- 3: ◆wZk4NVoY.w :2008/05/05(月) 03:17:24.85 ID:/RBYPSN9O
- ( ^ω^)「お?」
此処は、幼稚園?
何で僕が幼稚園なんかに居るんだお?
( ^ω^)「あれ?」
此処は僕が通ってたラウンジ幼稚園だ。
間違いない、妙にくびれた独特の遊具のてっぺんに風見鶏が付いている。
鶏冠が妙に長いこの風見鶏に掴まって遊具から滑り落ちたんだ。
( ^ω^)「そうか、夢かお?」
だとすれば、僕はなかなか記憶力があるな。
装飾の色が完璧に付いているし。
細かいディテールや、書かれてる字の字体まで、明確に描かれてる。
( ^ω^)「リアルだお」
僕は楽しくなって、遊具で遊び出した。
錆の匂いが懐かしいブランコ、爬虫類をモデルにしたセンスの悪いシーソー。
当然、片方にしか動かないけどね。
それからコーヒーカップ。
十回で酔った。
長さ五センチ幅一ミリのようです
- 5: ◆wZk4NVoY.w :2008/05/05(月) 03:17:47.73 ID:/RBYPSN9O
- 「約束だよ!」
「きっとだお!」
( ^ω^)「懐かしいお」
聞こえてきたのは幼き日の約束。
幼き僕は無責任にも応じてしまう。
相手の子とは僕が転校したせいで連絡も取れなくなっちゃったのにね。
「同じ学校だね」
「うん」
小学校まではなんだけどね。
結局約束は守れなかった。
でも、それで良かったと思ってるよ。
( ^ω^)「この学校も懐かしいお」
幼稚園の遊具よりも一回り大きい遊具達はやはり、幼稚園と同じ様に質感を持っていた。
立ち乗り禁止の看板ががブランコの前で生々しく揺れている。
- 6: ◆wZk4NVoY.w :2008/05/05(月) 03:18:17.24 ID:/RBYPSN9O
- 「また、きっと会おうお!」
「うん!」
幼心とは残酷な物で、出来もしないことを引き受けてしまう。
小学四年生、それ以来彼女とは会っていない。
( ^ω^)「まあ、でもね」
会っても仕方ないか。
彼女はきっと怒るだろうし。
( ^ω^)「お、」
景色が揺れた。
そして内藤と書かれた表札が目の前に現れる。
二回建ての、割と大きな一軒家。
純和風の家屋。
間違いない、ここは僕の家だ。
( ^ω^)「と言うことは」
彼女の家もすぐそこにある筈だ。
西洋風の、お洒落な家屋が。
- 7: ◆wZk4NVoY.w :2008/05/05(月) 03:22:44.35 ID:/RBYPSN9O
- 「あら、あんたが此処に引っ越してきた人?」
「そうだお」
「ふ〜ん、冴えないわね」
「何か言ったかお?」
ξ゚听)ξ「何でもないわ
あたしはツンデレ、あんたは?」
「内藤ホライゾン、略してブーンだお」
ξ゚听)ξ「略して無いじゃない」
「あだ名なんだお」
ξ゚听)ξ「何でそんなあだ名になったの?」
「今からやるのを見てると分かるお!」
- 8: ◆wZk4NVoY.w :2008/05/05(月) 03:23:06.67 ID:/RBYPSN9O
- 幼き日の僕が滑走を始める。
足を大きく踏み出して、だんだんと腰を低くしていく。
そして、腕を思いっきり振り上げた。
「ブーーーン!」
風に靡いた髪は日差しで茶色く見えて。
それで。
とても生き生きとしていた。
ξ*゚听)ξ「わ!早ーい」
「飛行機が無くたって、車が無くたって、僕は風になれるし空も飛べるお」
ξ*゚听)ξ「ふん、そんなこと言ってもできないでしょ」
「出来るお!
ほんの少しだけど、本当に飛べるお」
ξ゚听)ξ「ほんの少しってどれくらいよ?」
「…3メートルぐらいだお」
- 9: ◆wZk4NVoY.w :2008/05/05(月) 03:25:57.99 ID:/RBYPSN9O
- ( ^ω^)「意地張るなお、2メートル五十が本当の記録だお」
ああ、しかし。
しかし、なんと気持ちよいのだろう。
思えば、最初に会った時から既に心は君に捕られていたのだ。
この時に僕は、愛しい君に捧げたいが為に飛ぶことを決めた。
ξ゚听)ξ「それじゃあ、駄目じゃん」
「う、五月蝿いお
大人になったらもう少し飛べるようになってみせるお」
( ^ω^)「ははは、」
きっとこの時の僕が思い描いたのはは飛ぶ。
でも、正しいのは跳ぶだ。
誤用万歳。
今になってツンに指摘されなくて良かった。
最も、覚えているか怪しいが。
- 10: ◆wZk4NVoY.w :2008/05/05(月) 03:26:23.47 ID:/RBYPSN9O
- ξ゚听)ξ「じゃ、約束よ
大人になったらもっと飛ぶこと、良い?」
「の、望むところだお」
この後に、自分には短距離走の方が合っていると気付いたのはまた別の話。
これこそが、ツンと僕を結び付けた最大の要因。
今、自分が住んでいる世界の根底を作り上げたんだ。
( ^ω^)「景色がまた変わり始めたお」
揺らいだ景色を上塗りしていくのは白。
いや、灰色だ。
ここは中学校の校舎。
そして、僕にとって最大のトラウマと、最大の幸福を縫い付けた場所。
そして、まずはトラウマが見せられる。
壁の落書きにぶちまけられた白いインクは僕の手によるもの。
消したものは、僕に対する罵詈雑言。
- 11: ◆wZk4NVoY.w :2008/05/05(月) 03:27:05.79 ID:/RBYPSN9O
- 僕は今も昔もメディアを騒がせている行為を受けていた。
そう、いじめだ。
きっかけが何だったか?
そんなものは覚えていない。
あるのは、人間としての誇りと、尊厳と、それらを纏めた人権を僕から奪おうとした奴らの薄汚い笑顔だけ。
生きることは辛く。
そして、つまらない。
これが、僕にとっての常識になっていた。
二年間もの間、僕は救いと出会えなかった。
( ^ω^)「でも、」
僕は、自力では這い出すことも出来なかった生き地獄を二人の人に救われた。
一人は今も親友だと思っているクー。
二人目は、僕の一番大切な人ツン。
世界に光明が差し込んだのは、二人のおかげだ。
- 12: ◆wZk4NVoY.w :2008/05/05(月) 03:29:25.20 ID:/RBYPSN9O
- 最高学年の文化祭。
それに付いてくるもの。
そう、劇だ。
苛められっこが何の役に就いたと思う?
大抵は木とかをやらされるだろう。
だが、僕の場合は違った。
主役を貰ったのだ。
苛めっこの手によって。
「一体何なんだお」
呟く僕には当時、友達は二人しか居なかった。
前述の二人だ。
そして、この主役はそれすらも奪おうとした苛めっこの策略。
- 14: ◆wZk4NVoY.w :2008/05/05(月) 03:32:37.55 ID:/RBYPSN9O
- この学年で最も綺麗なクーや、ツンと仲良く話す僕は嫉妬の対象だったのかも知れない。
だからこそ主役と言う大役に任命したのだ。
クーは学級委員。
ツンは文化祭委員。
つまり、主役である僕が大失敗を犯せば、文化祭の為に四苦八苦したツンとクーの計画がめちゃくちゃになるのだ。
こういう時だけ頭が働く苛めっこ。
今でも心底軽蔑している。
大好きだった陸上も、アイツらに嵌められて辞めるしか無くなった。
苛めっこに強制された内容はこうだ。
とても単純だが、クライマックスでセリフを忘れる。
これだけだ。
だが、自分は当然セリフを全部覚えていた。
- 16: ◆wZk4NVoY.w :2008/05/05(月) 03:33:33.34 ID:/RBYPSN9O
- これは、ツンやクーが僕から離れさせるだけで無く、僕自身に対する侮辱にも繋がった。
僕らが演じるのはタイタニック、
を基にした話だ。
最後の台詞は我ながらなかなか気障だと思う。
「天秤にかける価値も無い」
この一言だ。
そして、僕は落ちて行く。
派手な演出だ。
でも、そのおかげで僕はツンと結ばれた。
僕は苛めっこの約束を無視した。
- 17: ◆wZk4NVoY.w :2008/05/05(月) 03:34:08.04 ID:/RBYPSN9O
- そして、一言こう言った。
「天秤にかける価値もない
僕は劇を越えて、そう思っている」
観衆の声が湧き上がった。
- 18: ◆wZk4NVoY.w :2008/05/05(月) 03:34:36.55 ID:/RBYPSN9O
- ツンは受け入れてくれた。
震えた肩で。
首を小さく振り。
幸せの絶頂の中僕はそのまま落ちた。
僕は、残りの一年を逆に、学年の人気者として過ごすことになった。
- 21: ◆wZk4NVoY.w :2008/05/05(月) 03:35:18.44 ID:/RBYPSN9O
- だが、僕一人でこんなことが出来る訳が無かった。
苛めっこも居る。
なのに出来たのは何故か?
それはクーが居たからだ。
彼女と二人で画策したのだ。
最初の相談の時は難しい顔をしてみせたクーだったが、次に相談した時はいろいろ手回しをしてくれたらしい。
正に形勢逆転。
こうして、僕は今の所普遍的なものを2つ手に入れた。
そして迎えた卒業は、三年になったばかりの僕の想像を遥かに良くしたものとなった。
- 23: ◆wZk4NVoY.w :2008/05/05(月) 03:37:01.31 ID:/RBYPSN9O
- ( ^ω^)「お、」
また場面が変わる。
此処は陸上競技場。
僕の短距離走の記録会だろう。
僕は位置に着いている。
劇鉄を打ち鳴らし、火薬が破裂した。
そして、筋肉が躍動した。
今でも思い出すことが出来る。
一歩一歩の重さを。
踏み出す為に体が重力に逆らい、益々加速していく。
頬を撫でる風は、髪が前に出ることを許さない。
以前、子供の頃に感じた髪を靡かせる風では無く、髪を振り上げる風。
走る度に、空気に質量があるのだと感じる事が出来る。
そして、跳ね上がる脚の内側から湧き出る汗が質量に逆らえずに、後ろに流されていくのも分かった。
ツン以外に、ここまで打ち込めたのは多分これだけだと思う。
- 26: ◆wZk4NVoY.w :2008/05/05(月) 03:43:11.90 ID:/RBYPSN9O
- そして、僕が掴んだ風の結果は一位だった。
僕は必然だと思った。
前に人が居るときは嫌いだった。
風が無いから。
自分で掴む筈の。
意識的なものかも知れない。
それでも僕は嫌いだった。
加速で言えば、当然風が無い方が良い。
空気抵抗を受ければ体はぶれるし、足に負担も掛かる。
そういう意味で言えば、前に人が居た方が良いかも知れない。
でも嫌だった。
スポーツなんてそんなものだ。
みんな、それぞれ何かを感じたくてやっている。
それには、結果が必要なのだ。
- 27: ◆wZk4NVoY.w :2008/05/05(月) 03:44:00.71 ID:/RBYPSN9O
- でも、そんなスポーツですら、ツンに支えられ、続けていた。
僕の一番はツンといつも一緒だった。
これは高校の話。
そして、この記録会は県大会。
当時の僕は、男子百メートルの県記録保持者だった。
今は長岡という高校生が持っているみたいだけど。
彼も高岡という彼女に支えられて陸上を続けているらしい。
彼女もツンも、学校が違うのだが、一度とて大会を見に来ることを欠かしたことは無かった。
だから、スポーツを続ける上で一番必要なのは支えなんだと思う。
所詮男なんてのは見栄を張る相手が大切なのだ。
- 28: ◆wZk4NVoY.w :2008/05/05(月) 03:44:32.96 ID:/RBYPSN9O
- そして、また場面が変わる。
結婚初夜。
初めての契り。
愛娘が出来た要因。
ただ、無我夢中に抱いた。
白い絹の肌を味わうこともせず。
艶やかな唇を楽しむこともせず。
ともかく必死だった。
第一に彼女のことを考えていたのに、彼女は僕の視野の外だった。
何という矛盾だろうか。
情けないことに僕はお互い初体験にも関わらず、その手綱をツンに任せていた。
不器用ね、と照れ笑いをしながら下着を取るツンがとにかく愛おしかった。
この行為は儀礼的なものだった。
肉欲を満たすためではなく、お互いに確認するための。
- 31: ◆wZk4NVoY.w :2008/05/05(月) 03:47:47.41 ID:/RBYPSN9O
- 世界には僕と彼女だけが存在しているように感じた。
世界は広いのだろう。
だが、僕はツンが居ない世界など必要無かった。
所謂、愛とはそんなものでは無いだろうか。
そんな風に思える。
腰を振り、全てを出し尽くし、行為は終わった。
ここだけの話、僕は一番気持ちよい汗をここで流したと思う。
行為が終わった後は、妙な気恥ずかしさから、ツンを見れなかった。
それはツンも同じなようで、そっぽを向きながら、耳を赤らめていた。
だが、僕は敢えてこの気恥ずかしさを断ち切った。
シャワー浴びようか、の一言で。
- 32: ◆wZk4NVoY.w :2008/05/05(月) 03:48:56.21 ID:/RBYPSN9O
- もう切り替わる場面が無いのだろう。
世界が暗転し始めた。
そして、僕は目覚めるのだ。
自慢の妻と、娘に起こされ。
おはようと言われ…
- 34: ◆wZk4NVoY.w :2008/05/05(月) 03:49:48.91 ID:/RBYPSN9O
- 視界が開けてきた。
何故だか、真っ赤だ。
これはどういうことだろうか。
僕は余白を求めて、視界をずらす。
見つけた。
安堵し、次に感じたものに悪態をつく。
( ^ω^)「生臭いお」
ツンが昨日食べた刺身を冷蔵庫に入れ忘れたのだろうか。
ゴツンと、僕の頭にボーリングの球が当たった。
- 35: ◆wZk4NVoY.w :2008/05/05(月) 03:52:42.39 ID:/RBYPSN9O
- ( ^ω^)「なんなんだお?」
8£ほどの球体に振り返ってみる。
ζ(。ー。*ζ
娘の頭?
何故、首が無いのだろうか?
えっ?
娘の首が転がっている?
良く見れば、僕はどうやら床で寝ている。
( ^ω^)「ははは、悪い冗談だお」
ねぇ、デレ
- 37: ◆wZk4NVoY.w :2008/05/05(月) 03:53:39.10 ID:/RBYPSN9O
- 応答は無かった。
(;゜ω゚)「…デレ?」
娘の頭は以前として転がっている。
娘の頭は以前として転がっている。
娘の頭は以前として、頭だけで転がっている。
- 39: ◆wZk4NVoY.w :2008/05/05(月) 03:59:57.93 ID:/RBYPSN9O
- ( ;ω;)「デレ、デレ」
誰がやったんだ。
殺してやる。
同じように。
殺してやる。
僕は、辺りを見回す。
- 41: ◆wZk4NVoY.w :2008/05/05(月) 04:01:56.27 ID:/RBYPSN9O
- そこで、初めて気が付いた。
妻の惨殺死体に。
右腕を何度となく斬りつけられていて。
鼻をグジャグジャにされいて。
指が節毎に折れ曲がっていて。
それで。
( ;ω;)「オオぇ、ゲフ、ゲぇ」
- 43: ◆wZk4NVoY.w :2008/05/05(月) 04:07:04.44 ID:/RBYPSN9O
- 胃から液体が逆流する。
ビチャビチャと音を立てて、僕は撒き散らす。
そこで、声がした。
(* )「指切りげんまん嘘付いたら針千本の〜ます」
それは、遠い約束で。
- 45: ◆wZk4NVoY.w :2008/05/05(月) 04:08:07.42 ID:/RBYPSN9O
(*゚ー゚)「指切りげんまん嘘付いたら針千の〜ます」
「指切った」
( ^ω^)長さ五センチ幅一ミリのようです
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