( ^ω^)ブーンの力は役立たずのようです。

403: ◆HGGslycgr6 :2006/12/15(金) 22:22:36.98 ID:lpA65W140
  

    怪談『蝶のバレッタ』

    まだ記憶も薄れることの無い程度の昔話だが、突然居るだけで周りに不幸が起こるように
   なってしまった哀れな女の子がいた。女の子はそれ以来皆に怖がられ、次第にいじめに
   遭うようになってしまう。そしてある日、女の子は大事にしていた蝶のバレッタの羽部分を全て
   バラバラに壊され、それからぱたりと学校に来なくなった。それ以来不幸が治まり、それに
   関わっていた人達が口々に「良かった」などと話していたその矢先、女の子が飛び降り自殺を
   したという話が飛び込んでくる。そしてその数日後いじめっ子のリーダーの机の上が血で
   真っ赤になっているのが発見された。そこには羽が取れたままの蝶のバレッタがまるで
   飛び降りた女の子を真似るかのように置いてあり、片隅に置いてあった紙切れには
   女の子からのメッセージが書かれていた。
     『試したけれども飛べませんでした。これからあなたの羽を貰いに行きます』
   と。


(;^ω^)「……」

うす寒い空気を感じながらブーンはページをめくる。



405: ◆HGGslycgr6 :2006/12/15(金) 22:23:41.61 ID:lpA65W140
  

    資料『感染事件』からの引用

   四十周年の式典の翌日、我が校の教室で突然一人の生徒の身に奇妙な現象が起こる。
  その日を境に無意識ながら奇妙な現象を起す生徒が増え続けたが、学校側は事実を公に
  することは無く、職員達の手によって原因の究明を進めた。しかし、その間に生徒達の間で
  徐々に度を超えた争いが起こり始める。
   一方それと同時に生徒達の間にある噂が急速に広まる。生徒が奇妙な現象を起した時、
  いつも決まってそばにある生徒が居たと言う噂である。その生徒はいつしか『病原菌』扱いされ
  その奇妙な現象は『発症』と呼ばれ始める。そして皆のその生徒への行動はより非道なものに
  変化して行き『ワクチン』と称した集団リンチを行うこともしばしばあった。加えてその生徒に
  とっては最悪なことに、決まってそのリンチを行った生徒達、皆が『発症』したのだ。しかしながら
  その生徒自体になんら特殊な事態が起こるわけでもなく、まるで捌け口にされているとしか
  思われなかった。
   そして『発症』と『ワクチン』の悪循環からついにその生徒は自殺を図り、それ以来騒動も
  沈静化した為、今でも謎に包まれている事件である。


ブーンにはこの資料を読んだ覚えがあった。

(;^ω^)「これは確か兄者に見せてもらったものにそっくりな気が……」



406: ◆HGGslycgr6 :2006/12/15(金) 22:24:35.35 ID:lpA65W140
  
そこまで気付いてブーンの頭の中が弾け始める。次々とこれまでの現象や疑問が繋がり、
答えをはじき出し始める。

 恐らくこの生徒は周りの人に何らかの異常を与える『能力』を持っていると考えるのが妥当だろうと
ブーンは思った。2つの文章を見ただけでもそれは暗に記されていて、変化を好ましく思わない
生徒達によってこの生徒は痛めつけられたのだろうと。
 もし今の事態がこの事件の再来だとしたら引き金となった人物がいるはずである。そして
その人物は今もまだ生きていることになる。
身近な人物で、今生存している、とそこまで考えて浮かんだ顔を必死にブーンは消そうとする。
仮定の上に仮定を乗せたところでそれは殆んど意味の無い疑りだと心を一度洗い流した。

(;^ω^)(そんな訳ないお……)

しかしページをめくる手は止まらない。一体この手は何を望んでいるだろうか、ブーンには
まるで分からない。



407: ◆HGGslycgr6 :2006/12/15(金) 22:26:02.89 ID:lpA65W140
  
 資料1『事件の人物相関図』

 そんな見出しが飛び込んできたそのページは、色々な名前に矢印が至る所から蜘蛛の巣のように
引っ張られなかなか理解しにくい図であった。その名前の殆んどが黒で潰されており、実名を
知ることはほぼ不可能だった。
その中にポツンと潰されること無く浮かんでいた名前。全ての矢印が向かっている事件の中心人物、
怪談の主人公がそこに居た。その苗字が長岡であった。

(;^ω^)(…………)

 痙攣を起しそうなくらいの衝撃だった。こんな苗字いくらでも居るものだが、浮かべていた物が
目の前に出てくるとその衝撃は何倍も大きくなって返ってきた。
しばらくそのページを眺め、反証を探すために次へ次へとページをめくり流し読みをしていく。
しかし、読めば読むほどそれは決定的であった。都合よく貼り付けられたその年度の卒業アルバム
からの抜粋が逃れられない真実を語っていた。
 事実としてジョルジュには姉が居た。その姉は数年前にある事件の中心人物であった。
そして今、数年前の事件と酷似した事件が起こっている。そしてその中にまるで空手の一般人
のようなジョルジュが居る。
そこまで考えるとブーンは背中の奥から冷たい冷気が全身の血管を通って体を硬直させて
いくのを感じた。
ジョルジュはこれを、自分の運命を知っているのだろうか。自分がこの事件の重要なファクターであり、
そして自分だけ開花することの無い特別な能力であることを。何とも脆いジョルジュと言う命を前に
ブーンは心が締め上げられる思いであった。
そして締め上げられた心からどす黒い墨が溢れた。

ジョルジュが居なくなったらこの争いは終わるのだな、と。



408: ◆HGGslycgr6 :2006/12/15(金) 22:27:22.49 ID:lpA65W140
  
(;^ω^)(……僕は何を考えてるんだお)

 事実を思い浮かべただけなのにそれを邪なものとして見るのは、見る目が邪な所為だからだ。
そう考えフラットな目で見ようと、もう一度相関図のページをじっくりと眺めるとブーンは新たなことに気付く。
塗りつぶされている生徒は皆共通して『腹部を刺され重症』や、もしくは『頭蓋骨を骨折し死亡』
など一律に悲惨な目に遭っていたのだ。まさか呪いの仕業とでも言うのか、と思いながら
そこから延びる線を辿ると、1人ぽつんとそこに誰かが居た。
その線が結ぶ関係は、加害者と被害者。そして加害者から延びる点線がジョルジュの姉へ。
点線が示す二人の関係は「姉弟」。

(;^ω^)「ッ……」

目が眩むような衝撃と、見てはいけないものを見てしまったような後ろめたい気持ちが、ブーンの
中で渦巻いて平衡感覚を狂わせる。

(;^ω^)「ちょっと待つお……頭が混乱して……」

口に出してハッと息を飲む。未だ自分は逃亡中の身なのである。
不用意に音など出してしまっては命などいくらあっても足りない。
キョロキョロと辺りを見回し、しばらく耳を澄ます。



411: ◆HGGslycgr6 :2006/12/15(金) 22:28:56.58 ID:lpA65W140
  
 するとブーンにとって不幸なことに図書室の引き戸が開く音がした。
聞いている瞬間に聞き間違いであって欲しいと何度も思いながらもこれからの行動を
大急ぎで考え始める。
ここに隠れ続けるか移動するか。移動はリスクが高すぎるし、あっちは遠距離の武器を
持っている、と移動の線を切り捨てた。ただ息を潜めて隠れ続ける。
そんな弱々しい抵抗しか選択肢には残っていなかった。
ここに入ってしまった時点で既にシナリオは終わりが決定してしまっていたのか。
ブーンは無力にも気休め程度と知りながら書庫の入り口からは死角になる場所で
息を殺し祈るほか無かった。

 足音が鳴る度に心臓がより大きく拍動する。その距離感に全神経を集中させこれ以上ない位に
身を小さく丸め、一度も崇めたことの無い神に助けを求めた。一度遠ざかった足音は図書室を
一周するようにしてまた近づいて来、このまま退出してくれれば幸いであったがどうにも
そこからぱたりと何の音も聞こえなくなった。位置的には入り口の前か、あるいはこの書庫の扉の前か。
あまりに長い無音のプレッシャーに視界は歪み、鼻の奥にまで緊張が込上げて来ているような
状態になる。もう既に部屋の中に侵入しているのではないかと何度顔を出して確認しようかと思ったが
それすらも怖くて出来ない。若しくは既に部屋から出て行ったから静かなのではないか、そんな
希望的観測さえも浮かんでくる。
 周囲への警戒を解かないままチラリと一瞬時計を見る。ドクオがジョルジュに呼び出されてから
およそ20分が経っていた。ブーンは視野の限界まで注意を張り巡らせながら必死に計算する。
ドクオに設けられた制限時間が5分、鍵を持ち出しセーフティーになるまでが10分。
つまり、今はもう既にセーフティーなのではないか、と。
その考えに至ってからさらに3分耳を澄ませ、しとしとと汗をかきながら息を潜めたが、ついに
覚悟を決め思い切り陰から顔を出し入り口の方を見た。



412: ◆HGGslycgr6 :2006/12/15(金) 22:30:19.90 ID:lpA65W140
  
 やはり誰も居なかった。当然である、戸が開いた音がしなかったのだから。それでも聞き逃した
可能性が0で無い以上、そのプレッシャーは半端ないものであり、ブーンは汗ばんだ手を
ひんやりとした床に付け溜息を吐いた。

 書庫全体をもう一度ぐるりと眺め立ち上がると、足音を立てないようゆっくり入り口に近づき
向こうの部屋の気配を必死に探った。この扉の向こうで今か今かと弓を引き絞っている
のではないか、若しくは既に気配を感じて射る寸前なのではないか、ブーンの頭にこれでもかと
最悪のパターンが過ぎるが、今出るのも1時間後に出るのも同じこと。それに、今はジョルジュの
元に行ったドクオが心配であった。
そこまで考えてブーンは兄者がここに来る可能性を思い出した。ドクオ一人で足止めなど
本当に出来たのだろうか。そう考えるとブーンの足は途端に竦み、そこから動けなくなってしまった。

(;^ω^)「う……うぅ……」

しかしそれならなおさら早く駆けつけなければならないし、ここに長居するべきではない。
頭は分かっているのに足が本当に地面に引っ付いているみたいだった。



413: ◆HGGslycgr6 :2006/12/15(金) 22:31:28.22 ID:lpA65W140
  
(;^ω^)「お……おぉ……」

ブーンは近くにあった辞書を2冊手に取り、1冊を左手で左胸に、もう1冊を右手で額の前に翳し、
気休めの防具を纏って思い切って扉を開けようとする。

(;^ω^)「手、手が余ってないお」

自分自身でも呆れた行動をとっていると思った。
両手が塞がったまま数秒の間戸惑った後辞書を捨て、覚悟を決め勢いに任せて扉を開けた。
何が居てもブーンは切り抜けてジョルジュの元へ行くつもりだった。
呼吸を忘れ、血走った目で見た扉の向こうには、足があった。

(;^ω^)「ひぁ!」

一瞬ジャンプしているのかと思った後、それは浮いているのだと分かった。
そして浮いているのではなくぶら下がっているのだと理解した。
見上げたそこに、ギョロギョロとした目つきの弟者が膨れた顔で首を吊っていた。



414: ◆HGGslycgr6 :2006/12/15(金) 22:32:33.25 ID:lpA65W140
  
(;^ω^)「うっ……ぁっ……うぇっ!」

ブーンは反射的に嘔吐いて目を伏せた。胃がビクビクと上下に痙攣し頭の中をぐるぐると弟者の
顔が飛び回っていた。頭がおかしくなる。オバケよりも信じられない物を見た気分であった。
焼きついて離れない顔のせいでもう顔を上げられずに、ただブーンは床を見つめて落ち着くのを
待っていた。しかし、頭上にあの顔があるのかと思うと全身にこれ以上無いほど鳥肌が立ち続ける。

( ;ω;)「ぅ……えぅぅ…・・・っ! ……っ!」

痙攣が治まらないままその顔から逃げるようにして図書室を出る。後ろからあの顔が追って
きているのでは無いかと思うと背筋がゾクゾクとしだして全く治まらない。

( ;ω;)「うぅ……ふぅぅぅ……ふぇぇぇ……」

だらしない子供のような情けない声を出しながらブーンはただ廊下をどこへとなく歩く。
床が曇っていると目を擦ると、いつの間にか目には涙が溜まっていた。さっきから嘔吐いて
いるせいだろう。

 何故弟者が首を吊っているのか、自分は助かったのか、今この学校は何が起きているのか、
とうにパンクした頭を抱えながらブーンは保健室を目指した。正常じゃない判断力の中、
記憶を頼りにその身の安全をまず求めた。



416: ◆HGGslycgr6 :2006/12/15(金) 22:33:47.81 ID:lpA65W140
  
( ;ω;)「ふぅぅん……ぅぅん……」

体が脱力して鼻から抜けるような声ばかりが出る。とにかく何処かに安心して腰を下ろしたかった。
階下に行こうと階段へ一歩足を出すも、足の裏がしっかりと地面を踏めずにバランスを崩し、
ブーンはそのままもんどり打って踊り場に転落する。

( ;ω;)「ひっ! っ! っ!」

背中を打ったためか、先ほどとは違う場所が痙攣し始め呼吸が極端に浅くなり、なんて自分は
非力で情けないんだとさらに涙があふれそうになる。

(;゚∀゚)「ブーン!」

ジョルジュの声にブーンは起き上がる。友達だ、安全だ、助かる、とブーンは安心し涙ながらに
ジョルジュの名を呼んだ。

( ;ω;)「ジョルジュ、弟者が……」
(;゚∀゚)「弟者に何かされたのか? 怪我は無いか?」



418: ◆HGGslycgr6 :2006/12/15(金) 22:34:40.48 ID:lpA65W140
  
 が、ある記憶が心配するジョルジュの声からブーンの意識を遠ざける。
それは書庫で見た相関図。
事件の中心のジョルジュの姉。何人もの人を手にかけたその弟ジョルジュ。
断片的な記憶が辺りを飛び回りブーンに警告をしているかのようだった。

(;゚∀゚)「……どうした? 大丈夫か?」
(;^ω^)「あ、いや……大丈夫だお」

 しかし、ブーンにそれを問いただす勇気は無かった。もし聞いた途端に豹変したらどうしようか、
もし本当なら否定するに決まっている、こちらが気付いてしまったと知りながら善人を演じられたら
もう今の弱った精神では耐えられないだろう、と。しかしそもそもあの資料が嘘だとしたら。
そうも考えブーンは悩み続ける。

( ゚∀゚)「まぁいい、話は後だ。とにかく一旦引き上げよう」
(;^ω^)「……お」

それきりしばらく、辺り一面が地雷地帯のような気がしてブーンは一言も喋れなかった。



419: ◆HGGslycgr6 :2006/12/15(金) 22:36:13.02 ID:lpA65W140
  
 無言のまま保健室へと戻った二人はそれぞれベッドに腰掛け、互いに空気を探り合っていた。
未だに喋られずにいるブーンの代わりに、ジョルジュは少しして口を開き始める。

( ゚∀゚)「ブーン、その……今一体どうなってる?」
( ^ω^)「どうなっているって?」

気持ちが落ち着くまでは下手なことを喋らぬよう、相手の会話を引き出すことにした。
ただオウム返しに答え、会話を引き伸ばす。

( ゚∀゚)「今の状況だよ。俺が行ってからのことはまだ知らないし、そこら辺整理しようぜ」
( ^ω^)「……」

 言っていいものなのかブーンは悩んだ。勿論今すぐに情報を共有したい、いや、それ以上に
今まで起こったストレスを伴う出来事を誰かに話し、すっきりしたい。ブーンはその衝動を
強く感じていた。
だが、感情から来る行動がプラスになることはあまり無いとブーンは話を保留することにした。

( ^ω^)「そういえばショボンは、それにツンは……あれ、でも捕まった……ドクオ!」
(;゚∀゚)「……」
(;^ω^)「……ちょっと待つお。頭が混乱して……」
( ゚∀゚)「……ドクオは死んだよ」

全身の体毛が逆立った気がした。足の裏から心臓を通って頭の先へ電流が流れ、眼球が
ブルブルと揺らぎ、血液が喉元から漏れていくような感覚にブーンは陥った。



420: ◆HGGslycgr6 :2006/12/15(金) 22:37:24.53 ID:lpA65W140
  
(;^ω^)「……いやいや」
( ゚∀゚)「ショボンも……行きがけに見て……しっかり確認はできなかったけど……多分」
( ^ω^)「……」
(;゚∀゚)「ブーン?」
( ^ω^)「何言ってるんだお、ジョルジュ」

伝えられたニュースに反してブーンの口調は軽かった。

(;゚∀゚)「いや、でも……」
( ^ω^)「でもも何もないお。ドクオやショボンが死ぬわけ無いお」
(;゚∀゚)「お前、何言ってるんだよ」
( ^ω^)「だって、友達だお? 僕の友達だお? そんな死ぬとか、ゲームじゃあるまいし」
(;゚∀゚)「……ブーン」
( ^ω^)「ツンだって何処かで隠れて合流するチャンスを探してるんだお。早く探しに行かないと……」

そう言って立ち上がり扉のほうへと歩き始めるブーン。それに気付きジョルジュは止めようとする。



422: ◆HGGslycgr6 :2006/12/15(金) 22:38:06.04 ID:lpA65W140
  
(;゚∀゚)「ブーン!」
(#^ω^)「ウルサイお! 僕は今から皆を探しに行くから忙しいんだお!」
(;゚∀゚)「落ち着け! ドクオは死んだ! 俺が見たときにはもう……もう掌しか……」
(#^ω^)「あ〜! あ〜! あ〜!」

意味不明な声を出しながら頭をやじろべえのように何度も振り続けるブーン。

( ゚∀゚)「……わかった、じゃあ確かめに行こうぜ」
( ^ω^)「……お? でも……でも外は危険だお」

先ほど自分であのような行動をしながらこんなことが口から出るとは、自分はやはり臆病
なんだなとブーンはこれまでの行動を回想、反省し始める。

( ゚∀゚)「なんていうかさ……もう疲れたって言うか、死んでもいいかなって思うくらい……あ、悪ぃ」

しかしブーンはジョルジュの失言にあまりピンと来なかった。それと言うのも既に頭の中では
これから廊下に出たときの危険、自分の身の危険のことを考えていたからだ。

( ^ω^)「……あわせる顔が無いお」
( ゚∀゚)「……」

そしてしばらくの静寂が訪れた。



424: ◆HGGslycgr6 :2006/12/15(金) 22:39:14.64 ID:lpA65W140
  

( ゚∀゚)「兄者は居ないし、クーはお前に手は出さない。しぃはいきなり戦うようには見えないし
     お前の話だと弟者も居ない、と」

 とりあえず二人でこれまでの出来事を整理していた。勿論ブーンは書庫での出来事を口には
しなかったし、それとなく聞くことすらしなかったが。

( ゚∀゚)「これならいきなり死ぬってことも無いだろ。まぁお前の話が本当ならな」

ブーンはその言葉が軽く癇に障った。とは言え日常の範囲内ではあったが、小さな報復を行う。

( ^ω^)「ジョルジュだって。兄者が死んだかどうか怪しいもんだお」
( ゚∀゚)「嘘吐いて何になるってんだよ」
( ^ω^)「こっちだって」
( ゚∀゚)「……」
( ^ω^)「……」

果たしてこんな感じだっただろうか。ふとブーンは二人の関係を顧みずには居られなかった。



426: ◆HGGslycgr6 :2006/12/15(金) 22:41:41.86 ID:lpA65W140
  
 二人は保健室を出ることにした。他に生きている者が居ないか、その可能性に賭けたのだ。
勿論生存を確かめて安心するということが目的なのだが、どちらかと言うと今はとにかく誰かと
合流してこの何ともいえない雰囲気をどうにかしたかったと言うのがブーンの本音だった。

 すぐに辿り着いたのはドクオと兄者が死闘を繰り広げた場所だった。
勿論ジョルジュに言われてそこを確認したのだけれども、言われなくてもここで人が死んだことは
一目瞭然であった。
辺りには既に縁が乾燥し始めている血溜まりが(思っていたよりも大分少ない感じはしたが)
幾つかあり、またそこから赤い線やら靴跡が出たりしているのを見るだけでも気が滅入った。
 そして何かブルブルとした塊が視界に入った瞬間、それ以上その塊を観察したくないと
反射的に目を背けた。瞼に焼きついた赤褐色の血に濡れる髪や突出している骨のような物、
ピンク色をした白子のようなものが乗っかっているその奥の視線。奇麗事など並べる必要は
無いと思いながらも、ドクオのように見えたその塊を汚い、怖いと思ってしまった自分に、
ブーンはまた情けなさを感じた。そして孤独を感じる深い悲しみと、どうしたらいいのか分からない
怒りがブーンの中をドロドロと粘っこく循環していた。

 そしてふと何かに気付いた様子でブーンはジョルジュの方へと振り向く。



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