( ´_ゝ`)兄者はバルトアンデルスのようです

186: ◆wUOiOOQQF. : 03/10(土) 22:19 HU6T4gaV0
  

番外編

その1:「2月14日のようです」



187: ◆wUOiOOQQF. : 03/10(土) 22:19 HU6T4gaV0
  

季節は冬、天候は晴れ。
地球温暖化のせいか、いてつくような寒さを感じる事はない。
そんな環境である以上、今年も雪が降る気配などはまったくなかった。

そんな冬のある日であるが、寒いものは寒い。
手はかじかんで動きが鈍るし、息を吐けば白く跡を残す。
暖を取る為に暖房やらコタツやらが稼動するので、自然と電気代が上がってしまうという事実。

だが、そんな事はどうでもいい。
今現在最も重要な事は、そんなくだらないモノではない。

最も重要な事は、今日の日付だった。
正確には日付が重要なのではなく、その日にあるイベントが重要なのだが。

今が何月何日なのか。
そして、その日に何があるのか。
無駄に感情が変化する者もいれば、まったく興味を示さない者もいる。

それが今日、2月14日。
いわゆるバレンタインデーというものだ。



188: ◆wUOiOOQQF. : 03/10(土) 22:20 HU6T4gaV0
  

2月14日。
流石家の様子は、普段とは微妙に違っていた。

弟者は鬱に浸り、部屋に籠って出てこない。
妹者はいつになく嬉しそうで、顔がほころびっぱなしになっている。
高岡は一見普段と変わらなかったが、いつもよりテンションが控えめに感じられた。

いまいち落ち着かない者達。
これがいわゆる「無駄に感情が変化する者」という人種だ。



189: ◆wUOiOOQQF. : 03/10(土) 22:20 HU6T4gaV0
  

それに代わって「興味を示さない組」はというと。
普段とまったく変わらぬ様子で、いつものように過ごしていた。

流石家、兄者の部屋。
兄者、いょぅ、クーの3人はそこにいた。
それぞれ楽な姿勢を取り、ダラダラとマンガを読んでいる。

( ´_ゝ`)「バレンタインって何をする日だっけ?」

(=゚ω゚)ノ「なにそれ? それって面白いの?」

(#´_ゝ`)「黙れ! 質問してるのはこの俺だッ!」

この2人、なかなか余裕である。
といっても、ただ単に開き直っているだけなのだが。

( ´_ゝ`)「バレンタインなんて菓子業界の陰謀だよな。なあクー?」

川 ゚ -゚)「……むう、そういうモノ……なのか?」

少し間を空けての返答。
意味ありげな表情で、クーは兄者の顔を見つめてきた。

(;´_ゝ`)「えっ? あ、ああ……」

予想外のリアクションに、思わずどもる兄者。
「質問文に質問文で返すな」と言いたいトコロだが、言えるような空気ではなかった。

クーは「そうか」と言うと、視線を落とした。

うつむくように顔を傾け、ただ黙って床を見つめるその姿。
それは何かを考え込んでるように見え、その場に奇妙な沈黙が訪れた。



190: ◆wUOiOOQQF. : 03/10(土) 22:21 HU6T4gaV0
  

川 ゚ -゚)「――よし!」

沈黙を破ったのはクーだった。
パッと顔を上げて、視線を兄者へと向ける。

そして――

川 ゚ -゚)「チョコを買ってやろうじゃないか」

突然の一言。
しかし肝心なモノが抜けているような気がする。

( ´_ゝ`)「……誰が? そして誰に?」

意外! それは主語ッ!

川 ゚ -゚)「私が」

即答するクー。
その口調はまさに「当然だろ?」と言わんばかりのものだった。

( ´_ゝ`)「誰に?」

川 ゚ -゚)「無論、お前にだ」

またも即答。
まっすぐな視線を向け、しっかりと兄者を見据えたまま。



191: ◆wUOiOOQQF. : 03/10(土) 22:22 HU6T4gaV0
  

( ´_ゝ`)「お前って誰?」

川 ゚ -゚)「お前はお前だ」

( ´_ゝ`)「……俺っすか?」

川 ゚ -゚)「ああ。そういう訳だから今から買いにいくぞ」

クーはそう言い、兄者の手を取った。
そのままくるりと身を翻し、部屋の出口に向き直る
そして――有無を言わさずそのまま引っ張り、せっせと歩き始めた。

兄者は仰向けに寝転がった姿勢で引きずられ、ロクに抵抗する事もできない状態になった。

(=゚ω゚)ノ「拉致ktkr」

(;´_ゝ`)「ちょ……痛いって! 背中がすれるって!」

叫ぶ兄者。
その声が届いたのか、クーは振り返った。
しかし、歩みを止めることはなく、相変わらず進み続けている。

川 ゚ -゚)「いーからいーからー」

( ´_ゝ`)b「テリーを信じてー」

川 ゚ -゚)「さあ行くぞ」

(;´_ゝ`)「アアァァァーーー…………」

ファービーのような声を上げながら、引きずられてゆく兄者。
その声はクーが進むのにつれて徐々に小さくなり、すぐに聞こえなくなった。



192: ◆wUOiOOQQF. : 03/10(土) 22:24 HU6T4gaV0
  

2人が去った後の部屋。
そこにはたった1人、いょぅだけが残されていた。

(=゚ω゚)ノ「……クーもなかなか強引だょぅ」

説明してから歩いていけばいいものを。
ぶっきらぼうというか、考えが斜め上というか。
まあ、それでこそクーらしいような気がしないでもないが。

(=゚ω゚)ノ「でも……兄者は病的なまでに鈍感だからなぁ……」

そう呟きながら、苦笑いを浮かべるいょぅ。
兄者の空気を読まない一言で、その場の空気が崩壊するのが容易に想像できる。

(=゚ω゚)ノ「まあ、なるようになる……のかな?」

自分の言葉に首をかしげる。
はたして、本当になるようになるのだろうか――と。

いいほうに何とかなればそれでいいが。
あっさりとバッドエンドに辿り着く、それが兄者だから。



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