(゚、゚トソンが人間になったようです

75: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/08/29(金) 02:34:44.35 ID:Qr9mr3PJO
 
(゚、゚トソン「……」

 天候は雨。陰鬱になるというよりも、虹が楽しみになるくらい激しい大雨。
 寒さの後には春が来るのだから、私たちは冬を生きている。

 だけれど、こんなことはかつて無かった。
 例えば、私がずっと後ろ足だけで立っていたり、その時の高さが、窓の桟に乗らないでも、
 外のビルとかを見渡せるくらい高いこととか。そんなことは私の生きてきた上で、起こりえないと解っていたことだった。

 なのに、どうして。

(゚、゚;トソン「私……人間になってるの……?」



 (゚、゚トソンが人間になったようです



78: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/08/29(金) 02:36:06.26 ID:Qr9mr3PJO
  
(゚、゚トソン「どうして? どうして? どうなってるの?」

 ぷにぷにの肉球も、ぴんぴんの耳もない。乳首だって二つだけ。
 ツヤツヤの自慢の毛並みは、頭にだけ残されて変に重たい。
 眉毛の辺りには妙な金具があって、手で何度も払い落とそうとするができない。なんなのだ、このひっつき虫は。

 あぁそうだ、体が重たい。それに後ろ足がいやに長い。そこは元通りに、黒い毛並みはあるのだが、やっぱり長すぎる。
 いつも通りに歩こうとしても、膝が一番に着いてしまう。これじゃあ走れない。
 どっちかと言うと、人間みたいに立っている方が楽な感じだ。

(゚、゚トソン「ううむ……」

 それから、ひらひら靡くこの、尻尾が腰中にまとわりついているような人間の衣服。
 たしか、スキャットとかいったか。邪魔臭くて仕方ないが、どれだけ振り回しても外れてくれる気配がない。
 ニャツとかいったはずの服も、外れるようで外れない罠のような構造だ。首もとは緩い首輪のようにもぞもぞするし、最悪だ。
 結局私は、ちっとも邪魔な服を脱げずに、項垂れた。

(゚、゚;トソン「あぁっ!」

 そこで私は大変なことに気付いた。
 なんてことだ、尻尾まで無い!
 私の私たる証が、無い!



80: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/08/29(金) 02:38:03.05 ID:Qr9mr3PJO
  
(゚、゚;トソン「た、大変だ……」

 この私がここまで焦るには訳がある。
 私の大切な大切な尻尾には、大きなかわいいリボンというものが結びつけてあったのだ。
 ロマネスクには全く似合わないと笑われたが、あの人間はよく私の、リボンがついた尻尾を可愛いといってくれた。
 何てことだ、その尻尾も、リボンさえもないなんて!

(゚、゚トソン「どうしよう、あれをなくしたら、あの人間に嫌われてしまうかもしれない……」

 そんな不安がよぎる。それに何より、

(゚、゚;トソン「こんな体では……抱っこしてもらえないではないか!」

 そこまで人間に詳しいつもりでもないのだが、少なくとも今の私の体格は、あの人と同等かそれ以上。
 それにこんな体の重さだ。膝にだって乗せて貰えないかも知れない!

(-、-;トソン「にゃあああああああああっ!!」

 私は声にならない声で鳴いた、とにかくこの気持ちを、この事態を誰かに伝えたかった。



82: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/08/29(金) 02:40:02.59 ID:Qr9mr3PJO
 
 と。私と同じ建物に住み着いている、ロマネスク――さっき少しだけ頭によぎった――が、のそのそ起き出してきた。

( ΦωΦ)「どうしたのだトソン、にゃあにゃあと騒がしい」

(゚、゚トソン「ロマネスク! ちょっと聞いて頂戴よ!」

 扉の陰から現れた黒猫が、そのロマネスク。ロマネスクは私を見たなり、

( ΦωΦ)「……何をしているのだ、トソン。人間のコスネズミなどして」

 背中の毛をびんびんに逆立てて、ロマネスクはたいそう落ち着いて言った。

(゚、゚;トソン「それはたしか「コスチューム」よ。って、そんなのはどうでもいいのよ、コスネズミなんかじゃない、
    朝起きたらこうなってたし、そもそもでかすぎるでしょ!?」

( ΦωΦ)「……まぁ、その様子だとたしかに嘘とは思えん。だが、何故……?」

 そんなのは解らない。と私は尻尾を振ろうとして、無いことに気づき、そう口に出した。



84: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/08/29(金) 02:42:08.95 ID:Qr9mr3PJO
 
( ΦωΦ)「その体は不便か?」

(゚、゚トソン「不便っちゃあ不便だけど。でもそれ以前に違和感ありすぎで落ち着かないし、……抱っこしてもらえないよ」

( ΦωΦ)「ふむ……まぁ、ここから出ないでも私たちは生きられる。もし他のネコの襲撃があったらここは我輩が護るしな」

 そう言い張ったロマネスクの巨体(もっとも、今は私のほうがでかいけれど)が頼もしく見えて、私は衝動に駆られた。
 ゆるゆると黒猫なのに大きく見える体に近寄って、腕を伸ばす。
 あれ、二足歩行とはなかなか便利じゃないか?

(;ΦωΦ)「お、おいこら何をするやめ」

 ネズミを捕まえるみたいに、ロマネスクの寸胴を捕まえた。
 しゃがんで、彼を膝の上にひっくり返して、前にやってもらったように腹を頭をざらざら撫でる。

(゚、゚トソン「気持ちいい?」

(*ΦωΦ)「お、おっ、うひ、うへへへへへ……」

(-、-トソン「……気持ちいいのね」

 ロマネスクはあっという間に喉を鳴らして、機嫌良さそうに目を細めた。
 女ったらし。



86: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/08/29(金) 02:44:05.73 ID:Qr9mr3PJO
  
 散々撫で尽くした後、私はお腹が空いてきた。
 人間が食事をとるところは見たことないが、人間も腹が空くようだ。この感覚は、猫の体のときと大凡似ている。

( ΦωΦ)「都村殿、遅いな……」

(゚、゚トソン「今日は来ないのかもよ」

 何でか分からないが、そんなことを呟いた。

( ΦωΦ)「都村殿が休むことはない。雨で少し遅れているだけだろう」

 案の定、一蹴された。ロマネスクは、我輩は雨ごときで遅れはせんがな、と笑っていた。

(゚、゚トソン(雨、か……)

 あの日も雨だった。ずっと前から廃ビルに住んでいて、ネズミ取りを生業にしていた頃の或日だ。
 あまりにひどい雨で、窓から見える他のビルがぼんやりするほどだった。

 その日が雨じゃなかったら、私はまこと孤高に猫らしい生き方をしたと思う。
 あぁ、回りくどい言い方をした。つまりその日に、私と都村さんは出逢ったわけだ。



88: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/08/29(金) 02:46:03.76 ID:Qr9mr3PJO
 
 *

 私はその朝もネズミを狙って、ビル中を徘徊していた。
 雨の日は少しだけネズミが多い。まだ眠っているロマネスクの分も捕ってあげて、家庭的な雌猫をアピールするつもりだった。

 しかし、なかなか探したがネズミが大猟どころか一匹も見当たらない。もしやと思って、更にビル中を駆け回った。
 そして見つけたのだ、その原因を、その人間、都村さんを。

(゚、゚#トソン「おい、そこの人間! ここは私たちの住み処だ、出ていけ!」

 そう言って、腕を突っ張って耳を伏せ、牙を剥いて威嚇の声を一発上げた。
 都村さんはすぐ私に気付いた。それで、ごく小さな声でいった。

『ごめんなさい、ネコさん。もう少しここにいさせて』

 髪や体は雨でか、びしょびしょに濡れていて、私はなんだか胸が締め付けられる思いがした。
 それから彼女の瞳を見たとき。私は謎めいた感情が渦巻いた。
 自然と体が緩んでいく。私は気がつけば「おすわり」をしていて、彼女をじっと見つめていた。

『ありがとう』

 そう言われて、私は無愛想に顔を横にふぃっと向けた。壁の染みと目があった。



90: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/08/29(金) 02:48:20.96 ID:Qr9mr3PJO
  
(゚、゚トソン「ロマネスク、起きなさい。お客さんよ」

 起きないので、鼻先にクソをしてやった。ものすごく怒られたが、最初の忠告を聞かない方が悪い。

( ΦωΦ)「で、客というのはなんだ。舎弟か?」

 ロマネスクが、まだ頭がくらくらするという様子で言う。なんだ、聞いていたじゃないか。
 ネコの嗅覚も、犬ほどじゃないが優れている。私のクソがそこまで臭い訳じゃない。

(゚、゚トソン「あんたに舎弟なんか来るわけないじゃない。人間よ」

( ΦωΦ)「なんだ、人間か」

 それから数秒かけて、ロマネスクの毛が全身を波打つように逆立った。

(;ΦωΦ)「なに言うてんのお前! なに言うてんのお前! なに人間普通に連れてきてんの!?」

(゚、゚トソン「大丈夫な気がしたから。入っていいよ、都村さん」

 私はロマネスクを無視し、にゃんと一声鳴いて、彼女を呼んだ。
 彼女はおずおずと顔を出し、その瞬間、ロマネスクはドア横の彼女をすり抜けてビルの高くまで行ってしまった。

(゚、゚トソン「ごめんね、あんなので。照れ屋なのよ」

「照れ屋さんなのね」

 都村さんは少し部屋の様子を窺ってから、窓がいくつか有るだけの空っぽの部屋に入った。
 少しだけ、笑顔になりなが



91: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/08/29(金) 02:50:10.71 ID:Qr9mr3PJO
  
「さっきの子は、兄弟かなにか?」

 都村さんは冷たい床に座り、ロマネスクのいなくなった方を向いて、私に訊いてきた。

(゚、゚トソン「ただの腐れ縁よ」

 私が、にあぁと否定すると、都村さんはくすっと笑って、「そう」と言った。
 私の言葉を解しているかは知らなかったが、なんとなく都村さんの声は胸に心地いい。

 喉を鳴らして、彼女のスキャットから覗く、むき出しの膝の上に肉球を置いた。
 何故だか知らないが、彼女は膝から下は紺色というか黒というかという肌で、毛皮のように暖かだった。
 ひょっとしたら、彼女は半猫半人なのかも知れない。

「……足、冷たいね」

(゚、゚トソン「あなたも寒いでしょう。一緒にいてあげる」

 私は都村さんの股の上に陣取って、丸くなった。
 都村さんの手指が、私の頭を撫でた。耳をぴくぴく動かしながら、彼女に温もりを与えるように眠る。

 人間には全く久しぶりに触れた。私だって、どんな人間にでも甘えるような猫じゃない。
 それなのに、都村さんの目さえ見たら、私はなんだか全身が弛緩した。



93: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/08/29(金) 02:52:07.65 ID:Qr9mr3PJO
  
 やがて雨は止み、日は暮れて、私は壁がみんなオレンジ色に染まった部屋で、床にぼてんと落とされて目を覚ました。

(゚、゚トソン「んにゃあ」

 寝ぼけた頭で漏らした抗議の声は、特に意味のない鳴き声だった。
 立ち上がっていた都村さんは、申し訳なさそうに笑った。

「ごめんね、私もう行かなきゃ」

(゚、゚トソン「何処へ」

 会話は通じないと解っているが、とりあえず訊いた。
 少し恨めしげに鳴くと、都村さんは困ったように笑って、

「あぁ、そうだ。ネコちゃんにこれあげる」

 と言って、ニャツの首のあたりについていた赤いリボンを解いた。

(゚、゚;トソン「な、何ぞそれ?」

 当時の私はニャツはおろかリボンも知らない。体の一部分かと思ったものが簡単に彼女を離れたのが、少し恐ろしかった。



94: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/08/29(金) 02:54:05.06 ID:Qr9mr3PJO
 
「これは……私が呪われてる証。こんなものあげるのもどうかと思うけど」

 都村さんはリボンを胸に当てて、すごく儚い目をした。
 私は急に寂しくなって、都村さんの足の毛皮にすり寄った。

http://vipmain.sakura.ne.jp/light_novels/novels_img/029.jpg

 都村さんは私の尻尾にリボンをきゅっと結びつけた。重いのに、不思議と不快感はなかった。
 なんとなく、これは私が受け取らなければいけないと思ったのだ。

(゚、゚トソン「……訳ありって人種かしら?」

 私の鳴き声に都村さんは答えない。ただ赤いリボンをつけた真っ黒な私を、可愛い可愛いと愛でていた。

(゚、゚トソン「……私らはいつでもここにいるからさ、いつでもここに来て良いよ」

 抱き上げられたとき、私はそう言った。

「また明日の朝来るよ。ごはんも買ってきてあげるね」

 ごはん、という言葉を聞いたとたん、私は急激に腹が空いてしまった。
 ロマネスクがネズミを捕っているだろうか、そうでなきゃ今日餓死しそうだ。
 私はよろしく頼むという意味で、ひとつ鳴いて、彼女を見送ってやった。



96: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/08/29(金) 02:56:08.32 ID:Qr9mr3PJO
 
 *

 またも夕陽が眩しくなってきた。
 記憶の中に見た夕陽でお腹一杯になっていたトソンは、目を瞬いた。
 ロマネスクはしばらく黙っていたが、やがて床を尻尾で叩きながら、口を開く。

( ΦωΦ)「我輩の勘違いだったら申し訳ないが……都村殿は、もう居らんのではないか」

(゚、゚;トソン「どういうことよ」

( ΦωΦ)「……死んでいる、ということではないかと」

 私は立ったまま呆然となって、胸を抑えた。
 都村さんが死んだ? ばかな、人間は80年生きるのだろう。死ぬはずがない。
 ロマネスクが慰めるように足元を撫でる、だけれど言葉は残酷だ。

http://vipmain.sakura.ne.jp/light_novels/novels_img/029.jpg


( ΦωΦ)「我輩の見立てる限り、トソンのその体は都村殿のものだ」

(゚、゚トソン「ニャツとスキャットは確かに一緒よ。性別もどうやら。けどロマネスク、人間だってそれぞれ顔は違う。
     顔まで全部一緒だなんて、あなた見分けられるの?」

( ΦωΦ)「それからトソンの額にあるその金具。恐らく髪留めだが、都村殿と同じ位置にあるようだ」



97: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/08/29(金) 02:58:08.40 ID:Qr9mr3PJO
 
( ΦωΦ)「我輩はそいつで一度耳を挟まれた。ひどく痛かったからよく覚えている」

 私が何を言っても、大した説得力もなかった。こういうときに冴えてるのは、ロマネスクだけなのだ。

(゚、゚トソン「……都村さん」

 そっと髪留めを触ると、冷たい感触がした。

(゚、゚トソン「え、それじゃあ、私は……私の体はどこにいるの?」

 私の体は。あちこち飛び回れる、私の本来の体はどこにあるのだろう?

( ΦωΦ)「恐らく、トソンが昨日……」

 ロマネスクがそこまで言ったところで、外から何か音がしたらしい、彼は耳をそばだてた。
 私はそれに気づいても、何も聞こえなかった。
 つくづく人間の体の不自由さを感じたが、不平を言う気にはならなかった。



98: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/08/29(金) 03:00:07.41 ID:Qr9mr3PJO
 
 *

「しかし、馬鹿だよなぁ。猫を庇って死ぬとか。しかも、結局ネコ死んでたろ、あれ」

「都村らしいと言えば都村らしいぜ。どうせアイツ、あの猫を性奴隷にしてたんじゃねえの?」

「ありそう。あの変態女ならやりかねない」

「つーか、バカだろ。たかが猫のために死ぬって」

「頭よりもマンコのほうがいいからな、アイツwwwwww」

「だれうまwwwwwwww」

「だれうま(笑)」

「あ? てめぇ都村のオナペットにすんぞ」

「いや、実は我慢できなくて、都村を連れ出す前に一度だけ抜いておいたことがある」

「何言ってんだお前。そんなの常識だろ?」

「あっはははははははwwwwwwwwwwwwwwwwwwwww」



99: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/08/29(金) 03:02:15.23 ID:Qr9mr3PJO
 
 *

( ΦωΦ)「……」

(゚、゚;トソン「ロマネスク?」

( ΦωΦ)「……トソンよ。我輩は今、猛烈に人間が憎い」

(゚、゚;トソン「……え?」

 ロマネスクの尻尾が腹立たしげにコンクリートを打っている。音が立つくらい強く、何度も。

( ΦωΦ)「人間というは、死者を悼むこともできないのか?」

(゚、゚;トソン「どうしたのよロマネスク。ちゃんと話してよ。私、何も聞こえなかったから」

( ΦωΦ)「うむ……ある程度我輩の主観も入るが、気にするでないぞ」

(゚、゚トソン「うん、しない。だからさっさと話して」

( ΦωΦ)「承知した」

 ロマネスクはまず、下の道路を自転車で往っていたらしい五人組ないし六人組の会話を、聞き取った通りに猫語で話した。



100: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/08/29(金) 03:04:06.02 ID:Qr9mr3PJO
  
 ロマネスクの語った事を聞いて、私はすぐに人間が恨めしくなった。

(゚、゚#トソン「……許せない! 見つけ出して、目ん玉引っ掻いてやる!」

( ΦωΦ)「落ち着けトソン……つまり、そなたの体が事故に遭い、それを庇った。しかし、これでは辻褄が合わないな」

(゚、゚#トソン「そんなの……今この状況が、辻褄合わせがいらないほどに可笑しいじゃない!」

( ΦωΦ)「落ち着けと言っている。……恐らく、私の断片的な記憶から推理するに、こう考えられる。
        「トソンと都村殿は事故に遭い、その衝撃で互いの人格が交換された」と」

 おとぎ話みたいな考えだ。そう私が言うと、おとぎ話で読んだのだ、とロマネスクは胸を張った。
 しかし、確かに私は都村さんの体で、私トソンの人格を有しているようだ。

(゚、゚トソン「でも、私の体は、死んだことになっている都村さんのものでしょう? どうして都村さんの体がここにあるのよ」



101: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/08/29(金) 03:06:18.44 ID:Qr9mr3PJO
  
( ΦωΦ)「それについては……我輩は今からとても残酷な事を言う。なんだったら耳を伏せておけ」

 ロマネスクはそう言って、自分で耳を伏せた。
 私は彼の姿を見て心した。

(-、-トソン「……言って、ロマネスク」

 耳を伏せずに、塞がずに。私は聞かなければならない、親友の行った末を。

( ΦωΦ)「恐らく都村の体に入ったトソンの意識は、やはり事故のショックで気を失っていたのだろう。
        そして恐らく、死亡したということに勝手になったのだろう。
        君は一番最初に目が覚めたときは、とても暗い場にいただろう。そこは霊安室という」

(゚、゚トソン「なぁに、それ」

( ΦωΦ)「死んだ人間が一時的に行くところのようだ。細かくは知らない。そこで君は目覚め、
        走ってここに帰ってきた次第になる。そしてここで眠り、その時の記憶を失ったのではないか?」

(゚、゚トソン「分からない。でも、今日私が目を覚ましたのはここ。それは間違いないわ」

( ΦωΦ)「そこに間違いがあるのではないか、という話をしている」

 ロマネスクはちょっと強く尻尾で床を叩いた。



104: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/08/29(金) 03:08:10.06 ID:Qr9mr3PJO
  
( ΦωΦ)「……それで、君のもとの体、つまり都村殿の意識が入った、トソンはどこにいるかと言うと……
        これは我輩の推測でしかないから或いは気にしなくて良いのだが……。猫は死んだらしい、と知られていた。
        しかしだな、猫に霊安室はないし、君のような小さな猫が事故に耐えられたとも思えない」

(゚、゚;トソン「つまり……どういうこと」

( ΦωΦ)「……そなたの体は、事故時に死んでいるに違いない。それと同時に、都村殿の意識も……失われたと思われる」

 窓の外は、また雨に包まれていた。夕立のような雨だ。
 きっと私の体をどこかに幸せなところに流してくれるような。

(゚、゚トソン(幸せ……だよね? 都村さんは……でもやっぱり……死んじゃったら辛いだろうなぁ……)

(-、-トソン「はぁ……」

 ロマネスクが窓の桟に乗って、外を眺めた。

( ΦωΦ)「……トソン。我輩はネズミを捕ってくる。その体では捕れまい、私がやろうか」

(゚、゚トソン「ねぇ、ロマネスク」

( ΦωΦ)「何ぞ?」



105: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/08/29(金) 03:10:10.50 ID:Qr9mr3PJO
 
(゚、゚トソン「人間ってさ……人間を殺すこと、出来るよね」

( ΦωΦ)「まぁ、そういう話は度々耳にするな」

 雨の音がうるさい。
 でも、私はどんなに雨に打たれたって、雷に打たれたって、この思いが収まる気はしない。

(゚、゚トソン「ネズミなんか捕まえるよりさ……」

 私はロマネスクに耳打ちして、ひとつ提案した。

( ΦωΦ)「ふむ、いい考えだな」

(゚、゚トソン「ですよねー」

 ロマネスクと一緒に舌舐めずりをして、私は期待に胸を高鳴らせた。

( ΦωΦ)「腹も減った。早速参ろうか」

(゚、゚トソン「えぇ」

 私たちは傍にあったバールのようなものを拾い、パタパタと階段を鳴らしてかけ降りた。



107: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/08/29(金) 03:12:04.35 ID:Qr9mr3PJO
 
 *
 
 ロマネスクにとっては、復讐もネズミ捕りも都村さんからもらう餌も、ただ同じメシでしかなかっただろう。
 彼は普段、都村さんからは隠れていたから。でも、私のために協力してくれているのだと思う。

 都村さんは、恐らくいじめというものにあっていた、とロマネスクは語った。
 集団から弱いものを排斥する動きらしい。これが人間では普通のことではないらしい、
 それで都村さんは私たちと一緒にいたがったのだろうと、ロマネスクは少し心ないことをいった。

 私はなんとも言えない気持ちになった。
 猫の世界で当たり前のことが、人間に耐えられなくて、都村さんは苦しかったと。
 私が猫であるかぎり、私は人間ではなく、弱い都村さんを蔑むほかないのだ。

 だったら人間を許すかと、そうもいかない。私は都村さんを蔑んででも人間を恨む。
 そして、その恨みを晴らしていく。
 それまでは都村さん、許してください。



108: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/08/29(金) 03:14:11.47 ID:Qr9mr3PJO
 
 

(゚、゚トソン「ロマネスク……脳って美味しいよね……」

( ΦωΦ)「何を言っておる。肝臓であろう」

(゚、゚;トソン「は? 悪趣味ね……」

( ΦωΦ)「血まみれのトソンが言うと違和感があるな」

(゚、゚トソン「ふふ、血は最高じゃないの」

( ΦωΦ)「……賛同せずにはいられんな」

(゚、゚トソン「ねぇロマネスク、もう一人殺そうよ。私、我慢できない」

( ΦωΦ)「我輩もそう思っていたところだ。もう一個食べよう」

(゚、゚トソン「よし、行こう!」

 私は死体を踏みつけて、バールのようなものを引きずって歩き出した。



 おわり



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