慣用句のようです  後編

6: ◆lVjWriLvDM :2008/10/16(木) 21:25:50.70 ID:8WX1BE3xO



( ^ω^)「おはおーだお」

力なく教室へやってきたツンを、やたらと元気なブーンの声が迎えた。


ξ゚听)ξ「あら、今日は来たのね」

そう言いながらブーンの横へ歩み寄る。

( ^ω^)「昨日はメール返さなくてすまんお」

そう言ってブーンは机に掛けられた紙袋を持ち上げた。

( ^ω^)「これをツンにプレゼントするのに内緒にしときたかったんだお」

そう言ってブーンは紙袋から鮮やかな赤のワンピースを取り出した。

ξ゚听)ξ「えっ……これ?」

( ^ω^)「欲しがってた新作のは売り切れちゃってて、代わりと言っちゃあなんだけどいいかお?」

ブーンはワンピースをツンの方に差し出し、照れたように頭をかいた。



7: ◆lVjWriLvDM :2008/10/16(木) 21:26:19.46 ID:8WX1BE3xO

ξ*゚听)ξ「な、何よいきなり」

( ^ω^)「セールに行けなかったときに相当へこんでたみたいだったお
       だからツンを元気にしてあげたかったんだお」

ξ////)ξ「ま、まあそこまで言うならもらってあげないこともないわよ」

ツンは顔を真っ赤にし、これもまた真っ赤になった手でワンピースを受け取った。


( <●><●>)「みんな席に着かなければいけないのはわかっていますか?」

いつの間にか始業ベルが鳴っていた様で、黒板の前には既に担任が仁王立ちしていた。


ξ*゚听)ξ「そ、それじゃありがとね!」

慌てて自分の席へと向かうツンに、紙袋を渡してブーンは席に着いた。



9: ◆lVjWriLvDM :2008/10/16(木) 21:28:29.70 ID:8WX1BE3xO


ξ゚听)ξ「あー、数学の時間は嫌いなのよね」

教師が黒板に書く数字を見ながらツンが一人ごちた。

ξ゚听)ξ「既に公式がわからないから問題なんか解けるわけ……( ∵)「ツン君……」

数学の教師がツンの名を呼び黒板を指差した。
どうやら問題を解けということの様だった。

ξ;゚听)ξ(わ、わかるわけないじゃな……
      って何これ、実は簡単じゃない! 今までできなかったのが嘘みたい!)

ツンは立ち上がることもなく即座に回答を口に出した。
数学の教師は小さく正解、とだけ言って再び黒板に数字を書き加えていった。


ツンは正答を導きだした自分に驚き、うれしさに教科書の問題を次々に解いていった。



10: ◆lVjWriLvDM :2008/10/16(木) 21:29:40.03 ID:8WX1BE3xO

( ^ω^)「ツンはいつの間にあんな問題が解けるようになったんだお?」

その日の帰り道、下校途中のコンビニで二人は話し込んでいた。

ξ゚听)ξ「なんでかはわからないけど突然閃いたのよ」

ツンはパックのオレンジジュースを片手に答える。


( ^ω^)「いきなり何覚醒してんだお」

笑いながらそう言ったブーンはふと真剣な表情を顔に張りつけた。


( ^ω^)「そういえば昨日ドクオからメールが来てたんだけど実はクーは入院してるらしいお」

ξ;゚听)ξ「えっ!そうなの!?」

驚いたツンが勢い良く振り返った拍子に、ツンの髪の毛がブーンの頬を打った。


( ^ω^)「なんかみんなに知られたくないからドクオにしか言わなかったらしいお」

ブーンは頬を擦りながら言った。

ξ゚听)ξ「そうなの……
     でもなんでアンタが知ってるのよ?」



12: ◆lVjWriLvDM :2008/10/16(木) 21:30:38.83 ID:8WX1BE3xO

飲み干した紙パックを潰し、ごみ箱へと放り投げる。
少し逸れた紙パックはごみ箱に入らずに地面に落ちた。


( ^ω^)「ドクオがお見舞いに行くのに見舞い品を買う参考にさせられたんだお」

ブーンは立ち上がり、それを拾い上げてごみ箱にたたき込みながらそう言うと、自分が持っていたペットボトルも捨てて戻ってきた。

ξ゚听)ξ「なるほどね」

( ^ω^)「かなり酷いことになってるらしいお」

二人は見慣れた街並を自宅へと向かって歩き始める。

ξ゚听)ξ「でも一体なんで入院してるのよ?」

( ^ω^)「それはドクオもちゃんと教えてくれなかったお
       でもぽろっと襲われたって言ってたような気がするんだお」


その言葉を聞いたツンの脳裏に夜道を歩くクーの姿と、その後ろから迫る男の姿がよぎった。



13: ◆lVjWriLvDM :2008/10/16(木) 21:31:14.41 ID:8WX1BE3xO

ξ;゚听)ξ「襲われたって……あの子大丈夫なの!?」
( ^ω^)「僕も詳しいことは教えられてないからわかんないんだお
       でもショックは受けたけど殆どいつも通りに振る舞ってるって言ってたお」

不安そうにするツンの肩に手を置き、安心させるように言葉を繋げていく。

( ^ω^)「大丈夫だお
       もしツンが襲われたら僕が守ってみせるお」

力強くそう言い放ち、自身の左胸を拳で叩いてみせた。

ξ*゚听)ξ「あ、ありがとね
      そ、そういえば今日はドクオも学校来てなかったわね」

ブーンの言葉に照れるように、軽く礼を言って無理矢理に話を逸らした。

( ^ω^)「まあいつも通り家でゲームでもしてサボってるんだおwww」

ブーンはそう言って笑い、未だ顔を赤らめたままのツンの手をそっと握り締めた。



14: ◆lVjWriLvDM :2008/10/16(木) 21:33:37.70 ID:8WX1BE3xO
ツンたちが住む市内の大きな総合病院の一室で、頭に包帯をぐるぐる巻きにした少女がベッドに横たわっていた。

≠ ゚ -゚)「……」

無言でテレビを見る少女には、かつて自慢だった黒髪の面影はなく、痛々しく巻かれた包帯には赤い染みが所々に見受けられた。


ノパ听)「大丈夫か?
クー?」

静かにドアを開けて入って来た茶髪の女が声を掛けた。

≠ ゚ -゚)「ん……ああ、ヒートか」

そう呟いて振り向いたクーは、病室の外に見知らぬ人影を見つけた。


ノパ听)「うん
     この人達はVIP新聞社の方々だ」

ヒートはそう言ってから病室の外にいる二人組に声を掛けた。



15: ◆lVjWriLvDM :2008/10/16(木) 21:34:36.75 ID:8WX1BE3xO

ヒートがどうぞ、と言っているのが聞こえ、それに続いて二人組も病室に足を踏み入れた。

('、`*川「君が話したいことがあるって電話してくれたクーちゃんかな?」

スーツに身を包み、手にはメモ帳とボールペンを持った女性が声を出した。

それに対してクーは小さく頷いてみせる。

('、`*川「そっか、私はVIP新聞のペニサス伊藤
     こっちはカメラマンの杉浦ロマネスク君」

伊藤は横に立つ長身の男性を指し示しながら、ヒートが差し出したパイプ椅子に腰掛けた。

( ФωФ)「どうも」

腫れぼったい目を赤く充血させた杉浦もそれに倣う様に椅子に座った。

('、`*川「早速だけどお話聞かせてもらえるかな?
     電話では化物に襲われたって話だけど」

伊藤は喋りながらノック式のボールペンをいつでも書き出せるように準備し、メモ帳の上で留める。

≠ ゚ -゚)「はい、その通りです」

クーはそう言ってゆっくりと語り始めた。



16: ◆lVjWriLvDM :2008/10/16(木) 21:38:01.17 ID:8WX1BE3xO

≠ ゚ -゚)「あの日私はバイト帰りで時間は深夜0時を回っていました
     暗い路地をゆっくりといつも通り歩いていたんです」

静かに語り始めたクーの言葉に耳を傾けながら、伊藤は素早くペンを走らせた。


≠ ゚ -゚)「いきなり後ろからかさかさと何かが這うような音が聞こえたんです
     でも、何かと思って後ろを振り返ってもそこには何もありませんでした」

≠ ゚ -゚)「私は少し不気味に感じ、足を速めました
     そして曲がり角を右に曲がったときでした……」

伊藤がメモを取る音とクーの声だけが響く静かな病室に、誰かが息を飲む音がやけに大きく聞こえる。

≠ ゚ -゚)「曲がり角の塀の上にいたそれを、初めは猫か何かだと思いました
     丁度街頭から外れた位置にいたので多少驚いたもののすぐに通り過ぎようとしたんです」


――ぴしゃり

伊藤が肩を大きく跳ねさせて後ろを振り返ると、この話が外に漏れるのを防ぐかのようにヒートが病室のドアを閉めていた。



17: ◆lVjWriLvDM :2008/10/16(木) 21:39:32.97 ID:8WX1BE3xO

≠ ゚ -゚)「でも、それは猫じゃなかったんです
     それはいきなり私の頭に飛び付いてきたかと思うと、長い爪で私の頭を引っ掻いたんです。何度も何度もなんどもなんども!!」

話が進んで行くに連れ、その情景を思い出して恐れているのだろうか、クーの声が震え、大きくなっていた。

伊藤はふ、とペンを止めて顔を上げた。


('、`*川「猫じゃなかったって……じゃあそれがなんだったかはわかるかな?」

息を荒げたクーを落ち着かせるように、穏やかな声でそう言って再びペンを紙に押し当てる。


≠;゚ -゚)「あれは……あれは、きっと……」

そこまで言ったクーは俯き、一旦呼吸を整えた。

≠ ゚ -゚)「あれは……多分人間の腕だと、思います……」

少し低めのトーンで口から出た答えに、伊藤は首を傾げた。

('、`*川「じゃあクーちゃんは誰かに襲われて頭を引っ掛かれたってこと?」

ボールペンのノック部を甘噛みするように口に押し当て、疑問を率直に口にする。



18: ◆lVjWriLvDM :2008/10/16(木) 21:40:53.33 ID:8WX1BE3xO

≠ ゚ -゚)「違うんです!
     そうじゃなくて! 腕だけだったんです!」


クーは少し声を張り上げ、その時のそれの最たる特徴を口にした。

腕だけ、それを聞いた杉浦は不審そうに眉をひそめている。
しかしそれとは対照的に、伊藤は今までよりも一層真剣な表情で、身を乗り出していた。

突然の伊藤の態度に驚き、クーは思わず言葉を止めてしまった。

('、`*川「腕だけ……」


ぽつりと吐き出された言葉が、しゃぼん玉のように病室を行き場もなく彷徨った。

≠;゚ -゚)「え、ええ……」

戸惑いながらも相槌を打ったクーは一体何がどうして伊藤がここまで真剣な顔をしているのかを把握できずにいた。

('、`*川「あ、ごめんね
     続けてくれる?」

そう言いながら伊藤はメモ帳にすらすらと何かを書き込み、小さく頷いた。



20: ◆lVjWriLvDM :2008/10/16(木) 21:41:57.18 ID:8WX1BE3xO

≠ ゚ -゚)「はい……
     それでそこからは強く覚えているわけじゃないんですが……
     その腕は私の頭を引っ掻き続け、遂に私は頭から何かを引き剥がされる感触を最後に気を失っていました……」

顔を伏せ、そのことを思い出したかの様に小さく体を震わせている。

ノパ听)「それで通り掛かった人が救急車を呼んでくれて今に至るんだよ」

小刻みに震えるクーの言葉を、今まで無言で聞いていたヒートが引き継いだ。

ノパ听)「クーはね、頭皮を半分くらい……剥がされた状態で発見されたの」

その言葉を言い終えるかどうか、クーが一際大きく身を震わせた。

ノハ;;)「ずっと……クーの自慢だった髪の毛も一緒に引き剥がされてた……」

そんなクーを見て堪え切れなくなったのか、ヒートの目から大粒の涙が零れ落ちた。

怯えて肩を震わせているクーと泣き崩れるヒートを見て、自分達は招かれた側であるにも関わらず伊藤は罪悪感を感じていた。

伊藤は首だけを上に向け、両目をつぶり深呼吸をした。
よし、と小さく呟くと、手の中のメモ帳をめくり始めた。

あるページで指を止め、軽く目を通して何かに納得したかのようにひとりでに頷いた。



21: ◆lVjWriLvDM :2008/10/16(木) 21:44:56.20 ID:8WX1BE3xO

('、`*川「君は……しぃちゃんと同じクラスなんだよね?」

ふいに伊藤の口から飛び出した友人の名前に、クーは少し驚きながらも頷いてみせる。

≠ ゚ -゚)「そうですがどうしてそれを?」

ご存知なのですか?そう言おうとしたクーは、伊藤の表情に言葉を遮られた。

下唇を噛み、悔しさと哀しさが入り混ざった、今にも泣きそうな顔で伊藤は口を開いた。


('、`*川「……あの子は私の従姉妹にあたるんだけど、最近ちょっとおかしくなっちゃってね……」

クーは自分が襲われた当日に、学校に姿を現さなかったしぃのことを思い出した。

('、`*川「最初はただおかしくなっちゃっただけだと思ってたんだけど……」

真っすぐな瞳で心を見透かすようにしてクーを見つめる。
そしてクーも又その瞳をじっと見つめ返してみせる。

('、`*川「あの子も腕に襲われたって言ってた
それを狂ったように言い続けて、ずっと何かが来るのを怯えてる……」

病室内を包む空気が凍ったような気がするほど、その場にいた誰もが息を呑み、目を見開いていた。
ただ一人冷静を通り越し、淡々と喋り続ける伊藤が、この場に於いて酷く異質な存在となっていた。



22: ◆lVjWriLvDM :2008/10/16(木) 21:45:49.65 ID:8WX1BE3xO


('、`*川「だから私はあなたの話を聞いてみようと思ったの
あの子と同じクラスの女の子がこんな短期間に襲われた……
何か関係があるかも知れないと思って」

≠ ゚ -゚)「しぃも襲われていたのか……」

しぃが狂った事に悔しさを感じているかのような伊藤の言葉に、クーはゆっくりと驚きの声をあげた。
言いながらクーは、自分が正気を保っていられることが、もしかすると正気だと感じているのは自分だけなのかもしれないが、一つの奇跡にすら思えてきていた。

クーは噛み締めるようにしぃとの日常を、つい3日前までの平穏な日常を思い出し呟いていた。

≠ ; -;)「しぃ……」



27: ◆lVjWriLvDM :2008/10/16(木) 21:53:39.51 ID:8WX1BE3xO

しぃは手に持ったバッグの中からブランドものの財布を取り出した。

札入れをちらと確認し、クーの方に向き直る。

(*゚ー゚)「ねえ! これ買っちゃおうよ!」

ワンピースを指差しながらしぃが提案をする。

川 ゚ -゚)「買う、とは?」

しぃの言葉の真意が掴めずにクーは疑問を投げ掛ける。



28: ◆lVjWriLvDM :2008/10/16(木) 21:54:10.62 ID:8WX1BE3xO

柳原「あ、お買い上げですか〜?
   ありがとうございます〜」

気の早い店員はワンピースを手にレジへと向かい始める。

しぃはスタスタとそれについていきながら口を開く。
(*゚ー゚)「ツンちゃんにプレゼントしようよ」

川 ゚ -゚)「なるほど
     しぃは優しいな」

そう言ってクーは自分も財布を取りだしてみせる。

(*゚ー゚)「そういうクーちゃんもね」

二人は笑い合いながら、店員が読み上げる金額を仲良く半分ずつ支払った。

会計を終えた後もグダグダと喋り続ける店員を余所に、二人は紙袋を手にレジを離れていった。


その後もクーが自分の服を選んだり、喫茶店に寄ったりと、二人はいつも通りの時間を過ごしていた。

当然この後にそれぞれの身に降り掛かる災いを知らない二人は知る由もなく。



29: ◆lVjWriLvDM :2008/10/16(木) 21:54:53.70 ID:8WX1BE3xO


(*゚ー゚)「じゃあこれは明日学校で一緒に渡そうね!」

そう言ってしぃは片手を上げて紙袋を示してみせる。

川 ゚ -゚)「ああ、じゃあまた明日学校でな」



クーはこれがしぃと最後に交わした言葉だと思い至った。

今から思えばなぜ少しでも早く帰らなかったのか……クーは思い出の中を後悔して彷徨う。



31: ◆lVjWriLvDM :2008/10/16(木) 21:55:54.08 ID:8WX1BE3xO

そこから先にしぃの身に何が起こったかを、クーが具体的に知ることは決してないだろう。

しかしクーは、しぃは自分と同じものに襲われたのだという確信を持っていた。

なぜ自分達がこんな目に、理不尽な運命を怨み、悔しさに拳を握り締める

('、`*川「今日君の、クーちゃんの話を聞いて凄く驚いたわ
     あの子と同じで腕に襲われたって聞いて」

伊藤は潤んだ瞳をクーに向けると力強く頷いた。

('、`*川「そしてそれがなんであれ、私の可愛い親戚と友人の心も身体も傷付けたモノを突き止めようって思ったの」

握り締められたクーの拳にそっと手のひらを重ね、柔らかく包み込む。

('、`*川「そのためにはあなたの協力が必要なの……」

伊藤は俯きながらそう言って、クーの返事を待った。

≠ ; -;)「……」

クーは涙を流し沈黙していたが、やがて小さな声で了承を告げた。



32: ◆lVjWriLvDM :2008/10/16(木) 21:56:33.34 ID:8WX1BE3xO


『おじいちゃんが急に倒れたから病院に行って来ます
 もしかするとそのまま泊まってくることになるかも』

家に帰り着いたツンを待っていたのはいつもの母親の出迎えではなく、テーブルに置かれた一枚のメモだった。

ξ゚听)ξ「おじいちゃん大丈夫かしら」

独り言を言いながらソファに沈むように腰掛け、テーブルの上のリモコンに手を伸ばす。

一人きりの家にガラスのテーブルとリモコンの擦れる音がやけに虚しく響いた。

いつもより小さめの音量で十分なテレビが、ツンに一人だということを痛感させる。


ξ゚听)ξ「……」

ツンは静かにテレビを眺めている中、ブーンから聞いた話を脳内で反芻していた。


ξ゚听)ξ(クーが誰かに襲われた……)


丁度その時家の外を走り抜けたバイクの排気音にツンは飛び上がった。



34: ◆lVjWriLvDM :2008/10/16(木) 21:57:11.87 ID:8WX1BE3xO

テレビの芸人のネタなど既にツンの耳には届いておらず、ツンの頭には突然襲われたクーのことでいっぱいになっていた。



ξ;゚听)ξ(今、私一人なのよね……)

孤独感を感じると共に恐怖感が込み上げてくる。

ξ;゚听)ξ(どうしよう……こんな時ブーンが傍に居てくれたら……)

ξ;;)ξ(ブーン……せめて心だけでもそばにいてほしいよ……)


守ってやるというブーンの言葉を思い出し、ブーンにメールを送ろうと携帯電話に手を伸ばした。


ξ;゚听)ξ「っ!」

突然目が回るような感覚に襲われ、ツンはテーブルの上に突っ伏し気を失った。



35: ◆lVjWriLvDM :2008/10/16(木) 21:58:05.81 ID:8WX1BE3xO


ツンはいつか見た夢の中と同じ浮遊感に目を開いた。
また夢なのか、そう思い辺りを見回す。


( ^ω^)「……」

何度か見たことのある室内がブーンの部屋だと証明するように、ベッドにはブーンが寝そべっている。


ξ゚听)ξ(ここ、ブーンの部屋?)

いつもと違った上からの目線に、自分が宙に浮いていることを確認する。

ツンがそれを確認するのとほぼ同時にブーンが身体を起こした。

( ^ω^)「眠いのに寝れんお……」

そう言って枕元の携帯電話を手に取ると何かの操作を始めた。

部屋の中にはブーンが携帯電話をいじるカコカコという音だけが響き渡る。

ξ゚听)ξ(やけにリアルな夢……まるで幽体離脱気分ね)

ふわふわとした感覚に、経験したことのない心霊現象を重ねてみる。



37: ◆lVjWriLvDM :2008/10/16(木) 21:59:47.95 ID:8WX1BE3xO

( ^ω^)「送信っと……?」

ふいにブーンは不思議そうに首をかしげながら窓際へと歩み寄る。

( ^ω^)「おー、いつ開けたかお?」

そう言って少し開いていた窓を閉めようと手を伸ばした。




――ガラッ

音を立てて窓を閉め、密閉された空間を作り出す。

と、ブーンは背後で何かが動く気配に身体を硬直させた。

(;^ω^)「まさか……


       Gが!?」
かさかさと動き回る物音は次第に大きくなり、固まったままのブーンの聴覚を刺激し、産毛を逆立たせた。

同時に発した言葉を聞いて、ツンも黒光りする身体を思い浮かべ身震いをした。



38: ◆lVjWriLvDM :2008/10/16(木) 22:00:50.47 ID:8WX1BE3xO

ブーンは意を決したように目の前の本棚から古雑誌を一冊取り出すとくるくると丸め、気合いと共に振り向いた。

だが、そこにあった光景は彼の想像などとは似ても似つかない物だった。


(;^ω^)「な、なんだおこれ……」


ブーンの視線の先にある、彼を驚愕させた何か。
それは、宙に浮いた格好のツンからは机に邪魔をされて見えない位置となっていた。

ξ;゚听)ξ(な、なによ! 何がいるのよ?)

ツンは声を上げたつもりだがツンの思いは大気を震わせることなく霧のように散っていく。
固まったままのブーンと、相変わらずのカサカサという音に焦れったさを覚え、身体を動かそうとするもののそれもまたかなわない。



39: ◆lVjWriLvDM :2008/10/16(木) 22:01:26.19 ID:8WX1BE3xO


(;^ω^)「くんなおっ!!」

ブーンの声に身体を跳ねさせる。

――ばさっ

手に持った雑誌を机の下に投げつける。

が、依然として机の下のそれは動きを止めようとはしない様で、ブーンは一歩後ろへと下がる。


ξ;゚听)ξ(……)

その様子に流石にただならぬ物を感じ、ツンは恐怖に息を潜めた。


響き続けるカサカサという音に、ブーンはじりじりと後退を続け、やがて踵が窓際の壁を蹴った。

(;^ω^)「……!」

そしてそれとほぼ同時に机の下から少しずつそれが姿を見せ始めた。

ゆっくりと見え出した土気色のそれは、所々に赤茶けたかさぶたのようなものが張りついていた。



40: ◆lVjWriLvDM :2008/10/16(木) 22:02:35.09 ID:8WX1BE3xO

ξ;゚听)ξ(手?……腕!!)

徐々に顕になる全容を見、ツンはそれが何であるかを理解する。


蒼白く血の気が全くと言っていいほどないが、それは確実に人体の一部、腕の形をしている。

尚も細やかに指を動かし器用に近寄ってくる腕に対し、ブーンは手近にあった電気の流れる蝿叩きを手に取った。


(#^ω^)「うちはアダムスファミリーじゃないんだお!」

叫ぶと同時にスイッチを入れつつ、蝿叩きを振り下ろす。


小気味よい音が室内に響いた。



42: ◆lVjWriLvDM :2008/10/16(木) 22:04:52.89 ID:8WX1BE3xO
それまでの腕のゆったりとした動きからして、命中するには十分すぎるはずの速度で振り下ろされた蝿叩きは、見事にフローリングの床を叩きつけていた。


(;^ω^)「い、いないお……!」

キョロキョロと左右を見回すものの腕の姿は見つからない。


丁度その時、ブーンの耳に届くことのない悲鳴がツンの口から放たれていた。


ξ;゚听)ξ(こ、こっちこないで!!)

骨が角張った血の気のない腕がツンの真横の天井に張りついていた。

響くことのない悲鳴をあげるツンをよそに、腕はブーンの真上へと移動する。


(;^ω^)「どこいったお……」

しばらく部屋を左右に見回し、ふと天井からの物音に気が付いた。

恐る恐る首を傾げるようにして見上げる。



43: ◆lVjWriLvDM :2008/10/16(木) 22:05:45.73 ID:8WX1BE3xO

(;^ω^)「……いないお」

そう言ってブーンが再び視線を床と平行に戻した瞬間、突然ブーンの背中に何かが飛び付いた。

(;^ω^)「うわっ!!」

慌てて振り払おうとするものの、しっかりと指先でブーンの服にしがみ付いている様でなかなか思うようにはいかない。


空中からブーンのその様子を見て、なんとか力になりたいが動けずにいる苛立ちにツンが呻いた。


(#^ω^)「くそっ!」

振り払うことを諦めて服ごと脱ぎ捨てようとするが、大量にかいた汗によって肌に密着したTシャツはブーンの身体から簡単には離れない。

ようやく身体から離れたTシャツを投げ捨てようとしたとき、ブーンの身体を鈍い衝撃が貫いた。



44: ◆lVjWriLvDM :2008/10/16(木) 22:06:46.40 ID:8WX1BE3xO

ξ;゚听)ξ(え……)

目の前で繰り広げられる光景に、ツンは思わず言葉を失った。

(;^ω^)「……」

ブーンもまた、驚きのあまり胸を押さえ声もなく俯いた。

押さえられた掌から少しずつ鈍い赤が浮かび上がる。
指の隙間から滲みだした赤は雫となりカーペットに滴り落ちた。


ξ;゚听)ξ(あ……ああぁぁぁあ……)

ガクガクと身体を痙攣させてブーンが崩れ落ちるように仰向けに倒れこんだ。

(‖ ω )「うぅ……」

胸を押さえていたブーンの腕が、力を失ったように滑り落ちる。

ツンは茫然としてそれを見ていたが、ブーンの身体から力が抜ける直前に、こちらを見て微笑んだように感じた。



45: ◆lVjWriLvDM :2008/10/16(木) 22:07:41.46 ID:8WX1BE3xO

ξ#;;)ξ(いや! いやあああぁぁぁぁ!!
     なんなのよ! こんな夢もういや!)

堰を切ったようにツンは拒絶の言葉を繰り返した。
誰にも聞こえることのない叫びがツンの頭の中だけで反響していた。


狂ったように叫び続けるツンの眼前で小さな異変が生じた。

それを見たツンは叫ぶのをやめてブーンの身体を注視する。


ξ;;)ξ(……今、動いた……?)

不思議に思い目を凝らした瞬間、ブーンの身体、胸の辺りが小さく跳ねるように動いた。



47: ◆lVjWriLvDM :2008/10/16(木) 22:09:21.70 ID:8WX1BE3xO

ξ;;)ξ(ブーン!)


ツンが声にならぬ叫びをあげるとほぼ同じくして、ブーンの胸元が一際大きく動いた。

弾けるように赤い液体が飛び散り、胸からは赤い固まりが飛び出した。


床に転がった固まりはもぞもぞと動き、血を振り払った。


ξ;;)ξ(さっきの腕……!)

ブーンの胸から這い出した腕が握るピンクの固まりを視認した時、ツンの意識は急激に薄れていった。



50: ◆lVjWriLvDM :2008/10/16(木) 22:11:51.27 ID:8WX1BE3xO


嫌な夢を見た、汗で濡れた額を拭い渇いた喉を潤すために立ち上がる。

立ち上がり際に何かに躓いた様な気もするがそれよりも今は喉を潤すことが先決だ。

それにしてもこの所やけに寝起きで喉が渇く。
風邪でも引いたのだろうか?


冷蔵庫からやけに生臭いトマトジュースを引っ張りだし、一気に飲み干した。
カラカラの喉にへばりつく感触がとても心地いい。

ため息を吐いてソファへと戻る途中で、足元に綺麗なピンク色をした何かが転がっているのが見えた。



51: ◆lVjWriLvDM :2008/10/16(木) 22:12:31.45 ID:8WX1BE3xO

ξ゚听)ξ「あら、壊れちゃったんだ
      今修理してあげるからね」

私はそれを拾い上げると、孔から零れ落ちる滴を指で掬い取る。

ξ゚听)ξ「これじゃブーンをつくれないじゃない
      材料をとりにいかなくっちゃ」

壊れちゃったら直せばいいのよホント私ったら頭イイわね
えっとどうすればいいんだっけ?


考えながら足元の部品を拾い集める。

突然胸の奥からせり上がってくる何かに私は全てを理解した。



53: ◆lVjWriLvDM :2008/10/16(木) 22:13:20.36 ID:8WX1BE3xO

ξ#゚■゚)ξ「うげっぁぁああええぇえあ゛あ゛……」

私は姿を現した私の天使に、ブーンの部品がほしい、そう言った。


ξ*゚听)ξ「あら……ブーンったらこんなに零しちゃって
      ウフフふふふフフふフふフ」


次々に持ち寄せられる赤やピンク、黄色のカラフルな部品を私は造り上げるの。

もうすぐまタアえルヨ……ブーン……



54: ◆lVjWriLvDM :2008/10/16(木) 22:13:48.80 ID:8WX1BE3xO


(´・ω・`)「あーあ……せっかくのおもちゃだったのにな」


虚ろな目で血溜りの中心に座り込み、笑い続けるツンを見て言った。

ショボンは赤く染まった左手を振り回して血を払い、ありがとう、と声を出した。


(´・ω・`)「まあどうせすぐにまた新しいおもちゃは手に入るか」

そう言ったショボンは、興味なさげにツンの足元の肉片を蹴り飛ばした。


ξ゚听)ξ「ぉぉぉおおお……!」

なにかを喚き散らすツンを余所に、ショボンは踵を返した。



55: ◆lVjWriLvDM :2008/10/16(木) 22:16:42.07 ID:8WX1BE3xO


――数日後

忙しなく手元の資料を漁る伊藤の元に新たな情報が持ち込まれた。

( ФωФ)「ペニサスさん!
       先日の内藤くんの失踪に続いてまた同じクラスです!」

杉浦の声に手を止めると、続きを促すために小さく頷いてみせる。



56: ◆lVjWriLvDM :2008/10/16(木) 22:17:30.27 ID:8WX1BE3xO

( ФωФ)「今度は内藤くんの家から程近い津出さんという女の子が精神錯乱で……!」

手元のメモに目をやりながら、杉浦は早口に読み上げる。

( ФωФ)「しかも津出さんの両親は何かを隠すかのようにここの所全く家を空けようとしないそうです」


杉浦の言葉に眉をしかめて伊藤が立ち上がる。
二、三度身体を左右に捻り、大きく伸びをする。


('、`*川「とりあえず聞き込みに行くわよ!」

椅子に掛けられたシャツを手に取ると、伊藤はツカツカと歩き始めた。


(;ФωФ)「全く……こうも忙しいと『猫の手も借りたい』よ……」

そう呟き、杉浦は伊藤の跡を追っていった。



∧ ∧
(´・ω・`)にゃあ



      終



57: ◆lVjWriLvDM :2008/10/16(木) 22:21:18.36 ID:8WX1BE3xO
とりあえずこれで終わりです 
ちなみにこれの元絵は支援してくれていた方々の中にいるID:+aRDMFMU0 さんの作品のようです 

かなり最後らへんは削りまくったんで質問等あれば補完します

支援してくれていた人達、見てくれた人ありがとう



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