( ^ω^)ブーンはギアスを手に入れたようです

17: ◆FpeAjrDI6. :2006/12/25(月) 00:46:50.42 ID:z7/sXiEc0
  

「退け、長岡! 僕の邪魔をするなお!」

しかし長岡は一向に退こうとはせず、向かってくる内藤を見据えその場に立ち尽くす。
激昂した内藤を見ると、長岡は寂しそうに笑う。

「そういや、お前との喧嘩って決着ついてなかったよな……。まぁ、いいか」

内藤が長岡を突き飛ばし、そのまま走り去ろうとするが長岡は内藤の腕を掴み放さない。

「行かせねぇよ。何があったか知らねぇけど、お前が変な方向に向かってるようなら……俺は全力で止めるぞ」
「黙れお! 僕に近づくな!」

内藤の瞳が輝く。





18: ◆FpeAjrDI6. :2006/12/25(月) 00:49:41.27 ID:z7/sXiEc0
  

学校に向かう途中、内藤は今まで疑問をぶつけることにした。
まず、何より聞きたかったこと。内藤が彼女に出会ったときからずっと考えてきたことだ。

「……ツン。聞いてもいいかお?」
「……内容によるわね」

ツンデレは意地の悪そうな笑みを浮かべながら言葉を返す。

「どうして、僕にこの能力を与えたんだお?」

神妙な面持ちで内藤は訊ねた。聞かれた内容に対して全く動じていない様子から、これは聞いてもよかったのだろうと分かる。
問い掛けから数秒。彼女が口を開く。

「最後に分かるんじゃない?」

内藤は不満げに言葉を噤む。期待していた答えを貰えなかったばかりか、余計に疑問が増える結果となってしまった。
ツンデレは変わらずに意地の悪い笑顔で内藤を眺めている。

「最後ってのは、どういうことだお?」
「それもそのうちね。……他に、聞かなくていいの?」

時間は午前十時。既に登校時間は大幅に回っている。
しかし、内藤の歩みが速まることはなかった。

「答えるかどうかは、別だけどね」



20: ◆FpeAjrDI6. :2006/12/25(月) 00:52:54.91 ID:z7/sXiEc0
  

一歩々々、目的地に近づくにつれ内藤の鼓動は速くなる。
今日限りで表向きにすら一般的な生活は出来なくなってしまうことを内藤は分かっていた。
それでも歩みを止めることはしない。しかし足取りは徐々に重たくなっていく。
結局、最後の最後でこの安全で生ぬるい生活を捨て切れなかったんだなと内藤は自嘲した。

「お、そうだお」
「どしたの?」

校舎も既に目前。ここでようやくもう一つ、聞かなければならないことを思い出す。

「前にこの能力……。えーっと、何だお?」
「名前なんて無いわよ。つけたきゃ自分でつけなさい」
「……今更つけようとも思わないお。この前、能力が相手に効かなくなったんだお」

ここにきて初めて、ツンデレが表情を変えた。
分からないわね、と言わんばかりに首をかしげ、そう口にする。

「手順はちゃんと踏んだんでしょ?」
「手順なんかあったのかお。何も説明されてないからそんなもの知らんお」
「あっれ、そんな筈は……」

ツンデレが急に立ち止まる。今度は、おかしいな、と言わんばかりの表情で考え込んでしまっていた。
途端、何か思いついたようにして先ほどの意地の悪そうな顔をすると、ニヤつきながら内藤の後姿を眺め始める。

「アンタ、運悪いね」

ツンデレの言葉は、内藤に届かない。



21: ◆FpeAjrDI6. :2006/12/25(月) 00:56:21.19 ID:z7/sXiEc0
  

規定の時間を過ぎた校門は、いつもと変わらず閉まっている。
閉まったまま開く気配の無い校門を前に、内藤はその場に立ち尽くす。
内藤の遅刻のために、その決まりが変わることは無い。つまりは、内藤は一介の学生に過ぎないということだ。

「…………」
「どうしたの? 入らないわけ?」

ツンデレが急かすと、内藤は微笑みながら返す。

「勿論、入るお。……何か嬉しいんだお」
「何が?」
「……何でもないお」

訳が分からないわ、とツンデレが先に校門をよじ登る。
その様は全く無駄がなく、まず動きが違う。慣れているようにも見える。

「ツン、凄いお……」
「そう? どうやってアンタの部屋に入ったと思ってんのよ」
「ちょっ……。外からからかお? 僕の家、五階だお!?」
「冗談に決まってるじゃない」

そうこう話をしているうちに、ツンデレは鉄格子の頂上に達していた。
スカートを抑えながら一気に降りると、得意げに内藤に微笑む。

「どうよ?」



22: ◆FpeAjrDI6. :2006/12/25(月) 01:00:51.90 ID:z7/sXiEc0
  

「そういえばさ」
「お?」
「何で一人で住んでんの?」

ふいに内藤が立ち止まる。それにつられてツンデレも止まり、振り返る。

「……あれ、聞いちゃ不味かった?」
「いや、そんなことはないお」

一瞬ためらってから、内藤は口を開く。
笑顔がデフォルトの内藤の表情は、あからさま過ぎるほどに暗く落ち込んでいた。

「……僕の実家って結構有名で、簡単な話が金には困らなかったんだお」
「へぇ。お金持ちか」
「いつも両親は出掛けてて、兄弟もいないからいつも一人だったお」

寂しそうな顔で、しかし全く寂しそうには聞こえない声調で話す。
思い出しながら話しているのか、所々で詰まりながらも淡々と続ける。

「誰も居ないのはいつものことだから苦痛には感じなくなっていったお。
 でも、親がたまに帰ってきたかと思うと妙に親面してくるのが堪らなく嫌だったんだお」

口調には怒りのかけらも感じられず、むしろ冷め切った感を感じさせる。
また、先ほどから少しずつ会話から感情が抜けていることに、ツンデレは言いようの無い違和感を感じていた。

「厨二病だお。それで、半ば強引に一人暮らしを始めたんだお」



23: ◆FpeAjrDI6. :2006/12/25(月) 01:03:53.25 ID:z7/sXiEc0
  

「家族、嫌いなんだ」
「無関心なだけだと思うお。むしろ、家族と呼ばないんじゃないかと思ってるお」

彼女にとってはちょっとした興味本位だったため、これ以上続けられても困ると
内藤の言葉を遮るようにしてツンデレは言う。

「まぁ、アンタの家族問題把握してもしょうがないしね。行きましょうか?」
「だお。行くかお」

昇降口には数名の生徒がいる。
丁度、休み時間なのだろう。各々、飲料水を買うなり談笑していたりと自由に過ごしている。
ふと内藤が見渡すと、見知った者がいることに気付く。
それに気付き、ツンデレは先に釘を打った。

「ここから私は一切、手を貸さないから。分かってると思うけど」
「把握したお」
「最後に一つ、言っておくわ」

何だお、と聞き返す前にツンデレは内藤の耳元に囁く。

「この能力。継続力はあるけど、能力自体は持続しないから。覚えておいてね」

振り返ると、既にツンデレはいなかった。



24: ◆FpeAjrDI6. :2006/12/25(月) 01:07:21.71 ID:z7/sXiEc0
  

「……どういうことだお?」

去り際にまで、訳の分からないことを言い消えたツンデレに、内藤は悪態をつきながら校舎へと進んでいく。
結果的には、何も分からなかった。内藤にとって、余計に謎が深まるだけとなってしまった。
しかし今は忘れようと逸る気持ちに身を任せ歩みを進める。

「あれ、内藤じゃねーか。今日はまた大遅刻だな、おい」
「ギコ、おいすー」
「昨日はどうした? お前が途中で帰るなんてな。モララーもとうとう切れてたぜ」

ギコがへらへらと笑いながら内藤に向かう。
ゆっくりと、鼓動の高鳴りを一身に感じながら内藤もギコに近づく。

「……早速で悪いけど、働いてもらうお。僕の為に」
「はぁ? 何言ってんだ、お前……」
「気にするなお。ただ、僕に着いてきて力を貸してくれればいいんだお」

ギコの片目は紅に染まり、同時に内藤の片目も紅に染まる。

「分かった」

途端にギコは俯き、内藤の数歩後ろを常に維持しながらついてくる。
内藤が走れば同時に走り、急に止まれば人形のように急停止をしてその場に立ち尽くす。

ショボの視線に内藤は気付かない。



25: ◆FpeAjrDI6. :2006/12/25(月) 01:10:42.82 ID:z7/sXiEc0
  

内藤が向かうのはショボのいるであろう自分の在籍する教室。
ゆっくりと、しかし着実に近づいていく。
見飽きるほどに何度も通った廊下ですら真新しく感じられる。鼓動も速くなる一方だった。

教室に着くが室内には数名の生徒しか居らず、その中にショボは居なかった。

「……おかしいお。ギコ、次の授業は何だお?」
「…………」

ギコは口を閉ざし、俯いたまま何の行動も起こさない。
内藤は悪態を着きながら教室に入り、次の授業の内容を確認する。
ギコも同じタイミングで動くが、やはり一定の距離を保っているため教室には入らない。

「……体育。外かお」

休み時間中にショボを呼び出すつもりだったため、内藤にとってこれは計算外だ。
授業、学業に対してショボが真面目な人物だということをよく理解しているからこそ
内藤はグラウンドへと急ごうと教室を出る。

しかし、階段を降りようとする内藤の足がそれ以上進むことは無かった。

「やぁ」



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