( ^ω^)ブーンの力は役立たずのようです。

49: ◆HGGslycgr6 :2006/12/14(木) 00:30:47.30 ID:8N3abdHZ0
  
(,,゚Д゚)「おーし、今日もドクオ以外全員居るな」
('A`)「先生! 俺居るって!」
(,,゚Д゚)「……おい長岡、ドクオにそっくりな弟かなんか居なかったか?」

クラスの前列から軽い笑い声が聞こえた。

(,,゚Д゚)「まぁ、それは冗談として。じゃあ今日は全員揃ってるんだな。……内藤、お前は
     早起きをすると流血するのか? ……生きてる、よな?」
(????)「多分悪いことをしたからだと思いますお」
ξ;゚听)ξ(ごめん、ちょっとやりすぎたわ)
(????)(別に気にしてないお。と言うよりなんかもうよく憶えてないお)
(,,゚Д゚)「よし、じゃあ終わり」

ギコが教室から出て行くなり、ドクオが立ち上がってブーンの元へとやってきた。堪えきれない
笑みが口元を歪めているところを見ると、よほど何かを言いたかったに違いない。



50: ◆HGGslycgr6 :2006/12/14(木) 00:31:45.62 ID:8N3abdHZ0
  
('A`)「さて、そろそろ話をするときが来たようだな」
( ^ω^)「レアアイテムでも手に入れたのかお?」
(´・ω・`)「おはよー、ドクオ。今日は早いね」
( ´_ゝ`)「む? また何かあったのか?」
(*゚ー゚)「なになに〜?」
ξ゚听)ξ「どうせまたつまんないことでしょ? ほんと、大袈裟なんだから」
('A`)「お前らそんなこと言ってられるのも今のうちだぜ。なんせ俺は無敵なんだからな」
ξ;゚听)ξ「……」
(;´_ゝ`)「……」
(´・ω・`)「……ドクオ、一旦気持ち切り替えて、ね? ここは現実世界だよ?」
('A`;)「バーチャルと混同してねぇよ! いいからほら、ブーン俺の腹殴ってみろよ」
(;^ω^)「えぇぇ……ドクオ体細いから大変なことに成りそうだお」
('A`)「ほら、いいからやれって」

自信満々に腹部を突き出してくるドクオの表情を見て、ブーンは数秒間戸惑ったが、生き生きと
した目をしているドクオを裏切るわけにはいかないと、立ち上がり拳を固め上体を捻り、そのまま
引く事無く真っ直ぐ突き出した。



51: ◆HGGslycgr6 :2006/12/14(木) 00:32:25.74 ID:8N3abdHZ0
  
('A`)「っぁ!」

大方の予想を裏切る事無く、声にならない声を上げドクオは後方に転がり動かなくなった。

(;^ω^)「あぁぁ……だから言ったお」
ξ゚听)ξ「アンタこの歳で前科持ちとは、可哀想にね」
( ゚∀゚)「なんだなんだ?」
( ´_ゝ`)「ドクオが死んだ」
('A`;)「い……生きてるっつうの……」
(´・ω・`)「ドクオ、どこが無敵なのさ」
('A`;)「い、いや……こんなはずじゃ……」
ξ゚听)ξ「やっぱりちょ〜っと頭が混乱してたみたいね」
(;^ω^)「さっきの自信はどっから来たんだか……」
(´・ω・`)「そうそう――」
(´・A・`)『お前らそんなこといってられるのも今のうちだぜ! シャキーン』
(´・ω・`)「とか恥ずかしいこと言ってたよね」
( ^ω^)「ぶはは! ショボン似てるお!」
('A`;)「死にてぇ……」
(*゚ー゚)「……」
ξ゚听)ξ「はい、解散解散」



52: ◆HGGslycgr6 :2006/12/14(木) 00:33:05.51 ID:8N3abdHZ0
  
号令とともに皆が席へと戻っていく中、しぃの動きが少しおかしいことにツンが気付いた。
フラフラと覚束無い足取りで、机に手をついたりしながら歩いているのだ。それに左手を
時々お腹に当てたりと、様子がおかしい。しぃは確か重い方ではなかったし、心なしか
若干蟹股のような気がするのが気にかかった。

ξ゚听)ξ「まさか…… ねぇ、しぃ」
(*゚ー゚)「何?」
ξ^ー^)ξ「おめでとう」
(;゚ー゚)「な、何!? その満面の笑み」
ξ^ー^)ξ「そっかぁ〜、しぃも大人になっちゃったかぁ。先越されちゃったなぁ。で、誰?」
(;゚ー゚)「さっきから何の話してるの!? 誰って何さ!」
ξ゚听)ξ「まぁいいわ、そのうち分かることだろうしね」
(;゚ー゚)「なんか嫌な予感がする……」



53: ◆HGGslycgr6 :2006/12/14(木) 00:33:59.99 ID:8N3abdHZ0
  
 ただ教科書を開いて話を聞き流す授業を過ごす生徒が大半のこのクラスで、授業中に毎回
筆記用具は使用する者は少ない。そんなクラスでいつも筆記音を鳴らしているのがクーである。
一体何をそんなに書くことがあるのかと言う位いつも真剣にペンをノートの上に滑らせている。
ブーンは授業中の暇潰しを、そんなクーをボーっと観察することで行った。普段から大人しい
彼女が考えることは全く想像が付かないし、彼女の情報といえば本が好きなことと昼食を食べない
ことくらいなものだ。誰かと群れることも無く、冗談を言って人を笑わせるようなことも無い。
人を突き放すような態度を取るわけではなく、自ら人に近づこうとしない彼女は寂しくは無いのだろうか。
適当なことを考えながらクーの背中を見つめている内に、黒板に書いてあった文字はほとんど
入れ替わってしまっていた。と、ここである違和感がブーンの胸中に湧く。

( ^ω^)(……あれ? クー、一度か顔を上げたかお?)

そこでブーンはずっと顔を下に向けノートを凝視しながらペンを持つクーが、黒板を一度も見て
いないことに気付いた。だとしたら、あのノートには一体何が書き込まれているのだろうか。
絵でも書いているのだろうかとも思ったが、それにしては線を引いている様子も無く、行ごとに
文字を書いているようにしか見えないので、どうやら文章と見て間違いないだろう。あのクーが
書くのだからもしかしたら小説の類なのかもしれない。それならば今度それとなく聞いてみて
読ませてもらうのも面白いだろうとブーンは考え、それきりクーの観察をやめた。



54: ◆HGGslycgr6 :2006/12/14(木) 00:35:13.52 ID:8N3abdHZ0
  
 午前最後の授業が終わり、教室に活気が沸いてきた昼。まだ皆が机の上で色々と片づけ
やらをしている時に弟者が前の方のドアを開け教室にやってきた。辺りをニ、三度見回すと
近くに居たジョルジュに話しかけた。

(´<_` )「長岡さん、兄者は……」
( ゚∀゚)「ん? そういや、居ないな。何か用でもあったのか?」
(´<_` )「えぇ、でも居ないのならいいです。では」

軽く会釈して出て行く弟者を見て、ブーンは昨日のツンの怪奇現象はどうなったのかと引き止めて
聞こうかとも思ったが、どうせ後で兄者に会うだろうと聞くのを止めた。当のツンと言えば
いつものようにしぃと何やら談笑しているようだし、体の具合が悪いようには見えなかった。
一息つくと、ブーンはまたいつものように弁当片手に廊下を彷徨いに出かけた。

 そんなブーンを横目で一度見て、ツンは会話の続きを促した。

ξ゚听)ξ「ねぇ、そろそろ白状しちゃいなさいよ。昨日何かあったんでしょ?」
(*゚ー゚)「だからぁ、何も無いって言ってるのに〜」
ξ゚听)ξ「アンタとどれだけ長い付き合いだと思ってるの」
(*゚ー゚)「はぁ〜……ツンと出会ったのがボクの人生で最大の失敗だよ……」
ξ゚听)ξ「言ってなさい。……あれ? あんた風邪でも引いてるの?」
(*゚ー゚)「ん? なんで?」
ξ゚听)ξ「だって、ほら……」

そう言ってツンは口が全開になっているしぃの鞄から、よく見るような風邪薬の瓶を取り出した。



55: ◆HGGslycgr6 :2006/12/14(木) 00:35:53.99 ID:8N3abdHZ0
  
ξ゚听)ξ「咳止め? アンタこんなの裸で持たないで……あら、でも空ね」
(*゚ー゚)「あぁ〜……うん、実はねその中にはお菓子が入ってたんだよね。ついでに捨てといて」
ξ゚听)ξ「何のついでよ……で、お菓子って?」
(*゚ー゚)「小粒の飴とかそういうのをね。ほら、ウチの学校って見つかると色々ウルサイじゃない」
ξ゚听)ξ「でも薬の瓶にそんなカラフルなもの入ってたら気づくんじゃないの?」
(*゚ー゚)「それが全然なの。ボク一度先生の目の前で中身食べたことあったんだけど、そしたら
     『風邪か? 無理するなよ』だって! ボクもうちょっとで飴玉吹き出すところだったよ!」
ξ゚听)ξ「ふ〜ん……随分先生と仲が良いのね? もしかしたら相手は噂の先生かしら?」
(*゚ー゚)「もう! そんな事言うならツンだって最近内藤君とどうなのさ」
ξ;゚听)ξ「な、今は私の話は関係ないでしょ」
(*゚ー゚)「へぇ〜……何かあったんだ? そうでしょ」
ξ;゚听)ξ「何も無いわよ!」
(*゚ー゚)「じゃあボクも何も無〜い。ね? お弁当食べよ!」
ξ゚听)ξ「はぁ……そうね」

少しは聞いて欲しかったような気もしながら、ツンは黙って弁当の包みを開け始めた。



57: ◆HGGslycgr6 :2006/12/14(木) 00:37:03.00 ID:8N3abdHZ0
  
 一方廊下を彷徨い続けたブーンは、結局いつもの通り図書室へと足を運んだ。ドアを開けると
同時に鼻を掠める黴臭いような臭いが却って心を落ち着かせる。まだ本の良さなんてものは
分からないブーンだが、煌びやかな電飾も無く人々の喧騒も無く、それでいて生身の人間より
余程押し付けがましくない古人達の知識が整然と陳列されているのを見ると、その日焼け具合や
埃の被り具合、またその堂々とした居住まいなどから歴史の重みというのが感じられて、
しみじみとしてしまう。
そしてブーンはクーとの話のきっかけを作ろうと、少し大きめの声で馬鹿げた演技を始める。

( ^ω^)「これは……また年代物の良書ですな。それでいてこの保存状態! う〜む、ここの
    管理者は余程お目が高いと見える。おや、これは『ホソユキ』ではないですか。私は
    この人の文体の美しさが……」
川 ゚ -゚)「『ササメユキ』、な」

入室の時に一度チラリと見たきりのクーが呟いた。ブーンはそれを会話の糸口にしようと
更に話を続ける。

( ^ω^)「そうそう、主人公のササメ ユキちゃんがまた可愛くて……」
川 ゚ -゚)「内藤……無理しなくていいぞ。何か言いたいことがあるんじゃないのか?」
(;^ω^)「ご、ご冗談をフロイライン。この英国紳士内藤ホライゾンがそのような遠まわしな
    行為を行うはずがないじゃないですか」
川 ゚ -゚)「国がグチャグチャだな。それにお前がフザケる時は決まって隠し事をしている時だ」
(;^ω^)「お……」

ブーンは痛いところを突かれて思わず戯けることを忘れてしまった。たかが一、二秒の事とは
言え、物事の連なりの切れ目に人は異常なまでに敏感で、この1、2秒は切れてしまった
時点で既にほぼ永遠と変わらないほどの隔たりを生んでいた。観念してブーンは未だこちらを
見ずに頬杖をつきながら『ドグラマグラ』と書いてある文庫をパラパラとめくるクーの正面に座った。



58: ◆HGGslycgr6 :2006/12/14(木) 00:38:47.75 ID:8N3abdHZ0
  
(;^ω^)「ク、クー……その表紙……」
川 ゚ -゚)「ん? 内藤、今日はご飯食べないのか?」
(;^ω^)「え? あ、お、休み時間毎に食べてたら完食してしまったお」
川 ゚ -゚)「……そいつは内藤らしいな」

気付いていないのか、もしかしたら触れてはいけないことだったのか、なにやらドキドキしながら
ブーンはクーの顔を見つめるばかりであった。
しかし良く見てみると、クーというのは表情の変化が無いと思っていたのだけれども、みてみる限り
そうではないのではないかもしれない。今だって僅かに目尻が下がってとても優しい目をしているし、
さりげなく頬杖をつく手で口元を隠しているようにも見える。

川 ゚ -゚)「どうした?」
( ^ω^)「なんでもないお。そうそう、クー。さっきの授業でノートをとり忘れたとこがあったんだお」
川 ゚ -゚)「お前いつもノートなんかとってないだろ」
( ^ω^)「試験が近いから頑張ってるんだお。と、言うわけで見せて欲しいお」
川 ゚ -゚)「断る」
(;^ω^)「そんなはっきり言う奴初めてだお……」
川 ゚ -゚)「それは貴重な経験を出来てよかったな。ノートならしぃだってとってるだろ。彼女なら
     ノートだけじゃなくて補足もしてくれるだろうさ」
(;^ω^)「しぃと話すといつの間にかこっちがセクハラされてて困るんだお」
川 ゚ -゚)「お前にも天敵がいたんだな。意外だ、……と」

クーはそう言って立ち上がり持っていた文庫を近くの本棚に戻すと、そのまま本棚の整理を
始めた。これ以上どう整理するのかと言うほどに綺麗に整えられた本達は一冊一冊クーに引き
抜かれては配置を入れ替えられていく。話が終わってしまわないようにブーンはもう一度繰り返した。



59: ◆HGGslycgr6 :2006/12/14(木) 00:40:02.92 ID:8N3abdHZ0
  
( ^ω^)「そう言うわけでノート見せて欲しいお」
川 ゚ -゚)「残念ながら私は授業のノートはとってないぞ」
( ^ω^)「お? じゃあ授業中ずっとノートに何か書き込んでたのはなんだったんだお?」

ここぞと、ブーンが隠し持っていた情報をクーの背中にぶつけてみると、本棚を整理するクーの
手がネジの切れた人形のようにゆっくりと減速して、止まった。その瞬間に部屋の中で動いている
ものが無くなり、あたかも部屋中の空気の粒子が固定されてしまったかのように、静けさと重みの
ようなものを感じた。ブーンはそんなゼリーのような部屋の空気に圧迫されながらも、動きを見つけ
ようとクーの変化の観察に神経を尖らせるが、全く窺うことの出来ない表情の代わりに、どこからか
吹き込んできた風にサラサラと靡く後ろ髪、一本一本に目がいってしまう。

川 ゚ -゚)「関係ないだろ。とにかく私は板書を写してない。だから誰か別なのに見せてもらえ」
( ^ω^)「何を書いてたか位知りたいお」
川 ゚ -゚)「……ふぅ」

動揺させたところで畳み掛けてボロを出させる腹だったのだけれども、どうもクー自身、
空白を作る不利益より慌てて化粧の不完全な言葉を紡ぐ不利益の方が大きいことをよく
心得ているようで、空白の取り方が一連の流れに沿っていて非常に上手かった。

川 ゚ -゚)「そうだな……アレは、もう一つの私の話……、幼稚な妄想劇といったところかな」
(;^ω^)「……ま〜た、本ばっか読んでる人はすぐそうやって難しいことを言うんだお。小説家
      とかも、もっと簡単な言葉使えばいいのにと思うお」
川 ゚ -゚)「……そうだな、確かにその通りだ。丁度良い、それなら私も小説家になろうか」

そう言って振り向いたクーの顔は、やはりいつも通りの顔だった。結局ブーンにはその言葉の
意味は分からなかったし、知ろうと言う気も起きなかった。久々に聞いたクーの冗談が、まるで
自分自身に皮肉を言っているかのように聞こえ、胸がモヤモヤとしたからだろう。



60: ◆HGGslycgr6 :2006/12/14(木) 00:40:53.98 ID:8N3abdHZ0
  
 午後の授業の間もブーンはクーの事が頭から離れなかった。クーの方を見るとやはり変わらず
ノートに何かを書いていたが、どうしてかさっきのようにずっと見ていることはできなかった。それは
多分……と理由を考えようとしてブーンは止めた。理由なんて考えるまでも無い。

(,,゚Д゚)「クー、机の上に手鏡を立てるのはいいんだが、なんで内藤の方に光を集めているんだ?」
川 ゚ -゚)「……視姦防止です」
( ^ω^):;*.ブッ
ξ;゚听)ξ「ちょ、ちょっとあんた……」
(    )「最低だね」
(;^ω^)「ちょ、ツン、誤解だお! ショボンも前向いたまま呟くなお!」
(,,゚Д゚)「うるさいぞー、内藤。お前次から声出す度に宿題プリント一枚追加な」
(;^ω^)「……」
ξ゚听)ξ「えい」
(;^ω^)「痛っ! ちょ、それ彫刻刀――」
(,,゚Д゚)「おし、一枚」
(#^ω^)「……」
(    )「ねぇねぇ、ブーン」
(;^ω^)「……(そんなんで返事なんかするかお)」
(´゚ω゚`)「べる〜ん!」
(*^ω^)「ぶわははははははははははは!」
(,,゚Д゚)「二枚。内藤、やる気マンマンだな」
(;うω^)「……み、皆なんて嫌いだおー!」



61: ◆HGGslycgr6 :2006/12/14(木) 00:41:34.40 ID:8N3abdHZ0
  
わざとらしく「あぁぁぁん!」なんてウソ泣きをしながらブーンは廊下へ内股で飛び出していった。
しかし教室の誰一人としてブーンを追うものは居なく、こういう場面で決まって「カワイソウじゃん、
みんななんとも思わないの?」などと言い出すようなキャラも居ない。
このクラスには、今はめんどくさいからスルーしよう、という見事な団結力があった。
加えて、皆にはブーンが打たれ強いという認識があったというのも大きいだろう。

ξ゚听)ξ「あいつと居ると暇しないわね」
(´・ω・`)「タフないじられ役は重要だよね」
(,,゚Д゚)「あいつはホント自由人だな……ほらほら、授業続けるぞ」


(;^ω^)「……誰一人として引き止めに来なかったお」

一人グラウンドに佇んで、ブーンは切ない気持でいっぱいになっていた。



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