( ^ω^)ブーンの力は役立たずのようです。

375: ◆HGGslycgr6 :2006/12/15(金) 22:00:37.73 ID:lpA65W140
  
 タワーはまさに絶望的なまでに穴だらけだった。さっきまでは難しいにしろ可能性があるブロックが
あったのだが、今はもうそれすらも無い。目の前でグラグラとタワーが揺れるような錯覚を覚え、
それに合わせて心臓が大きく鼓動を打つ。死にたくない。焼かれる自分の姿を想像して、そう思った。
いや違う、負けたくない。ショボンは空想の文字を上から塗りつぶした。

(´・ω・`)「……」

いっそ死んでしまうなら、無茶をしようか。そんな無謀な思い付きが浮かんだ。
半ば自棄だといっても違いない。
ただ、ショボンはこの局面でツンの言葉を思い出していた。黙っていても生き延びられないと、
何故だかこの時はすんなりと飲み込めた。そしてショボンは決意した。立ち向かおうと。
 その決意の瞬間だった。恐怖とは別に血液を沸きたてるものを感じたのだ。
これがシャキンの欲しがったものだったのだろう。ピンと来たのは兄弟だったからだろうか。
ショボンは自然と釣りあがる口元を隠すように、そっと左手で唇を触った。

 最早タワーからブロックを抜いて積む、と言うことは無理だった。
それを確信しショボンは覚悟を決め、思考を180度回転させる。

(´・ω・`)「シャキン、ルール確認したい」
(`・ω・´)「ん? いいよ〜」

にやぁ、とシャキンが笑ったのをショボンは見た。ショボンには全く気にならなかったのだが。



377: ◆HGGslycgr6 :2006/12/15(金) 22:02:27.51 ID:lpA65W140
  
(´・ω・`)「使っていい指は?」
(`・ω・´)「片方の親指と人差し指」
(´・ω・`)「ブロックを抜いて、積んで、崩れていないと判断されればオーケー?」
(`・ω・´)「ん〜……まぁ」
(´・ω・`)「崩れた崩れてないの判断はこのマットがする」
(`・ω・´)「そうだね。なになに? 面白いこと考えてるの?」

シャキンの問に答える事無くショボンはタイマーを見る。残り45秒。残りの人生45秒。

(´・ω・`)「……シャキン、ぼくはみんなのやる気を無くすんだよね?」
(`・ω・´)「? うん。まぁね」
(´・ω・`)「……さっきの感じは……」

ショボンはさっき蛍光灯に変化を起した時の感覚を思い出す。残り40秒。
もやもやとしたイメージを集め、教室の端の蛍光灯にペースト状のイメージを塗りたくった。残り37秒。
蛍光灯が静かに消えた。残り34秒。
それをタイマーに塗りつけてみた。残り31秒。
タイマーがやや遅くなったように感じられる。錯覚か。残り29秒。

(`・ω・´)「あぁ、タイマーを止めるの?」
(´・ω・`)「……」
(`・ω・´)「無理だと思うよ? 僕も正確に構造を説明は出来ないけど、多分ショボンの力程度じゃ」

シャキンの言葉通り、タイマーは止まる事無く確実に時を刻み続けていた。
しかしショボンはタイマーから視線を逸らしタワーを見据える。
そして一呼吸置き、徐に一番上のブロックを掴んだ。



380: ◆HGGslycgr6 :2006/12/15(金) 22:04:14.71 ID:lpA65W140
  
(`・ω・´)「ちょっと、それを積み直して……ってのは反則だよ?」

その言葉を聞いてか聞かずか、ショボンは手に持ったブロックをそのまま下へ、黄色い枠を超えた
マットの上へ、置いた。

(`・ω・´)「――は?」

傍から見ればまるで自殺行為のそれはシャキンの思考を僅かに止め、ゾクゾクと冷たい
血液が背中を網目状に走った。

(`・ω・´)「……なんで」

予想外の出来事に、幻覚を見ているかと思った。
いや、正確にはこれで正しいのかとシャキンは混乱する。
ショボンは未だ燃えずにいたのだ。
そしてショボンはさらにブロックを掴んではおろしていく。残り18秒。

(`・ω・´)「あぁ……そっか……。それも、かなり反則っぽいよ、ショボン」

引き攣った顔のシャキンは言いながら親指の腹をあごに当て、考え事を始める。
対してショボンは一番上の段とその下の段のブロックを下げ終えると、上の段を修復し、
2段目にあったブロックを手に持った。
つまり、この前後、マットにブロックをおろした場面を切り取りつなげて見ると、ショボンは2段目の
ブロックを引き抜き、それによって最上段が1段下がった形になった。



382: ◆HGGslycgr6 :2006/12/15(金) 22:05:31.62 ID:lpA65W140
  
 全くもって根拠なしに行った行動だったが、ショボンは確かに今16秒を残し生きていた。
この装置の仕組みは一体どのようなものなのか、その全てを予想したわけではなかったが
触れたことを知らせるために変化するべき物があったと言うことは確実だった。
ショボンが築きあげたエネルギーの壁は予想以上に高いものだったのだ。

 後はその手にあるブロックを積むだけ、そこまで来ていた。
ただ、ここで崩してしまったらもうどうしようもない。
この力がどれだけ続くかも判らないし、積み直す時間も無い。
ショボンは慎重かつ、戻る時間を考慮し迅速に行動を移す。
それほど難しい作業ではなく、ショボンはついにタワーを完成させる。
その時点で残り時間は8秒。安全圏内だった。

(`・ω・´)「参ったな。死にたくないよ」

あっさりとした口調のシャキンは笑っていた。
歪んだ奴め。人としてのものが欠けている。ぼくとは正反対だ。そう考えながらショボンは
装置の元へと歩き、椅子に座った。
――-ぼくとは正反対……。



383: ◆HGGslycgr6 :2006/12/15(金) 22:07:20.79 ID:lpA65W140
  
ゆっくりと装置へ下ろされる腕を確認して、シャキンは明後日の方を向いた。
残り2秒で考えることはどんなことだろうかと。

(´・ω・`)「……だよ」

なのにそこで場違いな涙声が聞こえた。

(´;ω;`)「……無理だよ」
(`・ω・´)「ショボン?」
(´;ω;`)「……なんで邪魔しなかったんだ。シャキンは、ぼくの……」
(`・ω・´)「ショボン、早く。時間が無いよ」

ショボンのタイマーの表示が3から2へと変わる。
しかし、震えるその腕は後数センチのところで固まってしまっている。

(´;ω;`)「あぁあぁ! 無理なんだぁ! お願い、皆を……死にたくな――」

言葉を待たずして、ブワッ、とショボンの泣き顔が炎の奥に消えた。

 人生の終わりにしては不相応なほど間抜けな電子音と共に、ショボンの顔は青い青い炎に
蹂躙される。苦しみ悶えるものかと思ったのだが、棒立ちしたまま崩れ落ちるショボンを見て、
人らしからぬ動きにぞくりとした。

(`・ω・´)「……違う」



385: ◆HGGslycgr6 :2006/12/15(金) 22:08:54.34 ID:lpA65W140
  
シャキンは、ぐらぐらと目玉を震わせながら後ずさりをした。
いつの間にかシャキンの顔面は蒼白になり、首は長く伸びてその筋が浮き上がっていた。

(`・ω・´)「話が違う……これは、おもちゃって……しぃが……」

――何かおかしい。こんなもの僕が望んだものではない。
何故本当に炎が出てショボンが……ショボンが……死……

そう思ったとき誰かの声がした。

     「どうだった?」
(`・ω・´)「え? しぃ――」

そこで突然、相槌にしては大きすぎる音が鳴った。続いて地を走る鈍い衝撃音。
そしてさらに連続して破裂音が数回、教室を突き抜ける。

(`・ω・´)「……ぁ……ぇ……」
      「可愛いねぇ……みんな甘過ぎて蕩けそうだよ」

そう呟くと、ビシャ、と真新しい血溜りを踏みつけ、満足した様子で人影は教室から出て行った。



390: ◆HGGslycgr6 :2006/12/15(金) 22:10:55.72 ID:lpA65W140
  

( ´_ゝ`)「来たか」
(;゚∀゚)「ドクオ……その……」

手足を縛られて床に転がるジョルジュが、顔だけを上げドクオの方を申し訳無さそうに見る。

('A`)「いいって。兄者、ジョルジュを放してくれ」
( ´_ゝ`)「内藤はどこだ」
('A`)「なら俺も聞くけど、弟者はどこだ」
( ´_ゝ`)「……なるほど。それではやはりこいつを開放するわけにはいかないな」
('A`)「震えるほどの悪党っぷりだな。なんか覚悟決まったぜ」
( ´_ゝ`)「死ぬ覚悟か。潔いな」

そう言って兄者はあの凶悪な剣をその手に握り、ゆっくりとその先端をドクオの方へと向けた。

( ´_ゝ`)「俺は弟者を追ったりはしないぞ?」
('A`)「俺だってブーンを追ったりはしないぜ?」
( ´_ゝ`)「なら何故笑う。そんなに死ぬのが楽しいのか?」

ドクオは確かにその瞬間笑っていた。本人も言われるまでは気付かなかったが、言われて
妙に納得してしまう心境でもあった。



391: ◆HGGslycgr6 :2006/12/15(金) 22:12:46.61 ID:lpA65W140
  
('A`)「なんつーの? 緊張するとドキドキするだろ? それで胸の奥になんかエネルギーの塊
    みたいなのがどんどん溜まってよ、それが俺のテンション上げるんだよ」
( ´_ゝ`)「わかりかねるな」

突然無表情な刃が笑顔を斬りつけた。
その圧倒的な運動量は身を捻ったドクオの左肩から先をもぎ取り、地面に突き刺さる。
その凄まじい光景にジョルジュは目を瞑り、兄者は血飛沫が目に入らぬように眼を細めた。
しかし、血液は床に転がる腕から流れるだけでドクオの肩口からは一滴たりとも零れる気配がない。

('A`)「……ぶっつけだけどなんとか出来たな。俺天才かも」
( ´_ゝ`)「……なに?」
('A`)「大業物を持った人間と、鈍ら物を持ったゾンビはどっちが勝つんだろうな。なぁ、兄者。なぁ!」
( ´_ゝ`)「……ふん、ゲーマーのお前なら予想は付くだろう」
('A`)「そうだな。主人公が勝つぜ」

ドクオはバックポケットから鞘に納まった小振りの包丁を取り出し、斬られた傷口を見せるように
半身に構え戦う姿勢を表した。



392: ◆HGGslycgr6 :2006/12/15(金) 22:14:27.27 ID:lpA65W140
  
( ´_ゝ`)「ふん、下手な得物に頼ってもお前に勝ち目はない」
('A`)「強い武器を手に入れたからって身体能力まで上がったと勘違いしてる奴よりはマシだぜ?
    それによ、鍵を取りに行った時ロスタイム無く手に取れる位置にこれがあったんだ。
    きっとこれキーアイテムだぜ」
( ´_ゝ`)「頭が腐ってるな」
('A`)「もとより」

その言葉が空中に霧散し、消えるかという刹那、兄者が剣を振り上げる事無くドクオに向かって
真っ直ぐに突いた。刃が1センチ2センチとどんどん体の中を突き進んでいくのを感じながら
ドクオ1秒か2秒か、命の遣り取りにおいては長すぎるほどの時間を耐えた。
この体は俺が操るキャラクター。道具であって操作している俺は別次元。
そう考えながらドクオはただ我慢し続ける。
そして刃が自分の体を突き抜けたのを確認して右手を伸ばすと勢いよく体を回転させる。

( ´_ゝ`)「むっ!」

ドクオの体と共に剣を持っていかれそうになり、兄者は必死に踏ん張り咄嗟に剣を捻り角度を
与えた。背骨と並行に突き刺さっていた剣の刃がドクオの回転しようとする方向と逆の方を向き、
腹の辺りから刀身がUの字を描きながら滑り出るように姿を現した。
そしてその次の瞬間には回転を続けていたドクオの体が兄者を正面に捕らえる位置まで来、
それに気付いた兄者の表情が苦々しく歪みきるまでの間に更に回転が進み、右手に持っていた
包丁がその顔面を激しく切りつけた。



395: ◆HGGslycgr6 :2006/12/15(金) 22:16:13.15 ID:lpA65W140
  
(;´_ゝ`)「グゥッ! ウウウゥゥゥ!」
('A`)「…………」

剣を消し、両手で顔面を押さえ苦しむ兄者を見ながらドクオは心の中で短く溜息を吐いた。
恐らく心臓は真っ二つになっただろうし、腹がパカパカと開いているこの姿はとても恐ろしいに
違いない。もう自分は死んでしまったんだな、とドクオは静かに落胆した。

('A`)「それでもまだ認めるわけにはいかないんだよ……」
(#´_ゝ`)「ドクオォォォォォ!」

今まで見たことの無い強烈な憎悪の表情をドクオに向け、兄者は再び立ち上がった。
心なしか手に持っている剣もその姿をより凶悪なものに変えている気がした。

(#´_ゝ`)「殺してやる。お前はぁぁぁぁぁぁぁ!」
('A`)「俺は死なないんだ!」



396: ◆HGGslycgr6 :2006/12/15(金) 22:17:43.20 ID:lpA65W140
  
向かってくるドクオの刃を気にする事無く兄者は剣を大きく振りかぶり、そのまま狙いも何も
気にせずに振り下ろした。死を恐れないドクオだが長年の間に染み付いた反射を抑えることは
出来ず、わずかに減速した。そして一閃、ドクオの体が縦に割れた。
しかし物体として残った慣性力(或いは計れない思いのようなものか)がそのまま真っ直ぐと
兄者の腹部に包丁を、ぐ、と押し込めた。
だがその代わりにドクオの体は右と左に分かれてしまい、その意識は酷く曖昧なものに
なってしまった。

(;´_ゝ`)「グッ……ウ……」

腹を押さえ蹲る兄者を横目に、ドクオは床に横たわりながら考えていた。
今自分はどうなっているのか、これは右の意識か左の意識か。
なんとなくだが左半身が床に埋もれているような感覚がして、どうやら右の意識なんだなと認識する。

('A|「……」

それでもドクオは決して認めなかった。
色んな訃報をこれまで聴いたが、まさか自分が死ぬ訳が無い、死んでたまるか、死にたくない。
数分前までは五体満足だったんだ。ありえない。体が半分なんてなるわけが無いと。
ふと見ると視界の隅にジョルジュが居たが、どうやら気を失っているようだった。
そういえばコイツは意外と繊細だったんだな、と思い出して急に今までの学校生活が
早回しで蘇ってきた。



397: ◆HGGslycgr6 :2006/12/15(金) 22:18:50.20 ID:lpA65W140
  
 殆んど家に引きこもっていた自分を、たまに学校に行ったときバカな話ですぐに迎えてくれる
皆の顔が、シーンが次々と浮かんできて暖かい気持ちが少し湧いた後は寂しい気持ちが
無くなった体を埋めるように次々と溢れ出してくる。

(;´_ゝ`)「ド、クオ……ォォォオオオ!」

よろよろと立ち上がりもう動かないドクオの左半身を切り刻む兄者。それを不思議な気持ちで
見つめながらドクオは思い付く限り友の名を口にし始める。

(;´_ゝ`)「お前も、お前、ぉ!」

真っ青な顔で右半身の方へと向かう兄者。
今にも倒れそうだがその目にはまだ確固とした殺意が宿っていた。
しかしまるで気にせずにドクオは唱え続ける。

('A|「あと……それからブーン。皆ありが

そこで人としてのドクオはこの世から消滅した。



398: ◆HGGslycgr6 :2006/12/15(金) 22:19:50.46 ID:lpA65W140
  

(;^ω^)「はっ……はっ……はっ……」

ブーンは背中に纏わりつく寒気を我慢しながら只管走り続けていた。そして気付くと図書室に
逃げ込んでいて、本棚にもたれながら廊下の音を聞いていた。

(;^ω^)「弟者1人ならまだしも2人で来たら絶体絶命だお……」

とにかく10分隠れていれば勝ちなのだ。こちらの居場所が知らされるわけでもないし10分
程度なら昔したかくれんぼを考えればクリアできそうな数字だと感じた。

(;^ω^)「どこか隠れる場所は……」

辺りを見回して鍵の付いた書庫の存在を思い出した。隠れる上で鍵が付いているというのは
非常に心強く感じられる。しかも今回は気付かれるか否かではなく、一定時間姿を見せなければ
いいのだ。そう考えると隠れる場所はここしかないだろうと、ブーンはすぐさま書庫に入った。
いつも鍵が掛かっていないのは知っていたが、掛かっていなくて良かったと思いながら内側から
つまみをねじって鍵をかけた。



401: ◆HGGslycgr6 :2006/12/15(金) 22:21:24.51 ID:lpA65W140
  
(;^ω^)「……ドキドキしすぎて胸が痛いお……」

書庫に入ってから、鍵を閉めた書庫をフェイクにして別な場所に隠れようとか、態と何か服を
はみ出させようとか、色々な知恵が浮かんできたが今この扉を開ける勇気はブーンには無かった。
それに弟者だってブーンが図書室に隠れたことを知っているわけではない。

(;^ω^)「静かにしてれば……大丈夫だお……」

書庫の本棚の影に身を潜めていたブーンだが、ふと足元に投げられたように転がり開いたままの
文集のようなものを見つけた。製本は手作業でやったのかお世辞にも綺麗とはいえないものでは
あったが、自分の置かれている状況も半ば忘れ、引き寄せられるようにそれを見る。
文集のタイトルはページの隅に書いてある文章からするに、どうやら
 『怪談「蝶のバレッタ」に伝えられる過去の超常現象事件』
というタイトルで、頭のどこかに引っかかっているものを引き出してくれるような、そんな気が
してきた。危機感が欠落しているとは思ったがどうしても手が伸びてしまう。
ブーンは好奇心のままになるべく音をたてないように静かにページをめくり始める。

    今日我が校に伝わる怪談に『蝶のバレッタ』と言うものがある。これは生徒が作り出した
   単なる妄想ではなく事実を基にした怪談である事が資料を調べていくうちに明らかになった。
   それらを一度ここにまとめ、二度とこのようなことが起こらないよう以後の対策を練るための
   ものとしたい。そもそも私がこの資料を手にした切掛けだが――

だらだらと長い前置きをそこまで読むとブーンはページをめくった。



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