( ^ω^)ブーンはギアスを手に入れたようです

39: ◆FpeAjrDI6. :2006/12/04(月) 01:48:50.52 ID:7jAMFL3B0
  

現実は勿論、彼は夢の中でも意識があることが多い。
特別な訓練をしたわけではなかったが、夢の中では自由に動くことが出来て、全ては彼の思いのままだった。
ただ、それも必ずではない。何となく、今日はいけるな。そう感じる時があるのだ。
それすらも夢の一部なのかもしれないとは思いつつも、その夢を見ることは彼にとって楽しみにもなっていた。

「お……。体が軽いお」

辺りには何も無い。ただ真っ白な空間に自分が一人。
その何ともいえない心地よさに身を委ね、ただひたすらに、その場に浮遊する。
目を閉じているのか、開けているのか。体も原形をとどめていないのかもしれない。ただ心地よかった。
だから彼女の存在にも気付かなかった。

「やぁ、内藤。久し振り……いや、昨日も会ったか」
「お……?」
「また寝ているのか? 少しは外に出たほうがいいぞ」
「止めてくれお……。夢の中でくらい好きにさせてくれお……」



40: ◆FpeAjrDI6. :2006/12/04(月) 01:51:16.28 ID:7jAMFL3B0
  

「君は起きていてもそうじゃないか」
「これは僕の性分だお。どうにもならないお」

そんなこと偉そうに言ってどうする、そんな顔で女性は苦笑した。
内藤にはこの女性が誰だか分かっていたが、分かった上で目を合わせようとはしなかった。

「……考え事かい?」
「…………」
「それなら、尚更。外に出てみるのもいいと思うぞ」
「……把握したお。でも外に出たくないのが問題だからそれは出来ないお」

自嘲気味に内藤は話した。そんな彼に、彼女はため息ひとつで返す。
こんなちょっとした動作にすら、懐かしさを感じていた。



41: ◆FpeAjrDI6. :2006/12/04(月) 01:54:23.79 ID:7jAMFL3B0
  

「なぁ君ならどうする?」
「お? 何だお?」
「力があり、何でも出来る。そんな時、君ならどうする?」
「ん……僕には難しい話だお」

素直な意見だった。彼女の言う力が、いまいちピンと来なかったのもある。
それに、彼女が急に可笑しな話題を提示してくるのも、珍しいことではなかった。

「そうかもしれないな」
「でも、それを悪用したいとか、人を困らせようとかは考えないお」
「……君らしいな。私も、君くらい強くありたい」

彼女が弱弱しく笑い、僕もつられて笑う。
そんな僕がおかしかったのか、彼女も大きく口を開け、笑った。



42: ◆FpeAjrDI6. :2006/12/04(月) 01:56:56.66 ID:7jAMFL3B0
  

「…………」

目覚めは最悪。今日一日、もう何もいいことは起きないんじゃないかと思ってしまうほどだった。
昔のことを夢に見るなど、ここ何ヶ月かずっとなかったというのにと
ボサボサに伸びた髪の毛を掻きながら、内藤は洗面所へと向かった。
寝癖を直すために頭から冷水を被り、すぐにタオルで乾かす。冷たさで目も覚めるため、一連の動作は習慣づいていた。

「えっと……今日は……」

カレンダーを一見し、今日が日曜だということが分かった。
続いて時計を見るのだが、なるほど。休日でなければアウトだった。セフセフ。
パンを一枚取り出しトースターに入れてテレビをつける。何一つ変わらない、今まで通りの生活だった。

「お……メールが着てるお」

相手はドクオ。今日遊ばないかという内容だったが、内藤はその誘いを蹴った。
どうにも、彼らと一緒にいたいと思えなかったからだ。



43: ◆FpeAjrDI6. :2006/12/04(月) 01:59:23.81 ID:7jAMFL3B0
  

「ごめんお、今日は家族に会いに行かないといけないんだお」
「そうか、ならしゃーねーな。ショボには今日は無しって言っとくわ」
「二人で遊べばいいおwww」
「バーローwwwんなこと出来るかwwwww」

数回のメールのやり取りを終え、もう一度布団にもぐりこむ。
ドクオがショボと二人で居たがらないのにはワケがある。分かってて言ったのだ。
僕が行くと言って待ち合わせ場所に行かなければどうなっていただろうか。
考えるだけでも笑えてくるな、と内藤は一人ニヤついていた。

さて、今日はどうしようか。そんなことを考えながら、昨日のことを思い返した。
途端に鼓動が速くなり、手足が震えだす。
彼女に恨みがあったわけじゃないが、そこにいた。たまたま通りかかったから、実験台として選んだのだ。
その場に居合わせてしまった彼女が悪いのだ。

そう自分に言い聞かせた。



45: ◆FpeAjrDI6. :2006/12/04(月) 02:02:06.45 ID:7jAMFL3B0
  

「……そうだお」

内藤はもう一度、携帯を手に取りドクオにメールを送った。遊べるようになった、今からでも大丈夫か。
返事は早かった。ドクオも、助かったと言わんばかりの内容で返した。
ショボに説得しきれなかったのだろう、彼もなかなかの苦労人だ。

「……おっおっお」

「ドクオ、嫌いじゃなかったお」
「ショボも、友達として今までありがとうお」

着替えながら呟く。彼らの存在は自分の中でとても大きく、深くに位置していた。
しかし、それも昨日までのこと。
今までの自分はもう捨てたから。彼らの助けはもう要らない。
いや、これからはもっと助けてもらうのだ。僕の腕として、指先として働いてもらわなくてはならない。

彼は上着を着ると、ゆっくりと扉を開け、外に出た。



46: ◆FpeAjrDI6. :2006/12/04(月) 02:05:32.02 ID:7jAMFL3B0
  

待ち合わせの時間につくには少々早かったが、それも“実験”の時間を考慮してのことだった。

この力が何なのか。
そこまで分からなくとも、その効力について少しでも知りたい。
だから、少々遠回りにはなるが人通りの多い道を選び、早めに家を出たのだ。

前方に、いかにもDQNですと言わんばかりの格好をした集団を見つけた。

「……お前らでいいお。いや、お前らがいいお」

距離にして数十メートル。こちらの声は届かないだろう。
しかし視線には気付いたらしい。仲間の一人が親玉と思われる者にこちらを指差し話している。
僕はなんと言われてるんだろうか。僕が誰だか分かっているのか。
内藤の頭にはそれだけが巡り、回っていた。

ゆっくりと、少しずつ互いに向かっていく。
相手が不快な笑みを浮かべながら近づいてきていることを確認すると、内藤も嘲笑で返した。



48: ◆FpeAjrDI6. :2006/12/04(月) 02:07:33.64 ID:7jAMFL3B0
  

回りは人ごみで溢れている。これなら誰にも聞かれないだろう。

「何だ? お前……」
「全員、この場で服を脱ぎ捨てろお」

彼らにだけ聞こえる程度に、内藤は告げた。
途端、彼の片目は真紅に輝き、その瞳を見た全員が同じくして片目に輝きを持つ。

「……しかたねぇな、脱げばいいんだろ? おーい、てめーら。脱ぐぞー」
「おう、脱いでやるよ」
「まぁしょうがねーよな」

厚着している内藤でさえ、寒さで手が悴んでいる。
季節は冬、既に12月に入ったというのに、彼らはその場で服を脱ぎ始めた。中には女もいる。
すれ違う者も全員が振り返った。それも必然だろう。
公共の面前に、まったく恥ずかしげもなく服を捨て裸でいるのだ。



49: ◆FpeAjrDI6. :2006/12/04(月) 02:10:48.93 ID:7jAMFL3B0
  

ただひたすらに、その場に立ち尽くす。
5、6人ほどの男女が、ただ何をすることもなくその場に立ち尽くしていた。
辺りには人が集まり、それを囲んでいる。
体を震わせ、歯をがちがちと言わせながらただそこに立ち尽くす。

その中の野次馬に紛れ、内藤は叫んだ。

「おまえら馬鹿かおwww やめとけおwww」

その言葉に彼らは即座に反応し、目を醒ましたかのようにその寒さの正体に瞬時に気がつく。
服を着ていない。
辺りには見物人が溢れ、自分を含めた仲間か全員が見世物にされている。
何がどうなっているのか。理解などできずに、ただ寒さに耐えながらその場に座り込む他なかった。

既にその場に、内藤はいなかった。



50: ◆FpeAjrDI6. :2006/12/04(月) 02:13:11.61 ID:7jAMFL3B0
  

「おまたせおー」
「おう……遅ぇじゃねぇか……内藤…………」
「やぁ、速かったね。まだ時間の五分前だよ」

ドクオの目には薄らと涙が溜まっており、ショボは達成感で満ち溢れていた。
何があったのか。聞く必要もない。
彼らには、とても感謝している。そしてこれからもだ。せめて今日だけは気兼ねなく馴れ合っていたい。

「それじゃ、行くかお」
「そうだな。……んでも、行くとこ決めてねーぞ」
「内藤はどこか行きたいところでもあるのかい?」

「……だお。君たちにはついてきて欲しいんだお」
「どこにだよ?」
「僕にだお」



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