- 2: ◆wZk4NVoY.w :2008/05/06(火) 00:51:39.13 ID:DbzzGH960
- 「みんなで集まって、怖い話を披露するオフ会をやらないか」
全ての始まりは、この書き込みだった。
その日、僕はいつものようにお気に入りにしているホラー系サイトを開いていた。
残念ながら更新は無かったものの、代わりに掲示板を覗くと、そこには常連の人たちの名前があった。
僕も早速挨拶の書き込みをし、それまでに話されたログに目を通していった。
やはり常連なだけあって、各人の話す怪談はどれも面白く、僕はあっという間に全て読み終えてしまった。
そして、感想がてら書き込もうとした時、丁度そのレスが書き込まれたのだ。
それは、このサイトの管理人さんによる書き込みだった。
実際に会うことに抵抗もあったが、参加者が続々と増えていき、僕も思い切って参加を表明した。
きっと、管理人さん直々の提案というのが効いたんだと思う。
かくして、僕たちは管理人さんが指定した日時と場所において、怖い話をするオフ会を開催することになった。
- 3: ◆wZk4NVoY.w :2008/05/06(火) 00:53:46.35 ID:DbzzGH960
- ( ^ω^)「……ここ、だお?」
僕の手には一枚のメモ書き。そして、目の前には緋色の外壁に包まれたホテルの姿があった。
わくわくする。やっぱり会うのはまだ恥ずかしいけれど、これからどんな怪談を聞かせてもらえるのか。
今までにサイト上で目にしてきた話も、どれも怖くて面白いものばかりだった。
願わくば、今回は心底震え上がるような話を聞かせてもらいたい。
僕は周りの景色と紙の間で何度も視線を往復させ、地図上の場所に誤りがないことを確認する。
目的地は、このホテルの404号室。
部屋番号がなんともベタだが、今回は初めてのことだし、わかりやすいぐらいで丁度いいと思う。
それにしてもホテルの一室を借り切るなんて、なんという力の入れ様だろう。
俄然、僕の期待も高まるというものだ。
今の時刻は十九時。少し薄暗くなってきたという感じだ。
遠くから来ている人もいるため、真夜中というわけにはいかなかったが、これでも充分ふいんきは出ている。
それに、きっと話が続いている間に時も過ぎていくだろう。
僕はさっさとフロントを済ませ、中のエレベーターで四階へと向かった。
- 4: ◆wZk4NVoY.w :2008/05/06(火) 00:56:34.71 ID:DbzzGH960
- (;^ω^)「はぁ〜、やっぱり緊張するお……」
いざ部屋の前へ付いたが、扉を開けるのは少し躊躇われた。
何やら、中から話し声のようなものが聞こえる。もうほとんどのメンバーは揃っているみたいだ。
僕は一度だけ息を呑むと、ゆっくりドアノブを回した。
(;^ω^)「お、おいすー……」
部屋には大きめのテーブルと、その周りに腰掛ける六人の姿があった。
そして次の瞬間、十二の瞳が一斉にこちらへぎょろりと動く。
蛇に睨まれた蛙じゃないが、その途端、僕はその場に固まってしまった。
(´・ω・`) 「君は?」
落ち着いた感じの、三十代半ばぐらいだろうか。
六人の中でも一番年上に見える男性が、僕に話しかけてきた。
(´・ω・`) 「僕はハンドルネーム“ショボーン”、初めまして……でいいのかな?」
(;^ω^)「ショ、ショボーンさん!? あ、僕はハンドルネーム“ブーン”ですお!」
僕はその名を聞いて、一気に気分が高揚した。
ショボーンさんはいつもサイトで上質な怪談を提供してくれる常連の一人だ。
丁寧な言葉遣いで、怖い中にもどこか品の良さを感じさせてくれる。
きっと年上だと思っていたが、どうやらその通りだったみたいだ。
僕はまるで芸能人にでも会ったかのように、奇異な視線で彼を眺めてしまっていた。
- 5: ◆wZk4NVoY.w :2008/05/06(火) 00:59:29.29 ID:DbzzGH960
- _
( ゚∀゚)「とりあえず座ったらどうだい?」
(;^ω^)「あ、そ、そうですNE……」
テーブルの奥の方に座っていた男性に言われ、僕は慌てて空いている席へと座り込む。
余程慌てていたのか、メンバーの中の女性にくすくすと笑われてしまった。
忘れていた恥ずかしさも再び込み上がって来る。
_
( ゚∀゚)「俺はハンドルネーム“ジョルジュ”だ。アンタが管理人さん?」
( ^ω^)「え、いや、違いますお?」
何故そんなことを聞かれるのかと思ったが、その理由はすぐに気が付いた。
テーブルの周りに用意された椅子が、僕が座ったところでまだ一つ余っている。
どうやら、今回の発案者である管理人さんだけがまだ来ていないようだ。
( ^ω^)「管理人さん、遅れているんですかお?」
(´・ω・`)「そうみたいだね……事故にでもなってなきゃいいけど」
_
( ゚∀゚)「……じゃあさ、もう先に俺たちだけで始めねえか?」
その場の視線が、今度は一斉にジョルジュさんへと向かう。
正直、その提案はとてもありがたかった。
僕の今日に対する期待が、どんどん大きくなっていたからだ。
- 6: ◆wZk4NVoY.w :2008/05/06(火) 01:02:26.71 ID:DbzzGH960
- _
( ゚∀゚)「どう? 反対の人はいるか?」
( ^ω^)「僕は賛成ですお!」
('A`)「別に構わないぜ」
ξ ゚听)ξ「このまま待つのもなんだしね」
( ,,゚Д゚)「まあ、管理人に気の毒な気はするけどな」
(*゚ー゚)「私もそうだけど……まあ、着いた時にまた話してあげればいいんじゃないかな」
(´・ω・`)「じゃあ、そうすることにしようか」
特に反対されることもなく、あっさりとその意見は通った。
恐らくだけど、他のみんなも僕と同じように大きく期待していたんじゃないだろうか。
そうして、時刻は十九時十分となり、初の試みとなるオフ会が始まった。
- 7: ◆wZk4NVoY.w :2008/05/06(火) 01:05:24.27 ID:DbzzGH960
- 誰に話をしてもらいますか?
_
( ゚∀゚) ジョルジュ
(´・ω・`) ショボーン
('A`) ドクオ
ξ ゚听)ξ ツンデレ
( ,,゚Д゚) ギコ
(*゚ー゚) しぃ
- 8: ◆wZk4NVoY.w :2008/05/06(火) 01:07:53.10 ID:DbzzGH960
- _
( ゚∀゚) ジョルジュ
まずは俺からか。一応、簡単な自己紹介をしておくぜ。
俺はハンドルネーム“ジョルジュ”。職業はフリーターだ。
別にこんなこと言わなくてもいいんだろうけどな。
で、早速なんだが、人間が一番怖がることってなんだと思う?
1、幽霊
2、人間
- 9: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2008/05/06(火) 01:08:46.14 ID:Nug8Mc130
- ( ^ω^)幽霊お
- 10: ◆wZk4NVoY.w :2008/05/06(火) 01:10:00.32 ID:DbzzGH960
- なるほどな。
でもな、それは違うぜ。人間が一番怖がること……それは、闇さ。
おっと、厨二病ってわけじゃないぜ。
闇ってのは、例えみたいなもんだ。別に暗闇が怖いってわけじゃない。
ただ、暗闇の中にいると、周りが見えなくなるだろ?
そんなことになったら、たまらなく不安になる。
周りに何があるのか、自分は何をすればいいのか、全くわからなくなるんだ。
例えば、真昼間に見知った道を歩いている……怖くなる要素なんてどこにもないよな?
でもさ、そこでちょっと目を瞑ってみるんだよ。
途端、その道は猛獣がうようよいる密林みたいに感じられるぜ。
感覚が研ぎ澄まされる代わりに、恐怖心も大きくなって、歩くこともままならなくなる。
足先にぶつかった小石や、遠くで聞こえる車のクラクション。
それらが全部、自分にとって恐ろしいものに変わっちまうんだ。
一番怖いってのは、つまりそういうことさ。
人間が一番怖がること……それは、物事を認識できなくなるってことなんだよ。
- 12: ◆wZk4NVoY.w :2008/05/06(火) 01:13:26.54 ID:DbzzGH960
- それで、ついこの前、それを嫌ってほど味わう体験をしたんだ。
実は、最近俺は引越しをしたんだけど、前に住んでたアパートがひどくてさ。
築数十年の代物みたいで、そのアパートの至るところが古いんだよ。
壁が薄いから隣の部屋に音が筒抜けだし、テレビが映らなくなることだってしょっちゅう。
正直な話、もっと早くに越したかったんだけど、まあ家賃だけは安くてさ。
それに、住めば都って言うか、なんか「まあ仕方ないな」って思ってたんだよ。
それなら何故引越したのかって?
まあ、実はそれをこれから話そうと思ってるんだけど……。
ちょっと前にさ、ずっと雨が降り続いた時があったよな?
あの時は本当に困ったよ。雨漏りがひどくてさ。
家にある洗面器とか空き缶とか、手当たり次第にかき集めて、とにかくいつも大変だったな。
で、そんな時にふと、大家さんから言われたんだ。
「もしかしたら、停電するかもしれないね」
元々古いんだし、それぐらい起こってもおかしくないか、なんてぐらいにしか思わなかったよ。
それよりも、雨漏りをどうにかするので精一杯だったからな。
- 13: ◆wZk4NVoY.w :2008/05/06(火) 01:16:46.16 ID:DbzzGH960
- それで、そんな雨の続いた、ある日のことだ。
その日はバイトの帰りがいつもより遅くなっちゃって、アパートに着いた時はもう深夜だったよ。
でも、夜道っても月明かりとか街灯とかあるから、真っ暗ってわけでもないんだよな。
そんな時間でも走ってる車はあるし、結構不安にはならないもんだよ。
とにかく雨がすごくて、早く帰ろうと躍起になってたし。
アパートに着いて、すぐに俺は何か違和感を憶えたんだ。
あれ、なんだか静かだな、って。
そりゃあ深夜なんだから、静かなのは当たり前だよ。
でも、その時確かに、何かおかしなものを感じたんだ。
自分の部屋に着いて、鍵を開けて、中に入った時、その違和感が何なのかわかったよ。
壁にある電灯のスイッチを押したんだけどさ、電気が点かないんだよ。
何度もカチカチ押してみたけど、何の反応もない。
そこで、俺は大家さんの言葉を思い出したんだ。
ああそうか、停電するかもしれないって言われてたなって。
いつも以上に静かだと感じたのは、このせいだったんだ。
深夜だって言っても、みんながみんな寝静まってるわけじゃない。
でも、この日ばかりは電気が使えないから、みんなさっさと寝ちまったんだろうな。
なんというか、人が生活してる息吹っていうか……そんなものが聞こえなかったんだよ。
- 15: ◆wZk4NVoY.w :2008/05/06(火) 01:21:19.81 ID:DbzzGH960
- まあそれでも、バイトで疲れてたし、さっさと部屋の中に入ったんだ。
でも、ドアを閉めたら、もう本当に真っ暗でさ。
何にも見えねえんだ。目も慣れてないから、余計に暗くて。
手探りで部屋の中を歩いたんだけど、片付けてるわけでもなくて、色々と足に当たるんだよな。
柔らかかったり、固かったり、一度「カン」っていう音もしたから、ゴミ箱でも倒したかなー、なんて。
とりあえず、なんとかテーブルを見つけてさ。
そこで一息吐いて、濡れた服を脱いで、ちょっと座って休んでたんだよ。
でも、なかなか目が慣れてこないんだよな。
ずっと真っ暗なままなんだよ。
おかしいなって思ったんだけど、そこで気付いたんだ。
俺、出かける前に雨戸を閉めてったんだよ。
そのせいで、外からの明かりさえ全く入らない状況だったわけ。
しばらく座ったままでいたんだけど、次第に眠気が襲ってきてさ。
もうさっさと寝ちまおうって思って、立ち上がってベッドを探したんだ。
そしたら……
「うわっ!?」
何かに引っ掛かったみたいでさ、とうとう転んじまったんだよ。
- 18: ◆wZk4NVoY.w :2008/05/06(火) 01:24:51.04 ID:DbzzGH960
- でも、なんだかおかしいんだよな。
床にぶつかる直前、速度がゆっくりになったっていうか……
結局俺は床に倒れたわけなんだけど、ほとんど痛みが無かったんだよ。
丁度良く座布団でもあったのかな、とも思ったけど、体は床の上にあるわけだしさ。
まあ、それでも眠気の方が勝ってて、すぐに起き上がってまたベッドを探したんだ。
で、部屋ってもそこまで広いわけじゃないし、ベッドもすぐに見つかったわけ。
シーツに触れた時、やけにひんやりとしていたけど、感触でそうだとわかってさ。
これじゃ眠気が覚めちゃうかな、と思ったけど、潜り込んでみれば案外そうでもなくて。
なんだかとても部屋の中全体が静かな感じで、むしろ心地良いぐらいだったな。
それで、眠りに落ちるかなって、ぼんやりしてた時、なんだか変な感覚になったんだ。
最初は瞼がぱちぱちして、次に体がふわふわするというか……
自分の周りを包んでる空気が、ぐるぐる回っているような、とにかく奇妙な感覚だったよ。
気にしないで寝ようと思ったんだけど、次第に寝苦しくなってきてさ。
なんかこう、体が引っ張られるような、どこかに吸い込まれていきそうな、そんな風に感じたんだ。
- 19: ◆wZk4NVoY.w :2008/05/06(火) 01:28:04.86 ID:DbzzGH960
- 疲れのせいかなって思ったんだけど、そうじゃないんだよ。
その引っ張られる感じが、どんどん強くなってきてさ。
もう途中から寝苦しいなんてものじゃなくて、本当に苦しくなってきたんだ。
呼吸は苦しいし、気分も悪いし、全身からじっとりとした汗が出てきてさ。
しかもさ、なんでかわからないけど、目が開けられないんだよ。
何かに押さえつけられているような……瞼が石になったみたいだった。
冗談じゃないよな。だってさ、間違いなく何かが起きてるのに、それが何なのかを確認することもできないんだぜ?
もう尋常じゃない恐怖なんだ。一歩間違えればパニックだったかもしれない。
とにかくシーツを強く握って、奥歯をぐっと噛み締めてさ。
まともに頭が働かなかったよ。まるで、いきなり台風の中に放り出されたみたいだった。
怖いし、自分の体は今にも浮き上がりそうだし、まさに極限状態ってやつだよ。
でも、ここで気を抜いたら取り返しのつかないことになるんじゃないかって、そう思ってた。
それで、一時間ぐらい経ったのかな。正確な時間の経過はわかんないからさ。
今まで苦しかったのが、突然ふっと楽になったんだ。
なんだかわからないけど、「ああ、助かった」って思ったよ。
一度大きく息を吐いてみたけど、全身の力が抜けていくようでさ。よっぽど余裕が無かったんだな。
で、一体なんだったんだろうと思って、俺は――
1、目を開けた
2、目を開けない
- 20: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2008/05/06(火) 01:30:47.80 ID:Z8z5nufxO
- 開けない
- 21: ◆wZk4NVoY.w :2008/05/06(火) 01:32:06.36 ID:DbzzGH960
- 目を開けようかと思ったんだけど、そうはしなかった。
いや、そうはできなかった、というのが正しいな。
苦しみから解放されたはされたんだけど、どうにもまだ安心できなくてさ。
なんというか、目を開けた先にある、その暗闇が怖かったんだ。
いや、目を瞑っているわけだから、既に暗闇ではあるんだよ。
でも、違うんだよな。
目を瞑っている時の暗闇と、開けた時の暗闇は違うんだよ。
理由は説明できないんだけど、とにかくそう思えたんだ。
それは、確信に近いってほどだった。
一体何が起きているのか、人間ってのはとにかく知りたがるんだよな。
わかっていても、ふいに目を開けちまいそうなんだ。
でも、今はダメだ。目を開けちゃいけないって、とにかく耐え続けたよ。
そうしたら、段々また眠気が起こってきて、いつの間にか寝ちまったんだ。
- 22: ◆wZk4NVoY.w :2008/05/06(火) 01:35:55.36 ID:DbzzGH960
- 次に気が付いた時には、もう朝になってたよ。
流石に目を開けたけど、日の光が差し込んで、うっすらと部屋の中が見れてさ。
上半身だけ起こして、しばらくぼーっとしてた。
でも、段々目が覚めてきて、頭の中もはっきりとしだしたんだ。
そして、一気に目が覚めたよ。
気付いたんだ。それはおかしいってな。
だってそうだろ?
どうして、“日の光が差してる”んだ?
改めて言うけど、俺は雨戸を閉めていたはずなんだ。
それだったら、例え朝でもまだ暗いはずだよな。
真っ暗とはいかないかもしれないけど、日の光が差し込んでるのはちょっとおかしい。
それで、ちゃんと確認してみたけど、雨戸が少しばかり開いてたんだ。
完全に閉め切られてはいなかったんだよ。
だから、日の光が入ってきていたんだ。
- 24: ◆wZk4NVoY.w :2008/05/06(火) 01:38:42.88 ID:DbzzGH960
- でもさ、それだと尚更おかしいんだよ。
昨日の夜、部屋の中は本当に何も見えなくなるほど暗かった。
でも、雨戸は少し開いていたんだぜ?
月の明かりでもなんでも、見えていなきゃおかしいんだ。
ずっと目は慣れないままだったしな。
それに、よく考えたら、本当に何も見えないほど暗いだなんて、普通じゃまずありえないんだよ。
何かの機械のランプとか、暗闇の中でも光る蛍光色のものだとか、この部屋の中にもあったはずなんだ。
でも、そんなものは一切見えなかった。
まるで、この部屋だけ別の空間のようだったんだ。
それに、部屋の中はいやに静かだった。
おかしいよな、だって外は土砂降りのはずなんだぜ?
雨音がうるさいぐらいに聞こえていていいはずなんだ。
ただでさえ、壁が薄いっていうのに。
- 25: ◆wZk4NVoY.w :2008/05/06(火) 01:41:29.38 ID:DbzzGH960
- その時だけ、昨夜の間だけ、この部屋の中は何もかもがおかしかったんだ。
思うんだけど、きっとあの暗闇は、あの世に繋がる扉みたいなものだったんじゃねえかな。
なんでそんなことが起こったのかわからないけど、そんな風にしか思えないんだよ。
もし、あの時目を開けていたら……
それから、俺は暗闇が怖くなっちまったよ。引っ越した理由もそれさ。
今じゃ、どんな時でも何かしらの明かりを点けるようにしてる。
電気代は馬鹿にならないけどさ。
でも、そう簡単にはいかないんだよ。
だって、そうだろ。暗闇ってのは簡単に俺たちの前に姿を現すんだぜ。
夜になれば暗くなるし、寝る時は電気を消すだろ。
あの時みたいに、ふいに停電するかもしれない。
そもそも、一番手っ取り早いのは目を瞑るだけでいいんだからな。
と言っても、そんなのどうにかできるもんでもないけどな。
生きている以上、どうしたって暗闇はあんたのところにやってくるぜ。
だから、こういう言い方しかできない。
“暗闇”には、気を付けな。
……これで、俺の話は終わりだ。
- 26: ◆wZk4NVoY.w :2008/05/06(火) 01:45:05.89 ID:DbzzGH960
- ( ^ω^)「……」
認識できないもの、か。
確かに、自分も含めて人間は暗闇の中にいると不安になる性質があると思う。
好んで暗闇の中にいたがる人なんて、そうそういないだろう。
今は、頭上の蛍光灯が爛々と光を放っている。
でも、こんな状況でも瞼を閉じればすぐに闇が目の前に広がる。
もっと昔、それこそ電気がなかった頃は、夜になること、視界が奪われること自体が危険だったはずだ。
もしかしたら、その恐怖が現在の人間にも意識下で残っているのかもしれない。
闇とは決して逃げられない、恐るべきものであるということが……
_
( ゚∀゚) 「ところで、管理人さんまだ来ないな」
( ^ω^)「そうみたいですお……」
_
( ゚∀゚)「やっぱり何かあったのかもしれねえな。どうする? みんなで探しに行くか?」
( ^ω^)「でも、顔も知らないのに探しに行くのもどうなんですかお?」
_
( ゚∀゚)「……うーん、そうか。じゃあ、続けることにしようぜ」
そうして、オフ会は続けられることとなった。
管理人さんは確かに心配だけど、正直好奇心の方が勝っていたと言わざるを得ない。
- 28: ◆wZk4NVoY.w :2008/05/06(火) 01:47:55.64 ID:DbzzGH960
- 誰に話をしてもらいますか?
_
( ゚∀゚) ジョルジュ(選択済み)
(´・ω・`) ショボーン
('A`) ドクオ
ξ ゚听)ξ ツンデレ
( ,,゚Д゚) ギコ
(*゚ー゚) しぃ
- 29: ◆wZk4NVoY.w :2008/05/06(火) 01:48:31.49 ID:DbzzGH960
- (´・ω・`) ショボーン
二つ目の話は僕かい。
じゃあ、僕も改めて自己紹介するよ。
ハンドルネームは“ショボーン”。しがない会社員さ。
ところで君、ブーンくん……だったよね?
君は、幽霊を見たことはあるかい?
1、ある
2、ない
- 30: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2008/05/06(火) 01:49:27.03 ID:Nug8Mc130
- ( ^ω^) ないお
- 31: ◆wZk4NVoY.w :2008/05/06(火) 01:50:57.87 ID:DbzzGH960
- ふーん……それは残念だね。
でも、本当にそうなのかな?
もしかしたら、本当は幽霊を見たことがあるんじゃないか?
……違う? 絶対に?
それじゃあ聞くけど、君は幽霊がどんな形をしているか知っているのかい?
有名なところの、足がないとか、透けてるとか、そんな風に思っているんじゃないのか?
でもさ、僕は今までに一度だってそんなものを見たことはないよ。
君だってそうだろう。
幽霊を見たことがないってことは、そういったものを見たこともないんだろう?
よくテレビとかでなら、霊能者って名乗る人がそんな風に言ったりもするね。
けど、信じられるかい、そんなの。
僕はそのものを実際に見ない限り、信じられそうにはないね。
- 33: ◆wZk4NVoY.w :2008/05/06(火) 01:54:02.41 ID:DbzzGH960
- あのさ、別に幽霊を見たことがない、って言っても、別段おかしなことじゃないよね。
むしろ、幽霊を見たことがある人の方が少ないはずだよ。
事実、僕の知り合いにも見たことがないっていう人がほとんどさ。
でもさ、おかしいとは思わないか?
世界中では一日……いや、秒単位で人が死んでいるんだよ?
それだったら、この世に幽霊が溢れかえっていてもおかしくないじゃないか。
でも、滅多に誰も幽霊を見たなんて言わない。なんでだろうね?
僕としては、幽霊ってのはやっぱり見えないものだと思ってたんだ。
実体がないから、目撃証言が極端に少ないもんなんだって。
まあ、それならその数少ない目撃証言はなんなんだってことになるんだけどね。
そういう人は霊感が強くて……みたいな、随分とぼんやりとした理由に落ち着いていたよ。
でも、実際は全然違ったんだ。
幽霊は見えないものなんかじゃない。ちゃんと見えるものなんだ。
僕にも、君にもね。
- 34: ◆wZk4NVoY.w :2008/05/06(火) 01:58:11.86 ID:DbzzGH960
- つい最近のことなんだけど、久しく会ってなかった友人から連絡が来たんだ。
久し振りに会わないか、ってさ。
連絡が来た時は、本当に驚いたよ。携帯にメールで来たんだけど、全然知らないアドレスでさ。
最初は迷惑メールかと思ったんだ。
でも、本文にその友人の名前があって、やっぱり迷惑メールかと思ったけど、一応返事を出してみたんだ。
そしたら、すぐに返事が来て、僕に会いたいって書いてあってさ。
まあ、友達の少ない奴だったから、人肌恋しくなったんじゃないのかな。
だったら家族にでも会えばいいのに、って思ったけど、深くは考えなかったよ。
それで、何度かメールでやりとりしている内に、「ああ、本当にあいつなんだな」って思ってね。
僕も会えるものなら会ってみたいと思ったし、向こうがあんまり頼むもんだから、承諾したんだよ。
会うのはいつにするんだ、って聞いたら、こっちの都合のいい時でいいらしくて。
だから、「今度の週末でいいか?」って送ったんだ。
そしたら、えらく喜んでね。「お前に会いたかった、嬉しいよ」って送られてきたよ。
メールはそこで終わったんだけど、僕もそこでなんだか緊張してきてね。
会うのかって思ったら、嬉しさ半分怖さ半分というか。
なんせ、会うのは高校の時以来だったから。
- 36: ◆wZk4NVoY.w :2008/05/06(火) 02:01:23.34 ID:DbzzGH960
- それで、いよいよ週末になって。
何を着ていけばいいのかわからなかったけど、とりあえず普段着を選んでね。
わざわざスーツを着ていくなんてのもおかしいしさ。
カメラとかも持っていこうと思ったんだけど、まあ止めといたよ。
とりあえず会えればいいか、なんて風に思ってたんだ。
待ち合わせの場所に選んだのは、高校時代にもよく待ち合わせで使ってた公園でね。
そこにも久し振りに行けるんだと思うと、余計楽しみになってきて。
結構、浮き足立ってたのかもしれないな。
電車を乗り継いで、駅からは歩いて向かって、公園に辿り着いたら……もう彼は来ていたよ。
外見とか、あの頃と全く変わっていないんだ。
それで、急に懐かしさが込み上げてきてね。来て良かった、って思ったよ。
「久し振りだな」
彼の第一声はそれだったよ。呟いたように見えたけど、案外はっきりと聞こえてね。
まあ、ありきたりというか、必然というか。僕もただ、「そうだね」って返したよ。
- 37: ◆wZk4NVoY.w :2008/05/06(火) 02:04:41.52 ID:DbzzGH960
- それから僕たちは公園内のベンチに腰掛けて、思い出話に花を咲かせたよ。
やっぱり高校時代のものがほとんどだったけどね。
それで、あっという間に時間が過ぎていった。
やがて、空も段々黄色くなってきて、そろそろ帰らないと、って僕が切り出したんだ。
そしたら、「もう少し話せないのか?」って聞かれたよ。
でも、僕は次の日の仕事もあったし、「残念だけど……」って答えたよ。
彼、悲しそうな顔をしてたな。
話せる友人もいなくて、寂しいんだそうだ。
久々に僕と話して、本当に楽しかったらしい。
そして、最後にこう聞かれたんだ。
「なあ、一緒に来てくれないか?」
ってね。
- 38: ◆wZk4NVoY.w :2008/05/06(火) 02:06:51.19 ID:DbzzGH960
- ……え、一体何の話なのかって?
やだなあ、だから幽霊はちゃんと見えるって話だよ。
意味がわからない?
ただの思い出話じゃないかって?
いやいや、そんなことはないよ。
決してこれはただの思い出話なんかじゃないんだ。
この話は、幽霊は見えるものなんだって、僕が確認できた話なんだ。
……まあ、そうだね。そんなこと言ったってわからないだろうね。
首をかしげるのも無理はないな。
わかった、悪かったよ。
もったいぶるのはやめにする。ちゃんと教えるよ。
実はさ、僕の高校で、生徒が一人交通事故に遭ったんだ。
打ちどころが悪かったらしく、即死でね。
手術する甲斐もなく、その生徒は死んでしまったんだ。
……もうわかっただろ。そう、僕が久し振りに会った友人というのが、その死んだ生徒だよ。
- 39: ◆wZk4NVoY.w :2008/05/06(火) 02:09:23.25 ID:DbzzGH960
- どうかな。これで何を言いたいのかわかったよね。
幽霊ってのは、決して見えないものじゃないんだ。
それに、足がなかったり、透けているわけでもない。
幽霊ってのは、僕たちと全く変わらないんだよ。
成長とか、歳をとるようなことはないのだろうけど、見た目は全く同じなんだ。
これ、どういう意味だと思う?
つまりね、幽霊は見えないんじゃない。いても、“気付かない”んだ。
だって、見た目は普通の人なんだからね。
街中で幽霊が歩いてたって、その人が故人だと知ってる人じゃなきゃわからないってことさ。
僕は、知っていたからね。既にあいつが死んでいたことをさ。
だから、君もきっと、ただ気付いていないだけなんじゃないのかな。
もしかしたら、とても身近なところに、幽霊がいるのかもしれないよ。
それどころか、君の知っている誰かが本当は……なんてね。
……そうだ、君のところにも来るかもしれないよ。
過去に、死んだ誰かが……さ。
- 40: ◆wZk4NVoY.w :2008/05/06(火) 02:12:49.41 ID:DbzzGH960
- え?
友人の最後の質問に、僕は何て答えたのかって?
……ふふ、どうだろうね。ご想像にお任せするよ。
それじゃ、僕の話はこれで終わりだよ。
- 41: ◆wZk4NVoY.w :2008/05/06(火) 02:14:57.22 ID:DbzzGH960
- ( ^ω^)「……」
幽霊……つまり死んだものと生きているものに、見た目の違いはない、か。
ショボーンさんが嘘を吐いているとは思えないけど、にわかには信じ難い話だ。
すぐ近くに幽霊がいる……なかなか想像できない。
ちょっとシュールな光景かもしれないな。
しかし、ショボーンさんはよくそんな友人に会う気になったものだと思う。
死んでいるのがわかっているというのに、僕なら怖気づくやもしれない。
(´・ω・`) 「じゃ、次の話に行こうか」
( ^ω^)「わかりましたお」
- 44: ◆wZk4NVoY.w :2008/05/06(火) 02:16:28.49 ID:DbzzGH960
- 誰に話をしてもらいますか?
_
( ゚∀゚) ジョルジュ(選択済み)
(´・ω・`) ショボーン(選択済み)
('A`) ドクオ
ξ ゚听)ξ ツンデレ
( ,,゚Д゚) ギコ
(*゚ー゚) しぃ
- 45: ◆wZk4NVoY.w :2008/05/06(火) 02:17:15.96 ID:DbzzGH960
- ξ ゚听)ξ ツンデレ
三つ目は私なの?
じゃあ自己紹介。私のハンドルネームは“ツンデレ”。
どっかの会社で受付嬢をやってるわ。
道理で綺麗だと思った?
ありがと、でもお世辞言ったって何も出ないわよ。
……丁度いいわ。じゃあ、その見た目についての話をしましょう。
私の知り合いに、よっぽど美容に気を付けてる人がいてね。
伊藤さんって言うんだけど。
で、その伊藤さん、私より年上なんだけど、とんでもない美人ってわけでもないのよ。
まあ、普通よりちょっと上ぐらいの……化粧してたらの話だけどね。
ただまあ、その化粧を落としたところを見たことはないけどね。
その人、例え女同士でもすっぴんを見せようとしないから。
女同士だから余計に……なのかも。
そんな人だから、あんまり女子受けはしなかったのよね。
私はそんなこと気にしなかったけど。
だから、伊藤さんとも普通に話してた。
- 46: ◆wZk4NVoY.w :2008/05/06(火) 02:22:46.67 ID:DbzzGH960
- 伊藤さんも、同性の話し相手が私ぐらいしかいないみたいで、結構仲は良かったのよ。
自分が使ってる化粧品とか、色々教えてくれたりもしたわ。
ものすごい高額だったから、手は出せなかったけど。
それで、さっきも言ったけど、化粧をしてればまあ美人って人なのよ。
でも、ある日、とんでもないことが起こったの。
普通に会社に出勤したんだけど、やけにざわざわしてたのよね。
ちょっとした人だかりができるぐらい。
で、なんだろうと思って近付いたら、デスクにものすごい美人が座ってたの。
もう、絶世の美女なんて言葉が似合うぐらいの、女の私でも溜め息吐くぐらいの美人だった。
そしたら、その人が気軽に私のことを呼ぶのよね。
一斉に私に視線が集まって、私自身も目が点になってたわ。
「……あの、誰でしたっけ?」
「何言ってるの。私よ、伊藤」
一瞬、何を言われたのか理解できなかったわよ。
だって、明らかに別人なんだもの。冗談かと思ったわ。
でも、声を聞く限り、確かに伊藤さんなのよね。
見た目は変わってたけど、中身は変わってないみたいだったし。
- 48: ◆wZk4NVoY.w :2008/05/06(火) 02:25:55.16 ID:DbzzGH960
- それで、もちろん理由を聞いたわよ。というか、聞かないはずないわよね。
でも――
「ふふ、秘密よ♪」
なんて言われて、その頃にはとっくに始業時間は過ぎてて、仕方なくそこからは普通に仕事してたわ。
でも、お昼休みになって、もう一度聞いてみたの。
だって、気になるじゃない。私だって女だもの。
まあ、男の人にはわからないかもしれないけどね。
それで、伊藤さんは渋ってたけど、今まで仲良くしてたおかげか、最後には教えてくれたわ。
なんでも伊藤さんの話によると、自分はいつも美容についてインターネットで調べているみたいで。
とにかく何か新しいものはないか、手当たり次第に探すらしいのね。
で、その時とあるサイトを見つけたらしいわ。
あなたの願いを叶えるみたいな……私だったら気にもしない内容だったみたい。
それでも、伊藤さんは食いついたのよね。
なんというか、それを聞いて私は正直呆れちゃったんだけど。
でも、伊藤さんがそのサイトを調べてみると、とんでもないことが書かれてたのよ。
“悪魔と契約することによって、あなたの望みを叶えます。”
- 51: ◆wZk4NVoY.w :2008/05/06(火) 02:28:29.84 ID:DbzzGH960
- こんなオフ会に参加してるんだし、私だってそういうのが嫌いじゃないわ。
でも、実際にそんなサイトを目にしたら……どう思う?
私だったら全く信じないと思うわ。
……でも、伊藤さんの場合は違ったのよね。
なんだか、彼女の話によると、そのサイトからは得体の知れない力のようなものを感じたらしいの。
説明できないけど、その内容を信じられる何かがあったんだって。
それで、その契約方法なんだけど、ただ掲示板に自分の名前を書けばいいだけなんですって。
ますます胡散臭いわよね。でも、やっぱり伊藤さんは書き込んだの。
それで、書き込んだらページが変わって、そこにはある条件が書かれていたそうよ。
願いを叶える代わりに、それを守らなきゃいけないって。
その条件は、日付が変わる二十四時から一分間、自分の顔を見てはいけない。
っていうものだったらしいわ。
- 52: ◆wZk4NVoY.w :2008/05/06(火) 02:32:04.53 ID:DbzzGH960
- まあ、そこまで難しい条件ってわけじゃないわよね。
気を付けていれば、子供でもできるようなことよ。
ただ、その条件を破った場合、それ相応の罰を受けてもらうとも書いてあったんですって。
伊藤さんとしても、もう後には引けなくなってたのかしらね。
その条件を承諾して、契約が完了したの。
でも、なんでだか、そのサイトはもう見れなくなっちゃったみたいだけど。
それで、かねてからの美貌が手に入ったわけだから、伊藤さんはそれからかなり充実した日々を送ったわけ。
一日中鏡を見てはうっとりしちゃってね。
聞く限りではどうかと思うけど、あの美貌ならそれも仕方ないかと思うわ。
周りの女の子も、もう嫉妬するって感じじゃないのよね。
「お姉さま〜」みたいな。
なんだか、あの美貌には単純な美しさだけじゃなく……一種の魔力みたいなものがあったように思うわ。
悪魔の力……なのかしらね?
- 54: ◆wZk4NVoY.w :2008/05/06(火) 02:34:33.61 ID:DbzzGH960
- そういえば、有名な週刊誌が伊藤さんを記事にしたいってやってきたこともあったわ。
そりゃそうよね。テレビに出てる芸能人よりも綺麗なんだから。
もちろん、あの条件もちゃんと守るように伊藤さんは徹底したわ。
家の中の鏡はいつでも布で隠せるようにして、窓も二十四時になる前にはカーテンで閉め切って。
そりゃ、実際に願いが叶ってるんだから、条件の方も信じるわよね。
破った時に何が起こるかわからないんだし。
でも、伊藤さんは相変わらずネットで美容について調べることはやめなかったのよ。
そこまで来ると、もはや習慣みたいなものだったみたい。
ただ、探す時間は随分短くなったみたいで、探すのもどちらかと言えば服装とかについてだったらしいわ。
まあ、二十四時になる頃にはやめて、寝るようにしていたそうだけど。
それで、それから数日経ったぐらいの、ある日のことよ。
その日も私は普通に出勤して、先に来ていた伊藤さんに挨拶をしたわ。
「おはようございます。今日も綺麗ですね」
「うふふ、ありが……」
その瞬間よ。
突然、伊藤さんは自分の顔を両手で押さえだしたの。
- 55: ◆wZk4NVoY.w :2008/05/06(火) 02:36:31.49 ID:DbzzGH960
- それで、私は一瞬思考が停止しちゃって、伊藤さん自身もかなり驚いてるみたいなのよ。
でも、その途中で、彼女は何かに視線を動かしたの。
そうしたら、「あ……あ……」って呟いて、その場からいきなり走り出したのよ。
私としては、その様子が普通じゃなかったし、すぐに後を追いかけたわ。
そしたら、給湯室に入っていく後姿を見つけて。
中に入ってみると、伊藤さんは奥でうずくまってた。
「伊藤さん! どうしたの!?」
「……み、見ないで……」
そう言って伊藤さんが振り向いた時、私は背筋が凍りついたわ。
顔を隠した指の間から、何かがぽとぽと落ちているのよ。
最初は化粧かと思ったわ。
でも違うの。落ちているのは……肉片。
伊藤さんの顔の肉が、ぼろぼろと崩れだしていたのよ。
- 58: ◆wZk4NVoY.w :2008/05/06(火) 02:38:47.77 ID:DbzzGH960
- 「い、伊藤さん……!?」
もう、伊藤さんにも私にも、どうすることもできないのよ。
止まることなく彼女の顔は崩れ続けて、もう人間の顔とは呼べなくなってた。
「ど、どうして……」
「契約は破られた」
そんな時よ。どこからか声が響いたの。
私にもはっきり聞こえたわ。なんだか、とても冷たい声だった。
「そんな! 私は破ってなんかいない!」
「契約通り、お前には罰を受けてもらう」
その途端、伊藤さんの体が宙に浮いたと思ったら、彼女の関節がありえない方向に曲がりだしたの。
「ぐ、ぐええ……」
背中から、丸くなろうとするみたいだったわ。
何か恐ろしいほどの力で、どんどん伊藤さんの体は縮められていくの。
私はもう怖くて、その場に力なく座り込んでいた。
声を出すこともできなかったわ。
そうして、伊藤さんはそのまま縮んで、最後には消えてしまった。
彼女が着ていた衣服だけ、その場に残っていたわ。
- 59: ◆wZk4NVoY.w :2008/05/06(火) 02:40:25.50 ID:DbzzGH960
- 私は体の震えが止まらなくて、給湯室から出るのだけでもかなり苦労したわ。
よたよた歩きながらだけど、なんとか必死に仕事場まで戻ったわ。
でも、やっぱりまともに仕事なんかできなくて、その日は帰っていいってことになったけど。
それで、ちょっとだけ落ち着いた時に、伊藤さんの最後の言葉を思い出したの。
彼女、あの声に対して、必死に違うと言っていたわ。
確かに、私も条件を守るための徹底ぶりは聞いていたからね。
ちょっと何故なのかわからなかった。
それで、帰る途中で伊藤さんが座っていたデスクに立ち寄ってみたの。
そこには彼女のバッグとか仕事用のパソコンとか、特におかしなものはなかったわ。
でも、じっとそれらを見つめていて、あることに気付いたの。
- 61: ◆wZk4NVoY.w :2008/05/06(火) 02:42:20.56 ID:DbzzGH960
- 自分の顔が映るものって、大体何を想像する?
鏡とか、窓とか。そういうものよね。
でも、決してそれだけじゃないのよ。
パソコンの、画面。そこにも薄っすらと自分の顔が映るの。
伊藤さん、インターネットだけはやめなかったわ。
きっと、彼女はパソコンの画面に映った自分の顔を見てしまったのよ。
でも、そのことには気付かなくて、だから必死に違うと言い続けたんだわ。
そもそも、こんなことになったのは伊藤さんがおかしなサイトを見つけたことだしね。
パソコンってのは、私たちに利益だけを与えてくれるものじゃない。
その時、本当にそう思ったわ。
……これで、私の話は終わりよ。
- 62: ◆wZk4NVoY.w :2008/05/06(火) 02:43:30.77 ID:DbzzGH960
- ( ^ω^)「……」
美しさ、か。
男の僕にはあまりピンとこない話だ。
ただ、もちろん僕だって不細工よりはそうでない方が嬉しい。
そんなのは誰だって当たり前だと思う。
化粧をしたり、おしゃれをしたり、人は自分を美しく見せようとする。
ただ、どうしたって生まれ持ったものはみんな最初から決まっているんじゃないだろうか。
それ以上のことを求めるにしても、限界というものがあるんじゃないだろうか。
今の話は、その限界を超えてしまったがためのものに思える。
( ^ω^)(インターネットの怖さ……かお)
果たして、本当に彼女が言うようなサイトがあるのかはわからない。
ただ、今このオフ会を行えているのは間違いなくインターネットの力だ。
その点には感謝したいな。
※体験版はここまでになります。
続きは製品版にてお楽しみください。
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