3: ◆wZk4NVoY.w :2008/05/06(火) 01:26:55.53 ID:IvBzCI8GO
(,,゚Д゚) はあ……

中身がたくさんつまったナイロン袋を右手に引っ提げ、ギコは夜道を歩いていた。

(,,゚Д゚) 独り暮らしも楽じゃねぇな……

ため息を吐いて一人呟き、空を見上げる。
少し雲がかかった月に照らされ、星が輝いていた。

小さなアパートに着いたギコはジーパンのポケットから鍵を取り出す。

――かちり。

鍵を開ける小さな音が、やけに静かな周囲ではとても騒々しく聞こえた。


買ってきた野菜や肉を独り暮らし用の小さな冷蔵庫に入れ、小さな部屋に大の字になった。

(,,-Д-) 畜生、疲れたぞゴルァ……

ギコはそのまま意識を闇の中へと落としていった。



(,,゚Д゚)は夢現つなようです



4: ◆wZk4NVoY.w :2008/05/06(火) 01:28:13.48 ID:IvBzCI8GO


――ああ、ここは夢のなかか。

ギコは自らが夢の中にいる事がはっきりわかるという妙な感覚に包まれていた。

――最近になってこんな夢が増えたな。

ぼんやりとそんなことを考えながらゆっくりと辺りを見渡す。

――どこだ、ここは?

見渡すかぎりに広がるオレンジ。
夕焼けに染まった町並みをギコは訪れたことがなかった。

( ^ω^) おっお。どうしたんだお?君も行くのかお?

ふいに目の前に丸顔の男が現われた。

(,,゚Д゚) ?

――誰だっけかな?こいつ。確か、名前は……



5: ◆wZk4NVoY.w :2008/05/06(火) 01:29:08.98 ID:IvBzCI8GO

( ^ω^) こんなところで何してんだお!間に合わなくなるお!ブーンも遅刻ギリギリなんだお!

(,,゚Д゚) ああ。そうだな。

――そうだ、こいつはブーンだった。早く行かないと遅刻か。急がないと。

(,,゚Д゚) でも……

――でも、どこに?
あれ?なんだろ?
わすれちまったな。
なんだったんだっけ?


( ^ω^) どうしたお?早く行って楽しむんだお!



6: ◆wZk4NVoY.w :2008/05/06(火) 01:30:37.14 ID:IvBzCI8GO

――かなり急いでるな
って俺も行くのか?
たぶんそうだよなあ。
はなしの流れ的に考えて
ずっと憧れてたし
  なんにだろ?
  ノリだよな、ノリ。
  ニンゲン夢の中くらい細かいことは抜きだろ。



( ^ω^) そうだお!細かいことは抜きだお!

――おいおい勝手に人の心読むなよな。

(,,゚Д゚) じゃ、いくかゴルァ…

――しかも勝手に返事するなよ俺。



7: ◆wZk4NVoY.w :2008/05/06(火) 01:35:52.39 ID:IvBzCI8GO


いつの間にかギコはベッドの横に立っていた。
ベッドがある部屋は自分の部屋によく似ている。
ベッドには一人の人物が横たわっており、両腕、両足を拘束されている。


――しかも目隠しに猿轡…
逃げ出さないようにしてるのか?


思ったギコは周りを見直す。
誰もいないらしい部屋には二人の息遣いだけが聞こえる。


――ブーンもいなくなったのか?



8: ◆wZk4NVoY.w :2008/05/06(火) 01:36:39.59 ID:IvBzCI8GO
いつの間にか居なくなったブーンを不審に思いながら、再びベッドへと視線を移す。

ξ゚听)ξ ……

振り向いたギコは心臓が飛び出るかと思った。
先程まではいなかったはずの女がいつの間にか自分の真横に立っていたからだ。
しかもベッドはもともとなかったかのように跡形も消え去っている。


ξ゚听)ξ ……けなの

(,,゚Д゚) え?


女の言葉に疑問符を口に出したギコは、すぐにそれを後悔した。


ξ#゚听)ξ ……っただけなのにっ!

女はギコの方を向くと、怒りとも憎しみとも、ともすれば悲しみとも取れる表情を浮かべた。

ξ#゚听)ξ 私はそう言っただけなのよっ!!ただ別れたいって!!

女は狂ったように叫びながらギコの首筋へと手を伸ばし、細い指先で力いっぱいに締め始めた。

(;゚Д゚) う、え゛ぇっ…!

言葉にならない只の音が、振り絞った空気と供に口から吐き出された。



9: ◆wZk4NVoY.w :2008/05/06(火) 01:37:54.90 ID:IvBzCI8GO

ξ#゚听)ξ それだけなのよぉぉおお!ぃぃぃぁぁああ゛あ゛あ゛!!

――ぷちんっ


発狂する女の言葉を聞きながら、ギコの意識はゴムが千切れるように弾け飛んでいった。



10: ◆wZk4NVoY.w :2008/05/06(火) 01:38:33.88 ID:IvBzCI8GO


(,,゚Д゚) っ!?

ギコが体を大きく跳ねさせながら目を覚ました。
汗ばんだTシャツがやけに冷たく感じる。

前髪をかきあげながら状況を把握する。

(,,゚Д゚) 夢…か?

そう呟いて辺りに視線を巡らせるが、なんの変哲もない散らかった部屋があるだけだった。

ふと目に入った時計は既に短針が12を指している。

(;゚Д゚) やっちまった……遅刻だゴルァ…

時間を確認すると勢い良く立ち上がり、湿ったシャツを脱ぎ捨てた。

シャワーを浴び終わり、慌ただしく家を飛び出す頃には夢の内容も、そもそも夢を見たことすら忘れていた。



11: ◆wZk4NVoY.w :2008/05/06(火) 01:39:28.82 ID:IvBzCI8GO

(*゚ー゚) おそよう。ギコ君。

ギコが息も絶え絶えに駆け付けた先では一人の女がベンチに腰掛けていた。

(;゚Д゚) む、スマン…しぃ。

(*゚ー゚) いいよ。全っ然!!待ってないから。

笑顔でそういうしぃ、しかしその目は全く笑っていない。
更にしぃは腕時計に目を落として独り言のように呟く。

(*゚ー゚) 別に待ち合わせ時間の10時の10分前から来たりしてないから。

(;゚Д゚) 本当にすみませんでした。

そう言って素直に頭を下げるギコを見る目がふと止まった。

(*゚ー゚) ギコ君?その痣みたいなの何?

しぃの目はギコの右首筋を見つめている。
そこには浅黒く4本の痣が浮かび上がっている。
ちら、と反対側に目をやるとそこにも同じような痣が出来ていた。

(*゚ー゚) キスマーク?

横目でギコを睨み付けるようにするしぃだが今度は言葉とは裏腹に目が笑っている。



12: ◆wZk4NVoY.w :2008/05/06(火) 01:41:04.70 ID:IvBzCI8GO

(;゚Д゚) あ、痣?なんのことだ?絶対キスマークじゃないぞ!と、とりあえず鏡かしてくれねぇか?

若干しどろもどろになりながらもそう言ったギコに対し、しぃはにやにやしながら鏡を差しだす。

(;゚Д゚) なんだこりゃ…

みみず腫れのように変色したそれをそっとさすってみるが、特に痛みがあるわけでもなく、腫れているでもない。


ξ#゚听)ξ …………

(,,゚Д゚) っ!!

誰かの視線を受けたように感じてギコは弾かれたように振り返る。


だが視線の先には当然の様に戯れる人々がいるだけでだった。

(*゚ー゚) どうしたの?

はっとして前を向くときょとんとした表情のしぃがいた。



13: ◆wZk4NVoY.w :2008/05/06(火) 01:42:11.67 ID:IvBzCI8GO

(;゚Д゚) い、いやなんでもねぇ…

そう言ったギコは自分の声が僅かに震えたのを感じた。

(;゚Д゚) (一体俺は今何に怯えたんだ?)

既に腕のみならず全身の毛が総毛だっている。

(#゚ー゚) なんか汗かいてるけど…ホントに浮気じゃないよね?

挙動不審なギコを見て、勘違いをしたのかしぃがギコへと詰め寄る。
ギコはしぃの言葉で初めて自分が激しく汗をかいていることに気付いた。

(;゚Д゚) これは…さっき目一杯走ってきたからだ。

そう返しながらも自分自身でもそれが運動による汗ではないことを理解していた。

(*゚ー゚) ……信じてあげよっか。とりあえずどっか行こうよ。

そう言ってしぃはギコの腕をとり、引っ張っていった。



14: ◆wZk4NVoY.w :2008/05/06(火) 01:42:59.13 ID:IvBzCI8GO


(,,゚Д゚) ふう。

しぃとのデートを終えたギコは自宅に帰り着き、扉の鍵を開けると軽くため息を吐いた。
何故か普段よりも疲労感が体を襲っていた。

ソファに腰掛けた瞬間に急激な睡魔がギコを襲った。
徐々に目蓋が落ちていき微睡む心地よさに引きずり落とされていく。


ξ#゚听)ξ …………!!


(#-Д-) はっあ゛ぁ゛っ!

目が完全に閉じ切り視界が闇に閉ざされた瞬間にそれは現れた。

昨日の夢と同じように自分の首が絞められている。

――昨日の夢!そうだ思い出した!首の痣は……!

急速にギコの脳内で昨夜の夢と今日のしぃとのやりとりがフラッシュバックする。



15: ◆wZk4NVoY.w :2008/05/06(火) 01:43:53.38 ID:IvBzCI8GO

――目だ!まず目を開かないと!

だがギコの思いとは裏腹に目蓋は頑として開かない。

――死ぬっ!死ぬ!?夢の中だろなんでこんな苦しい!?

知らず知らずのうちに握り締めてた拳から血が流れ落ちる。



16: ◆wZk4NVoY.w :2008/05/06(火) 01:44:57.22 ID:IvBzCI8GO

(;゚Д゚) ってぇ!おおっ!?

視界が一気に輝く。
眩しすぎる光が網膜を焼き付けるように降り注ぐ。

(,,゚Д゚) ここは……俺の部屋、か?

何故かはわからないが見慣れた自分の部屋に妙な違和感を感じた。
汗ばんだ肌に窓から入る風が心地よい。

――待てよ…?俺は帰って来てすぐに寝なかったか?
なぜ窓が開いてる?
ナゼマドガアイテイルンダ?

がたんっ。

(;゚Д゚) ひっ…!

無機質な音が背後から響いた。
思わず口から出た言葉に恥ずかしさを覚えつつも頭は急速に恐怖に縛られる。

――後ろには何があった?

元々小さなアパートだ。
小さな部屋とユニットバス、その隣には押し入れが一つ。

――押し…入れ…?



17: ◆wZk4NVoY.w :2008/05/06(火) 01:45:45.33 ID:IvBzCI8GO
冷や水を頭から浴びせられたかのような寒気がギコの背中を駆け抜けた。
頭では振り向いて確認すれば何もないとはっきりすると思考する。
だが裏腹に本能が警鐘を鳴らしている。それも飛びっきりのヤツをだ。

(;゚Д゚) ……ゴクッ

ギコは生唾を飲み込むと、覚悟を決めるために強く拳を握り締めた。
流れ出た血液とそれに伴う痛みがギコを動かした。

一気に振り向くと押し入れの引き戸を開く。


(;゚Д゚) ……

そこには何ら変わらず普段どおり布団がしまわれているのみだった。


がたっ。

――聞こえた……今度は確実だ……

流れ出る汗が額を伝うのを感じながらギコはゆっくりと音源の前に立つ。


(;゚Д゚) 今度は間違いねぇ…風呂場だ!

勢い良く風呂場のドアを開ける。

きゃぁぁあああっ!?



19: ◆wZk4NVoY.w :2008/05/06(火) 01:46:22.35 ID:IvBzCI8GO

叫び声が部屋中を満たした。

(;゚Д゚) うおっ!なんだ!?なんで……

(#゚ー゚) それはこっちの台詞よ!なんでいきなり開けるの!?覗きにしても大胆すぎるよ!?

ギコが言い終わる前に、湯船に浸かっていた女。しぃが反論する。


(;゚Д゚) そ、それはスマン。だがなんでしぃがここに…?

しぃの体を見ないように後ろを向きながら当然の疑問を口にする。

(*゚ー゚) なんでってギコ君が呼んだんじゃない、よいしょっ。タオルこれ使っていいの?

しぃは立ち上がりギコの横にかかっているバスタオルを指差す。

(,,゚Д゚) お、おう。…え?俺が呼んだ?俺が呼んだのか?

背後から聞こえる体を拭く音に妙な興奮を覚えながらギコは問い返す。



20: ◆wZk4NVoY.w :2008/05/06(火) 01:47:46.54 ID:IvBzCI8GO

(*゚ー゚) そうじゃん。いきなり来なきゃ別れるとか言ってさ。

淡々とした声が後ろから響く。
だが当のギコにはそんなことを言った覚えはなかった。
もちろんメールでも、だ。

(;゚Д゚) それで、なんで風呂に?

よく考えればわかることだったのかもしれない。
返答はある意味予想の範囲内だった。


(*///) なんでって…それを私に言わせる気?

そう言いながら下着姿のしぃが抱きついてくる。
しっとりとした肌が汗ばんだギコの肌と触れ合った瞬間、ギコは何故か飛び退いていた。
いきなりのしぃの大胆な行動に驚いたのに加え、妙な違和感がギコを襲った。

(*゚ー゚) どうしたの?凄い汗だよ?

(;゚Д゚) いや、ちょっとな……さっき厭な夢も見ちまったし…

何故か早くなる鼓動を無理矢理に押さえ付けながらギコは夢の内容をはっきりと思い出した。



21: ◆wZk4NVoY.w :2008/05/06(火) 01:49:03.50 ID:IvBzCI8GO
(*゚ー゚) 厭な夢?どんなの?

しぃの瞳が興味深そうに輝いた。
ギコはゆっくりと目を閉じると、昨日の夜と先刻の夢の内容を話し始めた。
なぜか頭に思い描いたことがすらすらと口を突いて出てくる。
自分の意識をそのまま相手に伝えるような感覚に不思議と気分は高揚していった。


(,,゚Д゚) と、言うわけなんだ。

語り終わったギコがしぃを見るといつの間にか服を着ていた。

(*゚ー゚) へぇ。でもそれって変だよ?

話を聞き終わったしぃは無表情に言葉を紡いだ。

(*゚ー゚) だって今日ギコ君と私は外でなんてデートをしていないんだもの。

(,,゚Д゚) へぁ?

しぃの言葉を聞いたギコは理解できずに間抜けな声をあげた。

(*゚ー゚) 私達今日会うのはギコ君の部屋が初めてだよ?

(;゚Д゚) え?あ?じ、じゃあ、あれ?

ギコは一気に自分の記憶がおぼろげになっていくのを感じていた。

(*゚ー゚) きっとその夢から目覚めたっていうのも夢だったんだよ。



22: ◆wZk4NVoY.w :2008/05/06(火) 01:49:50.99 ID:IvBzCI8GO
(;゚Д゚) 今日の出来事がずっと…夢…

うわごとのようにギコはリピートしていた。

(*゚ー゚) そう。きっとその私も夢の中の化け物なんだよ!

真剣な表情でしぃはギコの肩に手を乗せる。

(,,゚Д゚) 夢の中の…バケモノ……

ギコはショックのせいか中空を見つめ、ぶつぶつと呟く。
放心状態のギコの肩をリズミカルに叩きながらしぃは言葉を繋いでいく。

(*゚ー゚) そうだよ!だから、だからやっつけないと!

とん、とん、とん、とん、

(,,゚Д゚) やっつける……?

しぃの言葉に、ギコの目が一瞬泳いでしぃの視線を捉えた。



23: ◆wZk4NVoY.w :2008/05/06(火) 01:50:30.41 ID:IvBzCI8GO

とん、とん、とん、とん、
とん、とん、とん、とん、

(*゚ー゚) きっと夢の中でそいつを殺しちゃえばもう悪夢なんて見ないんだよ!

肩に響くリズムがギコに睡魔を与えていく。
深く深く迄沈んでいくような感覚にギコの意識は徐々に朦朧としていった。
既に二人の会話からは理性や論理などは失われていた。
行われているのはもはや会話ですらないのかもしれない。

とん、とん、とん、とん、
とん、とん、とん、とん、
とん、とん、とん、とん、

しぃは子に諭す母のようにゆっくりとギコに話し掛けているが、ギコはそれを虚ろな目で繰り返すのみだった。

(*゚ー゚) よし。じゃあ今日はもう寝よっか!膝枕してあげるよ?ホラ!

(,,゚Д゚) あ、ああ。

ギコは頭がボーッとしているのは眠気のせいか、と思い、素直にしぃの膝へと頭を乗せた。

(,,゚Д゚) おやすみ、しぃ…

ξ゚听)ξ えぇ、オヤスミナサイ……



24: ◆wZk4NVoY.w :2008/05/06(火) 01:51:57.55 ID:IvBzCI8GO


ギコはゆっくりと閉じられた目を開いた。
ぼんやりとした頭を軽く振ってみる。

(,,゚Д゚) (これは…夢の中、か?)

いつもの習慣からか携帯電話に手を伸ばす。

着信1件―しぃ

(,,゚Д゚) (しぃ…!)

ギコは即座に携帯のリダイヤル機能を使いしぃに電話を掛けた。

――とぅるる
――とぅるるる
――とぅるるるる

三度目のコールでしぃに繋がった。

(*゚ー゚) もしもし?ギコ君?

(,,゚Д゚) あぁ、何の用だ?



25: ◆wZk4NVoY.w :2008/05/06(火) 01:53:15.75 ID:IvBzCI8GO
そう言ったギコの頭の中はぐるぐると回っていた。

(,,゚Д゚) (コイツはバケモノだ。コイツはバケモノだ。だから殺さなきゃいけない。殺さなきゃ生けない。コロサナキャ生けナイ)

(*///) き、今日も会えないかなって……

どうやって呼び出そうか、それを一番の問題としていたギコにとってこの申し出は正に幸運と呼べるだろう。

(,,゚Д゚) ああ、俺もそう言おうと思ってたところだ……そうだ。今から俺の家に来るか?

ギコは通話をしながら自分の手の平に傷がないことを確認すると、これが夢だとの確信を強めた。

(*///) えっ?ほんとに?わかった、じゃあ今から行くね!

ギコはそれに対して、待ってる。と短く告げると電話を切った。



26: ◆wZk4NVoY.w :2008/05/06(火) 01:53:53.38 ID:IvBzCI8GO

そこからの時間は飛ぶように過ぎていった。
実際にしぃがやってくる迄は一時間近くかかったのだが、それすらもギコにとって見れば歯を磨く時間と大差ない程だった。

やがてインターフォンの音が小さな部屋に鳴り響いた。

(;゚Д゚) 来た…来やがった…バケモノめ……!!

ぶつぶつと呟きながらのっそりと立ち上がり玄関へと足を進める。

今のギコにはたかだか小さなアパートの小さな部屋の端から端までの距離をやけに長く感じていた。

つ、と汗が顎から滴り落ちる。

――かちゃり

金属音と供にドアノブを回し、ゆっくりと押し開けた。

(*゚ー゚) お、おはよう。

ドアを開けたギコに挨拶をするしぃの声が僅かに震えている。

(,,゚Д゚) おう。

ギコは小さく答えると部屋へと戻ってゆく。
しぃは慌ててブーツを脱いで部屋へと上がり込む。



27: ◆wZk4NVoY.w :2008/05/06(火) 01:55:30.33 ID:IvBzCI8GO

――どさっ


しぃは一瞬自分が押し倒されたことを理解できずにいた。
普段は紳士的でなかなか手を出してくれないギコのこの行為に戸惑った。

(*///) ちょ、ちょっとギコ君っ?いきなりぃえ゛っ…!

戸惑いの声をあげるしぃの声は、尻すぼみに嗚咽に変わっていった。
ゴツゴツとしたギコの手が白く、細いしぃの首に掛けられていた。

(;゚Д゚) 死ねっ…殺してやるっ!このバケモノっ!!死ねぇぇぇええエエエ゛エ゛!!!

柔らかなしぃの首に体重を掛け、前のめりのマウントポジションになり声を張り上げる。
その声は大した防音設備のないアパートの壁を越えて隣の部屋にまでも轟いた。


(;´∀`) モナッ!?何だモナ?今の叫び声……

隣の住人がその声を聞き咎め、ギコの部屋との壁にそっと耳をつける。



28: ◆wZk4NVoY.w :2008/05/06(火) 01:55:52.62 ID:IvBzCI8GO

…ハァ…ハァ…まだだ……もっと……ぐちゃ…ざちゅっ……ごり……


隣室から流れ出る異常な音を耳にしたモナーは身体を震わせる。

(;´∀`) ちょ、一体何の音だモナ!!け、警察に連絡だモナ!!



29: ◆wZk4NVoY.w :2008/05/06(火) 01:56:34.28 ID:IvBzCI8GO



川 ゚ -゚) 次はニューソク県での事件です。

川 ゚ -゚) 昨日午後3時前後、VIP市にあるアパートの住人から『隣の部屋から不審な声と物音が聞こえる』との通報を受け警官が駆け付けたところ、隣室の住人のギコ容疑者(20)が血塗れで立っているのが発見されました。

川 ゚ -゚) ギコ容疑者の足元には人間の物と思われる肉塊が放置されており、同部屋内で発見されたバッグ等の持ち物から、容疑者の交際相手で大学生のしぃさん(21)である線が濃厚と発表されています。

川 ゚ -゚) また、ギコ容疑者は事情聴取の際に『ここは夢の中なんだ。だけど化け物を倒したのに今度は夢からでられない』等と意味不明な供述を繰り返しており、検察側では精神鑑定の必要があると申請しています。



30: ◆wZk4NVoY.w :2008/05/06(火) 01:57:11.46 ID:IvBzCI8GO
(;´∀`) モナ…まさか隣室で二回もこんな事件が起こるとは世も末だモナ……

モナーはカルピスを口に含みながら一人呟くと、事情聴取などで疲れた体をひねった。


川 ゚ -゚) 同アパートでは数年前にも同じ部屋でこれと酷似した事件が起きており、その事件の加害者である内藤容疑者も理解不能な供述を繰り返していたということもあり、警察当局では事件の関連性を調べているとのことです。

テレビの中で無表情にニュースを読み上げる女の手が原稿を置き、カメラを見上げた。

川 ゚ -゚) 以上ニュースをお伝えしました。

――ぷちっ

モナーはリモコンでテレビを消すと、ベッドへぐったりと倒れこんだ。



31: ◆wZk4NVoY.w :2008/05/06(火) 01:58:31.00 ID:IvBzCI8GO
ニューソク県刑務所内では3年前の事件の加害者、内藤ホライズンの事情聴取を開始していた。


( ・∀・) どうだ?当時と比べて話せることも増えたんじゃないのか?

背広に身を包んだ長身の男が狭い部屋に置かれたテーブルに手を乗せて立っている。

( ゚ω゚) ブーンは悪くないんだお。あいつが、ツンが別れようなんて言うから悪いんだお……

( ・∀・) だが殺しちゃいかんよなあ。

刑事は椅子にどっかと座ると内藤に微笑み掛けた。

(;'A`) (出た!アレが伝説のほほ笑みの茂良さん!!)

新米らしい刑事がその様子を見ながら、1人でリアクションをとっていた。

( ゚ω゚) だからブーンは夢の中でツンを殺しちゃったんだお。なのになんでだお?夢の中で殺しただけなのに捕まるのは意味がわからないお?

( ・∀・) だからな。ここは現実なんだよ。

茂良が諭すようにブーンに話し掛ける。

( ゚ω゚) そんな分けないお。現実じゃいつもツンは笑ってくれるんだお。

その言葉を聞いた新米刑事は明らかに嫌そうな表情をする。

(;'A`) (ダメだコイツ、狂ってやがる…夢と現実の区別もつかないなんてヤバいっての…)



32: ◆wZk4NVoY.w :2008/05/06(火) 01:59:26.72 ID:IvBzCI8GO
( ・∀・) たぶんこいつの人生ってストーリーはどっかから夢と現実が入れ替わっちまってたんだろうな。

茂良が新米刑事の表情を見て自分の考えを口にした。

( ・∀・) だが夢みたいなもんはどこか自分自身を客観的に見ちまうから気付きそうなもんだがな……

それでも気付かない程に内藤は妄心的な愛に執り憑かれていたのだろう。


  ずっと夢の中にいればいいのよ……


どこからか女の声が聞こえたような気がした。



33: ◆wZk4NVoY.w :2008/05/06(火) 02:01:59.70 ID:IvBzCI8GO

(;゚Д゚) 夢の中から抜け出せねぇ……一体いつから入れ替わっちまってたんだよ……

留置所の一室でギコは1人でぶつぶつと呟いていた。

(;゚Д゚) なんで化け物をぶっ殺したのにこんな悪夢が続いてんだよぉぉおお……

悲哀に満ちた叫び声が一際大きく留置所内に虚しく反響していた。



――終



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