( ^ω^)ブーンの力は役立たずのようです。

2: ◆HGGslycgr6 :2006/12/13(水) 23:51:44.12 ID:l1wU5ufk0
  
(,,゚Д゚)「はい、じゃあ今日の授業はここまで。日直、挨拶と……あと内藤をぶん殴っておけ」

 教師のその一言に皆が後ろの方の席にいるブーンを見て、くすくすと笑い出した。
瞬時にして注目の的となった内藤ことブーンは、大量の視線を浴びながらも大きく口を開けて
気持ちよさそうに寝入っている最中であった。どこのクラスにも授業そっちのけで寝る奴なんて
ごまんといるが、ブーンに関しては自作の『起さないで下さい』カードを置く徹底ぶりだ。
ちなみに裏返すと『披女募集中』と書いてある。明らかに誤字だと思われるが、ブーン曰く
「自分の心を開いてくれるような女を募集中」であって、誤字ではないらしい。

 少し間を置いて日直が簡単に号令を済ませると、教師は苦笑いを浮かべ教室を後にした。
そして視線達も興味を無くしたかのようにいろいろな方向へと散らばり、ブーンの安眠を阻害
する要素も段々と霧散していった。しかし、晴れ行く霧の向こうに鋭い眼光があった。



3: ◆HGGslycgr6 :2006/12/13(水) 23:52:46.20 ID:l1wU5ufk0
  
ξ゚听)ξ「ふー……せいゃ!」
(;-ω-)「う゛っ!」

ブーンの平和だった世界が、凡そその容姿からは想像できない荒々しい言葉を吐き出した
ツンの蹴りによって脆くも破壊された瞬間である。脇腹に強烈な一撃を喰らったブーンは、
為すすべもなくイスから転げ落ちて床に全身を強打し、床にうずくまってしまった。
ゆっくりと落ち着いて綺麗なその足を元の位置に下ろすツンとは対照的に、ひゅっ、ひゅっ、と
聞いているだけで息が詰まりそうな声を出してブーンは必死に生を渇望するばかりであった。

('A`;)「うわ……今度こそ折れたかもな」
( ´_ゝ`)「OK、パンチラゲット」
(´<_` )「流石だな。兄者」

しかしそれでも静まらないツンは邪魔な椅子を放り投げ、蹲り悶えるブーンに対して腕を組んだまま
罵声を浴びせる。



4: ◆HGGslycgr6 :2006/12/13(水) 23:53:31.37 ID:l1wU5ufk0
  
ξ#゚听)ξ「さっさと起きなさいよ! もう学校終わるわよ!」
(;-ω^)「な、なんか、ひゅお! げ、原因不明の強烈な腹痛の所為で立ち上がれな、ひゅおっ!」
( ::)_ゝ`)「OK、椅子もゲット」
(´<_` ;)「流石だな。兄者」
(*゚ー゚)「は〜い。そろそろ先生来るから、座って座って」
ξ゚听)ξ「はいはい、『愛しの』ギコ先生が来るんだもんねぇ」
(*゚ー゚)「あ〜、あ〜、聞こえな〜い。ボクには全然聞こえませ〜ん!」

しぃの一言でブーンの周りに集まっていた生徒達、延いてはツンまでもが憎まれ口をたたき
ながらではあるが、各自の席へと戻っていった。
彼女には担任であるギコとのあだ名が立っていて、最早真実か冗談かもわからない程に
一人歩きしている。それに乗じて色々と適当なことをでっち上げるのを楽しむものも少なくない。

(,,゚Д゚)「今日は特に連絡は無いぞ。まだ火曜だけど明日もちゃんとサボらずに来いよ。
     あと流石の弟、早く自分の教室に帰れ」
(´<_` )「先生、流石d――」
(,,゚Д゚)「帰れ」

しょんぼりと教室を出て行く弟者を見送ってギコが日直に目配せをして号令をかけさせると、
皆が適当に挨拶をし、ダラダラと机を教室の後ろの方へと下げ始めた。
HRの間に幾らかは回復したブーンも皆に従いよろよろと机を下げ、その後力なく床に座り込んだ。



5: ◆HGGslycgr6 :2006/12/13(水) 23:54:41.31 ID:l1wU5ufk0
  
(´・ω・`)「災難だったね」
(;^ω^)「と言うか何が何だか分からないお」

苦しそうな表情を見兼ねてか、ショボンが座り込むブーンに話しかけた。
教室は掃除の真っ最中の為、日光を反射する埃のベールが見られ、ショボンは隣に座るのを
躊躇った。そんなショボンの様子を見てブーンは体を曲げながらも、ゆっくりと立ち上がる。

( ^ω^)「ところでツンはどこだお?」
(´・ω・`)「さぁ。でも会っても問い詰めない方がいいと思うよ」
( ^ω^)「……ツンがやったのかお?」
(´・ω・`;)「え? いや、そんな、ではなかったような……」

ショボンが急に耳たぶを触りながらキョロキョロし始めた。差し詰め告げ口でもされるとでも
思っているのだろうがブーンはそんなことをするつもりなどサラサラ無かったし、寧ろ
そんなことをすれば逆に男として情けないともう一発追加されるだけだった。
そんな要らぬ心配にうろたえる内気なショボンの声が届いたのか、彼の元に一人の男が現れる。



7: ◆HGGslycgr6 :2006/12/13(水) 23:55:44.48 ID:l1wU5ufk0
  
(`・ω・´)「ショボン、掃除終わったよ」
(´・ω・`)「あぁ! シャキンちょうど良い! じゃあ一緒に帰ろうか」
(`・ω・´)「……え? あ、あぁ」

現れた男、シャキンはショボンの双子の兄弟で、二人は絵に描いたような仲良しの兄弟である。
毎日のように登下校を共にしていて、傍から見ていて微笑ましいものであるのは間違いない。
ショボンはブーンに軽く手を上げ挨拶をすると、シャキンを引っ張って教室を出て行った。
一応はショボンのほうが兄らしいのだが、見るたびにシャキンの方がしっかりしている兄の
ように見えて仕方ない。
そんなくだらない事を考えた後、ブーンは自分も帰ろうと机の上に置いていたトートバッグを取り、
二人の後を追うように教室を後にした。

 先ほど仲良し兄弟を見送って一人で教室を出たブーンではあるが、彼にも実のところ家が
近所ということでいつも登下校を共にしている人物が居た。
クラスメートと話しているその人物を廊下で見つけ、ブーンは大きく手を振りながら名前を呼ぶ。



8: ◆HGGslycgr6 :2006/12/13(水) 23:56:30.38 ID:l1wU5ufk0
  
( ^ω^)「お〜い、ツン。一緒に帰るお〜」
ξ゚听)ξ「……」

名前を呼ばれたツンだが、ブーンをチラリと見ると返事をする事無くまた会話へと戻ってしまう。
勢いよく上げてしまった手はその意味を失い、だらしなく宙を彷徨った。傍から見れば恥辱に
塗れたブーンが哀れに思える場面だが、実は辱めを受けているのはツンの方なのであった。
登下校を共にしているのは勝手な妄想と言うわけではなく事実なのだが、ツンはその事実を
非常に恥ずかしがっており、別々に学校を出たりして皆に覚られないようにしようとブーンにも
協力を仰いでいたのだ。
いつもならツンの意見を尊重して大人しく帰るところだが、今日ばかりは彼女に悪事は巡る
ということを分からせなくてはならない、と敢えて行動に出たのだ。
今頃恥ずかしさの頂点だろうツンを想像しながら、ブーンはニヤニヤしながら学校を後にした。

川 ゚ -゚)「いいのか?」
ξ゚听)ξ「何が?」
川 ゚ -゚)「いや、内藤が可哀想じゃないか」
ξ゚听)ξ「何言ってるか分からないし。私もう帰る」
川 ゚ -゚)「……ふぅ、付き合ってられないよ」

急ぎ気味に廊下を駆けていくツンの後姿を最後まで見る事無く、クーはチラリと時計を見て
図書室へと足を運んだ。果たして自分はどうするべきなのだろうかと、そんなことを考えながら
廊下に差し込む日差しを避けるようにクーは歩くのだった。



9: ◆HGGslycgr6 :2006/12/13(水) 23:57:33.15 ID:l1wU5ufk0
  
 後ろをチラチラ気にしながらブーンは学校前の下り坂をゆっくりと歩いていた。
と、突然ポケットの中で携帯のバイブが震えるのを感じ、もしやツンではとブーンは慌ててとりだす。

( ^ω^)「……なんだ」

だが届いたメールの送り主はドクオで、内容は簡潔に『遊ぼうぜ('A`)』と書いてあるだけであった。
ブーンも丁度誰かと遊びたい気分だったので、いつもなら今すぐにでも電話をして詳細を
決めるところなのだが、このドクオと言う男、携帯の電話に出た例がない。
専らメールばかりをその手段として好み、電話すること、されることを嫌がるのだ。
しかしながら今となってはそんな癖も慣れたもので、ブーンは場所や時間の適当な案を
打ち込んでドクオに送信した。

 丁度携帯が送信完了の画面を映し出した時目の前の脇道からツンが現れコチラをチラチラ
見ながら歩いていた。遠くから見ても顔が真っ赤なのがよく見える。そんなツンを見つけると
ブーンは軽い高揚をその胸に抱きながら、ツンに再度一緒に帰ろうと声をかけた。

( ^ω^)「ツン、一緒に帰るお」
ξ#゚听)ξ「もう! バカ! なんであんなことするのよ!」
( ^ω^)「因果応報……悪事は巡り巡って今ツンのところへ来たんだお」
ξ#゚听)ξ「アンタが持って来たんじゃない! あーもう明日からどうすればいいのよ……」
( ^ω^)「別々に帰れば問題ないと……」
ξ゚听)ξ「なんで私が一人で帰らなくちゃいけないのよ。本当はもっと頼れる人がいいんだけど、
       ……まぁあんたでも暇潰しの相手位にはなるでしょ?」
( ^ω^)「いや、別に頼れる人なら他にも……」
ξ#゚听)ξ「うるさい! しつこい! 死ね!」



10: ◆HGGslycgr6 :2006/12/13(水) 23:58:20.99 ID:l1wU5ufk0
  
そう言って先に駆けて行き、少し小さくなったツンの後姿を見て大きくため息を吐くと、また
文句を言われる前にと追いついて、その歩調を合わせた。こんなツンだが、こうして並んで
歩きながらふと横顔を見た時に、その顔を隠すように風に揺れるツンの少し癖のある髪の毛を
見るのも、時々吹いてくる風に乗ってくるその香りが鼻をかすめていくのを感じるのもブーンは
好きだった。綺麗だった。ツンが愛しいとかそんな感情ではなく、たしかにツンが綺麗だったのだ。

ξ゚听)ξ「どうしたの? そんなキモイ顔して。クリスマスはまだよ」

そしてその口さえ開かなければと心から思った。

( ^ω^)「いつかその口、二度と開かないようにしてやるお……」
ξ#゚听)ξ「……は?」
( ^ω^)「え?」



11: ◆HGGslycgr6 :2006/12/13(水) 23:58:55.80 ID:l1wU5ufk0
  
 そろそろ何か話題を出さないと家に着くまでずっと無言になってしまうと、ブーンは色々と
最近あったことなんかを頭の中で考え始める。けれども頭がよく働かない。どんな話ならば
ツンが喜ぶだろうか。良さそうな話題を頭の中で色々と選別をしていると目の前に見慣れた
クラスメートが現れた。

( ゚∀゚)「お? ブーンとツンじゃん。……はんはん、仲が良いねぇ」
ξ゚听)ξ「別に、たまたまさっき会っただけよ」
( ゚∀゚)「はんはん、さいですか」

二人に絡んできた男、ジョルジュはツンにあっさりと否定されながらも思うところがあるようで、
ブーンの両肩に手を乗せると、その目を真っ直ぐと見て呟いた。

( ゚∀゚)「……『ホウレンソウ』な」
( ::)ω^)「御期待には添えそうにも無いお」

ブーン達男連中には、色恋沙汰だけは隠し事無しで行こうと言う固い誓約があったのだ。
『ホウレンソウ』言わずと知れた、報告、連絡、相談である。ジョルジュはその誓いを今一度
確認して満足したのか、何かを口ずさみ右手を振りながら坂道を軽やかに降りていった。

ξ゚听)ξ「ホウレンソウって?」
( ^ω^)「男の誓いだお……つか丸聞こえかお」
ξ゚听)ξ「何よ、私に隠し事?」
(;^ω^)「か、隠し事って……。わざわざ言うほどの事じゃないだけだお」
ξ#゚听)ξ「ふーん……そんなに口を開くのが面倒なら手伝ってあげるわよ」
(;^ω^)「い、痛っ! らめぇ! そんなに激しくしたら大事なとこ裂けちゃうううぅぅ!」
ξ゚听)ξ「うわっ、サイッテー。不潔」
( ^ω^)「……すぐにわかるツンもどうかと思うお」

そんな感じでツンに小突かれながら下る坂道は、ずっと先まで楽しそうな道が続いていた。
毎日がただ、充実している。そう感じていた。



12: ◆HGGslycgr6 :2006/12/13(水) 23:59:45.54 ID:l1wU5ufk0
  
 ツンと別れた後、ブーンは家に帰り鞄を置くと、すぐにドクオの家へ向かった。
引きこもりがちのドクオは日頃ゲームばかりしているのだが、対戦ゲームはからきしダメなのが
特徴だ。本人曰く「相手が居ない」らしく、またネトゲに明け暮れるばかりで、テレビの前で
コントローラーを握る、と言うこと自体あまりしないらしい。とは言ってもゲーム機を繋ぐのも
パソコンなわけで、所謂テレビと言うものは部屋には無い。
家へ到着するなり、ブーンはいつも通り呼び鈴は鳴らさずにワンコールをする。これが合図なのだ。
程なくして玄関のドアが開き、不幸に塗れたようなやる気の無い顔が出迎えてくれた。

('A`)「よぉ」
( ^ω^)「楽天でーす。みかん100箱届けに来ましたー」
('A`)「いや、俺こどものじかんしか頼んでないし」
( ^ω^)「きめぇ」

こんな感じでいつも冗談を言っては笑いあう習慣になった挨拶のようなものを交わし、
家の中へとあがった。階段を上り、一番奥にドクオの部屋がある。勿論部屋の中は汚い。
せめてもの救いなのが、食べ物のゴミだけは無いと言うところである。本やらゲームの
箱の他に、さすがに少し止めて欲しいと思う脱ぎっぱなしの服など、絨毯代わりとも思える
ほどに床が埋め尽くされている。
例外なく本日も分厚い絨毯が敷かれていたが、予想外だったのは既に他にも友達が
来ていたことだった。



13: ◆HGGslycgr6 :2006/12/14(木) 00:00:22.69 ID:8N3abdHZ0
  
( ^ω^)「おや、今日の地質調査は君も参加かね」
(`・ω・´)「えぇ、何せここの地層には太古のロマンが眠ってますからね」
(´・ω・`)「この前なんてバーコードバトラーが出てきたしね。しかもファミコンと繋がったまま」
('A`)「あのあと姉貴に怒られたんだよ……昔姉貴に借りた物だったらしくてさ」
(´・ω・`)「昔って?」
('A`)「えーと……俺が幼稚園行ってたくらい」
(;^ω^)「……この扉の手前で大掃除の文化は絶滅してるお」
('A`)「何回かは片付けてるはずなんだけどな。不思議だよな」
(`・ω・´)「いいから、4人集まったんだし、早くゲームしようよ」
( ^ω^)「賛成」

そう言って4人はぞろぞろと隣の部屋へ移動を始める。
先述のとおりドクオの部屋にはテレビが無く、1人でRPGをするときなど以外は隣の部屋にある
テレビで行うのだ。隣の部屋は教師をしているドクオの姉の部屋で、平日はほぼ夜遅くまで
帰ってこないため、こうして友達を入れてゲームをすることも少なくは無い。なにより、本人が居ても
一緒に混ざってゲームをすることすらあるので、罪悪感といった類のものは感じない。



14: ◆HGGslycgr6 :2006/12/14(木) 00:01:26.10 ID:8N3abdHZ0
  
('A`)「姉貴がどっか行きゃこの部屋も俺のものなのになぁ」
( ^ω^)「博士、また新たな地層が生まれそうですな」
(`・ω・´)「うむ、今度はその成長過程を是非記録してみたいものだな」

先ほどとは逆の立場を演じ、フザケながらドクオが配線を済ませるのを3人は待った。
待っている間、お構い無しに部屋をキョロキョロと観察するのだが、いつ見ても簡素で、
本棚にも漫画や小説が色気無く並び、個人を感じる、例えば卒業アルバム等といったものが
全く無い、まるで本屋のような本棚なのである。ある日ブーンがその事をドクオの姉本人に
尋ねてみたところ、「邪魔臭いから全部捨てちゃったの」とにこやかに返事をされたのだった。
過去にあまり囚われないサバサバした人なんだなとブーンは妙に納得した記憶がある。

('A`)「で、今日は何するよ」
(`・ω・´)「格闘」
( ^ω^)「レース」
(´・ω・`)「野球」
('A`)「ウチには4人対戦の野球なんかねーよ」

なんだかんだと議論しながらも結局いつもの4人が同時に出来るシンプルなミニゲームの
詰め合わせのようなものを日が暮れるまで遊ぶのであった。

(;^ω^)「もう戦えないお……」
(`・ω・´)「親指の皮が剥けるようじゃまだまだだね」
(´・ω・`)「シャキンがやりすぎなだけだよ」
('A`)「俺だって皮が剥けたことはねぇぜ」
( ^ω^)「一つ下の男め」
('A`)「うるせー。日本には6割の俺の同士がいるんだよ」

わはは、と笑いその後しばらくその話を引きずった後、頃合を見て3人はドクオの家を後にした。
シャキンだけはまだ遊び足りないと言っていたが、それもいつもの挨拶のようなもので、夕日が
完全に顔を隠すまでには皆が皆それぞれの家路へとついた。



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