( ^ω^)じいさんと白黒写真ようです(仮)
- 916: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/08/30(土) 19:47:34.28 ID:lgxQB1lW0
- じいさんが死んだ。
享年92歳。大往生だった。
葬式には随分沢山の人が来て、式場に入りきらないほどだった。
葬式でお坊さんがお経を読んでいる時、
僕は、じいさんとの最後のやりとりを思い出していた。
じいさんが死ぬ、ほんの数分前の出来事を。
- 917: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/08/30(土) 19:48:39.16 ID:lgxQB1lW0
* * *
( ^ω^)「ショボンよ。ちょっと、来てくれないかお?」
(´・ω・`)「うん、いいけど」
じいさんが寝室で布団にくるまりながら、死にそうな声で僕を呼んだ。
2年ほど前から足を悪くして、ずっと寝たきりだったじいさんは、
ピンピンしていた頃が嘘のように弱々しくなっていた。
(´・ω・`)「なぁに?」
僕が行くと、じいさんは机の上にある写真立てと、
メガネを持ってくるように僕に言いつけた。
(´・ω・`)「はい」
( ^ω^)「おお、すまんお」
じいさんは僕に支えられながら上体を起こし、メガネを掛ける。
そして僕が持ってきた白黒の写真を、懐かしげに見つめていた。
- 918: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/08/30(土) 19:50:47.61 ID:lgxQB1lW0
- 写真には五人の人物が写っていた。
真ん中にメガネを掛けた穏やかな目の人。
柔和な目つきの太った人、唇をとがらせた日本人離れした顔の人、
鼻の高い少し痩せた人、仄暗く静かな表情をした糸目の人。
その写真に写った全ての人が、テレビや新聞で見たような軍服を着ていた。
(´・ω・`)「それ、戦争中の写真? 真ん中の人がじいさん?」
( ФωФ)「お、その通りだお」
メガネを掛け、人相の少し変わったじいさんが写真を見つめたまま応える。
その時の表情は、僕には少し理解できない不思議なものだった。
今思えば、
僕がそのときのじいさんの表情が、何を物語っているかを知るには、
僕はあまりにも幼く、じいさんのことについて知らなさすぎたのだ。
- 919: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/08/30(土) 19:53:04.26 ID:lgxQB1lW0
- ( ФωФ)「ショボンよ」
写真を見つめていたじいさんが不意に話しかけてきた。
( ФωФ)「俺はもうすぐ死ぬ。遺言だと思って、聞いて欲しい話があるんだお」
(´・ω・`)「うん」
じいさんは、少しだけ表情を変えて、それから僕に話を始めた。
それは戦争の話だった。
アメリカと日本が、些細な諍いから起こった大きな軋轢を、
あのおぞましい戦争へと発展させてしまったこと。
当時血気盛んだったじいさんは、志願兵として南太平洋の島へ行った事。
そこで、この世の出来事とは思えない地獄を体験したこと。
沢山の人が、天皇陛下万歳を叫びながら、心の中ではただ一つ、
生きたいと願いながら傷つき殺され、死んでいったこと。
じいさんの同僚の兵士の多くが、勇敢に敵に戦いを挑み、
そのほとんどが死んだこと。
人の命を奪ってしまったこと。
大切なものを護れなかったこと。
そして、ある『約束』のこと。
ほんの数分間か、或いはもっと長い時間だったかも知れない。
衝撃的な体験談をたくさん話してくれた。
- 921: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/08/30(土) 19:53:54.53 ID:lgxQB1lW0
- そして、最後に。
( ФωФ)「ショボンよ。
俺は戦争中、たくさんのものを護れずに失ってしまったお。
だから戦後、せめてこれと決めたものくらいは、全力で護ろうと、
そう、心に決めて生きてきたんだお」
( ФωФ)「そうやってがむしゃらに生きてきたら、もうあの戦争から
実に70年近くも過ぎたんだお。
体もこんなにボロボロになってしまったお」
( ФωФ)「俺がここまで生きたのは、きっとあの戦争で、
俺が仲間と大切な約束をして、そいつを護り通そうと、
常に考えてきたからなんだお」
長い話の締めくくりとして、じいさんはこう言った。
( ФωФ)「俺の人生はもう終わりだお。だから最後に、
まだ若いお前に、俺にとって一番大事な事を知って欲しかったんだお……」
(´・ω・`)「……うん」
それからじいさんは、また床に伏した。
そして、メガネを掛けたまま、写真を手に持ったまま、一つ深呼吸をして、
眠るように目を閉じた。
- 922: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/08/30(土) 19:55:27.36 ID:lgxQB1lW0
* * *
人生の最後に、ふと思い立って、あの写真を手にした。
軍服を着た五人が映った、煤けた写真。
ずいぶんと古くなった白黒の写真だが、
俺にとっちゃあ永久に変わらないと感じるものがある。
もう70年近くも経っちまったのか。
一日だって忘れたことは無かった。
あの日、あの太陽の下の、あの海の、あの島で、
いかにお前らが勇敢に戦い、散っていったのかを。
そして、お前らとの『約束』を。
あの日から、日本が敗れ、国民が血を吐く思いで日本を立て直し、
そして誰もが平和な生活を手にする権利を得るに至った今日まで、
一日、たったの一日だって。
忘れなかったぜ、俺。
- 923: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/08/30(土) 19:58:27.01 ID:lgxQB1lW0
- 茂名。
お前は、護国のために頑張りたいって言ってたなぁ。
引田。
お前は、母ちゃんに楽させたいって軍に志願したみたいだなぁ。
流石。
お前は、爆撃で死んだ弟の敵を討つって泣いてたっけなぁ。
クックル。
お前は、故郷の民が日本に世話になったから、恩返しがしたかったんだってなぁ。
お前らはあの日、戦死しちまったがよ、
お前らがあの島に持ってきた、愛国の心、報恩の心、家族を愛する心、
そういったもんはみんな、ちょとずつ形を変えながらも、
今の大体の日本人、そして日本を知る者の心に受け継がれているさ。
- 924: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/08/30(土) 19:59:56.24 ID:lgxQB1lW0
- 俺は一つの人生を生きた。
何かを護るために頑張って、そいつを一生続けて。
護れなかった奴も、護れた奴もたくさんあった。
そいつを、体がガタガタになって、動けなくなるまで必死こいて繰り返して。
その生き方を決めたのも、あの日、
お前ら、お前らが背負ってたもの、島、そして日本、
そいつらみんなを護れなかった経験だったっけ。
目に見えた奴らを見殺しにはせん、今度は絶対に護るって、
そう言う気持ちをあの戦いが俺に植え付けちまったんだ。
だがよ、そいつが悪い人生だったなんざ、これっぽっちも考えてねえさ。
俺はな、確かに沢山のものを護れなかった。
けどよ、何よりも護りたかった事は、きっちりと護り通せたんだからな。
あの日、お前らと交わした『約束』はな……。
さて、俺もそろそろ潮時みたいだ。
ずいぶん遅くなったが、俺も今そっちにいく……。
- 926: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/08/30(土) 20:01:23.35 ID:lgxQB1lW0
* * *
( ФωФ)「…い………たな。…………そ………いく……お……」
(´・ω・`)「……?」
じいさんは寝たものと思い、寝室を出ようとした僕は、
じいさんが微かに何かを呟いたのを耳にした。
それから僕がじいさんの呼吸が止まっているのに気付き、
家族がじいさんの死を受け入れるのには、そんなに時間はかからなかった。
- 927: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/08/30(土) 20:02:24.05 ID:lgxQB1lW0
* * *
( ^ω^)「お……?」
気が付けば俺は、柔らかな光の中にいた。
何だか暖かいような、涼しいような、心地よいところ。
不意に光が消え、辺りは暗くなる。
その闇の中に、四つの人影が映った。
( ´∀`)「……」
( ゚∋゚)「……」
( ´_ゝ`)「……」
(-_-)「……」
それは。
( ^ω^)「お……!?」
あの日と変わらぬ顔、変わらぬ格好をしたあいつらだった。
その姿を認めた瞬間、胸に熱いものが込み上げてくる。
- 928: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/08/30(土) 20:03:21.36 ID:lgxQB1lW0
- ( ^ω^)「お前ら……」
涙が出そうなほどに。
いろいろな感情が混ざり合い、何も言えなくなる。
あいつらは、ただ無表情でこちらを見つめている。
( ;ω;)「お……おっ……」
嗚咽と涙が止めどなく溢れ出す。
おそらくは、あの日、こいつらと死に別れたときよりも激しく。
長い時間が経ち、やがて嗚咽も涙も止まる。
それから自分がまた言葉を話せるようになっているのを理解するまでに時間はいらなかった。
( ^ω^)「お前ら……俺は、俺は……」
( ^ω^)「約束通り、全力で、俺の人生を生き抜いてやったお!!」
- 930: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/08/30(土) 20:03:56.07 ID:lgxQB1lW0
- 大声でそう言い切った途端、急に気が遠くなる。
( ^ω^)(……ああ、そうか。これが、死か)
理解するのと同時に、安心したような、満ち足りたような、
なんだかとても幸せな、落ち着いた気分になった。
刻一刻と薄れ行く意識の中、俺の目は辛うじてあるものを見ることができた。
あいつらが、俺に敬礼している。
少し恥ずかしそうに微笑みながら、しかしあの頃のままの毅然とした態度で。
( -ω-)(お前ら……ありがとう……お……)
意識は、さらに希薄になっていった。
- 931: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/08/30(土) 20:04:32.62 ID:lgxQB1lW0
* * *
じいさんの葬式からまた少し月日が経った。
仏壇にはじいさんの写真が2つある。
一つはずいぶんと皺の多い年老いたじいさんの、
もう一つは、じいさんが死んだときに持っていた白黒写真だった。
(´・ω・`)「全力で生きる約束……か……」
じいさんが死んでから、ずっとじいさんのあの話の真意を考えてきた。
僕はまだそれを完全に理解できてはいないけれど、
あの日話をしたじいさんの、あの不思議な表情の意味が、
ほんの少しだけ分かったような気がした。
- 934: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/08/30(土) 20:11:16.13 ID:lgxQB1lW0
- はい終わった! 僕の投下終わったよ!!
スランプ中に無理して見せかけだけでもいいものを書こうとした身の程知らずの僕が全て悪いのです
ちょっとどころじゃない無茶をしたあげくなんだか訳の分からないものになってしまった
それでも25の絵師様、書かせて頂いてありがとうございました
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