だから、クーは笑うようです
- 607: NO.021 22 :2008/08/30(土) 02:36:16.99 ID:cIfaFWmrO
Q.孤独を感じるとどうなるの?死ぬの?
A.死にません。死ねません。だから苦しいのです。
- 610: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/08/30(土) 02:37:52.37 ID:cIfaFWmrO
だから、クーは笑うようです
- 611: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/08/30(土) 02:38:50.22 ID:cIfaFWmrO
クーは歩いていた。
他の多くの人がそうであるように、求め、歩いていた。
他の人と違うのは、求めていたものが死に場所であることだろうか。
他の人というのは、つまり、生きる理由を探している人のことである。
クーはそんな人を鼻で笑いたい。
生きる理由が知りたいなら、死んでしまえ。そうすれば、わかるだろうよ。
その瞬間に死にたくないと思ったならば、それがお前の理由だと。
- 613: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/08/30(土) 02:40:58.24 ID:cIfaFWmrO
衝動に従い、クーは鼻で笑ったが、そのほんの少しあと、その笑みは消えた。
マイノリティであることが彼女の人生を狭めていき、
その末に死を求め、その他大勢を恨みながら歩いていたというのに、
結局は彼女もその他大勢であると気付いたのだ。
彼女も結局は、知りたかったから歩いていたと。
死んで、その瞬間に、私が見る理由とは、答えとは、 ?
理由を知りたくて死ぬ。理由を知りたくて生きる。
この世に、利口なものなどいるのだろうか。
より愚かなものと、ただ愚かなもの。
そのふたつしか見たことが無い。
――ならば より愚かでありたいと 私は願ったのだろう
マイノリティであることを、
アイデンティティに仕立てあげるところなど、まさに愚か者では無いか?
- 614: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/08/30(土) 02:41:51.23 ID:cIfaFWmrO
歩くだけならば、簡単なのだ。
生きるだけならば、簡単なのと同じように。
川 ゚ -゚) 「…」
涙が頬を伝う。何故泣いているのかは、わからない。
声をあげてこどものように泣けば、何かが変わるかもしれないと、
クーは声を張り上げた。
端正な顔立ちに似合わぬ醜い声を、山が吸い込んでゆく。
声などもうずっと出していなかったのに、
何故声の出し方を忘れてしまわないのだろう。
声と涙とが枯れ果てても、何も変わらなかった。
クーは相も変わらず死に場所を求めていたし、
醜い声はより醜くなった。
- 616: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/08/30(土) 02:43:03.89 ID:cIfaFWmrO
('A`)「ひでえ声だ」
澄んだ声がした。
川 ゚ -゚) 「誰だ」
('A`)「俺だ」
振り返ると、花が咲いていた。
桃色の、見たこともない花であった。
川 ゚ -゚) 「何処に居る」
('A`)「何処にでも居るさ、俺みたいなロクデナシはさあ」
川 ゚ -゚) 「その綺麗な声がロクデナシの声であるはずはない」
('A`)「おもしろいことを云う」
- 617: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/08/30(土) 02:43:59.79 ID:cIfaFWmrO
風もないのに、花びらが散る。
それは祝福のようであった。
クーはまた泣いた。この美しい景色を汚さぬよう、声を出さずに泣いた。
('A`)「やあ」
現われた男は、右頬に醜い火傷を負っていた。えぐれているようにも見えた。
そもそもの造作もよくないことも手伝って、非常に醜く仕上がっていた。
滅多に表情を変えることの無いクーに顔を逸らさせるほどに。
川 ゚ -゚) 「ひどい顔だ」
('A`)「誰だ」
男は笑った。醜い顔だった。
川 ゚ -゚) 「私だ」
クーも笑った。醜い声だった。
('A`)「何処に居る」
川 ゚ -゚) 「此処に居るさ、私のようなロクデナシは」
('A`)「そんな綺麗な顔をしたロクデナシはいないだろうさ」
川 ゚ -゚) 「お前はつまらぬことを云う」
- 618: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/08/30(土) 02:44:42.13 ID:cIfaFWmrO
('A`)「酷い声だ。蛙が潰れたってそんな声は出しやしない」
川 ゚ -゚) 「オペラ座の怪人だって、そんな酷い顔じゃあなかったろうさ」
川 ゚ -゚) 「私は、死ににきた」
('A`)「俺は、もう死んでいる」
川 ゚ -゚) 「そうか。つまり君は、知ったのか?」
('A`)「何をだ」
川 ゚ -゚) 「ああ、知ったかと云うのは適切でない。ありもしないものを知ることは不可能だからだ。
あったのか?君は、死ぬその瞬間に、死にたくないと思ったのか?」
('A`)「頼むからその声であまり長いこと喋らないでくれ、耳がおかしくなりそうだ。
人間の喉からそんな不協和音が奏でられるとは、まるで奇跡だ」
男の声は本当に美しかった。今まで聞いたどの小鳥よりも美しく鳴いた。
- 620: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/08/30(土) 02:45:59.46 ID:cIfaFWmrO
('A`)「そんなもの、死んでみたらわかるだろうに」
川 ゚ -゚) 「頼むから、その顔をこちらに向けないでくれ。何をどうしたらそんなに嫌悪感を与える顔になるというんだ?
そんなものをひっさげて一秒でも生きていたなんて、君は努力家だな」
クーは笑った。その笑顔はどんな絵画よりも美しく男の目に映った。
('A`)「ああ、その美しい顔に免じて教えてやろうか。死なずともそれが知れる方法を」
川 ゚ -゚) 「その美しい声を聞くために教えられてやろう」
('A`)「俺はその花の下に埋まっている。つまり、俺は殺されたのだ。
だから死の瞬間をそれと認識したことはない」
川 ゚ -゚) 「それが何だと」
「しゃべるなと言っただろう。さあ、其処に耳を当てろ。俺の屍から答えを聞くといい」
川 ゚ -゚) 「…」
- 630: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/08/30(土) 03:49:03.98 ID:cIfaFWmrO
クーはゆらりと座り込んだ。花はひたすら美しい。
ゆっくりとその耳を地面につけ、目を閉じた。
むせかえるような花の匂い。
地面からは、しいんとした音が聞こえるだけで、
それは美しくも醜くも無かった。
男の屍は、何も語らなかった。
- 632: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/08/30(土) 03:51:06.03 ID:cIfaFWmrO
「…なあ」
('A`)「なにも見えなけりゃ 俺が死ぬ理由などなかった」
('A`)「なにも話さなけりゃ あんたが死ぬ理由などない」
('A`)「今、何処にも理由は無いよ」
川 - ) 「…」
('A`)「さあ、どうする?」
- 634: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/08/30(土) 03:54:19.47 ID:cIfaFWmrO
クーは顔をあげた。
川 ゚ -゚) 「今」
川 ゚ -゚) 「理由が出来た。なんと醜い声だ」
('A`)「ああ、今俺の死んだ理由も出来た」
くつくつと男は醜く笑った。
('A`)「俺ァまた耳を塞ごう」
川 ゚ -゚) 「なぜだ?」
('A`)「あんたが死なないようにさ」
川 ゚ -゚) 「…」
- 636: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/08/30(土) 03:57:04.80 ID:cIfaFWmrO
('A`)「ほうら、もうあんたの死ぬ理由は無くなった」
川 ゚ -゚) 「…ならば私も目を塞ごう。ああ、あんたの死んだ理由が無くなったぞ」
('A`)「さて、あんたがどんな醜い声でどんな戯言を言っているのか俺には聞こえん」
川 ゚ -゚) 「あんたがどんな醜い顔で私を見ているのか私にはわからん」
('A`)「さーてさて、どうする?」
川 ゚ -゚) 「は、決まっているだろう」
川 ゚ -゚) 「死ぬ理由がないのに死ぬなど、あまりに多くの人間がやっていること、私には似合わないね」
- 638: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/08/30(土) 04:04:47.03 ID:cIfaFWmrO
男は大きな声で笑う。
心地の良い声だ。クーは再び地面に倒れこんだ。
むせかえるような花の匂い。
クーは泣いた。醜い声を張りあげて泣いた。
それはもう死ぬ理由にはならないのだ。
どれほど時間が流れたろう。
ゆっくりと目を開けると、矢張り花びらが舞っていた。
それは確かに祝福であった。
- 639: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/08/30(土) 04:07:25.36 ID:cIfaFWmrO
男は何処にも居なかった。
川 ゚ー゚) 「死んだ理由が無くなったものだから、生き返ったのかもしれないな」
彼もまた、より愚かであることを求める者だから。
愚か者にふさわしい馬鹿な考えに、クーは綺麗に笑った。
- 641: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/08/30(土) 04:09:36.89 ID:cIfaFWmrO
- おわりです。支援ありがとうございました。
批評などあればどうぞ。
絵師さんの絵の素晴らしさが伝わればと思います。
ありがとうございました。
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