从 ゚∀从陽は、昇るようです

2: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/08/29(金) 20:14:32.04 ID:h24sBlgUO
ああ――――




またか。




今日も――――




陽は、昇らない。



4: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/08/29(金) 20:16:50.51 ID:h24sBlgUO
TVからはニュース番組が流れている。
今日も誰がどこで死んだとか政治家が失言したとかどうでもいい話題が話されている。
天気予報は無い。
この世界に――陽は、昇らないから。


从 ゚∀从 「ふう、こんなもんか」


この世界――陽が昇らない世界に――ひとつだけある博物館。
そこの資料整理が一段落したあたしは一息つく。
まったく大した歴史も無いくせに資料の量だけはいっちょ前だ。



5: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/08/29(金) 20:19:29.35 ID:h24sBlgUO
そろそろ昼飯の時間だ。
こんな平日の昼に来る物好きなんていないだろうからあたしがちょっといなくなっても平気――


( ・∀・) 「あ、ハイン仕事終わった?」


……いた。
物好きが。


从 ゚∀从 「何でお前はいつもこの時間に来るんだ」

( ・∀・) 「この時間がハインの仕事が一段落つく時間だからさ」

从 ゚∀从 「そんなことはわかる。あたしが聞いてるのはどうしてこの時間に来るかってことだ」



6: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/08/29(金) 20:22:11.21 ID:h24sBlgUO
こいつはいつもあたしを昼飯やら晩飯に誘ってくる。
うっとうしいときもあるが正直悪い気はしない。
食費が浮くのは誰だって嬉しいもんだしね。


从 ゚∀从 「それで? 今日はどこに行くんだ」

( ・∀・) 「うん、おいしいレストラン見つけたからさ、行こうよ」

从 ゚∀从 「不味かったら承知しねえぞ」


そう言って分厚いコートを羽織る。
最近買ったお気に入りの黒いコートだ。



7: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/08/29(金) 20:25:29.89 ID:h24sBlgUO
博物館からモララーの言うレストランまでは10分ぐらいかかるらしい。
歩くのは嫌いではないから別に構わないけれど、なんとなく一発殴っておいた。


从 ゚∀从 「……寒っ」

( ・∀・) 「今日は特に寒いよな―」

从 ゚∀从 「そんなことねえよ。いつもと一緒だ」

ここは陽が昇らない。
つまり四季なんてない。
資料を見ると春夏秋冬なんて物があったらしいが昔の話だ。


( ・∀・) 「今日はどんな話してくれるんだ?」


目を輝かせながらそんなこと言うな。
弱いんだその目には。



8: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/08/29(金) 20:28:05.34 ID:h24sBlgUO
寒い風が吹き荒れる道を通り、大通りから少し離れたレストランに入る。
なるほど、この雰囲気なら10分歩いてもいいだろう。
しかし恥ずかしかったのでなんとなくモララーを一発殴っておいた。


( ・∀・) 「で、今日は」

从 ゚∀从 「入っていきなりそれかい」

(*・∀・) 「wktkwktk」


あたしは頬を赤く染めながら話を待つモララーを見て不覚にもかわいいと思ってしまった。
ちくしょう。



9: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/08/29(金) 20:31:04.46 ID:h24sBlgUO
从 ゚∀从 「そうだな……」


あたしは博物館の資料で得た知識をモララーに話す。
昔、雲は空にかかったりかからなかったりしてたこと。
昔、太陽光線という物がここに降り注いでいたこと。


(*・∀・) 「へえ! そうなんだ! すっげえなあ」


こいつはあたしの話に大袈裟なぐらい食いついてくる。
だからあたしももっと話してやろう、って気になる。



13: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/08/29(金) 20:33:25.92 ID:h24sBlgUO
从 ゚∀从 「昔な、もう今からずっと昔の話だ」

( ・∀・) 「うんうん」

从 ゚∀从 「雨が降らなくて困った時があった」

( ・∀・) 「? 雨って3日置きに降るもんだろ?」

从 ゚∀从 「今はな。昔は違ったんだ。雨の日もあれば晴れの日もあった」


へー晴れがねえ、と言いながら続きを促してくる。
その期待通り、話を続ける。


从 ゚∀从 「んで、当時の科学者たちは雨を降らせようとした」

( ・∀・) 「ふむふむ」

从 ゚∀从 「そのために何したと思う」


モララーは首をひねる。
ちょっと難しかったかな。



14: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/08/29(金) 20:36:07.51 ID:h24sBlgUO
从 ゚∀从 「ロケットを打ったんだ」

( ・∀・) 「ロケット?」

从 ゚∀从 「そ、名前と形ぐらいは知ってんだろ」

( ・∀・) 「え、ロケットって博物館にあるやつ? あれって飛ぶもんなの?」

从 ゚∀从 「……お前説明書き読んでねーのか」

( ・∀・) 「正直ハインに会いに行くのが目的だしなあ」


はあ、とため息をつく。
こいつはいつもこんな調子だ。
無知で、子供っぽい。



15: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/08/29(金) 20:39:07.86 ID:h24sBlgUO
( ・∀・) 「あっ、今俺のことバカにしたろ」

从 ゚∀从 「してねーよ、被害妄想乙」


あぶないあぶない。
心の声が顔に出ていたみたいだ。


( ・∀・) 「ぜーったい嘘だな。見てろよ! 見返してやるんだからな!」


うーむ。なんだかスイッチが入ってしまったみたいだ。
これは今度の休日覚悟した方がいいかもわからんね。


( ・∀・) 「で、はい続き続き」

从 ゚∀从 「やだ。もうめんどくせー」


( ・∀・)


( う∀;)



16: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/08/29(金) 20:41:10.58 ID:h24sBlgUO
从;゚∀从 「ちょっ、おまっ、なに泣いてんだ」

( う∀;) 「だってハインが教えてくれないって言うから」

从;゚∀从 「わかったわかった、教えるから泣き止め」


( う∀;)


( つ∀∩)ゴシゴシ


(*・∀・)+ 「マジで?」


从 ゚∀从 「はいはい、教えてやるよ」


こいつは本当に表情がコロコロ変わる。
そんでもって好奇心旺盛だ。
よく言えば探検家気質、悪く言えば子供っぽいってところか。



17: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/08/29(金) 20:44:11.27 ID:h24sBlgUO
从 ゚∀从 「んでな、ロケットを打ち上げたんだ。雲を作るために」

( ・∀・) 「あれ、じゃあ成功してんじゃん」


そう言ってモララーは窓から一面黒い雲がかかっている空を見る。


从 ゚∀从 「最初はな、そう思われてた」

从 ゚∀从 「でもな、失敗だったよ」

( ・∀・) 「なんでさ」

从 ゚∀从 「陽が、昇らなくなったんだ」


陽が昇らなくなった。これは比喩だ。
正確には人工雲が太陽を隠してしまった。
恐らく、太陽が出てくることはもうないだろう。



18: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/08/29(金) 20:47:09.03 ID:h24sBlgUO
( ・∀・) 「ふーん……そうなんだ」

从 ゚∀从 「あんまり興味無いのな」

( ・∀・) 「まあ……生まれたときからこの空だしねえ」

从 ゚∀从 「あたしもだよ」

( ・∀・) 「晴れとか言われたってどんなんかわからんもんなー」


あたしだってそうだ。
昔の資料の中の写真でしか太陽なんぞお目にかかったことはない。
それが当たり前なんだ。空に陽がないことが。



20: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/08/29(金) 20:51:10.24 ID:h24sBlgUO
从 ゚∀从 「ま、この話はもういいだろ。食おーぜ、冷めちまう」


そう言って運ばれていたオムライスを口に運ぶ。
うん、うまい。
このレストランは当たりみたいだ。また今度来よう。


( ・∀・) 「お、うまいなここの料理」

从 ゚∀从 「……お前もここ初めてなのか?」

( ・∀・) 「そうだよー」

从 ゚∀从 「……自分が行ったことないとこに女連れてきたのか」

( ・∀・) 「そだねー」

从 ゚∀从 「まずかったらどうする気だった」

( ・∀・) 「逃げる気だった」


とりあえず一発殴っておいた。



23: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/08/29(金) 20:53:06.34 ID:h24sBlgUO
久しぶりの休日。
しばらく働きづめだったのでゆっくり休もうとしていた。
しかし。


( ・∀・) 「ハインー! 井戸探しに行こうぜ井戸ー!」

从 ゚∀从 「……なんで」

( ・∀・) 「この前バカにされたからさー俺もちょっと調べてみたんだ」


これ、といってモララーが手渡してきたのは某貞子が出演する小説だった。
ずいぶん昔の小説だ。
きっと苦労して探したんだろう。


( ・∀・) 「いや、全然。なんか物置の奥にあった」


そんなことなかった。



25: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/08/29(金) 20:56:06.72 ID:h24sBlgUO
結局モララーに連れられて井戸探しに山に行くことになった。
なんでも某貞子の井戸がこの辺にあるという話を聞いたらしいがガセだろう。


从 ゚∀从 「めんどくせーなー」

( ・∀・) 「なんでそんなこと言うんだよー」

从 ゚∀从 「だって山って寒いじゃん」


当たり前だが陽は昇らない。つまり寒い。
いつもの黒いコートをいつもより強く羽織る。


( ・∀・) 「でも井戸だぜ! 井戸! ハイン見たことあるか?」

从 ゚∀从 「見たくもねーよバーロー」


またなんでそんなこと言うんだよなんて言いながらずんずん山奥に進むモララー。
結局ついていってしまう自分が情けなくてモララーを一発殴っておいた。



27: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/08/29(金) 20:58:11.01 ID:h24sBlgUO
( ・∀・) 「あった! あったぞハイン!」

从 ゚∀从 「うげ。マジか」


まさか本当に見つかるとは思わなかった。
井戸は山奥の廃墟のそばにポツンとあった。
雰囲気もあいまってなかなか怖い。


( ・∀・) 「中はどうなってるのかなーっと」

从 ゚∀从 「ちょ、モララー危ない」


モララーの悪い癖だ。
好奇心。子供っぽい。後先を考えない。
それが今出てしまっている。



28: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/08/29(金) 21:01:05.92 ID:h24sBlgUO
( ・∀・) 「よっと」


モララーは井戸の入り口にしてあった蓋を取り外す。
そして中を無理な体勢で覗き込んでいる。


从 ゚∀从 「ちょ、ほんと危ないって!」

( ・∀・) 「平気平気ー」


そうは言っても気が気でない。
モララーは頭どころか肩の所まで井戸に入っている。



30: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/08/29(金) 21:03:05.06 ID:h24sBlgUO
そこから先は、スローモーションの世界だった。
ゆっくりと、しかし確実にバランスを失い、井戸に吸い込まれるモララー。
それを止めようと胴体にしがみつく自分。


でも女のあたしに落ちていく男を止める腕力はなくて。






落ちる。






下に。下に。↓に。






落ちていく。



31: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/08/29(金) 21:06:06.91 ID:h24sBlgUO
从 ∀从 「……」


落ちてから何日経っただろうか。
雨が4回ほど降った気がするのだけれど。
足が痛い。動かない。
頭の上には薄ぼんやりとした丸い輪郭が見える。でも届かない。


从 ∀从 「バカヤロー……」


モララーに向かって吐き捨てる。
首が有り得ない方向に曲がっている。頭から落ちたからだろうか。
なんとなく一発殴っておいた。


腹が減った。
自分で言うのもなんだが余分な脂肪がついていない。
もう皮下脂肪は使い果たしただろう。

そういえばカニバリズムみたいな言葉があったっけ。
絶対に有り得ないけど。
この日、5回目の雨が降った。



33: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/08/29(金) 21:08:16.30 ID:h24sBlgUO
そろそろ、限界かもしれない。
はっきりとはわからない。
でもなんとなく、本能的にわかる。
自分の命は、後少ない。


从 ∀从 「水で2ヶ月は生きれるらしいけど……嘘だな。ありゃあ」


自分はここで死ぬみたいだ。
それならここはさしずめ棺桶か。
頭上の、薄ぼんやりとした輪郭は変わらない。



34: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/08/29(金) 21:11:05.05 ID:h24sBlgUO
なんだか、考え事をするのも面倒だ。
博物館はどうなってるのかな、とか。家の戸締まり忘れてないかな、とか。
最初は気にしていたけど面倒になってきた。


从 ∀从 「モララー……あたし、恥ずかしがりだからさ、結局言えなかったわ、悪いな」


9回目の雨が降る。
頭上の輪郭は、まだぼんやりと瞬いている。



37: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/08/29(金) 21:14:38.39 ID:h24sBlgUO
眠くなってきた。
これは、睡眠欲から来る眠気じゃないことはわかる。
なんというか、生命の眠気だ。


从 ∀从 「やっと……か」


眠気に身を任せる。
なんだか体が浮いているような気がする。
いや、本当に浮いているのか。
もはやわからない。



あれ。



頭上が、まぶしい。
ああ、これが、太陽ってやつか。
気持ちいいなあ。暖かいなあ。
モララーの奴も、ここを通っていったのかな。
気分は、不思議と悪くない。



38: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/08/29(金) 21:18:03.22 ID:h24sBlgUO










太陽を初めて感じた喜びを噛み締めながら、あたしは意識を手放した。










39: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2008/08/29(金) 21:19:44.10 ID:h24sBlgUO
終わりです。
処女作でした。緊張した……
支援してくださった方々ありがとうございました。
とても嬉しかったです。
それでは、またお目にかかる時がありましたらよろしくお願いします。



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