- 3: ◆wZk4NVoY.w :2008/05/06(火) 00:05:00.20 ID:MU7Ra9H6O
一応閲覧注意。
- 4: ◆wZk4NVoY.w :2008/05/06(火) 00:07:01.92 ID:MU7Ra9H6O
- ほう、ほう。夜の鳥は私を誘う。
闇夜に輝く月は爛々、窓の硝子が光を浴びては乱反射。
絹のカーテンの隙間を縫って、私はこっそり闇夜を覗く。
夜は大人の時間だよ、パパの言葉はもう遠い。
窓を開けてはひらりひらりら、後に残るはたなびくカーテン。
私の姿はどこにもない。
(*゚ー゚)は眠れないようです
- 5: ◆wZk4NVoY.w :2008/05/06(火) 00:09:01.32 ID:MU7Ra9H6O
ほう、ほう、と鳴き声を響かせる夜の鳥。
洋館の階段、その手すりに背を預けて佇む少女は耳に飛び込む鳥の声とは別の、別の何かに耳を傾けていた。
ガチャガチャと言う、玄関口での物音。
誰かが鍵を開けようとしているが、その鍵を持っていない。
そんな、乱暴な音だ。
少女は寝巻きの裾を掴んで音がする方向、玄関へと向かった。
ぱたぱた、小さな足音をさせて階段を降りる。
玄関では未だに乱暴な音をさせている。心なしか、苛立ちを含んでいる様だ。
なかなか開かない扉に対して大きく苛立ったのか、どん!と蹴る音。
そして同じくして、荒々しく扉が開く音。
- 7: ◆wZk4NVoY.w :2008/05/06(火) 00:11:03.02 ID:MU7Ra9H6O
- 少女は驚いた様に肩をすくませ、慌てて近くの部屋に身を隠す。
ドアを開けた主も、壊れる様に開いたそれに「うわっ」と声をあげた。
未だ年若い男の声は、遠慮がちに土足で洋館に上がり込む。
(,,゚Д゚)「失礼…しまぁす……」
先程までドアを無理矢理こじ開けようとしていたにもかかわらず、妙に謙虚な声音で誰に言うでもなく挨拶をした。
少女は部屋に隠れたまま、小さな声で
(*゚ー゚)「いらっしゃいませ…」
ささやく。
それを聞いた男は肩をぴくんと震わせて、周囲を見回す。
少女は男の視界に入る場所にはおらず、男は思わず挙動不審になる。
ぎし、ぎし、と軋む床を踏みしめて、男は声がした方向に向かう。
そう、少女が居る部屋へ。
- 8: ◆wZk4NVoY.w :2008/05/06(火) 00:13:07.76 ID:MU7Ra9H6O
- 足音を聞き、突然の来訪者に狼狽える少女は天井を見上げた。
天井にはシャンデリア、壁には掃除の時に使う梯子。
昔、上にのぼって叱られた事があるのだが、この状況なら仕方がない。
両親も許してくれるかも知れない。
そう思った少女は、無表情の中に少しの緊張感を含ませ、梯子をシャンデリアに立て掛けた。
大きなシャンデリアは少女が乗ってもびくともしなさそうな程に大きく、少女も大丈夫だと思って梯子をかけ上がった。
そしてシャンデリアの上に辿り着いたその時、梯子が大きな音をさせて床に倒れた。
- 10: ◆wZk4NVoY.w :2008/05/06(火) 00:15:04.69 ID:MU7Ra9H6O
- 部屋を覗き込もうとドアの前に立っていた男の息を飲む音。
ゆっくりゆっくり開かれるドア。
固く目を瞑り、見つかりませんようにとシャンデリアの上で身を抱く少女。
(;,゚Д゚)「だ、誰、誰も…居ない、よな…?」
ドアの隙間から室内を覗き、誰も居ないのかと見渡す。
音の主は梯子なのだが、男には梯子が最初から倒れていたのかどうかも分からない。
少女が息を潜めているため、耳を澄ませてみても何も聞こえない。
それに安心したのか、男は小さなため息を吐いて部屋を出ようと背を向けた。
- 11: ◆wZk4NVoY.w :2008/05/06(火) 00:17:01.98 ID:MU7Ra9H6O
- ゆっくりとした足取りで、床を軋ませながら男は部屋を出て行く。
目を開いた少女もその背にほっと溜め息を吐く。
不意に、頭上の金具がミシミシと音を立てながら変形した。
昔は軽かった少女も、数年の内に多少は重くなるもの。
少女の祖父の代から存在する古くなったシャンデリアは、少女の成長の重みには耐えられず。
数十年に渡る歴史を終えようと、天井から離れた。
(;゚ー゚)「きゃああああああっ!」
耳元で空気の音を聞き、少女は落下していると言う事にやっと気付く。
思わず上げた少女の悲鳴と、老いたシャンデリアが床にぶつかり砕け散る音。
男は悲鳴と音を背中に受け、情けない声音で叫びながら洋館の奥へと走って行ってしまった。
- 12: ◆wZk4NVoY.w :2008/05/06(火) 00:19:04.13 ID:MU7Ra9H6O
- (* ー )「い…た……たた…」
少女は擦りむいた膝を小さな手のひらで押さえながら立ち上がり、打った腹部をそっと撫でる。
高い天井と壊れたシャンデリアを見比べ、少女は悲しそうに眉を寄せた。
あの高さから落ちて、これだけの怪我で済んだのは奇跡に近い事なのだが。
そんな事よりも、お祖父ちゃんやお父さんが好きだったシャンデリアを壊してしまった事に対して、強い罪悪感を抱いていた。
しゃがみこみ、へしゃげたシャンデリアの縁を撫でて、小さく「ごめんなさい」と謝る。
少女を生まれた時から知るシャンデリアは、最後に大きな優しさを持つ少女を守ったのかも知れない。
胸と傷の痛みに、目尻に涙を溜めて少女は歩き出した。
- 13: ◆wZk4NVoY.w :2008/05/06(火) 00:21:03.87 ID:MU7Ra9H6O
- (;,゚Д゚)「はー…はー……何なんだよ、何なんだよもう…!」
男もまた、恐怖により目尻に涙を溜めていた。
階段をかけ上った先の踊り場で、どくどくと喧しい程に脈打つ心臓。
情けなくもがくがく笑う膝に、全身を冷たい汗で濡らした男は眉をぎゅっと寄せる。
ちょっとした出来心だったのに、こんな思いをするだなんて。
袖で目元を拭った男は、唇を噛み締めながら階段を上ろうと足をあげる。
きしん、きしん。
- 14: ◆wZk4NVoY.w :2008/05/06(火) 00:23:02.54 ID:MU7Ra9H6O
- 男の耳に、小さな足音が届いた。
軋む様な動きで、さっき自分が走ってきた廊下へと目を向ける。
暗くてよくは見えないが、暗闇にも溶けない白い、血まみれの素足が目に飛び込む。
そして白いフリルのついたネグリジェが、細い腕が、長い黒髪が。
(;,゚Д゚)「うわあああああああああああっ!!」
少女の顔を見る前に、男は叫びながら階段を駆け足で上って行った。
小さく「まって」と聞こえた気がしたが、聞こえないふりをした。
- 15: ◆wZk4NVoY.w :2008/05/06(火) 00:25:05.26 ID:MU7Ra9H6O
- 膝の痛みを堪えながら歩く少女は、男に「何故ここに侵入したのか」を問おうと決心した。
男が走り去った方向へ歩いていると、膝から血がぽたぽたと溢れて足を濡らす。
それでも少女は止まる事なく歩き、階段の踊り場でやっとその姿を見つけた。
しかし、男は少女を見るや否や悲鳴をあげて逃げ出してしまった。
(*゚ー゚)「まって…!」
少女のか細い声は虚しく響き、消える。
一人きりと言う事に心細さを感じ始めた少女は、尚も足を引きずる様にして歩く。
なんとかあの男に追い付いて、話をしたくて。
- 16: ◆wZk4NVoY.w :2008/05/06(火) 00:27:18.73 ID:MU7Ra9H6O
(,,;Д゚)「何だよ……何だよあの子…何で……ちくしょぉ…っ」
恐怖のあまり何度も自問自答をするが、答えなど導き出せずに男は二階の廊下を進む。
それでも何かを持って帰らねばと、歯の根も合わない状態で恐る恐る一番近い部屋の扉を開いた。
そこは子供部屋らしく、沢山のぬいぐるみや人形、おもちゃが所狭しと散らかっている。
暗くてよくは見えないが、白とピンクが多い。
女の子らしい幾重にも重ねられたピンクのカーテンに触れてみると、すべらかな手触り。
どうやら絹の様だ。
- 17: ◆wZk4NVoY.w :2008/05/06(火) 00:29:13.46 ID:MU7Ra9H6O
- 天外付きの小さなベッドには、リボンをつけた可愛らしいウサギのぬいぐるみだけが寝そべっている。
そのぬいぐるみを手に取り、月明かりを頼りにリボンにあしらわれた刺繍を見る。
リボンには小さく流れる文字で「しぃ」と縫ってあり、それがぬいぐるみの名なのか、持ち主の名なのかは分からない。
それでも、他の部屋に比べて手入れの行き届いた部屋を見ると、男は罪悪感に苛まれる。
やっと激しい鼓動がおさまった頃、この部屋は荒らしてはいけないと思い、ぬいぐるみをベッドに戻そうとした。
- 18: ◆wZk4NVoY.w :2008/05/06(火) 00:31:10.74 ID:MU7Ra9H6O
(*゚ー゚)「ぁ……の…」
(,,゚Д゚)「っ!?」
開けっぱなしの扉から、少女の小さな声。
男が勢いよく後ろを振り返れば、そこには階段で見た少女の姿が。
僅かに怯えた目を男に向けながら、ゆっくりと部屋へと入って行く。
(;,゚Д゚)「ひぃっ、う、うぁああああっ来るなっ! 来るなよっ!」
元の位置に戻そうとしていたぬいぐるみを振り回し、男は後退しながら叫ぶ。
しかしそれは逆効果だったのか、少女は険しい顔をして足を引きずりながら男に迫る。
ばん!と窓に張り付き、ぬいぐるみを片手に男は顔を真っ青にした。
後ろに下がろうにも、もう下がれない。
- 19: ◆wZk4NVoY.w :2008/05/06(火) 00:33:07.72 ID:MU7Ra9H6O
- もうダメだと強く目を瞑り、奥歯を噛み締めた。
(;,-Д-)「………」
数時間にも感じられる数分、数秒かも知れない。
そんな時間の中、男は何度も念仏を唱えていた。
しかしどれだけ時間が経とうとも、異変は起こらない。
きっと罠だ、罠なんだ、瞼を押し上げれば恐ろしい目に合う。分かってるんだ。
そう、男は必死に自分の意思を圧し殺そうとしていたが、首をもたげる好奇心は思っていたよりも強くて。
そっとそっと、瞼を持ち上げる。
前には何もない、離れた場所に扉があるだけ。
少しだけ視線を下ろすと、少女が両手を差し出しながら険しい顔で見上げていた。
- 20: ◆wZk4NVoY.w :2008/05/06(火) 00:35:13.11 ID:MU7Ra9H6O
(,,;Д;)「うわあああああああああああっ!!?」
(*゚―゚)「……かえし…て…」
(,,;Д;)「わああああああああああああああ………あ…?」
(*゚―゚)「……かえして…」
(,,゚Д;)「………え…?」
思わずぼろぼろと大人げなく涙を溢して怯える男だったが、少女のはっきりとした声を聞いて徐々に冷静さを取り戻す。
眉根を寄せたまま手を差し出す少女と、自分の手にあるぬいぐるみを見比べてから、そっとぬいぐるみを渡した。
- 21: ◆wZk4NVoY.w :2008/05/06(火) 00:37:05.09 ID:MU7Ra9H6O
(,,;Д;)「うわあああああああああああっ!!?」
(*゚―゚)「……かえし…て…」
(,,;Д;)「わああああああああああああああ………あ…?」
(*゚―゚)「……かえして…」
(,,゚Д;)「………え…?」
思わずぼろぼろと大人げなく涙を溢して怯える男だったが、少女のはっきりとした声を聞いて徐々に冷静さを取り戻す。
眉根を寄せたまま手を差し出す少女と、自分の手にあるぬいぐるみを見比べてから、そっとぬいぐるみを渡した。
- 22: ◆wZk4NVoY.w :2008/05/06(火) 00:39:19.61 ID:MU7Ra9H6O
- うさぎのぬいぐるみを受け取って、少女はぷくんと頬を膨らます。
男が大量に溢れ出した涙をやっと拭い、数回まばたきをしてから少女を見つめた。
階段で見た時と同じ、白いネグリジェに長い黒髪。
よく見ると愛らしい顔をしており、白すぎる肌も頬はほんのりと淡い桃色をしていた。
(,,゚Д゚)「………あの…君が、しぃ、ちゃん?」
(*゚ー゚)「………」
- 23: ◆wZk4NVoY.w :2008/05/06(火) 00:41:16.34 ID:MU7Ra9H6O
- 少女に目線を合わせる様にしゃがみこんだ男の問いに、少女は黙ったまま頷く。
ぬいぐるみを強く抱き、未だ警戒の色を見せる眼差しで男を見ていた。
困った様に頭を掻きながら、男はあちこちに視線をやっては情けない顔で少女──しぃを見つめる。
お互いに見つめるばかりでは埒があかないと思ったのか、意を決した様に男は口を開く。
(,,゚Д゚)「あー……あの、どうして
(*゚ー゚)「どうして…ここに、居るの…?」
(,,゚Д゚)「ぇ? ……あ、いや、その…えっと…」
(*゚ー゚)「パパとママなら、いないよ? パパのお客さんじゃないの…?」
- 24: ◆wZk4NVoY.w :2008/05/06(火) 00:43:25.68 ID:MU7Ra9H6O
- (;,゚Д゚)「う、その……あの…」
(*゚ー゚)「……あなたは、だれ?」
畳み掛ける様なしぃの言葉に、マシになった顔色をまたも悪くして男は口ごもる。
しぃのいぶかしげな顔から目をそらし、その場にぺたんと座り込む。
そして暫く考えながら低く唸り、しぃの足元で土下座した。
突然の行動にしぃは目を丸くして、男の前にしゃがみこむ。
血の止まった膝の傷が、ずきん痛んだ。
- 25: ◆wZk4NVoY.w :2008/05/06(火) 00:45:14.28 ID:MU7Ra9H6O
- (;,゚Д゚)「済みません不法侵入しましたああああああっ!!」
(*゚ー゚)「……ふほー、しんにゅう…?」
(;,゚Д゚)「あ、その、勝手にお家に上がり込んじゃって御免なさい…」
(*゚ー゚)「……お客さんじゃ、ないの?」
(;,゚Д゚)「………はい…」
土下座したまま申し訳なさそうに頷くと、額がごつんと床に当たる。
文字通り地面に額を擦り付けて謝罪する男の姿を見ていたしぃは、男の頭を押して顔をあげさせた。
- 26: ◆wZk4NVoY.w :2008/05/06(火) 00:47:14.89 ID:MU7Ra9H6O
- そして促されてじわじわと顔をあげた男の額を、ぬいぐるみの手でぺしんと叩く。
目を丸くする男に対して、しぃはにっこりと笑みを浮かべた。
(*゚ー゚)「悪い子」
(,,゚Д゚)「……ご、ごめんなさい…」
ぬいぐるみを抱き直して立ち上がろうと膝に力を入れた時、膝に強い痛みが走った。
痛そうに顔を顰めるしぃの足から力が抜け、ずるりと滑って前のめりになる。
支えを無くした細い身体は重力に従って床を目指す。
が、床としぃの間に存在する男が慌てて腕を伸ばし、しぃの身体を抱き抱えた。
- 27: ◆wZk4NVoY.w :2008/05/06(火) 00:49:13.80 ID:MU7Ra9H6O
- ど、と腕の中に倒れ込んだしぃ。
軽いけれど確かに感じるその重さは、男の心を穏やかにさせる。
細すぎる手足だが、それらは確かにしぃが存在していると言う証で。
その時に、男はやっとしぃが膝に怪我をしている事に気付いた。
(;,゚Д゚)「膝っ! 怪我してるっ!」
(*゚ー゚)「うん……あの…落ちて…」
(,,゚Д゚)「ほらベッドに座って! シみるから我慢して!」
(*゚ー゚)「え、え? う……うん…」
- 28: ◆wZk4NVoY.w :2008/05/06(火) 00:52:44.05 ID:MU7Ra9H6O
- さくさくとしぃをすぐ側にあるベッドに座らせ、男はポケットから絆創膏とミネラルウォーターを、首から掛けていたタオルをはずす。
ミネラルウォーターのキャップを外して、ボトルの口にタオルを押し当てて水を染み込ませた。
しぃの裾の長いネグリジェをたくしあげてから、濡れたタオルで膝の擦り傷を出来るだけ優しく拭いた。
(*゚ー゚)「っ!」
(,,゚Д゚)「ちょっとだけ我慢して」
(*゚ー゚)「う、ん…」
- 29: ◆wZk4NVoY.w :2008/05/06(火) 00:54:12.85 ID:MU7Ra9H6O
- 傷にタオルを当て、軽く擦られただけで焼ける様な痛みが襲う。
実際は大した傷ではないのだが、幼いしぃにしてみれば、その痛みはかなりのもので。
それに気付いている男も、傷に付着した埃や乾いた血を拭う手を慎重に動かした。
傷だけではなく、汚れていた脛まである程度の汚れを落としてから絆創膏をシートから剥がし、傷にぺたんと貼り付けた。
消毒薬などを持っていないのが心苦しい。
- 30: ◆wZk4NVoY.w :2008/05/06(火) 00:56:07.45 ID:MU7Ra9H6O
- ぬいぐるみの耳を噛みながら痛みに耐えていたしぃの頭を、ぽんぽんと軽く叩く様に撫でてやり、男はやっと笑顔になった。
(,,^Д^)「ギコハハハっ、耳を噛んだら可哀想じゃないか?」
(*゚ー゚)「…振り回したくせに」
(,,゚Д゚)「御免なさい」
(*゚ー゚)「……おじさん、おなまえは?」
(,,゚Д゚)「俺はギコ……お兄ちゃんが良いなぁ…」
(*゚ー゚)「ギコお兄ちゃん?」
(,,゚Д゚)「うん、そうそう」
(*゚ー゚)「…ギコお兄ちゃん、ありがとう、てあてしてくれて」
- 31: ◆wZk4NVoY.w :2008/05/06(火) 00:58:13.17 ID:MU7Ra9H6O
- 足元にしゃがんだままのギコを見下ろして、しぃがひどく愛らしい笑顔で感謝した。
その笑顔を見て、妙に気恥ずかしくなったギコは少し困った顔で俯いてしまう。
しかし視界に入ったしぃの太股の白さに、更に恥ずかしくなって、ネグリジェをそっと下ろした。
何故か頬を朱に染めたギコがきょろきょろと視線をあちこちにやり、沈黙がその背中にのし掛かる。
- 32: ◆wZk4NVoY.w :2008/05/06(火) 01:00:15.23 ID:MU7Ra9H6O
- 年上として、ここは何か話題の一つでもと首を捻ってみせるが、この空気に合った良い話題などは浮かばない。
もう少し勉強をしておけば良かった、等と僅かな後悔をする。しかし後悔したからといって、何があると言う訳でもなく。
(*゚ー゚)「ギコお兄ちゃん…」
(,,゚Д゚)「おっ!? お、うん、な、何?」
(*゚ー゚)「すごい汗」
(,,゚Д゚)「え? ……あ、あぁ…汗っかきなんだ、うん」
(*゚ー゚)「パパの服ならあるから、着替える?」
(,,゚Д゚)「……いや、その、それは…」
(*゚ー゚)「?」
- 33: ◆wZk4NVoY.w :2008/05/06(火) 01:02:18.90 ID:MU7Ra9H6O
- 純粋そうなきらきらとした大きな黒い目に見つめられていると、先程までの恐怖など綺麗さっぱり忘れてしまった様になんでも受け入れたくなってしまう。
そんな首を傾げるしぃに見つめられ、顔を赤くしたままのギコはにへらっと弛んだ笑みを浮かべて立ち上がった。
膝の怪我に気を使いながら、ひょいと小さなしぃを抱き上げる。
ぬいぐるみを抱いたままのしぃはどこか嬉しそうに、くすぐったそうに笑ってギコにそっとしがみついた。
しぃの父親のものらしい服に着替えたギコは、少しばかり古びてはいるものの清潔そうな白いシャツに戸惑っていた。
見ず知らずの人の館に忍び込み、しかも娘に許可は得てるものの、服まで借りてしまった。
どうしようもない申し訳なさ、罪悪感に胸をちくちく刺されながらも、しぃが示す焦げ茶の三つ揃いを言われるがままに着てしまっている。
- 35: ◆wZk4NVoY.w :2008/05/06(火) 01:04:33.45 ID:MU7Ra9H6O
- ご丁寧にタイまで締めて、仕上げに差し出されたダービーハットを被ってから鏡の前でポーズを決める。
どこからどう見ても身なりの良いお兄さんだ、明治時代くらいの。
しかし如何せん服に着られている感があるが、それは歳の所為だと諦めよう。
(,,゚Д゚)「ところで流石にこれはお父さんに申し訳ない気がするなぁ、しぃちゃん」
(*゚ー゚)「パパは怒らないよ? 優しいの、今度おいしいショコラをお土産に持ってかえってきてくれるって」
(,,゚Д゚)「ショ、ショコ、……異次元か、ここは…」
(*゚ー゚)「?」
(*,゚Д゚)「なんでもないよー」
- 36: ◆wZk4NVoY.w :2008/05/06(火) 01:06:38.73 ID:MU7Ra9H6O
- でれでれと緩みきった笑顔のギコには、館に侵入してすぐの怯え様の欠片も見えない。
一人の少女に少し気を許しただけで豹変する彼の姿は非常に滑稽でもあり、ある意味、とても純粋でもある。
子供部屋──しぃの部屋に戻り、ベッドに座ったギコは今さら帰ろうにも帰れない状態で、しぃと訥々と話すばかり。
借り物の三つ揃いなんてものを着ているため、妙に緊張して動きはぎこちなく、言葉遣いもどこかおかしくなってしまう。
それても膝にしぃを乗せたギコは笑顔。膝に座るしぃもまた、笑顔。
しぃはしぃでギコに心を許して、すっかりなついていた。
闇夜がゆっくりと色褪せてきた頃に、ふと、ギコは気になる事を思い出した。
それは、当然の疑問。
- 37: ◆wZk4NVoY.w :2008/05/06(火) 01:08:10.88 ID:MU7Ra9H6O
- (,,゚Д゚)「しぃちゃん?」
(*゚ー゚)「?」
ギコの呼び掛けに、ぐいっと顔を上へ向けてから首を傾げるしぃ。
(,,゚Д゚)「…なんで、他に誰も居ないの?」
(*゚ー゚)「……ぇ…?」
(,,゚Д゚)「だってほら、こんな時間にこの広さに…しぃちゃん、一人だけでしょ?」
(*゚ー゚)「……」
(,,゚Д゚)「それに、この館…」
(*゚ー゚)「…分かんない……気が付いたら、わたししか居なかったの…」
(,,゚Д゚)「……それ、って…」
(*゚ー゚)「………」
- 38: ◆wZk4NVoY.w :2008/05/06(火) 01:10:05.57 ID:MU7Ra9H6O
- 押し黙ってしまったしぃは俯いて、ネグリジェの裾を強く握る。
口をきゅっと引き結び、これ以上は語りたくないと全身から放つ空気で伝えていた。
それでも、それでもギコは神妙な顔で膝に座る細い身体を強く抱き締めて、口を開く。
口にしない方が幸せかも知れないと理解していたが、言わずには居られなくて。
(,,゚Д゚)「───俺は、ここに肝試しに来たんだ」
(*゚ー゚)「……」
(,,゚Д゚)「友達との賭けに負けた罰ゲームで、怖そうな心霊スポットを探して、ここを選んだ」
腕の中のしぃが、ぴくんと揺れる。
(*゚ー゚)「………」
(,,゚Д゚)「空き家だと思ってた、誰かが住んでるなんて思わなかった」
- 39: ◆wZk4NVoY.w :2008/05/06(火) 01:12:37.52 ID:MU7Ra9H6O
- しぃの細くて柔らかな感触は確かな物で、ギコはそれを確かめる様に、腕に力をこめる。
(*゚ー゚)「…………」
(,,゚Д゚)「ここの、主人は、」
突然しぃはギコの腕を振りほどき、膝の上から飛び降りた。
どん、と着地すると膝が痛み、しぃは眉を寄せる。しかしそれでも、しぃは今にも泣き出しそうな顔でギコを振り返る。
拳を握って、狼狽えるギコを睨んで抱いていたぬいぐるみを投げつけ、足を引き摺りながら部屋を飛び出してしまった。
大事そうに抱いていたうさぎのぬいぐるみ。
淡いピンクをしたそれを持って、ギコはしぃの後を追って部屋を出る。
あんなに大事そうにしていたのに、それを投げるなんて。
- 40: ◆wZk4NVoY.w :2008/05/06(火) 01:14:29.04 ID:MU7Ra9H6O
- 今やさっぱり恐怖を感じなくなった暗い洋館だったが、この広い中で少女を探さなければならないと考えたら、それはなかなかに重労働だ。
折角借りた服をまた汗まみれにしてしまうのではないか、そうなったら申し訳ないと困った様に笑い、ギコが走り出した。
手当たり次第にドアを開けては名を叫び、キッチンや御不浄、屋根裏部屋らしき場所から風呂場まで。
しかし呼べども呼べどもしぃの返事はなく、姿も見掛けない。
自室に戻っているのでは、としぃの部屋を覗いてみてもその姿はなく、もう館の殆んどを探し終えてしまった。
服が汗びっしょりになるのを何とか阻止し、溜め息混じりに階段に腰掛ける。空はもう闇が薄れて白んできている。
もしかして、朝が近いから消えたのかな。
そんな考えが頭によぎるが、未だ覚えているしぃの感触は本物だった。
細くて柔らかくて、頼りない四肢は確かに存在していた。白いネグリジェも、長い髪も、大きな黒い目もだ。
ふぅ、と深い溜め息を吐きながら、ギコは館を歩き続ける。
- 42: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2008/05/06(火) 01:16:54.33 ID:MU7Ra9H6O
- 賭けに負けて、罰ゲームで、心霊スポットを探して、見つけた場所。
侵入したら声がして音がして、悲鳴が聞こえて、追いかけられて。
…怒られて、手当てして、追いかけて……
俺は、何をしてるんだろう。
(,,゚Д゚)「………この館の、主人は…」
ぽつりと呟きながら、ガラス張りのサンルームを覗く。
木製の椅子に座って俯く、少女の横顔を見つけた。
(,,゚Д゚)「…しぃ、ちゃん」
(* ― )「わたしは、ここにいるの」
(,,゚Д゚)「……しぃちゃん、」
(* ― )「ずっと、ずっと…パパとママが帰ってくるまで」
(,,゚Д゚)「しぃちゃん、聞いてくれ」
(* ― )「いや。ギコお兄ちゃんはわたしをこわすよ」
(,,゚Д゚)「……」
何も無理に聞かせる意味なんて無いのだ、分かっている。彼女の事を思うなら、何を言わずに時間を潰して、朝には帰ってしまうのが一番な筈だ。
- 44: ◆wZk4NVoY.w :2008/05/06(火) 01:18:31.69 ID:MU7Ra9H6O
- そうだ自分の為にも、一番良い。彼女を混乱させて、悲しませることもない。
結果は見えているのだ、無意味に彼女を引っ掻き回して壊してしまうという事を。
それでも俺は好奇心に負けるバカで最低な奴だから。
ぐ、と握り拳を作りながら重い重い唾を飲み込み、口を開く。
口の中が乾いて、もう汗も出なくってしまった。
しぃは変わらず、椅子の上で膝を抱いて俯いている。悲しそうな顔で。
(,,゚Д゚)「……しぃちゃん、この館の主人は」
(* ― )「言わないで」
膝に顔を伏せて、静かに言う。
(,,゚Д゚)「主人はもう、」
(* ― )「やめてよ」
- 46: ◆wZk4NVoY.w :2008/05/06(火) 01:20:15.68 ID:MU7Ra9H6O
- しぃのささやかな懇願は、もうギコには届かなくて。痛む筈の膝に爪を立てて身体を強張らせる。
(,,゚Д゚)「何十年も前に、死んだんだよ」
(* ― )「やだああああっ!!」
淡々と告げたギコの言葉を聞くまいと、耳を押さえて長い髪を振り乱す。
小さな子供みたいにいやいやと首を左右に振って、椅子の上で更に身を縮めるしぃ。
ギコがしぃの元に駆け寄り、両手を掴んで少女に現実を叩きつける。
なぜこんなに残酷な事をするのか、現実と言う凶器を振りかざしては傷を抉るその本人にも分からなくて。
ただ、この少女が現実を見ない様にしているのが、悲しくてしょうがなかった。
- 47: ◆wZk4NVoY.w :2008/05/06(火) 01:22:27.97 ID:MU7Ra9H6O
(,,゚Д゚)「しぃちゃんっ、ここには誰も居ないんだよ、君もっ! 本当は誰も居ないんだよっ!」
(* ― )「わたしはいるよ、ここにいるよっ! ここにいるっ! パパもママも帰ってくる!!」
(,,゚Д゚)「じゃあどうしてそんなに逃げるんだっ! 帰ってくるならどうしてそんなに現実逃避したがるんだよっ!?」
(* ― )「知らない知らないそんなの知らないっ! わたしはここにいるの、ここにっ! わたしはっ────ぇ、?」
ギコの手を振り払おうと目を瞑ったまま叫んでいたしぃが、突然目を見開いて動きを止めた。
その様子にギコもしぃの手を離し、目の前にしゃがんで顔を見上げる。
しぃは目を大きく見開いたまま、どこか遠くを見る様な眼差しで。すぐそこに存在するギコの姿は、目に入っていない様だった。
- 48: ◆wZk4NVoY.w :2008/05/06(火) 01:24:15.87 ID:MU7Ra9H6O
ほう、ほう。夜の鳥が鳴いている。
しぃは夜更かしを禁じられていたが、鳥の声が気になってどうしても眠れずにいた。
こっそりと天外付きのベッドから降りて、声の主である夜の鳥を一目見よう。
一目だけ、一目だけ。ちょっと見たらすぐに寝るから、ちょっとだけ──。
子供らしい好奇心がしぃを突き動かし、カーテンに手を伸ばす。
小さな手が手触りの良いシルクのカーテンを握り、少しだけ開いた。
そしてしぃの目に飛び込んできたものは。
笛を持った、窓に張り付く男の笑顔。
- 49: ◆wZk4NVoY.w :2008/05/06(火) 01:26:08.83 ID:MU7Ra9H6O
(*゚ー゚)「ぇ?」
抉じ開けられた窓から腕が伸び、軽々としぃの身体を抱き上げた。
しぃはベッドに置いたままのぬいぐるみに手を伸ばして、世界は暗転する。
長くはない時間を揺られて過ごし、世界に光が戻ったのは、狭くて暗くて生臭い部屋の中だった。
カーテンを閉めた窓から漏れる僅かな明かりと、男の笑顔が印象強い。
男は始終笑顔のまま、しぃをベッドに押し付けて囁く。
此処には何でもあるよ
色とりどりの積み木に
死体製のマリオネット
欲しい物は全部あげる
怖がることなんてない
何処まででも一緒だよ
地獄でも、そう地獄でも
さあ────捕まえた
- 50: ◆wZk4NVoY.w :2008/05/06(火) 01:28:21.68 ID:MU7Ra9H6O
- 幼い肉体を壊れるくらいに犯す男は、いつでも笑っていた。
ずっと見ていた、愛していた。そう愛を囁く男は、痛みと恐怖にひたすら泣き叫ぶしぃを殴っては犯し、犯しては殴る。
しぃはただぬいぐるみを抱き締めて耐えつづけた。
男の笑顔が崩れる事は無く、仕立てたばかりで大きかったネグリジェが、ぴったりの大きさになったしぃを壊した。
耳元でしつこいくらいに甘ったるく、唾液が絡まる音をさせながら囁く愛。
背が伸びたしぃの手足をもぎ取って、笑顔を強くするばかり。
男が最後に囁いた愛は、引き金を引く音だった。
- 51: ◆wZk4NVoY.w :2008/05/06(火) 01:30:27.91 ID:MU7Ra9H6O
- ある日、しぃの家にしぃが届いた。
母はしぃが届く前に、娘を思うあまり首を吊った。
父もまた、しぃが届いてから妻の後を追った。
そして数十年の時が流れて、ギコはしぃが居る館に侵入する。
(*゚ー゚)「……ギコお兄ちゃん、わたし、パパとママを殺したんだ」
(,,゚Д゚)「しぃちゃん…?」
(*゚ー゚)「わたしの所為で、パパとママは死んだの」
(,,゚Д゚)「しぃちゃん」
(*;―;)「わたしが…っわたしが殺したのっ! わたしがあっ!!」
(,,゚Д゚)「しぃちゃん、しぃちゃん落ち着いてっ!」
(*;Д;)「あああああっうわああああああああああんっっ!!!!」
叩き付けられた現実に、しぃがやっと気付いて大声を上げて泣いた。
ギコにしがみついて泣きじゃくるしぃの背中を優しく撫でてやりながら、ただ黙って抱き締める。
- 52: ◆wZk4NVoY.w :2008/05/06(火) 01:32:24.91 ID:MU7Ra9H6O
- しゃくりあげるしぃを落ち着かせようと、背中を何度も何度も撫でるギコ。
その胸にしがみついて嗚咽を漏らすしぃは、ぐずっと鼻をすすってから袖で涙を拭い、顔をあげた。
瞼や鼻を赤くしたしぃは、やはり愛らしさを持ったままで。
未だ潤む目で見つめられると、ギコは三度頬を赤くした。
くしゃくしゃになった前髪を撫で付けながら、ギコはしぃの顔を覗き込んで首を傾げる。
ふと、ギコの意識は徐々に微睡む様に、どろりと溶けていく様な錯覚に陥っている事に気付く。
なにかが自分の中に入ってくる様な、なにかが風船みたいに膨張する様な。
ギコは、どろ、と濁った目で、微笑む。
(,,゚Д゚)「しぃちゃん、落ち着いた?」
(*゚ー゚)「ぐす……うん…」
(,,゚Д゚)「御免、しぃちゃんを傷つける様な事を言って……」
(*゚ー゚)「ううん……思い出さなきゃいけない事だったから…」
やっと止まった涙にほっと安堵の息を吐いたギコの姿に、しぃは笑顔になる。笑顔で、「パパのにおいがする」と頬を擦り寄せる。
その笑顔を見たギコも、笑顔になる。
- 53: ◆wZk4NVoY.w :2008/05/06(火) 01:35:26.82 ID:MU7Ra9H6O
- しかし、しぃはすぐに笑顔を崩して心細そうな表情になり、俯いてしまった。
ぎゅ、とギコの服を握ったまま俯く様子に、どうしたのかとギコが顔を覗き込もうと首を動かす。
が、しぃはギコの動きに合わせて顔の向きを変えて、顔を見られない様にする。
胸元に額を押し付けて黙るしぃは、どうしたのかと話しかけても返事をしない。
困り果てたギコはしぃを抱いたまま床に座り込んで、小さな頭に顎をのせて目を瞑った。
話したくない事を無理矢理に聞き出すのは、もうさすがに可哀想だ、と。
(* ー )「ギコお兄ちゃん」
(,,゚Д゚)「んー?」
(* ー )「ギコお兄ちゃんは生きてるでしょ」
(,,゚Д゚)「…ああ、」
(* ー )「わたしは、死んでるの」
(,,゚Д゚)「……うん」
(* ー )「わたしはこれからどうすれば良いの?」
(,,゚Д゚)「……え、?」
(*゚ー゚)「死んでるのは分かったの、たしかに死んでるの。でもここからどうすれば良いのか、わからないの」
そんな事は、ギコにも分かりはしない。
よく“死んだらあの世に行く”や“成仏する”と言うけれど、死んだ事のないギコにはそれらがどんな物か、分からない。
- 54: ◆wZk4NVoY.w :2008/05/06(火) 01:37:49.19 ID:MU7Ra9H6O
- それでも酷く寂しそうなしぃに何かを言ってあげたくて。
どろんと、また、頭の中になにかが流れ込む様な感覚。
靄がかかる意識の中、果実の腐敗臭の様な甘ったるさも感じる。
その異様な感覚に眉を寄せるも、腕の中のしぃを見ると、その不快感に近いものはさっと失せてしまった。
すっかり明るくなった白い空を見上げて、ギコはしぃの額に唇を押し付けた。
目を丸くするしぃに、優しく微笑む。
(,,^Д^)「なら、一緒に居ようか」
(*゚ー゚)「……ぇ…」
(,,^Д^)「しぃちゃんがどうすれば良いのか分かるまで、一緒に居るよ」
(*゚ー゚)「でも、でも、ギコお兄ちゃんは生きてるよ? ごはんだって、食べなきゃいけないし…」
もうギコの意識はどろどろと腐敗した果実に混ざってしまったみたいで、光の無い目は、もはやギコの物ではなかった。
いとおしそうに髪を撫でて、笑顔で、笑顔で。
- 55: ◆wZk4NVoY.w :2008/05/06(火) 01:40:25.77 ID:MU7Ra9H6O
- (,,^Д^)「そんなもんどうとでもなるし、それに、ここには何でもあるよ」
(*゚ー゚)「で、でも…ギコお兄ちゃん……」
(,,^Д^)「そんな顔しないでしぃちゃん、俺があげられるものならさ、ほしいものは全部あげる。だからさ」
(*゚ー゚)「ギコお兄ちゃん…」
(,,^Д^)「もう一人じゃないぞ? これで、怖がることなんて何もない、な?」
(*゚ー゚)「あ……う、うんっ、ギコお兄ちゃんありがとう、わたしがどうすれば良いのか分かるまで、一緒にいてね…!」
(,,^Д^)「ああ、どこまででも一緒だよ」
(*゚ー゚)「あ、でも…どうすれば良いのか分かんないまま、ギコお兄ちゃんがお爺ちゃんになっちゃったらどうしよう…?」
(,,^Д^)「ギコハハハっ、大丈夫、地獄でも───そう、地獄でも…一緒だよ…」
「ギコ、お兄、ちゃん…?」
「 さあ────捕まえた。」
ほう、ほう。
笛の音は虚しく響いて消えた。
end
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