6: ◆wZk4NVoY.w :2008/05/04(日) 01:11:19.66 ID:owMXxSWWO
閉めきられた部屋の一室。カビ臭い異臭と消毒液の匂い、ジメジメした空気が部屋を覆っている。普通の者ならばその部屋に入った途端に吐き気を催すだろう。

部屋にはベッドやテレビ、冷蔵庫等という生活必需品が並べられているが不思議と生活感は感じられない。鼻を刺激する酷い悪臭と一つの死体。そこにあるのはそれだけだった。


( ,,゚Д゚)「害者の身元は割れたのか?」

ギコは今年の春から刑事課に配属されたばかりの新人に尋ねた。

( ∵)「被害者はビロード、一週間前から行方不明になっていたのを被害者の家族が捜索願を出していたようで、歯の治療痕から明らかになりました」

身元確認は基本だ。聞くところによると被害者は自分の部屋の中で死んでいたらしい。押し込み強盗、怨恨など色々な可能性が脳裏に浮かぶ。

( ,,゚Д゚)「ほぅ、今来たばかりで状況が余り把握出来ていないが、免許証で身元確認出来なかったって事は、財布等は抜かれていたのか?」

歯の治療痕からの身元確認ならやはり財布等は発見されなかったのだろう。典型的な物盗り、やれやれとギコは溜め息を吐いた。

( ∵)「……いえ、物盗りではないようです。財布も残っていましたし、室内を物色された様子も見受けられません」

こめかみ辺りがチクリと痛んだ。何かが違う。今までの事件とは明らかに異質な匂いがする。この時ギコは二十年近くの刑事生活で培ってきた勘によりそれを誰よりも早く感じ取った。

( ,,゚Д゚)「ほう、じゃあ、どうして確認出来なかったんだ?」

( ∵)「仏さんの顔を見ていただければ分かります」

( ,,゚Д゚)「分かった。とりあえず現場に向おうか」



7: ◆wZk4NVoY.w :2008/05/04(日) 01:14:52.15 ID:owMXxSWWO
二人は車に乗り込み被害者の自宅に向った。
ビコーズが運転席に座りながら詳しい現場の状況を説明している。

( ∵)「害者は逮捕暦もなければ被害届を提出した記録もありませんでした。生活状況は一人暮らしだったようです。
田舎から東京の大学に通うために1人で上京してきたようですね。美大に通っていたようで中々才能もあったようです。いくつか賞も取っていました」

( ,,゚Д゚)「はぁ、痛たまれねーな、前途ある芸術家の卵が卵焼きになる前にグチャグチャに潰されちまったわけだ」

( ∵)「……その例えはよく分かりませんが、まぁ才能がある人間と言うのに間違いはありませんね。
害者は一人暮らしに間違いありませんが半同棲していた彼女がいたようです」

( ,,゚Д゚)「……ほう、それで?」

刑事の性だろうか、どんなに冗談めかして話をしていても事件の真相にかかわることとなるとギコはすぐに空気を変えることが出来た。

( ∵)「ただそれだけです。彼女は今旅行中らしく連絡が取れませんでした。しかし、死亡推定時刻と照らし合わせても完璧に真っ白ですね」

( ,,-Д-)「……そうか、良かった」

ギコは本当に安心したように再び溜め息を吐いた。愛した者に殺される。これ程残酷なことはない。今までギコは何度かそのような事件を担当したことがあった。



8: ◆wZk4NVoY.w :2008/05/04(日) 01:15:58.69 ID:owMXxSWWO
―――別に好きな人が出来た、邪魔だったのよ

―――金が欲しかった、貢いでくれるなら誰でも良かったし

このような考えを以て人を殺めるような人間を、ギコは何人か見てきた。

その度に彼は激昂した。


( ,,゚Д゚)『しぃ、調子はどうだ?最近忙しくてな、なかなか見舞いに来れなくて済まなかった』

(*゚ー゚)『ううん、良いの、ギコ君はみんなの正義のヒーローだからね!!』

( ,,^Д^)『正義のヒーローかwそりゃ頑張らなきゃな』

(*゚ー゚)『うん、ギコ君は皆の味方なんだ。だから頑張って平和を守らなくちゃね』

( ,,゚Д゚)『あぁ、だが俺はお前の一番の味方だからな。お前の為ならなんだって出来るんだ』

(*//ー/)『もぅ、からかわないで、怒るよ』


( ∵)「ギコさん、大丈夫ですか?」

ビコーズの声がギコを現実に引き戻した。



9: ◆wZk4NVoY.w :2008/05/04(日) 01:17:22.76 ID:owMXxSWWO
( ,,゚Д゚)「……あぁ、大丈夫だ」

( ∵)「疲れてるようですね」

( ,,゚Д゚)「いや、気にするな。俺もまだまだだな。被害者の部屋の状況をもう少し詳しく頼む」

( ∵)「必死に被害者の家を調べましたがそれらしい物はありませんでした。死因は……恐らくショック死でしょう。鑑識の結果も出てるので間違いないでしょう」

( ,,゚Д゚)「凶器は?」

( ∵)「見つかってません。犯人が持ち去ったようですね」

( ,,゚Д゚)「目撃者」

( ∵)「被害者の悲鳴をアパートの隣人が聞いたそうです」

( ,,゚Д゚)「第一発見者は?」

( ∵)「アパートの大家です」

( ,,゚Д゚)「……なるほど、こりゃまた厄介な事件だ」

( ∵)「ですね、怨恨もなければ色恋絡みでもない、物盗りでもなく、凶器も残っていない」

( ,,゚Д゚)「それに目撃者は現場を見ていないと来た」

( ∵)「状況としてみれば最悪ですね」



13: ◆wZk4NVoY.w :2008/05/04(日) 01:18:52.49 ID:owMXxSWWO
( ,,゚Д゚)「まぁ、そうも愚痴ってらんねぇなぁ」

( ∵)「はい、被害者の無念を晴らすためにも」

( ,,゚Д゚)「俺達が頑張らなきゃな」


二人の乗る車はどんどん加速していく。二人の決意を乗せて。
魑魅魍魎渦巻くアパートへ。

この事件の犯人が人であらざる物、自分達の手には終えない物ということをまだ二人は知らない。


二人が現場に着いたのは18:00頃。日も沈みかけた夕方だった。

現場のアパート周辺は特に何もなく東京だと言うのにどこかの田舎町の様だった。

( ,,゚Д゚)「結構遠いじゃねーか、ギリギリ俺等の管轄でやりやがって。舐め腐った犯人だ」

( ∵)「恐らく隣の管轄で起こったとしても我々は駆り出されてましたね。これ程証拠や手掛かりが無ければ人海戦術しかありませんから」

( ,,-Д-)「あー、やだねぇ。分かりもしない場所の凶器探しと噂好きのババァからの聞き込み」

( ∵)「アンタやらないでしょ」

( ,,゚Д゚)「働け、若者」
ギコが頬を叩き気合いを入れてドアを開けた。



14: ◆wZk4NVoY.w :2008/05/04(日) 01:20:27.99 ID:owMXxSWWO
( ∵)「ギコさん、忘れ物です」

( ∵)つ(゚Д゚,, )

(#,,゚Д゚)「お前……ゲロ袋って、俺が何年刑事やってると思ってんだ。死体の一つや二つで」

怒るギコにビコーズは最後まで言葉を言わせずこう言った。

( ∵)「言ったでしょ、死体の所持品じゃ身元を特定できなかったって、剥がれてたんですよ。顔をね」

( ,,゚Д゚)「!?」

( ∵)「あっ、因みに目も刳り貫かれてましたよ。それが不思議なんです、そこ以外の外傷はかなり凄惨なんですが目だけはかなり綺麗に抜かれてるんですよ。

お恥ずかしながら自分も入った瞬間に吐きました。それほど凄惨で残忍な現場です。自分と一緒に現場に入った刑事全員が昼飯を戻しました」

( ,,゚Д゚)「……ふん、刑事は現場で狼狽えちゃいけねーんだ」

( ∵)「そうですか、では一応一袋だけ」

(#,,゚Д゚)「いらねぇって言ってんだろ!!」

( ∵)「いいえ、自分の分です」

ビコーズは頭を掻きながら言う。

( ∵)「この現場を見て吐くなと言うのは酷です。百聞は一見に如かず、まぁ見てみて下さい」



17: ◆wZk4NVoY.w :2008/05/04(日) 01:24:24.18 ID:owMXxSWWO
目の前にあるのは、どこにでもありそうなアパート。殺人現場には常に独特の空気が辺りには漂っている。悪意、殺意、怨念、無念。様々な意識がその中にはあった。

しかし、このアパートからそのような感情は全く感じられない。

いや、しかしギコはアパートとに向け一歩足を踏みだしてから気付く。


ギコには生まれつき霊感があった。しかしそれは潮来や除霊師等といった霊に関する事象を生業としてきた者には程遠く、ただ“そこに居る”と感じられる程度の物だった。

無論霊と会話を出来るはずも無ければ、まして除霊なんて不可能だった。

しかし、ギコでも感じ取ることが出来た。それ程にアパートから放たれた怨念は強いものだった。


彼の本能が告げる。行ってはならないと。行けばこのアパートに漂う怨念はたちまち自分達を覆い尽くすだろう。

( ,,-Д-)(なんて現場だよ)

しかし、彼はそれでも行かねばならなかった。ビロードが無念を叫んでいる。ビロードの家族が悲しみに暮れている。

それだけで理由は充分だった。

( ,,゚Д゚)「……いくぞゴルァ」

再び彼は気合いを入れるため頬を叩いた。



21: ◆wZk4NVoY.w :2008/05/04(日) 01:27:48.39 ID:owMXxSWWO
階段を一段上るたびに感じる。現場である部屋から無数の怨念が体に絡み付いていくのを。

来るな 帰れ 様々な叫び声がギコには聞こえてくる。

それでも

( ,,゚Д゚)「行かないわけにはいかんわな」

再び懐からタバコを取り出し火を点けた。

味は全く感じられなかった。


(#∵)「ウボァ"」

( ,,゚Д゚)「……」

問題の一室の扉を開く。ギコがそこで目にしたものは


血血血血血血血血血血血血チチチチチチチチチチチチちちちちちちちちちちちち

真紅に染まった真っ赤な部屋だった。

血痕が至る所に付着し、家具一つ一つを真っ赤に染め上げていた。

( ,,゚Д゚)「コイツは……ひでぇ」

何十回と人の命が落とされた現場なら見てきた。しかしこの部屋はそんなレベルと比較にならない。



24: ◆wZk4NVoY.w :2008/05/04(日) 01:29:49.02 ID:owMXxSWWO
( ∵)「はぁ、凄いですよね」

( ,,゚Д゚)「あぁ、お前等が吐いたとしても仕方のねぇ話だ」

それ程までに凄かったのだ。鑑識に全ての部品が回されていたので其処にあるのは血だけだった。

それなのに、この部屋からは異常なまでの血なまぐささと怨念を感じる。

( ,,゚Д゚)「ここまで血が飛び散ってるてことは、害者はバラバラか?」

( ∵)「はい、ものの見事にバラバラになってました。顔は剥がれ、顎は砕けて、手足は関節ごとにちぎられていました」

狂ってる、ギコは素直にそう思う。それと同時にやはりこれは人の仕業では無かったのだと自分の考えを裏付けた。

( ∵)「……ギコさん、こんなこと、人に出来るんですか?」

( ,,゚Д゚)「いや、わからん」

( ∵)「殺し方についてはよく分かりません。チェーンソーの一つでもあれば人間でも可能でしょうから。

ただ、自分で殺した遺体をここまでバラバラにするなんて事が普通の精神を持っている人間に出来るんですかね」

( ,,-Д-)「……人を殺めちまうような奴はその時点で普通じゃないさ」

( ∵)「そうですね」

しかし、何時までも立ち尽くしてばかりもいられない。



26: ◆wZk4NVoY.w :2008/05/04(日) 01:35:22.90 ID:owMXxSWWO
( ,,゚Д゚)「取り敢えずそれらしいもんは回収したんだろ?」

( ∵)「えぇ、鑑識が大体持っていったはずです」

ギコはそうか、とだけ呟くと室内を調べだした。
いや、調べるというより気配を探っているように見える。

( ,,゚Д゚)「コイツだな」

それは部屋に聳えていた。不気味なオーラを漂わせながら、不気味にただ立っていた。

( ,,゚Д゚)「コイツは?」

( ∵)「あぁ、それは良く写生などをする時に用いる支えみたいなもんらしいです。自分は詳しくないのでよく分かりませんが」

違う、ギコは思った。この木の塊ではない、恐らくは

( ,,゚Д゚)(こっちだな)

手袋をはめた手で血で染まったベールを取り外した。

(#,,-Д-)「ウゲェァ」

出てきたものに堪らず吐き出す。其処にあったもの、それは

( ∵)「……これは、ピカソ?ですかね?」

ギコは全てを吐き出し、呼吸を整えてから再び絵を見た。

どこかで見たことある絵だな、と思った。



28: ◆wZk4NVoY.w :2008/05/04(日) 01:37:28.93 ID:owMXxSWWO
( ,,゚Д゚)「コイツが原因か」

原因は分かった、この絵から発せられる禍禍しい空気を感じれば否応無しにわかるだろう。

しかしギコにはそれまでだった。

どうすることも出来ない。

この絵を祓う事も出来なければ犯人を突き止める事なんて出来るはずが無かった。

( ,,゚Д゚)「もういい、いくぞビコーズ」

(;∵)「もういいんですか?」

( ,,゚Д゚)「あぁ、これ以上普通の人間はここにいちゃならねぇ」

( ∵)「……」

それだけ言うとギコは直ぐに部屋を出た。仕方無しにと言う顔でビコーズもそれに続く。

帰りの車内でビコーズが質問した。

「あの絵、何か感じたんですか?」

「お前……俺に霊感があること知ってんのか?」

「えぇ、噂で知りました」

「……そうか」



29: ◆wZk4NVoY.w :2008/05/04(日) 01:39:49.57 ID:owMXxSWWO
「それで、どうなんですか?あの絵にはそれ程の物が?」

「あぁ、俺にも原因はよく分からん、ただあの絵はヤバい。本当なら直ぐにでも部屋を出たかった」

「……そこまで」

「お前がいなけりゃ俺の腰は抜けてたよ。それ程だ」

「それじゃあ、それじゃあ犯人はどうなるんですか!?」

( ,,-Д-)「ビコーズ……知らなくて良いことがこの世には存在するんだよ」

(#∵)「納得できません」

ギコは即答で言いのける若き刑事を見て思う。

( ,,゚Д゚)(まだ若いな、だがそれもまた強みか)

( ,,゚Д゚)「取り敢えず撤収だ、はっきり言ってここにこれ以上留まるのはヤバい。お前もだ」

( ∵)「……分かりました、得る物も無いようですし引き揚げましょう」

ビコーズは認めたくなかった、犯人が捕まらないことを。人非ず物が犯人だと信じたくなかった。だからこのような言い方をした。



31: ◆wZk4NVoY.w :2008/05/04(日) 01:42:26.42 ID:owMXxSWWO



( ,,゚Д゚)「あの絵、どこかで見たことがあるんだ」

ギコは自分の寝床に潜り込み思考に耽る。

( ,,゚Д゚)「どこだ、アレを俺はどこで見たんだ」

あの絵について何か判ればどういう経緯でビロードが取り込まれたのかは分かるかもしれない。

ピカソ、ビコーズは言った。それに血塗れの現場、この二つを俺はどこかで見た、何処だ。

( ,,;ーДー)「やめだやめだ、もう寝よう」

しかし、遂にギコは思い出すことが出来なかった。


人の脳というのは引き出しのようなものだ。
記憶、自分の見たものは全てその中に仕舞われている。

それを思い出せないということは

( ,,-Д-)(俺にとって嫌な記憶ということか)

嫌な記憶という言葉に一人の女性の顔が浮かぶ。

彼のかつての最愛の人、しぃ。



33: ◆wZk4NVoY.w :2008/05/04(日) 01:44:55.13 ID:owMXxSWWO
( ,,ーДー)

ギコはすぐに寝息をたてはじめた。忘れようと思う自己防衛が彼を睡眠という殻に引きずり込んだのだろう。

しかし

それが

殻では無く

彼を縛り続ける鎖であり檻であることにまだ気付いてはいなかった。

( ,,゚Д゚)「ここは……病院?」

ギコは気付かない。自分は此処に何度も来ているということに、しぃが生きていた頃にも、そして






死んだ後にも。



34: ◆wZk4NVoY.w :2008/05/04(日) 01:46:27.56 ID:owMXxSWWO
( ,,゚Д゚)「ここは、そうか、しぃ!!しぃの病院じゃないか」

彼は走る。愛しい人の下へ。

しぃと言う女と彼との出会いは今から五年前。彼が大学の部活として柔道に勤しんでいた頃。

彼は過労がたたって足首を疲労骨折してしまった。

そして入院と相成った訳だが、しぃとの出会いは其処でだった。

病室の隣にいのが彼女だった。
ギコは口下手な性格であまり女性と喋った事が無かった。
同じく、しぃも幼い頃から病院という監獄に閉じ込められていた所為か人見知りが激しかった。

そんな二人が初めて何でも話せる異性としてお互いを選んだのだ。

二人が恋に落ちるまで、あまり時間は掛からなかった。

『ゴルァ!お見舞いに来たぞ!!』

『あぁ、ギコ君!ありがとーw嬉しいな』

『照れるぞゴルァ……体の調子はどうだ?』

『うん、今日はちょっと疲れてたけどギコ君が来てくれたから吹っ飛んじゃった!!』

『ギコハハハ!それはよかったぞ!』



35: ◆wZk4NVoY.w :2008/05/04(日) 01:49:32.31 ID:owMXxSWWO
( ,,゚Д゚)「はっ!?」

彼は理解した、今自分はあの刻にいる。
俺の全てを狂わしたアノ日に。

(#,,゚Д゚)「しぃ、待ってろゴルァ!!」

いつの間にか直したはずの口癖まで戻っていた。

しかし

まだ

彼は気付いていない。


此処には何度も来ているということに。

( ,,゚Д゚)(406号室だ)

それでも彼は奔る。愛しい人を助けるために。自分の犯した過ちを正すために。

正義を司る警察官として。愛する人を持つ、ただの男として。

(;,,゚Д゚)(ここ……だな)

学生時代、新米時代を通して彼が通い詰めた病室は、当時と変わらぬまま、そこに在った。



36: ◆wZk4NVoY.w :2008/05/04(日) 01:52:10.50 ID:owMXxSWWO
( ,,゚Д゚)「しぃ!俺は来たぞ!!だから」

ドアを蹴破る様に開け放つ、そこには

(*゚ー゚)「ん……どうしたの?ギコ君?」

いつもと変わらぬ彼女の姿が在った。

(;,,゚Д゚)「しぃ、しぃ、無事だったんだな?生きてんだよな?」

(*゚ー゚)「……変なギコ君」

( ,,;Д;)「良かった……良かったよ本当に……」

(*゚ー゚)「もう、急に泣いたりしてどうしたのよ、っていうよりもう来賓用の玄関は閉まってたでしょ?一体どうやって此処まで来たの?」

( ,,;Д;)「良いんだ、そんなことは!」

ギコは歓喜に打ち震えた。やっと、やっと救うことが出来た。彼女を。

(* ー )「でも失敗しちゃったなぁ。……こんな時間に来るなんてギコ君反則だよ」

( ,,゚Д゚)「……」


彼女の纏っていた色が急激に希薄になっていく。

(* ー )「フフッ、ギコ君可愛いね。必死に走っちゃって」



38: ◆wZk4NVoY.w :2008/05/04(日) 01:53:40.47 ID:owMXxSWWO
_





(* ー )「でもね……」














(* ∀ )『わ た し もう 死 ん じ ゃ っ て る の よ ! !』
血瘤が逆流していくのを感じた。



41: ◆wZk4NVoY.w :2008/05/04(日) 01:56:39.91 ID:owMXxSWWO
(* ∀ )『どう?悲しい?私を救えなくて悲しいの?悔しいの?どう?どう?どう?どう?どう?どう?どう?どう?どう?
笑っちゃうわ、アハハハハアハハハアハハハアハハハハハハ
泣いてるの?ふーん、悲しいんだ?あなたのせいよアナタノアナタノアナタノ
何が警察官よ、アハハハハアハハハアハハハアハハハ誰も救えないくせに』

( ,,;Д;)「あぁ、あぁ」

(* ∀ )「見て、ここ、綺麗に切れてるでしょ?

  見  ろ  よ  !!!!!
私今最高に白いでしょ!?何でだか分かる?血がね、抜けちゃったの、全部!!アハハ、見てよこの白い肌!!」

( ,,;Д;)「ゴメン、ゴメンよ、しぃ」

(# ∀ )『う る さ い ! !
首って凄いのよ、ちょっと切るだけで噴水みたいに血が出るの!!もう虹が架かっちゃうんじゃないかと思うくらい!!!
もうちょっと早く来れば見られたのにね!!残念でしょ?残念だよね。アハハハハアハハハアハハハアハハハハハハでももう出ないの、全部無くなっちゃったから』

それでも彼は謝った、謝り続けた。許しを乞うた。

彼の意識が戻ってくる、辺りを見回すと

今まで何も変わらないと思っていた病室は

―――――真っ赤だった



42: ◆wZk4NVoY.w :2008/05/04(日) 01:58:54.59 ID:owMXxSWWO
( ,,;Д;)「ごめんなさウゲェァ」

彼は吐き出した。

その時奇妙な感覚に襲われた、何処かで見た光景。

あの現場を思い出すのに時間は掛からなかった。


( ,,;Д;)「お前が……お前がビロードを殺したのか……?」

(* ∀ )「フフッ、教えてあげなーい

あーあ、そんなことよりまたあの噴水見たくなってきちゃったよ、一度見たら癖になるよ、すっごく綺麗なんだ、ギコ君が着てくれて嬉しいよ。


だって……」


(* ∀ )『も う い ち ど 見 れ る か ら さ ぁ ! ! 』


ギコは最後に自分に振りかざされる鈍色の金属を見た。

それは真っすぐ

彼の首筋に向かい


奔った。



44: ◆wZk4NVoY.w :2008/05/04(日) 02:03:06.83 ID:owMXxSWWO




(;,,゚Д゚)「はぁっ!!」

ギコは注意深く辺りを見渡す。何も変わらない、いつもと同じ自分の寝室だ。

( ,,゚Д゚)「なんて夢……見ちまったんだ」

それからのことを彼はよく覚えていない。勤務中何度もあのアパートに行くことビコーズから提案されたが、なんとか必死に押し退けた。

目が回る。刻が狂っていると彼は感じた。早くなったり遅くなったり。

気付けば、また夜だった。

寝たくはない。素直に彼は思う。もうあんな夢は御免被ると。

しかし

何かに取り憑かれたかのように、彼は再び睡眠という名の監獄に突き落とされた。



45: ◆wZk4NVoY.w :2008/05/04(日) 02:05:23.50 ID:owMXxSWWO
( ,,゚Д゚)「……またか」

もう着たくなかった。ここには、しかし気付けばまた此処にいる。

病室、ここでしぃは死んでいた。

自殺だった。決して死ぬような病気ではなかった。それなのに彼女は頸動脈をメスでかっ切り目を見開いたまま、蒼白な肌色で死んでいた。

しぃの血によって真っ赤に染められた病室としぃ自身の白い肌が、鳥肌が立つほど美しいコントラストを描いていたのを、ギコは覚えている。

恐る恐る病室のドアを開け中を除く。

( ,,゚Д゚)「居ない……だと!?」

ドアを開け、昨日しぃが横たわっていたベッドを調べてみるが何も見つけることは出来なかった。

( ,,゚Д゚)(どこに消えた……)

不意に、笑い声が聞こえてきた。

『あははは、あははは、あははは、アハハハハアハハハアハハハアハハハハハハアハハハハアハハハアハハハアハハハハハハ』

( ,,゚Д゚)「クソッ」

病室から出ようとドアノブを回したがまったく動く気配すら見せない。

その間にもどんどん笑い声は近づいてきた。



46: ◆wZk4NVoY.w :2008/05/04(日) 02:09:04.44 ID:owMXxSWWO
殺される、このままだと殺されてしまう。

逃げなければ、でもどうやって?

どうすれば?


無理だ、俺は死ぬんだ、此処で。
もう彼の心は諦めていた。


不意に足元から照り返す光に目を瞑った。

よく見れば其処にはメスがあった。

『まっててねぇーぎこくんいまからいくよ行くよ行くよ行くよ行くよ行くよ行くよ行くよ行くよ行くよ行くよ行くよ』

殺されるくらいなら、一層自分の手で

ギコは床に転がったメスを手に取り

真っすぐ

自分に突き刺した。


意識が遠退く中、悲しそうに彼を見つめる、愛した人の顔があった。



48: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2008/05/04(日) 02:10:06.73 ID:owMXxSWWO




( ,, Д )「痛っ」

目を醒ますと同時に鈍い痛みが彼を襲った。太股からはドクドクと湧き出るように血が溢れている。

( ,,゚Д゚)「助かった……のか?」

彼は辺りを確認する。昨日と同じ部屋の様子に安堵した。

( ,, Д )「しぃ、すまなかった」

彼の言葉は誰に届くでもなく、部屋の天井に消えていった。

目を開けたくない。懐かしい匂いがする。消毒液とシャンプーの香りが混ざった毒々しい匂いだ。





50: ◆wZk4NVoY.w :2008/05/04(日) 02:11:12.19 ID:owMXxSWWO








『なんだぁ、ここにいたんだぁ』






51: ◆wZk4NVoY.w :2008/05/04(日) 02:12:08.02 ID:owMXxSWWO
Toギコくん

ぎこくん、おしごといそがしいんですか?もうぎこくんがさいごにあいにきたひからみっかもたっちゃいますね。

おしごとだからしかたないけどちょっとさみしいな、でもぎこくんはせいぎのみかただもんね。

からだにはくれぐれもきをつけてください。

Fromしぃ


Toしぃ

すまない、仕事が忙しくてな。なかなか時間が作れないんだ。なかなかメールも様になってきたじゃないか。キーボードには慣れたみたいだなw

しぃ愛してるよ、必ず暇が出来たら逢いに行くからな。

このメールを見るのがしぃの母でなく、看護婦さんであることを願って。

Fromギコ



52: ◆wZk4NVoY.w :2008/05/04(日) 02:12:54.60 ID:owMXxSWWO
Toギコくん

ぎこくん、さみしいよう、まっくらなの、いままでそんなことなかったのに。ひかりしかみえてなかったのに、いまはただくらいだけ。なにもみえない。

Fromしぃ


Toしぃ

落ち着け、必ず行くから待っててくれ。

お前が闇しか見えていないっていうなら、俺はお前しか見えてない。

待ってろよ、必ず行くから。

お母さんと看護婦さんへ、しぃの様子がおかしい。異常なほど寂しがっています。なんとか俺の代わりに傍にいてやってください。

Fromギコ



53: ◆wZk4NVoY.w :2008/05/04(日) 02:13:49.57 ID:owMXxSWWO
Toギコ

まだ?まだ?まだ?まだ?まだ?まだ?まだ?まだ?まだ?まだ?まだ?まだ?あいたいあいたいあいたいあいたいあいたいあいたいあいたいあいたいあいたい
Fromしぃ


Toギコ

もう嫌だ伊やダイヤだいやだ

わたしね、にがおえかいたの、じぶんのね、うまくかけたかなぁ、にてるかなぁ、こんどきたときにみてよ。


Fromしぃ



54: ◆wZk4NVoY.w :2008/05/04(日) 02:14:28.31 ID:owMXxSWWO
Toギコ


しにます


Fromしぃ



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