- 2: ◆wZk4NVoY.w :2008/05/06(火) 04:17:07.31 ID:owjYqucLO
グロは極力抑えましたが一応注意
- 3: ◆wZk4NVoY.w :2008/05/06(火) 04:18:25.35 ID:owjYqucLO
- その頃、僕の住む地域は梅雨入りをしていた。
通勤といい洗濯といい何かと不都合な雨の日が続いていたが、その休日は久しぶりに晴れた。
僕はそれを清々しく感じて、そぞろにも散歩をすることにした。
- 4: ◆wZk4NVoY.w :2008/05/06(火) 04:19:35.24 ID:owjYqucLO
- 僕は一人暮らしで、家は都心から離れた郊外にある。
緑も少なくない場所で、かつ田舎のような不都合もない場所だ。
僕はなんということもなく成り行きのままに足を運ぶ。
程良い暑さを持った初夏の風が僕の体を撫でていく。
雨のにおいを嗅ぎ飽きていた僕には新鮮だった。
- 7: ◆wZk4NVoY.w :2008/05/06(火) 04:21:59.68 ID:owjYqucLO
- ( ^ω^)「…お」
不意に、僕の足は公園の前で止まった。
そこでは、数人の子供らが元気よく遊んでいた。
( ^ω^)「楽しそうだお、僕にもあんな時代があったおね…」
しばしの間、懐古にふけってしまっていた僕だったが、それはじわじわと別の気持ちになっていった。
歩いているうちに、暑さが身にしみてきたようだ。
気づけば汗だくになっていた。
(;^ω^)「流石に暑くなってきたお…少し休むかお」
僕は、公園の隅にある木々の陰で一休みすることにした。
- 9: ◆wZk4NVoY.w :2008/05/06(火) 04:24:24.56 ID:owjYqucLO
- ( ^ω^)「蒸されてシューマイにされるところだったお……おっ?」
僕は木陰の奥に、独りで座り込んでいる女の子を見た。
ぱっと見、小学校中学年程度か。
その近くには池がある。
そういえばこの公園に池があるとは知らなかった。
木陰で日光を遮断され、木々に守られるようにぽつんとある池とその女の子にそこは、子供らがはしゃぎ回るところとは対照的な陰湿さすら覚えた。
- 10: ◆wZk4NVoY.w :2008/05/06(火) 04:25:16.21 ID:owjYqucLO
- その時、不意に、女の子がこちらを振り向いた。
(;^ω^)「(わわわっ)」
(*゚ー゚)「……」
偶然にも目があってしまった。
不気味さを覚えていたさなかであったがために、驚きは隠せなかった。
しかしよく見るとこの女の子は可愛い。
少し笑みを浮かべているところとか。
こんな暗い場所にいるのはもったいなく感じる。
なぜか僕は目が離せないでいた。
ああ、僕も犯罪者になるのかな?なんて自嘲すらした。
- 11: ◆wZk4NVoY.w :2008/05/06(火) 04:26:08.40 ID:owjYqucLO
- (*゚ー゚)「…ねぇ」
(;^ω^)「ほぇ!?」
見つめていていっぱいいっぱいになっていたのか、急に話しかけられたせいか変な声が出てしまった。
情けない。
僕の拘泥にも構わずに、彼女は変わらぬ表情で座ったままゆっくり話しかけてくる。
(*゚ー゚)「知ってる?この池、綺麗な蓮が咲くんだよ?」
( ^ω^)「蓮?」
池をのぞき込むと、葉っぱが浮かんでいる。
僕は植物に詳しいわけではないが、池ときて直感的に蓮に結びついた。
池の中で、まるい葉と一緒に大きな花を浮かべているイメージが頭の中で構成された。
- 12: ◆wZk4NVoY.w :2008/05/06(火) 04:27:36.16 ID:owjYqucLO
- ( ^ω^)「お?君はこの池に詳しいのかお?」
(*゚ー゚)「うん。当然でしょ」
微妙に強気な発言に不覚にも萌えてしまった。
(*゚ー゚)「梅雨が終わってしばらくして、夏休みが始まってから咲くの」
( ^ω^)「そうなのかお」
(*゚ー゚)「よかったら見に来てね。綺麗な花を咲かせて待ってるから」
( ^ω^)「そうかお。また夏に来るお。ばいばいだお」
何をやってるんだろう僕は。
このまだあどけない女の子と馴れ馴れしく話すなんて。
先程の暗いイメージはどこへやら、僕は彼女に対して好感を持ってしまったらしい。
待ってるから、なんて言われて高揚してしまった。
僕はアホだとつくづく感じた。
しかし僕の理性は勝った。とにかくこの女の子からは離れなければそう告げられて、そのままに動けた。
それはともかく、話をしているうちに暑さも抜けていったようだ。
とにかく、散歩の続きとしよう。
やけに長い道草をしてしまった。
僕は公園を出て、また適当に歩みを進めていった。
- 13: ◆wZk4NVoY.w :2008/05/06(火) 04:28:30.92 ID:owjYqucLO
それからというもの、僕の生活に大きな変化はなく、全国的には梅雨が明け、本格的な夏を迎えた。
今年も尋常じゃない暑さだ。
僕の休日と言えば、この暑さを避け、クーラーをガンガンきかせて家でごろごろするという実に地球に優しくない過ごし方をするのが普通だ。
そして今日もまた、外の熱気を憂いながらも同様の休日を送っていた。
しかし。
( ´ω`)「ビールがないお…」
予想外の事態に、仕方なく近くのコンビニまで行くことを決めた。
気分は最悪だ。近くとは言え目の前というわけではない。その間、灼熱の外気とぎんぎんの紫外線に当たることを考えるだけで億劫になる。
( ´ω`)「仕方ない…行くかお」
僕は蒸された外界に踏み出した。
- 14: ◆wZk4NVoY.w :2008/05/06(火) 04:29:14.41 ID:owjYqucLO
( ^ω^)「…お?」
そういえば、と。
僕の頭にふと、あの日のことがよぎった。
「待ってるからね」
僕はあの日以来、彼女に会っていない。
というか、会おうとしなかっただけなのだが。
休日が明け仕事をしているうちに、どうでもよくなっていた。
そしてあの日以来、急に暑くなり、散歩などしていなかったからであろうか。
よく忘れることができたものだ。
( ^ω^)「まぁ…こっそり様子を見るだけなら許されるお」
どういうわけか、暑さといった不快感のマイナスより、好奇心が勝っていた。
しかしこれは決してやましいものではない。
確認だ。確認のついでだ。
ビールの目的を忘れ、僕の足は自然とあの公園へと向かっていった。
- 15: ◆wZk4NVoY.w :2008/05/06(火) 04:29:56.11 ID:owjYqucLO
- 公園にはこんなに暑い中でも元気な子供がいた。
皆汗びっしょりだ。
そして僕の目は勝手にあの場所をとらえた。
密集した木、池。
そして、いた。女の子。
(*゚ー゚)
彼女はあのときとまるで変わらなかった。
池の側に座り込んでいる。
顔はよく見えないが、姿からして彼女であるのは間違いない。
じっと、池を見つめている。
- 16: ◆wZk4NVoY.w :2008/05/06(火) 04:31:43.13 ID:owjYqucLO
- 蓮のほうはといえば、池の真ん中で白く大きな花を見事に咲かせていた。
美しい。
その一言に尽きる。
魅力があって、ひきつけられる。
しばしそれに見とれていると、
(*゚ー゚)「…また来てくれたのね、嬉しい」
例の彼女に声をかけられた。
- 17: ◆wZk4NVoY.w :2008/05/06(火) 04:34:52.36 ID:owjYqucLO
- ( ^ω^)「とっても綺麗だお、この蓮」
(*゚ー゚)「当たり前よ」
少し浮かべる笑みも、強気なところも、あの頃のままだった。
不覚にもまた高揚してしまったので僕は再び理性を動員させた。
そうやって僕が内心必死になっているのとは対照的に、彼女は変わらぬ穏やかな様で僕に話しかけてくる。
(*゚ー゚)「あげたいものがあるの」
彼女はそう言うと、座った体勢から前かがみになり、小さな手を池に伸ばした。
何かを取ると、また座り込んで、僕に来るように促した。
- 18: ◆wZk4NVoY.w :2008/05/06(火) 04:35:44.84 ID:owjYqucLO
( ^ω^)「お?」
(*゚ー゚)「蓮の種。お守り」
( ^ω^)「お守り?」
(*゚ー゚)「そう。わたしだと思って、大切にしてね」
子供の戯言だ、なんて思っている反面、彼女の一つ一つの仕草に萌えてしまう自分もいる。
現に今、僕は彼女の言葉に理性が押され気味だ。
流石に彼女の目の前で種を捨てることはできなかった。
( ^ω^)「おっお、大切にするお」
そして僕はそれをポケットにしまった。
- 22: ◆wZk4NVoY.w :2008/05/06(火) 04:39:19.97 ID:owjYqucLO
- (*゚ー゚)「ねぇ。お願いがあるんだけど」
また、彼女は僕の本能を呼び覚ますように。
(*゚ー゚)「一人で寂しいからさ…毎日来て、隣にいてほしいの」
(;^ω^)「………」
この子はいきなり何を言っているのだろう?
かなり年上の僕に、来てほしいだなんて。
抑えろ。抑えろ自分。
(;^ω^)「他の友達とか…いないのかお?僕はまずいんじゃないかお?」
(*゚ー゚)「気にならないわ。ねぇ、お願い」
彼女は上目づかいで座ったまま僕に迫ってくる。
どうしよう。でも、これはモラルに関わる問題だ。
もう、仕方ない。僕には仕事があるし、まだ人生は長い。
こんなところで棒を振るわけには行かないんだ。
だから。
( ^ω^)「わかったお。来るお」
僕は、子供を騙した。
嘘を、ついた。
- 24: ◆wZk4NVoY.w :2008/05/06(火) 04:42:00.84 ID:owjYqucLO
- (*゚ー゚)「本当?嬉しい!絶対だよ?」
この屈託のない笑顔を見ると、ますます罪悪感を覚えてしまう。
でも、僕の決断は間違ってはいないはずだ。
( ^ω^)「当然だお。じゃ、今日はばいばいだお」
(*゚ー゚)「うん、待ってるからね」
僕は逃げるようにその場を去った。
罪悪感をぬぐい去れないまま。
- 25: ◆wZk4NVoY.w :2008/05/06(火) 04:42:46.07 ID:owjYqucLO
- その日から1ヶ月経った。
夏もすっかり終わり、山々は紅葉の準備中だ。
その日から二三日程の頃は、いささか恐怖を覚えて仕事もままならなかったが、全ては時間が解決した。
しかし、同時におかしなことが起こり始めた。
( ^ω^)「…お?」
僕の部屋、というより、詳しくは洗濯機のある場所。
あたり一面がびしょびしょになっていた。
鍵もかけているはずなのに一体誰が、とも思ったが、盗難の跡もなく被害もそれだけなので、特に気に留めないことにした。
- 27: ◆wZk4NVoY.w :2008/05/06(火) 04:46:45.98 ID:owjYqucLO
- しかし、それから連日、不可解な現象は起こり続けた。
部屋の隅に何かある、と思って見ると、
それは植物の根っこだった。
僕は慌ててそれを引き抜こうとしたが、根元からは取れず、それはしばらく僕の部屋に居座った。。
そして数日経つと、根は再生し、壁にこびりつきまくる。
それだけでなく、新たな隅から、コンセントから、冷蔵庫の中から。
根がどんどん僕の家に張り巡らされていった。
朝起きると、手に巻き付いていた、ということもあった。
- 28: ◆wZk4NVoY.w :2008/05/06(火) 04:48:56.86 ID:owjYqucLO
- 数日後。風呂場に葉が落ちていた。
僕はその瞬間、あの頃と同じ恐怖感を覚えた。
それは、蓮の葉だった。
水に濡れて、そしてそれは緑ではなく、くすんだ黒を帯びていた。
根といい葉といい原因が分かりやすすぎて、僕はいてもたってもいられなくなり、直感的に引っ越しをすることに決めた。
目に見えないものへの恐怖で、僕の段取りは非常に悪かった。
今すぐにでもこの場を去りたかったが、やはり引っ越し先の問題で日にちがかかることになった。
仕事も連日休んでしまった。
毎日のように不安にさいなまれ、電話もろくに取れなかった。
- 29: ◆wZk4NVoY.w :2008/05/06(火) 04:50:57.93 ID:owjYqucLO
- そして嫌でも僕の予想どおりになった。
引っ越しの数日前だった。
洗濯機の中に、蓮の花が見事に咲いていたのだ。
しかし、それは茶色を、黒を、緑を帯びていて、
僕に死を連想させた。
僕の限界はもう超えている。
僕は直視できない。
張り巡らされた根
浴槽に張り付いた葉
泡の中に咲く不気味な花
彼女が―――
(;゚ω゚)「うわあああああああああああ!!!」
- 30: ◆wZk4NVoY.w :2008/05/06(火) 04:53:47.75 ID:owjYqucLO
- その時。
もがき苦しむ僕の後ろで。
「蓮の花言葉…知ってる?」
この声は。間違いない。
聞きたくない
―――聞きたくないんだ!
僕は全身を掻きむしった。爪を食い込ませて。
その声から逃げるために。
- 31: ◆wZk4NVoY.w :2008/05/06(火) 04:54:19.53 ID:owjYqucLO
- 「………忘れられた愛情」
やめてくれ。
僕の体が、頭が、精神が。何もかも痒い。
掻きむしる手に、ぐちゅっとした感覚がする。
それでも掻く。
「蓮…枯れちゃった」
―――やめてくれ!
僕は後ろにいるであろう彼女に殴りかかろうと、眼を見開き、血眼になって飛びかかった。
しかし拳は呆気なく空を切った。
- 32: ◆wZk4NVoY.w :2008/05/06(火) 04:58:20.03 ID:owjYqucLO
代わりに目の前に現れたのは
―――壁を、床を、天井を一面にびっしりと覆い尽くす、蓮の種
僕は狂気になりながらも狼狽し、ついには鏡に倒れ込んでしまった。
夢だ。これは、出来の悪い夢。
うっすら目を開けば、蓮の種の壁を背景に
―――目が、頬が、額が、全身が。
蓮の黒く濁った種に覆われて
- 34: ◆wZk4NVoY.w :2008/05/06(火) 04:59:45.83 ID:owjYqucLO
やっと あえたね
もう はなさないから
( ^ω^)ブーンと蓮のようです おわり
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