( ^ω^)ブーンの力は役立たずのようです。
- 451: ◆HGGslycgr6 :2006/12/15(金) 23:02:53.82 ID:lpA65W140
- (*゚ー゚)「もしもし? うん、うん、はい、りょーかい」
簡潔な受け答えだけをして、しぃは携帯を仕舞うと立ち上がり目を瞑って大きく伸びをした。
(*゚ー゚)「それじゃあ、あとはお若い2人に任せて……じゃあね」
(;^ω^)「ちょ、ちょっと待つお!」
(*゚ー゚)「?」
(;^ω^)「クーかお?」
(*゚ー゚)「クー?」
電話が来て何か話をし、その場を後にする。その流れを見れば誰かに会いに行くのは自明だった。
問題は誰に会いに行くのかである。今この学校で無事でいるのはクー位しか思いつかず、
そのクーがしぃに電話したのだとしたら、是非自分もあって話がしたいとブーンは思ったのだ。
(*゚ー゚)「内藤君。クーは死んだよ」
( ^ω^)「……死んだ?」
あのクーがどうしたら死ねるというのか。そして何故それをしぃが知っているのか。
ブーンは情報を欲する。
- 453: ◆HGGslycgr6 :2006/12/15(金) 23:04:11.87 ID:lpA65W140
- (;^ω^)「……死んだなんて」
(*゚ー゚)「本当だよ。クーはツンとじゃれ合って死んだよ。自分のお話に憧れたまま」
(;^ω^)「……ツンと? じゃあツンを殺したのは……」
(*゚ー゚)「勿論」
それだけ言ってしぃは頷いた。しかしブーンはまるで納得が出来ない。
何故あのクーがツンと戦って、そしてツンを殺すまでに至ったのか。
なにより何故クーが死んだのか。まるで理解が出来ない。
(*゚ー゚)「でも勝負はツンの勝ちって感じだったかなぁ。結果は引き分けだったけど」
(;^ω^)「でもツンは……」
(*゚ー゚)「いやぁ中々頑張ってたよ。あんな使い方あるんだなって。攻撃ではなかったけどさ」
(;^ω^)「…………」
(*゚ー゚)「勿論ボクはただ見てただけでどっちの肩も持たなかったよ? ちょこっと会場は弄ったけどね」
そういって目を細めると、白い歯をちらつかせてしぃは無邪気に笑った。
( ^ω^)「ツンが……」
あれっぽっちの力でツンがあのクーに1人立ち向かったと言うのか。
どうしてそんなことが出来たのだろうか。そしてブーンは唐突に孤独を感じ始める。
- 454: ◆HGGslycgr6 :2006/12/15(金) 23:05:40.55 ID:lpA65W140
- ――ツンは戦っていた。あんな頼りない力だけで、1人負けじと戦っていた。
ドクオだってそうだ。完全に不利とわかっていながら立ち向かって、最後には引き分けにまで
持ち込んだのだ。
その時、僕は何をしていただろうか。ただ彼らに頼り、逃げ、震え、既に死んでいる者にすら
無様に泣き喚いていた。ただそれだけだ。
( ^ω^)「僕は……」
――今日だけで何度自己嫌悪に陥ったか判らない。
仲間が居たと思っていた。弱い力を持つ仲間が居たと思っていた。けれどそれは違った。
弱い力を持っていながらツン達は果敢に戦い、知恵を絞って、決して弱いままに落ち着かなかった。
結局弱いのは僕だけだったのだ。そんな僕を庇って……
ブーンは孤独と情けなさで心臓が潰れそうだった。
そしてそれを何とかしようとする気力も全く湧いてこなかった。
1人、また1人とブーンの目の前から友が去っていくのをただ感じていた。
(*゚ー゚)「すっかり自分の世界入っちゃったし……。じゃあね」
そう言ってしぃは軽い足取りで音楽室から出て行ってしまった。その様子を2人言葉も無く
眺め、完全に姿が消えてから唸り声の混じった溜息を吐いた。
- 455: ◆HGGslycgr6 :2006/12/15(金) 23:08:25.94 ID:lpA65W140
- ( ゚∀゚)「ちぇっ、しぃのやつうまく逃げたな」
( ^ω^)「……」
( ゚∀゚)「なぁ、ブーン」
( ^ω^)「……誰だお?」
( ゚∀゚)「?」
( ^ω^)「ジョルジュ、ショボンは……」
静かにジョルジュは頷く。
( ^ω^)「じゃあ誰なんだお」
( ゚∀゚)「は? 何がだよ」
( ^ω^)「しぃが会いに行ったのは誰なんだお」
頭の中で消えて行った人たちを確認すると、誰も残っていなかったのだ。
それじゃあしぃは今誰と話し、誰に会いに行ったと言うのか。ブーンの心がざわめき始める。
(;^ω^)「ジョルジュ、まだ隠してることとか無いのかお」
( ゚∀゚)「別にねぇよ」
(;^ω^)「本当かお!?」
( ゚∀゚)「しつけぇな!」
と言うことはしぃは死人に会いに行ったとでも言うのか。あらゆる可能性をブーンは考え続ける。
( ^ω^)「死人……?」
そう呟いた瞬間、静かな空間へとどこか遠くの銃声が響いてきた。
- 460: ◆HGGslycgr6 :2006/12/15(金) 23:10:33.59 ID:lpA65W140
- (;^ω^)「!」
(;゚∀゚)「!」
その音に2人はしばらく凍りついたまま出口の方を眺めていた。
音の聞こえ方からして、どうやら下の階で何かが起こったようだった。
しばらくそうした後、無言のままゆっくり扉のへと近づいていき、思い切って廊下を確認した。
するとどういうことなのか、廊下にはずっと血の跡が続いており、途切れる事無く遠くの方まで
延びていたのだ。
(;゚∀゚)「……」
(;^ω^)「……」
二人顔を見合わせこれからどうしたものかと思案をめぐらせる。
(;゚∀゚)「これって……どういうことだと思う?」
(;^ω^)「さっぱり……」
ひんやりとした空気が流れる廊下を、2人は導かれるままにその血の跡を辿り始めた。
血の跡は所々で弾けたり曲がったりしながらその形を変えつつ階段へと続き、階下へと
延びていた。角を曲がる度に訪れる恐怖が頭をかき乱し、体を冷たくしていく。
そして電気の点いていない階下に着くなりジョルジュがスイッチに手を伸ばし、廊下に明かりが
点された。ずっと向こうまで続く血の道の果て、そこに何かがあるのが見えた。遠くにあるせいで
何かは分からないがそれを確かめようと2人は恐る恐る歩いていく。
- 462: ◆HGGslycgr6 :2006/12/15(金) 23:11:53.43 ID:lpA65W140
- 1歩1歩確実に歩を進めつつ、時々後ろに何か居ないか確認もする。窓に映る自分の姿に
驚くこともあれば足元で虫が動くだけで心臓がキュッと縮まるのを感じる。
そして、段々と近づくにつれてその形がはっきりとしてくる。
(;゚∀゚)「なぁ……」
(;^ω^)「……お」
どうやらそれは人だった。それもさっきまで一緒に居たはずの。何が起きたのか分からないが
横たわるしぃの足が、確かに確認できたのだ。服が同じなのだから違いないだろうとさらに近づき
そして、その表情を覗き込んだ。
(|||゚ω゚)「ッ……」
(;゚∀゚)「……」
バラバラになった人を見ると言うのは確かに辛いことだろうと思うが、完全に人間のまま
命を終えているそれを見ることも辛いことだった。凄まじい表情で眉間にシワを寄せたしぃの
目や口はこれ以上ないくらいに開き、顔は不自然なほど真っ青で、何より異質だったのが
鼻や口から溢れる真っ赤な血液だった。それは文字通り溢れていて、吐血したとか言うレベル
ではなく、まるで流し込まれたかのようであった。
(|||゚ω゚)「あぁ……あぁぁぁぁ……」
あまりの光景にブーンは立っていられなくなり力なく床に尻餅をついた。
一方のジョルジュはブーンとは対照的に冷静な様子で、しぃの首にそっと触れる。
( ゚∀゚)「……」
(;^ω^)「……ジョルジュ?」
( ゚∀゚)「……死んでる」
(;^ω^)「……」
- 464: ◆HGGslycgr6 :2006/12/15(金) 23:13:09.61 ID:lpA65W140
- ――そうだ。もし生きていたら何か手が施せたかも知れない。それなのに腰を抜かしてただ
うろたえていた自分は何なのだろうか。本当に自分は一体何の役に立つのか、居る意味は、
自分が居る意味はあるのか――いい加減自己嫌悪もしすぎてそれ自体に嫌悪感を感じた。
( ゚∀゚)「……そうか」
(;^ω^)「?」
( ゚∀゚)「……お前か」
その言葉に気付いて前を見ると、しぃの口から血の柱が立ち上っていた。何と言う光景だろうか。
CGを見ているような不思議な感覚に囚われていると、血の柱は至る所から枝分かれし、
どんどんと伸び、複雑に絡み合っていく。その形はどこかで見たことがある形、そして見たことの無い形。
それは大の字に延びた血管、そう、まるで血管だけで形作られた人間だった。
( ゚∀゚)「ドクオ……なんだな」
(;^ω^)「……ドクオ? ジョルジュ……でも……」
( ゚∀゚)「こいつ……まだ認めちゃいないんだよ。自分が死んだって」
(;^ω^)「そんなことがあるかお……それにドクオの体はまだあそこに……」
( ゚∀゚)「さぁな。でも俺にはコイツがドクオに見えるぜ」
言われ、改めて見たその血管人間の口元の血管がたわんだ気がしたのは、ブーンの気のせい
だったのか。それを合図にビチャ、と重力に逆らえなくなった血液がしぃの顔に降りかかった。
- 467: ◆HGGslycgr6 :2006/12/15(金) 23:14:52.57 ID:lpA65W140
- (;^ω^)「う……」
飛び散る血液を咄嗟に腕で防ぐブーン。そしてそれとは対照的に一点を見つめながら
まるで気にせず全身に飛沫を浴びるジョルジュが居た。
( ゚∀゚)「よくやったよ、ドクオ……」
( ^ω^)「……よくやったってのは少し言いづらいけど、でもドクオは僕達を護ろうとしてくれたのかお」
( ゚∀゚)「いやいや、よくやったよ、お前は本当に良くやったよドクオ……」
( ^ω^)「ジョルジュ……でも僕はそこまでは……」
( ゚∀゚)「はは、はははははは! やった! やったぞ! まさかこんな……くく……ははははは!」
( ^ω^)「…………ぇ?」
( ゚∀゚)「いやぁ、こいつがどうにも予想外に強い力を手に入れたもんだから焦った焦った!
あんなバカみたいな力、いつ俺が居なくなっても良いようにされるか分かったもんじゃ
ないからな。いやぁ、ドクオ〜よくやったぜ、お前はよぉ〜」
――この男は何を言っているのか。
ブーンはその言葉の意味を必死に考える。
なんでこの男は笑っているのかと。
誰かにこの状況を説明して欲しかった。
- 469: ◆HGGslycgr6 :2006/12/15(金) 23:15:42.36 ID:lpA65W140
- ( ゚∀゚)「いやぁ……くくく……これでまた姉ちゃんが喜ぶ」
(;^ω^)「ジョルジュ……さっきから何を言ってるんだお」
( ゚∀゚)「また1人姉ちゃんを苦しめた奴が死んだんだ。人を蔑むことしか知らないこいつらが
また死んだんだ。ざまあみろ。俺はこの力を姉ちゃんから授かった日からこれが使命
だったんだ」
( ^ω^)「…………」
( ゚∀゚)「互いに殺しあうなんて無様だよなぁ! やっぱりこいつらは生かしておいて良い事なんて
無いぜ。あぁ〜姉ちゃん……」
( ^ω^)「皆死んだんだお?」
( ゚∀゚)「あぁ! あぁ! 死んだ! ひっひっひぁは! ぁはっ! あははははは!」
( ^ω^)「……死んだんだお?」
( ゚∀゚)「あぁ、これだろ?」
そう言って笑いながら爪先でしぃの顔を蹴るジョルジュを見て、ブーンは目を眼球が飛び出さん
ばかりに見開いた。
そして一度ブルリと肩を震わせると両手を突き出し、唸り、ジョルジュに飛び掛った。
- 470: ◆HGGslycgr6 :2006/12/15(金) 23:16:32.53 ID:lpA65W140
- ( ゚ω゚)「……」
(|||゚∀゚)「……く……ぁ……」
馬乗りになり、力の限りジョルジュの首を締め続けるブーン。親指の爪が喉に食い込み、
ジョルジュの口からは言葉ではない水分と空気が作る音が漏れている。
しかし、ブーンはただジョルジュの顔を見ながら手に力を込め続ける。
( ゚ω゚)「…………」
(||| ∀ )「……p……gp……h……」
ぐるり、とジョルジュの目が上へ。
それでもブーンの筋張った手は固定されたまま全く動く様子は無い。
( ゚ω゚)「……お?」
( ∀ )「……」
パチパチと目の前で何かが光り、ブーンは正気を取り戻した。
取り戻してすぐに両腕に軽い筋肉痛を感じ、そこへ目をやった。
そしてジョルジュの首を未だ締め付ける自分の手に気が付いた。
- 475: ◆HGGslycgr6 :2006/12/15(金) 23:18:53.96 ID:lpA65W140
- (;゚ω゚)「う、うわぁぁぁぁぁぁ!」
慌てて離した瞬間の肉の感触と、紫色に残る内出血の跡がブーンのした事を如実に語りかけていた。
自分の命を守るわけでもなく、能動的にブーンは人を殺した。その事実がブーンの頭を何度も
殴りつけてくる。世界はいろいろな色にフラッシュしたかと思うと真っ黒になる。
そして元気なジョルジュの笑顔と先ほど見た苦しそうな死に顔が交互に現れては消えるのだ。
(;゚ω゚)「僕はやってないお……ジョルジュは死んでないお……名案だお」
あまりの余裕の無さから思いついたままに言葉を直接発しているため、ブーンの独り言は酷く
乱れていた。そしてガクガクと震える手でポケットからナイフを取り出す。
(;゚ω゚)「ジョルジュは死んでないお! 僕はナイフで切っても死ななぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」
叫びながらを高々と上げられたナイフは、躊躇われること無くもう片方の手首へと勢いよく
振り下ろされ、殴りつけるようにその手首に襲い掛かる。
- 478: ◆HGGslycgr6 :2006/12/15(金) 23:20:15.48 ID:lpA65W140
- (;^ω^)「……ふ、ふふふ、ふふふふふふふふあははははははははははははは」
ブーンの手首は未だ繋がったままであった。つまり、ジョルジュはまだ死んではいない。
その事実にブーンは必要以上にハイになり全身のありとあらゆる所を突き刺し、切りつけ、
そしてそれでも切れないことを確認してナイフを床に投げつけた。
――未遂までは行ってしまったが、まぁ仕方が無い。この状況なら誰だってこれ位は
してしまうはずだ。僕は誰も殺しちゃいない。僕には何の罪も無い。彼は罪人だったし――
「酷い顔ね」
突然横から声がしてブーンは飛び跳ねるようにして体ごとそちらを向いた。
('、`*川「前の情けない顔のほうが可愛かったわよ」
( ^ω^)「…………」
居るはずの無い人物を見てブーンは言葉を失う。一瞬にして夢の世界に飛んでしまったような
錯覚を覚え、また自分の凶行を見られてしまったのではという心配が沸々と湧き出した。
――こんなにも死体があるのだから殺してしまおうか。
しかしそれではジョルジュの意味が無い、とブーンは思いとどまる。
- 480: ◆HGGslycgr6 :2006/12/15(金) 23:21:28.10 ID:lpA65W140
- ('、`*川「……悪い眼ね。やっと狡さを憶えた? でも、ちょっと遅かったわね」
( ^ω^)「……見たのかお?」
('、`*川「違う。あなたが潔白を捨てるのが遅かったのよ。弱い人は狡くならなきゃ駄目よ」
そう言って彼女は長い袖に隠れたままの手で、生地越しにブーンの足元のナイフをそっと拾った。
刺される。そう思い後ずさりしたブーンだったが、そんなのにはまるで興味が無いといわんばかりに
彼女はジョルジュの元へと歩み寄っていく。
('、`*川「内藤君、知ってる?」
ぐったりと倒れているジョルジュの脇にしゃがむと彼女は背中越しにそう聞いてきた。
( ^ω^)「何がだお」
('、`*川「その力、開花させた人が亡くなると失われるの」
( ^ω^)「それ位知って――」
自分で言ってて冷たい空気がヒヤリと首筋を刺激した気がした
- 482: ◆HGGslycgr6 :2006/12/15(金) 23:22:27.96 ID:lpA65W140
- (;^ω^)「……」
('、`*川「でもね、事実はなくならないの。例えばドクオはもう生き返らないし彼らが壊した
壁なんかも直らないわ。私のお腹の傷もね」
完全には理解していなかったが、漠然とこれから自分にとって不利なことが起こるイメージが
浮かび、ブーンはそれを止めようとする。
しかし脱力仕切った足に力が入らず立ち上がりさえ出来ない。
('、`*川「それにしてもそっくり……憎らしい子」
(;^ω^)「やめ……」
裁判官が木槌を叩くような動作がブーンの眼には映った。
そしてブーンの全身から黒く澱んだ血が噴出した。
(;゚ω゚)「あぁ……あぁぁぁ……ぁぁぁ……」
体中から急速に熱が逃げていき、凍えてしまうかと思うほどの寒さがブーンを襲う。
それと共に視界が朧になり、体の感覚が鈍くなっていく。
- 484: ◆HGGslycgr6 :2006/12/15(金) 23:23:39.14 ID:lpA65W140
- (|||´ω`)「……」
薄れ行く意識の中、ブーンの頭の中を巡っていたのはみんなの顔だった。
もし思考が正常な状態だったならば、皆が守ってくれた命が無くなっていくことに無念を
感じたかも知れない。
けれども今ブーンが感じていたのは解放されたと言う思いだった。
突然の出来事で自分が死ぬということを理解していなかった所為かも知れないが、
皆から背負った物、皆に背負わせた物、これから自分が背負っていく物、すべてから
開放されたな、と言う思いだった。
弟者やジョルジュに対するケジメも付いたかも知れないという、多少歪んだ自己満足も
抱えながらブーンは深くへ、深くへと落ちて行く。
('、`*川「同級生を次々に殺し、自殺。はい、ナイフと拳銃をどうぞ」
その声は最早ブーンには理解できなかった。
−終−
戻る/あとがき