( ^ω^)ブーンの力は役立たずのようです。

63: ◆HGGslycgr6 :2006/12/14(木) 00:42:38.28 ID:8N3abdHZ0
  
 階段を上りながら、教室に入って何を言おうかと考えていたブーンだが、次第に腹が
立ってきたのでそのまま教室がある階を過ぎ、屋上へ行くことにした。屋上は立ち入りを
禁じられてはいるものの施錠がされていなく、生徒の立ち入りも日常的に行われている。
本当にこの学校は甘いな、と思いながらも重々しい鉄の扉をプレゼントの箱を開けるような
気持ちで押し開けた。
澱んだ空気が開放されて、背中の方から空に向かって飛んでいったのを感じる。
ブーンは頬にくすぐる髪を手で直すと、屋上へ一歩踏み込んで後ろ手にドアを閉め、
青空を仰いだ。

――世界中どこに居たって空の色は変わらない。例え醜い心の人たちが空を煙で蔽っても、空の
色だけは冒せない。それでも今日の空がこんなに綺麗に見えるのはきっと楽しいからだ。

そんな臭いことを考えながらブーンは両手を広げて空を見たまま仰向けに寝た。
ブーンは青空が大好きだった。いや、どちらかと言うと「あおいそら」の方が好きだった。

(*^ω^)「おっと、あおいそらに反応して僕の電波塔が突貫工事だお」
(*゚ー゚)「残念ながら強度に問題ありね」
(;^ω^)「な、僕のは100人乗っても大丈(´゚ω゚):;*.ブッ なんで、しぃがここに……」
(*゚ー゚)「いけないんだぁ、こんなとこでサボって。それにね、空の色だってずっと煙で覆われてたら
     本当の色なんてわからないよ」
( ^ω^)「お互い様……お? もしかして僕、色々な事をお口から垂れ流してましたかお?」
(*゚ー゚)「うん、大分ロマンチックなことを聞かせてもらったよ。まるで何かの歌詞みたいだね」
( ^ω^)「……さようなら、僕が死んだらパソコンの破壊をよろしくお願いします」

そう言ってブーンは起き上がり、ゆっくりとフェンス一枚隔てて床の続いていないこの世と
あの世を結ぶワープゾーンへと歩いていく。そんなブーンの挙動にしぃがアハハと声を上げて
一笑いし、追いかけてブーンの腕を掴んだ。思ったより小さいその手にブーンは少しドキリとする。



64: ◆HGGslycgr6 :2006/12/14(木) 00:43:49.20 ID:8N3abdHZ0
  
(*゚ー゚)「ボクも普段いっぱいそういうこと考えてるから大丈夫だよ。恥ずかしくない、恥ずかしくない」
(;^ω^)「うわぁぁん! ちょっとドジでえっちなことに興味津々なお茶目ボーイの僕のイメージが
      台無しだお! もう死ぬしかないお!」

ブーンにとってこれは半分本音だったのだが、さっきの言動が滑稽なものに映ったのなら
まだ心の底は覗かれたことにはならないだろうと、さらに戯けて見せた。ブーンはこの冷静な
自分の側面を人に見せるのが特に嫌いだった。この下にはもう自分が居ない。真の自分が
掴まれてしまうのが怖いのだ。そんなブーンを知ってか知らずか、しぃは体をぴったりと寄せてくる。

(*゚ー゚)「んん? そんな事言っておきながら体は正直だぞ? 生きたいって下半身の人が
     自己主張してるぞ?」
(;^ω^)「い、いや! イきたいなんてそんなはず無い! こんなの何かの間違いよ!」
(*゚ー゚)「ほらほら、我慢は体に良くないぞ? イきたいんだろ? 正直に言ってみろよ」
(*^ω^)「あ……いや……って、しぃ本当に触るなお!」
(*゚ー゚)「アハハ、ごめんごめん、つい盛り上がっちゃって。いや、盛り上がってるのは……」
(;^ω^)「こ、これは反射であって別に飢えてるとか、百戦錬磨のダンディ内藤がこんな――」

しぃと会話をしていると、どうにも主導権を持っていかれてしまい逆にセクハラされてしまう
ことが多々ある。それはそれでブーンも楽しんでいる節があったのだが、楽しんではいけない
というプライドにも似た理性と、心も体もすべて委ねてこの快楽におぼれたいという青い衝動の
間で揺れ、いつも僅差で理性が勝っていた。



65: ◆HGGslycgr6 :2006/12/14(木) 00:45:06.17 ID:8N3abdHZ0
  
( ^ω^)「しぃは無用心だお……」
(*゚ー゚)「ん? ボクの何が無用心なのさ。ふふふ、アハハハハハ」

そう聞き返して離れるしぃの笑顔は、青空を背に輝いて見えた。きっと彼女にはこの世界は
綺麗に見えるのだろうとブーンは思った。悩みの無い人が居るなんて思いはしないが、
きっとしぃは自分より強いのだろうなと、そうも思った。
そんな中々答えを返さないブーンを見て、しぃは不思議そうに微笑むと扉の前まで軽快に走り、
一度息を吐くと、華奢な腕で一気に扉を引き、ブーンの方へと手を振りながら扉の向こうへと
消えていった。
急に静かになった屋上でブーンはもう一度床に寝転がって青空を見た。
やっぱり、空はいつものように大きく見えた。

 しばらくそうやって流れる雲を見ていたのだが、ふと時計を見るともうすぐHRの時間が
来るようだったのでブーンは肺いっぱいに空気を吸い込んで一気に起き上がる。
と、その時視界の隅に何かを見つけた。崩れたコンクリートかとも思ったのだが、近寄って見てみると
どうやら何かの入れ物と、傍にぐしゃぐしゃに潰れた空き缶のようだった。しぃが落としたの
だろうか。中身を確認してみたが、昔ゲームで見たようなカプセルの薬しか入っていなく、
誰のものか検討がつかないブーンは、空き缶を軽く蹴飛ばして入れ物をポケットに入れると、
屋上を後にした。



66: ◆HGGslycgr6 :2006/12/14(木) 00:45:55.87 ID:8N3abdHZ0
  
(,,゚Д゚)「おし、みんなご苦労様。明日はついに金曜だな。最後だからってサボんなよ? じゃ、挨拶」

 ギコの合図で皆が適当に挨拶をして机を下げ始めた。いつもの見慣れた光景である。
あの後結局ブーンも頭を軽く突付かれただけで特にお咎めは無しだった。ギコはいい加減と言うか、
『言ってわかる奴は1度軽く言うだけでわかるから煩くは言わない。それ以外の奴は自分で
怪我をしろ』と、日頃から言っていて、責任が付いて回る現代でよく生き残っていられるなと
思う人である。そんなギコの教育の賜物かはわからないが、生徒達もとりあえずやることは
やるのだ。今だって授業はサボるような者も掃除をきちんとしている。ちなみに掃除をサボると
グループの他の者から「人手が足りなかったので……」と、サボった者の机の周りにだけ
堆く塵やゴミが詰まれる制裁を受ける。
そんなもんだから勿論ブーンも例に漏れず、箒を片手にそれなりにではあるが掃除をしていた。
そんなブーンに兄者が突然声を掛けた。

( ´_ゝ`)「おい、内藤。ちょっといいか?」
( ^ω^)「お? 今すぐかお?」
( ´_ゝ`)「む……掃除中か。それなら終わったら視聴覚室に来てくれ」
( ^ω^)「わかったお。よーし、パパッと終わらせるお!」
(´・ω・`)「ブーン、いつまで箒持ってるの? もう掃除終わったよ」
( ^ω^)「……」



67: ◆HGGslycgr6 :2006/12/14(木) 00:46:51.70 ID:8N3abdHZ0
  
 視聴覚室は普段あまり使われることは無いが、迷うことは無かった。一度ここで弁当を
食べようと思ったこともあったのだが、あまりの埃っぽさに食事をする気にはなれなかった。
図書室も多少は埃っぽいのだが、手入れが行き届いていて気になるほどではないのだ。
それに視聴覚室は暗幕のせいか、部屋の中が薄ら寒くて一人で長居するには気味が悪い。
ドアを開けると、やはり案の定冷たい空気が腕に纏わりつくのを感じた。

( ´_ゝ`)「内藤か。早かったな」
( ^ω^)「僕にかかれば掃除なんてあっという間だお。ところでなんで視聴覚室なんだお?」
( ´_ゝ`)「ここだと人も居ないしな。話の幅が広がる」

そう言って兄者はいつものように既に立ち上がっているノートPCを開き、色々とウインドウを
開き始めた。

(*^ω^)「ま、まさかお宝ですかお!?」
( ´_ゝ`)「まぁ、慌てるな」
(*^ω^)「ちょ、ちょっとティッシュ取って来――」
( ´_ゝ`)「待て、慌てるなと言っただろ」
( ^ω^)「おっ」

部屋を出ようと立ち上がったときに、襟首を掴まれ俄に天を仰いだブーンは、軽く照れ笑いを
しながらもう一度席へと着いた。もう一度落ち着いて画面を見てみたのだが、どうにもブーンが
期待している物を用意しているような雰囲気は無かった。慌てるな、とはそういう事だったのかと
今になってようやく理解する。



69: ◆HGGslycgr6 :2006/12/14(木) 00:48:16.51 ID:8N3abdHZ0
  
( ´_ゝ`)「実はツンの件で弟者に集めてもらった資料の中に興味深い物が見つかってな」
( ^ω^)「ツン? あぁ、あの珍々怪々な事件のことかお」
( ´_ゝ`)「まぁ、説明するよりコレを見てもらったほうが早いな」

兄者はどうやら操作に夢中でジェスチャー付きのボケにも気付かなかったらしく、真顔で
ノートPCの画面をブーンの方へと向けた。開かれていたのは『&`$#{\~に関する資料、まとめ』
と、いうタイトルのテキスト文章だった。前半は恐らく文字化けだろう。何を言わんとしているのかは
理解できなかったが、とりあえずそこに書かれている文章を少しずつ読み始めた。
活字慣れしていない所為か、どこまで読んだのか途中で見失うなどしてなかなか苦労しながらも
凡その内容はぼんやりと把握することが出来た。

( ´_ゝ`)「どう思う?」
( ^ω^)「どうもこうも……マンガのあらすじか何かかお?」
( ´_ゝ`)「いや、これはどうも実話らしいんだ」
(;^ω^)「じ、実話か……お」

資料に書かれていた文章をブーンが途中まで読んで把握した内容はこうだ。

 『ある日、ある学校の教室で、突然一人の生徒の身に奇妙な現象が起こる。その日を境に
  知らず知らずに奇妙な現象を起す生徒が増え続けたが、学校がそれを隠しつつも、
  職員達で原因を探り始める。しかし、その間に生徒達の間で徐々に争いが起こり始める』

まるでありきたりな映画か小説の煽り文句のようだが、これが実話となると『奇妙』と言うのも
またその度合いを考え直す必要がありそうだ。



71: ◆HGGslycgr6 :2006/12/14(木) 00:49:23.68 ID:8N3abdHZ0
  
( ´_ゝ`)「あぁ、テキストと一緒にこれまでこの学校で起きた事件やらをまとめた資料が入っていてな」
( ^ω^)「……」
( ´_ゝ`)「予想以上に綺麗にまとめられていて、弟者にしては久しぶりにいい仕事を――」

ぺらぺらと矢継ぎ早に兄者の口から出てくる言葉に、ブーンは嫌な予感を感じながら、それが
確定してしまうのを遅めるかのように口を挟んだ。

( ^ω^)「兄者、さっきから聞いてたら……それじゃあまるで――」
( ´_ゝ`)「そうだ。これはどうやら、うちの学校で起こった出来事らしいんだ。それもつい7年前にな」
(;^ω^)「……ま……そんなまさか」

身近なことと知らされるや否や、急に話に重みが増したものの現実味の無い話だし、7年前の
話にしては何も噂を聞かない辺りにやはり信憑性の無さを感じた。それにいくら学校が隠そうと
しても、まさか生徒を学校に監禁するわけにもいかないだろうし噂の一つでも流れていていいはずだ。

( ´_ゝ`)「俺もすぐには飲み込めなかったのだが……この学校にも怪談があるのは知ってるか?」
( ^ω^)「怪談かお? トイレの花子さん的な?」
( ´_ゝ`)「この学校ローカルの物だ。誰かに聞いて見るといい。俺が話すよりはその方が良い」

あまりに冷静な態度をとる兄者に、ブーンは心ならずも小さな不安を抱えつつあった。
どうして自分が昔の話に不安にならなければいけないのか。そんなにこの話は怖かったか。
頭の中を整理しつつ自分の感情の理由を探りながら、とりあえず会話の繋ぎにブーンは
兄者に冗談を言う。

( ^ω^)「それにしてもこの時代に居なくて良かったお。居たら僕なんかはあっという間に――」
( ´_ゝ`)「――いや」

歯切れのいいスタッカートの低音がブーンの声を遮った。



72: ◆HGGslycgr6 :2006/12/14(木) 00:50:36.80 ID:8N3abdHZ0
  
( ´_ゝ`)「今これと同じことが起こりつつあるとしたら?」
(;^ω^)「…………」

冗談を言うために柔らかくした心臓を不意に鷲掴みにされ、貧血を起しそうになった。
何を根拠にそんなことを言っているのかと、ブーンは怒りで心に即席のバリアを張る。
しかしその所為で語気に多少の荒さが混じってしまう。

(;^ω^)「いや、兄者! どうしてそんなことを断言できるんだお!」
( ´_ゝ`)「言っただろ。これはツンの件で集めた資料だ、と」
(;^ω^)「それが何なんだお! それがっ……」

突然ブーンの脳裏に『奇妙な現象』という文字と、この前のツンの騒動が浮かんだ。
そして間髪入れずに自分自身のあの奇妙な出来事をも思い出し、ブーンは言葉を詰まらせた。

( ´_ゝ`)「なぁ、内藤。お前……、お前自身に心当たりはないか?」
(;^ω^)「……」

ブーンは言うべきかどうかを逡巡した。しかし冷静さを欠く状況に置かれると、自分自身の話を
することに急に躊躇いを感じる癖のようなものがありどうしても話すことが出来ない。

(;^ω^)「……いや、僕は多分そんな変わったことは無かったと、思うお」
( ´_ゝ`)「そうか。……うむ、気にするな。これはコーヒーブレイクのようなものだ。もっと力を
      入れて調べた科学的な資料のほうだが――」
(;^ω^)「……」

兄者の丁寧な口調で仮説が立てられていったが、ブーンは胸の内の何かざわざわとした
ものが気になってまったく集中できなかった。『失敗した』。必死になってしまった自分を思い
出してブーンはそう思い、後悔した。兄者にとっては只の余談のようなものにこんなに食い
ついてしまうなんて、自分はどうしてしまったんだろうか。
ブーンは気を取り直して兄者の話に耳を傾け始めた。



73: ◆HGGslycgr6 :2006/12/14(木) 00:51:33.21 ID:8N3abdHZ0
  
( ´_ゝ`)「――と、言うわけで脳血管の方に異常があるかもしれないから、評判のいい脳神経
      外科もピックアップしておいた。コレをツンに渡しておいてやれ」
(;^ω^)「本当にその手際の良さは高校生のものじゃないお……」
( ´_ゝ`)「弟者の協力もあってのものだ。俺一人の力ではない」
( ^ω^)「はぁ……どいつもこいつも仲良し兄弟ばっかだお」
( ´_ゝ`)「実際、俺はもっとアイツには一人でしっかりしてほしいんだけどな」
( ^ω^)「仲が良いのはいいことだお」
( ´_ゝ`)「……うむ」

そこまで話すと、ガラ、と視聴覚室の重いドアが開いた音がした。見ると弟者とツンのようだった。
見慣れないペアだが、こんな所に一体何の用があったのだろうか。

(´<_` )「兄者、言われたとおりツンさんを……」
( ´_ゝ`)「OK。じゃあ内藤、さっき言ったとおりだ。俺は用事があるから一足先に弟者と帰らせてもらう」
( ^ω^)「お? わかったお。あ、兄者、さっきのウチの学校の話のアレだけど……僕にも
      ファイルをくれるとうれしいお」
( ´_ゝ`)「ん? ああ、あれか。そのプリントの束に資料の要約なら入っているが……帰ったら
      一応ファイルを送っておこう」
( ^ω^)「ありがとうだお」

バイバイ、とブーンは流石兄弟に手を振ると、手持ち無沙汰そうにしているツンに声を掛けて
隣に座らせた。こんな陰気なところに居るのは嫌だと拒否されるような気もしたが、ツンは
頷いてドアを閉めると隣のイスを引いてゆっくりと座った。
座った瞬間にツンの方から女の子の匂いがして、ブーンは改めて兄者が帰ったのだと認識した。



74: ◆HGGslycgr6 :2006/12/14(木) 00:52:43.32 ID:8N3abdHZ0
  
ξ゚听)ξ「なんか色々調べてくれたんだって?」
( ^ω^)「そうなんだお。兄者が言うには――」

 ブーンは兄者に説明されたことを思い出せる限りツンに説明して、プリントアウトされた
症状の簡単な説明や、オススメの病院のリストなどをツンに渡した。

ξ;゚听)ξ「なんか色々怖くなってくるわね」
( ^ω^)「大丈夫だお、ツンがそう簡単にくたばるわけないお」
ξ゚听)ξ「アンタには早くくたばって欲しいわ」
( ^ω^)「おっおっお。冗談キツイお」

ブーンはそう笑い、背もたれに体重を預けた。防音設備の所為か外からの雑音が聞こえて
来ず、沈黙の中特有のノイズのような物が聞こえるばかりであった。見ると時計の針もいい
時間を指していたので、ブーンは机の上に広げていた残りの書類をまとめて片付けると、鞄に
まとめて詰めて立ち上がる。ついでに暗幕を手でめくって外を確認したが、予想通り外は
もう日が沈み夜の暗さだった。



75: ◆HGGslycgr6 :2006/12/14(木) 00:53:54.78 ID:8N3abdHZ0
  
( ^ω^)「ツン、暗くなったし一緒に帰るお」
ξ゚听)ξ「……何もしないでしょうね?」
( ^ω^)「なんかする気だったら、もう既にここでしてるお」

ツンが顔をしかめて、ガタガタッとイスごと後ろに下がった。

(;^ω^)「いや、だから仮定の話で……もういいお、帰るお」

態と呆れたような口調で吐き捨ててブーンは視聴覚室を後にした。そしてなるべく足音を立て、
早足で階下に降りて息を潜めた。視聴覚室はブーン達二年生の教室と同じ三階にあり、ここは
三年生の教室が立ち並ぶ二階になる。帰るのならば玄関のある一階に行くのが道理であるが、
ブーンはツンが慌てて追いかけに来ないか、また、後ろから脅かしたらどんな顔をするのか、
それを確かめたくて二階に留まった。もう遅いとは言え階段周辺の蛍光灯は点きっ放しだったので
その光が届かない程度に離れて静寂に耳を傾ける形になった。

 そんな矢先早くもブーンの耳に物音が飛び込んでくる。しかし、それは階段とは逆の
方向にある教室から聞こえたものだった。特に興味は無かったが、それが教師だと色々と
コミュニケーションをとるのが面倒臭いので、ブーンは一応確認のため恐る恐る教室を覗き込む。
覗きこむと同時に机を前にして佇む人影が発見できた。
教室に差し込む月光が照らし出していたのは、ジョルジュだった。
雰囲気がそうさせたのか、彼にしては大人しい表情をしているように見え、それはまるで口を閉じた時に
ネジが切れたからくり人形のようだった。彼はもしや僕の同類なのだろうか。
ふとそんなことを考え、それ以上見ることがいけない事のように思えてブーンはそのまま静かに
その場を離れ玄関へと向かった。



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