( ^ω^)ブーンはかえってくるようです

60 : ◆y7/jBFQ5SY :2006/12/14(木) 20:29:46.95 ID:jpnEBPOY0O
  

          ―― 五 ――



夏の日照りが少しづつおさまり、犬や猫、ひとの動きが活発になっているころ、ぼくはまだ、しぃの所へ通い続けていた。
しぃと出会ってからすでに何週間か過ぎたが、このボロイ木造二階建ての家は壊されずに残ったままだ。
変るものは変るし、変らないものは変らない。けれど、変らないことに失望することはなくなっていた。

ぼくは今、朝の道を歩いていた。まだ陽が昇りきっていない、薄暗い散歩道。
乗れるんじゃないかと思えるほどでかい犬。そんな犬に引っ張られながら、それでもうれしそうな少年。
店を開く準備のために、せっせと働く八百屋のおじさん。ねむたそうな顔をしながら、流し目で催促する猫。

いろんなものが見える。見えていたのに、見逃してきたものたちを。
朝の風は、自分で感じることはできなくても、葉のゆれで見てとれる。

そのまま、見ていなかったものたちを見て歩いていると、おもわぬひとと遭遇する。

( ^ω^)「ショボンさん! 久しぶりですお!」
(´・ω・`)「ブーン!?」
( ^ω^)「あの喧嘩見物以来ですお。いつこっちに戻ってきてたんですかお?」

そう質問するぼくに、ショボンさんは答えない。いつも悠然としているショボンさんらしからぬ、そわそわとした態度を見せる。
ぼくが疑問に思っていると、ショボンさんの後ろから、小柄な品の良さそうなおばさんが出てくる。

( ^ω^)「ショボンさん……。ひょっとして、でぇと?」
(´・ω・`)「ぶち殺すぞ」

おばさんが、そっと前へ出る。そのまま、ゆっくりとぼくの顔を見る。

J( 'ー`)し「ごめんなさいね……。あなたが、ブーンさんね?」



61 : ◆y7/jBFQ5SY :2006/12/14(木) 20:31:47.80 ID:jpnEBPOY0O
  

( ^ω^)「え、ええ。そうですお」
(´・ω・`)「おばさん、その、あまり……」

ショボンさんが慌てて、ぼくとおばさんの間を遮ろうとする。明らかにいつものショボンさんとは違う。
おばさんは、遮ろうとするショボンさんに、ゆっくりと、だが、はっきりとした口調で告げる。

J( 'ー`)し「わかっています。詳しいことは言いませんし、時間には間に合うようにします。
      ですが、私はブーンさんと話さなければならないのです。あの子の母として、きっちりと」

ショボンさんは少しの間悩んだそぶりをみせ、声も出さずに引き下がった。どうやら、許可したらしい。
おばさんも、ショボンさんへ向かってゆったりと一礼する。そして、ぼくのほうへ向きなおる。
そして、ぼくに向かって深々と頭を下げる。

(;^ω^)「ちょ、え! あ、あの、頭を上げてくださいお!」

ぼくがそう言っても、おばさんは頭を下げたまま動かない。
どうしたらいいかわからず、ショボンさんのほうへ目を向けるが、目が合った瞬間、逸らされてしまった。

何分間かこのままの状態が続き、ようやくおばさんが頭を上げる。

J( 'ー`)し「いきなりこんなことをしてしまってごめんなさい……。迷惑に思われたと思います。
      でも、これは私にとって必要な“けじめ”なのです。本当に、ごめんなさい……」
(;^ω^)「はぁ、えっと、それはどういう……。いや、だから頭上げてくださいお!」

再度頭を下げようとするおばさんを何とかなだめ、話を聞こうとする。

J( 'ー`)し「……私には、ひとり、息子がおりました。私が疲れると、肩をもんでくれたり、家事を手伝ってくれる、
      よく気のつく、とてもやさしい子でした。母ひとり子ひとりで、慎ましく暮らしてきました」

おばさんはそうっと話し出す。人事だとは思えず、ぼくは黙って聞く。



62 : ◆y7/jBFQ5SY :2006/12/14(木) 20:33:48.08 ID:jpnEBPOY0O
  

J( 'ー`)し「あの子は、父親がいなくても文句も言わずに、質素な生活でも不平を言わずに、いつも、
      私のことを心配してくれていました。私も、そんなあの子の為に、できるだけお金を稼いで、
      少しでも良い暮らしをさせてあげようと頑張ってきました。今思えば、それがいけなかったようです……」

おばさんは、一旦話をくぎる。ぼくが頷くのを見て、またしゃべりだす。

J( 'ー`)し「私が無理を通して働くこと……、それが、段々とあの子の重荷になっていたようなのです。 自分がいるから、
      かーちゃんはあんなに苦労しているんだ、と……。口下手な子でしたから、直接言ってはくれませんでしたが……。
      私も、忙しさにかまけてあの子の気持ちを察してやれませんでした。仕事のほうにばかり、意識が向かっていました。
      さらにわるいことに、自分の限界を無視して働いてきた私は、おもわぬしっぺ返しを受けることになりました……」

このひとは……、同じだ。このひとが辿った道は、まったくおんなじだ……。

J( 'ー`)し「今思うと、なぜあんなに無謀なことをしていたのかと、悔やむばかりです。ですが、
      過ぎてしまったことは仕方ありません。……ごめんなさい、少し話がそれましたね。
      元々丈夫ではなかった私は、疲労により、倒れました。疲労によって、倒れたのだと、そう思っておりました。
      私は息子に進められて病院に行き、お医者様の診断を受けることにしたのですが……。私は愕然としました。
      私が倒れた原因は、疲労ではなく、癌だったのです。それも、もう手遅れにまで進行した……」

おばさんは淡々と話す。だが、聞いているぼくのほうが穏やかではいられなくなる。こわくなる。話はさらに続く。

J( 'ー`)し「私がそうなったのは仕方がありません。自業自得だと思います。ですが、それがあの子をさらに追い詰めることに……。
      あの子は、がむしゃらになって働きました。ですが、それも私の入院費だけで消えていく……。
      しかも、手術にはさらにお金がかかります。私は、もういい、もういいと言い続けましたが、息子は働き続けました。
      それでも、お金は消えていくばかり……。あの子は、やってはいけないことをやってしまいました……」

おばさんがもう一度謝り、頭を下げる。ショボンさんが止めようとして、結局止めなかった。
ぼくには、おばさんが次になんと言うか、わかってしまっていた。

J( 'ー`)し「あの子は、盗みをしようとして、はずみでひとを刺してしまいました……」



63 : ◆y7/jBFQ5SY :2006/12/14(木) 20:35:47.94 ID:jpnEBPOY0O
  

ぼくは、何も言えなかった。怒っているわけでも、呆れているわけでもない。
おばさんと、息子のこころが痛いほどわかってしまって、何を言っていいのかわからないのだ。

J( 'ー`)し「ほどなくして、私は息を引き取りました。あの子を、ひとりぼっちにしてしまいました……。
      ひとを殺してしまったという苦しさを、聞いてやることができなかった……。
      私は彷徨いました。あてどもなく、何もせずに……。私は死に、記憶を……」
(´・ω・`)「ンンッ!」

ショボンさんが咳払いをする。おばさんは少しだけ躊躇ったあと、話を飛ばして続ける。

J( 'ー`)し「私の話はいいですよね、ごめんなさい。息子は、はじめのうちこそ逃げていましたが、
      結局自首することになりました。私も、それでよかったと思います。逃げ続けるのは、きっと辛いだろうから……」

話が終わり、おばさんはふっと息を吐く。心なしか、満足しているように見えた。
ショボンさんが促し、おばさんもそれに続いて行こうとする。でも、ぼくには、聞かなければならないことがある。

( ^ω^)「……待ってくださいお。息子さんは、今どうしているんですかお?」
J( 'ー`)し「……出所して、真面目に働いてます。所帯も持てました。それを見るために、今日、こうして」
( ^ω^)「そうですか……。多分、きっと……、殺された彼も、喜んでると思いますお!」
(´・ω・`)「!?」

ショボンさんが驚いた表情をしたのが視界に入る。
おばさんも、少しビックリした様子だったが、すぐに笑みに変り、ぼくに近づく。

(´・ω・`)「おばさん、もう時間が……」
J( 'ー`)し「わかっています。最後にほんの少しだけ……。ブーンさん。あなたがどんな理由でここに在るのかは私にはわかりません。
      でも、きっと大丈夫。あなたなら乗り越えられます。だって、あなたはやさしい目をしているもの」

それだけ言うと、おばさんはショボンさんと一緒に行ってしまった。
空を見上げると、太陽は真上まで昇っていた。



64 : ◆y7/jBFQ5SY :2006/12/14(木) 20:37:48.34 ID:jpnEBPOY0O
  

陽が落ち、茜色の空が終わろうとするころ。ぼくは、しぃの家へと向かっていた。
通いなれた道。さすがにもう迷うことはない。だが、たまに寄り道をして、あの少年たちのようなあったかい出来事を探している。

今日は真っ直ぐに向かうつもりだったが、土手を歩いていると、数人の男の子たちが花火をやっているのを見つけた。
まだ完全に陽が落ちたわけではないから、花火の火はとても見えづらい。しかし、それでも男の子たちは楽しそうにしたいた。

いつかのしぃの言葉を思い出す。たしかに、声を聞いているだけでこっちまで楽しくなってくるな。
若いっていいなぁ……、などと親父くさいことを考えながら、おかしくて、ほほえましくて、少しだけわらった。

なんとなく目を離すことができず、男の子たちを見続けていると、いつのまにか空は黒に染まっていた。
水面には月が浮かんでいる。ぼくは、急いでしぃの家へ向かうことにした。

しぃの家へ着き、部屋へ入ろうとした瞬間、違和感を感じる。中からひとの話し声が聞こえるのだ。
ぼくは中へ入らず、そっと耳をそばだてる。

『だ……ち……って……て……ゃない!』
『で……もう……の……な……』

どうやら話しているのはふたり。ひとりはしぃで、もうひとりはしぃの母親のようだった。
ふたりは何か言い争っているらしく、部屋の外まで声が洩れ聞こえてくる。
それでも、よく聞こえないので、耳だけを部屋の中へと入れる。

『それは……、わかってるけど……』
『わかってるんなら、なんで嫌なんて言うの。お母さん、心配させないでよ……』
『あたしだって、あたしだって……。心配してなんて言ってないもんっ!』
『心配するわよっ! なんでそんなことわからないのっ!』

言い争いの原因はわからないが、どうやらしぃが何かを愚図っているらしい。そう、軽い気持ちで聞いていた。聞くべきじゃなかった。

『今手術しないと、一生目が見えなくなるのよ!?』



65 : ◆y7/jBFQ5SY :2006/12/14(木) 20:39:47.65 ID:jpnEBPOY0O
  

( ゚ω゚)「……え?」

いま、なんて?

『お医者様が言ってたわ。今を逃したら、何をしても絶対に治ることはなくなるって』

え、だって、しぃはまだだいじょうぶって?

『手術するには今しかないの……。お願い、しぃ……』

しゅじゅつをしたら、めがみえるようになったら?

『手術……、してちょうだい……』

ぼくは、どうなる?

『だって……。だって……』
『お願い、しぃ……』
『絶対……、成功するってわけじゃないし……』
『でも、今しないとどっちみちダメなのよ? だったら』

『……もん』
『え?』
『わかんないもんっ! お母さんにはわかんないもんっ!』
『しぃ!』

『あたしが考えてることなんてお母さんにはわかんないもんっ! あたしがいなくなれば楽になるじゃないっ!』
『バカなこと言うんじゃありませんっ!』
『あたしが重荷なんだもんっ! あたしが邪魔なのっ! あたしを捨てればいいじゃないっ!!』
『!?』



72 : ◆y7/jBFQ5SY :2006/12/14(木) 20:41:47.59 ID:jpnEBPOY0O
  

乾いた音が部屋の中に響き渡る。
しぃの嗚咽が聞こえ、ついで、母親のそれも聞こえはじめる。

( ゚ω゚)「……」

ぼくは、なにも、できず、ただ、はしって、にげた。
ぼくは、こわくて、こわくて、なきだし、たかった。



川の流れを見つめる。空の黒を反射して、黒い絵の具がうねっているように見える。覗き込んでも、ぼくの顔は写らない。
何もせず、何も考えず、ただ、ぼーっとしたい。だが、どうしても先程のことが思い出されて、考えないでいられなかった。

( ゚ω゚)「……ははっ」

今すぐ手術をしないと間に合わないって? そんなこと、聞いてないぞ? ぼくに隠してたのか?
ぼくはなにを考えているんだ。しぃの目が見えるようになるんだったら、そんなに喜ばしいことはないじゃないか。

手術をして、成功したって、ぼくの声が聞こえなくなるかはわからないだろう? もしかしたら、ぼくの姿が見えるかもしれない。
けど、そんな保障は何もない。ぼくの声は、しぃに届かなくなってしまうかもしれない。

そうしたら、ぼくはどうなる。しぃとは二度と話せなくなるのか? あの笑顔が、ぼくに向かうことはなくなるのか?
しぃの目が見えるようになったら、これからは同じものを見れるようになるんだ。そうすれば、話も弾むだろうな。

そうだ。しぃは花火をしたがってた。ぼくは花火を持てないけど、構うもんか。しぃと一緒に、しぃと話ができれば……。
そうだ。手術をしたって、必ず成功するわけじゃない。失敗すれば、ぼくはしぃと話ができる。しぃと話ができれば……。

そうだ。しぃと話ができれば、ぼくは……。

(´・ω・`)「……やぁ」



73 : ◆y7/jBFQ5SY :2006/12/14(木) 20:43:47.89 ID:jpnEBPOY0O
  

( ゚ω゚)「ショボン、さん」
(´・ω・`)「隣、いいかな?」

ぼくの返答を待たずに、ショボンさんはぼくの隣に座る。
その表情は、しょぼんとしていて、何を考えているかわからない。

( ゚ω゚)「ショボンさん、はじめて知りましたお……。
     ぼくらは、本当に悲しくて、つらくて、泣きたくて、泣きたくてしょうがなくても、涙を流すことは、できないんですお」
(´・ω・`)「……」

ショボンさんは答えない。

( ゚ω゚)「とても、苦しいんですお。自分の思いを、全部洗い流したいのに、それができない。
     どんどん、どんどん溜まっていくのがわかるんですお。いつか、破裂するのがわかるんですお」
(´・ω・`)「……」

ショボンさんは答えない。

( ゚ω゚)「自分の中に汚いものが溜まっていくのが、手に取るようにわかるんですお。
     しぃのしあわせを願っていたら、いつのまにか、自分の願いへすり替えている自分に気づいてしまうんですお」
(´・ω・`)「……」

ショボンさんは答えない。

( ゚ω゚)「ねぇ、聞いてるのかお? なんか答えろお……。なんか答えてくれお!」
(´・ω・`)「僕はここから去る」

ショボンさんが答えた。

(´・ω・`)「僕はここから去る。今日はお別れを言いに来たんだ」



74 : ◆y7/jBFQ5SY :2006/12/14(木) 20:45:47.08 ID:jpnEBPOY0O
  

( ゚ω゚)「ショボン……、さん?」
(´・ω・`)「あと数日で日本を発つことになる。きみには知らせるべきだと思ってね」

何でもないことのように、事務的な口調でショボンさんはしゃべる。
ちょっと、待ってよ。それ、どういう……?

(;゚ω゚)「ど、どれくらいの間、留守にするんですかお?」
(´・ω・`)「少なくとも、百年は日本に戻ってくることはない。きみに出会うことは、おそらく二度とない。
      もし会えたとしても、きみの記憶の中の僕がいなくなってからだろう」

ショボンさんにはじめて会ったときのことを、ぼくは覚えていない。
いつの間にか交友を持ち、ことあるごとにお小言を受ける。ありがたくもわずらわしいひとだと思っている。
良いひとだけど、お節介焼きで、たまに窮屈だけど、ぼくのことを考えてくれている、そんなひとだと、思ってた。

(;゚ω゚)「しょ、ショボ……」
(´・ω・`)「内藤ホライゾン」

ショボンさんが名前を呼ぶ。聞いたことのある名前。思い出した、自分。

(´・ω・`)「内藤ホライゾン。もう、思い出したんだろう? 自分が誰なのかを」
(;゚ω゚)「……」

ぼくは答えない。

(´・ω・`)「僕の役目は、もう終わったんだ。あとは、きみ自身でなんとかするしかない」
(;゚ω゚)「やく、め?」

ショボンさんは、ぼくのほうを見ず、しょぼんとした無表情で真っ直ぐ前を見つめている。

(´・ω・`)「そう、役目さ。きみの記憶が戻るよう助力する。それが僕の役目」



75 : ◆y7/jBFQ5SY :2006/12/14(木) 20:47:46.94 ID:jpnEBPOY0O
  

ショボンさんは背中をぱたぱたとはたきながら、話し続ける。

(´・ω・`)「長かった。本当に長かったよ。助力はあくまで助力に留めなければならない。直接きみに教えることはできない。
      それは、“こちら”と“あちら”の、破ってはならない規約なんだ。だから、今朝はどうしようかと思ったよ」

今朝のこと、おばさんの話。おばさんの息子の話。そういえば、ショボンさんは随分とそわそわしていたな。
霞がかったように、思い出の像がぼやける。今朝のことなのに、遠い昔の出来事な気がする。

(´・ω・`)「きみの記憶を戻すために、随分とまわりくどいこともやった。喚起させるよう、説教もした。余計なお節介も焼いた。
      こころに刺激を与えれば何かを思い出すかもしれないかと、いろんな所へ連れてまわった。
      自分の死に近い状況を見せれば何かを思い出すかもしれないと、喧嘩も見せた。注釈までつけながらね」

いろんなことをしてもらった。してもらっている間は、わずらわしくて、うっとうしかったりしたけど、とても、ありがたかった。
いろんな所へ連れて行ってもらった。外へ出るのはめんどうだったけど、見ている間は、とても、こころがふるえた。

(´・ω・`)「でも、きみは記憶を取り戻さなかった。僕のやってきたことは逆効果になってしまっていた。
      強い刺激を与えるたびに、きみのこころの閾値は上がり、小さな出来事では、こころが反応しなくなってしまった」

ぼくは、いつも飽いていた。小さな出来事は、大きな快感に消し去られてしまう。そう、思うようになっていた。

(´・ω・`)「長い間、本当に長い間、きみと僕の関係は続いてしまった。僕には、きみの記憶を取り戻させる手段がわからなかった。
      しかし、そこに一筋の光明が射した……。それが、しぃだ」

しぃのおかげで、小さなことの大切さを思い出すことができた。思うことを、思い出した。

(´・ω・`)「僕はきみのことを調べていたから、当然しぃのことは知っていた。しかし、それを使う気にはならなかった……。
      こうなることが、目に見えていたからね……。しかし、他に手段はない。僕は、しぃにすべてを託すことにした。
      僕はほとんど干渉せず、ときおりきみの所へ寄って、きみのこころを助長させることだけに努めた。
      そして、ときを待ち、きみの中に昔の思い出が見え隠れしたのを確認し、あの喧嘩を見せた。
      僕は、はじめからバンダナがナイフを持っていることを知っていたんだ。あとは……、この通りさ……」



76 : ◆y7/jBFQ5SY :2006/12/14(木) 20:49:46.77 ID:jpnEBPOY0O
  

( ゚ω゚)「ショボンさんは……、役目だからぼくの世話を……?」
(´・ω・`)「……そうだ」

何だかんだと世話を焼いてくれてきたショボンさん。失って、はじめて気づく。
ああ、このひとは、ぼくにとっての親代わりだったんだな、と。

(´・ω・`)「……怒ったかい?」
( ゚ω゚)「……いえ」
(´・ω・`)「……殺してやりたいと思わないかい?」
( ゚ω゚)「……いえ」
(´・ω・`)「……消えてしまえばいいと思わないかい?」
( ゚ω゚)「……いえ」

ショボンさんの、ぼくに対する好意は偽りのものだった。裏切られたと思っても、仕方のないこと、そう、思った。
それでも、ぼくは、ショボンさんを嫌いになることはできなかった。だって――。

( ゚ω゚)「ぼくがショボンさんのおかげで楽しい思いができたこと。それは本当なんですから……」
(´・ω・`)「……そうか」

ショボンさんが立ち上がる。キリンの首のように細長い体躯が、目の前でぐいんと伸びる。
これが最後なんだと思うと、もっとよく見ておけばよかったと、後悔する。背中を見せたまま、ショボンさんが話し出す。

(´・ω・`)「……三日後に、ここで花火大会がある……」
( ゚ω゚)「しぃから聞いてますお。日付まではしらなかったけど……」
(´・ω・`)「これが、最後の説教だ。よく、聞いてくれ……。僕はきみじゃないから、きみが何をしようと、強要することはできない。
      しかし、きみはもう、自分のことを、内藤ホライゾンであることを取り戻したはずだ。
      きみにしかできないこと。きみがやらなければならないこと。それを、思い出してみてくれ……」
( ゚ω゚)「ショボンさん……」
(´・ω・`)「僕は、きみだからここまで世話を焼けたんだ。他のやつならとっくに投げ出していたさ。
      その意味を、考えてほしい。……長くなったな。いろいろあったが、僕も楽しかった。それじゃ、息災で……」



78 : ◆y7/jBFQ5SY :2006/12/14(木) 20:51:45.99 ID:jpnEBPOY0O
  







ぼくは、しぃの下へ行き、三日後に迎えに来るとだけ伝えた。


夜の帰り道。電信柱の片隅で、セミの屍骸が転がっていた。











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