(゚、゚トソンは壁を取り払うようです
- 88: 29 :2008/08/30(土) 21:33:05.01 ID:EI6UmYT9O
はあ、と大きく溜め息を吐いた。
それは、深呼吸にも似ていた。
――(゚、゚トソンは壁を取り払うようです
- 92: 29 :2008/08/30(土) 21:37:05.04 ID:EI6UmYT9O
いつ頃からだったろうか。
一人になってしまったのは。
昔から私、トソンは引っ越しを繰り返し学校で長い付き合いの友達を作れた試しが無かった。
少し仲良くなっても、すぐに引っ越し、また引っ越しと回数を重ねる内に、どこかで感覚麻痺を起こしていたんだと思う。
だから私は、いつも学校では一人でいる様になり、ろくに友達を作らなかった。
それが簡単に出来たのは小学生まで。
中学生からは、それが次第に言葉になり形にもなる。
女子特有の陰険さが、それを引き立てる原因だった。
- 93: 29 :2008/08/30(土) 21:40:03.76 ID:EI6UmYT9O
体育の授業では二人組を作れず、いや、それは体育に限った事じゃない、全ての授業に関わっていた。
わざわざ私を一人にする為に二人組では無く三人組になったり、あからさまな事をしてくるのだ。
その度に私は諦めて何もしなかった。
その時はまだ、我慢すれば何とかなると思っていた。
悪いのは私だ、一人になったのは私から決めた事だ。
そう言い聞かせて、耐えていた。
しかし、女子はそれだけで飽きてくれはしなかった。
甘く見ていた。
- 98: 29 :2008/08/30(土) 21:43:13.87 ID:EI6UmYT9O
机が派手にメイクアップされたと思えば生ゴミで中が埋まってたり。
ロッカーその他も同じ様な事がなされ、教科書類に至ってはトイレにあった。
加速していく女子、見て見ぬフりをする男子と教師。
そこでまた私は感覚麻痺に陥った。
見て見ぬフりをするくらいなら、彼らも私を苛めてくれれば良いのに、と。
言っておくが、私はマゾヒストやらの類では無い。
だってそうじゃなきゃ、助けを求めたくなってしまうから。
母親も母親だった。
離婚してからは下らない男と付き合っては別れての繰り返し。
私が相談しても、悪いのは貴方と言って終わらせる。
- 99: 29 :2008/08/30(土) 21:46:35.92 ID:EI6UmYT9O
それでもまだ我慢出来た。
友達がいたから。
それは猫だった。
黒くてまだ少し小さい猫、その時の支えと言えばそれだった。
どんな話でも聞いてくれた。
黙って慰めてくれた。
それが本当に、唯一の救いだった。
下らないと言われても気にしなかった。
可哀相と言われたなら無視した。
だってそんな事を言おうが、私の中ではそいつは猫よりも無力なのだから。
けれど、猫はいつしか私の前から姿を消して、次の日には無残な形で帰ってきた。
その時の私と言ったら、もう。
誰がやったかは定かでは無かった。
近所の不良や子供かもしれなかった。
けれどそれは、私にとってとても傷付く出来事だった。
- 101: 29 :2008/08/30(土) 21:49:11.18 ID:EI6UmYT9O
それから一週間はほとんど無意識の内に何かをしている事が多かった。
幸い問題を起こしてはいなかった。
そしてその方が楽だった。
けれどそれはまた、私の精神がいかに簡単に崩れるかをも表していた。
それはちょうど猫が死んでから一週間、本を読んでいた時だった。
私の隣の男子がぽつりと聞いてきた。
( ><)「寂しく、無いんですか?」
その一言で私は崩れた。
いや、正確にはその一言が引き金になっただけで。
- 103: 29 :2008/08/30(土) 21:52:33.25 ID:EI6UmYT9O
( 、 トソン「……ゲームです」
( ><)「え?」
( 、 トソン「ゲームの勇者は勇者を止められない、私も苛められっ子を止められない、ゲームなんですよ」
( ><)「あの……」
ガン、と音を立てて私は立ち上がった。
その時数人の視線が私に動いたのを鮮明に覚えている。
(゚、゚#トソン「楽しいと思う? 面白いと思う!? 逃げ出せないんですよどうやっても!」
- 106: 29 :2008/08/30(土) 21:55:31.21 ID:EI6UmYT9O
その日はすぐに帰った。
周りの視線なんか気にならなかった。
それからと言うもの、私は家に籠った。
私が学校に行くフりをして、母親が仕事へと家から出るのを待つ。
それから家へと帰って引きこもる。
学校からの連絡は来ない。
ちゃんと分かっているからだ。
せめてもの償いのつもりかもしれない。
それから約二週間、それが今だった。
最近は幻覚が見える。
黒猫の幻覚。
いつも私の足に擦り寄る、あの昔のままの黒猫。
にゃあ、と一鳴き。
そうして消える。
何故現れるのか、それは分からない。
- 107: 29 :2008/08/30(土) 21:58:18.99 ID:EI6UmYT9O
(゚、゚トソン「……はあ」
考えてると気持ち悪くなる、心臓がばくばくする。
身体に悪い、だから深呼吸を一つ。
薄暗い部屋の中で何もしないのも嫌だ。
とりあえずパソコンでも起動させよう。
そう思って立ち上がった時に。
「にゃあ」
(゚、゚トソン「あ」
黒猫が来た。
やっぱり足に擦り寄ってくる。
感覚は無い。
- 109: 29 :2008/08/30(土) 22:34:06.13 ID:EI6UmYT9O
ただ今日はいつもと違った。
私の足ではなく、何も無い空間に擦り寄り出した。
何も無い……まるで見えない壁に。
(゚、゚トソン「……ああ」
なるほど、そういう事だったのか。
何もかも、私が壁を作ってしまったから……そういう事か。
答えは本当に簡単だった。
一歩踏み出せば良かっただけ。
けれど私はそれをしなかった。
答えは見付かった。
どうすれば良いかも分かった。
あとは私が、勇気を出すか出さないか、それだけだった。
――(゚、゚トソンは壁を取り払うようです
終わり
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