- 44: ◆wZk4NVoY.w :2008/05/03(土) 00:35:15.30 ID:cI9aKVKdO
- ( ;^ω^)「いやいやまさかまさか」
だが直ぐに打ち消す。
いくらアグレッシヴな性格の母ちゃんとはいえ、その行動力をこんな方向に向けはしないだろう。
- 45: ◆wZk4NVoY.w :2008/05/03(土) 00:36:55.98 ID:cI9aKVKdO
- じゃあ、何故こんな事を?
( ;^ω^)「き、きっとお見合い写真かなんかだお。そうだお、そうに決まってるお」
無理矢理に否定。
気を紛らす為、もう一つページを捲る。
( ;^ω^)「……」
また、同じ光景がそこにあった。
五流阿擬古太。1956年生まれ。趣味は……。
( ;^ω^)「…次、次はどんな男なのかお〜?」
疋田独夫。1955年生まれ。魚座……。
( ;^ω^)「……」
またも写真の中で笑う見知らぬ男、連綿と書き連ねられた彼の生い立ち。
そして。
- 48: ◆wZk4NVoY.w :2008/05/03(土) 00:39:25.34 ID:cI9aKVKdO
- ( ;^ω^)「……不味かった?」
ページの一番下、隅の方。
その一文だけ、粗野な文字で。
一言。
“不味かった”
- 49: ◆wZk4NVoY.w :2008/05/03(土) 00:40:00.77 ID:cI9aKVKdO
- ( ;^ω^)「どう…いう…意味だお」
わからない。
何が不味かったのか。
あまりにも唐突過ぎて。
わからない。
それでも、僕はまたページを捲るのを止めない。
何故か。
それもわからない。
ただ、気付いたら捲っていた。
そして。
( ;^ω^)「……っあぅ…ああ」
わかった。
何が、不味かったのか。
- 52: ◆wZk4NVoY.w :2008/05/03(土) 00:42:05.33 ID:cI9aKVKdO
- “酒屋曙凡。1951年生まれ。獅子座。O型。
中肉中背。運動不足により贅肉が多めについていた。
太もも→甘い。脇腹→塩辛い。総評→久しぶりのご馳走”
( ;^ω^)「……っ」
ページを、捲る。
何故、なんて聞かないでくれ。
僕が聞きたいくらいだ。
( ;^ω^)「…っい…」
“流石家兄弟。1949年生まれ。双子。兄→全体的に締まりの取れた体の為、歯ごたえがあった。味はいまいち。弟→不味い。最悪”
( ;^ω^)「……ぁっ」
ページを捲る度、次から次へと現れる見知らぬ男の写真と、彼らについての「感想」。
母ちゃんはグルメだなぁ、なんて頭の中の冷めた部分が呟いた。
- 53: ◆wZk4NVoY.w :2008/05/03(土) 00:42:57.63 ID:cI9aKVKdO
- ( ;^ω^)「……はは、冗談…だおね。冗談。母ちゃん、僕を驚かせようとしてこんなアルバムを……」
冗談。そうか、冗談か。
それならどうして僕はこんなにも取り乱している?
どうして次のページを捲ろうとしている?
わからない。
わからない。
捲りたくない。
捲るべきか。
どうして。
わからない。
わからない。
僕は、ページを捲った。
- 56: ◆wZk4NVoY.w :2008/05/03(土) 00:44:34.45 ID:cI9aKVKdO
- ( ;^ω^)「……あ」
茶色いシミが点いたページ。
写真の中で僕を見ている男の顔を、僕は知っている。
( ;^ω^)「……この人、確か…」
僕が中学一年生の夏頃、家に出入りしていた男だ。
交際相手だと思って複雑な気持ちで彼を見ていたが、1ヶ月も経たない内に姿を見なくなったのを覚えている。
( ;^ω^)「まさか……」
“雄綿祐二。1958年生まれ。美味”
( ;^ω^)「はは…まさか、だお。馬鹿馬鹿しい」
ページを捲る。
次の男にも、見覚えがあった。
その次も、その次も。
みんな、少しの間僕の家に出入りしていた男の人だ。
- 57: ◆wZk4NVoY.w :2008/05/03(土) 00:45:06.70 ID:cI9aKVKdO
- 母ちゃんは、どんな目的であの人達を家に招いていたのか。
( ;^ω^)「……僕の、考え過ぎだお」
考え過ぎだ。
第一、この訳のわからないコメントだって、僕には不気味に映るとしても母ちゃんはまた違った意味で書いていたのかも知れないじゃないか。
( ;^ω^)「……そうだお。もしかしたら」
もしかしたら、何か別の意味があるかも知れないじゃないか。
( ;^ω^)「早とちりは、良くないお」
- 59: ◆wZk4NVoY.w :2008/05/03(土) 00:46:02.84 ID:cI9aKVKdO
- そうだ、早とちりは良くない。
確認、しなきゃ。
だから、僕はページを捲ったんだ。
- 60: ◆wZk4NVoY.w :2008/05/03(土) 00:47:08.32 ID:cI9aKVKdO
( ;゚ω゚)「うわぁぁぁぁぁぁぁあ!!」
六畳二間、バスとトイレ完備、フローリング。
僕の新たな根城に、絶叫が響き渡った。
( ;゚ω゚)「あああ……ぅっ…ああ…うあぅ……」
アルバムを、放り投げた。
自己防衛の為に投げた。
逃避の為に投げた。
そこに写っているものから目を背ける為に、アルバムを投げた。
( ;゚ω゚)「はぁ…はぁ…はぁ…嘘だお…嘘だお…嘘だお…」
出来るなら嘘であって欲しい。
出来るなら嘘であって欲しかった。
- 63: ◆wZk4NVoY.w :2008/05/03(土) 00:48:15.17 ID:cI9aKVKdO
- だが、それを嘘と言い切る自信は今の僕には無い。
( ;゚ω゚)「なんなんだお…これ、なんなんだお……」
そのページは、かつては真っ赤だったのだろう。
赤茶けた染みが、ページ全体を覆う中、その写真は、そこに映し出された被写体は、未だ色褪せず生々しい光沢を持って僕の眼球に飛び込んで来た。
- 68: ◆wZk4NVoY.w :2008/05/03(土) 00:49:35.14 ID:cI9aKVKdO
- 腕、脚、胴、頭。それら全てが綺麗にベッドの上に並んでいた。
目玉、歯、性器、指。それら全てが綺麗に皿の上に並んでいた。
鋸、鉈、ナイフ、メス、フォーク、スプーン。それら全てが綺麗に朱色を帯びていた。
解体現場、屠殺工場、解剖実験。そんな言葉が頭に浮かんできた。
認めたくない。
どうしても認めたくない。
これが殺人現場の、人を殺して解体した後を写した写真だなんて認めたくない。
( ;゚ω゚)「……あっう…うぅあ…」
そして、何よりも認めたくない事は。
- 72: ◆wZk4NVoY.w :2008/05/03(土) 00:50:37.72 ID:cI9aKVKdO
- ( ;゚ω゚)「この…顔…もしか、して」
目玉の無い、虚ろな空洞。
その周りを象る、青ざめた輪郭は。
その物言わぬ輪郭は、若かりし日の母ちゃんの横で笑っていた男性、その人では無いか。
( ;゚ω゚)「……父ちゃん…?」
確証は、無い。
ただ、もしもこの人が父ちゃんだとしたら。
( ;゚ω゚)「父ちゃんが…いないのは…母ちゃんが……」
殺したから。
( ;゚ω゚)「違う!母ちゃんはそんな事…!」
母ちゃんは、父ちゃんがどうしていないのかを聞く度にごまかしていた。
( ;゚ω゚)「違う!母ちゃんは…!」
- 75: ◆wZk4NVoY.w :2008/05/03(土) 00:52:28.55 ID:cI9aKVKdO
- 交際相手も、次々と姿を見なくなった。
( ;゚ω゚)「違う!母ちゃんは、僕の事が一番大事だったから男と遊んでいる暇が無かったんだお!」
アルバムには、彼らの「味」についての感想が記されていた。
( ;゚ω゚)「違う!母ちゃんは…母ちゃんは……」
認めたくない。
母ちゃんはそんな人じゃない。
僕の母ちゃんは、いつも優しく笑っていた。
僕の知っている母ちゃんは、いつも僕の為に愚痴一つ言わずに頑張っていた。
( ;゚ω゚)「僕の知っている母ちゃんは…!」
僕の知っている母ちゃんは、どこだ。
そうだ、僕の知っている母ちゃんはどこだ。
- 77: ◆wZk4NVoY.w :2008/05/03(土) 00:53:07.69 ID:cI9aKVKdO
- ( ;゚ω゚)「……ああぁ…嘘だ…」
アルバムの、血塗られたページのもう一方。
目玉の無い男の顔の隣に並んだ、目玉の無い女の顔。
( ;゚ω゚)「あぅ…あぁぃ…ぃぃイヤだ…嘘だお…」
見覚えがあった。
( ;゚ω゚)「そんな事…あるわけ無いお」
よく知っている人の顔だった。
昔から、誰よりも一番よく知っている人の顔だった。
( ;゚ω゚)「嘘…だお」
母ちゃんの、顔だった。
( ;゚ω゚)「嘘だおおおぉぉぉぉお!!」
- 86: ◆wZk4NVoY.w :2008/05/03(土) 00:55:59.40 ID:cI9aKVKdO
- 生首だった。
首から下は、どこにいったのか。
探せば、簡単に見つかった。
皿の上に、綺麗に盛り付けられていた。
美味しそうに、盛り付けられていた。
( ;゚ω゚)「嘘だお!嘘だお!嘘だお!母ちゃんは!母ちゃんは!母ちゃんは!」
胃液が喉元までこみ上げてきた。
気持ち悪い。
吐きそうだ。
吐けばすっきりする。
吐けば夢から覚める。
- 87: ◆wZk4NVoY.w :2008/05/03(土) 00:56:47.06 ID:cI9aKVKdO
- そうだ。これは夢だ。悪趣味な夢だ。
吐けば覚める。目が覚める。目が覚めたら僕はベッドの上。今日からのゴールデンウイークを、いつも通り漫然と過ごすんだ。
そこに母ちゃんが加わって……。
( ;゚ω゚)「夢だお…夢だお…」
乾いた電子音が、耳を震わせた。
- 91: ◆wZk4NVoY.w :2008/05/03(土) 00:57:38.84 ID:cI9aKVKdO
- ( ;゚ω゚)「ひっ!」
唐突な音に、びくつく。
落ち着け、僕、ただの電話の音だ。
僕の携帯が鳴っただけだ。
( ;゚ω゚)「携帯……」
取り出す。
呼び出し者、母ちゃん。
( ;゚ω゚)「うわぁっ!」
- 96: ◆wZk4NVoY.w :2008/05/03(土) 00:58:49.17 ID:cI9aKVKdO
- とっさに、終話ボタンを押す。
留守録メッセージへの切り替わり。
『もしもし、ブーン?どうして出ないの?居るんでしょ?ねぇ?ブーン?どうして出ないの?居るんでしょ?携帯、握ってるんでしょ?ねぇ?ブーン?どうして出ないの?ねぇ?ブーン?携帯、今、握って居るんで…』
( ;゚ω゚)「あぁぁぁぁぁぁぁあ!!」
飛び退く。
携帯を取り落とす。
流れ続ける、「母ちゃん」の声。
- 98: ◆wZk4NVoY.w :2008/05/03(土) 00:59:55.23 ID:cI9aKVKdO
- ( #;ω;)「誰だお…誰だお…こいつは誰なんだおぉぉぉお!!」
叫ぶ。
泣き叫ぶ。
かきむしる。
頭をかきむしる。
誰だ。こいつは誰だ。
僕の母ちゃんはどこだ。
何なんだ。一体何なんだ。
どうしたってんだ。
落ち着け。落ち着こう。落ち着きたい。
助けて。誰か助けて。僕の母ちゃんを返して。僕の母ちゃんはどこに居るんだ。
家族だ。母ちゃんは家族なんだ。僕の一番よく知っている、僕の一番近くに居た人なんだ。
- 101: ◆wZk4NVoY.w :2008/05/03(土) 01:01:39.39 ID:cI9aKVKdO
- ( ;ω;)「家…族…?」
そうだ、家族だ。忘れるところだった。
もう一人、居るじゃないか。二番目に僕のそばに居た家族が。
( ;ω;)「そうだ…ジョルジュ…おじさん……」
ジョルジュおじさんなら。
ジョルジュおじさんに会えば、こんな夢も覚める筈だ。
ジョルジュおじさんは僕の家の近くに住んでいる。
呼べばすぐ来てくれる。
そうだ、ジョルジュおじさんに電話しよう。
( ;ω;)「はぁ…はぁ…はぁ…」
力無く立ち上がり、据付の電話に歩み寄る。
携帯電話は、使う気になれない。
たどたどしい指先で、ダイヤルを回す。
- 105: ◆wZk4NVoY.w :2008/05/03(土) 01:02:33.61 ID:cI9aKVKdO
- ( うω;)「う…あ…ふっ……」
受話器を耳に当てる。
小さな小さな呼び出し音。
それでも、聞いてるだけで落ち着くような、音。
間もなく、繋がった。
『おぅ、どうしたブーン?』
あっけらかんとした声。
肩が急激に軽くなるのがわかった。
ため息が、思わず漏れた。
『…ん?なんだいなんだい、ため息なんかついちまって。なんか悩み事か?』
( うω;)「ううん…そんなじゃなくて…あの……」
- 107: ◆wZk4NVoY.w :2008/05/03(土) 01:03:48.14 ID:cI9aKVKdO
- なんと言ったものか。
いきなり全てを伝えていいものか。
僕自身、訳が分からないこの状況。
ジョルジュおじさんも混乱させるだけだ。
無難なのは……。
( ´ω`)「その…今日、母ちゃんがこっちに来るんだけど、何かちょっとしたサプライズを用意したいお。それで、ジョルジュおじさんも……」
母ちゃん。そうだ、今日は母ちゃんが来るんだ。
母ちゃんか…久しぶりだなぁ。
『ん?あいつが来るのか?……あぁ、そういえばそんな事も言ってたっけ』
( ´ω`)「うん…何か、母ちゃんをこう…びっくりついでに喜ばせるようなこう…」
- 110: ◆wZk4NVoY.w :2008/05/03(土) 01:04:18.69 ID:cI9aKVKdO
- 母ちゃん……。
『おkおk、それじゃあ何か美味いもんでも買って行ってやんよ』
元気にしてるかなぁ……。
( ´ω`)「それは…助かるお」
ああ、ジョルジュおじさん……やっぱりあれは、僕の思い過ごしなんだろうね。
ジョルジュおじさんはいつも通り、変わらないし、開け放した窓の外では小鳥がいつも通りにさえずっている。
付けっぱなしのテレビからはいつも通りにニュースキャスターの声が……。
- 117: ◆wZk4NVoY.w :2008/05/03(土) 01:06:42.44 ID:cI9aKVKdO
- ( ^ω^)「……えっ?」
付けっぱなしのテレビ……?
『うーん…何がいいかなぁ。やっぱり寿司かなぁ……』
昨日寝る前に、テレビは付けっぱなしだったっけ?
( ^ω^)「いや、そんな…事は……」
昨日、寝る前に窓は開けっ放しだったっけ?
( ;^ω^)「……そんな筈…」
『ブーン、何がいいと思う?』
後ろで、何かが立ち上がる音がした。
( ;゚ω゚)「……ま、さ、か」
『おい、ブーン?』
- 120: ◆wZk4NVoY.w :2008/05/03(土) 01:07:24.73 ID:cI9aKVKdO
- 後ろで、何かが立ち上がる音がした。
( ;゚ω゚)「……ま、さ、か」
『おい、ブーン?』
後ろで、何かが動く音がした。
「ねぇ、どうして電話に出ないの?ねぇ?どうして?」
う し ろ で
…end
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