( ^ω^)ブーンはギアスを手に入れたようです

5: ◆FpeAjrDI6. :2006/12/28(木) 01:19:32.30 ID:duNYm6l4O
  

「やぁ。ようこそVIP高校へ。僕はショボン、ショボでいい。君は?」
白々しくも他人行儀に話しかけるショボ。それに対し、出来る限りの笑顔で内藤も合わせる。
ショボは内藤を警戒し近づく素振りは見せない。
十数段の階段を挟み、内藤は上を。ショボは下を。そこから動こうとはしない。
「僕は内藤……。いや、ブーンだお」
「……ブーンか。分かった」
この会話に意図的なものがあるとすれば、内藤が自分を内藤といわずにブーンと称したところにある。
自分やショボ、一人を除いた過去との決別の意でそう呼んだのだ。
そのことに気がついたショボは一瞬だけ寂しそうな顔をし、しかしすぐ元に戻る。
「君に何があったのか、僕には何も分からない。話す気が無いことも分かってる。
 でも、それによって周りの者が不幸になるのなら、僕は黙ってみているつもりは無い」
そう言い放ち、ショボは内藤を睨みつける。
内藤は一瞬怯み、一歩後退する。
「僕が何をしたって言うんだお……!」
「知らないさ。ただ、自分の目で見たことについては好きなだけ言える。ギコに何をした?」



6: ◆FpeAjrDI6. :2006/12/28(木) 01:22:40.37 ID:duNYm6l4O
  

見られていたのか、と内藤が悪態をつく。
追い詰められ、内藤の思考は少しずつ安易に巡る。鼓動も速くなる。
どうすればいい、この状況を打破するには何をすれば。そんな言葉が常に頭に浮かぶ。
先ほどまでの高揚感も既に消え失せていた。

「それにまだ聞いてない。ドクオはどうした?」
「…………」
「やはり、言えないのか」

ついにショボが階段を昇ろうと一歩踏み出し、一段目に靴を乗せる。
途端に内藤は発狂し、階段を一気に飛び越えるとショボに向け落下する。

「うおおおおおおおおおお!!!!」

飛んでくる。
内藤が行動するよりも早く先に感じていたショボは、すぐに螺旋状の階段の反対側を飛び降りると
その場から立ち去りどこかへと消えてしまう。
内藤が追いかけるが、階段を降りきったときには既にショボはそこに居なかった。

「どこだお!! ショボォォォォーーーー!!!!」

内藤はその場に立ち尽くし、叫ぶ。
声に気付いた担任のモララーが、叫び声の発生源をに駆けつけるまで時間は掛からなかった。



7: ◆FpeAjrDI6. :2006/12/28(木) 01:25:01.79 ID:duNYm6l4O
  

「おい、誰だ校内で叫びやがって……内藤?」
「ショボは!!」
「なっ……。どうした、お前? 大丈夫か? 今日は休みだと思ってたが……」
「ショボを探し出せ! 今すぐにだお!」
「……分かった。だから静かにしろよ?」

モララーは内藤の命令に背こうとはせず、素直に従う。
その場から急いで走り去るモララーの瞳は赤く染まっており、そこに己の意志はない。

「どこに逃げたお……。ショボ……」

その目は深く血走っている。それが、能力によるものなのか興奮によるものか本人にも分からない。

「早く、早く見つけないと……。あいつは邪魔だお……。
 クーの復讐をしないといけないんだお……。だから、だから……」

壁に手を沿えバランスをとりながら、ゆっくりと歩き出す。
先ほどまで血走っていた瞳から涙が零れ始めるが、それを拭おうとはしない。
足取りは酷く不安定だ。

「今まで、ずっと我慢してきたんだお……。クーが消えてから……。
 僕はクーの復讐をしないといけないんだお……。泣いてちゃダメだお……」

内藤は涙を拭い、もう一度歩き始める。



8: ◆FpeAjrDI6. :2006/12/28(木) 01:29:37.26 ID:duNYm6l4O
  

その間も常に内藤の数歩後ろを位置し、ギコは決して離れようとはしない。
存在感すら皆無に近く、ひたすらに内藤についていく。
既に真後ろにもう一つ足音がすることには違和感を感じなくなっていた。

「…………」
「……おい、ギコ。お前もショボを探して来いお」
「…………」
「聞いてるのかお! さっさと行けって言ってるんだお!」

怒鳴りつける内藤に対し、ギコは俯いたまま何の反応も見せない
内藤はギコに違和感を感じ、近くに詰め寄ると顔を覗く。見た限りでは能力の効果は効いている。
不自然な程に真っ赤に染まった瞳がその証拠だ。

「どうしたんだお? 何で言うことを効かないんだお?」
「…………」

沈黙を続けるギコに興味が薄れていったのか、内藤は放っておくことにした。
しかし、内藤が歩き始めればギコはそれにつられて動き出す。
その様はなんとも奇妙で、人形のようだ。

「……どういうことだお。僕は着いてきて僕に従えと言ったんだお?」

疑問が湧いたものの、それ以降このことについて内藤が深く追求することはなかった。
また内藤がこのことについて解決するのも、もう少し先になる。



9: ◆FpeAjrDI6. :2006/12/28(木) 01:33:12.13 ID:duNYm6l4O
  

体育の授業の場所はグラウンドか体育館になる。
内藤は、ショボは授業に混ざっているのではないかと考え始めた。
先ほどの足取りが嘘のように、軽やかに走り出す。同時にギコも走り始める。

「……クラスの皆が居ようが居まいが関係ないお。僕にはこの能力があるんだお」

位置的に近い方に。体育館へと向かうが、すぐに立ち止まる。

「……多分、ショボは体育館じゃないお。
 どうせならいざと言うとき逃げやすいグラウンドに行く筈だお……」

ボソボソと独り言を言いながら向かう方向を変え、後ろについてくるギコと肩をぶつけグラウンドへと向かう。
結果的に、内藤の読みは正しかった。
ショボは常に警戒しつつ、内藤が来れば全員を逃がせるように授業に参加していた。
場所はグラウンド。科目は持久走。
しかし、体育教師のプギャーは担任のモララー不在に動いており、授業には関与していなかった。

つまり、授業は授業として成り立っておらず、各々が自由に動き回っていて
内藤には有利な、ショボに不利な状況となっていた。



10: ◆FpeAjrDI6. :2006/12/28(木) 01:35:55.72 ID:duNYm6l4O
  

内藤がグラウンドに出ると、晴天による日差しが体中に注ぐ。
素直に心地よいと感じられる。

「ショボは……。ショボはどこだお……?」

グラウンド上には数名がその場に座り、話し込んでいた。中には長岡もいる。
授業に従い走っているものも居たが、それもクラスの人数から考えればごく一部だ。
内藤は、地に座り仲間内での会話に花を咲かせているグループに近づく。当然、話しかけるのは長岡だ。

「ショボを、知らないかお?」
「お、内藤か。どうしたんだ? 今日も休みかと思ったぜ」

笑いながら返事をする長岡に詰めより、睨めつけながら内藤がもう一度言う。

「ショボを、知らないかお」

一度目と違い、長岡は冷たく突き放されるような錯覚を覚えた。

「知らない……と思う。多分、その辺にいるんじゃないか?」
「…………」

内藤は黙ったままその場を離れ、指差された方向へと向かい走っていく。
その様子にその場にいた全員が気圧され言葉を失い、黙り込んでいた。

「あいつ……どうしたんだ?」



11: ◆FpeAjrDI6. :2006/12/28(木) 01:39:24.04 ID:duNYm6l4O
  

内藤はグラウンドを離れ、校舎裏へと向かう。すると、そこには案の定ショボが居た。
ショボがいることを確認すると、すぐさま駆け寄り、拳に力を込める。
ショボが振り向くと、既に内藤はショボの目の前にいた。

「まっ……」

ショボが言葉を言い終わる前に内藤の拳がショボの頬に触れ、衝撃を叩き込む。
その場に倒れるが、すぐに立ち上がりショボも反撃の態勢をとる。

「痛いなぁ……。いきなり来るとはね」

はははと笑いながらも、目つきは鋭く内藤に対し敵意を見せ付ける。

「何故だかお前には効かないんだお。だから、手段も選んでられないお」

言葉の意味は理解出来なかったが、内藤を見つめながら少しだけ微笑む。
内藤はその間にポケットから細長く、光るものを取り出す。

「何が効かないんだい? 実に興味深いね」
「関係の無い話だお」

内藤は間合いを詰めながら、右手に掴んだものを再度握りしめる。
確実に、一発で。そう考えていたために、中々動き出せずにいたのだ。

内藤は我慢しきれずに、飛び出した。


12: ◆FpeAjrDI6. :2006/12/28(木) 01:42:39.93 ID:duNYm6l4O
  

クーの敵さえ討てればそれでいい。
その一心で、内藤は二年の時を過ごしてきた。

「うぐッ……うぁぁぁ……」

内藤は思い返す。クーが自宅付近で何者かに刺し殺され、自分の元から消えてしまったこと。
傷心する自分に話しかけてくるドクオやショボ達。彼らの繋がりで悪友も増えた。

「君達には、とても感謝しているお。……そしてこれからも」

右腕の上腕部を抑え、必死に痛みを堪えるショボ。顔は痛みで歪んでいる。
抑えつけた部分からはじわじわと血液が滲み出てきており、腕を伝って地面に垂れる。

「卑怯な真似をしてくれるじゃないか……」

痛みに耐えながら、わざと笑いながらショボが話しかける。
足取りは覚束ないが、その瞳は全く屈してはいなかった。もしくは、屈していないと見せ付けていたのかもしれない。

「……悪いとは思うお。でも手段を選んでいられる程、僕にも余裕がないお」
「それは、良い事を……聞いた……。君には、余裕が無いのか。それなら出来る限り……時間稼ぎを、しようじゃないか」

止めを刺そうと、内藤が飛び掛る。



13: ◆FpeAjrDI6. :2006/12/28(木) 01:45:18.46 ID:duNYm6l4O
  

「待て!!」

突然、後ろから何者かに呼び止められ内藤は動きを止める。
内藤が振り向くと、そこにいたのは困惑した表情の長岡だった。
ナイフを持った内藤に、おそらくそれによって切りつけられたであろう腕から酷い出血をしたショボ。

「何やってんだよ、お前……!!」

長岡の登場に乗じて、ショボが走り出す。目標は目の前の内藤だ。
ショボは右腕を庇いながら左肩で内藤にぶつかり、そのまま何処かへと走って行ってしまう。
振り向いた状態でぶつかられたため、内藤は体制を崩しその場で縺れる。

「待てお!! ショボ!!」
「おい内藤……。今のは……どういうことだ? さっぱりワケが分かんねぇぞ……」

怒りに震え、内藤を睨みつける長岡は内藤が自分に気がついていないことに気付く。
正確には気がついていないのではなく、眼中に入っていないのだ。

「説明してくれ。どうなってる。何がどうなってんだよ……」
「…………」
「言えないってか……」

悪態をつきながら再度内藤を睨みつける。
しかし、やはり自分は内藤の瞳には映ってはいなかった。

「それならよ、俺にもやり方がある。……お前をショボをには会わせねぇ」



14: ◆FpeAjrDI6. :2006/12/28(木) 01:48:29.06 ID:duNYm6l4O
  

ニヤりとした笑いを内藤に見せつけ、何らかの反応を待つ。
すると内藤は俯きながらゆっくりと歩き出し、長岡の元へと歩みを進め始める。
距離にして十数メートル。歩く早さは少しずつ速まり、次第に加速する。気がつけば全速力で走っていた。

「退け、長岡! 僕の邪魔をするなお!」

しかし長岡は一向に退こうとはせず、向かってくる内藤を見据えその場に立ち尽くす。
激昂した内藤を見ると、長岡は寂しそうに笑う。

「そういや、お前との喧嘩って決着ついてなかったよな……。まぁ、いいか」

内藤が長岡を突き飛ばし、そのまま走り去ろうとするが長岡は内藤の腕を掴み放さない。

「行かせねぇよ。何があったか知らねぇけど、お前が変な方向に向かってるようなら……俺は全力で止めるぞ」
「黙れお! 僕に近づくな!」

内藤の瞳が輝く。



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