2: ◆wZk4NVoY.w :2008/05/06(火) 00:04:24.80 ID:kBqFGC4p0
気がつけば僕は祖父が残した写真に見入っていた。

( ^ω^)「……」

そこに広がっていたのは、過去の産物の一言で片づけられるほど愉快な世界じゃない。
そう、月並みな表現になるが、まさに吐き気のするような光景。


『( 、 *川』

体から赤茶の湯気を立たせる黒焦げの死体。


『(*;∀;)』

溶けた皮膚を地に舐めさる、もはや性別も分からない死にかけの人。


『(,,-Д-ー-)』

二人抱き合ったまま死んだのか、ドロリとした大きな塊。



3: ◆wZk4NVoY.w :2008/05/06(火) 00:04:51.62 ID:kBqFGC4p0
数枚ある写真の内、裏に書き込みのあるものが一枚だけあった。




「VIP村にて」




ただそれだけが、妙に震えた文字で。








( ^ω^) 廃村に行くようです



5: ◆wZk4NVoY.w :2008/05/06(火) 00:06:16.19 ID:kBqFGC4p0
今から一週間前のこと。

僕の属する某国家組織の特殊部隊が突然、
揃いも揃って上官の荒巻に呼び出された。

/ ,' 3「この度、君達にある任務を課すこととなった」

( ・∀・)「こーんな大勢で動くということは、相当なヤマなんでしょうね」

モララーの言う通りだ。
ざっと見回したところ、自分を含めて丁度二十一名がこの場に呼ばれている。
ただの犯罪容疑者捜査にはちと多い。

/ ,' 3「君達にはVIP村が現在、どのような状態にあるのかを調べて欲しいのだ」

ξ゚听)ξ「VIP村? そこで何か起きたのですか?」

/ ,' 3「小型の核兵器がドカンとな」

ξ゚听)ξ「はあ、それは大変で……」

ξ;゚听)ξ「って、核兵器ぃ!!?」

荒巻の口から飛び出してきた言葉は、僕が予想だにしなかったものだった。
と言っても、他の隊員にとってのそれとは意味が違う。

僕は核の風に晒された村がここアメリカに存在するということを、
予想外と感じたのではない。
VIPという村と僕とが結び付いたことを驚いたのだ。



6: ◆wZk4NVoY.w :2008/05/06(火) 00:07:19.15 ID:kBqFGC4p0
荒巻の話によるとこうだ。

今から五十年以上もの昔、
戦後のどさくさに紛れてアメリカの乗っ取りを考えた者がいた。
彼は科学者としては優秀な頭脳を持っており、国家転覆のための切り札として、
辺境に位置するVIP村で密かに核兵器を完成させようとしていた。

だが、そこで何が起きたのか。
ある日VIP村は爆発と共に壊滅。

政府は国家の威信が薄れる事を恐れ、
放射線に満たされたその土地を社会的に消し去った。

( ・∀・)「しかしこの度、事件を強く口止めしていた高官さんが“偶然”亡くなった。
      そんで晴れて重要な地下資源の眠るあの土地を調査できるようになった、と」

モララーは荒巻の話をそうまとめた。
僕達二人は今、変わった任務についてあれこれ考えを巡らすため、
空いた会議室を借りて話し込んでいるのだ。

( ^ω^)「特殊状況下で行動する訓練がこんな形で生かされるとは、
       あまり考えなかったお」

( ・∀・)「いやはや、僕らは雑用係じゃないってのにね」



7: ◆wZk4NVoY.w :2008/05/06(火) 00:08:25.64 ID:kBqFGC4p0
VIP村は、高い山々に囲まれた盆地だ。
放射線がほとんど外部に漏れなかったのも、その地形のおかげだとか。

( −ω−)「にしても、本当に凄い偶然だお」

僕は軽く目をつむり、祖父が残したVIP村の写真を思い浮かべながらそう呟いた。

( ・∀・)「何がだい?」

( ^ω^)「……何でもないお」

( ・∀・)「ふーん。ま、余計な詮索はよしとくけどよ」



10: ◆wZk4NVoY.w :2008/05/06(火) 00:10:33.02 ID:kBqFGC4p0
モララーとの会話を切り上げた僕は、すぐさま帰途についた。

( ^ω^)「ただいま」

一人暮らしなのだ、家に誰もいないことは分かっている。
だがしかし、帰り際ただいまと言ってしまう習慣はなかなか抜けない。

そうして僕は自室に入り、
祖父が残した写真を久し振りに引き出しから取り出した。

( ^ω^)「……相変わらず悲惨な写真だお」

そこに映っているのは被爆直後のVIP村。
ジャーナリストであり、白血病で死去した祖父が撮ったものだそうだ。
この写真がどのようにして撮られたかは知らない。

『国を信用し過ぎるな』

祖父が残したというこの遺言から何かを予測できそうな気はする。
だがしかし、結局は推測の域を出ないのだ。



11: ◆wZk4NVoY.w :2008/05/06(火) 00:12:12.38 ID:kBqFGC4p0
任務を伝えられてから一週間、つまりは今現在。
僕達二十一人は数台のジープでVIP村へと向かっていた。

从 ゚∀从「ったく、走り難い道だな!」

運転席に座る同僚のハインリッヒがそうボヤく。

( ^ω^)「ずっと封鎖されていた道だし、仕方ないお」

( ・∀・)「そうそ、あんまりかっかしてると小皺が増えるぞー」

从#゚∀从「っせえ!!」

この短気な性分さえなければ、有能かつ魅力的な女になるんだけどな。
僕はふと、そんなことを考えた。



12: ◆wZk4NVoY.w :2008/05/06(火) 00:14:17.05 ID:kBqFGC4p0
砂利道、森林、急斜面。


長い時間をかけ、ようやく僕らは目的地へと辿り着いた。
黒く焦げた廃墟が立ち並ぶ、VIP村跡に。

从 ゚∀从「嫌な感じの場所だな。
      携帯も使えねぇ僻地なわけだし」

ハインは首にかけた十字のネックレスを指で弄びながら、気だるげにそう言った。
任務中アクセサリーをつけるのは規則違反だというのに、堂々としたもんだ。

( ・∀・)「仕事でもなけりゃ即帰ってるところだよ。
      空気は元通りになってるようだから、ガスマスクをしないですむのは嬉しいが」

( ^ω^)「……お? あそこの建物の影に、何か見えるお」

僕はそう言って、遠くに見える黒焦げのお屋敷と、
その陰から少し覗くピンク色の服らしきものを指差した。

( ・∀・)「本当だな、ちょっくら様子を見に行ってみるか」

从 ゚∀从「んじゃ、あんたらが行ったことは、私が隊長に伝えとくから」

( ^ω^)「助かるお」



13: ◆wZk4NVoY.w :2008/05/06(火) 00:16:55.12 ID:kBqFGC4p0
僕が見たピンクの物体は、どうやらスカートの端だったようだ。

(*-ー-)「……」

スカートの主は白人の少女だった。
驚いたことに、呑気に大口開けて眠りこけている。

( ^ω^)「寝てるお」

( ・∀・)「寝てるな」

( ^ω^)「どうする?」

( ・∀・)「どうするって……そりゃ起こすしかないだろ」

( ^ω^)「ですよねー」

気持ち良さそうに眠っている少女には悪いが、起こして事情聴取といこう。

なぜ少女がこんな場所に一人でいるのか。
任務などとは関係なく、純粋に気になった。



14: ◆wZk4NVoY.w :2008/05/06(火) 00:18:52.11 ID:kBqFGC4p0
( ^ω^)「君、君、ちょっと起きてほしいお」

(* ー )「う、うーん。お父様……?」

彼女は目を閉じたままそう呟くと、突然僕に抱きついてきた。
美味し過ぎるシチュエーションだが、世の中そう上手くはいかない。

(*゚ー゚)「あれ、お父様の匂いじゃない……」

疑念を込めた声を発した彼女は、ハッとしたように眼を見開いた。
そうして僕の顔を一瞬凝視したのち、

(;゚ー゚)「って、きゃあああああ!!?」

(;^ω^)「ちょっ!!」

思いきり突き飛ばしてきたのだった。



15: ◆wZk4NVoY.w :2008/05/06(火) 00:21:13.06 ID:kBqFGC4p0
(* ー )「ごめんなさい、ごめんなさい……」

しぃと名乗った少女は、さっきから平謝りしている。
それこそ、逆にこちらが申し訳なくなるほどに。
本音を言えば、そんなことより彼女がここにいた理由を早く知りたい。

( ^ω^)「怒ってないから、本当に気にしないでほしいお」

(*゚ー゚)「うん……わかった」

彼女はようやく謝ることを止めた。

(*゚ー゚)「そういえば、お兄ちゃん達はどうしてこんな場所にいるの?」

( ・∀・)「んー、仕事で地質調査をしに来たんだ」

モララーが横から口をはさんできた。
地質調査の為という理由は、半分正解で半分間違いだ。
正しくは、地質調査を含むVIP村の現状の調査。

詳しいことを突っ込まれると困るので、こういう答え方が無難だろう。



16: ◆wZk4NVoY.w :2008/05/06(火) 00:23:01.41 ID:kBqFGC4p0
(*^ー^)「何だかよく分からないけど、凄そうだね!」

にこやかに笑い、しぃは羨望のまなざしを浮かべた。
悪い気はしない。

( ^ω^)「ところで、君の方こそなぜここに?」

(*゚−゚)「……」

僕の質問を聞いたしぃは、突如顔を曇らせた。
目にはうっすら涙が浮かんでいる。

(* − )「飛行機がね……落ちちゃったの」

( ・∀・)「飛行機が?」

(* − )「うん……」



17: ◆wZk4NVoY.w :2008/05/06(火) 00:25:44.11 ID:kBqFGC4p0
しぃの話をまとめるとこうだ。

彼女は父親の操縦する自家用飛行機に乗って旅行をしていた。
ところがこのあたりを通り過ぎようとした所、
突如‘桃色の巨大な物体’が地面から伸びてきて、それに飛行機が絡め取られた。

そのまま飛行機は不時着、父親とはぐれてしまったそうだ。

(*゚ー゚)「……」

お父様などという呼び方や、質のよさそうな服、そして何より自家用飛行機の存在。
間違いなくお嬢様であろう彼女にとって、
飛行機の墜落というのは相当に堪える経験だったに違いない。

そう、飛行機を落とすほどの大きさをもつ桃色の物体なんて非現実的なものを、
存在すると思い込んでしまうほどに。

(*゚ー゚)「ねえねえ、お兄ちゃん」

( ^ω^)「何だお?」

(*゚ー゚)「あのね、もしよかったらね、私のお父様を探してほしいの」

( ^ω^)「それは勿論だけど……、まずは皆のところに戻るお」

(*゚ー゚)「皆?」

( ・∀・)「ああ、仕事仲間が他に二十人近くいてね」



18: ◆wZk4NVoY.w :2008/05/06(火) 00:28:20.93 ID:kBqFGC4p0
( ^ω^)「それじゃあそろそろ行くお」

( ・∀・)「そうだな、早くしないとハインに叱られちまう」

僕はモララーと目を合わせて苦笑すると、
ジープを止めてある場所へと戻ろうとした。

(* ー )「っ……!」

と、背後からしぃの苦しげな声。

(* ー )「ごめんね、足……くじいちゃってたみたい」

乗っていた飛行機が墜落したのだ、むしろ傷がそれだけで済んだことの方が驚きだろう。
少なすぎる外傷に、今更ながら違和感が沸いてきたほどだ。

だが正直な話、怪我人の世話を見なくてはならないだなんて、面倒な事になったと思った。
だから僕にとって、

( ・∀・)「僕におぶさりな」

(*゚ー゚)「ありがとう!」

モララーが彼女を引き受けてくれるのは、素直に有り難かった。

( ^ω^)「にしてもずいぶんと小汚い騎士様だお」

( ・∀・)「うっせえ」



20: ◆wZk4NVoY.w :2008/05/06(火) 00:31:12.24 ID:kBqFGC4p0
僕たちは一旦、元いた場所へと引き返すことにした。
しぃがいた地点とは大して離れてもいなかったので、すぐにジープ群にはたどりつけた。

だが、一つ妙な点が。

( ^ω^)「……お?」

( ・∀・)「おかしいな」

(*゚ー゚)「??」

そこには空のジープだけが放置されたままで、同僚が誰一人いなかったのだ。



21: ◆wZk4NVoY.w :2008/05/06(火) 00:33:11.34 ID:kBqFGC4p0
( ・∀・)「ちぇ、置いてかれたのかな」

( ^ω^)「……いや、ちょっとこれを見て欲しいお」

僕はそう言って、地面に転がっているひしゃげた深緑色を拾い上げた。

( ・∀・)「これは僕たちに支給されるヘルメット?
      どうしてこんな状態に……」

( ^ω^)「分からない、分からないけど……。
       飛行機を落とした桃色の物体、用心するに越したことはないお」

楽そうだと考えていたこの仕事。
ひょっとして僕は、とんでもない思い違いをしていたのかもしれない。
ありもしないと思っていた桃色の巨大な物体とやらが、
僕の中で急に実体をもったような、そんな気がした。



23: ◆wZk4NVoY.w :2008/05/06(火) 00:34:52.44 ID:kBqFGC4p0
( ・∀・)「とりあえずだ、仲間に無線で連絡しよう。
      現段階じゃ情報が少なすぎる」

( ^ω^)「同意だお」

僕はポケットから無線機を取り出すと、それに向かって声を発した。
対象はツンデレ隊長だ。

( ^ω^)「こちらブーン、応答せよ」

返事は返ってこない。

( ^ω^)「もしもし、もしもし! ……駄目だお、返事が無……」

「…しも…、も……し」

諦めかけたその時、どこか離れた場所から“僕の声”が聞こえてきた。
ツンデレ隊長の無線機がどこにあるか、声を辿れば分かるかもしれない。

( ・∀・)「ブーン、続けてくれ!」

モララーの声に頷き返し、僕は再び無線機を握った。



25: ◆wZk4NVoY.w :2008/05/06(火) 00:38:00.45 ID:kBqFGC4p0
( ^ω^)「あーあー、聞こえますか!?」

「あーあー、聞こえますか」

(*゚ー゚)「聞こえた!」

さっきより大きな声を出したため、通信先の無線機のありかはハッキリと分かった。

( ・∀・)「……地下か」

そう、声が聞こえてきたのは、なぜか地面の下からだったのだ。

( ^ω^)「とりあえず掘ってみるお」

( ・∀・)「そうだな、そうしよう」

僕はジープに近づき、穴掘り用の道具を取り出そうとした。



26: ◆wZk4NVoY.w :2008/05/06(火) 00:38:50.17 ID:kBqFGC4p0
と、その時。



「いやぁあああああああああっ!!!」

絹を裂くような悲鳴が、教会らしき建物の方から聞こえてきた。


(;^ω^)「モララー、行ってみるお!」

(;・∀・)「僕はこの子をおぶって行くから、お前は先に行っててくれ」

(;^ω^)「把握したお!」



29: ◆wZk4NVoY.w :2008/05/06(火) 00:40:32.96 ID:kBqFGC4p0
僕はモララーとしぃを置き、悲鳴のあった方に向かって走った。
遠目に一人の人間と思しきものが見える。

「あああああぁっ!!!」

(;^ω^)「あれはハインかおっ!!?」

衣服から露出している部分が全てドロドロに溶けていたが、
声色や背格好からそれはハインなのだと分かった。

从;:::从「ブーン、助け……」

ハインはよろよろと僕の方に二、三歩近づくと、力なく地面に倒れこんだ。

(;^ω^)「……」

現実味がなかった。
だからハインの死は、まだ悲しくはない。
目の前の不条理に対する恐怖も今はない。

ただただ心臓を瞬間冷却されたような感覚だけが、僕を捕らえて離さなかった。



30: ◆wZk4NVoY.w :2008/05/06(火) 00:43:15.65 ID:kBqFGC4p0
(;・∀・)「ブーンっ!!」

と、背後から声。
ようやくモララーが追いついたようだ。

(;・∀・)「これはっ……!?」

(;^ω^)「僕が来た時には既に、彼女は、ハインは……溶けていた」

(  ∀ )「そうか」

彼はしぃを優しく地面に降ろし、ハインの亡骸に歩み寄っていく。
それから右手で顔を覆い、空を仰ぎ見ながら乱暴に叫んだ。

(#・∀・)「畜生、畜生、畜生っ!!!!」

(* ー )「う、ああっ……」

しぃはというと自分の肩を抱き、蒼白な顔をガタガタと震わせている。



31: ◆wZk4NVoY.w :2008/05/06(火) 00:45:14.50 ID:kBqFGC4p0
( ^ω^)「モララー、この事態をどう見るお?」

( ・∀・)「分からん、全くもって分からんが、
      犬の糞みたいに下劣な野郎が潜んでいるのは間違いないな」

( ^ω^)「そして厄介なことにその犬の糞は、
       一九もの手馴れを難なく殺す能力を持っている」

僕はそう言うと、ガタガタ震えている少女にチラリと目をやった。

( ・∀・)「ブーン、お前何が言いたい?」

( ^ω^)「つまりこのまま子守りを続けていては、
       すぐに僕たちも死ぬということだお」

(;゚ー゚)「えっ……」

( ・∀・)「……そうか」



32: ◆wZk4NVoY.w :2008/05/06(火) 00:47:46.90 ID:kBqFGC4p0
( ^ω^)「僕たちがすべきことは、任務の完遂。
       それは即ち、この村の調査」

( ・∀・)「確かにこの状況じゃあ、余計な荷物を背負う余裕はない」

(;゚ー゚)「お兄ちゃん達、何を言っているの……?」

子供ながらに悟ったのだろう。
疑問形の言葉を発しながらも、確信めいた不安を彼女は表していた。

( ^ω^)「ここでしぃを捨てるお」

だから僕は言った、限りなく純な本音を。

( ・∀・)「本気か?」

( ^ω^)「任務は何より優先する、僕はそう考えるお」

( ・∀・)「……なら、ここでお別れだな」

モララーはしぃの方に振り返る。

(;゚ー゚)「そんな……」



33: ◆wZk4NVoY.w :2008/05/06(火) 00:49:52.69 ID:kBqFGC4p0
( ・∀・)「さよならだ、ブーン」

(;^ω^)「なっ!?」

彼が発した言葉は、僕が予想したそれとは真逆のものだった。



34: ◆wZk4NVoY.w :2008/05/06(火) 00:52:28.11 ID:kBqFGC4p0
( ・∀・)「なあブーンよ、そもそも俺らの職業って、
      何のために存在してるんだっけー?」

( ^ω^)「そんなもの決まっている、国の治安や利益のためだお」

( ・∀・)「そんな形ないものの為に、
      お前はどうして目の前の彼女を捨て置ける?」

( ^ω^)「それは……」

この国で二度とあんな悲劇を起こさせたくない。
祖父から受け継いだ写真を見たあの日、僕はひそかにそう誓った。
テロ対策など治安維持を主な仕事とするこの部隊に入ったのも、そういう動機からだ。

( ^ω^)「どうして分からないお! 国の安定こそが、秩序を守るのだと。
       だから国家の繁栄は、詰まる所より多くの人々を救うことに……」

( ・∀・)「上役の腹の肉を肥やしても、猫一匹救えやしねーよ」

( ^ω^)「……」



35: ◆wZk4NVoY.w :2008/05/06(火) 00:54:26.42 ID:kBqFGC4p0
( ^ω^)「確かにお前が言うことも分かる。
       しかしこれは妥協すべき場面なんだお、モララー」

( ・∀・)「妥協だぁ?」

( ^ω^)「そう、多くの人のために小さなことには目をつむるという、
       止むを得ない妥協だお」

( ・∀・)「お前は人命に対して妥協できるってのか」

( ^ω^)「大局を見る目を持つお、モララー」

( ・∀・)「自分の眼前をも見れずに、何が大局だ」

(#^ω^)「……」

(#・∀・)「ふんっ」

睨み合う。

胸糞が悪い。

どうして分からないんだ、必要なのは安い正義心じゃないってのに。



37: ◆wZk4NVoY.w :2008/05/06(火) 00:56:19.75 ID:kBqFGC4p0
(;゚ー゚)「あっ、あのっ……」

突然、今まで沈黙を保っていたしぃが、恐る恐るといった感じで声を発した。

(* ー )「えっと、その……」

( ・∀・)「いいんだしぃちゃん、行こう」

(* ー )「……うん」

モララーは再びしぃをおぶり、僕に背を向けて歩き始める。

(  ∀ )「死ぬんじゃねえぞ、ブーン」

( ^ω^)「モララー、お前もな」



38: ◆wZk4NVoY.w :2008/05/06(火) 00:58:28.15 ID:kBqFGC4p0
僕はあえてモララーとは反対の方向に歩き始めた。

( ^ω^)「……」

やたらとイライラする。
自分の信念を、自分が信じていた人物に、真っ向から否定されたから。
きっと、それでなんだろう。

( ^ω^)「少し休むお」

僕は足の疲れを取りたくなったため、近くにある崩れたブロックに腰をかけた。
ちょうど、その瞬間。

(;^ω^)「うおっ!?」

突如として鳴り響く轟音。
同時に地面が大きく揺れ、遠くにある井戸から、
黄色がかった液体が噴出するのが見えた。



42: ◆wZk4NVoY.w :2008/05/06(火) 01:00:26.07 ID:kBqFGC4p0
(;^ω^)「全くクレイジーだお、この村は」

僕はブツブツと呟きつつ、
噴き出した液体が何なのかを近寄って観察しに……

(;゚ω゚)「っ、うあわぁあああああ!!」

何だ、何だこれは。


この黄色い、べとべとした、まるで“胃液”のような何か。


同僚の首が、僕らの制服が、ばらばらの骨が。


ぐちゃぐちゃに、血みどろに、混ざり合ったものが。


煙を立てて、黄色と混ざり合って、溶けながらダラリと広がっていく。



43: ◆wZk4NVoY.w :2008/05/06(火) 01:02:20.77 ID:kBqFGC4p0
「やーっぱ食べ過ぎは駄目だねぇ、吐いてやんの!
 なあ、お前も何とか言ってやれよ、ブーン」

背後から声。
僕は怖くて振り向けない。

「ちゃんとこっちを見ろよ、ブーン。 おい、ブーンったら!!」

何故だ、何故お前は……。

(;^ω^)「僕の名前を知って……」

意を決し、振り向く。

从 ゚∀从「なーに言ってやがる」

(;^ω^)「あれ、ハイン、お前死んだ筈じゃ……」

从;゚∀从「はああっ? 人を勝手に殺すなよ」



44: ◆wZk4NVoY.w :2008/05/06(火) 01:03:58.36 ID:kBqFGC4p0
( ^ω^)「本当に本当にハインなのかお?」

从 ゚∀从「しつこいなぁ……いい加減殴るぞ?」

ああ、この女らしからぬ喧嘩っ早さ。
やっぱり彼女はハインなんだ。

そうだな、さっき僕が見たのは間違いだったに違いない。
特殊部隊きっての運動センスを持つ彼女が、容易に死ぬ筈が……


(;^ω^)「っ!?」


違う違う違う。

彼女は規則違反だというのに、いつも首から十字のネックレスをかけていた。
だが目の前のこいつは、そんなもの付けてはいない。
動いている最中に壊れることもあろうが、にしては服がほとんど乱れていない。

(;^ω^)「お前は一体……誰だ……」

从 ゚∀从「……」



46: ◆wZk4NVoY.w :2008/05/06(火) 01:06:26.95 ID:kBqFGC4p0
从 ゚∀从「知っているかブーン、強い放射線ってのはな、
      生物の体の構造を捻じ曲げ得る」

(;^ω^)「……」

从 ゚∀从「ここVIP村では、かつて核兵器が破裂した。
      多くの住人はその高熱で溶け、液化して地面に染み込み……


       そ の ま ま の 姿 で 生 き 長 ら え た 」


(;^ω^)「馬鹿なっ!!!」

「事実なのよ、ブーン」

後ろからツンデレ隊長の声。

振り向く。


ξ゚听)ξ


地面から隊長の”生首”が生えていた。



49: ◆wZk4NVoY.w :2008/05/06(火) 01:08:52.33 ID:kBqFGC4p0
('、`*川「今やこの村は、それ自体が一つの生き物」

僕の右側から女の生首が生える。

(,,゚Д゚)「常に餓え、人を養分として吸収したがる」

左側から男の生首。

(`・ω・´)「だが安心しろ、けっして死ぬことはないのだ」

正面から子供の生首。

ξ゚听)ξ「そう、ただあなたは」

从 ゚∀从「私たちと」

『一つになるだけなのだから』



50: ◆wZk4NVoY.w :2008/05/06(火) 01:10:10.69 ID:kBqFGC4p0
(;゚ω゚)「うっ、ああああっ……」

腰が抜けて動けない。

と、目の前の地面に亀裂が入り、
中から巨大な“舌”のような物体が飛び出してきた。

それは涎まみれのまま僕にからみつく。
亀裂に引きずり込む。
粘液が体にからみつく。

熱い熱い熱い溶ける溶ける、ああ僕は溶けていく……






(∵'、,,`・-∀´ξ゚)ξ∀从´ー゚彡`>




どろどろ、ぐつぐつ




(∵'、,,`・-∀´ξ゚)ω^ξ∀从´ー゚彡`>



52: ◆wZk4NVoY.w :2008/05/06(火) 01:11:52.89 ID:kBqFGC4p0
(;・∀・)「はあっ、はあっ、はあっ」

しぃを背負って歩きつめたからか、だいぶ疲れた。
恐らく二時間ほどだろうか?

(;゚ー゚)「大丈夫?」

(;・∀・)「一応これでも鍛えてるから……そろそろ休憩はしたいけどね」

結局目ぼしい手掛かりもなく、また、今更環境調査なんざする気にもなれず。
ただぐるりと村を一周し、遂にはジープ群に帰ってきてしまった。

(;・∀・)「ジープに飲み水が積んである。
      少し休憩するとしよう」

(*゚ー゚)「うんっ」



53: ◆wZk4NVoY.w :2008/05/06(火) 01:13:06.82 ID:kBqFGC4p0
( ・∀・)「ふうっ、生き返るな」

(*゚ー゚)「ほんとだね」

僕は口の周りに垂れた水を拭い、空になった水筒を横手に置いた。

( ・∀・)「さて、いなくなった同僚や、君のお父さんを探しに行くか」

(*゚ー゚)「えっ……ああ、そうだったね」

ぼーっとしていたのだろうか。
一瞬だけ不思議そうな表情を浮かべた後、彼女は慌てたように頷いて見せた。

( ・∀・)「足はまだ辛い?」

(*゚ー゚)「んと、歩くのは無理そうかな。ごめんね」

( ・∀・)「謝ることはない」

よいしょの掛け声とともに、僕は彼女をおぶった。



54: ◆wZk4NVoY.w :2008/05/06(火) 01:15:00.71 ID:kBqFGC4p0
しぃをおぶったまま、僕はひた歩く。

(*゚ー゚)「ねえ、お兄ちゃん」

( ・∀・)「何だい?」

(*゚ー゚)「お話しない?」

ああ、そういえばさっきっから黙りこくったままだった。
小さな少女にとっては退屈だったかもしれないな。

( ・∀・)「別にいいよ」

(*^ー^)「わあっ、ありがとう!」

(*゚ー゚)「じゃね、まずはね、お名前を教えて?」

( ・∀・)「そういや言ってなかったっけ……。
      モララー、僕の名前はモララーだ」

(*゚ー゚)「モララーだね、うんうん。モララー、モララー」

彼女はその響きが気に入ったのか、楽しげに僕の名を連呼した。



55: ◆wZk4NVoY.w :2008/05/06(火) 01:17:13.99 ID:kBqFGC4p0
(*゚ー゚)「じゃあ、次は好きな色!」

なんだか小学校の自己紹介みたいだなと、柄になく懐かしい気持ちになる。

( ・∀・)「僕は青が好きだよ。涼しげで、落ち着くから」

(*゚ー゚)「私は赤が好き、特にちょっと黒みがかった赤色がね。
     それじゃあ、今度は好きな音楽や歌!」

( ・∀・)「歌か……セリーヌみたいなしっとりした声が好きかな」

(*゚ー゚)「私はクラシックをよく聞くの。
     ピアノもやっててね、今はレクイエムを練習してるよ」

レクイエム、ねぇ。
少女が弾くにしては、だいぶ辛気臭いこって。



56: ◆wZk4NVoY.w :2008/05/06(火) 01:18:26.32 ID:kBqFGC4p0
(*゚ー゚)「それじゃね、それじゃね、出身地は?」

( ・∀・)「もっと北の方、バッファロー出身だ。
      しぃちゃんは?」

(*゚ー゚)「私はここ、VIP村出身なの」


……えっ?


(*゚ー゚)「じゃあね、趣味はなぁに?」

(;・∀・)「しぃちゃん、君は一体……」

(*゚ー゚)「ん、先に私のことを教えた方がいい?
     私はね、私はね」



59: ◆wZk4NVoY.w :2008/05/06(火) 01:19:37.28 ID:kBqFGC4p0





(*^ー^)「好みの 獲 物 を 独り占めするのが趣味かな」





60: ◆wZk4NVoY.w :2008/05/06(火) 01:21:24.26 ID:kBqFGC4p0
広い広いアメリカのどこかに、VIPという村がある。



(;・∀・)「う、あああっ……」

(*゚ー゚)「大丈夫、私とこの村は独立しているの。
     私は丈夫な床の上で被爆したから、土地と同化しなかったんだよ」

(;・∀・)「ちくしょう、狂ってやがる……」

(*゚ー゚)「あなたみたいに素敵な人を手に入れるためなら、狂うことなど厭わない」



かつて核爆弾に侵されたその村は。
今も貪欲に人を吸い……。



(*゚ー゚)「さてとっ……モララー、これであなたと私は一心同体だよ。
     何だか力も湧いてきたし、さっさとこんな村から離れて、もっと素敵な場所に行こうね」



61: ◆wZk4NVoY.w :2008/05/06(火) 01:22:49.83 ID:kBqFGC4p0

「ねえねえモララー。
  私ね、昔っから大家族ってのに憧れてたんだぁ!」


「そうだね、子供もたくさん欲しいね……。
  えへへっ、何だか少し恥ずかしいなぁ」


「うんうん、色々な土地の親戚が欲しいよね。
  よーろっぱでしょ、あふりかでしょ、それからそれから……」







ディスプレイの向こうの あ な た なんかも、丁度いいかもね。




〜FIN〜



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