1: ◆wZk4NVoY.w :2008/05/06(火) 00:13:48.40 ID:NewFSaII0





      "苛メラレルヨリモ辛カッタ"





2: ◆wZk4NVoY.w :2008/05/06(火) 00:15:40.93 ID:NewFSaII0
( ^ω^)「ちょっと……お話いいですかお、そこの喫茶店で……」

中肉中背の男は、木枯らしを古びたトレンチコートで
防いでいながら道行く人に尋ね廻った。

まともではない。人を疑うことが常識のこのごろでは
当然こころよい返事も貰えるはずなく、男は周囲から蔑む目つきで見られた。

それにしても、なにより奇異に映ったのは、男が声を掛ける人間の共通点にあった。……



「なんだ、おめぇ」

(;^ω^)「あ、いや……」

声をかける男――内藤ホライゾンは、そのとき不運に見舞われた。
運の悪いことに、尋ねたその人間は態度だけでなく機嫌もすごぶる悪かったらしい。
内藤に弁解の暇を与えぬまに、男は内藤の胸倉を掴み上げると、ドスの効いた声で、


「てめぇさっきからイラつくんだよ。何がしたいんだよ。あぁ?」



3: ◆wZk4NVoY.w :2008/05/06(火) 00:17:43.77 ID:NewFSaII0
男は内藤の奇行を前々から見ていたらしい。
内藤に顔を近づけると、酒臭い息を吐きつけながら、

「死んどけ」

と、短く言い切った……と同時に、内藤をビルとビルの合間に向かって彼を叩き投げた。
半ば野次馬と化していた通行人は、「うわ」と小さく声を漏らすとともに、暗い悦びを感じた。


(;^ω^)「いっ……ててて……」

「次ィ見かけたら承知しねーぞ!」

捨てゼリフを吐いてから、男は悠然と立ち去った。
内藤は、その男の姿を尻目で追いながら、

ああ――彼はとても、強そうだお……――
だの考え、顔に恍惚した表情を貼り付けるという塩梅であった。

通行人は歩みを再会し、内藤をふたたび孤独にさせた。



4: ◆wZk4NVoY.w :2008/05/06(火) 00:20:08.33 ID:NewFSaII0
強そう。といえば、内藤のセレクトする人間の共通点の一つでもある。

なぜなら、その人間達のほとんどがガタイのよい身体つきをした男ばかりだったのである。


(;^ω^)「あっアハ……アハ……」

まだ、若い女性ばかりを目につけていたらタダのナンパ野郎と思われ、まだ救いもあったろうが、
対象が対象とあっては、不気味がられるのも無理からぬことであった。

内藤は立ち上がると、手でコートの汚れをはたき落とした。
凍えるような強風が吹いてもお構いなしの表情で、次の獲物へ目を光らせている。


・・ ・・・



( ^ω^)「ちょっと、僕とお話しませんかお。そこの喫茶店で……」



6: ◆wZk4NVoY.w :2008/05/06(火) 00:23:31.67 ID:NewFSaII0
「おや、どうしたんスか。お話とはナンでしょう」

性懲りもなく誘いをし続ける内藤を、一人の男が暖かく応対した。
その男は、今日、内藤が見かけた人間の中ではとりわけ体躯が素晴らしいという風情ではないが、
身体に宿るワイルドな雰囲気は、見かけ以上に強靭にうつる。

返答されて、たちまち、内藤の頬に赤みが差した。
決して木枯らしの切り裂くような寒気によるものではない――内藤は頬のいろに見合った、
熱っぽい声色で、

( *^ω^)「……大事なことですお。喫茶店の代金は、僕が払いますから……」

どこかピントのずれた内藤の返事に、男は朗笑しながら、

「いいですよwどんな話でしょうかねェ? たぁのしみだなぁ」

とのんびりした口調で言うと、内藤の軽やかな足取りに歩調を合わせた。……


その喫茶店は往来に面してい、すぐさま冷え切った身体を暖められた。
二人は窓際の席に向かい合わせで座ると、店員に注文を頼んだ。



7: ◆wZk4NVoY.w :2008/05/06(火) 00:25:23.84 ID:NewFSaII0
(;^ω^)「………」

「それで? 話ってのは?」

男はぶしつけに尋ねた。
いつまでも押し黙ったままの内藤に苛ついたのかもしれない。口調を変えずに、

「なんかの儲け話なんだろ? え? だから俺を誘ったんだよな?」

(;^ω^)「………」

返事に窮する内藤に、男は敵意を剥き出しにして、

「おい、どうなんだよ。まさかホモとかそんなんじゃねェだろうな」

(;^ω^)「……あなたにとっては、たしかに儲け話と思いますお」

曖昧に返すと、内藤は運ばれたばかりのコーヒーに砂糖を注ぎながら、

(;^ω^)「お話というのは、頼みごとなんですお。ちょっと変わった……」

「だから、それを早く言えっつってんだろが」

(;^ω^)「………」


内藤は男の呼び込みに力を注いでしまったせいか、肝心の説明内容を忘れかけてしまったらしい。
口をモゴモゴと動かし、コーヒーを音も無くかき回すが、男と目を合わせようとはしなかった。



8: ◆wZk4NVoY.w :2008/05/06(火) 00:28:38.48 ID:NewFSaII0
「パトロンか?」

男の硬質な声に、ピクと内藤は反応した。

「あ? 俺を買うのか? お前?」

(;^ω^)「えっと……」

内藤は曖昧に頷くと、せわしなく視線を動かしながら、

(;^ω^)「……似たようなもんですお」

「ほォーお」

それを聞くなり、男は腰を深くかけ直した。

「いくらで?」

(;^ω^)「……一日、三万」

「……だめだな」

(;^ω^)「……じゃあ、六万で……」



9: ◆wZk4NVoY.w :2008/05/06(火) 00:31:25.39 ID:NewFSaII0
内藤の低姿勢な態度に、男は付け込む要素を見出したのか、ニタリと意地悪く笑って、

「ま、それはおいおい話すことにしようや」

とその話題をかんたんに切り上げてしまった。


「お前、名前はなんつうの」

(;^ω^)「あ、ええと、……ブーンと呼んで下さいお」

「ブーンねぇ……」

男は煙草に火をつけると、ためいきのように呟いた。
紫煙を吐き、灰皿に白灰を落としながら、

「で、ブーンさんよ。具体的にゃ何をするんだ? ン、やっぱヤんのか?」

姿勢を乗り出しながら尋ねた。

しかし、内藤はしばらく黙り込んだ。
耐えかねて男が二本目の煙草を燻らせた辺りになって、ようやく、


(;^ω^)「ペットですお」



10: ◆wZk4NVoY.w :2008/05/06(火) 00:33:33.95 ID:NewFSaII0
「は? ペット?」

男の声に不快感が露骨に入り混じった。
内藤はなおもおどおどしながら、コクリと頷く。

「おれが? お前のペットになれって? そういってんのか?」


(;^ω^)「逆ですお」


「え」



(;^ω^)「ぼくをペットにしてください。奴隷のように扱ってくださいお。
      お金は出しますから……」


「ちょ、おま……」


あまりに予想違いなことを言い出したので、男はだしぬけに狼狽した。


自分をペットに、奴隷にしてくれという願い事は、男の常識から突飛している。



12: ◆wZk4NVoY.w :2008/05/06(火) 00:34:56.75 ID:NewFSaII0



「ふざけてんのか……」

( ;ω;)「フザけてなんかいませんおぉおぉおぉおぉぉ……」

内藤は泣きながら切り返した。
その慟哭ぶりはウェイトレスだけでなく、周りの客にも聞こえるほどであった。

いきなりこの喫茶店は、不安の渦中に投げ出されてしまった。


それでも内藤は……ブーンは、泣き続け、さらに声をあげていった。


( ;ω;)「僕はぁあぁぁ……このお願いのためにぃい……この寒い中突っ立ってたんだおお…ぉお」

「お、おい」

制止しようとする男など意に介さず、さらにブーンはしゃくりあげながら、

( ;ω;)「だのにぃぃ……なんでェ、ふざけてる、なんて……いうんですかああぁ……?」



14: ◆wZk4NVoY.w :2008/05/06(火) 00:37:40.74 ID:NewFSaII0
「も、もういい」

男もさすがに身の危険を察したらしい。
話にならぬ、と伝票を手にとって立ち上がったのだが、しかしブーンの腕がそれをおしとどめた。
半狂乱になっている所為か、ブーンの腕力は計り知れない。

男の二の腕をガッチリと掴みこんで、ブーンは泣き笑いしながら、

( ;ω;)「ま……マ……落ち着いて。ネッ……? とりあえず、落ち着いて、話を聞いてくださいお……」

「………」

( ;ω;)「ねっ……ねっ……? ……ほら、これを……」

まえもって忍ばせておいたらしい、コート裏の壱万円札を男に握らせると、ふたたび腰を落とした。
男も渋々席に戻って、札を財布に押し込んだが、やはり苦々しい顔のままで、吐き捨てるように、

「きもいんだよ……」

( ;ω;)「それでも、構いませんお……! どうか、どうか……」

ブーンは机に両掌をつけると、土下座するような勢いで頭を下げ、

( ;ω;)「この、哀れな元飼い主に、ビーグルの思い出をくださまし……!」



15: ◆wZk4NVoY.w :2008/05/06(火) 00:39:24.58 ID:NewFSaII0
・・・ ・・・・

ブーンの話によると、数週間前にペットのビーグルを亡くしたということらしい。
以来、ブーンは自我を喪失してしまい、やがて彷徨するようになったという。

「………」

( ;ω;)「なにがいけなかったんでしょう……ぼくが、ぼくが真相を知るには、
      僕自身がペットにならなければならない」

とんだ論理だと男は一笑したかったが、そういう空気ではない。
なにより、大切な者をなくしたという絶望の共感が、男の心に生まれていた。
とある違和感と共に。

「………」

( ;ω;)「だから……だから……ぼくは、飼い主……主人、失格なんですお……。
      だから……だから、ぼくは、飼われる立場にならねば……。
      だから……きっと、神はビーグルをワケあって引き離したに違いない。
      だって……飼い主失格だったんだから……」



17: ◆wZk4NVoY.w :2008/05/06(火) 00:41:04.74 ID:NewFSaII0
「………」

世にも奇妙な理由であるが、男にとって、納得できないことではない。
ブーンの泣きながら弁解するその姿は、なんともいじらしいとすら思えてきたのである。

( ;ω;)「……金はあります。いくらでも……ですから、ぼくを、どうか……」

「………」

( ;ω;)「奴隷に、してくださいまし……」

「………」

( ;ω;)

「………」

( ;ω;)

「………」


                     



18: ◆wZk4NVoY.w :2008/05/06(火) 00:42:55.44 ID:NewFSaII0
アパートの一室で、その行為はたしかに行われた。
夜半すぎの、その静かな頃に――

( ;ω;)「あァ! ア! あ! ……ああ」

「………」

( ;ω;)「あ、アヒ……ひあぁ……!」


ブーンの悲痛な叫び、悶えに、男は目を背けたくなった。

「………」

中肉中背と踏んでいたが、どうやら着痩せするらしく、三段腹が見るに堪えない。
日焼けを知らない真っ白な肌で、そんなものが自分の部屋の畳に無様な格好で寝ているとなれば、
男の不快感も窺いしれよう。

ブーンの肌には酷い痣が出来ていた。
切り傷も数え切れないばかりだが、これを望んだのはブーン自身である。



19: ◆wZk4NVoY.w :2008/05/06(火) 00:45:25.03 ID:NewFSaII0
いまは「蹴り」のお仕事で、男はシューズを履いている。
足裏で転がすと、猫のゴロゴロというような声をだし、
思い切り蹴り飛ばすと、快楽の叫びをあげだしてくる。
踏みつけていると、さながらセックス最中のときのような声をあげるので、男はひどく辟易してしまった。


(  ω )「はぁ……はぁ……」

男も蹴り疲れ、椅子に座り込んだ。
ブーンといえば、壁まで蹴飛ばされたその体勢のまま身じろぎもしないでいる。

男は自分の部屋に居るという感覚を忘れきってしまった。
この"奴隷のなりたがり"が、現実離れしすぎていて調子が出ない。
あと数時間で曙光がカーテンの隙間から垣間見えるという時刻だというのに、
まったく眠気がない、というのも異常だ。

ペニスも露わな小汚い豚……どうしてくれようか。
男は煙草の煙を吸い吸いながら、思案を巡らした。

どうしようもない、不吉な予感が頭から離れないでいる。



20: ◆wZk4NVoY.w :2008/05/06(火) 00:47:13.80 ID:NewFSaII0
もう一本吸おうと思ったとき、煙草を切らしていることに今更ながら気がついた。
男は苛立ちまぎれにそのソフトパッケージを握り潰してから捨てると、大袈裟に息を吐いて見せた。

ブーンは、それに反応した。

のそりと起き上がると、猫背のような格好で男の目を見据え、


( ^ω^)「買って……きましょうか」

「え」

事態がよく飲み込めない男に、ブーンはばか丁重に、

( ^ω^)「ですから、いまからその煙草……ハイライトを買ってきましょうかお?
      もちろん御代はいりませんお。
      むしろ、いくらでも買ってきてあげますお。なんカートンが欲しいですかお?」

カートン単位で要求されても困ると、男は冗談気に

「なら20カートン」

とこたえた。



21: ◆wZk4NVoY.w :2008/05/06(火) 00:49:54.99 ID:NewFSaII0
( ^ω^)「お安い御用ですお。ただ、ハイライト20カートンとなると
      コンビニ一軒じゃとても足りないので、ちょっと時間がかかりますお」

そういうと、ブーンは手早く服をきだした。
唖然とする男を尻目に、すばやく着替え終えたブーンは頬を軽く染めて、


( *^ω^)「だから……首輪……僕につけてくださいお」

と、大型犬用のゴツゴツした金属製のリードを取り上げながら呟いた。……

        *

築数十年といっても、建物自体は小奇麗に整備や掃除が行き届いてい、
家賃も低いということから、主に大学生に、このアパートは人気であったが、
彼ら……二人ともは、学生などではない。

ブーンは、話によれば、高校を中退してから全く職に就いて経験がないらしい。
やることを全うしたから、働く気になれなかった、というのが彼の言い分だが、
その風貌を見る限りではにわかに信じられない。

資産家の一人息子ということらしいし、ほぼニートだったのだろう。



22: ◆wZk4NVoY.w :2008/05/06(火) 00:52:33.24 ID:NewFSaII0
しかし、男のほうもそれに準じたようなもので、決して堅気とは呼べない。

小学校、中学校は苛めや万引きを繰り返し、高校生になれば女を漁りに漁った。
大学にも行かず、定職にも就かず、街をぶらぶら放蕩している……。

家族はいまや誰も居ない。
もとより親とは死別しているし、唯一の弟もこの頃は見かけない。
幼い頃の交通事故、いまでは覚えていないが、それでも思い返すと胸が疼く。

        *

「………」

すでに夜はあけた。自動車の走行する音も煩わしいし、外の喧騒はカーテン越し
からでも手に取るようにわかる。

出しッ放しのコタツの上のハイライトのカートンの山を見るだけで、
男は寒気に近い感覚にとらわれた。

一体どれほどコンビニを回ったのだろう。
ハイライトのカートンだなんて、コンビニは四つ持っていれば上出来な方だ。

つまり、つまり、つまり、ブーンは、
少なくとも五つのコンビニを歩き回ったに違いない。

そう考えるだけで、男には、紙包みの何でも無いようなこの煙草の群れが、凄惨な物物に感じられる。



23: ◆wZk4NVoY.w :2008/05/06(火) 00:55:36.90 ID:NewFSaII0
( *-ω-)「スゥ……スゥ……スゥ……」

部屋の一角で、ブーンは犬のように丸まって眠り込んでいた。

犬のように……。
相変わらず銀いろに輝く首輪とリードとをはめているからこそ、その比喩が思いつく。

このとき、男は無性にブーンを蹴り殺してやりたくなった。
今でこそ服は着ているが、それでも肌には痣や傷が走っている。
思い切りみぞおちを蹴り上げ、叫びながら起き上がるそんなブーンを、徹底的にさいなんでやりたい。

男は椅子から立ち上がった。
畳みの上を歩いてブーンに近づく。


ミシ、ミシ、ミシ、ミシ

畳みは重点を変えるたびに絞られるような音を上げる。
どちらかといえば、若々しい叫びに近く、耳に心地良い。

男は舌なめずりした。喉を鳴らした。指をせわしなく動かした。
腹筋に力を入れてみた。右ふとももに意識を向けた。
膝裏が痙攣しているのも、納得できる。

「………」



24: ◆wZk4NVoY.w :2008/05/06(火) 00:58:04.13 ID:NewFSaII0
部屋の中は薄暗い。仄明るい曙光さえなければ、まったくの闇である。

スエットを着こんで丸まっているブーンの姿…………いたいけに映る、その姿は、

カーテンの隙間からの青白い光をまともに受けて、

男には、どうしようもないご馳走にしか見えなかったのである。


「………」

( *-ω-)「……スゥ」

「………」

( *-ω-)「………」

「………」

もう、ブーンの吐息が脛にかかるほどの距離を詰めた。
あとはブランコの要領で右つま先を振り上げ、ブーンの鳩尾にめり込ませば……!



25: ◆wZk4NVoY.w :2008/05/06(火) 01:00:38.24 ID:NewFSaII0
男の悦びが唇のはたに浮かび上がったそのとき、ブーンの表情も静かに変化した。
同調するように、口角をあげて頬を緩ませたのである。

男の動きは止まった。その小さな変化に、まったく硬直してしまった。


望んでる。こいつは、俺のすることを今か今かと待ち受けている。

男は咄嗟に振り返って、ハイライトの積み重なりを見やった。
これを買うのに、奴はどれほどの苦労をしたのだろう。
結局おれは、何一つ包装を破ってはいないのだ。
もしかしたら、このまま捨てるかもしれぬ。
まったくの徒労だ。

だが、奴はそれすらも快楽快楽、ありがたきことですと土下座するかもしれない。
どうしようもないマゾヒストだ。
そうなると、俺はこのハイライトをいやでも吸わねばならぬ。
喫煙など日常の一部であるはずだが、いまでは果てしない苦行に思えてくる。

カートンライターもしこたま貰ってきたようで、同じく卓上に散らばっている。
それらの一つ一つの、燃料が尽きるまでブーンの身体に炎をあてつけてやりたい。

そう考えると、男はまた消え入りたくなった。



26: ◆wZk4NVoY.w :2008/05/06(火) 01:03:09.03 ID:NewFSaII0
なにより恐ろしいのは、男の危惧することは、
ブーンがいつか暴走してしまうのでは、という予想である。

そう考えると、いまからでも遅くない。外に放り出すべきだ。
しかし、男の心にはすでに芽生えていた。
ブーンを愛でてやりたいという、捻じ曲がった愛情が……。






( ;ω;)「ありがとうございますお、ありがとうございますお」

「………」

( ;ω;)「ありがとうございますお、ありがと、、、、ありがとうございますお」

男が黙っているというのに、ブーンは喋り続けた。

( ;ω;)「ありがとございまs……あり゙、ありがとうございますお」



28: ◆wZk4NVoY.w :2008/05/06(火) 01:05:04.20 ID:NewFSaII0
男はブーンの願いどおり、手錠をかけてやった。
手錠といっても、紐をグルグル巻きにして拘束させただけなのであるが、
それでもブーンは泣いて喜んだ。

手首と手首とが触れ合うことがそんなにも素晴らしいことらしい。
鬱血も花添えに一役買っている。

頬もコケ落ちて、眉も抜け落ちてしまっているが、表情だけは妙に豊かである。
男はぞっとした。

鞭代わりのベルトを手に取った。

( *;ω;)「ッ……!」

たちまちブーンの顔がさらに緩んだ。

男は狼狽しつつも、愛しいブーンのために鞭を奮った。



そのアパートの一室で、鞭の音がやむことは、しばらくなかった。……



30: ◆wZk4NVoY.w :2008/05/06(火) 01:08:21.47 ID:NewFSaII0
ブーンの手首を拘束する紐を、柱に括りつけた。
鉄製のリードも、男は同様に柱にまわす。

ブーンの表情は、痣も相まってピエロみたいにばかばかしくなった。
排泄はどうしようと思案した結果、柱の周りに新聞紙を何重にして敷いた。
食事はおなじく、新聞紙の上に用意し、二日に一度はシャワーへ連れ込む。
その間に新聞紙を取り替え、また、同じく拘束する。

スポーツ誌はカラーのためか、汚れ具合が見て取れる。とブーンは喜んだ。


そして、そして。 ………


( ´_ゝ`)「うわ、なんだこれは」

「ペットだ」

(´<_` )「ペットだ? お前、あたまおかしいんじゃないのか」

遊び仲間の流石兄弟も、男の部屋の現状には辟易した。



32: ◆wZk4NVoY.w :2008/05/06(火) 01:10:42.75 ID:NewFSaII0
「こいつをお前らもイタブってほしいんだ」

(;´_ゝ`)「なにを言っている?」

(´<_` )「久しぶりに顔を見せたと思ったら、キチガイになっちまったか」

「まあ、落ち着け。こいつを三人でイジメりゃあ金がもらえるんだ」

( ´_ゝ`)「誰から」

「このブタから」

(メ` ω、)「………」

(´<_` )「正気か?」

「至って」

( ´_ゝ`)「もっとkwsk話が聞きたいが」

「なんでもいいじゃないか。ほれ、鞭を持て。お前も、お前も。さぁ、やってやれよ」



34: ◆wZk4NVoY.w :2008/05/06(火) 01:12:32.00 ID:NewFSaII0
困惑し続けた兄弟も、いざ始めてみると面白がった。

( ´_ゝ`)「ははは……!」

とくに初心者ゆえか力の加減をほとんど知らない。
男の鞭にはない力強さを、ブーンは味わい味わい味わった。

流石兄弟はブーンを愛してなどいない。
だからこそ、言葉で自尊心をありったけ傷つけもし、さらに満足満足させた。


外では金木犀とアジサイが咲き誇り、桜と薔薇の蕾がぽちとなった、この頃――

男はブーンとの性交渉を真剣に考え始めた。
だが、男がそれをほのめかすと、ブーンは男の理解を超えた発言をした。

( *-ω-)「ぼくも、ペット……ビーグルとよくやりましたお。とくにお気に入りのペットがねぇ」

どうやら、ブーンのいう"ビーグル"とは、人間のあだ名らしい。
そうツラツラと赤裸々な体験を並べ立てるブーンを見て、男は久しぶりに生理的な嫌悪感を覚えた。

やはりダメだ。
そう諦めかけた辺りで、ブーンはまたも意外なことを言い出した。



37: ◆wZk4NVoY.w :2008/05/06(火) 01:15:23.97 ID:NewFSaII0
( *-ω-)「さいごのビーグルは、ほんとに抱きがいがあって……
     彼の背中は傷が走ってたんですが、まるでつややかな皮膚をしていまして……」


男は眉をひそめた。
その身体の特徴を、男の弟は、有しているのだ。

そういえば、弟の消えた時期と、その体験談の頃とは奇妙に符合していた。
男はさらに考えた。
ブーンの方はというと、食事のほうに夢中で、
サンドイッチを口だけを使って咀嚼している。
乱暴なせいで、すでにパンと具は分離してしまった。



ところで、男の弟はマゾヒストであった。



39: ◆wZk4NVoY.w :2008/05/06(火) 01:18:01.22 ID:NewFSaII0
男の疑惑は日増しに膨らんでいった。
話からして、ブーンは男と出会う前は生粋のサディストだったらしい。
だが、お気に入りの"ビーグル"が死んだことで、そのペットになろうとしている……。

男がブーンに感じた、弟の面影とは、それの功績によるものかもしれない。
交通事故によって作られた弟の背中の傷は、それを鮮やかに証明してみせた。

急速に男はブーンへの愛情を失った。
たやすく憎しみに変貌した。惜しくは無い。

いまでは、食事も満足に与えぬし、寝床の新聞紙も取り替えない。
それでもブーンは笑顔だし、なにをやろうと喜んで、無い尻尾を振ってみせる。
脂肪のたっぷり付いた尻ばかりが揺れて、男は吐き気を覚えた。


男は、外出した。
このまま三日ほど家を空け、いっそ餓死させてやろうかと考えたそのときだった。
往来で男は女友達のツンと出会った。

久しかったので、そのまま喫茶店に入ることにした。

往来で出会った場所も、その喫茶店も、ブーンと出会ったまさにその場所であった。



42: ◆wZk4NVoY.w :2008/05/06(火) 01:20:29.68 ID:NewFSaII0
ξ゚听)ξ「高校以来だよね? 最近どうなの? ちょっとやつれてるけど」

「どうもこうも……」

そのまま口はまごついた。
金はしたたかに手に入れたが、どうしようもない厄介者を背負ってしまったのだと、
ツンに言うべきか。迷っているうちに、ツンはいたわるように、

ξ゚听)ξ「ねぇ、相談があるなら話しなさいよ」

といったので、男は、「どうせ売春婦ふぜいなら何とでもなれ」と開き直って、
小さく話を展開した。

謎の男に出会った。
金をやるから痛めつけてくれと誘われた。
金が欲しかったのでその通りにしていた。と。


ξ;゚听)ξ「ねぇ、その話ほんとうなの?」

「嘘じゃない」

ξ;゚听)ξ「ふーん、でもさ、でもさ、」



44: ◆wZk4NVoY.w :2008/05/06(火) 01:22:06.02 ID:NewFSaII0
「奴は鞭を振るえだとかなぁ……!!」

ξ゚听)ξ「でも、まるで作り話みたいじゃない。ただの妄想じゃないの?」

「え――」



ツンが言い切ったこのとき、男の耳に「ァアア――ン」となにかが残響した。

うろたえた。
とたんに視界が照度を落としていった。
なにかが迫りくるような感覚を覚えた。
ガタガタと地面がゆれた。風も振動した。
背景が、ツンやその他の人間がまるでフリーズしたように動かない。
いや、三次元が二次元になってしまったかのようだ。
またも「ァアア――ン」となにかが残響した。
照度は落ちて落ちて、やがて真っ暗闇になった。

またも「ァアア――ン」となにかが残響した。



45: ◆wZk4NVoY.w :2008/05/06(火) 01:23:55.20 ID:NewFSaII0
「ァアア――ン」……これはなんなのだろう。

犬の喘ぎ声にも聞こえるが……ァアーン

人間の、喘ぐ声にも聞こえないことも無い。 …・・・

……これはなんだろう。


男には、「やめてやめて。苛めないで」と叫んでいるようにも取れた。


・・・ァアーン

・・ァアーン

・ァアーン

…………

……





48: ◆wZk4NVoY.w :2008/05/06(火) 01:24:58.85 ID:NewFSaII0





      "飼ワレルヨリモ惨メダッタ"






49: ◆wZk4NVoY.w :2008/05/06(火) 01:26:42.92 ID:NewFSaII0
二人の男……ドクオ
小太りな男……ブーン

 そのまま真っ暗闇。舞台の中央には檻が置かれてい、中に小太りな男が座っている。
二人の男の一人は立ち尽くし、もう一人の男は鉄格子を開けようとしている。
その二人の男は、ともに同じ顔である。


立ちつくす男(以後ドクオ) おい、どういうことだ。どうしてこんなところに俺を連れ込んだ。
(ト、握り拳を作る)。おい、答えろったら! 喫茶店から、おれはどうなった!。

(ト、小太りの男が立ち上がって、ドクオと相対する)。

小太りの男(以後ブーン) それは手紙によるものだお。ぼくが手紙で誘ったんだお。

ドクオ 手紙? 何を言っている。そもそも、お前が喫茶店に連れ込んだんがいけねぇんだろが。
    そのワケを説明しろよ。(ト、痰を地面に吐く)。

(ト、鉄格子を開けようとする男が、格子を揺らして音を鳴らす)。

ドクオ (ト、もう一人の男に向いて)。うるさいぞ、ちょっとお前は静かにしてろ。



50: ◆wZk4NVoY.w :2008/05/06(火) 01:28:27.29 ID:NewFSaII0
ブーン 自分の弟に、ひどい言い方だお。(ト、苦笑してみせる)。

ドクオ 関係ないな。あんな放蕩野郎。(ト、ふたたびブーンの方を向く)。
    だから、教えろよ。それとこっから出る方法をな。

(ト、一分ほど沈黙が訪れる)。

ブーン じゃあ、僕の代わりに檻の中に入れお。

ドクオ そしたら言うんだな?

(ト、ブーンは黙って頷く)。

ドクオ よし。(ト、渋い顔をして頷く)。

(ト、ドクオ、鉄格子に歩み寄って、鍵を取り出してみせる。そうして鉄棒の一つにあてがう)。

ドクオ これで開いたぜ。

(ト、代わりにもう一人の男が檻の中に入り込んでしまう。ブーンは依然として座ったまま)。

ドクオ なんだそりゃ。(ト、怪訝な顔をしてみせる)。

ブーン あーあ、これでドクオはこのまんまだお。

ドクオ どういうことだよ。



52: ◆wZk4NVoY.w :2008/05/06(火) 01:29:34.31 ID:NewFSaII0
ブーン どうもこうもないお。これでドクオは一生このまんまだお。(ト、軽蔑した笑い)。

ドクオ おい、おい!

(ト、そのままドクオは左手に姿を消す。スポットライトは檻の中のみに絞られる)。

(ト、中の男がブーンの足元に這い蹲る)。

ブーン 主人と奴隷の関係を二人で築こうね。

男(以後ドクオ) はい。

ブーン 妄想と現実を渡り歩いた僕だけど、そろそろ現実からは逃げたいお。

ドクオ ご主人さまは辛い目に遭ってきました。

ブーン そうだお。だから、これからは幸せに、欲望のままに暮らしていくんだお。

                       閉幕

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


('A`)「………」



54: ◆wZk4NVoY.w :2008/05/06(火) 01:31:12.19 ID:NewFSaII0
('A`)「なんだよこれ……」

こんなわけのわからない手紙を貰って、一体どうすればいいのか。
ドクオは狼狽しつつも、同封された地図に従って、とある一軒家の前に立った。

奇妙な書き出しから始まるその手紙は、ト書き形式になっているが、意図はまったく掴めない。

だが、妄想と現実を渡り歩くという文章については、ドクオの心当たりにあることであった。
ブーンは小学生、中学生と立て続けに苛められ続け、結果として引きこもってしまったのである。
資産家だし、彼には兄が居たので、親はたやすくそれを認めた……というより、放置したらしい。

ドクオは戸惑いつつも、その門を開けて、玄関に近づいた。
勝手に入れ、と手紙には記載されていたが、やはり侵入するのは忍びない。



しかし、ドクオは意を決して扉を引いた。
かんたんに開いたそのドアは、奇妙なほどに軽かった。



55: ◆wZk4NVoY.w :2008/05/06(火) 01:32:34.87 ID:NewFSaII0
('A`)「おい、来てやったぞブーン! ……?」

扉を開けたその先は、いきなり部屋に繋がっていた。
リビングルームだろうか。
不気味に仄暗い点を除けば、家具や床に不審なところは見当たらない。

嫌な予感がしつつも、ドクオは小さく歩き出した。
恐怖よりも、この家の不思議な間取りに興味を覚えたのである。

('A`)「なんだここは……」

外観とはかけ離れた内装だった。

そのとき、ドクオはテーブルの上に封筒が置かれているのを発見した。

たどたどしい文字で「遺書」と明記されたその封筒は、ドクオを飛びつかせた。



57: ◆wZk4NVoY.w :2008/05/06(火) 01:35:00.92 ID:NewFSaII0
('A`;)「な、なんだよ遺書って!?」

ドクオは封筒から急いで紙を取り出した。
複数枚から成り立つ文面は、ホチキスで止めてある。

一枚目……表紙を飾るその第一ページには、たったの一文しか記されていなかった。
中央に、


      "苛メラレルヨリモ辛カッタ"

         
              と、小さく殴り書きされているばかりである。


('A`;)「苛め……? 苛めって……おい」

しかし、言葉よりも記憶が先立った。

この文面、どこかで見たことが……。


('A`;)「っ……! あの手紙だ……」



58: ◆wZk4NVoY.w :2008/05/06(火) 01:36:47.14 ID:NewFSaII0
そもそもの発端である手紙にも、ほとんど同じような出だしが書かれていた。

ドクオはポケットにしまいこんでいた手紙を取り出そうとした。
そのときだった。

何者かが、背後から抱きついてきた。

('A`;)「ッ!?」

「ドクオ……来てくれたのかお……」

妙に湿っぽいその声は、まさしく聞き覚えがあった。
ドクオは手にした"遺書"と"手紙"とをフローリングの床に落とした。
たちまち震えが走った。


(  ω )「久しぶりだお……」


ギュっと、ブーンは力をさらに込めてドクオを抱擁した。



59: ◆wZk4NVoY.w :2008/05/06(火) 01:38:56.52 ID:NewFSaII0
ブーンの吐息がドクオのうなじに直接浴びせる。
ドクオは気色悪い、と叫びたかったが、恐れのあまり声が出せなくなった。


(  ω )「君とは、いい関係が築けるとずっと思ってたんだお」

('A`;)「………」

ブーンの腕は妙に生暖かい。
磨き上げられたフローリングの床に目を落とし、反射する背後の風景を見てドクオは愕然とした。

ブーンは生まれたままの裸であった。

(  ω )「家族にはもう連絡したかお? ああ、君には兄さんがいるだけかお」

('A`;)「お、おい……」

辛うじて言葉にならぬ言葉を発せられたが、ブーンはまったく聞く耳を持たずに、


(  ω )「なら、まあ大丈夫かお」



60: ◆wZk4NVoY.w :2008/05/06(火) 01:40:45.57 ID:NewFSaII0
ドクオは尻に、勃起したペニスがあてがわれていることに気がついた。
ジーンズ越しから伝わるその感触と熱さは、ドクオをたしかに萎縮させた。

('A`;)「はなせ……」

( ^ω^)「だめだお。ドクオ」

切り口上めいた物言いで、

( ^ω^)「命令は僕が言うんだお。ぼくが主人なんだお?」

('A`;)「主人……なに言ってんだ……」

( ^ω^)「あれ? あれ? たしか手紙でちゃんと書いたと思うお」

( ^ω^)「僕がご主人様で、ドクオがペットなんだお」

('A`;)「んだよ……それ」

たしかに、あのト書き形式の不気味な話の最中では
ドクオはブーンのペットとなろうとしていたが、それについて言及しているのかとドクオは怯えた。



61: ◆wZk4NVoY.w :2008/05/06(火) 01:42:10.42 ID:NewFSaII0
('A`;)「ペット……あ、そうだ! ブーン、ビーグルは元気か?
    ほらあの犬可愛かったよなぁ!? なあ、懐かしいなおい!?」

ペットという響きで、ドクオはブーンが昔飼っていた大型犬のことを思い出し、
それを説得の道具として使用を試みたが、

(  ω )「………だまれお」

あっけなく失敗に終わった。


('A`;)「え……ブーン、ビーg」

(  ゚ω゚)「だまれおッ!!!」


ドクオの耳元でブーンは絶叫した。
歯を剥き出しにし怒気を露わにした。
眼球が飛び出す勢いで眉が上げられた。

ドクオは触れてはいけないものに触れてしまったのだと、身をもって実感した。



63: ◆wZk4NVoY.w :2008/05/06(火) 01:44:52.39 ID:NewFSaII0
('A`;)「あ、あの……あの……」

(  ゚ω゚)「……死んでしまった……前も、前も、前も……」

('A`;)「あの……さ、あの……」

(  ゚ω゚)「前も、前も……そして前も……」

('A`;)「あの、、、さぁ……なあ、なあ……」

(  ゚ω゚)「……お前もかお!? お前も裏切るのかお!?」

話の矛先をドクオに向けると、羽交い絞めの体勢を強固にして、

(  ゚ω゚)「なあ、なあ、なあ、なあ、なあ?」

('A`;)「裏切らない……裏切り……ませんってばぁァ」

( ^ω^)「それはよかったお」

ブーンはあっさり表情を戻すと、ドクオに微笑んだ。



64: ◆wZk4NVoY.w :2008/05/06(火) 01:46:24.89 ID:NewFSaII0
('A`;)「はあ……はあ……はあ……」

( ^ω^)「ドクオはみたところ、ぼくの最高のパートナーになれるお。
       ぜったいに二人でいい思い出を作るお」

ドクオの目が、部屋の片隅に向かれた。

( ^ω^)「ドクオはみたところ、ぼくの最高のパートナーになれるお。
       ぜったいに二人でいい思い出を作るんだお」

いっしゅん、それは大蛇がとぐろを巻いているのかと思ったが、
どうやら違うらしい。

( ^ω^)「ドクオはみたところ、ぼくの最高のパートナーになれるお。
       ぜったいに二人でいい思い出を作るんだお?」

鎖だった。

('A`;)「……!」
( ^ω^)「ドクオはみたところ、ぼくの最高のパートナーになれるお。
       ぜったいに二人でいい思い出を作るんだお? お? お?」


―――血塗れの鎖だった。



65: ◆wZk4NVoY.w :2008/05/06(火) 01:50:49.98 ID:NewFSaII0
('A`;)「……なんだよ、あれ」

( ^ω^)「お、お? あれはね、首と柱とを括りつける奴なんだお!
       そんで、周りには新聞紙とか敷いて、ペットをそこで暮らさせるんだお!
       そんでね、いちいちシーツを取り替えるんだけど……それが楽しいんだお!
       そうそう、あれが赤いのはね、前のビーグルが元気すぎたからでね……」

そう捲くし立てると、ドクオに囁くようにして、

( ^ω^)「ドクオは大丈夫だお? ぼくを信頼してるお?
       大丈夫? 僕は信頼してるから、あとはドクオがビーグルになるだけだお」

ドクオの目の前の赤い鎖は、そのとき、意思を持ったように感じられた。
何も動いてはいないのに、動いているような。


( ^ω^)「それでね、ダメだったら餓死しちゃうだお……」

( A ;)「……」

元気に喋るブーンの声を聞くうちに、ドクオは失神した。  


                終わり



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