、
       エクソシスト様は神父をやめるおつもりだ、って意見に分かれているらしい」

<_フ;゚ー゚)フ「やめねえよ」

ζ(゚、゚*ζ「……神父様は結婚できないの?」

<_プー゚)フ「まあ、うん」

ζ(゚、゚*ζ「……そうなんだあ……」

( ´,_ゝ`) ニヤニヤ

<_プー゚)フ「何だよ、その腹立つ微笑み」

 急に元気のなくなったデレを見て、兄者がにやにやと笑みを浮かべた。
 それを訝しげに見遣りながら、神父は、さくり、と海老の天ぷらをかじる。
 さくさくの衣、ぷりぷりの海老。
 この天ぷらがまた、蕎麦つゆと合わさると絶妙な旨味が引き出されるのだ。



16: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2010/10/30(土) 19:54:44.22 ID:x8o5QBlcO

( ´,_ゝ`)「エクソシスト様の色男ぉ」

<_プー゚)フ「何でだよ……。
       それより、ここに座ってていいのか?」

( ´_ゝ`)「どうせあんたら以外に客いないし。
       数少ない、ありがたい常連さんよ」

<_プー゚)フ「……そうか」

 兄者の言う通り、狭苦しい店内には神父とデレ以外、客は見当たらなかった。
 蕎麦の味はとてもいいのに、ここには人が寄り付かない。
 その理由を知っている神父は眉を寄せた。

 がらり、店の引き戸が開く。
 兄者は腰を上げかけたが、入ってきた人物を見ると座り直した。

( ´_ゝ`)「いらっしゃ……なんだ、弟者か。おかえり」

(´<_` )「なんだとはなんだ。ただいま。葱買ってきたぞ」

 その人物は、兄者とそっくりな姿をした青年だった。
 名を弟者という、兄者の双子の弟である。
 弟者は新聞紙に包まれた葱を抱えていた。おつかいでもしてきたのだろう。

 何故だか泥で汚れている弟者の顔。
 兄者は「顔がいつも以上に汚いぞ」と笑った。



18: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2010/10/30(土) 19:57:23.96 ID:x8o5QBlcO

(´<_` )「常に顔面が薄汚れているのは兄者の方だろう」

(#´_ゝ`)「何だとこの野郎」

ζ(゚ー゚*ζ「でも確かに、どちらかといえば薄汚れてるのは兄者君だよね」

(;´_ゝ`)そ ガーン

(´<_` )「ん? あれ、デレさんいたのか。いらっしゃい。
       ……エクソシスト様も」

<_プー゚)フ「やあ」

 ぺこりと弟者が小さく頭を下げて、厨房へ歩いていく。
 神父に向ける目は、どこか冷たかった。





ζ(^ー^*ζ「美味しかったー!」

<_プー゚)フ「だなー」

 「流石そば」を出た2人は、満足そうな笑顔を浮かべながら道を辿った。
 分かれ道に差し掛かると、神父は教会へ、デレは神社へ続く道に進む。



20: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2010/10/30(土) 20:00:29.09 ID:x8o5QBlcO

ζ(゚ー゚*ζ「それじゃあ、また今度」

<_プー゚)フ「おー」

 その「今度」は一体いつだろうか、と期待混じりに考える自分に気付いた神父は、
 思考を吹き飛ばすかのように頭を振った。





 帰宅した神父は、教会の庭をぼんやり眺めながら先程の弟者を思い返していた。
 顔を泥に塗れさせてまで彼が欲しがったのは、ただの葱。
 きっと――土下座を何度も繰り返して、ようやく買うことを許されたのだろう。
 それだって、恐らくあまり状態のいい葱ではなかったのではないか。

<_プー゚)フ「……」

 彼は、彼らは、野菜一つ手に入れるのもままならない。

 ――目の前の庭には色とりどりの花が咲いている。
 だが、新しく何かを植えるスペースはまだある。

<_プー゚)フ「葱って、栽培期間が長いんだっけ……」



21: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2010/10/30(土) 20:03:52.53 ID:x8o5QBlcO

 今から育てたとしても、流石家に渡せるようになるのには時間がかかるだろう。
 それでも、しないよりはマシだ。
 野菜は育てたことがないから不安もあるが、花屋か八百屋にでも訊いてみよう。

 彼らが頭を下げなければならないなんておかしい。
 だから自分が無償で譲れるようになろう。

<_プー゚)フ「よし、買いに行こう」






 ――種を買った神父は、散歩がてら、小高い丘に登った。
 そこで町を見下ろしながら住人達の幸せを願うのが好きだった。

<_プー゚)フ「おう?」

 足が止まる。
 見覚えのない少女がそこにいた。

l从・∀・ノ!リ人

 10歳にも満たないくらいだろうか。
 ぱっちりとした目をくりくりさせながら花を摘んでいる。
 誰だろう。



22: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2010/10/30(土) 20:06:34.59 ID:x8o5QBlcO

<_プー゚)フ「こんにちは」

l从・∀・ノ!リ人「? ……!」

<_プー゚)フ「あ、ちょっと」

 神父が声をかけると、少女は驚いた顔をして逃げ出した。
 しかし、数歩進んですぐにべちゃりと転んでしまう。

l从;∀;ノ!リ人「痛いのじゃ!」

<_フ;゚ー゚)フ「あーあーあー。大丈夫かあ?」

l从;∀;ノ!リ人「うー……」

<_プー゚)フ「痛いの痛いの飛んでけー」

 少女の頭を撫でる。
 涙をぽろぽろこぼしていた少女は、ぽかんと口を開けて神父を見上げた。

<_プー゚)フ「?」

l从・∀・ノ!リ人「……いじめないのじゃ?」



23: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2010/10/30(土) 20:10:14.38 ID:x8o5QBlcO

<_プー゚)フ「誰が?」

l从・∀・ノ!リ人「お主が」

<_プー゚)フ「泣いてる女の子をいじめるほど鬼畜じゃねえよ」

l从・∀・ノ!リ人「……お主、誰と話してるか分かってるのじゃ?」

<_プー゚)フ「知らんよ。多分初対面だし。
       名前は何ていうんだ?」

l从・∀・ノ!リ人「……」

 急に押し黙ってしまった少女に、神父は怪訝そうな目を向けた。
 恐る恐る神父を見上げる少女はひどく怯えているような。
 名前を言うことを恐がるような。

<_プー゚)フ「……?」

l从・∀・ノ!リ人「……言いたくないのじゃ」

<_プー゚)フ「何で?」
  _,
l从・−・ノ!リ人

 少女は、つんとそっぽを向いて口を閉ざしてしまった。
 さて、どうしたものか。



24: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2010/10/30(土) 20:13:52.69 ID:x8o5QBlcO

<_プー゚)フ「そうだなー、じゃあ、事情を言え」

l从・−・ノ!リ人「……事情?」

<_プー゚)フ「言いたくない事情だよ。
       それによっては、名前を聞かないでおいてやろう」

l从・∀・ノ!リ人「……名前を知ったら、きっといじめるのじゃ」

<_プー゚)フ「何でさ」

l从・∀・ノ!リ人「みんなそうだったから」

<_プー゚)フ「俺は、人をいじめないよ。
       いじめちゃいけないんだ。神様に怒られるから」

l从・∀・ノ!リ人「……」

<_プー゚)フ「名前教えてくれよ、みんなと仲良くなりたいんだ」

l从・∀・ノ!リ人

l从・−・ノ!リ人

l从・Д・ノ!リ人

 ぱくぱく、開閉する口。
 悩んでいる。
 言っても良いのか、駄目なのか。



27: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2010/10/30(土) 20:16:51.66 ID:x8o5QBlcO

 だがその悩みも、1分ともたなかった。

l从・∀・ノ!リ人「……いもじゃなのじゃ」

<_プー゚)フ「いもじゃ?」

l从・∀・ノ!リ人「流石妹者っていうのじゃ」

 ――ああ。
 怯えていたのは、「流石」の名のせいか。

<_プー゚)フ「なんだ、兄者と弟者の妹か?
       いつも蕎麦食べさせてもらってるのに、いじめるかっつーの」

l从・д・ノ!リ人「……へ?」

<_プー゚)フ「よぉしよし」

l从>д<ノ!リ人「うきゃあ」

 ぐしぐし頭を撫でてやると、流石妹者はびくりと肩を跳ねさせたが、
 すぐにおとなしくなった。
 神父が笑う。



28: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2010/10/30(土) 20:19:50.75 ID:x8o5QBlcO

<_プー゚)フ「今日も流石そばで蕎麦食ってきたぞー」

l从・∀・ノ!リ人「……美味しかったのじゃ?」

<_プー゚)フ「おう、いつも最高の味だよ」

l从・∀・*ノ!リ人「……えへへ」

 美味しいと言われたのが嬉しいのか、妹者は頬を赤くして笑った。

l从・∀・*ノ!リ人「お主は他の者と違うようなのじゃ。
        みんなは妹者を見るといじめるというのに」

 妹者の言葉に神父の胸が、ちくりと痛んだ。
 流石家の人々は、この町の住人達から嫌われている。

 「流石そば」に通う神父が見たことがないのだから、
 きっと妹者は殆ど外に出ないで家の中に篭っているのだろう。
 外が、いじめられるのが、恐いから。

<_プー゚)フ「……そっか」

l从・∀・ノ!リ人「あ、そろそろ帰るのじゃ!
       姉者に内緒で出てきたから、気付かれたら怒られちゃうのじゃ」

 神父の脳裏に、流石家の長女の姿が過ぎる。
 以前、その長女に兄者が怒られているところを見たが、なかなか壮絶だった。



29: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2010/10/30(土) 20:22:53.47 ID:x8o5QBlcO

<_フ;゚ー゚)フ「……おう、じゃあ、また今度」

l从・∀・ノ!リ人「またね、なのじゃ!」

 丘を駆けていく妹者。
 その小さな背を見送っていると、不意に妹者が足を止めて振り向き、
 大きな声で問いかけてきた。

l从・∀・ノ!リ人「そういえば、お主の名前は何なのじゃー!?」

 神父は逡巡したが、皆から呼ばれている呼び名の方を選択した。
 本名で呼ばれるより、そちらの方が慣れている。

<_プー゚)フ「……みんなは『エクソシスト』って呼んでくれるよ!」

l从・∀・ノ!リ人「え、くしとー? 何なのじゃそれー」

<_プー゚)フ「エクソシストー。
       悪魔や悪霊をやっつける人のこと!」

l从・∀・ノ!リ人「え……く、しゅ、しぇ、?」

<_プー゚)フ「エクソシスト!」

l从・∀・ノ!リ人「え、えk、えくすと! エクスト、ばいばーい!」

<_フ;゚ー゚)フ「だからエクソシストー!!」



32: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2010/10/30(土) 20:25:58.11 ID:x8o5QBlcO

 大声で訂正するも、妹者は既に走り去っていた。
 やれやれ、と溜め息をつく。

<_プー゚)フ「……」

 しかし。
 あの様子だと、妹者は父者や弟者と同じように「普通」の子供らしい。
 だというにも関わらず住人達から敬遠されるとは。
 住人は、彼ら一家をまるごと否定するつもりなのか。

 それはおかしい――いや、そもそも。

 兄や姉は決して「化け物」などではないのに。
 みんなと同じ人間だというのに――



34: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2010/10/30(土) 20:29:20.34 ID:x8o5QBlcO



     また

  また 落ちた
           次はどうする
    普通に造っても駄目
   次は

                あ
   流石だ    流石の家の長男
        名前   兄者

    化け物     サトリ
      今考えてることも読まれてる?   悟られている?

          嫌だ   気味が悪い


( ^Д^)「……チッ」

( ´_ゝ`)「……」

 何か考え込みながら歩いていたプギャーという名の若い男は、
 兄者を見るなり顔を不快そうに歪ませ、早足で通り過ぎていった。
 すれ違いざま、酒の匂いが兄者の鼻を一瞬くすぐる。
 また酒を飲んでいたのだろう。プギャーは、働きもせず酒ばかり飲んでいるので有名だ。



35: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2010/10/30(土) 20:32:26.81 ID:x8o5QBlcO

 そんな男に侮蔑の目を向けられようと、兄者は表情を崩さない。
 プギャーが酒を飲むのも、兄者が嫌われているのも、いつものことだからだ。

l从・∀・ノ!リ人「! おっきい兄者!」

( ´_ゝ`)「お、妹者。見っけ」

 突然、彼の妹が曲がり角から現れた。
 妹は兄者を見るなり飛びついてくる。

l从・∀・ノ!リ人「どうしたのじゃあ。兄者が外にいるなんて珍しい」

( ´_ゝ`)「それはこっちの台詞だ。
       妹者を探してたんだよ。父者達が心配してたぞ」

l从・∀・;ノ!リ人「うっ……怒られちゃうのじゃ」

( ´_ゝ`)「大丈夫大丈夫。さ、帰ろう」

l从・∀・ノ!リ人「はいなのじゃ!」

 手を握り、帰路につく。



37: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2010/10/30(土) 20:35:23.41 ID:x8o5QBlcO

  おっきい兄者   帰る
      手があったかい
  嬉しい
          こうするの久しぶり


 浮かれたような声がする。
 いや、声なき言葉が「聞こえてくる」。
 その中身は先程の男とは大違いで、兄者の表情がふわりと崩れた。



 家に着く。
 玄関で、父と姉が待っていた。

 彡⌒ミ
( ´_ゝ`)「兄者、妹者、おかえり」

( ´_ゝ`)「ただいまー」

l从・∀・ノ!リ人「ただいまなのじゃ」

∬´_ゝ`)「おかえりなさい」

 二十歳くらいの女性、流石姉者。流石家の長女で、兄者達の姉。
 母者が亡くなってからは、姉者がみんなの母代わりとして頑張っている。
 父者と姉者は無事に帰ってきた妹者を見て、安堵の表情を浮かべた。



39: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2010/10/30(土) 20:38:39.73 ID:x8o5QBlcO

∬´_ゝ`)「出掛けるなら何か一言でも言ってから行きなさい、妹者。
      びっくりするじゃない」

l从・∀・ノ!リ人「ごめんなさいなのじゃ……」

 彡⌒ミ
( ´_ゝ`)「何もなかったかい?」

l从・∀・ノ!リ人「なかったのじゃ」

∬´_ゝ`)「? ……あら、うふふ。
      妹者、エクソシスト様と仲良くなったの?」

 妹者の顔を見つめていた姉者は、くすくす笑って常連の名を口にした。

l从・∀・ノ!リ人「えきゅし、すとはいい人なのじゃー」

( ´_ゝ`)「エクソシスト、な。
       あと、ちゃんと『様』も付けな。町を守って下さる偉い方だから」

l从・∀・ノ!リ人「えくすとさまー」

∬´_ゝ`)「うふふ」



40: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2010/10/30(土) 20:41:47.68 ID:x8o5QBlcO



 流石兄者と流石姉者は、人の心を読む力を持っていた。

 それが故に人々から忌み嫌われ、家族までをも巻き込んでしまっている。

 両親は普通の人間なのに、何故長男と長女にそんな力があるのか。
 他人はおろか、本人達でさえ分からない。
 その疑問への結論を、人々は「両親も化け物だから」だと決めつけた。
 親も子もサトリの妖怪なのだという、勝手な思い込みで。

 そこらに蔓延る無害な霊達とは違う。
 心を読まれてしまうということは、流石家には隠し事も秘密も洩れてしまうということ。
 そんなことはごめんだ。

 町の住人はそう考え、流石一家に近寄らなくなった。

 そのため、蕎麦の材料を買うときも店で土下座をし必死に頼まなければならないし、
 道端で人と会えば先のように不快そうな顔をされ、
 相手によっては石を投げられ罵倒されてしまう。

 流石一家は、この町の中で異端として扱われていた。



41: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2010/10/30(土) 20:45:21.16 ID:x8o5QBlcO

(´<_` )「お、帰ってたか。おかえり」

l从・∀・ノ!リ人「ただいまーなのじゃ、ちっちゃい兄者!」

( ´_ゝ`)「ただいま」

(´<_` )「おう」

( ´_ゝ`)「……」

∬´_ゝ`)「……」

l从・∀・ノ!リ人「……」

(´<_` )「何だよ」

( ´_ゝ`)「なんか弟者」

∬´_ゝ`)「機嫌悪そう」

l从・∀・ノ!リ人「なのじゃ」

(´<_`;)「はあ……?」

∬´_ゝ`)「デレちゃんのこと?」

(´<_`;)「なっ」



45: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2010/10/30(土) 20:48:17.37 ID:x8o5QBlcO

 姉者の言葉に、弟者の心の声が一気に溢れ出した。
 長年付き合っていると、兄者と姉者に対する心の声の隠し方も
 それなりに心得てくるのだが、
 こうして動揺してしまえばそんな抵抗も一気に無駄になる。


    バレた    どうして
 デレさん     今日はデレさんに会えた

   会えたけど         デレさん

           エクソシスト様が
   一緒
       仲良い
    変な噂      兄者が言ってた   恋仲
          腹立つ
  なんでバレた   隠してたのに


∬´_ゝ`)「バレバレ(笑)」

( ´_ゝ`)「分かりやすすぎワロタ(笑)」



46: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2010/10/30(土) 20:51:36.64 ID:x8o5QBlcO

l从・∀・ノ!リ人「どーしたのじゃー?」

( ´_ゝ`)「デレさんと会えたのが嬉しいけど、
       エクソシスト様が一緒だったのが嫌なんだってwwwww」

∬´_ゝ`)「姉と兄が味わえなかった青春満喫しとるwwwwwww」

( ´_ゝ`)「嫉妬する弟者に嫉妬wwwwwwwwww」

(´<_`#)(こいつらいつか殺す)

( ´_ゝ`)「通報しますた」

∬´_ゝ`)「どうしよう妹者、殺すって思われちゃった」

l从・∀・ノ!リ人「ちっちゃい兄者、だめなのじゃー。
       これあげるから機嫌直すのじゃ」

 妹者が懐から何かを取り出し、弟者に手渡した。
 それをまじまじと見つめて、弟者が首を傾げる。

(´<_` )「花?」

l从・∀・ノ!リ人「丘で摘んできたのじゃ。
       ちっちゃい兄者、八百屋さんでいじめられちゃったみたいだから……。
       喜んでほしかったのじゃ」



47: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2010/10/30(土) 20:54:38.43 ID:x8o5QBlcO

 兄者達は決して人の心を暴きたいわけではないが、どうしたって聞こえてきてしまう。

 だから弟者は心を悟られぬ術を身につけた。
 どうでもいいようなことを考えて本心を隠したり、
 真っ白な紙で思考を包み込むのをイメージしたりすると、存外上手くいく。

 だが、妹者は気持ちを隠さずに表に出すことで、秘密を作らぬ術を持った。

 小さい花を眺める弟者の口元が綻ぶ。
 この妹者の素直さが、家族の心をいつだって安らかにさせていた。

l从・∀・ノ!リ人「それじゃ、だめなのじゃ?」

(´<_` )「……いや、嬉しい。ありがとう妹者」

∬´_ゝ`)「『丘』っていう単語でデレちゃんを思い出してるでしょ」

( ´_ゝ`)「たしか弟者がデレさんに惚れたのって、みんなで丘に行ったときだよな。
       思い出の場所(笑)」

(´<_`#)「よし2人共、ぶん殴る」

 彡⌒ミ
(;´_ゝ`)「こら、喧嘩しない!」

 わいわい、賑やかな家族たち。
 こんな境遇でも、彼らは幸せだった。

 幸せだったのだ。



49: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2010/10/30(土) 20:57:51.49 ID:x8o5QBlcO



ζ(゚ー゚*ζ「エクソシスト様、橋がまた落ちちゃったらしいですよ」

 次の日の午後。
 学校帰りに教会にやって来たデレは、庭に種を蒔く神父にそう言った。

<_プー゚)フ「らしいなー。昨日町長さんが来て教えてくれたよ。
       今日はそのせいで学校が早く終わったのか?」

ζ(゚ー゚*ζ「はい。先生達も駆り出されるみたいで。
      明日はお休みになります」

 橋。
 この町は、隣町――というより、隣町に続く山――との間に、深い谷がある。
 底には流れの速い水流。
 そこを越えるために橋が架けられているのだが、
 どういうわけかその橋、よく崩落してしまうのだ。

 前に落ちたのは3年程前で、その前は10年前。
 一体架けられてから何度落ちたか。
 木で造っても石で造っても壊れてしまう。
 呪われているのではないか、と言う輩もいる。

 その橋が、また昨日落ちてしまった。
 元々利用する者も日に数人程度だったため、怪我人は出ずに済んだらしい。



53: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2010/10/30(土) 21:02:03.05 ID:x8o5QBlcO

ζ(゚ー゚*ζ「うちのお父さんも鬱紫寺の住職さんも、
      悪そうな霊や神様は見当たらないって言うから
      壊れちゃうのは多分偶然なんでしょうけど……。
      こうも何回も続くと、何かいるのかなって思っちゃいますね」

<_プー゚)フ「たしかになあ……」

ζ(゚ー゚*ζ「一応お祓いとかお供えとかもしてるんですけどね」

<_プー゚)フ「何をしても落ちる、ね。
       ロンドン橋みたいだな」

ζ(゚ー゚*ζ「あ、分かります。
      ろーんどんばし、お、ち、たー♪」

 イギリスの民謡を口ずさむ。
 落ちた橋を何度も造り直すが、結局落ちてしまう。
 その内容が、現状にぴったりだった。

<_プー゚)フ「ろーんどんぶりっじぃずふぉーりんだーん、
       ふぉーりんだーん、ふぉーりんだーん」

ζ(゚ー゚*ζ「英語ですか? エクソシスト様、発音悪ーい」

<_フ;゚ー゚)フ「うっせーやい。ここの前の神父様に、昔教えてもらったんだよ」

ζ(゚ー゚*ζ「そういえば外国の方でしたっけ、前神父様」



55: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2010/10/30(土) 21:05:47.68 ID:x8o5QBlcO

<_プー゚)フ「おう。何回も聴いたから、全部歌えるぐらいまで覚えたぜ」

ζ(゚ー゚*ζ「発音は悪いくせに」

<_プー゚)フ「黙らっしゃい」

 土をぽんぽん叩く。
 とりあえず種は蒔いた。
 上手く育つといいのだが。

ζ(゚ー゚*ζ「それは何なんですか?」

<_プー゚)フ「葱」

ζ(゚д゚;ζ「ね、葱? お花じゃなくて?」

<_プー゚)フ「出来たら、流石そばにあげようかな、と」

ζ(゚ー゚*ζ「……ああ! それはとてもいい考えです!」

<_プー゚)フ「そうだろうそうだろう。
       ……そういや、デレ。流石妹者って子、知ってる?」

ζ(゚ー゚*ζ「妹者ちゃん? 知ってますよ。
      最後に会ったのは、何ヶ月も前ですけど。
      今年で8歳になったんですよ」



57: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2010/10/30(土) 21:09:15.08 ID:x8o5QBlcO

<_プー゚)フ「そっか……町の人達は、妹者のこと知ってるのかな」

 流石そばの常連であるデレですらしばらく会っていないとなると、
 妹者は余程人前に現れることがないらしい。
 存在すら知らない者が多そうだ。

ζ(゚ー゚*ζ「うーん。知ってる人は知ってますけど、知らない人は知りませんね。
      あまり外に出ない子なので。
      ――妹者ちゃんがどうかなさいました?」

<_プー゚)フ「昨日、丘のところで会ったよ」

ζ(゚ー゚*ζ「ああ、あの丘。
      昔、私と弟者君と、兄者君、姉者さん、
      妹者ちゃんの5人で、丘で遊んだんですよー」

 懐かしいなあ、とデレが笑う。

<_プー゚)フ「デレはいつから流石家と仲良いんだ?」

ζ(゚ー゚*ζ「んーっと、ずぅーっと前ですねえ。
      小さい頃に、おばあちゃんがお店に連れていってくれたんです」

 デレの祖母は、数少ない、流石家の味方だったそうだ。
 去年、母者と同時期に亡くなってしまったのだが。



60: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2010/10/30(土) 21:12:14.78 ID:x8o5QBlcO

ζ(゚ー゚*ζ「あ、そういえば」

<_プー゚)フ「ん?」

ζ(゚ー゚*ζ「流石そばに、町長さんと、大人が何人か入っていくのを見ましたよ。
      珍しいですよね」

 やっぱりみんな、あのお蕎麦の味が大好きなんですかね。

 そう言うデレの顔は嬉しそうだ。
 町の人達がみんな仲良くなればいいのに、と常日頃言っていたぐらいだから、
 流石そばに客が入るのを自分のことのように喜んでいるのだろう。

 たしかにデレの言う通りならば良い。
 だが――

<_プー゚)フ「……」

 神父の胸には、何か嫌な予感めいたものが渦巻いていた。


l从・∀・*ノ!リ人「――見っけ、なのじゃ!」


<_プー゚)フ「んぇ?」

ζ(゚ー゚*ζ「あ」



61: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2010/10/30(土) 21:15:14.69 ID:x8o5QBlcO

l从・∀・*ノ!リ人「にへへ。おっきい兄者に、エクスト様は教会にいるって
        教えてもらったから、来ちゃったのじゃ。
        遊ぼー、なのじゃ」

<_プー゚)フ「妹者」

ζ(゚ー゚*ζ「妹者ちゃんだあ」

 噂をすれば。
 いつの間に入って来たのやら、妹者が駆け寄ってきた。

l从・∀・*ノ!リ人「デレもいるのじゃ!
        おっきい兄者の言う通り、エクスト様とデレは仲が良いんじゃのう」

ζ(゚ー゚*ζ「エクスト? エクソシストじゃなくて?」

l从・∀・*ノ!リ人「えくすとさま! なのじゃ!」

 はっきりきっぱり言い切る妹者に、デレは首を傾げ、神父は溜め息をつく。

<_プー゚)フ「えーくーそーしーすーとー」

l从・∀・ノ!リ人「えくす、すぃ、と? え、えくす、と!」

<_プー゚)フ「……エクソシストって言ってくれないんだよ」

l从・∀・ノ!リ人「だって言いづらいのじゃー! エクストなら言いやすいのじゃ!」



63: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2010/10/30(土) 21:19:06.96 ID:x8o5QBlcO

 くすくす、デレは口元を押さえて笑う。
 そして、エクスト様かあ、と呟いて、神父を見た。

ζ(^ー^*ζ「うふふ。じゃあ、私もエクスト様って呼んじゃおう。
      ね、エクスト様」

<_フ;゚ー゚)フ「……もう好きにしろ」

 神父は――「エクスト」は、苦笑してデレと妹者を見た。


 あやとり、お手玉、鬼ごっこ、雑談。
 3人でそんなことをしながら過ごしていると、あっという間に外が橙に染まり始めた。

 聖堂の椅子に腰掛けていたデレが立ち上がる。

ζ(゚ー゚*ζ「もう日も沈んできましたし、帰りますね」

l从・∀・ノ!リ人「んー。妹者も帰るのじゃ」

<_プー゚)フ「妹者、送ろうか」

l从・∀・*ノ!リ人「いいのじゃ?」

<_プー゚)フ「だって何があるか分かんないし」

l从・∀・*ノ!リ人「じゃあお願いするのじゃ!」



65: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2010/10/30(土) 21:22:47.13 ID:x8o5QBlcO

ζ(゚ー゚*ζ「……いいなあ……」

<_プー゚)フ「ん?」

ζ(゚、゚*ζ「別に、何でもないですー」

 教会を出る。
 しばらく3人で歩き、分かれ道でデレは出連神社へ、
 エクストと妹者は流石そばへ向かった。
 エクストと一緒に歩くのが嬉しいようで、妹者は妙に上機嫌だ。

l从・∀・*ノ!リ人「らんららんららーん」

<_プー゚)フ「あんまりはしゃぐなよ、転ぶぞ」

l从・∀・*ノ!リ人「にへへ――――あ」

<_プー゚)フ「ん?」

/ ,' 3「おや。エクソシスト様に、……流石、妹者ちゃん」

<_プー゚)フ「あ、町長。どうも」

l从;・∀<_フ;゚ー゚)フ「……なに隠れてんだ」

 反対方向からやって来た年老いた男性、荒巻スカルチノフ。この町の町長だ。
 荒巻に気付いた妹者は、エクストの後ろに慌てて隠れた。
 虐げられるのではないかと怯えているのだろう。



66: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2010/10/30(土) 21:25:56.76 ID:x8o5QBlcO

 そんな妹者に、荒巻が歩み寄る。
 妹者は身を竦ませたが、

/ ,' 3「やあやあ、妹者ちゃんやい、元気かい」

l从・∀・;ノ!リ人「……ふぇ?」

 頭に置かれた手の感触に、思考が固まった。

/ ,' 3「ああ、そうだ、飴でも食うか?
    今ちょうど……」

 そのまま妹者の頭をくしゃくしゃと撫で、もう片方の手をポケットに突っ込み
 飴玉の包みを数個取り出した。
 それらを妹者の眼前に差し出す。

 ぽかんと口を開けた妹者は、条件反射のように両手を胸の前で揃えた。
 そこへ落とされる飴玉。

<_プー゚)フ「良かったなあ妹者」

l从・д・;ノ!リ人「……」

<_プー゚)フ「妹者、お礼」

l从・д・;ノ!リ人「……ぁりがとうござい、ます。……じゃ」

<_フ;゚ー゚)フ(動揺してんなあ)



67: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2010/10/30(土) 21:29:20.20 ID:x8o5QBlcO

 ぽかんとしている妹者を、エクストは困ったような表情で見下ろした。
 荒巻の行動にここまでの反応を返すということは。
 ……常日頃、これと真逆の扱いを受けているわけだ。

 妹者は、飴玉と荒巻をぎこちない動きで見比べて、開け放しの口から声を絞り出した。

l从・д・;ノ!リ人「……な、なんで……?」

/ ,' 3「……」

l从・д・;ノ!リ人「い、いつも、ちょちょさん、……い、妹者達のこと……」

 ――「いじめるのに」。

/ ,' 3「……」

 荒巻は、数秒の沈黙の後、破顔した。



/ ,' 3「わしらはのう、今日、流石家と、仲直りしたんじゃよ――」



69: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2010/10/30(土) 21:32:10.72 ID:x8o5QBlcO



 荒巻と別れ、妹者を流石そばへ送り届けた後。

 エクストは、帰路の途中、思いがけない人物と巡り会った。

(メ´_ゝ`)「おお、エクソシスト……や、妹者風に言えば『エクスト』様。
       こんばんは」

<_プー゚)フ「こんばんは。……兄者、その顔どうした」

 流石兄者。
 兄者は曲がり角から現れ、エクストを見るなり笑みを浮かべて頭を下げた。

 ――その顔、右頬が赤く腫れ上がっている。

(メ´_ゝ`)「あ、これ。
       転んじゃった☆」

<_プー゚)フ「……そうか」

 転んで出来るような怪我だろうか?
 まるで、――殴られたような痣だ。

<_プー゚)フ(……)



71: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2010/10/30(土) 21:35:28.40 ID:x8o5QBlcO

(メ´_ゝ`)「そういや、昼ぐらいに妹者が教会にお邪魔したかと」

<_プー゚)フ「来たよ。今、流石そばに送ってったとこ」

(メ´_ゝ`)「あ、そう? じゃあエクスト様は帰るところ?」

<_プー゚)フ「おう」

(メ´_ゝ`)「あのー、途中までご同行してもおk?」

<_プー゚)フ「おk。こっち方向に何か用事あるのか?」

(メ´_ゝ`)「ちょっと野暮用」



 歩く。
 特に何も話さず、静かに、ただ、歩く。

 おしゃべりな兄者とエクスト。
 その2人が一緒にいるというのに、不自然な沈黙が周囲を支配していた。

 どれほど経っただろうか。
 沈黙を破ったのは兄者であった。

(メ´_ゝ`)「……エクスト様よ」

<_プー゚)フ「なんだ、兄者」



72: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2010/10/30(土) 21:38:41.34 ID:x8o5QBlcO

(メ´_ゝ`)「悪魔って、いるのか?」

 エクストが、詰まる。
 別に、答えが見付からなかったわけではない。
 およそ予想しえない質問が来たことに驚いただけ。

<_プー゚)フ「……まあ、いるだろうな。
       少なくとも霊やら何やらは、当然のようにその辺にいるし」

(メ´_ゝ`)「そうか。
       じゃあ、あの橋には悪魔か何かがいると思うか?」

<_プー゚)フ「橋……」

 昨日落ちた橋のことだろう。
 あの橋に、妙な気配を感じた覚えはない。

<_プー゚)フ「何もいないと思うぞ。神社や寺の人達も、そう言ってたらしいし」

(メ´_ゝ`)「――そうか。
       神主様も坊様もエクスト様もそう言うなら、そうなんだろうな」

 兄者が頷く。
 だが、その声はどこか沈んだものであった。

<_プー゚)フ「?」

 まるで、何かいてくれた方が良かったとでも言いたげな。



73: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2010/10/30(土) 21:41:36.56 ID:x8o5QBlcO

<_プー゚)フ「兄者……?」

(メ´_ゝ`)「……」

<_プー゚)フ「……」

 再び、静寂がのしかかる。
 そのまま、2歩、3歩、4歩。
 10歩目まで数えて、今度はエクストが口を開いた。

<_プー゚)フ「葱の種を植えたんだ」

(メ´_ゝ`)「は?」

<_プー゚)フ「時間がかかるだろうけど、ちゃんと育ったら、流石そばにあげるつもり」

(メ´_ゝ`)「……」

<_プー゚)フ「……」

(メ´_ゝ`)「……ははは」

<_プー゚)フ「はははー」

(メ´_ゝ`)「……」



75: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2010/10/30(土) 21:44:27.11 ID:x8o5QBlcO

 2歩、3歩。

(メ´_ゝ`)「……エクスト様よ」

<_プー゚)フ「なんだ、兄者」

(メ´_ゝ`)「あんたやデレさんを見てると、
       この町の奴らがみんな悪魔のように思えてくる」

<_プー゚)フ「……悪魔、ね」

(メ´_ゝ`)「あんたに……エクスト様に、全員祓われてしまえばいいと思えちまうんだ」


(メ _ゝ )「――俺のことも」


<_プ−゚)フ「兄者?」

 足が止まる。

(メ´_ゝ`)「気にしないでくれ。
       ――じゃあ、俺、こっちに用があるから。さようなら」

 分かれ道。
 兄者は、左側の道を指差した。

 その道を行けば、荒巻の家がある。



77: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2010/10/30(土) 21:47:25.99 ID:x8o5QBlcO

<_プ−゚)フ「……兄者」

(メ´_ゝ`)「はいよ」

<_プ−゚)フ「今日、町長達が流石そばに行ったか?」

(メ´_ゝ`)「……ああ」

<_プ−゚)フ「――何が、あったんだ?」

(メ´_ゝ`)「……」


 兄者が背を向ける。
 そして、


(  メ´)「仲直り」


 吐き捨てるように答えを告げて、一歩踏み出した。



78: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2010/10/30(土) 21:50:23.68 ID:x8o5QBlcO





 「どうしてみんな泣くのじゃ?」

 「のう、話してほしいのじゃ」

 「ねえ。ねえってば……」

 「ちょちょさんたちと仲直りしたんじゃろう?」

 「ほっ、ほら、ちょちょさん、たくさんアメっこくれたのじゃ」

 「……おっきい兄者は、どこに行ったのじゃ?」

 「――ちっちゃい兄者。お顔が、こわいのじゃ……」



 「みんな、どうしちゃったのじゃあ……」





79: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2010/10/30(土) 21:54:42.47 ID:x8o5QBlcO

 橋の修復が完了したという知らせが入ったのは、
 エクストが兄者と会話を交わしてから、1ヶ月程経った頃であった。



ζ(゚ー゚*ζ「あんまり大きな橋じゃないのに、結構時間かかりましたねぇ」

<_プー゚)フ「だな。それだけ気合い入れたんだろ。
       ……なあ、デレ」

ζ(゚ー゚*ζ「はい?」

<_プー゚)フ「最近、流石そばに行ったか?」

ζ(゚、゚*ζ 「……行くには行くんですけど……」


 ――いっつも閉まっちゃってますよねぇ。





 あの日から、流石そばは常に店を閉じている。
 それに伴い、流石家の人間の顔を見ていない。



82: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2010/10/30(土) 21:57:57.38 ID:x8o5QBlcO

 何か、おかしなことが起きている。
 エクストは、そう確信していた。





 たしかに、おかしなことは起きていた。

 だが、気付くのが遅かった。






 次にエクストは、デレの顔すらも見かけなくなってしまった。






86: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2010/10/30(土) 22:00:48.19 ID:x8o5QBlcO

<_プー゚)フ「こんにちは、町長」

/ ,' 3「おやエクソシスト様。こんにちは。
    どうしました、突然」

 流石家を見なくなってから1ヶ月半。デレを見なくなってから約2週間。

 エクストは、荒巻の家を訪れた。

<_プー゚)フ「教えてほしいことがあるんです」

/ ,' 3「ほう、そうか。……どうぞお上がりなさい。お茶でも出そう」



 ――粗茶で悪いが。
 そう言って出された煎茶を口に含んで、エクストは舌を暖めた。

/ ,' 3「それで、何の話をすればよいのかのう」

<_プー゚)フ「率直に聞きます」



<_プー゚)フ「流石妹者を、どこにやったんですか」



88: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2010/10/30(土) 22:03:55.00 ID:x8o5QBlcO

 荒巻は、一口お茶を啜り、ゆっくりと嚥下した。
 ふう、と息をつき。


/ ,' 3「……あの子は」




 ――ロンドン橋落ちた。

 木と粘土では流される、煉瓦とモルタルも崩れる、
 鉄と鋼ならば曲がるし、金と銀では盗まれる。


 それなら。



 それなら、見張りを夜通し立てようか。




   「――あの子は、橋の見張りになったよ」





93: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2010/10/30(土) 22:08:19.56 ID:x8o5QBlcO





 悪魔だ。





<_フ;゚д゚)フ「妹者!!」

( ^Д^)「おい、何してんだ?」

 新しい橋が架かった崖。
 エクストは、その底に向かって妹者の名を叫んだ。
 そこへ通り掛かった男、プギャーがエクストの肩を掴む。

 その顔を見て、エクストは瞠目した。
 プギャー。町の住人の中でも、特に流石家を嫌っていた男だ。

<_フ;゚д゚)フ「なあ、あんた――あんたも! あんたも妹者をっ!!」

( ^Д^)「妹者ぁ? 流石のか? ……誰から聞いたか知らねえが、
      あんな化け物のガキがどうなろうが、気にすんなよ」

<_フ; Д )フ「あ、ああっ、ああ、あ、あああああああああああ!!」



95: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2010/10/30(土) 22:11:17.27 ID:x8o5QBlcO

 振りかぶる。
 殴りつける。

(#^Д^)「……っ、てぇ! 何しやがんだ!」

<_フ;Д;)フ「妹者、妹者を! 何の罪もない子をっ!!」

(#^Д^)「――あんたな、前から気に入らなかったんだ!
      神父だか何だか知らねえけどよぉ、博愛主義振りかざして偽善者ぶって、
      他人に媚び売って……気持ち悪ぃったらねえよ!!」

 左頬に衝撃。そこに広がる熱に、エクストは呻いた。
 地面に仰向けに倒れたエクストの上に、男が跨がる。

(#^Д^)「あんなガキ1人! あんな化け物1人!
      いなくたって何の問題もねえだろ!」

 殴られる。
 砂利に頭を叩きつけられる。

 痛い。
 痛いけれど。

<_フ;Д;)フ「ああああああああ! うああああああああああ!!」

 この胸の痛みと、
 あの子や、あの家族の痛みに敵いやしない。



97: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2010/10/30(土) 22:15:00.75 ID:x8o5QBlcO



(´<_` )「人柱だって、妹者、崖に落とされたんだ」

ζ(゚−゚*ζ「……」

(´<_` )「落とされるとき、妹者は泣きながら、やめてくださいやめてくださいって、
       プギャー達にお願いしてた。ずっと、ずっと。
       俺らなんか縛られてさ、それずっと見せられてたんだ。
       父者や俺は泣いてた。
       兄者と姉者もだ」

ζ(゚−゚*ζ「……」

(´<_` )「……おかしいじゃないか。
       何で兄者と姉者まで泣いてるんだ?
       何であいつらまで泣き叫んでるんだ?
       あいつらのせいなんだぞ?
       あいつらが化け物なせいでうちはみんなから嫌われるし、
       妹者が人柱に選ばれたんだ。
       やめろやめろって叫ぶ前に、ごめんなさいって謝るのが筋だろう。
       ふざけてる。ふざけてる」

 出連家の、とある和室。
 敷かれた布団の上に横たわるデレ。
 その隣に座り、呟き続ける弟者。
 共に、衣類は身に着けていない。



101: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2010/10/30(土) 22:18:24.88 ID:x8o5QBlcO

ζ(゚、゚*ζ「……兄者君も姉者さんも悪くないよ……」

(´<_` )「あいつらが悪い。あいつらを産んだ母者も、あいつらを仕込んだ父者も悪い。
       町の奴らも悪い。
       エクソシスト様も悪い」

ζ(゚−゚*ζ「っ、エクスト様は何もしてない!」

(´<_` )「何もしてないから悪い。
       俺達がどれだけ辛い思いをして暮らしているか知っていたくせに、
       街の奴らから慕われていて発言力もあったくせに、
       何もしなかった。無視をしていた。俺達の味方をしてくれなかった」

ζ(゚д゚;ζ「……!
      エクスト様は無視なんかしてない、あなたたちを気にかけていたじゃない!」

(´<_` )「……どうして、君まで俺の味方をしてくれないの」

 ――じきに俺の妻になるのに。

 そう囁いて、弟者はデレを抱きしめた。



105: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2010/10/30(土) 22:21:35.35 ID:x8o5QBlcO



(  _ゝ )

 ――父者は妹者が人柱になった一週間後に首を括った。
 死体は、妹者と同じ場所に運んだ。

 姉者は。
 何度も何度も自分の耳と頭を傷付けて、つい昨日やっと死んだ。
 自室で横になっている筈だ。

(  _ゝ )

 喉が渇いた。

 ゆらりと立ち上がる。
 厨房に置いていた水差しでコップに水を注ぎ、口に運んだ。

(  _ゝ )「……ぇ、う」

 半分ほど飲んだところで逆流が始まった。
 びちゃびちゃ、床に水と胃液をぶちまける。

 駄目だ、もう一度注がなければ。



106: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2010/10/30(土) 22:24:22.32 ID:x8o5QBlcO

(  _ゝ )

 水。
 流れ続けている。
 コップから溢れた。

 水。
 流れる。

 流れる。

 流れる。



 川の、流れに。
 妹者が。



(  _ゝ )「ぃ、……」

( ;_ゝ;)「いう、う、ううう」

( ;_ゝ;)「ううううううううう」



110: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2010/10/30(土) 22:27:44.04 ID:x8o5QBlcO

 厨房の端に、水を入れた小さな瓶がある。
 その瓶には花が数本飾られていた。

 妹者が弟者のために摘んできた花。
 もう枯れきってしまった、花。



 どうして?
 どうして妹者を選んだ?
 俺にすれば良かったじゃないか。
 どうせあそこには神様も妖怪も悪魔も何もいなかったんだから。
 それなら人柱は俺でも良かったじゃないか。
 何の意味もないのなら、俺で良かったじゃないか。

 妹者。
 妹者妹者。

 大事な家族だったのに。
 普通の、心優しい、人間の女の子だったのに。


( ;_ゝ;)「うー、うう、うー……!」



111: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2010/10/30(土) 22:30:52.27 ID:x8o5QBlcO



 ――あの日、男達に体を抱えられた妹者は、泣いて、泣いて、叫んでいた。

 心も。

l从;Д;ノ!リ人「やめ、やめてぇ! いやじゃ、いやじゃあああ!!」

     やめて いやだ しぬ
   たすけて あああああああ  はなして おろして
   こわい

  こわいこわいこわいこわいこわい やめて しぬ しぬ


l从;Д;ノ!リ人「やだやだやだやだはなして、おねがいじゃ、いや、いやああああ!!」


    どうして?
  どうして?



113: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2010/10/30(土) 22:33:28.35 ID:x8o5QBlcO



 ――男が妹者から手を離した瞬間。





l从;Д;ノ!リ人



      おっきいあにじゃと、あねじゃのせい?








 妹者の心の声が、それだけが、じわりと兄者と姉者の頭に染み込んだ。





118: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2010/10/30(土) 22:38:09.17 ID:x8o5QBlcO



( ;_ゝ;)「――うううううう!
       ひぎ、う、う、……っ、う、ううううう」

 あの声を思い出す度。
 死んで、しまいたくなる。

 死んでしまおうか。

 それで許してくれるのか、妹者。


( ;_ゝ;)「……、……、……」


 だけど、だけど。
 ああ、ああ。
 恐いんだ。

 姉や、父のような度胸がないから。
 死ぬのが恐い。
 死にたくない。

 死にたいのに、死にたくない。

 頭が――割れそうだ。



121: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2010/10/30(土) 22:41:57.69 ID:x8o5QBlcO





<_フ − )フ

 エクストは、流石そばの前で立ち尽くした。
 「閉」と書かれた札が下がっている。

 その札が掛かった引き戸。
 そこにある僅かな隙間から、酷い空気が漏れ出ている。

 ぐろぐろと、薄暗く、重たい空気。
 それにつられて、様々な霊魂や妖怪が集まってきていた。
 建物にまとわりつき、中に入らんとしている。

<_フ − )フ「どいて」

 懐から瓶を取り出して、エクストは栓を抜いた。
 そして、瓶の中身、透明な水を振り撒く。
 水に触れた霊達は、苦しそうな声を上げて建物から逃げるように離れた。



122: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2010/10/30(土) 22:44:26.25 ID:x8o5QBlcO

 エクストが、引き戸を叩く。
 強い力で、がんがん、がんがん。

<_フ − )フ「……」

 がんがん。がんがん。

 誰も出てこない。
 ……出てこれる者がいないのだろうか。

 がんがん。がんがん。

 もしかして、もう、生きている者は。

 がんがん。がんがん。


   「……だれ……」


 がん。

<_プ−゚)フ「兄者? 弟者?」

 引き戸の向こうから聞こえた声。
 憔悴しきっているが、若い男のもの。
 兄弟のどちらかだろう。



124: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2010/10/30(土) 22:48:29.70 ID:x8o5QBlcO

 エクストが兄弟の名を呼ぶと――しばしの沈黙の後。
 からから、戸が引かれた。

( ´_ゝ`)「……エクスト様」






<_プ−゚)フ「――他の人は?」

( ´_ゝ`)「……」

 テーブルを挟んで、向かい合って腰掛ける。

 しんと静まり返った店内。
 その静寂に、先程の嫌な予感が蘇ったエクストが他の家族について問うも、
 兄者はただ黙って、店の奥、流石家が暮らしている家の方向をちらりと見るだけだった。

<_プ−゚)フ「……」

( ´_ゝ`)「顔、どうした。怪我してるぞ」

<_プ−゚)フ「大したことじゃない」

 そう答えるも、どうせエクストの心を読んで理解したのだろう。
 プギャーの奴か、と兄者は呟いた。



125: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2010/10/30(土) 22:51:00.75 ID:x8o5QBlcO

( ´_ゝ`)「……それで、何の用だ」

<_プ−゚)フ「――町長から話を聞いた」

( ´_ゝ`)「……ああ……そう」

<_プ−゚)フ「……」

( ´_ゝ`)「……。
       ――あの日」

<_プ−゚)フ「うん?」

( ´_ゝ`)「あの日……エクスト様と一緒に歩いた日。
       あの日の昼頃、町長と、4人の大人がここに来たんだ」

<_プ−゚)フ「……うん」

( ´_ゝ`)「それで、言われたんだ。
       橋が崩れた――」



127: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2010/10/30(土) 22:54:34.55 ID:x8o5QBlcO



 ――橋が崩れた。今、復旧作業に入るところだ。
   だが、きっとまたすぐに崩れるだろう。
   あそこには何か居るはずだ。
   それが橋に悪さをしているに違いない。
   だから毎回お祓いや供え物もしている。

   しかしそれでも橋は落ちてしまう。
   恐らく、供え物が足りないのだ。
   ただの食べ物などでは駄目だ。――



( ´_ゝ`)「『人柱が必要なんだ』」

<_プ−゚)フ「……」

( ´_ゝ`)「その人柱に、妹者が選ばれた、だとさ。
       理由もはっきり言ってくれやがった。
       『存在自体を知らぬ者もいる。あの子がいなくなっても誰も分からない』……。
       反論したら、プギャーに殴られた。
       しかもあいつら刃物とか持ってやがってさ。
       俺と姉者に包丁突きつけて、父者達を脅すんだよ。
       弟者がやめろっつったら、あいつら姉者の脇腹刺しやがった」

<_プ−゚)フ「――刺された?」



128: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2010/10/30(土) 22:57:11.05 ID:x8o5QBlcO

( ´_ゝ`)「あくまで脅し程度。ほんの少し傷付けられただけだから無事だったよ。
       それでも……父者が泣きながら、もう離してやってくれと叫んだんだ。
       そしたらな、『人柱に同意したということだな』とか言って、
       さっさと帰りやがった。
       ……わけわかんねーよな」

<_プ−゚)フ「……兄者」

( ´_ゝ`)「何だ」

<_フ− )フ「……すまない。俺が何も気付けなかったから」

 あのとき、兄者は様子がおかしかった。
 その違和感を感じていながら、エクストは何も踏み込まずにいた。
 ――もっと詳しく訊ねていれば、結果は違っていた筈なのに。

<_フ− )フ「ごめん……」

( ´_ゝ`)「……エクスト様は何も悪くない。悪くないよ。
       俺が、勝手に1人で解決しようとしたんだ。
       あのとき、妹者の代わりに俺を人柱にしてくれと頼みに行ったんだ。
       ――元より、エクスト様に……誰かに助けてもらおうと思わなかった」



129: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2010/10/30(土) 23:00:03.56 ID:x8o5QBlcO

 結局、人柱には妹者以外は認めないと町長が譲らなかったらしい。
 それならばと、急いで家に帰り、皆で町を出ようと話し合ったのだが。

( ∩_ゝ`)「……橋が無かっただろう。
       町を出るにも、橋の反対側、ずっと向こうにある川を渡るしかなかった。
       でもその川を渡るための手段なんか、俺らにはないんだ。
       俺らに船を貸し出してくれる奴なんか誰もいない。
       ……最初から、逃げる手段もなかった」

 そして、早速、その日の夜。
 人柱を実行するために数人の男が押し入ってきたのだという。
 想像していたより早く来たことで不意打ちをつかれ、逃げられなかった。

 流石一家を捕らえたのは、町長と4人の男達、それと。


( ∩_ゝ∩)「神主様と……坊様までやって来て、俺らを縛り上げて、
        橋のところに運んでいった……」


 出連神社の神主、鬱紫寺の住職。
 その2人が流石家を良く思っていなかったのは知っていたが、
 こんなことに協力するだなんて予想外にも程があった。
 ――絶望というものを叩きつけられた気がした。



133: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2010/10/30(土) 23:03:51.23 ID:x8o5QBlcO

 兄者はそのときのことを話しながら、顔を両手で覆った。
 声が震えている。

( ∩_ゝ∩)「みんなには……優しいだろう……神主様と坊様……。
        人を救って下さる方達だろう……。
        なのに……なのにどうして妹者達を救って下さらない……」

 指の隙間から雫が零れた。
 ぱたぱた。テーブルに、一滴、二滴。

( ∩_ゝ∩)「俺……俺と、あ、姉者だけでいいじゃないか……差別するのは……。
        母者も父者も弟者も妹者も、みんなただの人間なのに……」

<_プ−゚)フ「……」

( ∩_ゝ;)

 左手を離し、露になった瞳が、エクストを睨むように見た。

( ∩_ゝ;)「……逆に言えば……俺と姉者のせいで……みんな巻き込まれたんだ……」

<_プ−゚)フ「……誰のせいでもない」

( ∩_ゝ;)「いいや……俺と姉者が化け物なせいだ……」



137: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2010/10/30(土) 23:06:19.63 ID:x8o5QBlcO

<_プ−゚)フ「だから……!」

( ∩_ゝ;)「化け物なせいで……妹者が殺されて……。
       父者が死んで、姉者も死んで……」

<_フ;゚−゚)フ「――!!」

( ∩_ゝ;)「弟者も……出ていってしまう、し」

<_フ;゚д゚)フ「ち、父者達まで死んだのか!?」

( ∩_ゝ;)「……俺が化け物なせいで……」

<_フ;゚д゚)フ「兄者! おい――」



( ∩_ゝ∩)「――デレさんを傷付けた……」



 ひたり、と。
 冷ややかに、時間と空気が凍りついた。



140: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2010/10/30(土) 23:09:38.87 ID:x8o5QBlcO

<_プ−゚)フ「……デレに、何があったんだ」

( ∩_ゝ∩)「……うううう、う……」

<_プ−゚)フ「なあ……最近デレを見ないんだ。デレに何があったんだよ……。
       ……なあ……」

( ∩_ゝ∩)「あ、うあ、……あ……ち、町長、が、橋が直った日に、来て……」





 ――人柱に協力してもらえた代償に、何でも一つ、欲しいものをやろう。


/ ,' 3『何か希望はあるかい』

(´<_` )『……デレさんの』



 婿になりたい。






143: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2010/10/30(土) 23:12:33.73 ID:x8o5QBlcO



 翌日。
 エクストは出連神社を訪れた。
 デレの父親である神主に「デレに用がある」と伝えると
 彼は少し考えた後、エクストを家に招き入れた。

 そして、とある部屋の前に案内する。
 神主が声をかけると、中でがさがさと物音がした。

 「それでは」と神主がエクストに頭を下げ、その場を離れる。

<_プ−゚)フ「……」

 ――兄者の言葉が正しいならば、妹者を人柱にする際、
 あの神主もそれに協力していたことになる。
 だが、今の彼からは、そんな酷なことをするような雰囲気など微塵も感じられなかった。
 いつも通りの、優しい、普通の神主にしか見えない。

 それが、どうにも、嫌な気分にさせられた。


 す、と、障子が静かに開く。

<_プ−゚)フ「デ……」

(´<_` )「やあ。エクソシスト様」



146: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2010/10/30(土) 23:15:45.20 ID:x8o5QBlcO

 デレの名を呼ぼうとしたエクストの言葉は、
 彼と向かい合うようにして立つ弟者の声に覆われた。
 てっきりデレが出てくるものだと思ったエクストは驚き、僅かに後ずさった。

(´<_` )「何だ、その顔の怪我」

<_プ−゚)フ「……そんなの、どうだっていい。
       弟者。デレと話がしたい」

(´<_` )「すればいい。入れよ」

<_プ−゚)フ「2人で話したいんだ」

(´<_` )「駄目だ。目を離したらデレさんに何をされるか分かったもんじゃない……」

 浴衣掛けの弟者は、警戒するような目つきをしてみせた。

 顔が。
 顔が違うと、エクストは頭の片隅で思った。

 以前の弟者には、しっかりとした好青年のような雰囲気があった。
 なのに今目の前にある顔は、暗く、憎悪に満ちている。

 それは間違いなく、妹者の件に原因がある。

<_プ−゚)フ「……わかった、中で話す」

(´<_` )「どうぞ」



148: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2010/10/30(土) 23:18:47.06 ID:x8o5QBlcO

 弟者が退く。
 エクストは足を踏み入れ――室内の空気に、顔をしかめた。

 むっとした熱気。それと。
 男女の、生々しい匂い。

ζ(゚−゚*ζ「……エク、スト様……」

<_プ−゚)フ「デレ……」

 部屋の真ん中に敷かれた布団。
 その上で、上半身を起こし敷布に包まっているデレ。

 辺りに服が散乱し、敷布の隙間から肌の色が見える。

ζ(゚、゚;ζ「や、やだ……見ないで……エクスト様……」

 何をしていたのか、一目瞭然だった。

 思わず顔を背けるエクストの耳元で、弟者が囁く。

(´<_` )「俺とデレさんの子供を作るんだ。
       どこかの誰かにデレさんを奪われる前に」

<_フ; − )フ「……っ」



149: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2010/10/30(土) 23:22:21.91 ID:x8o5QBlcO

(´<_` )「それに、まだ婚約しているだけの関係だから。
       後継ぎを生ませて、既成事実作って、俺を出連家に入れてもらうのさ。
       早く、流石の名を捨てたいんだ。
       悪く思うなよエクソシスト様。恨みたいなら、兄者達を恨め。
       ――さあ、デレさんと話したいことがあるんだろう? 話せよ」

ζ(゚−゚*ζ「……」

 くつくつと喉の奥で笑いながら、弟者がデレの隣に座る。
 デレは涙を湛えた瞳でエクストを見上げた。

 エクストは――


<_フ; − )フ「……邪魔したな……」


 踵を返し、部屋を出た。
 言いたいことがあって、でも言う気になれなくて。
 握りしめた両手がぶるぶると震える。
 何かが、ぎしぎし音を立てて崩れていきそうな心持ちだった。



153: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2010/10/30(土) 23:25:28.56 ID:x8o5QBlcO

 急ぎ足で出連家を後にする。
 本当は、なりふり構わず走り出したかった。
 泣き叫びたかった。

 痛い。胸が、ひどく痛む。


     「エクスト様!」


 鳥居の下を過ぎようとしたところで、エクストを呼ぶ声が後ろから聞こえた。
 エクストの足が止まる。
 この声は、

ζ(゚、゚;ζ「エクスト、様っ……!」

 デレ。

 振り返ると、襦袢を羽織っただけの姿のデレが敷石の上を裸足で駆けていた。
 今にも泣き出しそうな顔。

<_プ−゚)フ「……どうしたんだよ」

ζ(゚、゚;ζ「私に、話したいことがあるって言ってたじゃないですか……!」

<_プ−゚)フ「ああ――」



156: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2010/10/30(土) 23:28:42.83 ID:x8o5QBlcO

ζ(゚、゚;ζ「どうして、何も言わずに行っちゃうんです?
      ……私を見て、嫌になったんですか?
      汚いって、思ったんですか……」

 デレがエクストの前に立つ。
 か細い腕を伸ばし、エクストの胸にしがみついた。

ζ(;、;*ζ「……嫌いにならないで……」

<_プ−゚)フ「デレ……?」

ζ(;、;*ζ「私、私……エクスト様が、好きなんです……。
      本当はエクスト様と結婚したい。
      体も心も全部、エクスト様に捧げたかった……!」

<_プ−゚)フ「――!」

 エクストの心臓が、どくり、大きく跳ねた。
 細かく震える右手で、恐る恐るデレの頭に触れる。

ζ(;、;*ζ「エクスト様、私に何を話すつもりだったんですか?
      何を言ってくれるつもりだったんですか……?」

<_プ−゚)フ「……兄者から、全部聞いたんだ。
       妹者のことや……弟者が、デレの婿になること……」



157: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2010/10/30(土) 23:31:44.69 ID:x8o5QBlcO

 口元に心臓があるように思えた。
 どくどくと激しい脈が、言葉を紡ぐのを妨げる。
 上手く喋れなくて、もどかしい。

<_プ−゚)フ「デレは――それでいいのか、訊きたかった」

ζ(;、;*ζ「……よくないって……嫌、って、言ったら……?」

<_プ−゚)フ「……何とかして止めようと思ってた」

ζ(;、;*ζ「……」

<_プ−゚)フ「――デレ。このまま、弟者と結婚するのか?」

ζ(;、;*ζ「……私は、エクスト様が好きです」

 だけど、と呟く。
 エクストの服を掴むデレの手に、力が篭った。

ζ(;、;*ζ「だけど――弟者君が、可哀相で……。
      あのまま放ってしまったら、今度こそ壊れてしまいそうで……」

 そうしたら、あまりにも救われない――と。
 涙声で、デレは言った。



158: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2010/10/30(土) 23:34:30.98 ID:x8o5QBlcO

ζ(;−;*ζ「……大好きです。大好き……。
      弟者君を愛してあげないといけないのは分かってるけれど。
      それでもやっぱり、まだエクスト様が好きで仕方ないんです……。
      苦しい、自分が嫌になる……。
      エクスト様ぁ……」

<_プ−゚)フ「……」

 デレの肩を掴み、そっとデレを離す。
 見上げてくるデレに、エクストは顔を寄せた。

 互いの唇が触れ合いそうなほどに近付く。



160: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2010/10/30(土) 23:37:31.56 ID:x8o5QBlcO


ζ(;、;*ζ「……エクスト様……」


 だが、エクストは――口付けることなく、デレから離れた。


<_フ − )フ「……」


 やはり、駄目だ。
 このままでいたら、デレをさらに苦しめてしまう。
 デレが救えるかもしれない弟者を、見放すことになってしまう。

 背を向ける。
 鳥居をくぐり、エクストは逃げるようにその場を去った。

 エクスト様、というデレの声が聞こえても、決して振り返らなかった。



162: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2010/10/30(土) 23:40:15.87 ID:x8o5QBlcO





<_フ;−;)フ「……」

 教会に着いたエクストは祭壇の前でくずおれた。

 鳴咽を漏らしながら、懺悔する。



 ――自分は誰ひとり救えない。

 何が起こっていたのか。何をすべきだったのか。
 何一つ知らず、全てに気付いたのは、全てが終わってからだった。
 これから何をすればいいのかも分からない。
 彼らを、彼女を、救う方法が分からない。

 自分は誰ひとり救えない――。





第六話:続く



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