28: ◆wZk4NVoY.w :2008/05/04(日) 00:26:12.96 ID:YnidVdG+0
( ・∀・)「それで、当時のクラス名簿を貸して頂きたいのですが……」

『その同窓会……モナも参加した方がいいモナ?』

( ・∀・)「……忙しいのならば無理には。残念ですが……」

一瞬だけ、沈黙が流れた。

『……分かったモナ。貸してあげるモナ。いつ頃取りに来るモナ?』

( ・∀・)「いえ、お忙しいでしょうし、学校のポストにでも入れておいて下されば……」

一応、モナー本人の前に出る事も、ショボンの代わりで取りに来たと言ってしまえば可能だ。
だが出来る限り姿を晒す事は避けたい。
僕はただ呼ばれたから参加した。それだけの存在であるべきなのだ。

昔、似たような事をやらかした馬鹿がいた。
厳密に言うならば、僕は彼と違い復讐などを目的とはしていないのだが。

彼の失敗は二つある。

一つは自分の計画書を自宅にそのまま放置していた事。
そもそも犯罪が露呈する要素である証拠を、自らの手で増やすなど愚の骨頂だ。
ほんの少し考えれば分かる事じゃないか。

二つ目は自らが積極的に幹事を務めた事だ。
苛められっ子だった人間がそのような事をすれば、訝しまれるのは当然だろう。



31: ◆wZk4NVoY.w :2008/05/04(日) 00:27:38.14 ID:YnidVdG+0
『把握したモナ。んじゃ、明日入れとくから早めに取りに来て欲しいモナ』

( ・∀・)「はい、ありがとうございました」

とにかく、計画の足掛かりは順調に終える事が出来た。

それから数日間、僕は暗躍を続けた。
匿名で全員に招待の手紙を出した。勿論自分宛てにもだ。
他人の名前を騙って会場を用意した。
抜かりは無い。同窓会が出来上がるまでの過程に、僕の姿は一切無かった。

とは言え、綻びなく同窓会を進められるのはここまでだろう。
幹事もいない、誰一人予約した覚えの無い店で開かれる同窓会など、ありはしないのだから。

だから、同窓会を開く必要など無いのだ。
肝心な事は、同窓会を開く予定だったと言う事だけだ。

僕の手には今、四通の手紙がある。
どれも機械を用いて書いた物だ。最近では別段珍しくも無い事だ。。
取り扱いにも手袋を着用したから、どうあっても僕には繋がらない。

失敗無く事が運べた事を頭の中で反復して、僕は手紙をポストに投函した。



34: ◆wZk4NVoY.w :2008/05/04(日) 00:29:17.85 ID:YnidVdG+0
――同窓会をやろうと言う手紙が届いたのは、春休みが始まるほんの数日前だった。
まぁ家が見事なまでに中流家庭である俺にはどっかに出掛けるなんて予定も無かった訳で、何ら問題は無いのだが。
あまりに唐突だったので、少し面食らってしまった。

そしてこの前、何故だか買出しに来てくれとの手紙が届いた。
くじでランダムに選んだとの事だが、全く運がない。

つーか送り主の名前が書いてないじゃねぇか。
拝啓だとかプギャー様だとか、やけに改まった文章書く割にゃ抜けてやがる。

( ^Д^)「……そもそも何で待ち合わせ場所がこんな夜の屋上駐車場なんだ」

風で上着がバタついて鬱陶しい上に、クソみたいに寒いときた。
まだ学校のある奴がいるからだって書いてあるが、それなら別にゲーセンなんかでもいいじゃねぇかっての。

そんな事を一人内心で愚痴っていると、背後で足跡が聞こえた。

コンクリの床を擦る、ざっざと言う音が近づいてくる。
誰だろうか。とりあえず女じゃなさそうだ。
俺は暇潰しに愚痴の種にしていた手紙を上着のポケットに捻り込む。
そうして後ろを振り返った。


俺の眼前に、褐色の四角い瓶が迫っていた。



37: ◆wZk4NVoY.w :2008/05/04(日) 00:31:27.83 ID:YnidVdG+0
(  Д )「がっ……!? 痛ぇ……」

瓶が割れる音と同時に、音にならない音が頭の中で響いた。
額がパックリと割れて、夥しい血が溢れ出ていくのが分かる。

左目の視界が真っ赤に染まる。
砕けた瓶の破片が右目の中に減り込んだ。

眼球にプツリプツリと、破片が入っていく。
擦っても取れやしない。それどころか、眼の奥底で虫みたいに蠢き回りやがる。

取り返しのつかないような感覚が、心臓を締め付けてくる。

(; Д )「誰……だ……」

目が見えない。頭の中が真っ白だ。足がふら付く。
運動した訳でもないのに、呼吸が嫌に乱れる。

逃げなくては。音が聞こえる。奴が歩み寄ってくる音だ。
出口はどっちだ――あぁ、奴の向こう側だった。

突き飛ばされた。背中に堅くて冷たい物がぶつかった。
音が聞こえた。風を切る音だ。



39: ◆wZk4NVoY.w :2008/05/04(日) 00:33:07.04 ID:YnidVdG+0
(  Д )「……ぁ」

首が焼けるように熱い。
それなのに、何故か体は冷えていく。

水音が酷い。まるで雨が降っているようだった。
足に力が入らなくて、俺はその場にへたり込んだ。

だがすぐに、足どころか体全体に力が入らなくなっていった。
寒い。上体がふらふらする。維持できない。

糸の切れた人形のように、我ながら無様に前に倒れた。
びちゃりと水音がした。

視界は真っ赤だった。
だが急に、視界の端が黒く染まっていった。

段々と黒が赤を覆っていく。


やがて、赤は完全に黒に飲み込まれてしまった。



41: ◆wZk4NVoY.w :2008/05/04(日) 00:34:45.54 ID:YnidVdG+0
――無様に頭を垂れて絶命したプギャーが、僕の目の前に転がっている。
凶器に使った瓶は、そこいらの浮浪者から掠めてきた物だ。
僕の物ではない指紋が、びっしりとこびり付いている。

この殺人に計画性は無い。
夜風を浴びるべく屋上に来た酔っ払いが不良に喧嘩を売り、もしくはその逆の事が起こり、結果不良生徒が絶命すると言う不運な事件だ。
揉めあっている内に、割れた瓶が彼の喉元に突き刺さってしまっただけなのだ。

警察が聞き込みをすれば、酒瓶を持って足取りの覚束ない男が、店の中へ入っていったと証言が出るだろう。

そしてその体型や身なりは、僕とは似ても似つかないのだ。
帽子を深く被り、手袋を嵌め、シークレットシューズを履き、厚い上着の内側には肩パッドがいれてある。
身長もそれ程高くない、体つきもいいとは言えない僕とは、正反対の犯人像が証言されるんだ。

そして酔っ払いは慌てて逃げ出そうとするが――そこで彼にとって運の無い事が起きるのだ。

同窓会で買出しに呼ばれていた人間は、一人では無かったのだ。
その気配を感じた酔っ払いは、入り口から見えない所に姿を隠すんだ。
死体は上手い事――実際には僕がそのように追い込んだのだが、ぎりぎり出口から見えない所にある。

ミ,,゚Д゚彡「おー、まだ誰も来てないみたいだなー。……っと、一番乗りー!」

ξ゚听)ξ 「こーら、夜に大声ださないの。迷惑でしょーが」

一組の男女が、屋上に入ってきた。
彼らはフサとツン。僕の元クラスメイトだ。
学校の有無や電車の時間から、プギャーの次に来るのは彼らだと分かっていた。



44: ◆wZk4NVoY.w :2008/05/04(日) 00:36:14.90 ID:YnidVdG+0
最初は何とか凌げるだろうが、不自然に散らばるガラスの破片や異臭に、いつまでも彼らが気付かない訳は無い。
やがて彼らは、

ξ;゚听)ξ 「……何……これ……? プギャー……君?」

ミ,;゚Д゚彡 「……ッ! ツン、見ちゃ駄目だ!」

出口の影に転がる死体に気付いてしまった。
同時に、酔っ払いは出口を塞ぐように飛び出すのだ。

酔っ払いの存在に気付いて、いち早く行動を取るのはフサだ。
ここは屋上駐車場、自分達が入ってきた出口の他にもう一つ、車が上ってくる通路がある。

ミ,;゚Д゚彡 「ツン! 逃げろ!」

酔っ払いに対峙しながら、彼はツンを通路の方へと誘導する。
彼女は一瞬フサの事を顧みながらも、すぐに通路の闇へと消えていった。

だが、これでいいのだ。
完全犯罪である必要は無い。
むしろこの事件が単なる偶然だと証言してくれる者がいた方が、好都合だ。



46: ◆wZk4NVoY.w :2008/05/04(日) 00:38:05.10 ID:YnidVdG+0
ミ,;゚Д゚彡 「よくも……よくもプギャーを!」

恐怖を顔に宿しながらも、フサが吼えた。

(;;・∀・;;)「う……うるせぇ! そいつが先に喧嘩を売ってきやがったんだ! 悪いのはそいつなんだよ!」

裏返ったような声で言葉を返す。
状況に応じて言葉の調子を変えると言うのは、普段からやっている事だ。問題ない。
ついでに『この事件はやはり単なる喧嘩の延長なのだ』と彼に印象付けた。

割れた切っ先が彼を掠めるように、瓶を振るう。
左目の横が切れて、高校生には余りある恐怖を齎すであろう血が流れ出た。

ミ,;゚Д゚彡 「く……くそっ!」

怖気づいたのだろう、彼は身を翻して逃げ出した。
だが決して臆病でも、間違った判断でもない。既にツンも結構な距離を逃げる事が出来ただろう。
これでいい。

顔を見られたが、全く問題は無い。
土や埃等を塗してある上に、灯油を皮下に注射しておいた。
汚れている上に、ぶくぶくと太った印象を与える顔にしてある。
どこからどう見ようとも、僕の容姿には繋がりはしない。



49: ◆wZk4NVoY.w :2008/05/04(日) 00:40:26.42 ID:YnidVdG+0
これで、必要な条件は全て揃った。

同窓会が開かれると聞いた皆の胸には、期待や懐旧の気持ちに溢れているだろう。

それを打ち砕くように不幸な、余りにも悲し過ぎる事件が起こる。

僕にとっては苛めっ子だったとは言え、大半の者に慕われていたプギャーが殺された。

そして、犯人は捕まらない。

一年後も、十年後も、永遠にだ。


そうして誰も過去を語ろうとは、しなくなるのだ。



51: ◆wZk4NVoY.w :2008/05/04(日) 00:42:04.37 ID:YnidVdG+0
(・∀ ・) 「……誰? 君?」

階段の下から声が聞こえる。
僕が呼び出した、最後の一人が来た。

彼は3-Cで、唯一僕を苛めなかった人間だ。
いや、厳密に苛めなかったと言うなら、さっきのフサやツンにも苛められた訳ではない。
彼らは『何もしなかった』。

対して彼は――僕を手助けしてくれた。

机を他の教室から持ってきてくれた。
教科書を貸してくれた。
上履きを探してくれた。
落書きを消すのを放課後遅くまで手伝ってくれた。

いつだって、笑いながら僕を助けてくれたんだ。

だからこそ、彼は殺さなければならない。

彼ならばあり得るのだ。
たとえ誰もが忘れたくなるような惨劇があったとしても、またいつか笑いながら僕に話しかけてくる。
そんな事が、彼ならばあり得るのだ。

彼だけは、僕がこの手で断ち切らなければいけない。



54: ◆wZk4NVoY.w :2008/05/04(日) 00:43:37.72 ID:YnidVdG+0
階段の下で首を傾げる彼に、僕は飛び掛った。
二重に着ておいた上着を脱いで、それを血避けに僕は彼の肩口を突き刺した。
血が噴水のように噴き上がる。

悲鳴を上げられるよりも先に、上着を彼の口に押し付けた。
彼の目は恐怖を湛え、涙が浮かんでいた。
彼のそんな表情を、僕は始めて見た。

でも関係ない。
僕はその目を、ざっくりと抉り穿った。

スプーンでプリンを掬い取るように、手首を返して目玉を削る。
人間の目と言うのは、存外堅い物だ。
不自然に歪曲した断面が、目玉に出来上がった。

片方ずつ、丹念に、念入りにだ。

暴れる腕と足が鬱陶しかったから、四肢をそれぞれ一刺しした。
階段の踊り場があっと言う間に真っ赤に染まった。



56: ◆wZk4NVoY.w :2008/05/04(日) 00:45:20.02 ID:YnidVdG+0
腹を刺し、数回瓶を捻る。

水気を豊富に含んだ柑橘類を齧った。そんな感覚がした。

瓶に刺された傷は傷口が不規則で、治療が困難だと言う事を思い出した。

改めて見てみると、ずたずたに裂けたボロ雑巾のような肉が見えた。
気味悪く変色した皮膚と、それとは裏腹に真っ赤に染まった傷口に後悔と吐き気が込み上げたが、何とか押さえ込んだ。

もう助からないだろう。

そうは思ったが、念の為に首に瓶を突き入れて、一回転させた。
頚動脈が切れたのか、肩口とは比べ物にならない血が噴き出してきた。

返り血を浴びないよう細心の注意を払いながら、僕は屋上に戻った。
それから急いで車が使う通路、ツンやフサの使った道を通って店を出た。

既に通報されていても、おかしくない頃合だ。



58: ◆wZk4NVoY.w :2008/05/04(日) 00:46:39.07 ID:YnidVdG+0
急いでその場から離れ、近くにある廃ビルへと向かう。
誰にも見られる事は無かった。夜遅いとは言え、幸運だ。
やはり迅速に、着替えを済ます。

顔を洗い、皮下の灯油を取り除いて、それから体に染み付いた臭いを消した。

そして制服に着替え直す。

手紙に書いておいた『まだ学校のある人間』とは僕の事だ。
新学校である為、春休みも他に比べて遅いのだが、今回はその事が奏功した。
帰りが多少遅くても、親に訝しまれる事はない。

今回使った道具や衣服は、全て隠して持ち帰り後日始末する。
荷物が多いのは、春休み前で持ち帰る物が多いからだと言う理由がある。

抜かりなく、計画は終わりを告げた。


その日の晩、僕は夢を見なかった。



60: ◆wZk4NVoY.w :2008/05/04(日) 00:48:07.60 ID:YnidVdG+0
【エピローグ】

僕達の春休みが始まったのは、他の学校よりも三日ほど遅れての事だった。

既に同窓会が中止になった旨は、僕を含めた全員に通達されている。
この一件はモナーが処理したらしく、通達には余計な事が一切書かれていなかった。

つくづくクズだと思ったが、僕としてはありがたい事だった。

東から吹く春風が、鼻腔に甘い香りを運んできた。
視界の上では桜の花が緩やかに揺れ踊り、その内の何枚かがひらひらと落ちていく。

風流で穏やかな風景だ。僕はこの風景に、僕の心中が見えた。

宙に舞う桜の花を数枚掴み取る。
こうして落ちていく花びらがあるからこそ、この風景は成り立っているのだ。

必然なんだ。

落ちるべくして、この花びら達は落ちていったのだ。
僕は掌の中にある花びらを風に乗せ、再び宙へとばら撒いた。



63: ◆wZk4NVoY.w :2008/05/04(日) 00:49:08.76 ID:YnidVdG+0
(*゚∀゚) 「おー、綺麗だねー!」

それを見て、つーが笑った。
僕の大好きな、屈託の無い笑いだ。

これもやはり、あの花びらが飛んでいったからこそ、だ。

僕は歩き出す。並んで、つーが付いて来る。

僕の前には道がある。この先ずっと続いていく道が。
僕の後ろに道は無い。僕の足跡は最早誰も語らない、明かされない。

春休みにはどこへ行こうか。つーと一緒に花見でもしようか。
それとも無難に映画でもいこうか。買い物でも、カラオケでも、僕はもうどこへでも行ける。
楽しみだ。

笑いが込み上げる。
とても気分がいい。
僕の人生は、前途洋洋だ。



―Fin―



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