3: ◆wZk4NVoY.w :2008/05/03(土) 00:27:10.75 ID:K/C/ggaIO
 
1時間に一度通るバスに乗り、3時間。
それから大門をくぐり、10分間坂道を徒歩で登る。

そんなへんぴな所に、岸・柳原病院はある。
二人の院長。ちょうど今の国会みたく、ねじれ、権力が分散されて派閥が入り乱れているらしい。

( ^ω^)「……そんな事、どうでも良くないかお?」

('A`)「俺らには、全く関係ないよな……」

ガードレールを越えれば、一瞬きりの銀河鉄道がある、山肌を削って作った道路。
そこを走るバスの中、案内を見てぼやく二人の男。

にこやかな男と、まさに病院に行きたそうな男。
ぱっと見て、気が合いそうな二人ではない。
単なる相席で、片方が病院に行く途中で、重い病気を抱えているかなりにしか見えない。

しかし、二人はさっきからずいぶんいろいろ話していて、病気を抱えている風でもない。



6: ◆wZk4NVoY.w :2008/05/03(土) 00:30:06.14 ID:K/C/ggaIO
 
二人は一体どういう関係なのだろうか。片方の男のことはよく知っているが。

正直、見知らぬ男の存在で、少し決心が鈍った。

( ^ω^)「あ、そろそろ着くお」

男が言ったのにつられて、前を見た。フロントガラスからは、長い道路に、小高い丘が見えていた。

('A`)「ほんとだ、準備するか」

二人は立ち上がり、荷物の入っているらしいバッグを荷棚から下ろした。

(さて……)

こっちもそろそろやるべきか、と彼らの真似をした。
バスがゆっくり、スピードを落としていった。



8: ◆wZk4NVoY.w :2008/05/03(土) 00:33:36.00 ID:K/C/ggaIO
 







 ( ^ω^)は死神のようです







9: ◆wZk4NVoY.w :2008/05/03(土) 00:36:07.19 ID:K/C/ggaIO
 
( ^ω^)「……?」

('A`)「どうした、ブーン?」

( ^ω^)「いや……」

ブーンは、前のほうの席から視線を感じて、席から身を乗り出してみた。
しかし、こっちを見ている人はいない。

( ^ω^)「何でもないお」

('A`)「変な奴」

( ^ω^)「お前が言うな」

バスが完全に止まって、ブーンとドクオはいの一番に昇降口にいった。
半ば走るように、目的地である病院を目指す。

(;'A`)「こらまて、お前早いぞ!」

( ^ω^)「うっせ、全力で走ればいいじゃないかお!」

駆け足、駆け足。くねくね緩やかな坂道を上る。
しかし、病院に着く頃には、二人はとっくにてくてく歩き始めていた。



11: ◆wZk4NVoY.w :2008/05/03(土) 00:39:23.44 ID:K/C/ggaIO
 
自動ドアに迎えられ、ブーンたちは神妙な面持ちで病院のロビーにやって来、そして、
素通りして廊下へとぺたぺた進んでいった。

彼らはエレベーターに乗り込んで、そこから3フロア上がる。

('A`)「4階、か」

( ^ω^)「まさに凶兆って感じだお……」

まるで、これから何が起こるかを知っているような口ぶり。
しかしブーンは、エレベーターが開くと同時、臆せず進んでいった。

いたって普通な、病院の廊下だ。人通りが極端に少ないこと以外は。

( ^ω^)「……ドクオ?」

それと、エレベーターに乗っていたはずのドクオがいないこと。

まだ扉は開いたままだし、彼が怖じ気付いて逃げ帰った、ということもないだろう。



13: ◆wZk4NVoY.w :2008/05/03(土) 00:42:08.86 ID:K/C/ggaIO
 
(;^ω^)「……」

いきなり襲った異変。
ブーンも、何かあることは考えていたが、早速とは思っていなかった。

( ^ω^)「……仕方ないかお」

白いライトに、白い廊下は照らされていた。
ブーンは、トイレと逆の左側の突き当たりを睨んで、つま先を立てて足音なしに歩き出した。

( ^ω^)「……誰かいないのかお?」

一人でいると、どうも不安が募る。
仲間がいれば、多少の恐怖くらいは笑い飛ばせる。
せめて、なにか頼れるもの。御守や護身具があればいいのだが、それもない。

しかし、ここで戻るわけにもいかない。虎穴に入らんずば虎児を得ず、ブーンはさらに歩く。

(;^ω^)「あっ……」

壁づたいに歩いていくと、指先に何かが触れた。
そして、その瞬間、サイレンサーをつけた銃撃のような音がして、廊下の電気がすべて消えてしまった。



14: ◆wZk4NVoY.w :2008/05/03(土) 00:45:19.84 ID:K/C/ggaIO
 
(;^ω^)「まずいお……」

真っ暗になった廊下だが、壁に触れていたのを幸いに、二、三歩戻って
両掌でなでさする、壁に背中をくっつけて彷徨く。

しかし、さっき触れた突起の感触さえない。

( ^ω^)「そもそも、こういう所の電気って、スイッチで制御なんかしてるのかお?」

冷静に浮かんだ疑問符。
ブーンはもう諦めて、常備灯を探すことにした。
徐々に開いていく瞳孔による、うすらぼんやり広がる視界と、
微妙に流れる風を感じて、道を探しながら歩く。

( ^ω^)「……お!」

角を曲がると、その奥に青緑色の小さな光が見えた。
すこし急ぎ足に、光のもとに向かう。

着いたところでは、浮かび上がった常備灯の文字。
光を掴んでみると、鉄の冷えた、一昔前のバイブのような握り心地。



15: ◆wZk4NVoY.w :2008/05/03(土) 00:48:08.74 ID:K/C/ggaIO
 
(;^ω^)「ほっ……」

手を引っ張ると、まぶしい光が広がった。
安心して息をついて、懐中電灯を前に向ける。

と。

( ゚ω゚)「……っ!」

目と鼻の先を、金色の光が駆け抜けた。
異常な危機感に襲われ、思わず身を引く。
鼻先を掠めるだけで済んだのは、奇跡の産物か。
しかし、奇跡を無に帰すように、勢い余って、ブーンは尻餅をついてしまった。

(;゚ω゚)「うわああぁぁっ!!」

思わず、絶叫がのどの奥から吐き出される。
取り落とした懐中電灯が、返り血に染まった手術着の足元を照らす。



18: ◆wZk4NVoY.w :2008/05/03(土) 00:51:11.96 ID:K/C/ggaIO
 
そいつは一歩一歩をゆっくりと、こちらに向かってくる。

( ゚ω゚)(なにか、反撃できるものは無いのかお……)

懐をまさぐるが、あったのは三色ボールペンのみ。到底武器にはならない。

自分はこのまま、暗闇に感化された狂気の医師に殺されるのだろうか。

(;゚ω゚)「……そんなの、そんなのごめんだお!」

訳も分からず、そばにあった物体をつかみ、全力をこめてそいつの頭のあたりに投げ飛ばす。

パトランプが高速で回転し、烈しい光を放つように。それは輝きながら、
ゴッ、と鈍い音を立てて、ちらちら見えていた何かに直撃した。



20: ◆wZk4NVoY.w :2008/05/03(土) 00:54:36.12 ID:K/C/ggaIO
 
バタンと、そいつが倒れる音がした。
殺してしまったかも、という不安がよぎったが、その時はもう、かまっている暇はなかった。
ブーンはこの機に一目散に走り出し、壁にぶつかると、すぐに右に曲がってまた駆ける。

(;^ω^)「はぁ、はぁ……」

どれだけ走ったか、ブーンは同じところをぐるぐる回っているのに気がついた。
しかしそれでも、落ちている懐中電灯が壊れてしまっていたら、気づくことはなかっただろう。

( ^ω^)「……あれ?」

懐中電灯を拾い上げ、辺りを照らして見回したが、あの医師の姿は見当たらなかった。
あったのは、奴が使っていたらしい、血痕付きメス。

( ^ω^)「……何かには、使えそうだお」

それを、持っていくことにした。



21: ◆wZk4NVoY.w :2008/05/03(土) 00:57:09.95 ID:K/C/ggaIO
 
( ^ω^)「……」

懐中電灯の灯りを頼りに、病室を探索することにした。
ここ全てを探れば、さすがに見つかるだろう。

( ^ω^)「……たのもー」

まずは、401号室から。虱潰しに当たっていく。

戸を引き、中に入ると。

(;^ω^)「う……」

オレンジ色の光が、壁に書かれた文字を照らし出した。
赤茶けた、古い血のような色で書かれた、その文は、こうある。

『きをつけろ おまえを みている あいつは いきている』

(;^ω^)「あいつが僕を見ている……どういうことだお?」

とりあえず、この部屋にはブツは無かったので、ブーンは逃げるようにそこを後にした。



22: ◆wZk4NVoY.w :2008/05/03(土) 01:00:04.35 ID:K/C/ggaIO
 
( ^ω^)「……んー?」

続いて隣の402号室。

そこのベッドの一つに、膨らみを発見した。
布団をめくってやるべきか否か、迷う。あんなものに出会ったばかりだ。
そうそう簡単に、そんな勇気なんか出ない。

このパンドラの布団を開けたら、二度と目が開かないなんてこともありそうだ。

( ^ω^)「……おーい」

声をかけてみるが、反応はない。

( ^ω^)「……よし」

懐中電灯を翳して、いつでも叩けるようにしてから、布団の裾に手をかける。

意を決して、ブーンは一気に布団を捲った。

( ゚ω゚)「きゃああああああぁぁっっ!!!」



24: ◆wZk4NVoY.w :2008/05/03(土) 01:03:22.84 ID:K/C/ggaIO
 
布団の上からでは分からなかった、ベッドの色。
それは紅。噴き出す鮮血のような色だった。

シーツに触れれば、まだ、ぬちゃりと粘る生暖かさを感じる。
もちろん、そこにあったのは血だけではない。

胸を押さえたまま息絶えている、年若い少年の、右脚を除いた全身。

ズタズタに切り裂かれた腹部から、腸が溢れ、今もまだ血が流れ出ていた。
脚の付け根、断面から、赤と白をコントラストとする筋肉や骨がはっきり見える。

(;゚ω゚)「う……ぷ」

あまりにグロテスクなその様は、ブーンに吐き気を催させた。



25: ◆wZk4NVoY.w :2008/05/03(土) 01:06:14.55 ID:K/C/ggaIO
 
(;゚ω゚)「だあああっ!!」

これ以上見ないように、ブーンはさっさと病室を出て、バタンとドアを閉めた。
そこに寄りかかってしばらくして、ようやく息が整い、視線をあげる。

(;^ω^)「……お?」

まだ冷や汗が流れていた。
そこにまたあった、照らし出された文字。

『you did it!!:-)』

フォントは字体を創英角ポップ体、色を赤茶にくすんだ血の色。
楽しそうに顔文字までつけて、ずいぶん恨めしさが込められていた。

( ^ω^)「僕が……何をやったって?」

もちろん訳せるけども、意味が分からない。
誰が、あの人を殺したって、誰があんな残酷なことをしたって?



27: ◆wZk4NVoY.w :2008/05/03(土) 01:10:20.16 ID:K/C/ggaIO
 
(#゚ω゚)「……はっははは……はぁーっはっはっはっはっ!! 冗談きついお!!」

(#゚ω゚)「誰が人殺しだ! 僕はずっとお天道様に恥じないように生きてきたお!! 大外れだお、探偵さん!!」

思いっきり壁を蹴ってやったが、そのくらいで、強固な壁は崩れたりヒビ入ったりはしない。
もちろん、彼の心が晴れたりもしない。

( ゚ω゚)「……とっとと行くお、こんなのに構ってられるかお……」

ブーンは肩を怒らせ、403のドアを思い切り蹴飛ばした。

ドア自体古かったのか、メリッと音を立てると、ドアはゆっくり傾きだした。
そして、ガラスを砕け散らせながら、ドアの倒れ込んだ病室から、小さな悲鳴が漏れてきた。



29: ◆wZk4NVoY.w :2008/05/03(土) 01:12:18.65 ID:K/C/ggaIO
 
(;^ω^)「誰かいるのかおっ!?」

ブーンはその声を聞き逃さなかったが、恐怖からか、声がまるっきり裏返っていた。

咳払いをしてから、もう一度言う。

( ^ω^)「……誰かいるのかお?」

「ブーンか?」

聞き覚えのある声だ。震えてはいるが、こんな情けない声なら違いない。

( ^ω^)「ドクオ?」

(;'A`)「やっぱりブーンか! あぁ、よかった……」

よほどひどい目にあったらしい、涙の痕がしっかりついていた。
抱きつこうとするドクオを躱して、ブーンは腕を組んで訊いた。

( ^ω^)「それよりドクオ、例のものは見つかったかお?」



32: ◆wZk4NVoY.w :2008/05/03(土) 01:15:34.34 ID:K/C/ggaIO
 
いや、とドクオは肩をすくめた。

('A`)「すまん」

( ^ω^)「謝ることなんてないお、あんなの見つかる方がおかしいんだお」

('A`)「そうか……でも、すまん」

( ^ω^)「……あとの部屋を探すお。なかったら、すぐ帰るお」

ブーンは尻餅をついているドクオに手を貸して、辺りを照らしながら見回した。

( ^ω^)「この部屋には何もなかったかお?」

('A`)「あぁ、ここには……次、行こうぜ」

ドクオももう一度見回してから、すっとブーンの前に立って、部屋から押し出した。



33: ◆wZk4NVoY.w :2008/05/03(土) 01:18:05.59 ID:K/C/ggaIO
 
( ^ω^)「……あれ?」

('A`)「どうした……あれ?」

404号室を開くと、そこには壁があった。
そこと、少し横ををコツコツ叩いてみても、音の違いはないから、おそらく隠し部屋の類ではない。

('A`)「……404といえば」

ぽつりとドクオが言った。

( ^ω^)「404……そういうことなのかお……?」

ブーンも、思い当たるところがあるらしい。

( ^ω^)「存在しない……若しくは接続がヘンになって、壁が出来ているのかお」

( ^ω^)「リトライしても、仕方ないだろお。部屋があるとしたら、接続を戻すしかないお……」

('A`)「へぇ、どうやるんだ?」

( ^ω^)「お前も考えろよ」



35: ◆wZk4NVoY.w :2008/05/03(土) 01:21:15.15 ID:K/C/ggaIO
 
( ^ω^)「探索を続けるお」

ドアを閉めて、懐中電灯をくるくるとジャグリングした。
ブーンのほうに、僅かながらも余裕が出てきた証拠であった。

( ^ω^)「404が存在しない可能性、404が開ける可能性が、次の部屋にあるお」

('A`)「あぁ……行ってみようぜ!」

ブーン達は少し元気を取り戻したようで、次の部屋に向かって歩き出した。
一人分増えた足音が、やたらと頼もしく思えた。

しかし、そのせいで、微かな物音には気付けなくなった。
例えば、二人をひたひた追いかける、怪しげな生物の存在など。

暗闇の中で、そのぎょろりと大きな眼が、彼らの懐中電灯の光を映し、豆電球のような光を放っていた。



37: ◆wZk4NVoY.w :2008/05/03(土) 01:24:04.80 ID:K/C/ggaIO
 
( ^ω^)「……ドクオ」

('A`)「あぁ」

ブーンが苦々しげに言うと、ドクオは頷いた。
この部屋はおかしい、いかに腑抜けたブーンでも、そのくらいは分かる。

というのも、この怪しさというのが、シックスセンスからは発せられていないからだ。
異臭のする、青緑色の液体が、どろどろとドアの隙間から僅かに溢れてきていた。

(;^ω^)「……開けるかお?」

(;'A`)「……あぁ。行くしかないだろ?」

(;^ω^)「……うん。じゃあ」

引き手に手をかけ、

( ^ω^)「そうだ、ちょっと待つお」

その手をとっさに離した。



39: ◆wZk4NVoY.w :2008/05/03(土) 01:27:08.87 ID:K/C/ggaIO
 
('A`)「どうしたんだよ?」

( ^ω^)「ドクオは思わないかお? この液体がもし、ハイパーな強酸だったら……って」

(;'A`)「いや、ドアが無事ってことは液体もなんでもないだろ」

( ^ω^)「そこで!」

理屈になってないドクオの言葉を遮り叫び、ポケットから一本のメスを取り出した。
さっきの変な奴から拝借した、血塗られたメスだ。

(;'A`)「お、お前……それ何だよ」

(;^ω^)「僕のじゃないし……拾ったんだお」

ドクオはおののいて、ブーンを睨みつつも、「そうか」と答えた。

('A`)「で、それをどうするんだ?」

まさかこれを振るって、ぴしぴしと液体を払っていくつもりでは無かろう。

( ^ω^)「まぁ、見てるお」



41: ◆wZk4NVoY.w :2008/05/03(土) 01:30:28.97 ID:K/C/ggaIO
 
ブーンはしゃがみこんで、メスの尻をドアからはみ出た液体にくっつけた。

( ゚ω゚)「……」

それは、一瞬で気体になった。

( ゚ω゚)「ドクオ」

('A`)「あぁ」

多分この状況では、ドアとて無事ではないのだろう。
もしかしたらゆっくり腐食を始めて、壊れかけのレディオかも知れない。

(;'A`)「ドアだけが、唯一平気だったんだ……もしこの部屋を開けて、踏み込んでいたら」

(;^ω^)「その瞬間に、とろとろになってたお……」

ブーンはひどく寒そうに身震いし、405病室の前を後にした。

生き物は、二人に焦点を合わせながら、鋭くとがった歯をむき出しにした。



43: ◆wZk4NVoY.w :2008/05/03(土) 01:33:35.04 ID:K/C/ggaIO

( ^ω^)「……?」

('A`)「どうした、ブーン?」

ブーンは突然立ち止まり、目を閉じた。

( ‐ω‐)「何かの気配を感じるんだお……」

('A`)「何だと……?」

ドクオも歩みを止めて、耳を澄ます。

ひた、ひた。
ひた、ひた。

ゆっくりと、気配は近付いてきている。
戦慄が、ドクオの背中をびしびしと駆け抜ける。

(;'A`)「……どうするんだ、これ……」

(;^ω^)「逃げる……かお?」

(;'A`)「当たり前だろ……」

二人は顔を見合わせると、一目散に走り出した。

しかし、その生物は、彼らよりもずっと速かった。
彼らが走り出したことに、生物は最初気付かずに大きく出遅れたが、それさえすぐ埋められるほどに。



48: ◆wZk4NVoY.w :2008/05/03(土) 01:36:09.44 ID:K/C/ggaIO
 
(;^ω^)「ドクオ、急ぐお!」

('A`;)「けど……!」

しきりに後ろを気にしているドクオを、ブーンは大声で諫めた。
ドクオは小さく反論する。

('A`;)「あいつ、追っかけてきてんだよ! しかもめちゃくちゃ速い!」

(;^ω^)「な、マジかお!? ……どっかに隠れるお!」

(;'A`)「んな事言ったって、どこに!」

(;^ω^)「お前も考えろよおおぉっ!!」

そんな言い争いをしている間に、生物はどんどん近付いてきていた。
そして、むちゃくちゃに振り回されるドクオの足をひらりとすり抜け、さらに駆け抜けていった。

('A`)「」

( ^ω^)「あっ」



49: ◆wZk4NVoY.w :2008/05/03(土) 01:39:11.13 ID:K/C/ggaIO
 
その瞬間、電撃が走ったように飛び上がり、ばたりと倒れたドクオ。
それをよそに、ブーンは微笑んだ。

( ^ω^)「なぁんだ」

生き物は、くるりとしっぽを巻き、明かりに目を背けて、必死に床を叩いていた。

(,,゚Д゚)「はにゃ?」

( ^ω^)「猫かお。……ははーん、この光を追いかけてたのかお」

ブーンは懐中電灯を手首でくるくる動かす。
すると猫は、縦横無尽に動き回る光を追いかけ、壁を駆け上ったりし始めた。

( ^ω^)「ほら、ドクオ! 寝てないで見てm……」

( ^ω^)「死んでる」



53: ◆wZk4NVoY.w :2008/05/03(土) 01:42:10.01 ID:K/C/ggaIO
 
ブーンは、志半ばで倒れた友人の代わりに、そのトラ猫を傍らに連れて行くことにした。
もちろん、死体はそのまま放置して。406に。

( ^ω^)「ネコ、怪しい物があったら教えてくれお」

(,,゚Д゚)「はにゃ」

( ^ω^)「ないかお」

猫が仲間になったおかげで、調べごとはずいぶんはかどった。
とは言っても、目立った収穫はないが。

しかし、「ここにはない」と分かっただけでも進歩だ。
ブーンはそう割り切って、探索を打ち切った。

ただし、404号病室のことだけは忘れきれずにいた。

( ^ω^)(あそこに、何かある気がしてならないお……。そのものでなくとも、ヒントになる何かが……)



55: ◆wZk4NVoY.w :2008/05/03(土) 01:45:13.81 ID:K/C/ggaIO
 
(,,゚Д゚)「はにゃ!」

( ^ω^)「お?」

ふらふら考えごとをしながら歩いていると、今までにないタイプの扉を見つけた。
重そうな金属製の、堅牢な扉、鍵付き。
何かありますよ、とそれは言っていた。

( ^ω^)「うーん……」

ガチャガチャドアノブを回してみるが、しっかりがっちり、鍵がかかっているようだ。
これでは押し入りようがない。

( ^ω^)「……どこかに鍵があるはずだお。探さなきゃ……」

('A`)「その必要はない」

きびすを返したブーンを、復活したドクオが呼び止めた。



59: ◆wZk4NVoY.w :2008/05/03(土) 01:48:16.52 ID:K/C/ggaIO
 
(#゚Д゚)「フーッ!」

(#'A`)「はいはい大歓迎大歓迎……」

(;゚ω゚)「うわ、でたああああぁぁ!!」

(#'A`)「でたああああぁぁじゃねぇっ!! 話を聞けっ!」

ドクオはどこで拾ったか、ガラスの破片の先端をブーンに突きつけた。
ブーンが一瞬凍りつく。

(;^ω^)「じょ、冗談だお……」

('A`)「フン」

ドクオはまだ機嫌悪そうに、ガラス片を手中に返した。

('A`)「見たところ、この鍵が開かなくて困ってるみたいだな」

( ^ω^)「うん……そのガラスでピッキングでもするつもりかお?」

('A`)「まさか。俺は考えたんだ」

ドクオは、ガラスでドアノブを、トントンと叩いた。



61 名前: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 [sage] 投稿日: 2008/05/03(土) 01:51:47.05 ID:K/C/ggaIO
 
('A`)「理科の実験のとき……ビーカーやフラスコをはじめ、実験器具は9割がガラス製だった」

( ^ω^)「あんたの思い出話なんて」

('A`)「405病室の強力な酸……もしやと思って試したが、やはりガラスは溶かせなかった」

('A`)「少し手間はかかるが、こいつであれをすくって、この鍵のところにかけてやれば……」

( ^ω^)「……前半部分要らないけど、納得したお」

('A`)「よし、なら早速始めるぜ!」

言うが早いか、二人は405の前まで行き、
手に触れないほどまで液体をすくい取ると、こぼさないようにゆっくり運んだ。



63: ◆wZk4NVoY.w :2008/05/03(土) 01:54:10.60 ID:K/C/ggaIO
 
水あめみたいにどろどろな液体を、鍵穴にこすりつけた。
じゅわり、と数多の気泡ができ、鍵穴が消え去る。

('A`)「……まだやらないとダメそうだ。むしろ、ドアノブの周りに塗った方がいいかもしれない」

懐中電灯の明かりで消えた鍵穴の中を覗きながら、ドクオは言った。

( ^ω^)「じゃあ、僕が取ってくるお」

('A`)「いや、俺が行く。お前じゃ指を溶かしそうだ」

ドクオは、ブーンが持ったガラス片を引ったくって、また廊下を走り出した。

( ^ω^)「……ドクオ?」

懐中電灯も持って行かれ、真っ暗闇の中、ブーンは首をひねった。



64: ◆wZk4NVoY.w :2008/05/03(土) 01:58:19.76 ID:K/C/ggaIO
 
閂のあるあたりを切り取るような四角の形に、ドクオは何度も往復して液体を塗る。
ライトで照らし、見てみると、既に閂は大半を溶かしてしまっているようだった。

( ^ω^)「もう、これなら」

ブーンは体をぎゅ、と捻ると、大きく下げた右足を放った。
バァン、とドアが唸り、閂が折れ、道が開かれた。

(;'A`)「この部屋は……?」

(;゚Д゚)「はにゃー……」

中に入ってみると、様々奇怪な電子音があちこちから聞こえる、不思議な部屋であった。
彼らにはよくわからない数字が映し出されたモニターやら、幾百ものボタンがついた操作盤。

そんな部屋にひとつ、緑色のランプが灯っていた。



65: ◆wZk4NVoY.w :2008/05/03(土) 02:00:46.49 ID:K/C/ggaIO
 
( ^ω^)「……『復旧』?」

ランプの下には、そんな文字とともに、ボタンがあった。

('A`)「……もしかしたら、この停電がなんとかなるんじゃないか?」

( ^ω^)「ひょっとしたら、死体がゾンビ化して蘇るのかも」

(;'A`)「え、やめろよ!」

( ^ω^)「押してみるお」

(゚A゚)「お゛い!!」

ドクオは必死なツッコミを入れたものの、ブーンはそれを無視し、ぽちんとボタンを押した。

(;‐ω‐)「わっ!!」

(;゚A`)「くうっ!!」

(;-Д-)「ハギャッ!!」

瞬間、周囲が眩しいくらいに明るくなる。真っ白な光が、辺りに広がった。



67: ◆wZk4NVoY.w :2008/05/03(土) 02:03:14.55 ID:K/C/ggaIO
 
(;‐ω^)「電気が……付いたのかお」

やがて、ゆっくり目を開いたブーンが言った。
紛れもなくそこには、真っ白な世界が、懐中電灯で垣間見えていた機材がそこかしこに置いてある世界があった。

('A`)「久しぶりだから、眩しくてしょうがないぜ」

(,,゚Д゚)「はにゃー」

ドクオに合いの手を入れるように、猫は鳴いた。
二人と一匹はその部屋も軽く見回してから、また廊下に出た。

( ^ω^)「……結局、404号室は開かなかったお」

ブーンはがっくりと肩を落とした。
よほどあの部屋が気がかりだったのだろう。



69: ◆wZk4NVoY.w :2008/05/03(土) 02:06:10.92 ID:K/C/ggaIO
 
('A`)「……いや、もう一回確かめようぜ」

ドクオは、いやに確信のこもった声で、腕を組んだ。

('A`)「今のことで、何かしら変化がでたかも知れん。まずは見に行こう」

( ^ω^)「……うん」

ブーンは、期待はしない、といった顔で頷き、歩き出した。

暗いときはずいぶん遠くに感じられた各部屋も、電気がついてみればすぐだった。
億劫な気持ちが、自然と歩みを遅らせていたのだろうか。

( ^ω^)「じゃあ、開けてみるお」

('A`)「あぁ」

(,,゚Д゚)「んにゃぉー……」

猫は、警戒するような声を上げてから、たったと逃げていってしまった。
そいつだけは、その部屋に何があるか知っていたようだ。



71: ◆wZk4NVoY.w :2008/05/03(土) 02:09:08.60 ID:K/C/ggaIO
 
404のドアを開く。
閉ざされた空間だったそこに、広がりがあった。

ブーンは迷わず、部屋に飛び込み、そして気付いた。

(;^ω^)「……まさか……」

(;'A`)「おい、これ……!」

そこにあったのは、すでに白骨化した死体だった。

( ^ω^)「やっと……やっと見つけたお……」

ふらふらとブーンは、死体に近づいていき、ベッドのそばでひざまずいた。

(;'A`)「おい、ブーン! 本当にお前のなのか!?」

骸の手を取ろうとするブーンに、ドクオはヒステリック気味に叫んだ。

( ^ω^)「間違えると思うかお?」

ブーンは、いたく幸せそうな表情で頷いた。

( ^ω^)「これこそ、いなくなった僕のカーチャンの骨だお」



72: ◆wZk4NVoY.w :2008/05/03(土) 02:12:30.85 ID:K/C/ggaIO
 
('A`)「そうかよ」

ドクオはぶっきらぼうに言った。

('A`)「それなら間違いないんだろうな」

( ^ω^)「もちろんだお、ご理解感謝するお」

ブーンは今までにもいくつか、骸骨を見つけてきた。
しかし、それらに対しては、ブーンはこれは違う、と根拠なしに言ってきた。

そのブーンが、これだと言うなら、大方間違いはない。

( ^ω^)「……カーチャン」

ブーンは頭蓋骨を撫でた。その周りには、今も動かず、幾千もの毛髪が横たわっていた。
素人でも分かることだが、白骨化した遺体は死亡からかなりの時間が経っている。

こんなになるまで見つけられなかったことが、そうとうブーンは情けなくて、申し訳なかったのだろう。
彼は、どんな恐怖にも緩まなかった涙腺をついに決壊させ、涙を流した。

( ;ω;)「……遅くなって、すまなかったお……」



74: ◆wZk4NVoY.w :2008/05/03(土) 02:16:04.30 ID:K/C/ggaIO
 


('A`)「それで……どうするんだ、ブーン?」

しばらく泣いて、泣き尽くして、するりと立ち上がったブーンに、ドクオは少し迷ってから声をかけた。

( ^ω^)「……カーチャンを連れて帰るお。……お墓に入れてあげないといけないんだお」

('A`)「それはそうだが、どうやって……」

( ^ω^)「体は、仕方ないお……。せめて、頭骨だけでも持って帰るお」

ブーンは何度も謝りながら、脆くなった首の骨を折り、頭の骨を大事に抱えた。

('A`)「……小さいな」

( ^ω^)「うん……一人で寂しかっただろうお……」

ブーンはそれを、大事にバッグにしまい込み、無理やり明るい顔を作り、言った。

( ^ω^)「じゃあ、帰るかお!」



75: ◆wZk4NVoY.w :2008/05/03(土) 02:18:21.38 ID:K/C/ggaIO
 
( ^ω^)「……」

坂道を下る毎に大きくなっていく、遊園地の喧騒が、ブーンの耳に障った。

(;'A`)(ジェットコースター乗りたい、なんて言える雰囲気じゃないよな……)

ドクオは近くの石を蹴ると、おとなしく歩き続けた。
あまりに暗い顔の二人を見て、ゲートキーパーの女性は驚いていた。

('A`)(まぁ、お化け屋敷は結構面白かったし、いいか)

ドクオはうんうん頷いて、今度、また来よう、と決心した。
どうせこれから、時間はいくらでもあるんだ、と。

バス停に着き座ると、少しして、遊園地のロゴが入ったバスがやって来た。

('A`)「ほら、いこうぜ、ブーン」

( ^ω^)「……ん、分かったお」



77: ◆wZk4NVoY.w :2008/05/03(土) 02:21:03.68 ID:K/C/ggaIO
 
乗客は、ドクオとブーン、それに若い男女が一組のみだったが、バスは時間どおり運行した。

( ^ω^)「……でも、良かったと思うお」

('A`)「そりゃあ、長年夢見てきたことだったしな」

ブーンは窓の外を見て、天国の母を憂愁するように呟いた。

('A`)「なぁ、ブーン」

ドクオは、彼のそういう顔が、いちばん嫌いだった。

('A`)「俺と合流するまで、どんなことがあったんだ?」

( ^ω^)「あぁー……何があったっけ」

ブーンはすこし、考え込んで、こう言った。



79: ◆wZk4NVoY.w :2008/05/03(土) 02:24:37.34 ID:K/C/ggaIO
 
ブーンは思い出した事柄から、ゆっくり語っていった。

( ^ω^)「まず、ふらふら歩いてたら、いきなり電気が消えたお」

('A`)「俺もだったな。指先に何か触らなかったか?」

( ^ω^)「あぁ、僕もそうだったお! 何かが触って、いきなり停電したんだお」

('A`)「何だったんだろうな、あれ……他は?」

( ^ω^)「変な医者に襲われたり、きをつけろ……とか変な文字があっただけだお」

('A`)「へぇ」

ドクオはずいぶん興味のなさそうな声で頷いた。
確かにこんな事は、並大抵のお化け屋敷ではよくあることだ。

('A`)「でもよ、」



81: ◆wZk4NVoY.w :2008/05/03(土) 02:27:24.26 ID:K/C/ggaIO
 









  『何か、忘れてるんじゃねえか?』









84: ◆wZk4NVoY.w :2008/05/03(土) 02:30:26.76 ID:K/C/ggaIO
 
(;^ω^)「……え?」

『何か忘れてるんじゃないか、と訊いたんだ』

ブーンは思わず呆けた声をあげた。
ドクオの唇は全く動いていない。

(;^ω^)「ドクオ、腹話術できたのかお?」

('A`)「あ? いきなりどうした?」

(;^ω^)「え?」

カップルの男が何かを言っている感じもしない。
だったら、この三色目の声は、誰のものなのだろうか。

バスが、急激にスピードをあげた。

『次は、あの世でございま〜す』

至極楽しそうな、しかし、しっかり恨みを込めて、その声は言った。



87: ◆wZk4NVoY.w :2008/05/03(土) 02:33:07.31 ID:K/C/ggaIO
 
( ゚ω゚)「……」

そんな声の調子に覚えがあった。
402号室で見た、あの文字を黙読した時の自分の声だが。

ブーンは妙な確信を得て、何も言えなくなった。
そもそも、現実にバスはスピードを上げて、暴走を始めていたのだし。

('A`)「スマン、ブーン」

( ゚ω゚)「何だお」

ブーンは怖い顔のまんまドクオを見た。

('A`)「こんなになるまで確信がもてなかったんだ……やっぱり俺は死んだんだ。だって今、ちっとも怖くないぜ」

( ゚ω゚)「……ふっ……はは、ドクオまで、何バカなこと言ってんだお」

ドクオは至極真面目な顔をしていたが、ブーンは息を切らしながら、ゼエゼエ嘲った。

('A`)「すまない、ブーン。俺は死んじまった。それに、お前がこれから運転士に殺されるって
    何となく分かってたのに止められなかった。だけど、最後に言わせてくれ」

ドクオは、辺りに細胞を散らすように、小さな暴風を起こしながら消え去った。

('A`)「ありがとよ」



89: ◆wZk4NVoY.w :2008/05/03(土) 02:36:04.97 ID:K/C/ggaIO
 
( ゚ω゚)「消えた……お?」

たった今までドクオが居た場所に手を伸ばしても、そこに存在はなかった。
ドクオの言葉は本当だったのだ。彼は死んだ。
恐らく、足元を猫がすり抜けた時か、酸で指を溶かしでもしたか。或いは……。

いや、それよりも。

( ゚ω゚)「あの運転士が、僕を殺す……?」

バスは、車通りの少ない、崖っぷちの道路を猛スピードで往っていた。
ブーンは立ち上がり通路に出て、慣性に逆らいながら、運転席へずんずん歩んでいく。

カップルはどういうつもりか、全裸で激しいセックスをしていた。

『お客様ー、車内での射精はご遠慮くださいませー』

( ゚ω゚)「おい、貴様」

ブーンは乱暴に、運転士の帽子を弾き飛ばした。

( ´_ゝ`)『それと、走行中、通路は立ち歩かないようお願い申し上げます……内藤さん』



91: ◆wZk4NVoY.w :2008/05/03(土) 02:39:28.79 ID:K/C/ggaIO
 
( ゚ω゚)「……何だお、お前は。どうして僕の名前を知ってるお」

( ´_ゝ`)「あなたこそ、私の名前をご存知ないのですか?」

男は、前から目を離さずに言った。

( ゚ω゚)「答えろ!!」

( ´_ゝ`)「この顔を見ても、覚えてないのか、クズ」

かと思えば、逸り立つブーンの顔面に、全力の裏拳を叩き込んできた。
ただでさえバスの速さのせいで、ふらついていたブーンは、ステップのほうに倒れ込んだ。

( #)゚ω゚)「お前は……何者なんだおっ!!」

( ´_ゝ`)「分からないなら、教えてやるよ……」



94: ◆wZk4NVoY.w :2008/05/03(土) 02:42:18.00 ID:K/C/ggaIO
 
( ´_ゝ`)「俺の名前は、流石兄者……貴様に弟を殺された、流石兄者だ」

( ゚ω゚)「……さすが……流石だって!? ……まさか、あの弟者の……」

ブーンの脳裏に、運転士が腫れ上がったような顔が浮かんだ。
焼け付くような、痛みとともに。

( ´_ゝ`)「ああ、貴様らに6年間、死ぬほどに苦しめられた、流石弟者の兄だ……」

兄者の静かな声が、余計に恐怖を駆り立てる。

(;゚ω゚)「や、やめるおおぉっ!! あの事は、お金を払って終わらせたはずだお!!」

( ´_ゝ`)「金だと? それは、お前の母親が内臓を売って寄越した紙束のことか?」

兄者は、わざとそれをゆっくりはっきりと話した。
ブーンの心臓が、ドクンと揺らいだ。



96: ◆wZk4NVoY.w :2008/05/03(土) 02:45:17.51 ID:K/C/ggaIO
 
( ゚ω゚)「内ぞ……カーチャンが!? ちょっと待つお、それはどういう……」

( ´_ゝ`)「知らなかったか。ひどいお笑い草だな……。貴様の母親はな、息子の罪を背負って、生身を金にしたんだ」

(#´_ゝ`)「だが、お前は何をしてくれた! 張本人である貴様が、何故のうのうと生きていやがる、人生を謳歌していやがる!!」

(#゚ω゚)「う……五月蝿ぇっ!! お前だって、実の兄の癖して、弟者を助けに来た事なんていっぺんきりも無かっただろうが!!」

( ´_ゝ`)「……あぁ、そうさ。だから、俺も貴様と死ぬ。この罪の償いのために、弟者のために、俺はお前を殺す!!」

アクセルが、一層強く踏まれた。
タイヤは一瞬空回りして、地面を噛むとさらに高速で回転する。

(;゚ω゚)「馬鹿野郎、バスを止めろ! そんなのお前の自己満足だお、こんな事したって弟者は――」

( ´_ゝ`)「あぁ、還らねえさ……。だが、それがいい!! もう弟者に合わせる顔なんて無いんだよ!!」

( ゚ω゚)「この――」

強い揺れを車内に与えながら、バスはガードレールを正面から突き破った。



98: ◆wZk4NVoY.w :2008/05/03(土) 02:48:04.92 ID:K/C/ggaIO
 
( ´_ゝ`)「……弟者……」

落ちていくバスの中、窓に張り付いたブーンを眺めながら、兄者は呟いた。

( ´_ゝ`)「……すまない。本当に……あぁ、言葉足らずが申し訳ない……」

( ´_ゝ`)「……もう少し上手い、謝罪の言葉が浮かんだら良いんだが……。まぁ、」

兄者は、制帽をかぶり直し、微笑んだ。



『俺は弟者のように死んだんだ。きっと、地獄で会えるよな』

『……その時は、俺を気が済むまで殴ってくれ。俺が殴られるべき時に、殴られなかった分を』

『さぁて……間もなく、あの世でございます』

一足先に、フロントガラスを割って墜ちていったカップルを見ながら、兄者はマイクを持ち、いった。



101: ◆wZk4NVoY.w :2008/05/03(土) 02:51:03.73 ID:K/C/ggaIO
 
その後、眼下に広がる森の闇に消えていったバスに乗っていた人々の行方を知る者は、誰もいなかった。

3人分の断末魔を聞きながら、最期に、ブーンは罪の重さが見えた気がした。

(  ω )「僕は、こんなつもりは……」

かつてのブーンは、何の理由もなく、嫌いな人間を虐げるほか、考えていなかった。
そんな過去が、この事故を引き起こした。
それを認めないほど、ブーンは強情ではなかった。

だから、多くの死を呼んだ死神は、伝わろうが伝わるまいが、言った。

(  ω )「ごめんだお……弟者……」







 終



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