( ^ω^)ブーンはギアスを手に入れたようです
- 18: ◆FpeAjrDI6. :2006/12/28(木) 01:54:31.02 ID:duNYm6l4O
長岡の、腕を掴む力が抜ける。
同時にくるりと振り返ると、どこかへと去ってしまった。
「困ったお……。また……また見失ったお……」
行く当てが思いつかずに立ち往生する内藤に、真上から、頭上から呼ぶ声がする。
声帯から、女性であることが分かる。
「おぉーーーい、聞こえるぅーーー?」
ヤケに間延びした呼びかけに、内藤は声の正体を理解した。
「ツンかお」
「お、気付いたか。オッケ、それじゃこのまま聞きなさい」
「把握したお。つーか何で屋上に居るんだお」
「眺めがいいのよ。それで、アンタの獲物さん。校内に入っていったわよ。
本当は手を貸すつもりは無かったんだけど、アンタがあまりにも不甲斐ないもんだから」
ツンデレが溜め息をつく。
「ちゃんとやりなさいよね」
「分かったお。でも、ありがとうお」
「いいわよ、これくらい。結局最後は私のためになるわけだしね」
- 19: ◆FpeAjrDI6. :2006/12/28(木) 01:57:21.58 ID:duNYm6l4O
内藤が急いで校舎へと向かうと
ちょうど授業が終わったらしく、クラスメイトは昇降口に集まっていた。
ギコは、もういい、と「ついてこい」という命令を解いておいたため校舎裏で立ち尽くしていた。
「お、内藤。いつにも増して今日は遅いな。もう四時限目だぞ?」
「三時限目だ、兄者……」
流石兄弟が内藤に話しかける。
しかし内藤は気が立っていた。全てはタイミングが悪かったのだ。
「何か文句があるのかお?」
その場にいた全員が内藤の言葉に振り向き、動きをとめる。
しかし、内藤はそれに気付かずに能力を発動させる。流石兄弟は内藤の予想外な反応に黙り込んでいた。
ゆっくりと流石兄弟に近づき、内藤は二人の顔を睨むようにして見つめる。
「お前ら、死んじゃえお」
内藤の瞳が輝き、同時に流石兄弟二人の片目も同じように輝く。
兄弟は辺りを見渡し、何かを探し始める。
しかし、目当てのものが無いことに気付くと、二人は互いに一見し、自らの首を思い切り締め始めた。
その場にいた生徒全員が驚き、怯え、叫び始める。
数秒後、二人はその場に倒れ、死んだ。
- 20: ◆FpeAjrDI6. :2006/12/28(木) 02:00:46.23 ID:duNYm6l4O
「えっ……流石達どうしたんだ?」
「冗談だろ? そんな、マジで死ぬわけねーじゃん……」
「だよな……。おい、内藤、さっさと終わらせろよ! 笑えねーって!」
次々に言葉が飛び出しては内藤に向けられる。
これは内藤にとっても思わぬ出来事だった。この大勢の前で死んでしまうとは思っていなかったのだ。
「どれだけ低脳なんだお……。……失態だお」
その言葉にその場にいた生徒達は青ざめ、叫ぶ。
内藤が流石兄弟を殺した。内藤が流石兄弟を殺した。内藤が流石兄弟を殺した。
口を揃えてそう叫ぶ。
「あぁ、もう。うるさいお……」
クラスメイト達は近づいてくる内藤から遠退くようにして走り回る。
何かおぞましいものを見るような視線を浴びながら、内藤はその場に立ち尽くす。
そこで気がつく。
「もう、こうなればショボなんてどうでもいいお……」
クーの復讐ができればそれで良い。
それなら、既にショボは戦力外で、害でもない。今後使えるとは思えないし、何より手段が無い。
わざわざ始末する必要もないと内藤は考えた。
「あっれ、どうしちゃったわけ?」
- 21: ◆FpeAjrDI6. :2006/12/28(木) 02:04:29.49 ID:duNYm6l4O
校舎から離れ、何処かへと向かう内藤に屋上に居たはずの彼女が話しかける。
しかし、彼女の問い掛けに全く反応せずそのまま歩き続ける。
疲労からか、焦りからなのか、内藤の瞳は既に死んでいた。
「ドクオは……。ドクオは何をやってるんだお……?」
誰に問い掛けているのか、少なくともツンデレではない。
そう感じさせるほどに、彼は草木に向かって話しかけているのだ。
「早く、早くクーを殺したやつを見つけてこいお……。一体何日掛かってるんだお……」
「……ねぇ」
「何だお」
予想していなかった彼の返事に、ツンデレは驚く。
ただの独り言だったのか、と安堵の声を漏らし、しかしすぐに不機嫌そうな表情に変わる。
「どうしたのよ? さっさとショボって子、始末しちゃいなさいよ」
「……ショボはもういいお。元からあいつは関係ないお」
「何に関係ないって?」
「僕の復讐にだお」
内藤の言葉を聞いた途端に彼女は意地の悪い、これまでで一番、飛び切りタチの悪い笑みを浮かべた。
ゆっくりと内藤に近づき、彼の耳元で囁く。
「誰に復讐するのよ?」
- 22: ◆FpeAjrDI6. :2006/12/28(木) 02:08:58.16 ID:duNYm6l4O
「それが、分からないからこうして……!!」
「教えてあげようか?」
ツンデレの言葉に目を見開き、まるで目が覚めたかのようにして内藤はツンデレを見つめる。
その反応を見てツンデレはさも楽しそうに話を続ける。
「知りたいんでしょ?」
「……本当に、知ってるのかお?」
ツンデレに疑いと祈念の入り混じった視線を送り続ける内藤。
彼女の言葉に縋るように、次の言葉を待つ。
「アンタも知ってる人よ」
その笑みに、嘘は無かった。少なくとも内藤にはそう思えた。
約二年の間。待ち続け、追い求めた思い人の敵を内藤自身が知っている。彼女は確かにそう言った。
一層、ツンデレの笑みは深まっていく。しかし内藤の表情は俯いたまま暗く閉ざされており、彼女には確認できない。
「僕が……知ってる」
「そう、知ってる。まだ分からないの?」
二人のもとに、生徒が集まり始める。生徒だけでなく、教師もだ。
中には止血し手当てされたショボが。そのショボの肩を掴み内藤を呼び続けるモララーもいる。
笑みを浮かべながら、彼女が指差す。
- 23: ◆FpeAjrDI6. :2006/12/28(木) 02:12:28.80 ID:duNYm6l4O
ツンデレが指差したのは、内藤。
内藤ホライゾン。
「…………」
「…………」
沈黙が二人を包み、静寂が訪れる。
外野の声も、ゆっくりと少しずつ聞こえなくなってくる。そして、何も聞こえなくなった。
鼓動のゆっくりとした音がよく聴こえる。
「僕……?」
「そう、アンタ。クーって子を殺した、アンタが探していたのは内藤ホライゾンよ」
途端に静まり返っていた内藤の心臓が活発に動き始め、息苦しくなる。
「そんな、そんなわけないお! 僕がクーを殺すわけが無いし、大体僕はそんなこと知らないお!」
「そうね。アンタはブーンだもの。内藤じゃないから知らないかもね」
クスクスとわざとらしく笑うツンデレの胸倉を掴み、内藤が息巻く。
内藤の予想外の行動に反応できず、苦しそうに顔を歪めるが抗おうとはせずにそのまま話し続ける。
「今のは、冗談よ……。でも、さっきのは、冗談じゃ、ない。
クーって子を、殺し、たのは間違いなく、内藤ホライゾン、アンタよ……」
その言葉に力が抜け、それによってツンデレが開放される。
苦しそうに喉の辺りを摩りながら、困惑した内藤に言い放つ。
「忘れてるんでしょ」
- 24: ◆FpeAjrDI6. :2006/12/28(木) 02:16:38.43 ID:duNYm6l4O
「忘れてるんでしょ」
ツンデレの言葉を理解できずに混乱していた内藤だったが、簡単なことだ。忘れていたのだ。
しかし、その一言で解決できるわけもなく、内藤は反論する。
「何を言って……。もし……もしもそんなことがあって、忘れているワケがないお!!」
「なら憶えていないのよ」
「そんなの言葉を変えただけだお! ちゃんと説明しろお!」
内藤が詰め寄り、ツンデレが数歩交代する。また胸倉を掴まれては堪らないからだ。
睨み責め立てる内藤に、ツンデレが苛立ちを隠そうとせず今まで見せたことも無いような表情で睨み返す。
その様に内藤は気圧され口を紡ぐ。
「この能力によって命令されている間の記憶は、曖昧かつ不鮮明。それは使ってて分かってるでしょ?」
この能力とは、内藤の持つツンデレから渡された能力。
これについては分からないことも多く、彼女の以前言った手順と言ったものも分からないままだ。
「それは……知ってるお」
「だったら話は早いわ。要は、それよ」
「だから、そのそれをちゃんと説明して欲しいんだお!」
「クーも、能力を使えたわ」
- 26: ◆FpeAjrDI6. :2006/12/28(木) 02:21:51.82 ID:duNYm6l4O
ツンデレが口を開いてから、数秒。数十秒。もっと経ったかも知れない。
内藤が言葉を発することは無い。
「驚くことも無いでしょうに。アンタが持ってるんだから。勿論、私が与えたのよ」
その言葉を聞き、内藤がやっと口を開く。
「……どうして……。どうして僕はクーを殺したんだお……?」
「どうしてって、もう自分でも分かってるんでしょ?」
内藤は下唇を噛み、感情を堪えている。既に皮膚は切れ、血液が唇から顎に伝っていた。
「彼女が望んだから。彼女が命令したからよ」
ツンデレの言葉に、ついに堪えていた感情を抑えきれなくなる。
そうなることを、ツンデレも感づいていたがあえてそれを回避しようとはしなかった。
「何故だお! そんなの納得出来ないお! 僕が! 僕が!
クーが僕に殺して欲しいはずがないお! あってはならないお!
クーはいい子だったお! 僕はクーが好きだったお! クーもきっと僕を好きでいてくれたお!
なのに、だから、そんな……ことは、絶対、ないんだお……!!」
過呼吸で途切れ途切れになり、涙で言葉が続かない。
ツンデレの表情も次第に変わっていく。笑みから苛立ち、そして哀れみに。
- 27: ◆FpeAjrDI6. :2006/12/28(木) 02:28:37.01 ID:duNYm6l4O
「一つ、勘違いをしていると思うから訂正するわね」
「……何だお?」
「彼女の命令は、“自分を殺せ”ではないわ」
「…………。……どういうことだお」
内藤が縋るように、次の言葉を待つ。
自分が彼女を殺したわけではない。そんな言葉を欲していた。それはツンデレにも分かっていた。
しかし。
「“今あったことを、忘れろ” 彼女はそう言ったのよ」
「……何故、君はそれを知ってるんだお」
ツンデレは本質的な内容は言わず、焦らすようにして一文ずつ区切る。
それが意図的であることに、内藤は気付かない。
「私がアンタに最初に言ったこと、覚えてる?」
「……いや、覚えてないお」
「能力を与える。その代わり、その行く末を私に見届けさせなさい。私はこう言ったわ。
それはアンタだけじゃない。クーも同じ。だから、私はあのこの行く末を見届けた。
だから知ってるの。だから、あの子が何を思ってどう行動をとったかも知ってるわ。」
内藤は一言も喋らない。聞き手にまわり、ツンデレの話を聞くつもりなのだろう。
「クーはアンタに頼んだ。自分を殺して欲しいと。能力は使わずにね」
- 29: ◆FpeAjrDI6. :2006/12/28(木) 02:32:29.39 ID:duNYm6l4O
「それで……僕はそう言われて、彼女を殺してしまったのかお……?」
「そうなるわ。勿論、最初は相当抵抗はしてたみたいだったけどね」
内藤は驚愕し、言葉を失っていた。
「長い間、ずっと話してたわ。どうしても、アンタに殺して欲しいって。
でもアンタは断り続けた。何時間も何時間も、泣きながらアンタに頼んでたわね」
内藤はまた俯き、表情を見えないようにしていた。
また、内藤からツンデレの表情は伺えない。彼女の笑みに、気付くことは無い。
「アンタのそのポケットに入ったナイフ。それ、あの子の物よ」
「えっ……」
「それはいつ、どこで買ったか。分かる? それはクーを殺したときに使うよう渡されたナイフ」
「そんな……。僕は……これで……」
内藤の声が震えだす。
一滴。二滴と頬を伝い、涙が零れ落ちる。
「僕じゃ……僕じゃダメだったのかお……クー……」
「……?」
「僕が一緒に居るだけで、クーは一人じゃないって……孤独じゃないって……とんだ勘違いだったお……」
「…………」
涙は止まることなく、内藤の顔を濡らす。
- 30: ◆FpeAjrDI6. :2006/12/28(木) 02:36:43.57 ID:duNYm6l4O
「ツン……」
「僕は……僕はどうすればいいんだお?」
涙は枯れ、少しずつ視界も広まりつつある。
「僕は、君に一緒にいて欲しいお」
「だから」
内藤の瞳が猩紅に輝く。
泣いた後、というのがよく分かる赤く充血した瞳に真紅が重なる。
「ブーンの命令だお、僕に絶対逆らうなお」
「君は僕だけのものだお。そして、僕以外の、僕への愛情以外の記憶も全て忘れるんだお」
「……分かったわ」
その場に集まった生徒と教師を置き去りに、二人は校舎を後にする。
その後、彼がこの地に戻ることはなかった。
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