( ^ω^)ブーンの力は役立たずのようです。

260: ◆HGGslycgr6 :2006/12/14(木) 23:11:45.65 ID:8N3abdHZ0
  
(´・ω・`;)「あぁ〜……」

辿り着いたのは案内図で×印のついていた教室だった。
間違いなく電子音はその中から漏れている。
ドアの前でショボンは只管に考えた。
ドアを開けてプラスになることなんて無い、もしかしたらこの音自体がフェイクでどこか後ろの方から
誰かが狙っているのかもしれない。けれども、その裏を掻いているかも知れない、などと考え出すと
もうどうしようもなくなっていた。
引き返そう。そうショボンは決意した。今はツンのところへ行くのが先だし、このドアは全く
開ける必要が無い。そう思った矢先のことだった。

     『あ〜……またやられた』
(´・ω・`;)「ぇ……」

どこかで聞いたことのある声だった。いや、実際はどこかなどと惚けている暇も無く、真っ先に
声の主が浮かんだ。ショボンはその声に魅了されたかのように、ゆらゆらとドアにひきつけられて
いく。そしてその手が取っ手に掛かり、ドアが開かれた。
日常と非日常の隙間が開かれたその先、探すまでも無くそのままの目線の先、黒板にもたれながら
携帯ゲーム機で遊んでいるその人は、まさにショボンの悪い予感をそのまま形にしたものだった。



263: ◆HGGslycgr6 :2006/12/14(木) 23:12:55.51 ID:8N3abdHZ0
  
(`・ω・´)「ん? ショボンか。どうしたの? 固まって」
(´・ω・`;)「な、何で居るんだよ、シャキン」
(`・ω・´)「今更何言ってるんだよ、鍵取りに来たんじゃないの?」

いつもの赤いリュックを背負ってシャキンは事も無げにそんな返事をしてくる。
希望的観測と事実の把握がせめぎあって思考のギャップが埋まらない。

(´・ω・`;)「鍵って……鍵は4つじゃ……」
(`・ω・´)「そうだよ? 兄者、弟者、クー、で、ぼく」
(´・ω・`;)「なんでさ! しぃが居ないじゃん!」
(`・ω・´)「しぃはゲームマスターだもん。居なくなったらダメでしょ」
(´・ω・`;)「そんなの聞いてない……」
(`・ω・´)「しぃも気まぐれだからね〜……あ、やっつけた」

シャキンが手に持っているゲーム機が一際派手な後を鳴らし、続いてファンファーレのような
ものが聞こえてきた。それに大した感動も無いかのようにシャキンはすぐに電源を切り、仕舞う。



265: ◆HGGslycgr6 :2006/12/14(木) 23:14:02.24 ID:8N3abdHZ0
  
(`・ω・´)「丁度終わったし、じゃあする?」
(´・ω・`;)「するって……」
(`・ω・´)「ぼくは何でも良いよ?」
(´・ω・`)「なんでもいい?」
(`・ω・´)「別にナイフだの何だのを振り回しても楽しくないでしょ」

その言葉にショボンはホッとする。
殺し合いなんてあるはずがない。ましてやシャキンがぼくと殺し合いなんてするわけが無い、と。

(`・ω・´)「ショボンはジェンガやったことあるよね?」
(´・ω・`)「え? あ、あるけど」
(`・ω・´)「よし、じゃあジェンガにしよう。ルールはどうしようか?」
(´・ω・`)「ルールって……普通に抜いて、上に積んで……」
(`・ω・´)「それじゃあ普通じゃん、つまんない」
(´・ω・`)「でも他に何も思いつかないよ」
(`・ω・´)「そうじゃなくてさ」

シャキンは一つ大きくため息を吐いて言葉を続ける。



266: ◆HGGslycgr6 :2006/12/14(木) 23:15:13.06 ID:8N3abdHZ0
  
(`・ω・´)「例えば服を脱がない野球拳はただのジャンケンだよね?」
(´・ω・`;)「……野球拳?」
(`・ω・´)「例えばだよ。だからさ、ただ普通にやるジェンガはジェンガでしかないんだよ」
(´・ω・`;)「え? 服を脱げって事?」
(`・ω・´)「だから違うって! リスクが足りないって事」
(´・ω・`)「リスク?」
(`・ω・´)「ドキドキが足りないんだよ。僕が言ったのはさ、ただ殴りあうだけじゃつまらないから
      他の事で決着を付けようってことだよ? 命を取り合う位のリスクがあって当然でしょ」
(´・ω・`;)「え……?」
(`・ω・´)「そうだなぁ……どうしようかなぁ」

シャキンは徐に立ち上がり黒板の前で考え込むと、チョークを取り出し色々と書き始めた。

(`・ω・´)「賭けよう」
(´・ω・`)「お金なんか持ってないよ」
(`・ω・´)「ショボンは本当に話を聞いてないね」
(´・ω・`;)「き、聞いてるよ! だからお金は……」
(`・ω・´)「お金じゃないよ。賭けるのは時間さ」
(´・ω・`)「……時間?」
(`・ω・´)「そう、死ぬまでの時間。丁度良いものをしぃから貰ってたんだ。今色々ルールを考えるね」

シャキンはそう言って、楽しそうに色々と文字を書いていく。そんな黒板が白い文字で埋まっていく様を
ショボンはただ呆然と見るだけだった。



269: ◆HGGslycgr6 :2006/12/14(木) 23:17:57.41 ID:8N3abdHZ0
  
黒板に書き出されたルールは単純ではあったが要点が掴みにくい文章だった。

 『掛かった時間だけ消費』 『タイマーが0になったら負け』 『崩しても負け』
 『事故で倒れた場合は、プレイ中の人が負け』

(`・ω・´)「こんなところかな……後は普通のジェンガで。質問ある?」
(´・ω・`)「時間とかタイマーっていうのは?」
(`・ω・´)「うん、それはこれ」

そう言うとシャキンはリュックから細い金属の首輪2つと腕輪4つ、それに掌に乗る位の
サイズで長方形をした薄っぺらい深緑色のシートを2枚取り出した。
そして机を2つ向かい合わせにして、即席でゲームをするテーブルを作った。
机をセットするとシャキンは辺りを見渡し、周りの机をガタガタと廊下に運び始める。
それを手伝うようにショボンも机を片付け始めた。
そうして教室の中央に二つの机を繋げたテーブルと、シャキンが何故かそのまま残した
2つの机と椅子がやや遠くにあるだけになった

(`・ω・´)「さ、座ってよショボン。そしたらこの首輪と腕輪を両腕に付けて」
(´・ω・`;)「……でもこれって――」
(`・ω・´)「早くしようよ」
(´・ω・`;)「あ、ごめん……」

シャキンの剣幕にショボンは渋々腰掛け、Cの字になっている首輪を付け、止め具をカチリとはめた。
腕輪も同じ構造になっていたので同様に付け、何回か腕をくるくると回し観察する。
それを見てシャキンは満足そうに頷き、自分も首輪、腕輪を取り付ける。



270: ◆HGGslycgr6 :2006/12/14(木) 23:19:13.22 ID:8N3abdHZ0
  
(`・ω・´)「このシートは机の邪魔にならないところに置いて。ここにデジタルで残り時間が
      表示されるから」
(´・ω・`)「なんかハイテクだね」
(`・ω・´)「タイマーの一時停止は、こっちに置こう」

シャキンは、なにやら四角い箱のような物を4つ持って立ち上がり、先ほどの2つ離れた
机の上に2つずつセットでそれらを置くと色々とチェックをしてショボンを手招きした。
それを見てショボンも折角腰を掛けたのにと思いながらも再び腰を上げ、そこに向かう。

(`・ω・´)「腕輪があるよね?」
(´・ω・`)「うん」
(`・ω・´)「その腕輪の模様がここの溝に合うように付けたらタイマーが止まるから」

箱だと思ったそれの中身は以外に複雑な構造をしており、腕が置けるように柔らかくカーブを
描いた窪みに更に一段深くなっている溝があり、どうやらその溝に腕輪がピッタリとはまる
ようだった。ショボンは一度腕を置いて確かめてみたが何故だか腕輪がはまらない。

(`・ω・´)「あぁ、逆逆。こっちを向いて座ってはめてみて」

言われるままに椅子に腰掛け両腕を置くと、気持ち良いくらいにピッタリとはまるのを確認できた。



271: ◆HGGslycgr6 :2006/12/14(木) 23:20:58.60 ID:8N3abdHZ0
  
(`・ω・´)「ちなみにこの腕輪は連動してて、片方のプレイヤーがストップをするともう片方が
      自動的に始まるんだ」
(´・ω・`)「へぇ……」
(`・ω・´)「お互いストップにはそれぞれこの装置を使う。ちなみにこれコンセント刺さってるから
      これ以上ゲームテーブルの近くに行けないから」
(´・ω・`)「なんか一気にハイテクさがダウンしたね」
(`・ω・´)「現実はそんなモンだよ。じゃあリハーサルしてみようか」

そうして2人でゲームテーブルへと戻るとシャキンは一度「あ、ゴメン」と言い、いつの間にか
トマトのような真っ赤な色で『60:00』と表示されているショボンの深緑色のシートを指差した。
なんとなく理解しショボンがそれを手に取ると、シャキンは机の上に黄緑色のマットを敷き、
その上へ無造作にバラバラとジェンガのパーツを出した。マットの中央には黄色い線で
四角く囲っている領域があり、どうもそこへジェンガを組み立てるようだった。
ショボンは一度取り上げたシートを再び置き、シャキンが色々と準備を整えるのを待った。

(`・ω・´)「よし、と。1回作ろうか。練習だから気楽にね」
(´・ω・`)「うん……」

言われるままにジェンガを何段かずつ協力して作っていく。程なくしてジェンガのタワーは
すぐに組みあがり、最後に四角い筒をはめてその形を整えると綺麗な直方体が完成した。



273: ◆HGGslycgr6 :2006/12/14(木) 23:22:16.91 ID:8N3abdHZ0
  
(`・ω・´)「さて、じゃあタイマーをスタートしたつもりでやっていこうか。先行はショボンでいいよ」
(´・ω・`)「え?」
(`・ω・´)「いや、別に僕でもいいけど。どっちがいい?」
(´・ω・`)「じゃあ先にやるよ」
(`・ω・´)「うん、じゃあどうぞ」

促されるままにショボンはジェンガに手を伸ばし、下の方から適当なのを1本見繕って抜き、
上にゆっくりと置いた。

(`・ω・´)「で、席を立ってあっちの装置に腕をはめたら順番が終り」
(´・ω・`)「え? あ、うん」

ショボンはタワーが倒れてしまわないようにそっと立ち上がり箱に近づくと、腕輪をはめた。
それを確認して、シャキンも同じように中腹辺りから引き抜き、上に乗せる。
そしてショボンのほうへと近づき、隣の装置に腕をはめ、ショボンに目配せをした。

(`・ω・´)「そしたらショボンが席に着いてゲームをする。コレを繰り返すだけだよ。簡単でしょ?」
(´・ω・`)「うん……でも、あれは?」

そう言ってショボンが指さしたのは黒板に書いてあるルールだった。



274: ◆HGGslycgr6 :2006/12/14(木) 23:23:52.70 ID:8N3abdHZ0
  
(´・ω・`)「事故で倒れたら負けってちょっとひどくない?」
(`・ω・´)「これはねぇ……システム自体どうしようもなくて」
(´・ω・`)「システム?」
(`・ω・´)「うん。このマットとジェンガ、実は中にいっぱい機械が入ってて、ジェンガがこの黄色い
      枠外でマットに触れると崩れたと見なす仕組みなんだ」
(´・ω・`)「へぇ……」
(`・ω・´)「だから途中でうっかりブロックをマットの上に置いたりしちゃ駄目だよ」
(´・ω・`)「うん、でも……例えばシャキンがやってる時に僕がなんか邪魔して倒したら?」
(`・ω・´)「両腕拘束されてこれだけ離れてちゃ何も出来ないさ。あ〜……でも念のため
      お互い靴を脱いでおこうか」
(´・ω・`)「靴?」
(`・ω・´)「これなら座ってても投げられそうだ」

それに納得したショボンは靴を脱ぎキョロキョロと辺りを見回す。シャキンはそんなショボンの
靴をその手から取ると、足で半分ほどドアを開け、自分の靴と共に廊下に放り投げた。

(`・ω・´)「ちなみに」

ドアを閉めパンパンと手を払いながらシャキンは言葉を足す。



277: ◆HGGslycgr6 :2006/12/14(木) 23:26:01.65 ID:8N3abdHZ0
  
(`・ω・´)「相手の腕輪がはまってないのに自分の腕輪を外すとその時点で負け確定だからね」
(´・ω・`)「うん、それはなんとなくわかってた」

一通り説明を聞き終わったが、今になってもう一度まじまじとそのブロック一つ一つを眺めながら
ショボンは感心していた。まるでそんな風に見えない外見や、それを感じさせない重さはそれが
本当なのかさえも疑わしくなるほどの出来で、何故こんな物がここにあるのだろうと思った。

(´・ω・`)「でも、事故で負けになったらやりきれないね」
(`・ω・´)「事故なんていつでも起こるものさ。遭いたくなけりゃさっさと自分の番を終らせれば
      良いんだよ」

そう軽く言ってのけるシャキンには全く不安の色が見えないどころか、逆にその顔色は良く、
紅潮した頬がその内なる興奮を伝えてきていた。
何故そんな表情が出来るのか、既に小さく震えが出始めているショボンには全く理解できなかった。

(`・ω・´)「どう? わかった?」
(´・ω・`;)「う〜ん……」
(`・ω・´)「暗くなってきたね。そろそろ電気を点けようか」

そう言われて今にも隠れてしまいそうな夕日に気が付いた。
そんな夕日を眺めつつショボンは自分の状況を改めて考え、一瞬だけ昔を思い出した。
まだ何も考えないで過ごしていた日々のことを、ほんの一瞬だけ。



279: ◆HGGslycgr6 :2006/12/14(木) 23:27:40.49 ID:8N3abdHZ0
  
(`・ω・´)「あ」

カーテンを閉めていたシャキンが突然短い声を上げたかと思うと、窓を開け下の方をじっと
確認し始めた。

(´・ω・`;)「え、何?」
(`・ω・´)「あぁ〜……いや、なんでもない。地上の花火」

答えてシャキンは窓を閉めカーテンで完全に外の景色を蔽うと、ショボンの向かいに腰掛ける。

(`・ω・´)「で、どう?」
(´・ω・`;)「え? あ、うん。あのさ、これって時間がなくなったらどうなるの?」
(`・ω・´)「あぁ、そうだった。それ言ってなかったね。えーと、首輪の噴出孔から炎が吹き出て
      頭が丸焦げになる」
(´・ω・`;)「……え」
(`・ω・´)「それも結構すごいのがしばらく続くらしいよ。例え丸焦げに耐えられたとしても酸欠に
      なるってさ。どこにそんな燃料が入ってんだろね」
(´・ω・`;)「…………」



280: ◆HGGslycgr6 :2006/12/14(木) 23:28:57.57 ID:8N3abdHZ0
  
その言葉でショボンはこの間の火事のことを思い出していた。迫り来る炎や熱風を思い出すだけで
息が詰まり苦しくなる。なんでシャキンは平然としていられるのか、本当に彼はシャキンだろうか
とさえも思った。

(`・ω・´)「それじゃあ、今は時間を2人合わせて合わせて2時間にしてるんだけど、いい?」
(´・ω・`;)「……いいけど、シャキン、なんでぼく達……」
(`・ω・´)「手加減しないよ、ショボン」
(´・ω・`;)「……」

何故兄弟で命の取り合いをしているのだろうか。
それも大した動機も無くジェンガなんてゲーム1つでなんて、どうしてこんな愚かな事をしているのか。
ショボンはタイマーがセットされている間中そんなことばかりが頭の中から離れなかった。

(`・ω・´)「それじゃあ始めようか――」




281: ◆HGGslycgr6 :2006/12/14(木) 23:31:04.07 ID:8N3abdHZ0
  
 すべてが闇に食われてしまう寸前の空の下、ツンは床に散らばるナイフの山の中央に依然
磔にされたままだった。体の至る所から出血し、最早痛みがどこから湧いているのかも
よく分からないほどだった。右目はいつの間にか開いても見えなくなっていたし、左目も随分と
霞んできていた。それでもツンは必死に耐えていた。

川 ゚ -゚)「死んだと思ったんだがな……一度に出しすぎてコントロールが悪くなったか」
ξ;-听)ξ「はぁ……ぁ……ぅ……」
川 ゚ -゚)「まぁ、いい。一度で死ななければ二度三度と繰り返すだけだ」
ξ;-听)ξ「……す……それ……して……」
川 ゚ -゚)「ブツブツとどうした? 頭がやられたのか?」

ただ只管クーの方を睨みつけ何かを呟くツン。哀咽か恨み言か、どちらにしろその呟き言は
クーのところまではまるで届かない。

川 ゚ -゚)「まぁ、無理もない。死を前にして冷静な奴などそうそう居ないだろうしな」
ξ )ξ「……す……して……ろす……」
川 ゚ -゚)「今終わらせてやる」

再びクーの背後から無数のナイフが出現する。先ほどと同じかそれよりも多いか。とにかく
1人に対しては大袈裟なほどの数が空中に浮かんでいた。

川 ゚ -゚)「死ね」



283: ◆HGGslycgr6 :2006/12/14(木) 23:32:17.31 ID:8N3abdHZ0
  
何の前置きもなく、ただそう言い放ってクーはツン目掛けてナイフを飛ばした。
正面から受ける形で飛んでくるナイフは見ただけで失神してしまいそうなほどの迫力があった。
しかしツンは全く目をそらす事無くナイフの群れをただ睨み続けていた。

 そしてそれは起こった。
ツンを目掛けて飛んでいたナイフが、ツンの体に触れる直前で悉くその軌道を変えまるでツンに
当たることなく何処か明後日の方へと消えていくのだ。そして両手に刺さっていたはずのナイフも
いつの間にかその姿を消していた。

川 ゚ -゚)「……何故だ。私の鍵はそこにある。まさか力が衰えたのか……? 太陽と何か関係が……」
ξ )ξ「…………」

思考に耽るクーをよそに、ゆらり、とツンが紐で引っ張られたかのように力なく立ち上がった。
そして覚束無い足取りで一歩一歩ゆっくりとクーの元へと近寄っていく。

川 ゚ -゚)「……しぃか」

舌打ちをしてクーは辺りを見回した。



284: ◆HGGslycgr6 :2006/12/14(木) 23:35:15.32 ID:8N3abdHZ0
  
川 ゚ -゚)「しぃ! くだらないことは止めろ! こんな事をせずに出るならさっさと出て来い!」

しかしクーの叫びに応じる者は無く、ただただ東の空に言葉が吸い込まれては消えていく
だけだった。

川 ゚ -゚)「邪魔臭い」

ツンにまたも1本のナイフが高速で飛んでいく。
しかし、顔面を狙ったそのナイフもツンの目の前であらぬ方へと向きを変え、結局ツンには当たらない。

川 ゚ -゚)「何を考えているんだ。瀕死のツンを操って何が楽しい」
ξ )ξ「……んで……さす……たたきつけて……つぶす……」
川 ゚ -゚)「……何?」

近づくにつれて段々と明瞭になってきたツンの言葉にクーは違和感を覚えた。
まるで内容が死に瀕している者のものとは思えないように聞こえたのだ。

川 ゚ -゚)「ツン、何を呟いて――」
ξ-听)ξ「つか、んで……め、だまに……たたき、つけ、る……もちかえ、て……さす……」
川 ゚ -゚)「お前……そんな……まさか、ありえない……」



285: ◆HGGslycgr6 :2006/12/14(木) 23:36:19.78 ID:8N3abdHZ0
  
ツンはただ只管にクーを痛めつける方法を口にしていた。

川 ゚ -゚)「ありえない……」

クーは後ろに一歩下がりつつ、ナイフを数本ツン目掛けて飛ばす。

ξ-听)ξ「…………」

しかし、やはりそのどれもが全くツンに当たらない。クーの顔にはっきりと今焦りの色が出始めていた。

川;゚ -゚)「お前……この膨大な数のナイフすべて……」
ξ#-听)ξ「……このナイフ全部であんたを痛めつけてやる……目を潰して……胸を突き刺して
        ……お腹を抉って……太腿を切り裂いて!」
川;゚ -゚)「お前の力は、そんな……いや、そもそもこんな芸当……」

気付けばクーはいつの間にか屋上の端まで追いやられていた。

ξ#゚听)ξ「潰してやる……抉ってやる……裂いてやる……折ってやる! 砕いてやる! 
        あぁぁぁぁぁ! 撲ってやる! 暴いてやる!」
川;゚ -゚)「近づくな!」



286: ◆HGGslycgr6 :2006/12/14(木) 23:38:11.84 ID:8N3abdHZ0
  
至近距離からの目も眩むようなナイフの射出。次々と休み無くツンに襲い掛かるナイフだが
それでもツンの頬を掠めることがやっとだった。その気迫のみにじりじりと追い詰められ
クーはどうにかこの状況を打破しようと考える。思考に集中するために一度体を後ろに
預けようとしてバランスを崩した。

川 ゚ -゚)「……え、なんd――」

ふわ、とクーの髪が浮いたのをツンは見た。
そして、その次の瞬間にはもう、クーの姿はどこにも見当たらなくなっていた。

ξ-听)ξ「…………」

どさ、と体がコンクリートに打ち付けられるのも気にせず、ツンは後ろに倒れこんだ。
既に呼吸も浅くすることしか出来ず、両目を開けてもまるで何も見えなくなっていた。

ξ゚听)ξ「……見え、ない……や」

闇の中に意識が融けていくのを、ツンはただぼんやりと感じながらまどろんでいた。

ξ゚听)ξ「……頭……撫でて、くれる……かな」

ξ )ξ「…………寒いよぉ……」

その音を最後に一切の音が消え、屋上は売れ残った一枚の絵画のように、ただ寂然となった。



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