( ´_ゝ`)兄者はバルトアンデルスのようです
- 223:◆wUOiOOQQF. :03/26(月) 22:42 bq+EuED50
その4:「从 ゚∀从高岡の2月14日なようです」
- 224:◆wUOiOOQQF. :03/26(月) 22:43 bq+EuED50
商店街。
特に様子は普段と変わっておらず、相変わらず人でごった返している。
バレンタイン企画を実施している店もチラホラ目につくが、繁盛しているかどうかは微妙だ。
そんな道中を歩く、1組の男女。
片方はやる気のなさそうな男で、もう1人はサラリとした黒髪の女。
他人から見れば恋人同士かと思うその2人組は、チョコレートを買いに出た兄者とクーだ。
そして、そのわずか後方には1人の女。
えらく目立つ赤色の髪が特徴的で、何かを食べているのか口がモゴモゴと動いている。
その女は着かず離れずといった感じで一定の距離を保ちながら、男女の後を歩いていた。
赤髪の女の手には、左右それぞれ別の物が握られている。
左手にはビン入りの牛乳が。
右手には今食べているであろうと思われる、食べかけのアンパンが。
从 ゚∀从「まったく……俺につけられてる事に気付かないのかねぇ?」
怪しく微笑むその女の名は、ハインリッヒ高岡。
兄者とクーの――正確には兄者のだが――の邪魔をするべく、はるばるやってきたのだった。
- 225:◆wUOiOOQQF. :03/26(月) 22:43 bq+EuED50
パンをもうひとかじりして、そのまま牛乳を口に含む。
数回噛んで口の中でミックスさせて、その味を吟味したらさらに牛乳を一口。
その2口目の牛乳でゴクリと喉に流し込み、ふう、と大きく一息つく。
冷たい感覚が喉を通り抜け、なんとなく思考が落ち着いたような気がした。
从 ゚∀从「さぁーて、どうしたものか……」
さて、どうやって邪魔してやろうか。
何をすれば「赤っ恥のコキッ恥」をかかせる事ができるだろうか。
いや――恥をかかせられなくてもいいから、とにかく空気をぶっ壊さなければ。
ん? 待てよ? それなら――
从 ゚∀从「俺が混ざればいーだけの話じゃんwww」
そうだ。
自分も混ざればいいんじゃん。
それなら監視も妨害も同時にできて最高じゃん。
从 ゚∀从「んじゃ早速突撃だな!」
そうと決まれば、実行あるのみ。
確信に満ちた自身と共に、高岡は前方にいる男女目がけて突撃していった。
- 226:◆wUOiOOQQF. :03/26(月) 22:44 bq+EuED50
男の背後に駆け寄って、偶然出会ったかのように話しかけてみた。
从 ゚∀从「よう兄者! ふたりっきりでどこに行くんだ!?」
バン、と背中を叩き、声を掛ける。
けっこう力をこめて叩いたので、それなりに痛いだろう。
叩かれたのが兄者だったら、マジギレして振り向くだろうと思われる。
しかし――
从 ゚∀从「……あれ?」
ノーリアクション。
振り向くことはおろか声すら上げず、まったくの無反応。
川 ゚ -゚)「おお、高岡か」
その代わりに、隣にいたクーが振り返った。
彼女の表情は相変わらずの無表情で、普段と変わらない様子だ。
だが、チラリと見た出かける前の表情と比べると、沈み気味にも見える。
しかし、隣にいる兄者はというと。
通常以上に鬱っぽい顔をして、黙って地面を見つめていた。
从 ゚∀从「……おい兄者、どうしたんだ?」
- 227:◆wUOiOOQQF. :03/26(月) 22:44 bq+EuED50
とりあえず――と思い、声をかける高岡。
兄者の耳に届いたかどうかは分からないが、兄者はゆっくりと顔を上げた。
( ´_ゝ`)「……ん? ああ、なんだ高岡か」
高岡の顔を見て、呟くように一言。
その声のトーンはとても低く、聞いてる側も鬱になりそうなほどだ。
从 ゚∀从「“なんだ”とはなんだよ。俺に失礼だぞ。謝罪と賠償を要求するぞ?」
( ´_ゝ`)「そうか……なら謝るわ。ごめんなさい」
从 ゚∀从「……ん? なんでそんなにテンションが低いんだ?」
( ´_ゝ`)「いやぁ……その、アレだ」
言葉で言いにくいのか、はっきりと答えない。
その代わりに、右手の親指を立て、それでクーを指し示した。
- 228:◆wUOiOOQQF. :03/26(月) 22:45 bq+EuED50
从 ゚∀从「……クー?」
川 ゚ -゚)「なんだ?」
从 ゚∀从「一体どうした? なんで兄者が沈んでるんだ?」
川 ゚ -゚)「ん、ああ……」
从 ゚∀从「wktk」
川 ゚ -゚)「少し……言いにくいのだが――」
- 229:◆wUOiOOQQF. :03/26(月) 22:45 bq+EuED50
川 ゚ -゚)「サイフを持ってきてなかったのだ」
从 ゚∀从「サザエさん乙」
- 230:◆wUOiOOQQF. :03/26(月) 22:46 bq+EuED50
買い物しようと町まで 出かけたが
サイフを忘れて 愉快なクー姉さん
川 ゚ -゚)「笑えよ」
从 ゚∀从「笑えねーよ」
( ´_ゝ`)「俺なんか引きずられてきたんだぜ?」
从 ゚∀从「それは笑い話でしかねーよwww」
なんというか、笑えない。
兄者の事を笑ってはいるが、この状況が笑えない。
家を出る直前のクーは若干嬉しそうだったが、今は違う。
無表情。
彼女の表情は、まさにその言葉通りのものだ。
从 ゚∀从(……これは参ったぞ、オイ)
さて、どうしたものか。
こんな状況では邪魔のしようがない。
- 231:◆wUOiOOQQF. :03/26(月) 22:46 bq+EuED50
3人の間に、沈黙が訪れた。
口を噤んだまま、何一つとして喋らない。
道行く人々の声や騒音は、もはや耳には届かない。
从;゚∀从(さて、どうするべきか……)
重い空気の中、高岡は考える。
この状況を打破するには、どうすればいいのか――と。
まず、ここで邪魔をするのは駄目だ。
この状況でそんな事をするのは、正真正銘の嫌なヤツだ。
かといって、このまま帰る訳にもいかない。
兄者はともかくクーが困っているのに、無視するなんてのは自分が許さない。
まあ、困ってるのかどうかはよく分からないのだが。
ならば、結論は簡単だ。
邪魔する事も無視する事もできないのならば――助ければいい。
- 232:◆wUOiOOQQF. :03/26(月) 22:47 bq+EuED50
从 ゚∀从「……まあ、クー。とりあえず元気出せよ」
川 ゚ -゚)「私は元気だが?」
何を言うか――と、言わんばかりのクー。
「元気だ」と言う割には、その表情はやはり曇り気味だ。
从 ゚∀从「チョコ買うぐらいの金なら俺が出してやるからさ……なぁ?」
川 ゚ -゚)「本当か?」
高岡の言葉に、クーは素早く食いついた。
曇り気味な無表情から、普段の無表情に早変り。
从 ゚∀从「マジマジ」
川 ゚ -゚)「よし。なら早速行くぞ」
从 ゚∀从「イエッサー!」
( ´_ゝ`)「もう帰りたいんだが」
- 233:◆wUOiOOQQF. :03/26(月) 22:47 bq+EuED50
これで、とりあえずの対処はできた。
だが、確かに対処はできたのだが――
从 ゚∀从(なーんか忘れてる気がするな……)
高岡は忘れていた。
「兄者の邪魔をする」という、当初の目的を。
从 ゚∀从(……まっ、どうでもいーか)
そんな事はまったく気にせず、兄者達と歩いてゆく高岡だった。
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