川 ゚ -゚)クーと孤島のラビリンスのようです

2: ◆WFml1l.GUY :2008/08/30(土) 20:07:40





川 ゚ -゚)クーと孤島のラビリンスのようです

プロローグ



3: ◆WFml1l.GUY :2008/08/30(土) 20:09:19
川 ゚ -゚)「……」

海辺の静かな街道を走る車の窓からは、綺麗な海がどこまでも広がっていた。

地平線の彼方まで続く青い海と青い空は、吸い込まれそうなほどに美しく、
私は自然とその景色に魅了され、ノスタルジックにたたずんでしまっていた。

('A`)「おいクー、そんなに窓ばっかり見ていて楽しいか?」

そんな私に声をかけてきた男が一人。
車の助手席に座る私から見て、すぐ右隣の運転席にいるその男の名は、ドクオといった。


川 ゚ -゚)「ドクオ、私は窓を見ているんじゃないよ。海を見ているんだ。綺麗だろう」

('A`)「海、ねえ」

目の前の赤信号で車が停止すると、首だけ軽く動かして、
ドクオも同じようにその景色を眺めた。

だが、ドクオはすぐにため息をひとつついて、
首を戻すと再びハンドルを握りなおし、フロントガラスを見つめてしまった。



4: ◆WFml1l.GUY :2008/08/30(土) 20:10:56
('A`)「確かに海は綺麗だねえ。でも、そんなに見ていて面白いものかね」

青になった信号に目をやり、車を動かせると同時にドクオはそうつぶやいた。

川 ゚ -゚)「なんだい、随分とドクオは淡白だな。
     地元では、こんな長閑な景色なんて見ることができないじゃないか」

(´・ω・`)「まあまあ、ドクオは根っからの都会人だからね」

今度は、後部座席に腰を下ろしているショボも笑った。

('A`)「なんだよ、みんなしてさー。
    大体、都会人っておまえらもじゃねーかよー」

ドクオの言葉に、3人ともどっと笑う。
相変わらず、私たちは仲が良かった。



5: ◆WFml1l.GUY :2008/08/30(土) 20:12:05
私は、名前を沙緒空琉(すなお くうる)と言う。皆からは、クーと呼ばれている。

車を運転している、やつれた顔をした男が毒島武雄(ぶすじま たけお)。通称ドクオ。

後部座席で、しっかりとシートベルトを締めて座っている男は、
倉島庶凡(くらしま しょぼん)といって、ショボというあだ名がついている。


私たちは、東京のとある大学の同じ愛好会に所属しており、今回はその慰安旅行と言うことで
東京からは随分とはなれた、とある孤島に足を運んでいるわけである。

朝早くに新幹線に乗り込み、
そこからタクシーを使って港まで行き、港からは慣れないフェリーに乗った。

乗り物酔いをしやすかったドクオは、広大なる海に液体を戻していたが、
私としてはフェリーから見る景色も新鮮であった。

薄っすらと帯を引くフェリーの通った道は、海の青さよりも更に青く透き通り、
その青い海の上には、ウミネコが私の真横を通るようにして飛び回っていたものだ。
フェリーでの船旅は数時間にもわたったのだが、私はその全てを甲板で過ごしていた。

ショボはというと、寝ていたらしい。



6: ◆WFml1l.GUY :2008/08/30(土) 20:13:44
孤島についた私たちは、港のすぐ近くでレンタカーを借り、
そのレンタカーで今回宿泊する旅館に今向かっているのであった。

私たちのいる孤島は、本当に日本の中でも小さな孤島で、
1時間と少しあれば、車で島を1週できてしまうほどの大きさだ。

ちなみに、この私たちが所属している愛好会なのだが、部員は私たち3人しかいないのだ。
愛好会と言う方は、いささか語弊がある。私たちが所属しているのは、
超常現象研究会という、見事に不気味な会なのである。

活動内容はいたって単純で、超常現象を探すと言う名目の元、
実際は部室でぐだぐだと過ごす日々を送っているだけであったりする。

それこそまさに、どこか北高の、なんたらかんたら団と相似しているわけであって、
今回の旅行の名目も、実際は人気のない孤島で超常現象を発見しよう、というものなのだ。

もっとも私は超常現象だなんてものは信じてなどいないし、
それでなぜこの部活にいるかと言えば、この2人が昔から私にとって掛け替えのない友人だったからだ。

だから、変な目的を除けば、この旅行もすごく楽しみであった。



7: ◆WFml1l.GUY :2008/08/30(土) 20:15:11
(´・ω・`)「お、あの山かな」

ショボの声で、ふと窓から先のほうに視線をやると、
海沿いに1つ、大きな山があった。

私たちが現在走っている道路はその山の中に続いていて、
今回宿泊する旅館は、その中腹にあるのだという。

('A`)「だな。ま、到着まであと10分ってとこかな。
    自然がいっぱいらしいなー。楽しみだな」

先ほどまで、景色なんか目にもくれなかったドクオが、自然がいっぱいで楽しみだと言っている。
こいつの考えは相変わらず良く分からん、と思いながらも、私も自然を眺めるのが好きなので、
その点に至ってはすごく楽しみなのであった。


やがて車は山道に入り、長いトンネルを抜けると、狭い車線の道路に出た。
その道路はガードレールなどもなく、周りを背の高い木々におおわれているだけの、
本当にど田舎の山道と言う感じであったので、都会人の私たちには新鮮すぎて、目を丸くしてしまった。



8: ◆WFml1l.GUY :2008/08/30(土) 20:16:21

川;゚ -゚)「ドドドドクオ! 落ちるなよ!」

(;'A`)「おちゃーしねえよ。ったく」

道路の幅は次第に狭くなっていって、それでいながらも、
丁度助手席にある私のほうは、下が谷になっていた。
ドクオは出来るだけ山のほうによって走っていたが、慣れていないものだから、非常に恐怖を感じた。


(´・ω・`)「お、おお!」

やがてショボの歓声が聞こえると、道が一気に広くなって、急な坂道が目の前に迫った。
ドクオが勢いよくアクセルを踏み、坂道を登るともうそこが旅館の駐車場となっていた。

私たちの目の前に現れたその旅館は、山の中に似つかないコンクリートの上に、
しかし木々におおわれながら、どっしりとその白い体を佇めていた。

決して、都会の旅館なんかと比べてしまえば大きくはなかったのだが、
旅館の後ろのほうに見える海と空が合わさって、すごく美しく見えた。



9: ◆WFml1l.GUY :2008/08/30(土) 20:17:43
駐車場に車を止め、ドクオがハンドブレーキをひき、エンジンを切る。

('A`)「うん、ここで間違いないな。
    うし、降りるとするか」

車のドアを開けると、車の冷房に慣れすぎたようで、
さんさんと差し込む日光が妙に暑かった。

車から降り、改めてその旅館を見ると、
やはり風景美という言葉が浮かんでくるほどに、美しかった。

旅館を美しいと言うのは何か変かもしれないが、
そう思うまでに、旅館が風景に溶け込んでいたのだった。

(´・ω・`)「んー、チェックインまで、あと15分くらいあるね」

ショボが腕時計を見ながら、そう言った。
早く来すぎたようだが、それくらいの心を持っていることは大事であろう。

('A`)「つっても、ここ何もねえしな。
    ちょっと、景色みてくるわ」

ドクオはそういいながら、旅館の裏側に回るようにして、海の見える方向へと歩いていった。

私もついていこうと思ったのだが、
私は風に揺れる木々に目を奪われ、暫くここで周りを眺めていようと思った。



10: ◆WFml1l.GUY :2008/08/30(土) 20:18:39

(´・ω・`)「じゃあ、僕もちょっと向こうで景色を見てくるよ」

川 ゚ -゚)「わかった。気をつけてな」

ショボもそう言うと、林の中へと入り込み、そこからふもとを見渡せるような場所に行ってしまった。


1人取り残された私だが、気がつくと私たちの車の横に、白い車が1台止まっていた。
おそらく、既にこの旅館の中に宿泊しているお客さんがいるか、従業員用の車なのだろうと解釈した。

川 ゚ -゚)「んー!」

自然に囲まれた景色の中で、思い切り伸びをする。
なまっていた体の筋肉がほぐされ、うまい空気を吸い込むと、めまいがした。

本当に、気持ちのいいところだ。
幼少から都会で育った私は、そう思っていた。



11: ◆WFml1l.GUY :2008/08/30(土) 20:19:38





本当に、気持ちのいいところだと。

いい旅行になるだろうと。

そう、思っていたのだった。


プロローグ   終



12: ◆WFml1l.GUY :2008/08/30(土) 20:23:30



川 ゚ -゚)クーと孤島のラビリンスのようです

1、長閑な景色広がる孤島



13: ◆WFml1l.GUY :2008/08/30(土) 20:24:39

空気を思い切り吸い込み、硬いコンクリートに腰を下ろす。
不思議と、都会のコンクリートのような、ごつごつとした無機質な感じはしなかった。

ドクオとショボは、もう私の視界からでは姿が見えなくなってしまっていた。
そのうち戻ってくるだろう、と、私はだらしなくそのばに寝転がって、青い空を見上げることにした。


(*゚∀゚)「やあ! 君たち、この旅館に宿泊するのかい?」

その時、ふと、声がした。

起き上がりそちらを振り向くと、よく日に焼けた褐色の肌に赤いワンピースをきた女性が、
にこやかにこちらを見ているではないか。

女の中では背が高い私よりも、さらに背が高く、
それでいて整った顔をしていて、たおやかな女性だった。

どうやら、山道から歩いてきたらしい。
地元の人か、それとも旅館の宿泊客で、散歩にでも出かけていたのだろうか。



14: ◆WFml1l.GUY :2008/08/30(土) 20:26:15

川 ゚ -゚)「ええ。私と、あと2人、今は景色を見に行ってるんですが、一緒に泊まりに来ました。
     あなたも、この……なんというんでしょう、一風変わった旅館に宿泊されているんですか?」

(*゚∀゚)「はは、変わった旅館かあ。
     私は、ここの旅館の従業員で、つーっていうんだ。
     確かに、ちょっと変わったところに建ってるんだけど……気に入ってもらえると嬉しいなあ」

川;゚ -゚)「あ、これは失礼……」

つーと名乗った女性は、なんとこの旅館の従業員だった。
変わった旅館と言ってしまったのは、悪い意味で言ったのではないが、失態であっただろう。

それでも、つーさんは明るい表情を見せてくれていた。

(*゚∀゚)「まあ、確かに変わった場所に建っているからね。
     こんな何も無い孤島にあるけど、景色は綺麗でしょ?」

彼女が振り向き、見つめた景色は本当にとても美しかった。
緑の生い茂る林の向こう側には、青い海がどこまでも続いていて、ほのかな潮風は髪を静かになぜていく。

生まれてから暮らしてきた町で、常日頃見てきた無機質な建物の林と比べれば、
こんな孤島の山奥に建っているという変わった点も含めて、とても落ち着いたのどかな場所であると感じた。



15: ◆WFml1l.GUY :2008/08/30(土) 20:28:06

川 ゚ -゚)「綺麗ですね。
     私の生まれた町には、こんな自然な景色はありません」

(*゚∀゚)「おや? 都会の人なのかい?」

川 ゚ -゚)「ええ。私は東京から来ましたから」

(*゚∀゚)「へえ! 東京かあ、首都じゃん! 凄いなあ!」

川;゚ -゚)「そうですかね?」


話を聞くと、つーさんはこの島で生まれ、この島で育ったと言う。

東京なんていうと、本当にテレビでしか見たことがないのだとか。
逆を言えば、私もこんな孤島はテレビでしか見たことがないものであった。

現地の人と接して初めて、自分が都会者なのだと理解できる。
この自然いっぱいの景色を良いと思っている時点で、私は都会に侵食されているのだな。

と、1人毒づいてみたりした。



16: ◆WFml1l.GUY :2008/08/30(土) 20:29:04

('A`)「おーい、クー!」

ドクオがのっしりと、旅館の裏手から歩いて出てきた。
すぐに私の横にいるつーさんに気づいたようで、軽く会釈をしていた。

('A`)「こちらの方は?」

私の横に並んだドクオに、旅館の従業員で、つーという名前の女性だと言うことを告げると、
律儀にもドクオは身に着けていた帽子を外して、礼をした。

(*゚∀゚)「へへ、泊まりにきてくれてありがとうね。嬉しいな」

やがてショボもこちらに戻ってきて、つーさんと暫く話をしていると、
もう時刻はあっという間にチェックインの時間となった。


私たちは、つーさんに誘導されて、ロビーへ向かうこととなった。



17: ◆WFml1l.GUY :2008/08/30(土) 20:30:10

(´・ω・`)「しかし、本当に立派な建物ですね」

(*゚∀゚)「はは、ありがと。この旅館はね、私の宝物なんだ」

('A`)「そりゃあ、宝物ですよねー。こんな美しい景色に囲まれて」

車の中ではそっけなかったと言うのに、このドクオの態度の変わりようは何だろう。

川 ゚ -゚)「だが、本当にいい旅館です。
     私は、ここに泊まることにして正解だと思ってますよ」

(*゚∀゚)「お! 言ってくれるじゃん〜。じゃあ、また来たいと思わせるようにお姉さん頑張っちゃうからね!」

(*'A`)「おっ……おお! 期待してますよ!」

(*´・ω・`)「フヒヒヒ、やっぱり田舎はいいですねえ」

川;゚ -゚)「…………」



18: ◆WFml1l.GUY :2008/08/30(土) 20:31:02

ロビーに入ると、その内装はいかにも日本風で小奇麗だった。

床は薄黒い石床で、すぐ前にはちょっと洋風な階段があったが、
左の方にはたたみが敷かれている和風な休憩室があって、
右の方に行くと、どうやら露天風呂のある建物に繋がっているらしかった。

しばらくその風景をぼーっと眺めている私たちをよそに、つーさんがすぐに受付のカウンターに立ち、
とりあえずのチェックインを済ませると、つーさんは何やら、これから買いだしに行かなくてはいけないといって、
そそくさと私たちの前を去っていった。


川 ゚ -゚)「さて、これからだが……」

とりあえず部屋の鍵を手に持ち、後ろのほうにいるドクオとショボと話し合おうと振り返った私だが。

(*'A`)

(*´・ω・`)

その二人が妙に内股になってもじもじしている姿を見て、なんだか気持ちが悪くなった。



19: ◆WFml1l.GUY :2008/08/30(土) 20:32:19

川 ゚ -゚)「どうしたんだ」

冷ややかな視線でたずねてみれば、ぼそっと小声でドクオが言う。


(*'A`)「ちょっと……うん……」

(*´・ω・`)「お通じしたい」


ショボのぷりっとした尻を蹴り飛ばしてやろうかと思ったが、
私はそれをこらえて、便所に行くよう冷静に催促をした。

幸いにも便所は、私の前方にある階段のすぐ横にあったようで、
二人はいそいそとそこに駆け込んでいった。



20: ◆WFml1l.GUY :2008/08/30(土) 20:32:54

川 ゚ -゚)「さて、私は……」

私は何をしていようか。
つーさんはいなくなってしまったし、どうにもがらんとしていて、客の気配もない。

孤島にある旅館とはいえ、まさか客が私たちしかいないほどに辺鄙なのではないだろうか。
と、思ってしまった矢先に、休憩室のほうから何か物音がしたのに気づいた。

川 ゚ -゚)「なんだろう」

少し足を進めて休憩室のほうを見てみれば、私の先ほどの立ち位置からは
ふすまの死角で見えなかった部分に、若い男性と女性の姿があった。

その男性と女性も私の足音に気がついたようで、こちらのほうに目を向けてくれていた。



21: ◆WFml1l.GUY :2008/08/30(土) 20:34:18

( ^ω^)「お? あなたも旅行者ですかお?」

履物を脱ぎ、休憩室にあがったところで、男性のほうが私に話しかけてきた。
私といくばくも歳の変わらなさそうな、おだやかな顔をした人であった。

そしてその男性の横の女性は、男性の腕に自分の腕を組みながら
笑ってこちらを見ていて、金髪のそれはもう美しい人であった。

川 ゚ -゚)「ええ。あなた方もこの旅館に宿泊されるんですか?」

とりあえずの相槌を返す。
初対面の人と会話をするのは苦手であったが、この男性の前では、そういった気分にならなかった。


( ^ω^)「おっおっお。そうだお。
       僕はブーンといって、熊本県の大学生ですお。
       夏休みを使って、僕の横にいるツンと旅行にきたんだお。
       ほら、ツンも挨拶するお」

ξ゚ー゚)ξ「ツンです、よろしく。
      私もブーンと同じ大学の生徒なんです。
      あなたも大学生くらいに見えるけど、そうかしら?」

男性……ブーンさん。ではなく、ツンさんから差し伸べられた手を見て、
私もはっとして立ち上がり、その手を握り返して笑顔を作る。



22: ◆WFml1l.GUY :2008/08/30(土) 20:35:28

川 ゚ -゚)「私はクーです。
     私は東京都で大学生をやっています。
     この島には友人たちと旅行に来ました。今はトイレにいますけど」

ξ゚听)ξ「あら、東京ですって? 随分と都会から来ているのねえ」

都会という言葉も無理はなかった。
熊本というと実は私の母の実家があるのだが、そこに住んでいる祖父の家から
見える景色ときたら、それはもうこの孤島のような自然いっぱいの景色なのだ。

私がこの島を田舎だと思っている時点で、やはり私は都会の人間なんだと自覚してしまう。


( ^ω^)「東京からというと、遠路はるばるご苦労様だお。
       しかしまあ、旅行といっても、よくもまあこんな辺鄙な島にきましたお」

川 ゚ -゚)「辺鄙、ですかね。
     私みたいな都会の人間からすると、このくらいの環境は羨ましく思いますし、
     なんだか自然に触れられて、とても良い気分ですよ」

ξ゚听)ξ「へー、都会の人でもそんなこと思うんですね。
      てっきり、田舎くさくて性にあいません、って言うんじゃないかと思ったわ」

(;^ω^)「ツ、ツン!」

さらっと、私の胸にグサーッと突き刺さるような言葉を言い放ったツンさん。
あわててブーンさんがその口をふさぎ、私のほうに向かって何度も頭を下げてきた。



23: ◆WFml1l.GUY :2008/08/30(土) 20:37:04

川;゚ -゚)「お構いなく」

ブーンさんに手のひらを向けて、それを制止している私であったが、
心の中で考えてみると、やっぱり地方の人というのは都会を嫌っているのかなあ、と考えてしまうものだった。

それに加えて、私がこの孤島に旅行にやってきた目的は、不気味な孤島における超常現象の研究
なんていうわけなのだから、それすらも白状したのならば、ブーンさんにまで呆れられてしまいかねない。


ξ゚听)ξ「……ちょっといいすぎたわ。ごめんなさい。
     でも、あなたはどうしてこの島に旅行に来ることにしたの?
     東京から来たって言うんじゃ、新幹線にでも乗って、更にフェリーにでも乗って……大変じゃない?」

川;゚ -゚)「え? えーと、それは……自然と触れ合いたかったからでありましてね。
      この孤島をとあるガイドブックで見かけましてね、その写真に載っていた風景に惹かれまして」


そういうわけでこんなことを言ったのだが、あながち嘘ではないのである。

この島を選んだ理由は、ドクオが持ってきた、
いかにも売れていなさそうな旅行ガイドブックの中から、
いかにも何もなさそう、かつ不気味な雰囲気をかもし出す写真を選び出したのだ。

それがこの島だったというわけだ。



24: ◆WFml1l.GUY :2008/08/30(土) 20:38:44

( ^ω^)「お……この島の写真、ですかお?
       そのパンフレット、今お持ちではありませんかお?」

川 ゚ -゚)「ん? ああ、ありますよ」

ブーンさんが突然眼の色を変えて、私の鞄のほうを見つめてきた。

視線の先をまさぐり、私が鞄の中から一冊の薄っぺらいガイドブックを出すと、横にいたツンさんも、きゃー!
なんて叫んで、私からそのガイドブックをひったくると、ばらばらとページをめくり始めた。

ξ*゚听)ξ「きゃー! きゃー! クーさん、あなたこのガイドブックを見てこの島に来たのね!?」

川 ゚ -゚)「ええ、まあ」

突然の事態に呆けている私に、そんな言葉が投げかけられた。

どうかしたのだろうか。
そう思っていると、ブーンさんが妙ににやけた顔で私のほうを見てきた。



25: ◆WFml1l.GUY :2008/08/30(土) 20:39:29

( ^ω^)「フヒヒ、この写真は僕が撮ったものなんですお。
      この島の役所が、島の風景をよく映し出す写真って言うのを募集していましてねお。
      いやー、まさか僕の写真でこの島に訪れてくれる人がいたとは! 感激で涙が出そうだお……」

ξ゚ー゚)ξ「ブーンはね、プロのカメラマンを目指してるの。
     いつか人を感動させる写真をとるんだっ! って言ってね」

ああ、なるほど。
つーさんの言っていた旅行好きの二人というのは、この人たちのことだったのか。

それで私たちがブーンさんの写真を見てこの旅館に来た、初めてのお客なわけだ。

そりゃあ嬉しくもなるだろうと、まあ理解はできるのだが、
ニヤニヤしながら、フヒヒフヒヒと言いながら、私のガイドブックをいつまでも
手放さないことに関してはちょっと感心できないものです。



26: ◆WFml1l.GUY :2008/08/30(土) 20:41:00

( ^ω^)「ほら、これつーさんって言って、ここの旅館の従業員であり、オーナーの妹さんなんだお!」

ブーンさんが私のほうにパンフレットを向けて、ある写真を指さしながら言った。

その写真は、青い空と青い海、そしてこの白い旅館をバックにして撮られた1枚の写真で、
ブーンさんの指が乗っかっている中央部分辺りにつーさんと、もう一人、その横に男の人がいた。

男の人は年端がつーさんとそこまで変わらないほどに若く見え、ごわごわとした
艶やかな長い黒髪と、浅黒い肌を持った筋骨隆々の青年で、つーさんと同じく笑顔がまぶしかった。

川 ゚ -゚)「彼は?」

ξ゚听)ξ「フサさんっていうの。
     つーさんのお兄さんで、この旅館を一緒に経営してるのよ」

ほう、驚いた。
要するに、この旅館のオーナーが写真のフサさん。
そしてその妹がつーさん。つまり、ここは兄妹で運営する小さな旅館だったというわけだ。

確かに写真の顔を見ると、よく似ている。笑顔の口元なんかそっくりだ。
その写真を見ていると、私は不思議と穏やかな気持ちとなり、
この孤島の旅館に来たことが、幾ばくか楽しくなったような気がした。



27: ◆WFml1l.GUY :2008/08/30(土) 20:42:09

川 ゚ -゚)「おや?」

その写真の片隅に。
小さく、こちらの様子を勝手口からのぞいている男の姿が見えた。

いかにもやつれたお爺さんという感じの風貌で、だがその眼はぎょろりとしていた。

川 ゚ -゚)「このお爺さんは?」

( ^ω^)「ああ、この人はモララーさんといってお。ここの料理長を務める人なんだお。
     まあ、料理長って言っても、この旅館はお客さんも部屋も少ないから、
     つーさんとモララーさんの二人で料理を作ってくれるんだけどおね。
     モララーさんたちの作った料理はそれはもう美味しくて、ほっぺたがとろけ落ちるんだお!
     あ、ほら、このガイドブックのここにも書いてあるお」


ガイドブックには、確かにそんな見出しがあった。

料理長紹介、モララーさん。
御年はなんとまだ50歳だと言うのだが、年よりも物凄く老けて見える。
ガイドブックに載っている写真を見ると、先ほどの写真ではわからなかったが、
顔には無数に小じわとしみがあり、黒髪が多々混じる頭髪のほとんどは白髪であった。

随分、苦労な生活でもしてきたのであろうか。
その写真にあった笑顔は、冷めているような感じさえした。



28: ◆WFml1l.GUY :2008/08/30(土) 20:43:58

ξ゚听)ξ「ここの従業員って、実は片手で数えられるくらいしかいないのよね。
     オーナーのフサさんでしょ、妹で従業員のつーさんでしょ、それから料理長のモララーさん。
     それから……えーと……」

( ^ω^)「あとは、もう一人従業員にミルナさんって人がいるんだけど、今は帰省中らしいお」

川;゚ -゚)「では、たった4人で旅館を運営しているんですか……?」

現在、この旅館には私とドクオとショボの3人のほか、
ブーンさんとツンさんと、少なく見積もっても客が5人いる。

旅館の規模は確かに小さいが、やはり従業員が4人ともなると、いささか少なすぎる気がした。
だが、ブーンさんはそんな私を見ても、おっおっおと相変わらずにやけたままなのである。


( ^ω^)「知らないのかお? この旅館は2部屋しかないんだお。
      なんでも、昔から客室を増やさないで、2組様までって決めてるらしいんだお。
      だから従業員もそんなに要らないってわけだお。ちなみに、今回の2組は僕たちとクーさん達ってわけだお」

川 ゚ -゚)「ふた……へや……?」

私は今日の夜中にロビーで睡眠をとることを決意し、それと同時に便所の扉をキッと睨み付けてみた。

するとそのドアが丁度よく開いて、中からいかにもスッキリした顔をした男2人が顔をのぞかせたではないか。



29: ◆WFml1l.GUY :2008/08/30(土) 20:44:57

(*'A`)「あー、マジスッキリした! 
    スッキリしたら超お腹減ったし♪ なーんちて」

(*´・ω・`)「孤島のWCマジ最高!!
      窓からのぞく自然……これぞ露天便所! なーんちゃって」

(;^ω^)ξ;゚听)ξ「……………」

川;゚ -゚)(うわあ……)

やっちまったナウ!
なーんて言葉では済ませられないくらい、相変わらず気持ち悪い二人でした。

ブーンさんとツンさんは完全にひいていました。
彼らはスッキリしているのでしょうが、わたしはモヤっとしていました。


('A`)「あ、おーい、クー!」

そしてその男は、あろうことか私に手を振って近づいてきたのだから、さあ大変です。



30: ◆WFml1l.GUY :2008/08/30(土) 20:45:57

(;^ω^)「えーと……お友達、かお?」

いつの間にか私の横に立っていたドクオとショボをみて、ブーンさんがそう言った。
その視線は、ちらちらと私とツンさんの方を行き来している。ツンさんも同じだった。

(´・ω・`)「え? なにクー、もう友達を作ったの?
      あ、初めまして。僕はショボと言います、よろしく」

('A`)「え、あ、俺はドクオです。俺もショボも、クーの同級生なんです。よろしくです」

ドクオとショボが差し出したその手だが、一つ間を置いて
ブーンさんが二人にそれぞれ握り返した。当たり前だが、ツンさんは握らなかった。

(;^ω^)「あー、えーと。僕はブーンだお。
      熊本から旅行にきたんだお。クーさんとは、さっきここで知り合って話してたんだお」

ξ;゚听)ξ「わ、私はツンです。
      ブーンと一緒に旅行に来ました。よろしく……」

ブーンとツンさんがお互いに顔を見合わせて、
それで一緒に私のほうを冷ややかな視線で見たときには、本気で死にたくなりました。



31: ◆WFml1l.GUY :2008/08/30(土) 20:47:21


( ^ω^)「お、もうこんな時間かお」

ブーンさんがハッとして腕時計を見つめた。
私も何気なく自分の腕時計に目をやると、ブーンさんと出会ってから、10分ほどが経過していた。

よく考えれば、この男二人どもも随分と長いお通じをしていたものである。


ξ゚听)ξ「ブーン、はやくいこうよ」

( ^ω^)「おっおっお、わかってるお」

川 ゚ -゚)「おや、どこかに行かれるんですか?」

ブーンさんを急かしているツンさんの素振りを見て、もしかしたら
ドクオとショボに愛想をつかして、私たちの目の前から去ろうとしているのではないか?
と、思ってしまったのだが、どうやらそういうわけではなさそうであった。



32: ◆WFml1l.GUY :2008/08/30(土) 20:48:07

( ^ω^)「役所にいって、この孤島のお偉いさんとお話しがあるんだお」

('A`)「お偉いさんと?
    ブーンさん、この島じゃ顔が利く方なんですか?」

ξ゚听)ξ「んーん。別にそういうわけじゃなくて、次のガイドブックに使う写真を選定しに行くの。
     元々、今クーさんが持ってるガイドブックの写真は投稿応募でブーンが出した作品なんだけど、
     ブーンがこの島を大好きって言うことが伝わってくる写真だって言って、この島の市長さんがブーンを気に入っちゃってね」

(´・ω・`)「市長のお気に入りですか。すごいじゃないですか、ブーンさん」

(*^ω^)「いやははは。ありがたいお」


ご自慢のカメラを右手に持ちながら、私たちに笑いかけてきたブーンさん。
その横にいるツンさんも、本当に嬉しそうに笑っている。

そういう風景を見ると、本当に仲むつまじいカップルだなあ、と見ていて私も思わず微笑んでしまった。


それからブーンさんに、少しだけこの島の写真を見せていただいたのだが、どれも本当に美しい風景の写真だった。

目立った観光スポットなどはない島であるらしいが、それでも値段がつけられそうなほどの景色がたくさんあることが分かった。



33: ◆WFml1l.GUY :2008/08/30(土) 20:49:23



( ^ω^)「じゃあ、行ってくるお」

ξ゚ー゚)ξ「また夕飯時にあいましょ」

ベッドが2つしかないという、とんでもない部屋に荷物を置いた私たちは、
旅館の駐車場で、日光を受けてさんさんと光る白い車に乗ったブーンさんとツンさんを見送った。
役所に行き、戻ってくるのは夕方だということである。


('A`)「さーて、俺たちもどこか回っていくか?」

ブーンさんたちが見えなくなったころ、ドクオはすぐ横に止まっている、
私たちが港から乗ってきた黒い車を指差してそう言った。

(´・ω・`)「いいんじゃない? 旅館にも特に何もないみたいだし。
       この島のいろいろな場所を巡ってみるのもいいかもしれないよ」

ショボの言葉ももっともだったのだが、私はどうも出かける気になれなかった。


それは、先ほどの空気の読めない会話でドクオとショボを嫌いになったからではなく、
笑われる話かもしれないが、ブーンさんたちと話していて、この旅館に興味を持ってしまい、
少しこの旅館をみて回りたくなってしまったからである。

滞在期間はどうせ3日もあるのだから、
島を回るのは明日……あわよくば、ブーンさんたちに案内していただく事もできるだろうから。



34: ◆WFml1l.GUY :2008/08/30(土) 20:50:07

川 ゚ -゚)「私はちょっと疲れたんでね。
     部屋で休んでいてもいいかな」

ドクオたちからすれば、がっかりさせるような返事だったろうが、彼らには特にそんな素振りもなかった。

('A`)「ん、そっか。なら、俺とショボでちょっとぐるーっと回ってくるよ。
    そんで、明日クーも一緒に島を回る……ってんでどうだい?」

(´・ω・`)「そうだね。一回島を走ったほうが、明日有意義に回れるもんね。
      ま、今日は慣れないフェリーに乗ったりして疲れたよね。休んでなよ」

川 ゚ -゚)「ありがとう。そうさせて貰うよ」

ドクオとショボとは、まだ数年の付き合いしかないが、
それでも彼らは私のことを大切な友人の一人だと思ってくれている。

それが私が、この奇妙な研究会にとどまり続ける理由でもあった。



35: ◆WFml1l.GUY :2008/08/30(土) 20:51:15

('A`)「んじゃ、また後でな」

(´・ω・`)「なんか美味しそうなものでもあったら、買ってくるよ」

川 ゚ -゚)「ああ。ありがとう」

手を振り、先ほどのブーンさんたちと同じようにドクオとショボを見送った。

彼らの車が向かっていった山道は、まだ青い空に向かって続いていて、
なんだか私は、一人この場所に取り残されたように感じて、物悲しくなってしまった。


結局、私はこれからのことを何も考えてなどいなかった。
自分でも良く分からないほどに、興味をそそられた旅館をもう一度見る。

その建物は、やはり美しかった。

周りの自然と溶け込むようにしてそこに荘厳として建っており、
不思議と神秘的な雰囲気をかもし出している気さえした。

その旅館の裏側に、ロビーのある本館とはまた別の、もう一つの建物を見つけた。



36: ◆WFml1l.GUY :2008/08/30(土) 20:52:02

確かあれは、露天風呂やらゲームセンターに繋がっている建物であった。

それを思い出したとき、私は本当に自分が疲れていることに気づき、
温泉にでも入って疲れを癒すことにでもしよう、という考えを抱いた。

思えば、朝早くから新幹線に乗り込み、慣れないフェリーに乗り、
ドクオの下手糞な運転でここまで来たのだ。疲労がたまっているものうなずけた。


私はすぐに部屋に向かい、鞄から入浴に必要な用具を取り出し、
しっかりと部屋の鍵をかけて、その離れの風呂に向かうことにした。



37: ◆WFml1l.GUY :2008/08/30(土) 20:52:47



川 ゚ -゚)「おお……」

露天風呂へと繋がる建物へ行くには、ロビーのあった場所から
中庭へと続く通路へ出て、中庭を経由して行く必要があった。

そのため私が中庭に出たとき、強烈な日差しと共に、その隅のベンチで腰掛け、
タバコをふかしている初老の人の姿が見えた。

麦藁帽子を被っているのだが、その下からは黒混じりの白髪がのぞいていた。
服装も、小奇麗な青いサスペンダーパンツと白いシャツを着ていて、農家の人間を思わせる風貌だった。

しかし、私にはこの人物に心当たりがあり、声をかけてみることにした。


川 ゚ -゚)「もし、そこの方、ちょっと宜しいでしょうか?」

( ・∀・)「んぁ?」

老人はタバコを右手に持ったまま、顔のほうだけを私に向けた。

その人物は間違いなく、先ほどガイドブックで見たモララー料理長だったのだが、
写真でみるよりもずっと顔はしわがれていて、その声も覇気がなかった。



38: ◆WFml1l.GUY :2008/08/30(土) 20:53:46

川 ゚ -゚)「私はこの旅館に宿泊することになった、クーといいます。
     このガイドブックであなたの写真を見かけまして……挨拶をしておこうかと」

( ・∀・)「ほほー、ガイドブック言いますと、ブーンさん撮られたあの写真ではりますね。
      どれ、ちいと見せては貰えませんかねえ」

私がタバコの煙を疎ましそうに顔をしかめたのを察してか、
目の前の灰皿にタバコを捨てると、モララーさんは私を隣に座らせるように催促して、
そのまま私のガイドブックを手に取り読み始めた。

横に並んでみてはじめてわかったものだが、随分と背の高い人であった。
先ほど会ったブーンさんも背は高かったが、彼は年を食っているのにそれよりも高いのだ。


( ・∀・)「かーぁ、ええですな。私の大好きなこの島がぁ、こうやって紹介されてて。
       それを見たお客さんがこうして泊まりにきてくれるさ、嬉しいことですね」

川 ゚ -゚)「ブーンさんとは、お知り合いなんですか?」

( ・∀・)「んぁ、ブーンさんは毎年この時期になると、この島に滞在しはりますんね。
       そいでさ、私たちのこの旅館にいつも泊まってくれるんです。ありがてえことです。
       いつも一緒に来てるツンちゃんも、えれえべっぴんさんですなあ。いや、どんどん綺麗になってますな」

ガイドブックを私に手渡しながら、モララーさんは遠い目で空を見上げつつ言った。



39: ◆WFml1l.GUY :2008/08/30(土) 20:54:37

川 ゚ -゚)「ブーンさんは何年前からこの島に?」

( ・∀・)「あー、ブーンさんねえ。5年くらい前かの」

驚いた。
5年前と言うと、どう見積もってもブーンさんは高校生である。

川 ゚ -゚)「5年……というと、この旅館、結構古くからあるんですか?」

( ・∀・)「そらありまさ。この旅館さ、25年まえからありますんね」

25年。これも、驚きを隠せない年数であった。

旅館は勿論、塗り替えや整備を幾度も行っているのだろうが、
それらを考えても、設立からの年数を思わせないほどによく綺麗に整備されている。


川 ゚ -゚)「……オーナーのフサさんやつーさんが、
     この旅館をとても大事に思っているんでしょうね。
     いやはや、この旅館も良い主にめぐり合えて良かったものですね」

うん。ここまで旅館が綺麗ということは、従業員たちが旅館を大切に思っているからに違いない。
勿論、それはこのモララーさんも含めて。すばらしいことである。


だけど、私がそう言った瞬間に、モララーさんの眉が不気味にぴくりと動いた……そんな気がした。



40: ◆WFml1l.GUY :2008/08/30(土) 20:56:07

モララーさんは懐から一本タバコを取り出そうとして、
しかし私のほうをちらりと見ると、その手をすぐ引っ込め、空を見上げた。

( ・∀・)「この旅館さ、25年前に建っとります。
       当時のオーナーのこと、しっとりますか?」

川 ゚ -゚)「当時のオーナー……ですか? 知らないですね」

つーさんは、その外見から年齢を判断させていただけば、丁度25歳ほど……つまり、この旅館と歳が近いはず。
お兄さんであるフサさんも、三十路を超えているようにはとても見えない。
という事は、確かに彼らの前のオーナーがいるはずである。

( ・∀・)「当時のオーナー、ギコさんとしぃさん言いましてね。
       そりゃーも、ギコさんは良い男で、しぃさんもそりゃあ良い女で。
       もう、お似合いすぎるカップルさんではりましたよ」

川 ゚ -゚)「なるほど。もしかして、その二人の子供が、つーさんとフサさんですか?」

( ・∀・)「さいでやす」

即答。
まさにそんな感じで、モララーさんは間髪いれずに私に返答をした。



41: ◆WFml1l.GUY :2008/08/30(土) 20:56:59

( ・∀・)「元々この旅館さ、しぃさんの実家がやってはったんです。
      そこにギコさんが嫁ぎましてね、夫婦揃って旅館を始めることになりましたんね。
      そんでもて、お二人さんが結婚してすぐに元気な男の子が生まれはりました」

川 ゚ -゚)「フサさん、ですか」

モララーさんが、小さくうなずく。

( ・∀・)「んでもって数年後、つーちゃんが生まれはりました。
      そらあもう、しぃさんによう似とりましてな……」

彼の目は、昔を懐かしむように空にあった。


川 ゚ -゚)「つかぬ事をお聞きしますが、そんな前のことを知っているとは……。
     あなたはもしかして、そのころからこの旅館に?」

( ・∀・)「さいですよ。私は、25年前からずーっとこの旅館で料理長さ、させていただいとります」

25年前からと、彼は平然と言った。

確かガイドブックによると、モララーさんの御年は50歳であったのだから、
彼は25歳からずっとこの孤島のこの旅館で料理長を務めてきたことになるのだ。



42: ◆WFml1l.GUY :2008/08/30(土) 20:58:05

( ・∀・)「いろんなことがありましたんね、25年もすると。
       フサもつーちゃんも大きくなりんやして。もう一人前ですなあ」

25年という歳月を、私は未だに生きてはいない。
私は大学三年生であって、誕生日は遅いほうなので現在丁度20歳だ。

それよりも更に5年を、モララーさんはこの島で、料理長をしながら過ごしたと言うのだから驚きである。

川 ゚ -゚)「そういえば1つ気になったのですが、その、フサさんとつーさんのお父さんとお母さんは
     どうなされたんでしょうか? この旅館の従業員としては働いていないようですが、ご隠居に?」

( ・∀・)「あー、あの2人ですかぁ」

モララーさんが、苦笑いをした。

その目は、あのブーンさんに見せてもらった写真のように、冷たくぎょろりとしていたような気がした。

( ・∀・)「ギコさんとしぃさんね、死にましたんね。……そうだ、丁度今から20年前にね。
       お2人で海に釣りに出かけましたときにね、ボートが転覆しやして。
       嵐の中、そのまま行方知れずですが、生きてはいないでしょうね。遺体もあがってませんたい……ひどいことです」



43: ◆WFml1l.GUY :2008/08/30(土) 20:59:21

川;゚ -゚)「も……申し訳ない」

地雷であっただろうか。

モララーさんが現在50歳なのだから、同年代であろうギコさんとしぃさんが、
まさか亡くなっているとは私は思わなかったのである。


( ・∀・)「いんですよ。何年も前のことですからね。
      2人が死んでからはこの旅館さね、しぃさんの親族さ経営してきたんですが、
      フサが16になったとき、この旅館さ任せましてね。つーちゃんも、料理覚えなすって。
      そいで今に至るんでやすよ」

川 ゚ -゚)「それは、大変なことでしたね。
     モララーさんは、しぃさんの親族が経営しているときも、料理長を?」

( ・∀・)「さいでやす。料理長さ、私は25ん時から続けています。
      料理長なんていっても、ここの旅館は従業員も宿泊客も少ないですからね。
      料理を作っていたのは、実質私1人でしたわ、つーちゃんが料理手伝ってくれるまではね」


モララーさんが、ニカっと笑った。

きっと彼にとって、フサさんとつーさんはとても大事で、息子のような存在なのだろう。
そう、会話をしていて思えた。



44: ◆WFml1l.GUY :2008/08/30(土) 21:00:06

( ・∀・)「さて、あんた、見たところ風呂に行くようだ。
      ここで立ち往生すんのも難でしょうし、さっさと入ってきたらいいですよ。
      私ぁ、これから夕飯の買出しに行かなきゃなりませんからね」

川 ゚ -゚)「え? ええ……」

買出しならば、先ほどつーさんが行くと言っていた気がしたのだが。
こんな山奥では、やはり携帯電話というものもないのだろうか。

私がそんな事を思っているうちに、モララーさんは本館へと入って、その姿は見えなくなった。



それから私は露天風呂につかり、体を癒した。

露天風呂からは、海と山と空を一望できて、本当に心から休まったと思った。

再びロビーに戻ると、そこはもうもぬけの殻であった。
何の物音もせず、旅館に私1人しかいないのではないかと考えると、少し不気味でひんやりとした。


少なくとも、どこかの部屋にオーナーのフサさんがいるのであろうが、
そのときの私は疲れていたので、さっさと自分の部屋に戻ると、ベッドに横になって眠ることにした。



45: ◆WFml1l.GUY :2008/08/30(土) 21:00:54

――――――――――――――
――――――――
――――

('A`)「おい、クー。起きろよ」

川 ぅ -゚)「ん……」

次に私が目覚めたとき、窓の外には茜色の景色が広がっていた。
日が水平線に沈むところで、時刻はもう夕方を少しすぎたところだった。

重い瞼をもう少し開けると、ドクオの姿がはっきりと見えた。

川 ゚ -゚)「帰ったのか。ショボは?」

('A`)「まだ風呂に入ってるよ。
   おれはさっさと出てきちゃったんだけどな」

川 ゚ -゚)「長風呂だな。私はさっき、風呂には入ったよ」

('A`)「なんだ、そりゃあ都合がいい。
    これから飯だそうだ。食堂に集まってほしいってさ」

川 ゚ -゚)「ん、わかったよ」

時計を見ると、6時だった。
ちょっと早い飯時であった。



46: ◆WFml1l.GUY :2008/08/30(土) 21:02:58

食堂に着くと、テレビでしか見たことの無いような白くて長いテーブルが1つあった。

いつの間に戻ってきたのだろうか、既にブーンさんとツンさんが仲良く2人で向かい合うようにして腰掛けていて、
私とドクオはその横にそれぞれ座るようにした。


ξ゚听)ξ「あら、クーさん。おめざめ?」

川 ゚ -゚)「いや、はは。疲れてしまいましてね」

( ^ω^)「無理もないお。東京から来たんなら、朝も早かったんだろうお?」

('A`)「そっすねー。俺も、結構疲れましたよ。
    ブーンさんたちも、役所行ってお疲れじゃないですか?」

( ^ω^)「ブーンたちは慣れてるから大丈夫だお」


そうやって会話に花を咲かせていると、ショボが戻ってきてドクオの横に座り、
今度はつーさんがやってきて私の横にすわりと、段々と人が集まってきた。

そうして気がつけば、つーさんの横には私の見知らぬ……。

いや、先ほど写真でみたことがある、フサさんがつーさんの横に座って、私のほうを見ていた。



47: ◆WFml1l.GUY :2008/08/30(土) 21:03:37

ミ,,゚Д゚彡「俺がこの旅館のオーナーのフサだから。
      君がクーちゃんだね? つーから話は聞いてるよ、よろしくね」

川 ゚ -゚)「これはどうも」

軽く会釈をすると、フサさんはつーさんと楽しそうに会話をし始めた。


やがてモララーさんがやってきて、各々にワインを注いでくれた。
赤ワインで、ほんのりとぶどうの香りが立ち込めていた。

そうしてモララーさんが次々と持ってきた食事をテーブルの上において、
夕飯の用意が全て整ったようだった。

モララーさんがショボの横に座り、全員が席に着いたところで、
フサさんの掛け声の下、いただきますと言い、私たちは食事にかじりついた。


主に山菜や魚介類などを中心としたメニューで、
白身魚のムニエルなんかは、特にうまかった。



48: ◆WFml1l.GUY :2008/08/30(土) 21:04:32

(*゚∀゚)「どう、クーちゃん。今日は楽しんだ?」

川 ゚ -゚)「あ、つーさん。いえ、今日は私は寝てしまいまして。
     明日、島中を巡ってみようと思っているんですよ」

(*゚∀゚)「へえ! ま、いろいろな景色を堪能しながら島を周ってみてよ」

川 ゚ -゚)「楽しみにしています。
     この旅館で、つーさんみたいな方と出会えて、よかったですよ」

(*゚∀゚)「私もだよ! ここに来るお客さんは皆心の温かい人でね。
     ほら、これ見て。これね、私のお父さんとお母さんなんだけど、その時から旅館があったんだよ」

つーさんが箸をおき、首にかけていたロケットを開いて私に見せてくれた。
その中には、この旅館をバックにしてとられた、2人の男女の写真が入っていた。

一瞬、それを先ほどのフサさんとつーさんの写真と見紛う程に似ていた2人が、
モララーさんの言っていたギコさんとしぃさんなのだろう。

モララーさんのほうを見ると、彼はショボと話に夢中で、こちらには気づいていないようだった。



49: ◆WFml1l.GUY :2008/08/30(土) 21:06:02

(*゚∀゚)「この旅館は、私たちにとって本当に宝物なんだ。
     これからも、ずっと大切にしていきたいんだ!」

川 ゚ -゚)「応援していますよ。
     私の知人にも、この旅館を紹介してみます」

(*゚∀゚)「ほんとに? やったね、兄さん!」

ミ,,゚Д゚彡「はは、ありがたいなあ。
      クーちゃんみたいなお客さんにはほら、サービスしちゃうから」

フサさんが私の杯に、ワインをとぽとぽと注ぐ。
お酒には強い私ではなかったが、それを断るわけにもいかず、
ぐびぐびと呑み続けた。


(*゚∀゚)「あ、あとね、私従業員の立場だからみんなには言ってないけど、今日誕生日なんだ!」

川*゚ -゚)「おお、それはめでたい。ささ、つーさんものみましょ」


結局私はその後もフサさんやつーさんと話に熱中してしまい、
食事が終わったときにはべろんべろんに酔っ払っていて、ショボに部屋まで連れいってもらった。

情けないことだった。



50: ◆WFml1l.GUY :2008/08/30(土) 21:06:57



(;´・ω・`)「ったくもー。2人とも、吐かないでよ?」

すっかり日も暮れ、外も真っ暗となったころ、
私と同じようにドクオもべろべろに酔っ払っていた。

なんでも、モララーさんにせかされて、飲みまくっていたらしい。

(;'A`)「うえ。さっさと寝ようぜ。
     寝ないと吐いちまう」

(;´・ω・`)「きたないなあ。
      でもま、疲れてるし、さっさと寝るに越したことは無いね」

川;゚ -゚)「うむ。早く寝るとしよう」

部屋にはベッドが2つしかなく、女の私が優先的にベッドで寝ることとなっていたが、
公平なじゃんけんでもう1つのベッドはショボが使うことになっていた。


歯を磨き、これから布団に入ろうと言うところで、私はふと、窓の外を見た。



51: ◆WFml1l.GUY :2008/08/30(土) 21:07:55

川 ゚ -゚)「おや」

ポツリ、ポツリと屋根を穿つ水の音。
それは次第に強くなっていき、ザーザーと激しい雨となった。

窓の外に見える山々の景色は、暗い雲に覆われてしまい、
それは夜の暗さとあいまって、全てを隠してしまうように暗かった。

('A`)「雨かー……。これじゃ、明日は出かけられないかもなあ」

窓の外を見ながら、ドクオがポツリとつぶやいた。
ショボも、そうだねと相槌を返しながら、さっさと布団に入って眠ってしまった。

('A`)「ま、明日のことは明日考えようぜ。
    さて、さっさと寝るとするかねえ……ヒック」

ドクオは床に寝そべると、仰向けになって目を閉じた。

私も寝ようと思い、電気を消して、ベッドに入ろうとする。



52: ◆WFml1l.GUY :2008/08/30(土) 21:09:10

川 ゚ -゚)「……!?」

その時、なぜだかは分からないし、それが何かも分からないのだが。


背筋がぞわぞわと震えるような、何かを私の後ろで感じた。


川 ゚ -゚)「……」


あわてて後ろを振り返ってみると、そこには
真っ暗な森が広がる窓の外の景色があるだけだった。

川 ゚ -゚)(気のせいか?)


土砂降りの雨が降り、昼間とは打って変わって薄暗くなってしまった景色を目の前に、
私はなぜだか言い知れない不安を抱いていた。

私が感じたそれは、何かの視線だった……そんな気さえ、した。

しかし、とりあえずこの晩は、それを酔いのせいにした。



1、長閑な景色広がる孤島  終



53: ◆WFml1l.GUY :2008/08/30(土) 21:11:08





川 ゚ -゚)クーと孤島のラビリンスのようです

2、穿ちの雨 そして雷光



54: ◆WFml1l.GUY :2008/08/30(土) 21:11:57

川 ぅ -゚)「ん……」

ふと目覚めると、部屋の中も外も真っ暗で、何も見えないほどの暗さだった。

今いる旅館も外から見ると美しかったが、やはりこうやって真っ暗な
中を歩こうとすると不気味で、ちょっとだけ震えた。

その時、私は丁度トイレに行きたかったのだが、
ほんの少し怖くなったので、ショボを叩き起こして連れて行くことにした。


(´ぅω-`)「う〜〜ん、なんだよぅ……。寝かしてよ……」

川 ゚ -゚)「頼む、ドクオには言わないでくれ。
     そして何も言わずにトイレについてきてくれ」

(´・ω-`)「もう、クーちゃんったら怖がりなんだから」

のっそりと起き上がったショボにいらついたが、
私が起こしている身なので自重して、とりあえず部屋を出た。



55: ◆WFml1l.GUY :2008/08/30(土) 21:13:10

ドクオはぐっすりと眠っていたので、そのまま寝かせておいて、
私とショボは暗い夜の廊下をそっと歩き出した。

昼間は気がつかなかったのだが、建物は意外と老朽化しているみたいで、
木の床は私たちが歩くたびに、少しだけきいきいと軋んでいた。

(;´・ω・`)「不気味だなあ。お化けとか出なきゃいいけど」

川;゚ -゚)「めったな事を言うんじゃないよ。心臓に悪いなあ」


小さな旅館であるから、階段の上から見えるロビーも、やっぱり電気は消えていた。
オーナーのフサさんも、もうみんな就寝しているのだろう。

物静かな中に響き渡るのは私とショボの足音、それから雨の音だけで、
不気味を通り越して恐怖を抱いた。

(´・ω・`)「しかし、トイレなんて寝る前に済ませときなよ。
       あんなにお酒たくさん飲むからだよ」

川 ゚ -゚)「……面目ない」

横にショボがいて、本当に心強かった。



56: ◆WFml1l.GUY :2008/08/30(土) 21:14:18

(´・ω・`)「トイレは確かこの階段を下りてすぐのところにあったよね」

黒い石の階段は、闇に溶け込んでいて、その足元は本当に見えなかった。
だから私たちは互いに手をつなぎあい、もう片方の手は、手すりをしっかりとつかんで階段を降り始めた。

その階段を降りたところにトイレはあるのだが、その反対側には、従業員用の部屋がある。

そこはつーさんの部屋で、オーナーのフサさんとモララーさんの部屋は、露天風呂があるほうの建物にあるはずだった。


川 ゚ -゚)「つーさんを起こさないように、静かに行かねばな」

(´・ω・`)「ねえ、クー」

川;゚ -゚)「なんだよ、うるさいな。トイレの中まではついてこないでいいぞ」

(´・ω・`)「いや……何か、聞こえない?」

川 ゚ -゚)「は? 気味悪いことを言うなよ……私を怖がらせて、トイレの中まで入ってこようとしているんだな」

(´・ω・`)「いや、ガチで」

ショボの表情があまりにも真剣なので、
耳をすませて、私たちは無言になった。



57: ◆WFml1l.GUY :2008/08/30(土) 21:14:57

最初は、ショボのいたずらだと思っていた。

だから適当に聞くふりをしていたのだが、そのうち、低い何かのうなり声のようなものが聞こえてきた。

それは、しきりにうー、うー、と小さく聞こえ、人の声のようにも聞こえた。


そして音の方向をたどると、それは間違いなく、つーさんの部屋から聞こえてきたのだった。


扉に耳をあてがって、よくその音を聞いてみる。

と、私が耳を当てた瞬間、その音はピタリと鳴り止んでしまった。


川 ゚ -゚)「……つーさんが、うなされてるだけじゃないのか?」

(´・ω・`)「うーん、どうもそうみたいだね。
       ちょっと心臓に悪かったねえ。ははは」

2人で苦笑して、さあ、今度こそトイレに向かおうと扉に背を向けたとき。


扉の向こうで、ドサっと、何かを倒すような、少し大きな音がした。



58: ◆WFml1l.GUY :2008/08/30(土) 21:15:29

(;´・ω・`)「……寝相が悪くて、ベッドからでも落ちたのかな」

川;゚ -゚)「さ、さあな」

背を向けたまま、私たちは固まった。
扉の向こうでは、もしかしたら、本当につーさんが寝相が悪くてベッドから落ちただけかもしれない。

しかし、奇妙なうめき声、そして不気味な音を聞いた私たちは、背筋にぞくりと嫌な感じをもっていた。

そして、そんな私たちに止めを刺すように。


「ギャッ!!」



と、短く、間違いなく扉の向こうから、短い悲鳴が聞こえてきた。



59: ◆WFml1l.GUY :2008/08/30(土) 21:16:37

数刻、私たちは静止した。

その悲鳴、間違いなくつーさんの声だった。
動揺、不安、様々な感情が私たちを、その場に縛り付けていた。

(;´・ω・`)「……くそ! 頼む、この嫌な予感が外れてくれ!」

そしてしばらくして、ショボが踵を返し、扉に向かい、勢いよく取っ手をつかんで開いた。
瞬間に扉が開き、部屋の中の様子があらわになる。


川;゚ -゚)「……」

(;´・ω・`)「……」


薄暗い部屋の中、私達の目にまず飛び込んできたのは、
こちらに目を向けるようにして、床に体を横たわらせているつーさんの姿であった。

しかし、その姿は普通ではない。
彼女の胸にブスリと突き刺さっている、ものがある。

それは短い柄に似合わず、太く鉛色に鈍く光る刀身を持った短剣だった。
突き刺さった刃の先端からは真っ赤な血液が出ていて、彼女の赤い服をさらに赤く染めていた。

更に、彼女は吐血していた。



60: ◆WFml1l.GUY :2008/08/30(土) 21:17:34

川;゚ -゚)「……くっ」

眼前の状況を完全に理解した瞬間に、全身から血の気がサーッとひいて、
頬を伝う冷や汗の感覚と共に、それはもう私の体はぶるぶると震えていた。

死体を目の当たりにするということは、生きていれば数回あるだろうが、
それが他殺体、なおかつ先ほどまで自分と話していた人間ともなると、平静を装うのはもう無理であった。


川;゚ -゚)「うっ……うぇっ!! ゲホッ!」

胃からこみ上げるものが喉まで出かかったが、無理やりにそれを飲み込んだ。

思わず出したセキには、自分の胃液のすっぱさを少し感じた。

失禁もしそうになるが、これも耐えた。



61: ◆WFml1l.GUY :2008/08/30(土) 21:18:53

(;´・ω・`)「くそ、こんなことが……」

一方でショボは、冷や汗をだらだら垂らしながら遺体の前に立つと、
その鋭い眼光をぎょろぎょろとさせて、遺体をくまなく見つめていた。

その視線は瞳孔の完全に開いた瞳をたどり、首元で止まる。
ショボはかがみ、視線をやったそこには、赤黒く変色した一本の筋のようなものが通っていた。

それはそう、まるで何かで首を絞めたかのような跡だった。


(;´・ω・`)「こんなに跡が残るって、そうとう強い力で首を絞められてるよね。
      しかもこれは、手とかじゃなくてロープで締められたような跡だよ。
      うめき声の正体は、もしかしてこれだったのかな。
      つまるとこ、これは計画的な犯行で、なおかつナイフまで刺すんだから、相当な恨みを持つやつの反抗かな」

川;゚ -゚)「相当な恨み、か……。
      しかし……おや……?」


ふと、その首元を見て違和感に気がつく。

この孤島で初めてつーさんと話したときに見せてもらった、ロケット付きのペンダント。

それが首から外れているのだ。



62: ◆WFml1l.GUY :2008/08/30(土) 21:19:56

つまるところで、つーさんを殺めた人間は、その首を絞めてからナイフを胸に突き立てた。
もしくはその逆であると考えることができたが、それでは、いったい何のためにそんなことをしたのだろうか。

果たして、そこまでこの笑顔の似合う女性に恨みを持つ人間がいただろうか?
そして、首にかかっていたあのロケットはいったいどこへ行ってしまったのだろうか。


(´・ω・`)「……」

ショボが腕を伸ばし、今度はナイフの刺さった胸元の血液に自分の指を触れさせる。

ショボの指の先端には、どろっとした真紅の血液がしっかりと付着していた。


(´・ω・`)「血液が凝固もしていないし、血がまだ温かくてじわじわでてる。
      脈もないし息もしてないみたいだけど、つーさんが殺されたのは、ついさっきみたいだね」

川;゚ -゚)「ついさっき……」

私たちがこの部屋に駆け込んだのは、他でもなくつーさんの悲鳴を聞いたからだ。

あの時は無我夢中でいたものの、今になってよくよく考えると、
そこに犯人がいるのかもしれないのだから、恐ろしいことだった。



63: ◆WFml1l.GUY :2008/08/30(土) 21:20:34

川;゚ -゚)「そうだ、犯人は一体どこに……!」

つーさんの悲鳴が聞こえてからこの部屋に入るまでには、確かに間があった。

しかし、1つしかないこの出入り口から犯人は出ていないし、窓にはしっかりと鍵だってかかっている。

(;´・ω・`)「僕らに気づいて、どこかに隠れている可能性がある。
        だけど、ここまで無防備な僕らに奇襲を仕掛けてこないんだ……もしかしたら、いないのかも」

川;゚ -゚)「いないって……ミステリー小説じゃあるまいし!」

(;´・ω・`)「……とりあえず、背後をとられないように、
        そしていつでも逃げられるように、扉を背にしよう」

今更だが、私とショボは静かに遺体から離れ、扉を背にして部屋の様子を見る。
辺りを見回すと、犯人が隠れられそうなクローゼットなどもいくつか見つかった。

もしも、この部屋にまだ犯人がいたとしたら。

そう考えると、とても怖くなった。



64: ◆WFml1l.GUY :2008/08/30(土) 21:21:19

(´・ω・`)「こんな小さな孤島だけど、警察はあるはずだよね。クー、携帯電話はある?」

ショボの言葉を聞き、あわてて服のポケットから携帯電話を取り出し、開く。
ディスプレイの画面が暗闇でぼうっと不気味に光り、目が少しくらんだ。

現在の時間、2時31分をデジタル時計が示し、その上方には昨日の昼に流れていたニュースの記事。

電池残量はマックス。しかし、その横には小さく『圏外』の文字が書かれていた。


川;゚ -゚)「圏外で、自動的に受信されるニュースが昨日で止まってる……。
      今まで携帯電話を特にいじらなかったから気づかなかったが、ここは電波がとにかく悪いようだな」

(;´・ω・`)「…………そりゃ、まずいな」

ショボの表情は、やけに神妙だった。

昼間の馬鹿な行動の素振りをまったく見せないほどにショボは冷静でいて、
だけど、焦ったときにショボがする、親指をかむ癖がしっかりと現れていた。



65: ◆WFml1l.GUY :2008/08/30(土) 21:22:30

川;゚ -゚)「まずいって、何がだ?」

(;´・ω・`)「昼間にドクオと外を出るときに気づいたんだけど、この旅館のある山に入るためには
      あるトンネルを通らなきゃいけないんだよ。
      おそらく、犯人はここが携帯電話の電波の届かない場所であることを把握しているだろうし、
      旅館の電話線なんて当たり前に切っているだろうけど……。
      そのトンネルをもしも何らかの形で塞がれていたりしたら、ここは孤島から隔離された、さらなる孤島となるんだ」


ショボは落ち着いたように、しかし早口で言った。

だが、私はすぐにその言葉を理解できていた。

つまり、犯人はとても頭の切れる人物であり、外界への連絡も取らせるつもりはないし、
当事者である私たちをここから逃がすつもりもないということなのであろう。

それはつまり、犯人が未だにこちら側に潜んでいては、私たちのような宿泊客からも、
第二の被害者が出るかもしれないということである。



66: ◆WFml1l.GUY :2008/08/30(土) 21:24:05

私の目前に、死という名の恐怖が近づいてきて、思わず倒れこみそうになる。
その私の肩をショボがしっかりと握り、私の目を見つめてきた。

(;´・ω・`)「もし僕が言った仮説が正しかったとしたら、犯人はまだこちら側にいる。
      いや、その場合は、犯人は僕らがこの島に上陸してから会った人間……つまり、
      この旅館の中にいて不思議でない人間である可能性が非常に高い。
      クー、よく聞くんだ。この大雨もたぶん犯人の想定内……。
      土砂崩れの多い山の中を出て行くようなことはしないだろう。
      だから多分、犯人はこの旅館内にいる可能性が高い。
      それを考慮すると、僕らがここから動くのは得策とはいえない」

川;゚ -゚)「だがもし、犯人がこの部屋に隠れていたらどうするんだ!?」

(;´・ω・`)「大丈夫、扉を背にしている限り、不振な物音が聞こえた瞬間に逃げ出せば何とかなる。
      しかし、つーさんの遺体をこのまま放置すれば、犯人が証拠を持ち去る可能性もある。
      例えばそう、この胸に刺さったナイフとか、ね。かといって、ナイフを取りに行けば、
      犯人に奇襲されるかもしれない。もっとも、僕は死体からナイフなんか抜きたくないけどね」


私も、ショボの言うことには全面的に肯定だった。



67: ◆WFml1l.GUY :2008/08/30(土) 21:26:18

(;´・ω・`)「それに、どこかに抜け出しているなら、犯人がここに戻ってくる可能性も否定はできない。
        そうなった場合、目撃者の僕らに危険が及ぶのは確実だ。
        だからつまり……くそ、どうしたらいいんだ!!」

いつも冷静沈着なショボが、狼狽していた。

( ・∀・)「ちょ……ちょっと、お待ちくだせえ!」


しかし、そのショボの言葉をさえぎる、ひとつの声。
その主は、昼間に私があったモララーさんに相違なかった。

食事のときのエプロン姿ではなく、薄いシャツにハーフパンツといかにも身軽そうな格好で、
廊下と部屋を結ぶドアの前に、不気味に立っていた。

私は突然の外来者に声も出ずに震えるばかりで、
そんな私の前に、すっとショボが立ちはだかり、モララーさんと対峙した。
月明かりに照らされて後ろからでも良く分かったのだが、ショボは頬に大量の冷や汗を流していた。

対するモララーさんは、たまに小刻みにぶるぶると震えているものの、
こちらを見る表情はしっかりとしていて、私とは大違いであった。



68: ◆WFml1l.GUY :2008/08/30(土) 21:27:09

(;´・ω・`)「ま、待ってください。あなたが妙に冷静ところを見てお願いがあります。
      そこからこれ以上、僕たちに近づかないでいてください!」

失礼な言葉ではあったが、モララーさんは特に何を言うでもなく、
ただ一回つーさんの遺体のほうに目をやると、ぴたりと足を止めた。

ショボは呼吸を落ち着けて、モララーさんのほうへと向き直る。


(;´・ω・`)「いつからそこに?」

( ・∀・)「ん……んだ、ついさっき便所にいこう思いましたら、つ……つーちゃんの部屋のドアが開いてるのが見えましてねん。
      ひょっこり中さ見ましたら……つーちゃんが血を流して倒れてて、その横にあんたらがいはるじゃないですか……!
      私、しばらく……こ、腰抜かしちゃいましてね。声も出ないで、失禁してまいましたよ……はは」

どもりながら言うモララーさんが、自分で指差した彼の股間の部分は、黒いハーフパンツがより黒い色になっていた。
どうやら本当に失禁してしまっていたらしい。部屋の外で腰を抜かしていたのかは、定かではないが。

私たちも私たちで、すぐ真後ろにモララーさんがいたのに気づかないほど、焦っていたようだ。



69: ◆WFml1l.GUY :2008/08/30(土) 21:28:04

(;´・ω・`)「それで、今は落ち着きを取り戻したと?」    

( ・∀・)「さいでやす。もしかしたら、あんたらがつーちゃんを殺した……そう思ってはりました。
       だども、どうもそんな様子じゃなか。話を聞けば、あんたらはただの目撃者のようだ。
       で、ですからんね。私に出来ることがあれば、なんなりと……」

そのモララーさんの言葉の後、静寂が続いた。

ショボは動かず、じっとモララーさんを見つけ、何かを考えるようにして目を泳がせている。
その静寂が、私には何分にも、何時間にも感じられたものだった。


(´・ω・`)「……あなたは、つーさんと20年もの間、生活を共にしたはずだ。
       失礼なことをお聞きします。よく、彼女の遺体を前にして大きく取り乱しませんね」

やがて静寂を打ち破るようにショボが静かに発した声に、モララーさんは
息を大きく吸い込み、吐き出し、窓の外を眺めながら口を開いた。

( ・∀・)「と……取り乱しても仕方ねーでしょう。私ぁ、あんたの2倍は生きとります。
       そらね、大切な人が死ぬところなんざ、何回も見てきましたよ。
       ですから、つーちゃんが殺されたのは……すごく悔しいんですよね」

そう言った彼の右手は、握りこぶしを作ってわなわなと震えていた。



70: ◆WFml1l.GUY :2008/08/30(土) 21:29:00

(´・ω・`)「……失礼しました。どうぞ。
       しかし、部屋の中に犯人がいるかもしれませんよ?」

ショボが一礼して、私たちが悲鳴を聞いて駆けつけたこと、犯人の姿がないことをモララーさんに伝える。
モララーさんはそれを聞くと静かにうなずき、部屋の中に入っていった。

モララーさんはゆっくりとつーさんの遺体の前に立ち、かがむと、
その様子をじっくりと眺め始めた。

彼の視線はまず遺体の胸元をたどり、それから首先、最後に顔で止まった。


( ・∀・)「…………つーちゃん。綺麗な顔してまんな」


私は、その言葉に語弊があるようにも感じられた。

確かにつーさんは、たおやかで、笑顔の似合う女性であった。
しかし、今その顔ときたら、瞳孔が完全に開き、口からはおびただしい量の血を吐き出している。

昨日出会った時に、つーさんを美しいと思った私でさえ、目の前の遺体には畏怖の感情を持っている。
それを美しいと言うのだから、モララーさんがどれほどつーさんを愛しているのかを感じられた。



71: ◆WFml1l.GUY :2008/08/30(土) 21:29:39


結局、モララーさんはそれからしばらく、ずっとつーさんの顔を眺めていた。
最後に1階その輪郭をなでると、モララーさんは立ち上がり、再び私たちと向き直った。


( ・∀・)「迂闊に部屋を出るのも危険でしょう。私がね、非常用の緊急ベルさ鳴らしてきます。
       旅館中にサイレンの音がなって、私の放送でこの部屋に誘導できますんね」

(´・ω・`)「しかし、この状況を旅館のお客全員が見たら、動揺をまねくのでは……」

( ・∀・)「そうも言ってられんでしょ。
       ここを離れるわけにも行かないでしゃろ。なに、すぐ戻ります」

(´・ω・`)「あ、ちょ……!」


ショボの言葉を途中でさえぎって、モララーさんは勢いよく階段を上り、
確か2階にあった、管理室のほうへと走っていった。

足音はやがて聞こえなくなり、薄暗い部屋の中、
モララーさんがいなくなったことで、不気味な静寂がまた戻った。



72: ◆WFml1l.GUY :2008/08/30(土) 21:30:33

しばらくの間、私とショボが2人で部屋に残されて。
不気味な緊張感をはらんだその部屋から、私はとにかく早く離れたかった。


そして2分ほどした時だろうか、旅館中に大きなサイレンの音が鳴り響いた。
耳を劈くようなその音はとてもうるさく、鼓膜が破れるのではないかと思ったほどであった。

それと同時に、モララーさんの声で、アナウンスが入る。


『緊急事態が発生しやした! 1階の101の部屋に集まって下さい!
 緊急事態が発生しやした! 1階の101の部屋に集まって下さい!』


それだけを言うと、放送はブツリという電子音と共に途切れ、
次に気がつけば、物凄い勢いでこちらに駆けてくる誰かの足音が聞こえた。

「はっ、はっ、は!」

ずうっと向こうからかけてきたその姿は、直後についた明かりによってすぐにわかった。

物凄い形相でこちらを見つめる、フサさんだった。



73: ◆WFml1l.GUY :2008/08/30(土) 21:31:24

ミ;,,゚Д゚彡「どけ!!」

フサさんは扉の前まで来ると、そこに立っていたショボを勢いよく跳ね飛ばし、
部屋の中に入って、絶叫した。

そしてすぐに私のほうに向き直り、私の胸倉をつかんで
体を持ち上げると、それはもう鬼のような形相でこちらを見つめてきた。

ミ#,,゚Д゚彡「おまえが……おまえがやったのか!?」

川;´-゚)「ぐ……ち、違います! 私はただ」

(;・∀・)「こ、こら! フサ、やめんかいね!
      クーさん達は、つーちゃんの悲鳴さ聞いて、かけつけただけですわ!」

ミ#,,゚Д゚彡「くそ!!」

私を乱暴に払いのけるようにすると、フサさんはつーさんの遺体に寄り添い、
静かに涙を流し始めた。


その背中がとても痛ましく思えて、私は先ほどあんなに乱暴にされたのに、同情してしまった。



74: ◆WFml1l.GUY :2008/08/30(土) 21:32:21

(;^ω^)「ツン。ツンは部屋の中を見るんじゃないお」

ξ゚听)ξ「え?」

手をつなぎながら仲良くやってきたブーンさんとツンさんの姿も、いつしか部屋の外にあった。

しっかりしているブーンさんは部屋の中の様子にいち早く気づいたようで、ツンさんに
部屋の中の光景を見せないように、体を使って視界を精一杯ふさいでいた。

ショボがそんなブーンさんとツンさんに事情を説明すると、
ツンさんは一気に顔が青ざめてしまって、トイレのほうへ駆け込んでいった。


ブーンさんは困り果てた顔で、ショボと一緒に私のそばへやってきた。



75: ◆WFml1l.GUY :2008/08/30(土) 21:33:32

(;^ω^)「つーさんが、殺された……のかお?」

部屋の中を一回見て、遺体に寄り添いながら泣くフサさんと、それをなだめるようにして横に立つ
モララーさんを見ながら、ブーンさんは信じられないと言った様子で私たちに語りかけてきた。

(´・ω・`)「僕たちがトイレに行こうとしたら、悲鳴が。
       慌てて部屋に入ると、もぬけの殻でした。
       犯人が近くにいるかもしれません」

( ^ω^)「お……部屋がもぬけの殻……かお?」

川 ゚ -゚)「ええ、奇妙な話です」

ブーンさんは、考え込むようにして下を向いてしまった。
やはり、この密室殺人のトリックは全然わからないし、犯人が今もどこかにいるのではないかと言う恐怖があった。


それから結局10分ほどして、ツンさんがトイレから出てきて、
ブーンさんとツンさんはロビーの椅子の上に体を横たわらせていた。



76: ◆WFml1l.GUY :2008/08/30(土) 21:34:57

川 ゚ -゚)「……そういえば、ドクオが来ないな」

時計を見ると、警報機がなってから数分が経っているというのに、
ドクオの姿が見えなかった。

私は一瞬だけ最悪の事態を考えたが、すぐに首を振り、
まだ寝ているのだろうと思うことにした。

(´・ω・`)「僕が見てくるよ。大方、寝てんだろうね」

川 ゚ -゚)「わかった。気をつけてな」

ショボが階段を上り、2階の通路に入っていく。
通路の奥に部屋があるので私の位置からは見えないのだが、扉の閉まる音が静かな空間に響いた。




そしてそれから、また10分がすぎた。



77: ◆WFml1l.GUY :2008/08/30(土) 21:35:31

川;゚ -゚)「??」

ブーンさんとツンさんは相変わらず椅子の上でぐったりとしているし、
モララーさんとフサさんは遺体の横でずっと固まっている。

そして私も同じように、このロビーのど真ん中で立ち尽くしているだけだった。


どういうわけか、ドクオを起こしに行ったショボまでもが戻ってこない。

ひどい胸騒ぎを感じ、私はいてもたってもいられなくなり、ブーンさんにそのことを告げると、
駆け足で部屋に戻ることにした。

薄暗い廊下の中、私たちの部屋からは光が漏れていた。


だから私は何も恐れることなく、勢いよくその扉を開いた。



78: ◆WFml1l.GUY :2008/08/30(土) 21:36:37


川;゚ -゚)「え……?」

静けさは本当にどこまでも続いていて、
私が扉を勢いよく開けた音だけが、一瞬こだました。

私は、すぐにでもドクオ達が私に気づいて反応するだろうと。
そう信じて、その扉を開けたというのに。

扉の向こうに広がっていた景色は、どうしてか、
私が今朝、モララーさんと会ってから戻ったときの景色と同じだった。

ただ違うことと言えば、窓から見える景色は真っ暗で、雨音がザーザーとうるさいだけ。


部屋の中には、私一人しかいなかった。



79: ◆WFml1l.GUY :2008/08/30(土) 21:37:18

馬鹿馬鹿しい。そう思うしかなかった。
なぜ、部屋の中に私しかいないのだろうか。

私がショボと部屋を出るとき、確かにドクオはいたはずなのだ。
ドクオは、窓に近いベッドの上で静かに寝息を立てて眠りこけていたはずなのだ。


なぜ、その姿が消えてしまっている?
そして、なぜにそのドクオを起こしに行ったショボの姿までもが消えてしまっている?

そもそも、ひとりでに消えてしまうという可能性など、微塵にもない。
ならば、ドクオとショボと連れ添って、またこの島に来たときみたいにトイレにでも行っているのか?


そうも考えたが、ショボもドクオも本当は冷静沈着で、行動力のある人間だ。
まさかこんな事態にそんな場所に行き、私を混乱させるようなことはしないはずである。


ならば、どうしてドクオとショボはここにいない?



80: ◆WFml1l.GUY :2008/08/30(土) 21:38:13

うるさい雨音に混じって、私の握り締めた量の拳に、水滴が落ちる。
それが私の涙だと気づくのには、時間はそう要らなかった。

川 ;-;)「ドクオ……? ショボ……!?」

大きく彼らの名前を叫んでみる。
その瞬間、視界が一瞬くらみ、続いて激しい稲光が耳を劈いた。

もちろん、私が名前を読んだ彼らからの返事は、ない。


川 ;-;)「どうして……」

体中から力が抜け落ちて、私はへろへろとその場に座り込んでしまった。
立つ気力さえ起きない。物事を考える気力すら起きない。

目の前で人が死んでいたと思ったら、今度は私の大切な友人が消えてしまった。


それがもたらした孤独は、私にとってはあまりにも大きすぎて、
小さな私は、もう耐えることなんか出来なかった。



81: ◆WFml1l.GUY :2008/08/30(土) 21:39:00

部屋の中は、相変わらず雨の音だけがザーザーとうるさかった。

もう、私は嗚咽も漏らさずに、ただ呆然と涙を流して、部屋の真ん中で力なく座っていた。



その時、私は背筋にぞくりと視線を感じた。


それは就寝する前に感じた、あの誰かに見られているような視線。


冷たく、思わず身震いしてしまいそうな、そんな不気味な感覚。


身の毛がよだつほどに寒気を感じ、私は頭をがっくりと垂れ下げて、うつぶせになった。


その瞬間、大きな光が部屋を包んで、激しい雷光の音がした。


また、部屋は雨の音がうるさくなった。



2、穿ちの雨 そして雷光   終



82: ◆WFml1l.GUY :2008/08/30(土) 21:41:55




川 ゚ -゚)クーと孤島のラビリンスのようです

3、孤島のラビリンス



83: ◆WFml1l.GUY :2008/08/30(土) 21:42:41

川 ゚ -゚)「……」

結局、私はそのまま朝を迎えてしまった。

フサギコさんは魂が抜けたように呆然して部屋から出てこないままで、
私も一睡もすることなく部屋の中でぼうっとしていた。

ブーンさんとツンさんには、あの後部屋に戻ったようなので会っていないが、
おそらく困り果てているのだろう、こんな状況を前にして。

モララーさんはと言うと、人を呼ぶと言って、この旅館を出てふもとのほうに向かっていった。


窓を見ると、灰色の空からサーサーと雨の降る景色が見えた。
島の一帯を雲が立ち込めており、遠くに見える海は大きく荒れていた。

揺れ動く波頭に、私はしばらく心をゆだねていた。



84: ◆WFml1l.GUY :2008/08/30(土) 21:43:40

そうしているうちに、コンコンと部屋の扉をノックする音が聞こえた。
軽く向き直り、どうぞ、と一声をかければ、そこにはブーンさんとツンさんが立っていた。
私の思ったとおり、それは困り果てた顔をしていて、眉が八の字に下がっていた。

ショボみたいだ、と思って、私は急に泣き出しそうになってしまった。

( ^ω^)「クーさん、ええと、その……大丈夫かお?」

しどろもどろになりそうなくらいに言葉を選びながら、ブーンさんが私に声をかける。


大丈夫なもんか。と、返したくなってしまうのだが、
横でおろおろしているツンさんを見ると、そうもいかないものであった。


川 ゚ -゚)「ええ。私は大丈夫です。
     それより、フサさんの方が私なんかより悲しみにくれているのでは……?」

( ^ω^)「お……。フサさんかお……」

気まずそうなその目線が、状況を語っていた。
遺体に泣きついて、自分の部屋に閉じこもっていたフサさんは、やっぱり今もそのままなのだろう。

私は小さくうなずいた。



85: ◆WFml1l.GUY :2008/08/30(土) 21:44:34

ξ゚听)ξ「ねえ、ツンさん。
     ドクオ君とショボ君、きっと生きていると思うの。だから……」

(;^ω^)「ツ、ツン!!」


隠しながら握り締めていた自分の拳に、思い切り力が入るのを感じた。

ドクオとショボが死んだなんて、最初から思っているわけがなかろうが。
勝手に殺すんじゃないよ。と、一番にそう思ってしまった。

しかし、勿論2人が死亡している可能性だって十分にあるのは間違いないのだった。
犯人は、つーさんの首を絞めて更にナイフまで刺しているんだ。

いまさらもう1人、人を殺そうと不思議なことではないはずである。

ブーンさんが、この島に来て、ツンさんに都会人と言われたときのように、
ものすごく申し訳そうな目でこちらを見ながら、頭を下げていた。

ツンさんは、意味もわからなそうに戸惑っていた。


そんな2人を見ていると、私は怒りなど不思議におさまってしまった。



86: ◆WFml1l.GUY :2008/08/30(土) 21:45:10

川 ゚ -゚)「いいんです。ドクオとショボが見つかると、私は信じています。
     でも……。でも、最悪の事態は……覚悟しています……から……」

嗚咽が喉まで出掛かって、涙が目頭を潤そうとした。
しかし、それらを必死に飲み込んだ。

気丈な振る舞いがしたかったわけではない。
ただ、目の前にいる2人に余計な心配をかけたくなかっただけであった。

私が泣いたところで、事態に変動はない。そんなことは、火を見るより明らかなのだから。


( ^ω^)「クーさん……」

川 ゚ -゚)「平気ですから。お構いなく」

無理に笑顔を作って見せた。
ブーンさんは、それからもう、私の表情を見ても何も言わなくなった。



87: ◆WFml1l.GUY :2008/08/30(土) 21:46:18

それから暫くの沈黙があって、若干の気まずさが
空間を支配する中、先に口を開いたのは、ブーンさんだった。


( ^ω^)「クーさん。
      僕は、何年も前からこの旅館に滞在しに来てるお。
      その時、孤島のラビリンスという建物の噂を聞いたことがあるんだお」

川 ゚ -゚)「孤島のラビリンス? なんですか、それは」

どこかのミステリー小説にでも出てきそうな名前であった。
孤島に広がる迷宮? しかし、どこに。


ξ゚听)ξ「孤島のラビリンスは、この旅館の地下にあるらしいの。
     作られた目的は不明で、本当にあるかどうかすら分からない。
     けど、ドクオさんとショボさんが短時間のうちに姿を消したとすると、
     あの嵐の中、誰にも見つかることなく海に2人を突き落としたりするのは不可能だと思うの」

川 ゚ -゚)「それはつまり……ドクオとショボがその、孤島のラビリンスに幽閉されている可能性があると?」

( ^ω^)「そういうことだお」



88: ◆WFml1l.GUY :2008/08/30(土) 21:47:11

信憑性も、へったくれもない話だった。
孤島のラビリンスと言うものが胡散臭いのは何よりだったし、
唐突にそんなことを言われても理解できなかった。

だが、ドクオとショボが生きている可能性がある。
それだけで私は、その可能性にかけてみたくなった。


川 ゚ -゚)「……場所は、この旅館の地下でしたか?」

( ^ω^)「そうだお。あくまでも、これはモララーさんから聞いた噂なんだけどおね。
      旅館の地下には、ラビリンスが広がっているって。
      だから、もしかしたらこの旅館のどこかに入り口があるかもしれないんだお」

ξ゚听)ξ「つーさんの部屋から、犯人は音もなく姿を消したわ。
     だからそれはつまり、この旅館の中には孤島のラビリンスの続く道がいくつかあって、
     その1つがつーさんの部屋にあって、そしてこのクーさんの部屋にもあって、
     何らかの形でドクオさんとショボさんはそこに移動させられたんじゃないかと思うの。
     そう仮定すると、犯人はラビリンスを知っている可能性のあるフサさんか、モララーさんか……」
      
川 ゚ -゚)「それとも、ラビリンスに姿を隠している何者か……ということですか」

( ^ω^)「そういうこと、だお」



89: ◆WFml1l.GUY :2008/08/30(土) 21:48:07

犯人の目星と言うのは、かなり絞ることができる。
私ではないし、ドクオとショボがそんなことをするはずは無い。

目の前の2人だって、完全には信用できない。
もしかしたら、このラビリンスへの誘いだって、私をそこに誘導して殺すための手はずなのかもしれない。


だが、ドクオとショボが消えてしまった以上、私に残された道は、
この信憑性の欠片も無い可能性にかけるか、二人を見捨てて変えるしかない。

どちらを選ぶのかと聞かれれば、私が選ぶ一方に迷いは無い。


川 ゚ -゚)「わかりました。ラビリンスの入り口を探しましょう」

( ^ω^)「おお、そうくるとおもってたお!」


前向きになった私を見てか、ブーンさんがやっと明るい表情を見せた。
それにつられて、ツンさんもにこやかに笑う。

やはり私には、この2人が私を陥れようとしているなどとは、到底思えなかった。



90: ◆WFml1l.GUY :2008/08/30(土) 21:49:04


孤島のラビリンスの入り口探しが始まってすぐ、私たちはつーさんの部屋に向かった。
警察が来ることもかなわないので、遺体はやむを得ずそのばにシートをかぶせて放置してあった。


遺体に近寄らないようにしながらくまなく探すと、小さな本棚を固定していた止め具が
少しゆるくなっているのを、ブーンさんが発見した。


旅館のオーナーであるフサさんやつーさんには申し訳がなかったが、その
本棚を動かすと、そこには何やら折りたためる取っ手のようなものがついた壁があって、
その取っ手を横に引くと、鈍い音と共に扉がスライドし、少し先には薄暗く下へと続く階段が見えた。


( ^ω^)「ビンゴ、かお……」


本当に孤島のラビリンスというものがあったので、私は内心喜んでいた。

ドクオとショボが生きているかもしれない。
その可能性が、十二分に証明されたのだから。



91: ◆WFml1l.GUY :2008/08/30(土) 21:50:03

( ^ω^)「僕が先頭をいくお。
       ツンとクーさんは、あとをついて来てくれお」

ブーンさんが小さい入り口をかがんで通り、ツンさんがそれに続く。
そんがりの私は本棚をしっかりと戻すと同時に、扉をスライドさせ、閉めた。


そうするともう本当に真っ暗で、私たちは携帯電話の小さな光を頼りに道を進み始めた。
コツコツと足音が嫌に響いて、非常に不気味であった。


( ^ω^)「大丈夫だお、ツンは僕が守るお」

ξ゚ー゚)ξ「うん……ありがと、ブーン」

川;゚ -゚)「……うぉっほん」

(;^ω^)「……あ、クーさんもね」

そして何より、ちょっと気まずかった。



92: ◆WFml1l.GUY :2008/08/30(土) 21:50:39

また暫く歩くと、更に降りる階段があって、その下はぼうっと明るかった。
やがて視界がだんだんと明瞭になり、目の前の景色がはっきりとしてくる。

階段を降りきると、そこは本当にラビリンスだった。
壁がいくつも枝分かれするように並び、それに沿って多く取り付けられた
松明の光が道をどんどんと照らしていた。

壁は黄色く光、どこまでもどこまでも続いていた。
迷宮のラビリンス。ここに、ドクオとショボがいるかもしれない。

川 ゚ -゚)「しかし、来たはいいけど、これからどうするんですか?
     迂闊に進めば、犯人と鉢合わせになるかもしれないですよ」

(;^ω^)「ううん、そうなんだけど……進むしかないお」

川 ゚ -゚)「……まあ、そうですよね」

私たちはそのラビリンスの道を、ブーンさんを先頭にして、ひたすらに歩き始めた。



93: ◆WFml1l.GUY :2008/08/30(土) 21:51:11



――――――――――――――――――
――――――――――――
―――――――

瞼を開き、視界が明瞭になっていく。

差し込む光が嫌に眩しく、目がくらみそうな感じを覚える。

その光の色は、薄い黄土色。

自分たちがいた部屋の壁は、真っ白だった。

はじめはその光景に理解できなかったが、次第に頭痛と共に、記憶がよみがえっていった。

なぜ自分が、体中にロープをぐるぐる巻きにされてこんなところにいるのか。

そして、自分の横に頭から血を流しているショボが倒れているのか。



94: ◆WFml1l.GUY :2008/08/30(土) 21:52:05

('A`)「…………」

落ち着いて周囲を見渡してみれば、その部屋は三方を黄土色の壁に覆われ、
一方を鉄格子で覆われていて、壁にかかる1つの松明で照らされた部屋だった。
いうなれば、囚人をいれておく牢獄といったところか。

(;´ぅω-`)「う……ぐ」

('A`)「ショ、ショボ!」

そんなことを考えているうちにショボに意識が戻ったらしく、
ショボは目をこすりながら、のっそりと立ち上がった。


(;´ぅω-`)「痛っ!!」

そしてショボが突然、頭を抑えてうずくまった。

ショボの右耳の横辺りから、血がたらりと流れていた。
その量からして傷は深くはなく、致命傷ともならないものであろうが、痛そうだった。

(;'A`)「ショボ、その傷は……」

(´・ω・`)「っ……気にしないで、ここに落ちたときにできたみたいだ」



95: ◆WFml1l.GUY :2008/08/30(土) 21:53:03

ショボも辺りを見回し、そしてたずねる。

(´・ω・`)「ドクオ、ここは……」

('A`)「さあ、わからねえ。
    俺が覚えてるのは、夜中に起きたらお前とクーがいなくてさ。
    トイレに行ったのかとでも思ったけど、やけに目がさえてたから窓の外の景色を見てたんだ。
    そしたら、背後に人の気配を感じて……振り向く前に、頭をガツンと殴られて、気がついたら縛られてここにお前といたんだ」

(´・ω・`)「そうか……。
      僕は、君を起こしに部屋に戻ったら、君が簀巻きにされて床の上に横たわっていたから、
      急いでその縄を解こうと……。そしたら、急に床が開いて、僕と君はここにまっ逆さま、僕は気を失ってたんだ」

('A`)「床が開くって……ミステリーのご都合展開みてえだな。
    しかし、俺を起こしにきたって、なんでまた?」


そこでショボは一呼吸整え、まじまじと俺のほうを見る。


(´・ω・`)「落ち着いて聞いてほしい。
       つーさんが、誰かに殺害された」



96: ◆WFml1l.GUY :2008/08/30(土) 21:53:46

('A`)「へ?」

ただでさえ混乱している頭の中に、新たな火種を投げ込まれた。

が、幸い、つーさんとは深い付き合いも無かったし、ここには今俺とショボしかいなかったので、
俺は妙に、自分で不気味に思うほどに落ち着いていた。

冷静になって考えてみれば、旅行に来ただけの俺がいきなり簀巻きにされるメリットが果たしてあるのだろうか。

何か、俺がまずい証拠でも握っているのではなかろうかと考えたのだが、そんなものもない。

('A`)「つーさんが殺された……ね。
    犯人はわかってたりしないよな?」

(´・ω・`)「残念ながらわからない。
       だが、おそらくクー以外で、あの旅館の宿泊客、従業員の中の誰かだ。
       わかっているとは思うが、クーが危ない」

('A`)「……そんな」

クーがここにいないと言うことは、現在も旅館に取り残されているのだろう。
それは確かに、危険なことだった。



97: ◆WFml1l.GUY :2008/08/30(土) 21:54:33

とにかく、時間がない。
俺を縛り上げて、このわけのわからない小部屋に
ショボもろとも突き落としてくれたやつこそが、おそらくつーさんを殺害した犯人であろう。

つまりそれは、やっぱりあの旅館の関係者に犯人がいると見て間違いなくて。
更にいうなれば、クー……それから、俺は信用しているが、ブーンさんとツンさんにも被害が及ぶと言うことだ。


('A`)「とりあえず、早いこと、ここを脱出しないとな……」

と、口に出してみる。
しかし、自分ひとりであれこれと考えを模索しても、たかが知れているのであった。

(´・ω・`)「……」

ショボも思考を張り巡らせ、辺りをきょろきょろと見回している。
3人よれば文殊の知恵とはよく言ったもので、この場にいつもならクーがいて、明瞭な解決策が思い浮かぶものなのだが。



98: ◆WFml1l.GUY :2008/08/30(土) 21:55:13

その時、俺の右手が何か違和感を感じ取った。
右手、というよりは、右手をもたれかけさていた壁に異変があった。

右手を動かしたとき、壁の塗装が粉となって付着するのを感じたのだ。

('A`)「粉……?」

体を動かしてそこを見れば、壁の一部に小さな穴が開き、そこから薄い亀裂が
壁の間を走りこんでいて、その亀裂の部分の黄色い塗料が乾燥し、パラパラと崩れて俺の手にかかっていたのだった。

しかし、本当に小さな穴と亀裂であったので、それでどうにかなるとは思っていなかった。


(´・ω・`)「!!」

……少なくとも、それは俺個人の考えであり、
この状況を見て目を光らせたショボがどう思ったのかは、定かではないのだが。



99: ◆WFml1l.GUY :2008/08/30(土) 21:55:44

(´・ω・`)「ドクオ、これは行けるぞ!」

ショボがそう言いながら、右のポケットに手を突っ込んで何かを取り出した。
小さく、太長く、鈍い鉛色に輝くそれは、
よくよくみると、刀身が異様に太いアイスピックであった。


(;'A`)「何でそんなものが出てくんだよ」

(´・ω・`)「ん? 僕の実家はバーだからね」

果たして、そういう問題なのだろうか。

と、俺が見ている前でショボは崩れ落ちた壁のかけらを拾い、
それを手に持ち、アイスピックのキャップをはずして、その先端を亀裂の部分にあてがうと、勢いよく叩きつけた。


その瞬間、コーンと鈍い音が響き渡り、しかし壁の亀裂は少しだけ濃くなり、広がっていった。



100: ◆WFml1l.GUY :2008/08/30(土) 21:57:20

それから幾度も幾度もショボはアイスピックを壁に打ち続けていた。

だが、素人の俺の眼で見ても、次第にアイスピックの先端が
穿っている壁に逆に削られ、脆くなっているのに気づくことが出来た。

ショボがポケットから取り出したときはとても鋭利だったのに、
今ではなまくらがたなのように、その刀身はぼろぼろである。


('A`)「なあショボ、そのアイスピック壊れないのか?
    壁の厚みだって結構あるだろうし、アイスピックで壁を壊すなんて無謀じゃないか?」

(´・ω・`)「んなことないよ。
       この亀裂と穴、そしてアイスピックを叩きつける感覚で分かるんだ。
       ここの壁は、僕らが思っている以上に薄く、そして壁は風化していてひどく脆い。
       それにね、このアイスピックは僕専用のものなんだ。
       毎日太ましい氷を削ってきてるんだから、これくらいで壊れるわけないだろう」


俺のほうを見向きもしないでショボはそう言い、壁を叩き続けていた。

少々納得のいかない説明ではあったが、壁の亀裂が今見ればくっきり
分かるほどに広がり、最初に壁にあいていた小さな穴は、握りこぶし大くらいまで広がっていた。



101: ◆WFml1l.GUY :2008/08/30(土) 21:58:19

(´・ω・`)「そぉい!」

ショボの奇妙な掛け声と共に、
懇親の力でアイスピックが亀裂と穴の中心をめがけて振り下ろされる。

それが、最後の一打となった。

('A`)「!!!!」

次の瞬間には、ガラガラと壁の崩れる音がして、
壁にあいた穴を中心に、広がる亀裂が決壊し、積もった瓦礫をショボと一緒にどかすと、
そこには子供一人が通れそうなくらいの大きな穴が開いていたのだった。


穴の向こうには、相変わらず松明に映える黄色い壁がどこまでも続いているのが見えた。
それを見て、一瞬落胆しそうになったが、少なくともここのように四方が
壁にふさがれているというわけではさすがにないであろう。

(´・ω・`)「とりあえず、ここを動こう。
      犯人がいつここに来るかもしれない」

('A`)「おう」

俺とショボはその穴をくぐり、孤島の地下に広がる
この奇妙なラビリンスを歩き始めた。



102: ◆WFml1l.GUY :2008/08/30(土) 21:59:03



俺とショボがしばらく適当に歩き始めると、前方から風が吹き込んでくるのに気づいた。

('A`)「風……ってことは、出口か?」

(´・ω・`)「行く価値はあるだろうけど、用心してね」

('A`)「わかってら」


忍び足で、ゆっくりとそちらに向かって歩くと、壁がそこだけ切り取られたようになくなり、
そこからは濃い茶色の岩の道がごつごつと続いて、大きな開けた場所に出た。

そこからは潮風が勢いよく吹き込んでいて、波の音さえした。
見下ろしてみれば、下はすぐ海で、周りを見れば、ここはどうやら旅館のあった山の
どこからしく、ここと連なるようにしてはるか右のほうには山のふもとが見えた。


(´・ω・`)「どうも、人が生活しているような痕跡があるね」

ショボがそこら辺りを見回しているのを自分も眺めると、小さなベッドと
薄汚れた本棚を1つだけ見つけることが出来た。

ベッドの上には銀色の何かがあって、それを拾ってみると、ロケットだった。



103: ◆WFml1l.GUY :2008/08/30(土) 22:00:13

(;´・ω・`)「これ、つーさんのロケット? クーが言ってた……」

そのロケットは、俺には全く見覚えのないものであったのだが、
どうやらショボはクーにそのロケットの事を聞いたことがあるらしく、
なんでもつーさんの両親の写真が入っている、彼女の大事なロケットだと言う。

ならば、それがどうしてここにあるのだろうか。

(´・ω・`)「……つまり、犯人はつーさんを殺してから1回ここに戻ってきてるんだ。
      こりゃやばいね。このままここに立ち往生してると、僕らも殺されかねない」

(;'A`)「うお、マジかよ。じゃあ、なんか手がかりになりそうなものだけ持っていって、移動しようぜ。
     お、これなんてどうだろ」

本棚を見ると、薄汚れた1冊のノートが放置されていた。
ところどころがかびていて、凄く臭かったが、最後のほうに書いてあるページのインクは、
最初のページに書いてあるかすれた文字と比べると、比較的新しかった。



104: ◆WFml1l.GUY :2008/08/30(土) 22:01:01

(´・ω・`)「…………」

('A`)「……」

その手記には、この旅館の創業時からの事柄が記されていた。

ギコさんとしぃさんという2人のカップルのこと。

フサさんとつーさんという子供が、2人の間に儲けられたこと。

ギコさんとしぃさんが、海の藻屑となったこと。

それらが、ある人物の視点から、全てひたすらに書き綴られていた。


そして、その事柄と、ショボの持っていた情報を掛け合わせることで、
どうやら俺たちはこの事件の真相に深く迫ることが出来たようだった。


時間にしては、その手記を読んでいたのは数分に過ぎない。
だが、その数分も惜しいほどに俺とショボは急ぎ、迷宮へと踵を返した。



105: ◆WFml1l.GUY :2008/08/30(土) 22:01:51

――――――――――――――――――
――――――――――――
―――――――

( ^ω^)「そういえば、この島には妙な伝統があるんだお」

川 ゚ -゚)「伝統、ですか?」

私たちは相変わらずラビリンスを歩き回っていたのだが、
本当に進めど進めど何もなく、ただひたすらに会話をして、気を紛らわせていた。

ξ゚听)ξ「この島では、古くから、成人したときに
      好きな男に髪を切ってもらうって言う伝統があるんですって。
      ロマンスよね、なんか」

( ^ω^)「そのとき、はさみとかじゃなくて、ナイフを使って髪を切るんだそうだお。
       あのつーさんの胸に突き刺さっていたナイフ、妙にぴかぴかだったけど、
       もしかしたらこの慣習に恨みを持つ人の犯行かもしれないおね……」

川 ゚ -゚)「もしかして、つーさんの髪が短いのは……」

( ^ω^)「ああ、つーさんは髪をフサさんに切ってもらってるんだお。ナイフで、ね。
       もっとも、フサさんの使ってるナイフはあのナイフじゃないし、
       モララーさんは独身だからナイフを持っているはずはないんだけどお」



106: ◆WFml1l.GUY :2008/08/30(土) 22:02:48

好きな人の髪を切るナイフとは、確かにロマンスだ。
だが、それで殺人が起きてしまったのなら、ロマンス以前の問題である。

今回犯行に使われたナイフが、もし本当にその好きな人の髪を切るためのナイフだと言うなら。
つーさんを好いていた誰かの犯行ということにでもなるのだろうか。

つまりそれは、旅館にはいるはずのない人間……すなわち、
この孤島のラビリンスのどこかに潜んでいる人間が犯人であると見ても、差し支えないのであった。


( ^ω^)「ま、そんな話もあるっていうことだお」

結局、それからまた下らない話をしつつ、私たちはラビリンスの中を歩き始めた。


最初のころは緊張感を持ち続けていたが、あまりにも何も起こらないので、
私は不謹慎だが眠気さえ感じていた。



107: ◆WFml1l.GUY :2008/08/30(土) 22:03:38



そんなことだから。

私たちは十字路で、自分達から見て右側の通路を
歩いている誰かと突然出会ってしまた瞬間、心臓が出そうなほどに驚愕したのだった。

その人物の顔も見ずに逃げ出そうとした私たちだったが、
いざとなると腰が抜けて、立ち上がることさえできなかった。

もし、こいつが犯人であったのなら。

私は1人、震えながら死を覚悟していた。



「お前……」


しかし、私に語りかけるその声は、
やさしく、どこか聞き覚えがあり、落ち着くものだった。


3、孤島のラビリンス  終



108: ◆WFml1l.GUY :2008/08/30(土) 22:04:11




川 ゚ -゚)クーと孤島のラビリンスのようです

4、光の中へと踏み出す足



109: ◆WFml1l.GUY :2008/08/30(土) 22:05:08

川 ゚ -゚)「ショ…ボ…? それに、ドクオ……?」

(´・ω・`)「クー! よかった……無事だったのか」

('A`)「心配したんだぜ……」

川 つ -゚)「わ、私だって……心配した」


間違いなく、そこに立っていたのはドクオとショボだった。

あふれそうになる涙をぐっとこらえ、躊躇いも無く2人と抱き合った。
その温かみが、この冷たいラビリンスで、初めて感じた暖かさだった。


( ^ω^)「うんうん、よかったよかったお」

ξ゚听)ξ「泣かせるわねぇ……ホロリ」

( ・∀・)「さいですなぁ」

川 ゚ -゚)「!?」


次に聞こえたその声は、私たちの背後から聞こえてきた。

あわててそちらを振り向けば、そこには見知った顔が、あった。



110: ◆WFml1l.GUY :2008/08/30(土) 22:06:06

川 ゚ -゚)「モ、モララーさん?」

間違いなく、その人はモララーさんであった。
彼は確か、外に助けを呼びに言ったはずであったのだが、何故こんなところにいるのだろうか。


(´・ω・`)「っ!! クー、その男に近づくんじゃない!」

川;゚ -゚)「え?」

思わずモララーさんのほうへ歩み寄ろうとした私に、ショボがそう言い放つ。
だが、そのショボの物の言い方には、引っかかる点がいくつかあった。


まず、モララーさんのことを、その男などという卑しい呼び方をしたことだ。
つーさんが殺されたとき、ショボは彼のことをモララーさんと呼んでいたはずだった。


それで近づくなと言っているのだから、私の頭には、悪い予感しかよぎらなかった。

私は踏み出した足を一歩、また一歩と下げ、後ろにいるブーンさんたちの下へ戻る。

やがてその横にはドクオとショボも合流し、5人がモララーさんと対峙する形となった。



111: ◆WFml1l.GUY :2008/08/30(土) 22:06:50

( ・∀・)「ショボさん。あんたぁ」

(´・ω・`)「みなまで言わなくていいです。
      あれは、あなたの手記で間違いないでしょうか? 読ませていただきましたよ。
      それから……このロケットもね、見つけました」

ショボがそう言ってポケットから取り出したのは、銀色のロケットだった。

首飾りだったチェーンは無残にも引きちぎられていたが、そのロケットの中には
間違いなく、あの夕食のときにつーさんに見せてもらった、しぃさんとギコさんの姿があった。


それをショボが持っている。
そして、モララーさんがそれを気に食わない様子で見つめている。


考えられる理由はひとつ。

モララーさんがそのロケットを、持ち出した。


それはつまり、彼がつーさんを殺害したということ。



112: ◆WFml1l.GUY :2008/08/30(土) 22:08:01

( ・∀・)「……なら、あんたらまとめて死んでもらうだけでさ」

次の瞬間、モララーさんが懐に手を突っ込んで引っ張り出した何かは、
松明の光に照らされて、鈍く暗く輝いていた。

そう、それは見紛うことなく、あの時つーさんの胸に突き刺さっていたナイフであった。
柄の形、色合い、全てが私の記憶にある、あのナイフと合致していた。


つーさんの遺体は現在、部屋に放置したままだ。
だから、遺体をいじろうと思えば、いじることなどたやすい。


朝早くに外に出て助けを呼ぶと言ったモララーさんは、助けなど呼ぶ気は最初からなかったのだろう。
そうやって時間を稼いで、私たちの目を盗んでつーさんのナイフを抜いて、
監禁したドクオたちでも今から殺害するところだったのだろうか。


ところが、この事態。
ドクオたちは脱出していて、私たちはどこにもいない。
それで慌ててこのラビリンスを探し始めた。

そんなところではなかろうか。



113: ◆WFml1l.GUY :2008/08/30(土) 22:08:45

( ^ω^)「くっ……!」

ツンさんの前に仁王立ちしながら、ブーンさんは彼女の手をしっかりと握り締め、
威嚇するようにモララーさんの目を見つめながら、一歩だけ後ずさりした。

( ・∀・)「無駄ですよ。このラビリンスはちょっと複雑に入り組んでやす。
      あんたらぁ、出口までの道を覚えてるかもしれませんが、私は近道しってんです。
      それにねぇ、足腰には自身があるんですわ。追いついて必ずあんたら、殺します。
      ま、第一、ここを出ても逃げ場はないですから、同じことですさね」

だがしかし、私が出会ったときの彼からは想像もつかないような、
いてつく冷たさを持った言葉が彼の口から飛び出した。


必ず殺す。
これはもう、脅し文句でも何でもありはしない。

モララーさんは、つーさんの命を奪ったあのナイフで、
本気で私たちのことを殺めようとしているのだ。

このラビリンスを抜けたところで、旅館に戻っても確かに逃げ場があるわけではない。

かといって、この事態を抜けだすことができる程の事……。

それは、何もなかった。



114: ◆WFml1l.GUY :2008/08/30(土) 22:09:24

('A`)「冥土の土産に聞きたいことがある。いいか?」

うなだれる私たちの中、ドクオのハッキリとした声。

冥土の土産。そんな言葉を使ってこそいるが、ドクオの目は死んでなどいなかった。
要するにこれは時間稼ぎであって、勿論モララーさんもそれを理解しているのであっただろう。

( ・∀・)「んあ、いいですよ。あんたらどうせ、これから死ぬんですからね」

一方のモララーさんは、余裕の笑みといった感じであった。
ケタケタと笑いながら、ナイフをしっかりと握り締め、こちらを炯々とした両目で見ていた。


('A`)「まず1つ、つーさんを殺したのはあんただ。間違いないか?」

( ・∀・)「ああ、つーちゃんね。
       さいですわ、私が殺しましたんね」

ξ゚听)ξ「……!!」

ツンさんは、相変わらずブーンさんの後ろでぶるぶると震えていた。
私たちはと言うと、驚きを隠せなかったものである。

本当に、つーさんを殺したのが、この目の前の男だったのだから。

否定するわけでもなく、あっさりとそれを認めたのだから。



115: ◆WFml1l.GUY :2008/08/30(土) 22:10:59

('A`)「ぐっ……! ……2つ目だ!
    それには、この旅館の以前のオーナーである、しぃさんが関係している。違うか?」

この言葉には、驚かされた。
ドクオもショボも、しぃさんとギコさんの事を知っているはずがない。

(´・ω・`)「……」

だのに、ショボの目も、いたって真剣であった。

( ・∀・)「もう質問せんでもいいですわ。
      あの手記、読んだんではりますね。なら、全て知ってはるでしょ。
      いやはやまったく、しかしま、あんたらがあそこから脱出していはるとは、心外でしたわ!」


ケタケタと笑うその声は、悪魔の声にしか聞こえなかった。
目の前の殺人鬼は、ナイフを片手にどうしてこの状況で笑っていられるのであろうか。

私は表情だけ冷静で、心臓が胸を張り裂けそうなほどにバクバクと緊張していた。

そして気になる言葉。
しぃさんが、つーさん殺害事件に関与している。

今まで入手した情報の欠片を、全て紐解いて並べていく。
しかし、私にはまったく想像がつかなかった。



116: ◆WFml1l.GUY :2008/08/30(土) 22:11:53

おそらく、ショボとドクオが見たというモララーさんの手記が、その事件と大きく関係していて、
その中で、しぃさんがつーさん殺害の発端となる出来事が書かれていたのだろう。

その手記を見ていない私とブーンさんとツンさんは、あたふたしながらその場に立ち尽くすしか出来ず、
ドクオとショボの背中がとても大きく見えた。


(´・ω・`)「ギコさんとしぃさんの結婚に納得できなかったからといって……。
       それが、娘であるつーさんを殺すことに、何の因果があるというんだ」

( ・∀・)「あんたにゃわからんでしょうよ。わかる間もなく殺してやります」

('A`)「昨日が2人の結婚記念日で、つーさんの誕生日だったから……ですか?」

( ・∀・)「…………ダラズが」


私の知らない事実が、次々と明らかになっていく。

モララーさんは、ギコさんとしぃさんの結婚に納得がいかなかった?
昨日が2人の結婚記念日だった? それが、つーさん殺害と何の関係がある?


新たな情報を得た私の頭が回転し、やがて1つの線を作っていく。



117: ◆WFml1l.GUY :2008/08/30(土) 22:12:57

( ・∀・)「お喋りは、もういいでやす」

そんな考えをよそに、モララーさんが私たちをキッとにらみつけ、ナイフを構えた。
その目には、明らかな殺意。

(;'A`)「くそ……」

(;´・ω・`)「ま……まて、まだ聞きたいことが」

( ・∀・)「お喋りはもういい、そういったんです」


何も、打開策は無い。

ドクオもショボも必死で時間を稼ごうと粘ったが、徒労に終わってしまった。


ξ;凵G)ξ「ブーン……」

(;^ω^)「大丈夫だお、ツンは僕が守るお……!」

川;゚ -゚)「死ぬ……のか……?」

( ・∀・)「さいですわ!! さよならでやす!!」



118: ◆WFml1l.GUY :2008/08/30(土) 22:13:27


モララーさんが、ナイフをしっかりと握り、こちらに走りこんでくる姿が見えた。


考えても、どうしようもなかった。

死を覚悟するしか、なかった。



119: ◆WFml1l.GUY :2008/08/30(土) 22:14:09


だから、その時、私たちはその事態に驚き戸惑った。


( ・∀・)「!?」

突然、ラビリンスが多きく揺れはじめ、
それに足をもつれさせられたモララーさんが、ナイフを手から滑らせ、盛大に仰向けに転んだのだ。


そしてその瞬間、鈍く大きな音がし、モララーさんの下半身の全てを、崩壊した天井の壁から
落ちてきた瓦礫の山が埋め尽くし、その行動を封じ込めてしまったではないか。


更に、彼に止めを刺すように。


モララーさんの手から滑ったナイフは彼の頭上を待っており、
それは滑稽なことに、彼の胸に勢いよく突き刺さった。


そう、その姿はまるで、あの時のつーさんのような。



120: ◆WFml1l.GUY :2008/08/30(土) 22:14:52

(  ∀ )「か……は……」

モララーさんの顔から血の気がうせ、その両腕は力なく垂れ下がる。

彼からは遠く、しかしまた近くでそれを見ていた私たちは、
今ある生にまず疑問と感謝を感じ、それから荒い息を必死に落ち着かせた。


('A`)「た……たすかった……のか?」

(´・ω・`)「因果応報、ってやつだね」

身動きできなくなったモララーさんを見下ろすように言う2人。
ブーンさんとツンさんも、へなへなとその場に座り込んで、涙を流していた。


しかし、のんびりもしていられなかった。
天井が地震によって崩れたり、たかがアイスピックで壁を壊せると言うことは、
それほどまでにこのラビリンスが老朽化しているということでもある。

だから、いつ私たちの頭上にある天井が崩れてきても、おかしくは無いのだ。



121: ◆WFml1l.GUY :2008/08/30(土) 22:15:52

それは勿論、私より頭のいいショボはいち早く気づいていたようだ。

(´・ω・`)「……そうだ、みんな! 早くここを脱出しよう!
       ここは山奥だ。土砂崩れなどの影響で、これからラビリンスが崩れるほどの衝撃を受けてもおかしくはない!」


だがしかし。
私は彼に聞かなければならないことがあった。


先ほどまでバラバラだった言葉のピースが一本の線を引き、私の中で蠢いていた。


もう、モララーさんの命は助かることはない。
だからこそ、今、ここで。


(´・ω・`)「クー、どうしたんだ?
       早く行かないと、崩れて僕らも死んでしまうよ?」


必死にそう催促するショボの後ろでは、ブーンさんとツンさも同じように、早くしろとでもいわんばかりの顔をしてこちらをみていた。

だが、ドクオだけは唯一私の目をじっと見ていて、
何かを理解したように静かにうなずくと、ショボと私との間に割って入って出た。



122: ◆WFml1l.GUY :2008/08/30(土) 22:16:25

('A`)「クー、お前はすぐには脱出できない。そうか?」


そしてあろうことか、ドクオは私の考えていることをぴたりと当てて見せたのだ。

これにはさすがの私も驚いたのだが、すぐに言葉を返す。


川 ゚ -゚)「ああ。私はモララーさんにどうしても聞いておかねばならないことがあるんだ」

(;^ω^)「で、でも……!」

ξ゚听)ξ「そんなことしたら、あなたまで!」


困り果てた顔をしたブーンさんとツンさんを、
まるで全てを察したかのような表情で、ショボが鎮撫させて、私のほうに向き直った。



123: ◆WFml1l.GUY :2008/08/30(土) 22:17:16

(´・ω・`)「君は、おそらくあの手記を読んだ僕よりも、この旅館のことを知っているんだろう?
       なんだか、そんな気がするんだ。だから、僕は少しの間ここに留まることが君の願いなら、それを聞き入れるよ」

ショボも、ドクオも。
付き合いの年数で言えば、まだ少ないというはずなのに。

だけど、本当に私のことを理解してくれていて、いつでも私の味方でいてくれた。

だから、素直に、心のそこから私はこの二人に感謝をしている。


川 ゚ -゚)「……すぐに戻る。
     待っていてくれるか?」

('A`)「当たり前だ」

ドクオのその顔が、本当に頼もしく見えた。


ツンさんだけは最後まで心配そうに私のほうを見ていたのだが、
ブーンさんは覚悟を決めたようで、ドクオとショボを出口まで案内するため、
最後に私のほうに一回微笑んで見せると、駆け足でラビリンスの出口を目指して走り出した。


後に残ったのは私と、瓦礫に埋まりながらも、
その目の焦点はしっかりと私を見ているモララーさんだけであった。



124: ◆WFml1l.GUY :2008/08/30(土) 22:18:17


(  ∀ )「なんですかいね。私に話したいことって」

覇気のない声。
昨日、中庭であったときよりも、彼の声はさらにしわがれていた。

川 ゚ -゚)「このナイフ……。
     あなたがしぃさんの髪を切ったものだ……違いますか?」

( ・∀・)「!!!」


一瞬、モララーさんは驚いた表情をした。
すぐにその表情を戻したが、私は見逃さなかった。

つまり、私の考えが当たっていたと言うこと、だろう。


(  ∀ )「はは、あんたがそのこと知ってるちゅーことは、
      もう全てに検討がついてるってことでないですか?」

川 ゚ -゚)「……おそらく」

(  ∀ )「さいですか。んでは、冥土の土産です。お話しましょうか」

と、私に吐き捨てて、語りだした。



125: ◆WFml1l.GUY :2008/08/30(土) 22:19:10

(  ∀ )「私としぃはね、恋仲にあったんでやすよ。
      18の時にね。だからね、私はしぃと結婚して旅館を継ぐつもりで、料理を勉強した。
      20の時には、私がしぃの髪さ切りました。それくらいの仲だったんです」


(  ∀ )「ある日、長く続く嵐で、しぃの家が育てていた野菜や魚が全滅しやしてね。
      旅館を続けることが難しくなりやした。
      そんな時、島1番の漁師の息子で金持ちのギコさんがぁ、しぃを助けたんです。
      ギコさんもね、ずっとしぃの事が好きだった。
      んでね、これからしぃが旅館を続けていくためにはね、ギコさんと結婚するしかなくなったんです。
      勿論、しぃは私にそのことを相談しましたが、私はしぃに結婚するように言いました。
      そら、しぃの幸せさ願ったからですね」


(  ∀ )「でも、しぃは段々と、本当にギコさんに惹かれていきやした。
      そいで、2人さ子供作っちまった。フサですよ。
      その時、私はしぃを殺したいくらい憎みました。
      私たちは、髪切ったほどの仲でやしたのに。子供作っちまった。
      でもね、私ぁこらえてこらてえ、そいで、もう1人子供が出来たときは……憤怒でおかしくなりそうでしたよ」



126: ◆WFml1l.GUY :2008/08/30(土) 22:20:15

川 ゚ -゚)「それが、つーさん?」


(  ∀ )「さいですわ。
       私はそれでも料理長として旅館に勤め、しぃを見守ることにしました。
       勿論、表向きは普通に接していましたがね、しぃが時折私に見せる悲しい表情を見ると、どうしてもしぃを信じたかった。
       でも、しぃはギコさんと海に呑まれて帰ってこなくなっちまった。
       それからはもう、前に話したとおりですわ。
       フサはギコさんに、つーちゃんはしぃによう似て来ましてね。複雑な気持ちでした」


(  ∀ )「私ぁ、何年も何年も耐えました。
       あの2人に罪が無いことはわかっとりますし、
       何よりも私のことを本当に慕ってくれている。
       そんな、息子と娘みたいな2人を、手にかけることが出来るだろうか?
       答えはね、ずっと否だと思ってたんですがねえ……。
       殺っちまったときは、もうスッキリしましたよ、驚くくらいにね。
       そいで、憎い思い出さ詰まったあのロケット引きちぎって……海に捨ててやろうとおもっとりました」


私はその言葉を聞いて、身震いした。



127: ◆WFml1l.GUY :2008/08/30(土) 22:21:08

(  ∀ )「ま、運命たぁ、皮肉なもんですよ。
       ええ、わかっとるんですわ。全て私が悪いって事はね。
       私なんかよりも何倍もいい男ではりましたギコさん恨んで、
       私のこと捨てたしぃも恨むだけでは物足りず、よく似たつーちゃん殺してはりましたよ」


白状するように。懺悔するように。
口早に語っていくモララーさんの姿は、何故だか酷く滑稽に見えた。


(  ∀ )「……ま、つーちゃんには何の罪もありませんさね。
       私はね。アンタと昨日の昼に話したときにねえ、運命だと思ったんですよ。
       まさかね、お客さんのくせに、この旅館の過去……ギコさんやしぃ、そいから私のことに首突っ込んで
       きはる人がいるんですからね。そのおかげで、わたしゃ思い出しちまいましてね。
       急にはらわたが煮えくりかえっちまいましたんね。
       しぃがギコさんと結婚したのも、つーちゃんが生まれなすったのも、何年も前の昨日のことなんですから」


そんな予感はしていた。

ショボとドクオとモララーさんの話を聞いて、結婚記念日が昨日であったと聞き、
そしてモララーさんが、ギコさんとしぃさんの結婚を認めていないと聞いたとき、私は
この殺人事件の発端が、そもそも私にあったのではないかと勘付いていた。

だから、みんなの前でこのことを聞きたくなかった。
ずるい、卑怯だとは思っている。しかし、それを誰にも知られたくはなかった。



128: ◆WFml1l.GUY :2008/08/30(土) 22:21:54

川 ゚ -゚)「発端は……私ですか?」

力なく尋ねる私に、モララーさんは残酷にも、首を縦に振って見せた。


(  ∀ )「私ぁ、つーちゃんに対する殺意って言うのは、ずーーっと持っていました。
       そらね、フサだって殺してやりたかったんだ。あの二人の子供なんてね、私にゃ憎いだけなんですよ。
       フサはギコさんによく似とる。つーちゃんはしぃによおおく似とる。
       二人が大きくなってこの旅館を受け継いだときね、私はその二人に、ギコさんとしぃさんの面影を見ましたよ。
       そしたらねえ。急に仕返しがしたくなってきちゃったんですよ。
       でもね、そんなことはしてはダメな事なんて、私はわかってはりますよ。
       だからもう、何年もずっとその衝動を我慢してきましたよ。ずっと我慢してたんですよ」


だが、と一呼吸おいて。

それから、嗚咽が聞こえた。

まごうことなく、瓦礫の下のモララーさんが、
仰向けで、天井に視線をやって、何かをつかむ様に腕を伸ばしながら、静かに泣いていた。



129: ◆WFml1l.GUY :2008/08/30(土) 22:22:42

( ;∀;)「でもねぇ、私はもう我慢なんか出来ないんですよ。
       あんたは知らないだろうがぁ、つーちゃんは本当にしぃにそっくりなんだ。
       だから、何回私はつーちゃんを抱きたい衝動に駆られたことか! だのに、それすらできない!
       私は悔しくて悔しくて。だからもう、どうにか我慢して我慢して……彼女の笑顔を見るのがつらい日々を送ってはりました。
       だけどもねえ、アンタが私に全て思い出させてくれたんですよ。
       あの二人の結婚記念日、その憎き日が、昨日であったとねえ」


怒鳴るようにして叫ぶ彼の目の焦点は、もう定まっていなかった。
私も泣きたい気持ちでいっぱいだった。自分の無神経な質問が、行動が、この殺人事件のトリガーとなっていたのだから。


それは変えようのない事実で、目の前が本当にぐるぐるとしていた。
涙を流さないように歯を食いしばることで、私はもう精一杯だった。


( ;∀;)「だから私は、もう何十年も見ることのなかったあのナイフを。
       初めてしぃの髪を切ったあのナイフをねえ、金庫から取り出したんですよ。
       ナイフは、綺麗でしたよ。刀身もびっかびかで、不思議なことにちっとも錆び付いてないんだ。
       そのナイフを見たときねえ、私の中で眠っていた何かがパーンと弾けてね、それからもう後のことは
       あんまり覚えてはりませんよ。気がつくと私は、つーちゃんさ殺すための用意をしっかりして、
       つーちゃんと一緒に夕食さ作ってはりました。その時の私にはね、もう何にもためらいなんかなかったんですわ。
       その笑顔をね、しぃによく似たその笑顔を、早くこの世から消し去ってやりたいおもっとったんですよ!!」



130: ◆WFml1l.GUY :2008/08/30(土) 22:23:53

ケタケタと狂ったように笑い出すモララーさんの横で、
ついに私は耐え切れなくなって涙を流して、ひざから崩れ落ちた。

私のせいだ。私のせいなのだ。私が散策しなければ、この事件は起きなかったのだ。
私があの時、過去のことを知っていたら。私があの時、モララーさんに話しかけなければ。

もし、こうだったら。もし、ああしていれば。

と、そんな後悔の言葉ばかりが、ぽつりぽつりと心の中で浮かんでは消えていく。
涙はいつの間にか滝のようにとめどなく流れ出ていて、止まる気配がなかった。


モララーさんに何かを語りかけようとしていた私だったが、
もう言葉を発することも出来ないくらいに泣きじゃくってしまっていた。


おい、しっかりしろ、クー。
私はいつも表情を崩さない、クールなポーカーフェイスの人間じゃなかったのか?
ドクオとショボの気遣いでここに留まらせてもらったと言うのに、一体このざまは何だと言うんだ?

心の中で、自分に自分で言い聞かせてみる。
だけど、私の体は心より正直で、涙は本当にいつまでも止まらず、私も嗚咽を漏らすしかなかった。



131: ◆WFml1l.GUY :2008/08/30(土) 22:24:25

(  ∀ )「……いんや。アンタのせいだなんて責任転嫁しちまいましたね。
       私ぁ、アンタがいなくたって、いずれこの事件を起こしていたのは間違いありゃしやせん。
       私は、そこまで我慢の出来る人間じゃありませんからね」

そんな私を賺すようにして言ったモララーさんの言葉は、私にとっての皮肉にしか思えなかった。

彼の涙は、もう止まっていた。


川 ;-;)「でも……! 結局今起こってしまった事件に起因しているのは私の言葉だ!
      それはもう、何の変えようもない事実でしかないんだ! 私は……私は……」

(  ∀ )「黙ってくだせえ!!」


ラビリンスの中に響き渡る、彼の怒号。

やがて消えていくそのこだまの中、やっと私は冷静さを取り戻しつつあった。



132: ◆WFml1l.GUY :2008/08/30(土) 22:25:10

( ・∀・)「もう、いいんでやす。この事件は、私が起こしましたんね。
      あんたに責任なんかありません」

そいで、と彼は続けて。

( ・∀・)「身勝手なんだけどね、クーさん。頼みがあるんだけど、いいかねえ」

静かに、つぶやくように発せられたその声は、しっかりと私の耳に届いた。

川 つ -゚)「…………なんだ」

あふれる涙をぬぐいつつ、嗚咽をおさえつつ、冷静なふりをして、返事をした。


( ・∀・)「私ゃ、ここでラビリンスと死にます。
      でもんね、思い出を死なせたくないんでやす。
      ですからね、このナイフを……」


ナイフ。
モララーさんの胸に刺さっているナイフ。
しぃさんの髪を切ったナイフ。
つーさんの命を奪ったナイフ。

ひ弱な彼の手は、そのナイフに伸びて……しかし、瓦礫の下に埋もれたその腕は、力なくうなだれるほかなかった。
彼はもう、乾いた笑い声を上げていた。



133: ◆WFml1l.GUY :2008/08/30(土) 22:25:45

( ・∀・)「このナイフさ、引っこ抜いてくだせえ。
       自分勝手だってのはわかってはりますけどんね。
       そいでさ、このナイフさ、海に沈めてほしいんでやす。
       ギコさんとしぃさんを奪ったこの海にね。そいつを放り投げてやってほしいんですわ」


医学的な知識がない私だが、彼の胸からナイフを引き抜けば、
それと同時に彼の出血量も多大なものになるであろうと言う憶測はついた。

勿論、それに伴ってモララーさんには激痛がはしるだろうし、
何よりも私自身がそんなことをしたくないと言う気持ちは十分にあった。

しかし、その時の私はなぜだか、ためらいを持たなかった。
ためらいを持つと言う思考さえ忘れて、無意識のうちに私はモララーさんのそばにより、その胸に突き刺さるナイフの柄に手をかける。


その柄かからは、なぜだか温かみのようなものが伝わってきた。
果たして彼の体温のせいなのか。

それとも、それは思い出のこめられたナイフの、想いであったのだろうか。



134: ◆WFml1l.GUY :2008/08/30(土) 22:26:36

柄にかけた手を、すっと引き上げる。
それと同時に、ナイフはいとも簡単にするりと抜けた。
拍子抜けしてしまいそうなくらいに、本当にあっけなかった。


( ・∀・)「……ははは」

でも、それと同時に、モララーさんの胸からおびただしい量の血が流れ始める。

彼は助からない。
出血し、瓦礫の下敷きとなっているのだから、それは十分に承知している。


だから、ここで彼を見捨てる。

それが私に出来るのか。


私の心の中には、激しい葛藤があった。


だが、その葛藤も、あっさりと終わりを告げることになるのだった。



135: ◆WFml1l.GUY :2008/08/30(土) 22:27:12

川 ゚ -゚)「あ……」


本当に、一瞬の出来事だった。




私がナイフをモララーさんの胸から引き抜いて、少し距離をとったその瞬間に。


まるで意思を持ったかのように、ラビリンスの天井にはしっていた亀裂が音を立て、
その瞬間にモララーさんの頭上一帯の壁が音を立てて崩れ落ちたのだった。

その新しい瓦礫の山は、丁度私とモララーさんを分け隔てるかのように、
モララーさんの体の全てを埋め尽くし、私には傷を何一つ負わせることは無かった。



瓦礫に埋まる瞬間のモララーさんの顔を見た。


不気味な、しかし優しい笑顔であった。

その笑顔は、私の記憶から離れることは無いのだろうと。
そう、思った。



136: ◆WFml1l.GUY :2008/08/30(土) 22:27:59

音の無いラビリンス。


そこに残ったのは、ただ呆然と立ち尽くす私と、目の前の瓦礫の山。


壁の松明に照らされて、私の手の中で、ナイフは美しく輝いていた。

刀身の先から滴り落ちるモララーさんの血液さえも、なぜだか神秘を感じさせるほどに思えたものであった。


しぃさんの髪を切った、この神聖なナイフは。
僅か数刻の間に2人の血を吸って、そして今、この島と何も関係の無い私の手にある。


もしも、このナイフに記憶や感情があるのなら。



今、このナイフは私の手の中で何を思っているのだろうか。



137: ◆WFml1l.GUY :2008/08/30(土) 22:28:33

目の前の瓦礫の山から、赤い液体が滲んできた。
その赤は、いつだか最近みた赤よりも鮮明に赤くて、どろどろとしていた。


目の前の神秘さが、途端に気持ち悪くなった。


そしてその光景は、先ほどまで私が話していた人物が力尽きた証拠でもあり、
急激に私は自分の中から何かが抜け落ちていく感覚を感じた。


血の滴るナイフをしっかりと右手に持ち、踵を返す。


果てなく続くラビリンスの壁の中を、私はただひたすらに歩き始めた。


コツコツと、自分の足音だけが、嫌なほどにラビリンスの中をこだまする。




それ以外に、本当にもう、何も音はしなかった。



138: ◆WFml1l.GUY :2008/08/30(土) 22:29:04




いつの間にか、雨は止んでいたらしい。



4、光の中へと踏み出す足   終



139: ◆WFml1l.GUY :2008/08/30(土) 22:29:43




川 ゚ -゚)クーと孤島のラビリンスのようです

5、これから



140: ◆WFml1l.GUY :2008/08/30(土) 22:30:25

結局あの後、私達は孤島のラビリンスを脱出して、旅館に戻った。

シートをかぶせられていたつーさんの遺体の胸からは、
やはりあのナイフがなくなっていた。

私はナイフについた血液をしっかりとぬぐい、鞄の中にしまいこんだ。


数時間たって、ショボとドクオとブーンさんがトンネルを塞いでいた土砂を
スコップなどで時間をかけてどかし、ふもとに助けを求めに行くことができた。

すぐに警察がやってきて、私達は夜遅くまで事情聴取をされた。

つーさんの遺体は警察に持ち出され、私達が吐き出した情報から
警察が孤島のラビリンスに侵入しようとしたらしいのだが、
孤島のラビリンスは瓦礫で入り口が埋まってしまっていたと言う。


あの後何回か土砂崩れなどがあったから、おそらくその影響なのだろう。



141: ◆WFml1l.GUY :2008/08/30(土) 22:30:57

私達の証言や、実際にラビリンスがあったことなどから、
つーさん殺害事件の犯人はモララーさんであると断定され、
ラビリンスからの遺体発掘作業が行われることになった。


フサさんはというと、相変わらずうつろな目でその光景を見ていた。
数日後につーさんの葬儀を行うらしいのだが、私達もブーンさんたちも、
もうその頃には地元に帰る予定だった。


そういうわけで私達はあの山を出て、港に戻り、
現在フェリーに乗り込んで、本州に戻ろうとしているのであった。



142: ◆WFml1l.GUY :2008/08/30(土) 22:31:41

出航したフェリーの甲板に、私は1人佇んでいた。
段々と遠ざかっていく孤島を目の前に、鞄からひと振りのナイフを取り出す。


凶器が無くなっているということで、警察も必死に捜索したようなのだが、
モララーさんと共にラビリンスに埋まってしまっていると言う旨を説明したら、
あっさりと探すのをあきらめてくれた。


結局、私はあの時のモララーさんの遺言どおり、このナイフを海に捨てようとしているのだ。

刀身は私が丹念に磨いたからピカピカだ。
しかし、ルミノール試薬でも吹きかけてみれば、このナイフの刀身は真っ青になるのだろう。


神聖な儀式に使われたこのナイフは、あまりにも多くの人の血を吸った。


そしてその発端は、この海に飲み込まれた、ギコさんとしぃさん。



ならば共に、モララーさんの想いも眠らせてやってくれ、海よ。



143: ◆WFml1l.GUY :2008/08/30(土) 22:32:40

ナイフは弧を描いて島のほうに飛んでいって、海に静かに沈んでいった。

それっきりだった。

あまりにも、彼の想いの最後はあっさりとしていた。



ξ゚听)ξ「……クーさん」

川 ゚ -゚)「ツンさん」


船室で眠りこけているドクオたちの元に戻ろうとした私は、ツンさんに呼び止められた。


ξ゚听)ξ「あのナイフ、やっぱりあなたが持ってたのね。
     私達、警察に言い訳するのに苦労したんだから……」

川 ゚-)「すまない。しかし、彼の最後の言葉だったからな」


海を眺め、ツンさんに言葉を返す。
やがて彼女は私の横に並び、一緒に海を眺め始めた。



144: ◆WFml1l.GUY :2008/08/30(土) 22:33:44

青い水平線が広がる中、私達の横には
いつだか見たのと同じように、ウミネコが飛んでいた。

私はポケットからかっぱえびすんを取り出すと、つまんで砕いて、海に放り投げた。
途端に、ウミネコ達はそれに食いつくようにして急降下する。


ξ゚听)ξ「なんだか、ウミネコみたいね」

川 ゚ -゚)「何が、だい?」

ξ゚听)ξ「欲しいものをただ手に入れようとした。
      そんな男の怒りが暴走して怒ってしまったあの事件、かしら」

川 ゚ -゚)「欲しいもの……ね」


モララーさんは、決してしぃさんを欲していたわけではなかろう。
しぃさんからモララーさんへの、愛を欲していたのだろう。

だが、彼女は他の男と子を作った。
殺人の動機とは、十分なりえるのだ。


確かに、私のまいた餌を他の仲間に取られてしまった、哀れなあのウミネコのようだ。



145: ◆WFml1l.GUY :2008/08/30(土) 22:34:21


もし、仮にドクオが私のことを好きだとして。
私がショボのことを好きになってしまったら、ドクオは激怒するだろうか。

いや、あのドクオが私を好いているということ事態が想像できないし、
私がショボのことを恋愛的な意味で好くというのもありえないだろう。


だが、もし本当にそうなってしまったのなら。
一番に狙われるのは、私か。はたまた、ショボか。

少なくとも、殺人がおきてもおかしくは無い。


私は、中高生の恋愛などは、
所詮お遊び……もしくは、人生経験の上での軽いものだとしか思っていない。
その時期で付き合ったカップルが結婚まで行く事例など、果たして何件あるだろうか。


だが、その一時的な感情の錯誤ですら、殺人の動機となりえる。


私は、恋愛と言うものに少し、恐怖を抱いていた。



146: ◆WFml1l.GUY :2008/08/30(土) 22:34:57

ξ ゚-)ξ「……海、綺麗ね」

川 ゚-)「そうですね」


隣にいるツンさんは、ブーンさんと幸せに生活を過ごしている。
そういうカップルばかりならいい。そうやって、嫉妬という感情が無ければいいのに。


川 ゚ -゚)「ツンさん」

ξ゚听)ξ「なあに?」

川 ゚ -゚)「ブーンさんといて、幸せですか?」


ツンさんは一瞬顔を赤らめ、きょとんとしていた。


ξ゚ー゚)ξ「……幸せ、よ。この世で一番ね」

しかし、少しの間をおいて、きっぱりとそう言い切った。

川 ゚ -゚)「それはよかった」


私は再び、海を眺め始めた。



147: ◆WFml1l.GUY :2008/08/30(土) 22:35:27

海は果てしなくどこまでも続いていた。
同じように、私達の人生も、一寸先は闇で広大に続いている。

その人生の中、どんな出来事が起こるかはわからないが。
一歩ずつ一歩ずつ、立ちはだかる壁を越えながら歩いていくことが必要だ。

その壁を登りきることをあきらめたとき。
それが、自分が崩壊してしまう時でもあるのだろう。


川 ゚ -゚)「……」


潮風がさわやかに頬をなぜた。

その冷たさに、目がパッチリと覚める。


さあ、私は戻るとしよう。
いつもの幸せな日常に、彼らの元へ。



148: ◆WFml1l.GUY :2008/08/30(土) 22:35:59

甲板に背を向け、階段を降りる私の後を、
ツンさんもしっかりとついてきた。

彼女とたわいも無い話をしながら、船室へと足を運ぶ。

そうやって楽しく談笑でもしているこの一時こそが、
一番の至福なのだろうから。


少しの時間を、少しでも大切に。

そうやって、私は生きていきたい。


5、これから  終



149: ◆WFml1l.GUY :2008/08/30(土) 22:36:29




一歩ずつでもかまわない。

地に足をつけ、自分の力で、しっかりと歩んで行こう。




川 ゚ -゚)クーと孤島のラビリンスのようです  終



150: ◆MAMEOLw4rQ :2008/08/30(土) 22:42:06
ここまでお付き合いくださり、ありがとうございました。
今回の祭りでは一番最初に投下された絵で書こうと思っていましたので、
1番の絵で書かせていただきました。

インスピレーションを沸騰させるような絵でして、大変感謝しております。
KIAIが入りすぎてかきすぎちゃいました(__;

今回、リハビリも兼ねて書かせていただきました。
絵師様には、そんなことにこの祭りと作品を使ってしまった次第で申し訳ないです。

これを気に、停滞していた現行など少し書き直して再開したいと思っております。

ありがとうございました。



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